飛翔、上昇。空、加速加速加速。
黒いわたくしのウイングが、デジタルの空気を裂いて飛ぶ。ここは丘陵ステージ、飛行を妨げる遮蔽物の無いこの開けたステージは、わたくしのようなアーンヴァルタイプが最も得意とする領域。程無くして、対戦相手を視認する。フォートブラッグタイプ、セカンドランカーのフォトンさん。マスターによれば彼女は空を飛ぶ者の“天敵”らしいのですが、今の彼女は、あまりにも無防備。高高度から接近したわたくしに気付いてすらおりません。
「今なら・・ですのっ!!」
急、降下加速、射撃銃撃乱射乱射乱射。掠、掠、直撃。
雹のように突き進む、わたくしの黒。霰のように撃ちつける、マシンガンの弾丸。彼女は直前で回避行動に移り、致命傷には出来なかったものの、よろめいたその姿は弱々しい。
「もう一度でっ!!!」
黒いわたくしのウイングが、デジタルの空気を裂いて飛ぶ。ここは丘陵ステージ、飛行を妨げる遮蔽物の無いこの開けたステージは、わたくしのようなアーンヴァルタイプが最も得意とする領域。程無くして、対戦相手を視認する。フォートブラッグタイプ、セカンドランカーのフォトンさん。マスターによれば彼女は空を飛ぶ者の“天敵”らしいのですが、今の彼女は、あまりにも無防備。高高度から接近したわたくしに気付いてすらおりません。
「今なら・・ですのっ!!」
急、降下加速、射撃銃撃乱射乱射乱射。掠、掠、直撃。
雹のように突き進む、わたくしの黒。霰のように撃ちつける、マシンガンの弾丸。彼女は直前で回避行動に移り、致命傷には出来なかったものの、よろめいたその姿は弱々しい。
「もう一度でっ!!!」
重、起動。歪。
「えっ!?」
彼女のバックパックが光を放った。刹那、“世界”が戦慄いた気が、して・・・
彼女のバックパックが光を放った。刹那、“世界”が戦慄いた気が、して・・・
重圧。侵略伝播制圧圧縮、重圧重圧重圧重圧重圧、墜落。
「あぁうっ!!?」
気付いた時、目の前にあったのは地平線・・・が逆さまに。わたくしはもう空ではなく地面にいて、地面に打ち付けられていたのだと、激痛の後に知りました。それでも尚、地面は沈み、空気が縮み、視界は歪んで、わたくしの意識も遠く・・・・・・。
「あぁうっ!!?」
気付いた時、目の前にあったのは地平線・・・が逆さまに。わたくしはもう空ではなく地面にいて、地面に打ち付けられていたのだと、激痛の後に知りました。それでも尚、地面は沈み、空気が縮み、視界は歪んで、わたくしの意識も遠く・・・・・・。
『勝者、フォートブラッグ、フォトン!!!』
「もう、飛ぶのは嫌ですの」
トゥールー、私の神姫は擦り切るように言う。昨日、“絶空”フォトンに負けてからずっとそう呟いている。私は、彼女の事も心配だけど、丁度作業からも手が離せないところなので、手元への注意を半分だけ、彼女の声に向ける。
「そうは言っても、あんたって飛行型でしょ? 今更怖いとか言う? って言うより、今まであんな楽しそうに飛んでたじゃない」
「でも! あんな風に“堕ちる”なんて事、今までありませんでしたから・・・。まるで、空が重くなってわたくしを拒絶したみたいに・・・」
「・・・水泳好きが溺れて水恐怖症になるみたいなものか」
まあ無理も無いかもしれない。“絶空”フォトンの特殊装備は擬似重力発生装置だったらしく、バーチャルフィールドが歪んだ用に見えた瞬間、私の見ている目の前で、トゥールーはバトルフィールドの天井から地面まで一気に墜落した。そのまま、戦闘不能で勝負はおしまい。
武器詳細を知らなかったとは言え、うかつに戦わせた私も悪かった。自責の念から、今度は完全に手を止め、彼女の方に振り向く。
「トゥールー、今回は残念だったけれど、気分を変えればまた飛ぶ事だって・・・」
「そうですの! 良く考えたらスピード感を楽しむのに高く飛ぶ必要はありませんでしたの! 思えば、今までどうしてあんなに面倒な事をしていたのでしょう! 低く飛べば高度計算も気流観測も相対距離算出もかんたんですの♪」
「・・・It’s comfy・・・」
心配して損した。
トゥールー、私の神姫は擦り切るように言う。昨日、“絶空”フォトンに負けてからずっとそう呟いている。私は、彼女の事も心配だけど、丁度作業からも手が離せないところなので、手元への注意を半分だけ、彼女の声に向ける。
「そうは言っても、あんたって飛行型でしょ? 今更怖いとか言う? って言うより、今まであんな楽しそうに飛んでたじゃない」
「でも! あんな風に“堕ちる”なんて事、今までありませんでしたから・・・。まるで、空が重くなってわたくしを拒絶したみたいに・・・」
「・・・水泳好きが溺れて水恐怖症になるみたいなものか」
まあ無理も無いかもしれない。“絶空”フォトンの特殊装備は擬似重力発生装置だったらしく、バーチャルフィールドが歪んだ用に見えた瞬間、私の見ている目の前で、トゥールーはバトルフィールドの天井から地面まで一気に墜落した。そのまま、戦闘不能で勝負はおしまい。
武器詳細を知らなかったとは言え、うかつに戦わせた私も悪かった。自責の念から、今度は完全に手を止め、彼女の方に振り向く。
「トゥールー、今回は残念だったけれど、気分を変えればまた飛ぶ事だって・・・」
「そうですの! 良く考えたらスピード感を楽しむのに高く飛ぶ必要はありませんでしたの! 思えば、今までどうしてあんなに面倒な事をしていたのでしょう! 低く飛べば高度計算も気流観測も相対距離算出もかんたんですの♪」
「・・・It’s comfy・・・」
心配して損した。
「大体、今の装備では折角マスターが作って下さっている靴が履けませんもの」
すっかり機嫌を戻した彼女が、私の手元に顔を伸ばしてくる。今私が手掛けているのは、小さなルージュ色のピンヒール。店の仕事でたまに作る、オーダーメイドの靴の要領で製作しているトゥールー用の靴だ。彼女としては、これを試作品に神姫用の靴ブランドを立ち上げたいんだと言う。
「・・・って、こんな靴でバトルはやらないでしょ普通」
「え? でも、親切な殿方が『ヒールでぐりぐりは最高の攻撃力だ』って言っておられましたよ?」
・・・何処のマゾ野郎だか知らないけれど、またこの子に変な知識を覚えさせて。見つけたら去勢してやる。
「・・・バトルで使いたいならそれ用に作ろうか? 走りやすくスニーカー・・・は作った事無いけれど頼めば型紙とか寄越してもらえるし出来ない事も無いよ」
「そうではありませんの! 一目に触れるバトルでこそ、美しく着飾る必要があるんですの!! ホラっ、わたくしが独自に調べたアンケートでも神姫の大多数がバトル前に最も身だしなみを気にすると回答しているですの!」
小さなフリップに描いた円グラフで熱弁するトゥールー。いつもの事ながらどうやって調べているんだか。まあ武装神姫にとってバトルはダンパみたいな感覚なのかな? それなら気持ちは判るけれど。
「でも、そうなると今の作りじゃ強度が危ないな。かと言ってこれ以上コスト高になったら量産しても捌けるか・・・」
「その点は心配ありませんの! わたくしのアンケートでは神姫ユーザーのおよそ半分が神姫用靴ブランドを待ち望んでいるという結果ですの! 特に殿方には『ローファーでオーバーニーソックスもあれば絶対ハアハァ』などと言った意見もあるのですから、後の商品展開も含めて売れないなんて事はまずありません! 何より、マスターの作る靴なんですもの」
素直に喜べない。トゥールーに誉められるのはいい、他の神姫に喜ばれるのもいい、けれどそれより圧倒的多数の野郎共の情欲の道具にされると思うと、どうしても。この子がそんな事には気付きもしない分、尚更ね。
すっかり機嫌を戻した彼女が、私の手元に顔を伸ばしてくる。今私が手掛けているのは、小さなルージュ色のピンヒール。店の仕事でたまに作る、オーダーメイドの靴の要領で製作しているトゥールー用の靴だ。彼女としては、これを試作品に神姫用の靴ブランドを立ち上げたいんだと言う。
「・・・って、こんな靴でバトルはやらないでしょ普通」
「え? でも、親切な殿方が『ヒールでぐりぐりは最高の攻撃力だ』って言っておられましたよ?」
・・・何処のマゾ野郎だか知らないけれど、またこの子に変な知識を覚えさせて。見つけたら去勢してやる。
「・・・バトルで使いたいならそれ用に作ろうか? 走りやすくスニーカー・・・は作った事無いけれど頼めば型紙とか寄越してもらえるし出来ない事も無いよ」
「そうではありませんの! 一目に触れるバトルでこそ、美しく着飾る必要があるんですの!! ホラっ、わたくしが独自に調べたアンケートでも神姫の大多数がバトル前に最も身だしなみを気にすると回答しているですの!」
小さなフリップに描いた円グラフで熱弁するトゥールー。いつもの事ながらどうやって調べているんだか。まあ武装神姫にとってバトルはダンパみたいな感覚なのかな? それなら気持ちは判るけれど。
「でも、そうなると今の作りじゃ強度が危ないな。かと言ってこれ以上コスト高になったら量産しても捌けるか・・・」
「その点は心配ありませんの! わたくしのアンケートでは神姫ユーザーのおよそ半分が神姫用靴ブランドを待ち望んでいるという結果ですの! 特に殿方には『ローファーでオーバーニーソックスもあれば絶対ハアハァ』などと言った意見もあるのですから、後の商品展開も含めて売れないなんて事はまずありません! 何より、マスターの作る靴なんですもの」
素直に喜べない。トゥールーに誉められるのはいい、他の神姫に喜ばれるのもいい、けれどそれより圧倒的多数の野郎共の情欲の道具にされると思うと、どうしても。この子がそんな事には気付きもしない分、尚更ね。
武装神姫の主要ユーザーは男性。そういうニーズがあれば、メーカーもそれに合わせて作るのは当然。神姫の「心」は自由じゃない。例えば、このトゥールーの媚びたお嬢口調。
「・・・ねえトゥールー、前から言ってるけど、その言葉遣いどうにかならない? 今時“~わ”とかすら使う女なんて居ないのに“~ですの”なんて、野郎の幻想の中にしか居ないよ」
「ああ、ですからお優しくして下さる殿方が多いですのね」
「いやそうじゃなくて・・・」
どうしても彼女には私の危惧が伝わらない。只でさえこの子は限定カラーで目を引くんだから、その辺のキモオタ野郎共に拉致される可能性は低くないのに、何度言ってもトゥールーは男を警戒しない。これも、プログラミングなのだろうか。
「マスターは、殿方が嫌いなんですの? それでは恋愛も出来ませんわ」
「欲情だけで動いている連中とは死んでも嫌だね」
「ですけれど、男も女も同じ人間ではありませんの?」
ひたすらに無垢に、疑問の視線が返って来る。それは確かに天使の笑み。けれど邪な心じゃ触れられないとか言う便利な機能は付いてないんだから、もう少し自覚してもらわないと困る。声を整えて、少し強い口調で忠告を始める。
「・・・いい、トゥールー。男と女ってのはね、同じ人間って言ってもevenじゃないの。言わば足と靴なの! 触れ合って同じ感覚を共有する事があったって、本質的には別の存在なんだよ」
「靴が女性で、足が殿方ですの?」
「逆っ!! ・・・男ってのはね、量産された幻想の足型で女を測って、それに合わせさせようとするけれど、結局実際に足を動かして疲れるのは女ばっかりなの! 子孫を残すのも、家庭を支えるのも、結局女が全部やるんだから。男は靴底すり減らして給料稼ぐ位しか出来ないのに、女が下手に出る必要は全く無いの!! 靴が足を選ぶ道理なんて無いでしょ?」
「ですけれど、顔をオーダーメイドするのは女ばかりではないのですの?」
思いがけず反論を飛ばすトゥールー。表情は、穏やかなままで。
「・・・あれはエステの一種と思いなさい。ともかくね、生身と人工物程違いがあるんだから相容れなくて当然、無理して合わせて靴擦れして痛い思いするなんて馬鹿みたいじゃない」
「神姫と靴でしたら、どちらも人工物ですの。丁度いいのではありません?」
再度、彼女からの刺。思わず「さくっ!」と擬音語を叫びたい程に突き刺さる。そこまで、男を擁護したいの? それが、貴女の意思だと言うの?
・・・そうかもしれない。確かに相容れないとしても、歩み寄りたいと思う、それも男と女の本質かもしれない。逆に諭されたのか、私は。
「・・・ごめん、私も言いすぎた。そうだね、私がどう思っているにしろ、貴女が男とどう付き合うかなんて貴女自身が決める事であって・・・」
「・・・ねえトゥールー、前から言ってるけど、その言葉遣いどうにかならない? 今時“~わ”とかすら使う女なんて居ないのに“~ですの”なんて、野郎の幻想の中にしか居ないよ」
「ああ、ですからお優しくして下さる殿方が多いですのね」
「いやそうじゃなくて・・・」
どうしても彼女には私の危惧が伝わらない。只でさえこの子は限定カラーで目を引くんだから、その辺のキモオタ野郎共に拉致される可能性は低くないのに、何度言ってもトゥールーは男を警戒しない。これも、プログラミングなのだろうか。
「マスターは、殿方が嫌いなんですの? それでは恋愛も出来ませんわ」
「欲情だけで動いている連中とは死んでも嫌だね」
「ですけれど、男も女も同じ人間ではありませんの?」
ひたすらに無垢に、疑問の視線が返って来る。それは確かに天使の笑み。けれど邪な心じゃ触れられないとか言う便利な機能は付いてないんだから、もう少し自覚してもらわないと困る。声を整えて、少し強い口調で忠告を始める。
「・・・いい、トゥールー。男と女ってのはね、同じ人間って言ってもevenじゃないの。言わば足と靴なの! 触れ合って同じ感覚を共有する事があったって、本質的には別の存在なんだよ」
「靴が女性で、足が殿方ですの?」
「逆っ!! ・・・男ってのはね、量産された幻想の足型で女を測って、それに合わせさせようとするけれど、結局実際に足を動かして疲れるのは女ばっかりなの! 子孫を残すのも、家庭を支えるのも、結局女が全部やるんだから。男は靴底すり減らして給料稼ぐ位しか出来ないのに、女が下手に出る必要は全く無いの!! 靴が足を選ぶ道理なんて無いでしょ?」
「ですけれど、顔をオーダーメイドするのは女ばかりではないのですの?」
思いがけず反論を飛ばすトゥールー。表情は、穏やかなままで。
「・・・あれはエステの一種と思いなさい。ともかくね、生身と人工物程違いがあるんだから相容れなくて当然、無理して合わせて靴擦れして痛い思いするなんて馬鹿みたいじゃない」
「神姫と靴でしたら、どちらも人工物ですの。丁度いいのではありません?」
再度、彼女からの刺。思わず「さくっ!」と擬音語を叫びたい程に突き刺さる。そこまで、男を擁護したいの? それが、貴女の意思だと言うの?
・・・そうかもしれない。確かに相容れないとしても、歩み寄りたいと思う、それも男と女の本質かもしれない。逆に諭されたのか、私は。
「・・・ごめん、私も言いすぎた。そうだね、私がどう思っているにしろ、貴女が男とどう付き合うかなんて貴女自身が決める事であって・・・」
「それに、神姫なら足のサイズが皆同じですから、その分バリエーションにこだわれますし、お友達と履き替えっこしたりや、部屋用、お出かけ用、バトル用なんて風に何足も揃えても履けなくならないので困りませんの。あ、もし飽きて捨ててしまっても、神姫の使ったものなら別に汚くはありませんから中古価値も高いですの」
「・・・why?」
ちょっと待って、今、物凄い事を口走ったよ、この子。でももしかして靴の例えを神姫用靴の話と取り違えたのかも・・・でも話の流れからすると間違えるとも思えないし。それとも、トゥールーって無駄にマイペースな所があるから、今のも、今までの反論も他意のない思いつき? いやそれにしても・・・。
「ねえマスター、そう言えば、靴下は何に例えるんですの?」
「・・・結婚かな。摩擦を抑えるって意味で」
気にしないことにしよう。うん、それがいい、そうしよう(というか考えると怖い)
ちょっと待って、今、物凄い事を口走ったよ、この子。でももしかして靴の例えを神姫用靴の話と取り違えたのかも・・・でも話の流れからすると間違えるとも思えないし。それとも、トゥールーって無駄にマイペースな所があるから、今のも、今までの反論も他意のない思いつき? いやそれにしても・・・。
「ねえマスター、そう言えば、靴下は何に例えるんですの?」
「・・・結婚かな。摩擦を抑えるって意味で」
気にしないことにしよう。うん、それがいい、そうしよう(というか考えると怖い)
「あ、そう言えば。トゥールーはもう飛びたくないんでしょ? でもスピード感は欲しいと」
「でも、脚部換装して地上戦というのも、結局マスターの靴が履けないから嫌ですの」
「じゃあさ、面白い事考えたんだ。これなら靴は何履いてもいいし、スピード感はあるし、何よりit’s stylish!」
「それは、何ですの・・?」
「それはね・・・」
「でも、脚部換装して地上戦というのも、結局マスターの靴が履けないから嫌ですの」
「じゃあさ、面白い事考えたんだ。これなら靴は何履いてもいいし、スピード感はあるし、何よりit’s stylish!」
「それは、何ですの・・?」
「それはね・・・」
オムニバスなのに続く!!(え~)