誠意の返礼──あるいは初日その二
“鳳凰カップ”初日も昼を迎え、長大な客足もやっと途切れた所だ。
小型のブースなのだが、それでも我がMMSショップ“ALChemist”には
多数の方々が噂を聞きつけて、一目展示物を見ようと訪れてくれた。
やはりアキバの地下ではなかなかこれだけの集客は出来ぬ……だが!
小型のブースなのだが、それでも我がMMSショップ“ALChemist”には
多数の方々が噂を聞きつけて、一目展示物を見ようと訪れてくれた。
やはりアキバの地下ではなかなかこれだけの集客は出来ぬ……だが!
「ふぅぅ……なんなのだ、この大群衆は。PRは控えめの筈だぞ」
「そうですねぇ。マイスター、やっぱりあたしもHVIFの方が」
「否、それには及ばん。お前はその姿でしか為しえない事がある」
「は、はい……でも少し汗だくですよ?今が暖冬だからって……」
「そうですねぇ。マイスター、やっぱりあたしもHVIFの方が」
「否、それには及ばん。お前はその姿でしか為しえない事がある」
「は、はい……でも少し汗だくですよ?今が暖冬だからって……」
1ステージ終えたアルマが、心配そうに楽屋のコンテナから見上げる。
確かに私・槇野晶は、結構疲労していた。白衣を脱ぎ捨て、小さな躯を
“フィオラ”のそれに包んで、たった一人で客を捌き続けているのだ。
だが、それだけ私の技術が評価された証左でもある。嫌な感覚は無い。
それに頑張っているのは、アルマは勿論……ロッテも梓も同様なのだ!
確かに私・槇野晶は、結構疲労していた。白衣を脱ぎ捨て、小さな躯を
“フィオラ”のそれに包んで、たった一人で客を捌き続けているのだ。
だが、それだけ私の技術が評価された証左でもある。嫌な感覚は無い。
それに頑張っているのは、アルマは勿論……ロッテも梓も同様なのだ!
「しかし、数量制限して正解かもしれぬな……このペースでは少々」
「予備分も含め一杯作って、しかも高価なのに……結構売れてます」
「有無。この調子では三時を待たずに、今日の分は打ち切りとなる」
「予備分も含め一杯作って、しかも高価なのに……結構売れてます」
「有無。この調子では三時を待たずに、今日の分は打ち切りとなる」
“フィオラ”は決して安くはない。技術を安売りする気など、私には
毛頭無いからだ。それでも、これまで何百人もの方が訪れてくれる。
量産型でも手抜きをしない姿勢が、受け入れられたのかもしれんな。
それが凄く嬉しくて、私は今日渡すべき物を忘れてしまう所だった。
毛頭無いからだ。それでも、これまで何百人もの方が訪れてくれる。
量産型でも手抜きをしない姿勢が、受け入れられたのかもしれんな。
それが凄く嬉しくて、私は今日渡すべき物を忘れてしまう所だった。
「そろそろ昼食を取らねばならんな。喫茶店“LEN”に行くか?」
「あ、はいっ!……梓ちゃんとロッテちゃんも、お昼休憩ですっけ」
「有無、丁度二人からメールが来た所だ。そこで落ち合うとしよう」
「あ、はいっ!……梓ちゃんとロッテちゃんも、お昼休憩ですっけ」
「有無、丁度二人からメールが来た所だ。そこで落ち合うとしよう」
梓の端末に返信メールを飛ばし、売上金等を手提げ金庫に詰め込んで、
隣のブース要員に留守を頼み、私とアルマはブースを一端飛び出した。
無論盗まれる様なヘマはしないが……それにしても活気に満ちている。
今日の分が終わったら、一度彼方此方を見て回るのもいいかもな……。
隣のブース要員に留守を頼み、私とアルマはブースを一端飛び出した。
無論盗まれる様なヘマはしないが……それにしても活気に満ちている。
今日の分が終わったら、一度彼方此方を見て回るのもいいかもな……。
「晶お姉ちゃん、アルマお姉ちゃん。ブースの様子は、どうかな?」
「梓や、順調すぎる位でな。この様子では、じきに今日は終わりだ」
「マイスターの洋服が人気だと、わたしも戦う甲斐がありますの♪」
「ロッテちゃん、宣伝効果バッチリだよ。そういうお客さんいたし」
「梓や、順調すぎる位でな。この様子では、じきに今日は終わりだ」
「マイスターの洋服が人気だと、わたしも戦う甲斐がありますの♪」
「ロッテちゃん、宣伝効果バッチリだよ。そういうお客さんいたし」
そして私達は梓・ロッテと、“LEN”の出張トレーラー前で合流だ。
話を聞く限り、ロッテは梓……クララの指示が的確な所為もあるのか、
予選Hブロックの準々決勝まで勝ち上がったらしい。つまり、後三回で
明日の決勝ブロックへと駒を進める事になる!これは結構凄い事だな。
話を聞く限り、ロッテは梓……クララの指示が的確な所為もあるのか、
予選Hブロックの準々決勝まで勝ち上がったらしい。つまり、後三回で
明日の決勝ブロックへと駒を進める事になる!これは結構凄い事だな。
「そうか……ファーストやセカンド組も、居たのではなかったか?」
「ここまではセカンド止まりだよ。実力でどうにかなったけど……」
「もうすぐファーストランカーとも戦わないといけませんの。はい」
「油断してくれれば良いが、そうとも限らない。全力を尽くせよ?」
「大丈夫!ロッテちゃんなら決勝まで勝ち上がってくれますよっ!」
「ここまではセカンド止まりだよ。実力でどうにかなったけど……」
「もうすぐファーストランカーとも戦わないといけませんの。はい」
「油断してくれれば良いが、そうとも限らない。全力を尽くせよ?」
「大丈夫!ロッテちゃんなら決勝まで勝ち上がってくれますよっ!」
皆の声援に、ロッテがはにかむ……可愛らしい。戦う乙女の姿とは、
いつ見ても心動かされる物だ。なんとも可憐に見えるではないかッ!
という事で、私は密かに持ってきていた物を取り出す。3つの箱だ。
それを各自リボンの色に合わせ、手渡していく。梓の箱は大きめだ。
皆不思議そうな顔をしている、無理もない……だが間もなくなのだ。
いつ見ても心動かされる物だ。なんとも可憐に見えるではないかッ!
という事で、私は密かに持ってきていた物を取り出す。3つの箱だ。
それを各自リボンの色に合わせ、手渡していく。梓の箱は大きめだ。
皆不思議そうな顔をしている、無理もない……だが間もなくなのだ。
「さ、さあ……開けてみるがいい、三人とも」
「えっ、これって神姫用のペンダント……?」
「わぁ……マイスター、金のペンダント!?」
「綺麗ですの、マイスターっ♪でもなんで?」
「えっ、これって神姫用のペンダント……?」
「わぁ……マイスター、金のペンダント!?」
「綺麗ですの、マイスターっ♪でもなんで?」
そこに入っていたのは、中世紋章風の彫金加工を施したペンダントだ。
中央にはそれぞれ各自の“W.I.N.G.S.”用ペンダントが、装填出来る。
梓の箱だけ大きいのは、無くしたりしない様にという配慮に他ならぬ。
この日の為に、私が手ずから作り上げた一品だ……何故なのか、だと?
中央にはそれぞれ各自の“W.I.N.G.S.”用ペンダントが、装填出来る。
梓の箱だけ大きいのは、無くしたりしない様にという配慮に他ならぬ。
この日の為に、私が手ずから作り上げた一品だ……何故なのか、だと?
「ほれ。間もなく三月十四日であろう?……だから、そのな……」
「……あ、ホワイトデー?そういえば、わたし達マイスターに!」
「うん……各々、プレゼントを作って手渡してあげたんだよ……」
「あっ!?そう言えば今日のマイスター、全部……身につけて!」
「……あ、ホワイトデー?そういえば、わたし達マイスターに!」
「うん……各々、プレゼントを作って手渡してあげたんだよ……」
「あっ!?そう言えば今日のマイスター、全部……身につけて!」
私の耳には宝玉のイヤリング。携帯機には毛糸加工のストラップ。
そして胸元から、三姉妹のそれと似た感じのペンダントを取り出す
私の右薬指には想いの詩が刻み込まれた、銀細工のリングがある。
そして胸元から、三姉妹のそれと似た感じのペンダントを取り出す
私の右薬指には想いの詩が刻み込まれた、銀細工のリングがある。
「……それだけじゃないぞ!ほら、これと同じ物を作りたかったんだ!」
「マイスター、それってあの時の……ううん。照れちゃだめですの~♪」
「照れていないッ!?照れてなんか……い、いないよ!なんでもない!」
「……その割に、お姉ちゃんの顔が真っ赤っか。恥ずかしかったのかな」
「だ、だってしょうがないだろう。お前達の為に、って作ったんだ……」
「有り難うございます、マイスター……やだ、胸が切なくなりそうです」
「マイスター、それってあの時の……ううん。照れちゃだめですの~♪」
「照れていないッ!?照れてなんか……い、いないよ!なんでもない!」
「……その割に、お姉ちゃんの顔が真っ赤っか。恥ずかしかったのかな」
「だ、だってしょうがないだろう。お前達の為に、って作ったんだ……」
「有り難うございます、マイスター……やだ、胸が切なくなりそうです」
慌ててペンダントを仕舞いつつ、私も皆を抱き寄せ労う。そうなのだ。
ホワイトデーにも乗る気はあまりしなかったのだが……どうあっても、
皆へお返しをしてあげたかった。故に、その日を言い訳としたのだな。
……想いは伝わった様で何よりだ、有無。お、ウェイトレスが来たな?
ホワイトデーにも乗る気はあまりしなかったのだが……どうあっても、
皆へお返しをしてあげたかった。故に、その日を言い訳としたのだな。
……想いは伝わった様で何よりだ、有無。お、ウェイトレスが来たな?
「ご……ご注文はお決まりで、でしょうか……って、あーっ!?」
「うん?ああ、すまな……って、貴様は千空?何故ここに居る!」
「あ、晶さんこそなんで此処に!?……って、展示ブースッ!!」
「そうだ、貴様はアルバイトか?……ウェイトレス姿も似合うぞ」
「ふええ~!?や、やめて引っ張らないで注文してくださいッ!」
「うん?ああ、すまな……って、貴様は千空?何故ここに居る!」
「あ、晶さんこそなんで此処に!?……って、展示ブースッ!!」
「そうだ、貴様はアルバイトか?……ウェイトレス姿も似合うぞ」
「ふええ~!?や、やめて引っ張らないで注文してくださいッ!」
──────ごめんね、でも……照れ隠しだってしたいじゃない?