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 第五幕。上幕。


 ・・・。
 新京都国際会館大ホール。薄暗い照明、設置された数台の大型筐体。
 交差する小さな影を見つめる瞳。

 筐体のカップホルダー。そこに描かれたMBAというオフィシャルロゴの上。
 無造作に置かれたレモンイエローのケータイには大小様々なストラップが賑やかに吊るされている。
 そのプレイヤーシートに座る少女。染色された髪の前髪の一部にホワイトメッシュ。細い赤縁の洒落た眼鏡。インカムを付けている耳には右には2つ、左に1つ賑やかにピアスが踊る。
 その筐体の中・・・アラートウィンドウと光が踊る戦場を見つめる横顔は、軽薄そうにも見えるが、その視線は真剣そのもの。その瞳には少しの不安と自信が宿るが、絆創膏が貼られた両手を祈るように組んで、彼女はそこをじっと見続けていた。
 彼女の名は山県 光。アキと読む。

 やがて。
 砲台型神姫フォートブラッグが携えた、大きく形状を改造されたライフルの銃弾が悪魔型ストラーフの胸部急所に直撃した。
 ドクロのマークのデッドマークが赤く表示され、悔しそうな顔を浮かべながらストラーフが膝をつく。勝利を収めたフォートブラッグはバイザーを上げ、特別感慨も無さそうに・・・それが当然と言うかのように敵であった者に一瞥をくれると。自身のバトルフィールドへの侵入ゲートへ足を向けた。
『バトルロンドエンド。勝者、フォートブラッグ『ルクス』。OFMBA・・・勝敗数・・・』
 電子音声と、その戦いのギャラリーであった『ライバル達』の拍手が流れる中。

 そのフォートブラッグ『ルクス』は、白と黒だけで彩られた世界を見回した。
 いつも通りの視界。ノイズが少し混じっているままで。


「お疲れ様。ナイスやったで、ルクス!」
 関西弁が強く混じった声。嬉しそうに、アキが自分のパートナーを迎える。
「・・・ありがとうございます」
 そのマスターの祝福に顔さえ上げず、腕を組み。淡々と答えるルクス。
 今の戦いに満足してはいないのか、目を軽く閉じ瞑想しているかのように口はそのまま噤まれた。その喜びを表現しようともしない姿に、困ったような笑みを浮かべながら、アキが慌てて付け加える。
「あ・・・うん。どっか、壊れたとか。調子の悪いトコとか無い?」
「マスター。異常ありません」
 さらっと答え、ルクスは心配そうな彼女の声を無視する。
 まだ何かを言おうとしたアキだが、先のストラーフのマスターが来て、挨拶と祝福への礼を言う事に追われ、それ以上の声をかける事は出来なかった。

 自分は武装神姫である。
 マスターと自分の誇りの為に戦い、勝利を収める為の存在。
 特にフォートブラッグは本格的なショットバトルの為に設計された『砲台型』。主とは完全にバトルパートナーとして在るべきだと、彼女は『正しく認識』していた。
 主が戦略を練り、自身が戦術で勝利を収める。それこそが正しい姿である。幸いにもアキは戦略という点では問題は無い。ならば自分にはそれに答える義務がある。
 そこに間違いなど・・・。


 それから一時間後。これで勝てばベスト4という試合が始まった。敵はアーンヴァルタイプ限定型のカスタムモデル・・・それも随分と神戸で名の知れた実力者。
 しかし此処で負けているわけにはいかない。

 その戦闘の途中。
 彼女は一瞬、丘陵の段差に足を取られた。
 ほんのワンミスでしかない。
 しかし、この戦場には、『ここまで勝ち上がってきた者』しかフィールド内にはいないのだ。それを見逃すはずもないアーンヴァルのアルヴォが火を噴き、彼女のバイザーを跳ね上げた。幸い、直撃ではなかったが・・・。
「・・・っ!」
 ヂヂッという音と共に、目の前に妙な火花が舞った。いや、目の中で舞った。
 視界が急速な勢いで萎み、これまでの三分の一程度まで縮小する。ダメージアラートが表示されているはずだが、それを完全に見る事が出来ない。
(ダメージ数の把握が・・・!)
 見えなくなりつつある事よりも、彼女は戦闘に支障をきたす事を悔やんだ。残った視界にも大きなノイズが走っている。最早、視界のほとんどが奪われつつる状況。それでもルクスは敵をスコープに入れようとする。
(負けるわけには!)
 が、目が見えない重砲撃タイプなど単なる的に過ぎない。
 数秒後に放たれたレーザーライフルを回避する事が出来ず、ルクスは直撃をくらった。全身から力が抜けていく。高いブザー音と共に、彼女のボディに敗北を意味するドクロが舞った。


 あちこちにガツ、ゴツとぶつかりながらも、何とかルクスはゲートに辿り着いて筐体から出る。火花はまだ目の中で散っていた。
「ルクス!?」
 慌てたような声が聞こえる。そこにいるのだろう。
 彼女はいつも通り、視線を主に向けずに首を振った。
「申し訳ございません、マスター。私のミスで敗北しました。弁明の言葉もありません」
「そんなんはえぇねん! それより・・・大丈夫なんか!?」
 何が、いいのか・・・。
 オフィシャル・プロを目指しているような方が。
「異常といえば、視力が奪われました」

 恥だ。主の構想を裏切り、自身のミスで負けただけではなく。挙句故障とは。何という役立たずな・・・。
 そこまで思った時には。アキはルクスを引っ掴み、メディックルームに走っていた。



「・・・ありがとう、ございました」
 搬送された神姫センターから、暗い表情でアキがルクスを胸に抱いて出てくる。
「・・・」
 結果は・・・『ノー』だった。
 そもそもが、彼女の人工眼球が、武装神姫の物ではなかったという衝撃の事実付きで。
 パーツの混入・・・数百分の一か、数千か、数万か。何が起きたかは解らないが、しかし確かに起こりえた。彼女の眼は旧型神姫タイプ『ミネルヴァ』の不良品であったのだ。

 武装神姫のカメラアイ部は、従来の神姫よりもガードグラスが遥かに丈夫に出来ており、それ故に人工眼球とCSCセンサーとの結合も強固になっている。ルクスが・・・生まれながらに持っていた障害をアキに伝えていれば、その時点での良品への変更は可能であっただろうと。
 彼女は当初から視界が色を認識していなかった。
 だが、ルクスは別段それを主であるアキに言おうともしなかったし、不便とも感じなかったのだ。全てはバトルに、戦闘に・・・必要ないからと。


 その『悪い眼』でずっと暮らし、戦ってきたルクスのCSCが既に『その規格の眼球』を自身の目とする認識を、終了してしまっていた。
 新品の武装神姫の眼の規格では、彼女のCSCがデータを認識しない。
 とはいえ『悪い眼』と同じ程度の格である『旧式の眼』はほとんどがハンドメイドの代物だ。色も違えば、一つ一つが微妙にセッティングが違い、合う物が見つかる可能性は限りなく低いと・・・そう、伝えられた。

「・・・なんで、言わんかったん?」

 合う物が見つかれば、連絡をくれると気の毒そうにドクターは言ってくれたが。期待は出来ない。
 アキの言葉に、抱かれたルクスは俯いたまま何も言わなかった。
「なんで・・・色が見えないって、言わなかったん? ルクス」
 もう一度。それでもどこまでも優しく、アキは言う。それが妙に苛立たしく感じられ、ルクスは僅かながら乱暴に答えた。
「必要ないと判断しました。バトルに影響はなく。むしろ、色の彩度に目を取られないだけ便利であろうと」
 酷くなっていくノイズは。既に視界のほとんどを奪っている。
「そっか・・・ごめんな・・・気付かへんで」
 ポツポツと聞こえる声。何故謝るのか。全ての非は私にある。
「マスターは悪くありません。状態管理・報告の義務さえ怠った、私の責任です」
「ウチは、マスターやのに・・・」
 聞こえていないのか、アキは尚も呟くように言うだけだ。

 ルクスは溜息をつき、淡々と言った。
「・・・マスター」
「?」
「私のCSC破棄を提案致します」
 ぴたっと、足が止まった。
「え・・・?」
 アキの顔さえ見ずに、ルクスは続ける。
「マスターはオフィシャル・プロを目指し、それに近い場所にいらっしゃいます。状態管理を損ない、無様にも・・・恐らくは視力を失うような神姫では貴女への期待と、高いステータスに答える働きは出来ません」
 それが当然だ。
「CSCを一度破棄し、新しい眼球に取替え、そして再度起動を行ってください。名はルクスでも構わないでしょう。同一ボディとヘッドパーツならば特例としてランキング継承が認められた例があります」
 私は彼女の神姫・・・所有物であり、期待に答える義務があった。
 それが出来ない愚かな存在が、これ以上、類稀なる才能を持つ方の側にいる訳にはいかない。
「何・・・言って」
 アキの震える声。ルクスは首を振って溜息混じりにはっきりと言った。

(・・・何を感傷的になっておられますか)

「私と貴女はパートナー。片方が『裏切り』に近い行為を行った時、貴女には切り捨てる権利があり、私にはソレを受け入れる義務がある。今日とて勝てば、日本選手権への切符を手に入れることが出来たベスト4入りを逃したのは、私の責任です」
「『裏切り』・・・?」
「何よりも、マスターはフォートブラッグの戦い方・セッティングに慣れておられるでしょうし・・・」
 そこまで言って、決定的に重要な事を言う。

「CSCと眼球のみでしたら、『コスト』も、抑えられますから」

「『裏切り』・・・? 『コスト』!?」
 少し、語気が強められた。
「?」
「この・・・っ! ド阿呆おっ!!」
 水がパタパタッとバイザーに降ってきた。きょとんとして、ルクスは見えなくなりつつある目を上に向けた。
 白黒の、小さな視界に。泣いているアキがいた。
(・・・ぁ)

 そういえば・・・。

「ウチはルクスじゃないと意味がない! ルクスの代わりなんておらん!」
「代わりは・・・」
 私は、武装神姫。大量に生産されているタイプ。代わりなんて。
「ルクスが、好きやから! 一緒に来たのに! 裏切りなんてありえへん!! ルクスはルクスやのに、何でそんな事言うん!?」
 大粒の涙が眼鏡を濡らし、首を振った時に零れ落ちる。
(・・・好き?)
 泣きながら叫ぶアキを呆然と見つめながら、言葉を反芻する。

 そういえば・・・マスターの顔を正面から見たのは、はじめてだったっけ・・・。

 紫電が舞った。耳に届くブチッという音と共に。
 視界から光が、完全に失われた。


 ・・・一週間後。

 昨夜、『データ規格に一致するかもしれない』眼があると電話があり、そこに連絡を入れるや平日にも関わらず、アキはルクスを連れて早朝からリニアエクスプレスに飛び乗った。
 新京都駅からの通勤の人たちに混じって揺られる事一時間と少し。中央ステーションからバスに乗り換えて。
 そして。彼女達はそこに降り立った。
「きょう、こく・・・?」
 この一週間。泣き腫らした目でアキは、その珍しい名前をした研究所の看板を読む。ルクスは無言で俯き、そのポシェットの中で座っている。
 千葉峡国神姫研究所。それなりに大型の研究所らしい。
 意を決して。彼女は呼び鈴を鳴らした。

 この一週間。
 ルクスは一人暮らしをしているアキの部屋、机の上。言葉さえ発せず、クレイドルの上にずっと座っていた。座らされていたし、そこから動こうともしなかった。
 毎朝、声をかけながらアキは優しくルクスの身体を払う。
「ごめんな・・・ごめんな?」
 そう謝りながら・・・学校には行っているか解らない。
 時折、机に突っ伏しているのか、くぐもった涙交じりの声が近くから聞こえるだけで。
 ただ。
 ルクスは、何か一つのキーワードを探し続けていた。
 この、胸を蹂躙する気持ちを、はっきりとさせるワードが。あるはずなのに。


「・・・。結論から言えば。移植は可能です。それで光が戻るかは確信はありませんが・・・確率的には半々と言った所でしょうか」
 様々な機械でデータを取り、その後所長室に通されたアキとルクス。
 その前に座った、堅苦しそうな雰囲気を漂わせる小幡 紗枝と名乗った初老の女性は、手元のデータファイルに目を通しながら事務的な口調で言った。
「半、々・・・」
 アキはぽつっと呟いて。
「あの、それで・・・」
「無論。一人でも多くの神姫と、そのマスターをお救いするのが私達の使命でもあります。お譲り致しましょう。・・・治療費は、別途頂くかもしれませんが」
「ホンマですか?」
 嬉しそうに言うアキに、しかし小幡は冷静・・・冷徹とも見える表情のまま一つ頷くと、机上に直立するルクスに視線を向けた。

「さて、ルクスさん。貴女に聞いておきたい事があります」
 ルクスは顔を声のする方向へ向ける。
「視力を失う前兆は当初からあったとの事ですが・・・何故、貴女は。色彩を認識していない旨をマスターに伝えなかったのですか?」
 ふっと顔を下を向けたまま、答える事が出来ない。彼女は質問を理解はしていたが、それどころではなかったのだ。

 ずっと探している。その単語を。今も心中を漁って。

「ウチの・・・。ウチのせいです!」
 何も言わない彼女に慌てたように、アキが叫んだ。
 ゆっくりと、声がした方に顔を向ける。
(マスター?)
「・・・ウチが・・・ルクスに無理をさせすぎて」
 一週間聞き続けた、涙声に変わっていく声。
「構ってあげれなくて・・・そんで・・・彼女の事を何も考えてあげれなくて。色が見えてないって事さえも、気付いてあげられへんかったのは・・・」
 絞り出すような声。
(何の為に・・・)
「全部・・・」
 どうして?

「なるほど。・・・今の話が本当として。さて、貴女には、彼女を恨む権利があります」
 別の方向から、小幡の冷静極まりない声が聞こえた。
「・・・。・・・!」
 ルクスは『恨む』という単語に驚いて顔を振り向ける。
「ルクスさん? 神姫の不調さえ気付かず、戦いを強い、視力を奪い去った彼女を。それでも赦すのですね?」
 それは。
 赦す・・・?
「当然ですよね。貴女は、彼女の神姫なのだから」
「そ、それは! ちゃいます! ウチは!」
 驚いたような、アキの声。
「お黙りなさい、山県さん」
 それを封じる、厳しく、冷たい声。
「・・・これは、貴女の問題でもありますが、同時に彼女の問題でもあるのですよ?」
 情に流されぬ研究者の声。
「どうですか? ・・・ルクスさん」
「・・・」
 アキの、漏れるような声だけ、聞こえている沈黙の中。
(・・・あ)
 ルクスは、ようやく『一つの単語』に辿り着いた。

「・・・『光を失う』事」
 質問の回答になっていない言葉を、彼女は紡いだ。
「これは、私への罰。・・・マスターの顔さえ直視せず。その声から耳を塞ぎ・・・『それ』から逃げ続けた」
 直立したまま、淡々と。感情がほとんど込もっていない声で続ける。
「私は・・・『それ』を受け止めようとしなかった」

 ふっと、自分の声調が変わった。
「大好きなネイルアートをやめてしまわれた。・・・髪が、傷つくからと」
 それは誰の為に。
「パーツを持った事も無いドライバーで分解し、綺麗に洗ってくれたのも。ハンドカスタムしようとして。絆創膏だらけになってしまった指先も」
 一体誰の為だったか。
「初勝利のときに誰よりも喜んでくれたのも。時間が無いのにアルバイトをして、兵装をフルチェックに出してくれたのも」
 全ては。誰の為だった?
「・・・。そんな事を、何も考えずに受け止め。それが当然だと甘えながら」
 それら全ては。誰に向けられていた?
「マスターの声に耳を傾けず、その瞳を真っ直ぐ見る事さえ出来ない・・・こんな」
 声が揺れていた。とめどない感情の奔流が口から流れ出す。

 ルクスは膝から崩れ落ち、その場にへたり込んだ。
 何も見えぬ闇の世界。冷たい机の堅さだけが、足から伝わってくる。
「本当に救いようの無い、愚かな神姫の為に」
 マスターは。私に。
 どれほどの『それ』を注いでくれていたのか。そんな事さえ考えもしない神姫の為に。
「私は・・・」
 光を照り返さない瞳を天に向ける。それも空しき抗いに過ぎず、涙が目から零れ落ちた。

「私は、きっと。愛されていた」

 『愛』。
 そんな簡単な単語を導くために。一体、どれほどの時間が必要だったのか。
 雫が落ちる音が聞こえる。それは、誰の涙なのか。ようやく彼女は、全てを認識した。
「この光を失う事は。その愛を踏み躙り、目を伏せ続けた。愚かな私への罰」
「・・・。受け入れると?」
 冷たくこちらを刺す様な小幡の声。ルクスは小さく頷き。唇をわななかせた。
 当然の罰。受けるべき刑・・・。
「・・・それでも」
 メモリーを埋め尽くす、最後に見た映像。
 彼女は・・・マスターは。
「それでも・・・私はっ!」
 何も掴めぬ指で見えぬ目を閉じ顔を覆う。消えない。その映像は消えはしない。

 はじめて・・・そう、はじめて真っ直ぐに見詰め合った、陽の如き愛を注いでくれたマスターは。
 泣いていたのだ。
 こんな、愚か者の為に。
「マスターの姿を・・・失いたくないっ!!」

 泣いていたのだ!
 こんな、『愛』を『涙』にしか換える事が出来ない、ガラクタの為に!

 このまま光を失えば。自分は、ずっとずっと知らないまま。
 泣いていない、哀しみに囚われていないマスターの顔を。
 愛を与え続けてくれた、いつも自分へ向けてくれていたはずの、唯一無二のマスターの顔を!

「う・・・う、ひぐっ・・・。マスタ・・・マスタぁ!」
 心が無茶苦茶に掻き乱されていく。氾濫する感情。
 メモリーを埋め尽くすのはアキの泣き顔。姿を見る事さえ適わぬ主を、彼女は叫ぶように呼ぶ。

 あの泣き顔が・・・与えてくれた愛に出した答え。あの涙が、愛の代価として私がマスターに与えた物だ!

 身を引き裂くほどの後悔と懺悔。ルクスは両手を地に付いた。
「ごめん、なさい。ごめんなさい・・・っ!」
 吐き出された『想い』。赦されるとは思っていない。赦されるはずなんてない。
 自身がやってきた事。自身が口にした言葉。

 その須らくが、愛への『裏切り』に他ならなかった。
 何本の棘をマスターの心に叩き込んだ? 果たして、どれだけの愛を捨ててきたのか? どれほどの愛を踏み躙ったのか!

 考えただけで心が押し潰されそうな罪。
 身動きさえ取れないルクスを、誰かがそっと抱き上げた。

「・・・。マスター・・・?」
 知っているコロンの香りに、彼女は、ぽつりと呼んだ。
「・・・」
 しゃくり上げる声。何も言わず。アキはルクスをぎゅっと胸に抱いた。
 暖かい。知っている匂いと温もり。
 ・・・初めて起動した時に、抱き上げてくれた時と同じ。
 あの頃から・・・この、こんな神姫に・・・この人は、『愛』を注いでくれていたのに。
 彼女は咽び泣いた。ごめんなさいと、ただ繰り返しながら。

「小幡、さん」
 泣き続ける彼女を抱きながら、自身も涙でボロボロの顔を、アキは小幡に向けた。
「・・・。解りました」
 小幡は静かに頷き、微笑を浮かべた。
「彼女に・・・良い『名』を、お付けになりましたね。山県さん」
「・・・! はい」
 ルクスを抱き締めたアキを、小幡は奥の部屋に誘った。



 再起動音が自分の耳の奥で鳴っている。とすれば。これは、夢、だろうか。

 ゆっくりと眼を開ける一瞬前。ルクスは不思議な光景を見た。
 どこまでも続く、晴れた風吹く草原。そこに立つ彼女の前に、一人の美しい神姫が髪を風に揺らせ立っている。
 翠の髪。そして、銀色の瞳。パールと草色のスーツカラー。
 その神姫はルクスに優しく微笑みかけていた。
『・・・母様?』
 ふと自然と出た、その言葉。
 風が吹き、草原が消えていった。

 高い電子音が一度鳴る。
 その瞳の色は銀色に変わっていた。焦点が合い、部屋を視界に映し出す。
「ルクスっ!?」
 覗きこむ、心配そうな顔。
 ルクスは小さく頷いた。
 ぱっと、アキが笑顔に変わる。
(あぁ・・・)
 赤い縁の洒落た眼鏡。
 染めた髪にメッシュが入って何と鮮やかな。
 銀のピアスで賑やかな耳元。
 どことなく日本人とは違う印象を与える、顔立ち。
「マスター」
 私は、こんなに近くにあった愛を。長く、見ようともしなかったのか。
「見えるな? 見えるんやな!?」
「はい・・・」
 これほどまでに。美しい愛の姿を。
「・・・はい、マスター。異常ありません」
 そう言い終わったときには。強く、胸に抱きしめられていた。



 空はどこまでも蒼く、遠く千切れたような白い雲。
 グレーのアスファルト。走る色とりどりの電気自動車。街路樹は緑の葉を萌やし、金の木漏れ日を落としている。
 歩く、黒い影。肩に小さな影。
 目に映る、初めての世界の色。

「ゼリスさんかぁ・・・凄いヒトもいるねんなぁ」
「はい」
 あの後ディスクを見て、この『瞳』が誰の物かを知った。
 きっと。夢の中で思わず口走った言葉は・・・決して間違いではなかった。
「・・・重いね」
「はい」
「頑張らな、アカンね」
「はい。マスター」
 こちらに向けられた視線を真っ直ぐに見返し、ルクスは頷いて見せた。アキも嬉しげに頷き返す。
 ただそれだけ。こんなに簡単な事が。今まで出来なかったのか・・・。
 胸の奥でCSCが揺れて、心が熱くなる。

「・・・ん? メール?」
 開いたケータイに目をやったアキの表情が一変する。
「しもたっ・・・今日絶対受講の講義が七限にあるんやったっけ。間に合うかな!?」
「・・・。時間的に一時間後までにラピッド=エクスプレスに乗れば間に合います。急ぎましょう」
 脳内で時間割を的確に展開、計算してルクスはアドバイスを送る。
「・・・マスター」
「ん?」
「私の名に・・・何か、意味があるのですか?」
 恐縮するようにルクスは聞く。
 小幡が言っていた言葉が気になっていた。『良い名』とは。如何なる意味なのか。
「あ・・・『ルクス』ってのはな」
 ストラップだらけのケータイをポケットに捻じ込むと、アキは嬉しげに笑って見せた。
「ウチと、同じ」
「?」


「『光』っていう意味やねん」
 風が、吹き抜けた。


「よし、バス停まで走るで!」
「・・・。はい、マスター」
 しっかりと服に掴まる。放さないように。そして離れないように。
 銀の瞳をビルの間に見える天に向け、涙を浮かべている事に、気付かれないように祈りながら。

 ・・・。
 この愛は私には大きすぎる。
 この光は私には眩しすぎる。
 それでも。
 こんな愚かな、ド阿呆と・・・怒られるような神姫でも。
 貴女の『愛』を、『笑顔』に換えられる様に。

 ・・・愛していこう、ずっと。


 光溢れる天よりの旋風。鳥、舞い降りるその一迅。
 海には波を誘い。空には雲を呼び。その髪を遊んで吹き抜ける。


 第五幕。下幕。






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