一人の思考に耽溺し、孤独を道化に嘲笑われ
思考からの逃避とも言える闘争の場に身を置き、敗れ
正直私は壁にあたりすぎている
だが、そんな私をここまで引っ張ってくれた者を挙げるとするならば、少なくとも、我がマスター佐鳴武士と、今私の敵として目の前に居るジルダリア、「エルギール」の二人だろう
まだ、私の中の煩悶が解決された訳ではない
だが、今この瞬間私は
他の何を忘れる訳でも、逃げる訳でもなく
ただ純粋に、エルギールと闘いたかった
マスターと、エルギールに、自分を見て欲しいのだろう、多分
ゆっくりと目を開く
季節感無く無数の花が咲き乱れる世界の中央に、彼女は居た
思考からの逃避とも言える闘争の場に身を置き、敗れ
正直私は壁にあたりすぎている
だが、そんな私をここまで引っ張ってくれた者を挙げるとするならば、少なくとも、我がマスター佐鳴武士と、今私の敵として目の前に居るジルダリア、「エルギール」の二人だろう
まだ、私の中の煩悶が解決された訳ではない
だが、今この瞬間私は
他の何を忘れる訳でも、逃げる訳でもなく
ただ純粋に、エルギールと闘いたかった
マスターと、エルギールに、自分を見て欲しいのだろう、多分
ゆっくりと目を開く
季節感無く無数の花が咲き乱れる世界の中央に、彼女は居た
第玖幕 「GARDEN」
「随分余裕じゃない?それともやっぱり諦めたの?」
棘のある言葉を投げ掛けてくるエルギール
「・・・正直、貴女が次の相手だと判った瞬間は本当に逃げたくなった・・・」
「逃げりゃよかったのに・・・わざわざやられに出てくるなんて。マゾなのねアンタ」
両目を閉じて大袈裟に肩を竦めて、憎まれ口を叩くエルギール。うん、彼女は間違い無く私の知っている彼女だ
「だが、今ここに来て判ってしまった事がある」
何を?という代わりに片目だけでこちらを見る
「私は貴女と闘いたい。貴女に認められたい・・・そういう欲求が確かに、私の中に存在する・・・という事だ」
『バトル開始迄、あと5,4・・・』
ずるり・・・と太刀を抜き放つ
「・・・くっだらない!そういうノリは嫌いなのよ。また地べたに這い蹲らせてあげるわッ!!」
せわしい金属音を響かせながら展開する「魔女の剣」・・・両者の距離は8sm(注1)。好機は、今
『バトル、スタート』
サイドボードが、私の左手に転送される
実質、この瞬間の奇襲の為だけに、これをサイドボードに入れたままにしていたのだ
私が突撃してくると明らかに思い込んでいたエルギールに、ホーダーUZI(注2)が容赦無く火を噴く
二発、着弾した
横走りしながら弾幕を避けるエルギール・・・どうせこちらももう殆ど弾切れだ。あとは密着して、叩くのみ!
放たれる「魔女の剣」の攻撃をかわす。見切る事は難しいが、今の体勢が崩れたエルギールの攻撃ならば、いける
「くっ・・・!そんな程度でっ・・・調子に乗ってんじゃないわよォ!!」
再び、「魔女の剣」。かわす、だが、何かが私の右足首に巻き付いた
(鞭!?)
「グラースプアイビー」とかいうジルダリアの公式武装だ・・・成程、これと「モルートブレイド」から派生してあの珍妙な「魔女の剣」に行き着いたのか
「天地ッ!!」
予告通り地べたに這い蹲る私・・・だがダメージは小さい。予期してスピードを緩めたのが功を奏した
転んでいる私に「魔女の剣」の刃が襲い掛かる
(これを・・・捕らえるッ!!)
首の後ろに太刀を当てる
私を絡め取り、転倒させている今こそがエルギールの最大の隙。私が次の行動を瞬時に取れる程度のダメージしか受けていない事が、多分彼女の誤算
『下がるんだエルギール』
「!!」
「魔女の剣」が引く。馬鹿な、読まれたのか!?
顔を上げる、「魔女の剣」を短剣に戻し、装甲面を私に向けて距離を置くエルギール
流石に・・・やる。私は片足を絡め取られたまま、つまり白兵戦になっても彼女に主導権が常にある状態という事だ。決戦を焦る必要性は無い
今更ながら強敵と言う実感が湧いてきた。今迄見てきたエルギールの性格から考えて、この後退は彼女自身の判断ではないだろう
(素晴らしく相性の良い主従・・・という事か)
火と氷、激情と冷静、そういった両面を綺麗に具備した者があの手の技を駆使するというのは、武術と言う観点から見て、非常に理想的だ
エルギールは身体能力において私に劣るが、「術」とは元来弱者が強者に勝つ為に有るものだ
奇襲の結果体勢が崩れたエルギールの攻撃ならば、避けるなり、わざと「受け」て武器だけを絡め取るなり出来ると踏んでいたのだが・・・
(万事休す・・・だ。一呼吸置かれて冷静に攻撃されると、さすがにこの状態ではどうしようもない)
だが、事ここに至ってなお冷静な私が居る・・・そして、耳元で下手糞な情報処理をしているマスターのぶつぶつ言う声も聞こえてくる
(お互い諦めが悪いな、マスター)
ゆっくり立ち上がる私
エルギールが、間合いを詰める
二発銃弾を打ち込んではいるが、残り数発が全て当たるとも、それで倒せるとも思えない
加えて片足が封じられている・・・鞭を切断する様な透きを見せれば、やはり「魔女の剣」の餌食だろう
『一つだけ思いついた・・・だがコイツは・・・』
「なっ・・・!?そんな?」
囁かれた策は、にわかには受け入れ難い、リスキーな代物だった
『やるっきゃねーだろが。悔しいがやっぱりまだまだ向うの方が上手だ。コンビネーションでも、腕でも・・・ならそいつに勝つには奇策しかねぇ!』
『怖えか?華墨』
「・・・」
『へへ、済まねぇな。お前に怖い思いさせてるって、向うのマスターから前に言われたんだよな、俺・・・嫌なら止めるか?』
(やめるのか?私?)
私は自信の精神を鐘に見立てて、「問い」でそれを叩いてみる。恐怖と諦観の反響がそれに応える
だが、そうでない響きも確としてそこにある。「勝てるかもしれない戦いを放棄するな」という響き、挑戦者の音
(負けたとて失うものが無いならば。今は勝てる努力をすべきではないか!)
「やってみる」
引き金を絞る。残り3発位だ
(やれるかな・・・と、疑念は即ち失敗につながる)
『大丈夫だ華墨。お前なら出来るさ・・・俺が保障する』
「自信も無い癖によくも言う。この策は痛いのは私ばかりではないか!」
軽口を叩けるだけの余裕をマスターは私に与えてくれた
『ちっ・・・なら巧くいかなかった時は俺を殴ってもらっていいぜ』
あぁ何処迄も馬鹿なのだな、つくづく私達は
発砲、同時に、前方へ跳ぶ・・・!
当然させじと、鞭が跳躍の妨害に動き、「魔女の剣」が展開する・・・が、問題無い
・・・既に、右脚は大腿部から自切したからだ・・・
それは本来の私の跳躍力の半分にも満たないパワーだったろう
だが、間合いを詰めに掛かっていたエルギールに接敵するには充分だったし、ましてや、半ばよりかかって太刀を突き刺す分には、十二分に過ぎた
「!!」
明らかに動揺しているエルギール・・・まだだ、まだ腹に突き刺さっただけ・・・いわばまだ「引っ掛かった」だけだ
当然迎撃に来るべく、短剣に戻ろうとする「魔女の剣」・・・だが、私は銃を握ったままの左手で、脇差を抜きにかかる
銃は、手が柄にかかる直前にサイドボードアウト、結果的に、「銃を捨てる」という半動作すら無しに私は抜刀に成功する
それを、エルギールの右胸から、突き入れた・・・!
「・・・」
エルギールはそれでも何か言おうとしたが・・・
既に脚から、そのからだは消え始めていた
棘のある言葉を投げ掛けてくるエルギール
「・・・正直、貴女が次の相手だと判った瞬間は本当に逃げたくなった・・・」
「逃げりゃよかったのに・・・わざわざやられに出てくるなんて。マゾなのねアンタ」
両目を閉じて大袈裟に肩を竦めて、憎まれ口を叩くエルギール。うん、彼女は間違い無く私の知っている彼女だ
「だが、今ここに来て判ってしまった事がある」
何を?という代わりに片目だけでこちらを見る
「私は貴女と闘いたい。貴女に認められたい・・・そういう欲求が確かに、私の中に存在する・・・という事だ」
『バトル開始迄、あと5,4・・・』
ずるり・・・と太刀を抜き放つ
「・・・くっだらない!そういうノリは嫌いなのよ。また地べたに這い蹲らせてあげるわッ!!」
せわしい金属音を響かせながら展開する「魔女の剣」・・・両者の距離は8sm(注1)。好機は、今
『バトル、スタート』
サイドボードが、私の左手に転送される
実質、この瞬間の奇襲の為だけに、これをサイドボードに入れたままにしていたのだ
私が突撃してくると明らかに思い込んでいたエルギールに、ホーダーUZI(注2)が容赦無く火を噴く
二発、着弾した
横走りしながら弾幕を避けるエルギール・・・どうせこちらももう殆ど弾切れだ。あとは密着して、叩くのみ!
放たれる「魔女の剣」の攻撃をかわす。見切る事は難しいが、今の体勢が崩れたエルギールの攻撃ならば、いける
「くっ・・・!そんな程度でっ・・・調子に乗ってんじゃないわよォ!!」
再び、「魔女の剣」。かわす、だが、何かが私の右足首に巻き付いた
(鞭!?)
「グラースプアイビー」とかいうジルダリアの公式武装だ・・・成程、これと「モルートブレイド」から派生してあの珍妙な「魔女の剣」に行き着いたのか
「天地ッ!!」
予告通り地べたに這い蹲る私・・・だがダメージは小さい。予期してスピードを緩めたのが功を奏した
転んでいる私に「魔女の剣」の刃が襲い掛かる
(これを・・・捕らえるッ!!)
首の後ろに太刀を当てる
私を絡め取り、転倒させている今こそがエルギールの最大の隙。私が次の行動を瞬時に取れる程度のダメージしか受けていない事が、多分彼女の誤算
『下がるんだエルギール』
「!!」
「魔女の剣」が引く。馬鹿な、読まれたのか!?
顔を上げる、「魔女の剣」を短剣に戻し、装甲面を私に向けて距離を置くエルギール
流石に・・・やる。私は片足を絡め取られたまま、つまり白兵戦になっても彼女に主導権が常にある状態という事だ。決戦を焦る必要性は無い
今更ながら強敵と言う実感が湧いてきた。今迄見てきたエルギールの性格から考えて、この後退は彼女自身の判断ではないだろう
(素晴らしく相性の良い主従・・・という事か)
火と氷、激情と冷静、そういった両面を綺麗に具備した者があの手の技を駆使するというのは、武術と言う観点から見て、非常に理想的だ
エルギールは身体能力において私に劣るが、「術」とは元来弱者が強者に勝つ為に有るものだ
奇襲の結果体勢が崩れたエルギールの攻撃ならば、避けるなり、わざと「受け」て武器だけを絡め取るなり出来ると踏んでいたのだが・・・
(万事休す・・・だ。一呼吸置かれて冷静に攻撃されると、さすがにこの状態ではどうしようもない)
だが、事ここに至ってなお冷静な私が居る・・・そして、耳元で下手糞な情報処理をしているマスターのぶつぶつ言う声も聞こえてくる
(お互い諦めが悪いな、マスター)
ゆっくり立ち上がる私
エルギールが、間合いを詰める
二発銃弾を打ち込んではいるが、残り数発が全て当たるとも、それで倒せるとも思えない
加えて片足が封じられている・・・鞭を切断する様な透きを見せれば、やはり「魔女の剣」の餌食だろう
『一つだけ思いついた・・・だがコイツは・・・』
「なっ・・・!?そんな?」
囁かれた策は、にわかには受け入れ難い、リスキーな代物だった
『やるっきゃねーだろが。悔しいがやっぱりまだまだ向うの方が上手だ。コンビネーションでも、腕でも・・・ならそいつに勝つには奇策しかねぇ!』
『怖えか?華墨』
「・・・」
『へへ、済まねぇな。お前に怖い思いさせてるって、向うのマスターから前に言われたんだよな、俺・・・嫌なら止めるか?』
(やめるのか?私?)
私は自信の精神を鐘に見立てて、「問い」でそれを叩いてみる。恐怖と諦観の反響がそれに応える
だが、そうでない響きも確としてそこにある。「勝てるかもしれない戦いを放棄するな」という響き、挑戦者の音
(負けたとて失うものが無いならば。今は勝てる努力をすべきではないか!)
「やってみる」
引き金を絞る。残り3発位だ
(やれるかな・・・と、疑念は即ち失敗につながる)
『大丈夫だ華墨。お前なら出来るさ・・・俺が保障する』
「自信も無い癖によくも言う。この策は痛いのは私ばかりではないか!」
軽口を叩けるだけの余裕をマスターは私に与えてくれた
『ちっ・・・なら巧くいかなかった時は俺を殴ってもらっていいぜ』
あぁ何処迄も馬鹿なのだな、つくづく私達は
発砲、同時に、前方へ跳ぶ・・・!
当然させじと、鞭が跳躍の妨害に動き、「魔女の剣」が展開する・・・が、問題無い
・・・既に、右脚は大腿部から自切したからだ・・・
それは本来の私の跳躍力の半分にも満たないパワーだったろう
だが、間合いを詰めに掛かっていたエルギールに接敵するには充分だったし、ましてや、半ばよりかかって太刀を突き刺す分には、十二分に過ぎた
「!!」
明らかに動揺しているエルギール・・・まだだ、まだ腹に突き刺さっただけ・・・いわばまだ「引っ掛かった」だけだ
当然迎撃に来るべく、短剣に戻ろうとする「魔女の剣」・・・だが、私は銃を握ったままの左手で、脇差を抜きにかかる
銃は、手が柄にかかる直前にサイドボードアウト、結果的に、「銃を捨てる」という半動作すら無しに私は抜刀に成功する
それを、エルギールの右胸から、突き入れた・・・!
「・・・」
エルギールはそれでも何か言おうとしたが・・・
既に脚から、そのからだは消え始めていた
華墨が・・・勝った
勝ってくれた
俺の愚劣な策で
もっと良い策があったかもしれないのに、という思い
結局俺はまた、人事だと思って華墨に「自らの脚を切断しろ」と言ってしまった後ろめたさ
だが、勝利を喜ぶ華墨の笑顔は本物だった・・・少なくとも俺はそう感じた
・・・ふたりで、闘うと決めた・・・
今回は、俺的にはまだまだだ
華墨に強いた負担は、俺がもっと減らす事が出来た筈だ
・・・もっと、あいつの役に立ってやりたいのに・・・
取り敢えず当座は
やっぱり厭な感じだったとぶーたれる華墨に、一発殴られに行っておくべきだろうな
勝ってくれた
俺の愚劣な策で
もっと良い策があったかもしれないのに、という思い
結局俺はまた、人事だと思って華墨に「自らの脚を切断しろ」と言ってしまった後ろめたさ
だが、勝利を喜ぶ華墨の笑顔は本物だった・・・少なくとも俺はそう感じた
・・・ふたりで、闘うと決めた・・・
今回は、俺的にはまだまだだ
華墨に強いた負担は、俺がもっと減らす事が出来た筈だ
・・・もっと、あいつの役に立ってやりたいのに・・・
取り敢えず当座は
やっぱり厭な感じだったとぶーたれる華墨に、一発殴られに行っておくべきだろうな
注1.戦う神姫は好きですかから引用させてもらった・・・事後承諾ですみません。あまりに便利なものでつい・・・
注2.イスラエルの銃工「ウジール・ガル」作の有名サブマシンガン・・・のホーダー版レプリカ
注2.イスラエルの銃工「ウジール・ガル」作の有名サブマシンガン・・・のホーダー版レプリカ