真っ直ぐに学び、ひたむきに語り
秋葉原を要する千代田区には、“一応塾”なる大学出資の学習塾がある。
どことなく安心出来ない屋号であるのだが……実績は確かと聞いていた。
私は戸籍謄本等を求められぬこの塾へ、実験的にクララを通わせている。
勿論“殻の躯”で門前払いされたので、HVIFを用いて審査を通った。
そこで彼女は高校生・槇野梓として、一般の“同年代の人間”と過ごす。
どことなく安心出来ない屋号であるのだが……実績は確かと聞いていた。
私は戸籍謄本等を求められぬこの塾へ、実験的にクララを通わせている。
勿論“殻の躯”で門前払いされたので、HVIFを用いて審査を通った。
そこで彼女は高校生・槇野梓として、一般の“同年代の人間”と過ごす。
「ただいまなんだよ、お姉ちゃん。今日も宿題が一杯あるんだよッ」
「おお、御苦労だな梓……いや、クララ。HVIFを休ませるか?」
「ううん。今日は筆記問題もあるから、この姿でないといけないよ」
「この時代にプリントとはなぁ。電子データに統一すればいい物を」
「おお、御苦労だな梓……いや、クララ。HVIFを休ませるか?」
「ううん。今日は筆記問題もあるから、この姿でないといけないよ」
「この時代にプリントとはなぁ。電子データに統一すればいい物を」
そうなのだ。“当番制”を崩せない以上、毎日塾に通う事は出来ない。
とは言え進学塾故に、ノルマというか必要な単位はこなさねばならん。
従ってクララは当番日になると、法外な“宿題”を抱え込む事になる。
更に塾通いは深夜まで続く。だが聡明な梓は、決して夜遊びに奔らん。
とは言え進学塾故に、ノルマというか必要な単位はこなさねばならん。
従ってクララは当番日になると、法外な“宿題”を抱え込む事になる。
更に塾通いは深夜まで続く。だが聡明な梓は、決して夜遊びに奔らん。
「“書く能力”を維持するには、スタイラスだけじゃ不十分だもん」
「それもそうだが、環境問題を叫ぶならば工夫が必要にならんか?」
「その為に、来年度はフィルム型のスクリーンが支給されるんだよ」
「……レンタルか。もう少し早くても良さそうな気はしていたがな」
「それもそうだが、環境問題を叫ぶならば工夫が必要にならんか?」
「その為に、来年度はフィルム型のスクリーンが支給されるんだよ」
「……レンタルか。もう少し早くても良さそうな気はしていたがな」
この現状を仕向けたのは私で、同意したのは他ならぬクララ本人なのだ。
寡黙で頭脳派に見えるクララだが、ハウリンタイプのサガと言うべきか、
実は外に出て目一杯“勉強”したかったらしい。それも人間の学問をだ。
だが今現在まで、日本国は神姫に人権を認めていない。海外も殆ど同様。
となればどうしても、学習の機会は通信教育が頼り……嘆かわしい事だ。
寡黙で頭脳派に見えるクララだが、ハウリンタイプのサガと言うべきか、
実は外に出て目一杯“勉強”したかったらしい。それも人間の学問をだ。
だが今現在まで、日本国は神姫に人権を認めていない。海外も殆ど同様。
となればどうしても、学習の機会は通信教育が頼り……嘆かわしい事だ。
「そう言えば、今日は神姫を連れたクラスメイトが来ていたんだよ?」
「……確かにあの塾、神姫を持ち込む事自体に渋い顔はしなかったが」
「種型の“綺羅”さん。彼女もオーナーの勉強に興味有るみたいだよ」
「……確かにあの塾、神姫を持ち込む事自体に渋い顔はしなかったが」
「種型の“綺羅”さん。彼女もオーナーの勉強に興味有るみたいだよ」
……名前に少々引っかかる物があるが、それはさておこう。有無。
梓の話ではないが、人間の行動に興味を持つ神姫は結構多いのだ。
だが大抵の場合、社会進出は認められぬ。ネット上で正体を隠して
活動している神姫がいないとは言い切れないが、殆どは玩具扱い。
『なら“肉の躯”はどうなるの?』……これが私の考えた疑問だ。
梓の話ではないが、人間の行動に興味を持つ神姫は結構多いのだ。
だが大抵の場合、社会進出は認められぬ。ネット上で正体を隠して
活動している神姫がいないとは言い切れないが、殆どは玩具扱い。
『なら“肉の躯”はどうなるの?』……これが私の考えた疑問だ。
「どうだ、仮初めとは言え高校生としての勉学の日々は?……辛いか?」
「そんな事無いよ、お姉ちゃん。自分の能力を活かし、高められるから」
「流石はクララ。私の見立て通りだ……む、もう筆記は終わったのかッ」
「そんな事無いよ、お姉ちゃん。自分の能力を活かし、高められるから」
「流石はクララ。私の見立て通りだ……む、もう筆記は終わったのかッ」
そしてエルゴを訪れた際に、クララの言葉で思いついたのが“塾通い”。
“HVIFによる神姫の社会進出”実験……という名目で、行っている。
この企みにクララのニーズは見事当てはまり、周囲の誤魔化しも良好だ。
御陰で人間の社会常識を教え込む際に、ロッテよりも容易に会話が進む。
“HVIFによる神姫の社会進出”実験……という名目で、行っている。
この企みにクララのニーズは見事当てはまり、周囲の誤魔化しも良好だ。
御陰で人間の社会常識を教え込む際に、ロッテよりも容易に会話が進む。
「終わったよ。後は全部データ処理……神姫素体で十分出来るもん」
「そうか。しかしこんな問題、私でも時間が掛かるというのになぁ」
「学ぶ事はとっても楽しいんだよ、お姉ちゃんが技術を磨く様にね」
「成程な……向上心は大事だ。今後もその調子で学ぶのだぞ、梓ッ」
「そうか。しかしこんな問題、私でも時間が掛かるというのになぁ」
「学ぶ事はとっても楽しいんだよ、お姉ちゃんが技術を磨く様にね」
「成程な……向上心は大事だ。今後もその調子で学ぶのだぞ、梓ッ」
神姫にもある“発展性”が、クララに於いては知識という方向性で
急速に成長している。これは良い傾向と言えた。己の才能を活かし
更に高めていく。人間としてそれを活かせずとも、可能性は増す。
そうして、人は更なるステージに到達していくのだからな。有無。
急速に成長している。これは良い傾向と言えた。己の才能を活かし
更に高めていく。人間としてそれを活かせずとも、可能性は増す。
そうして、人は更なるステージに到達していくのだからな。有無。
「……え、ええっと。梓ちゃん?これ、なんて書いてあるんですか?」
「なんだか難しすぎて、コアがオーバーヒートしちゃいそうですの~」
「アルマお姉ちゃん、ロッテお姉ちゃん……無理するとよくないよ?」
「なんだか難しすぎて、コアがオーバーヒートしちゃいそうですの~」
「アルマお姉ちゃん、ロッテお姉ちゃん……無理するとよくないよ?」
テーブルを登ってきたアルマとロッテが、その難解極まりない宿題に
音を上げている。神姫が学問を学ぶ機会などそう多くはない。大抵は
こんな反応だろう……。故に、クララの特異性が目立つとも言える。
音を上げている。神姫が学問を学ぶ機会などそう多くはない。大抵は
こんな反応だろう……。故に、クララの特異性が目立つとも言える。
「今ハーブティーを入れてやる。皆飲んで、寝る準備をしろよ?」
ちなみに、これは物理学のプリントだった。成程、クララには重要。
学んだ事は“魔術”に転用する事で、具体的な力となる。これもまた
人間では為しえない……“武装神姫”だからこそ出来る事であるな。
学んだ事は“魔術”に転用する事で、具体的な力となる。これもまた
人間では為しえない……“武装神姫”だからこそ出来る事であるな。
「有り難うなんだよ、お姉ちゃん。躯があったまるもん」
「はふ……流石にHVIF用のサイズは、違いますの♪」
「人間とほぼ同様なのだ、アルマでもなければ飲めまい」
「うう、ひどいですマイスター!?……飲めますけどっ」
「はふ……流石にHVIF用のサイズは、違いますの♪」
「人間とほぼ同様なのだ、アルマでもなければ飲めまい」
「うう、ひどいですマイスター!?……飲めますけどっ」
さて……ティータイムでくつろいだ所で、私は梓に質問する。
純粋に一人の“姉”として、最も気になる要素とすら言えた。
それは即ち、人間であれば十二分に有り得るだろう“話題”。
純粋に一人の“姉”として、最も気になる要素とすら言えた。
それは即ち、人間であれば十二分に有り得るだろう“話題”。
「ところで梓や、塾でお前に親しくする男性はいるのか?」
「結構いるんだよ?神姫だって言えないから苦労するもん」
「……ほう。例えばどんな奴だ?ヘラヘラ笑ってないか?」
「顔がデロって垂れ下がった人が、話しかけてくるんだよ」
「結構いるんだよ?神姫だって言えないから苦労するもん」
「……ほう。例えばどんな奴だ?ヘラヘラ笑ってないか?」
「顔がデロって垂れ下がった人が、話しかけてくるんだよ」
……今度そいつを連れてきてもらう必要がありそうだと思うな。
無論、私の“妹”である梓……いや、クララに変な蟲が付いては
たまらん故、一度お灸を据える為だ。そこの貴様も、同様だぞ?
この後を覗いたら、たっぷり仕置きしてやる。覚悟しておけッ!
無論、私の“妹”である梓……いや、クララに変な蟲が付いては
たまらん故、一度お灸を据える為だ。そこの貴様も、同様だぞ?
この後を覗いたら、たっぷり仕置きしてやる。覚悟しておけッ!
「……さて、そろそろお風呂に入るか。寝る準備を始めるぞッ」
「うん。今日は疲れたから、たっぷり入ろうね……お姉ちゃん」
「う゛、うむ。背中を、その。流してやろうではないか、なぁ」
「マイスター顔がまっかっかですの♪……アルマお姉ちゃん?」
「あ、あのっ。あたしも、ロッテちゃんの背中……流したいな」
「ふぇ、ふぇえっ!?そんな事言われるの初めてですのッ!?」
「うん。今日は疲れたから、たっぷり入ろうね……お姉ちゃん」
「う゛、うむ。背中を、その。流してやろうではないか、なぁ」
「マイスター顔がまっかっかですの♪……アルマお姉ちゃん?」
「あ、あのっ。あたしも、ロッテちゃんの背中……流したいな」
「ふぇ、ふぇえっ!?そんな事言われるの初めてですのッ!?」
──────姿形が違うからこそ、毎日が楽しいのかな?