働いた“妹”の、心意気に触れて
“鬼の霍乱”という言葉の通り、誰しも意外な行動を見せる事がある。
私・槇野晶とて、それは例外ではない。まあ、その……なんだ、有無。
なんとも情けない事だが、数年ぶりに風邪を引いてしまったのである。
かといって、店を空けるわけにも行かない。これでも一応、客商売だ。
私・槇野晶とて、それは例外ではない。まあ、その……なんだ、有無。
なんとも情けない事だが、数年ぶりに風邪を引いてしまったのである。
かといって、店を空けるわけにも行かない。これでも一応、客商売だ。
「こほ、こほっ……店はどうなっている、葵……っと、客が来たか」
「いらっしゃいませですの、中野さん♪今日はマイスターの代役で」
「お、アルバイトの……あ、あー。君ら名前が紛らわしいからなぁ」
「いらっしゃいませですの、中野さん♪今日はマイスターの代役で」
「お、アルバイトの……あ、あー。君ら名前が紛らわしいからなぁ」
時刻は既に夕方。こっそり寝床を抜け出して様子を見に来た所で、
丁度接客を始めたロッテのHVIF……葵の姿を見る事となった。
今日がロッテの“当番日”だったのは、病床の私にとって幸運だ。
たまに店番をロッテに頼むが、今日は葵に一日中頼む事が出来た。
一番私との付き合いが長い故に、業務は大抵こなせる。だが……。
丁度接客を始めたロッテのHVIF……葵の姿を見る事となった。
今日がロッテの“当番日”だったのは、病床の私にとって幸運だ。
たまに店番をロッテに頼むが、今日は葵に一日中頼む事が出来た。
一番私との付き合いが長い故に、業務は大抵こなせる。だが……。
「葵ですの。晶お姉ちゃんの三女!……それで、第四弾の事ですの?」
「ああ、うんうん。ロッテちゃんに伝言頼んだんだけど、神姫だしね」
「……ですね、“神姫の店番”がちょっぴり不安なのは分かりますの」
「ああ、うんうん。ロッテちゃんに伝言頼んだんだけど、神姫だしね」
「……ですね、“神姫の店番”がちょっぴり不安なのは分かりますの」
今の常連客・“バーコードの”中野との会話通り、神姫が一般店舗の
店番をし、決済までこなすという状況に抵抗感を持つ人はまだ多い。
私の必死の説得とロッテの人柄により、常連は大抵黙認してくれる。
そう……黙認だな。公然と認めづらく感じる人間の方が、多数派だ。
流石に面と向かって言い放つ愚か者が居なくとも、真相は変わらん。
店番をし、決済までこなすという状況に抵抗感を持つ人はまだ多い。
私の必死の説得とロッテの人柄により、常連は大抵黙認してくれる。
そう……黙認だな。公然と認めづらく感じる人間の方が、多数派だ。
流石に面と向かって言い放つ愚か者が居なくとも、真相は変わらん。
「うん。ロッテちゃんは真面目で良い娘だけどねぇ、葵ちゃんみたいに」
「そ、そんな褒めないで下さいですの!ロッテさんだって、困りますよ」
「ははは。まあおじさんのジョークだよ、ジョーク。で、第四弾ある?」
「そ、そんな褒めないで下さいですの!ロッテさんだって、困りますよ」
「ははは。まあおじさんのジョークだよ、ジョーク。で、第四弾ある?」
だがロッテは己の置かれた状況をよく理解している。それ故にこそ
店番中に訪れる常連には、極力誠実を以て応える。神姫であっても
信用があれば取引出来ると証明する為に。だが、限界は存在した。
神姫達が“独自性”を持つとは言え、人間には心理的な壁がある。
その点HVIFは、現在“垣根を取り払う”役割を果たしている。
店番中に訪れる常連には、極力誠実を以て応える。神姫であっても
信用があれば取引出来ると証明する為に。だが、限界は存在した。
神姫達が“独自性”を持つとは言え、人間には心理的な壁がある。
その点HVIFは、現在“垣根を取り払う”役割を果たしている。
「第四弾の内二つはハイブリッド生体パーツを利用したタイプですの」
「そうらしいねぇ。なんでも、華と種なんだってね?で、もう一つが」
「精密砲撃に強いフォートブラッグタイプですの。売れてますよっ♪」
「ああ、これこれ!まずはこれが欲しかったんだよ、何処も品切れで」
「そうらしいねぇ。なんでも、華と種なんだってね?で、もう一つが」
「精密砲撃に強いフォートブラッグタイプですの。売れてますよっ♪」
「ああ、これこれ!まずはこれが欲しかったんだよ、何処も品切れで」
本来なら“肉の躯”が無くとも、この様に商談が出来ればいいのだが……
流石にその様な変革を全員に求めるには、未だ人類は幼いと言えるのだ。
故にこそフェレンツェめがこの様な物を作り、私が実験に協力している。
とは言え人間と寸分違わぬ姿をしていても、葵の本質は“神姫”である。
……正体を中野が知った時、今と同じ様に気軽な商談が出来るかどうか。
流石にその様な変革を全員に求めるには、未だ人類は幼いと言えるのだ。
故にこそフェレンツェめがこの様な物を作り、私が実験に協力している。
とは言え人間と寸分違わぬ姿をしていても、葵の本質は“神姫”である。
……正体を中野が知った時、今と同じ様に気軽な商談が出来るかどうか。
「じゃあ、これとこれとこれ……素体は、一人分でいいや。お勘定ッ」
「毎度有り難うございますですの~♪お値段は──────円ですの」
「電子決済でお願い……ロッテちゃんにはこれで何時も頼むんだけど」
「それは大丈夫ですの、わたしも手順はしっかり覚えていますから♪」
「毎度有り難うございますですの~♪お値段は──────円ですの」
「電子決済でお願い……ロッテちゃんにはこれで何時も頼むんだけど」
「それは大丈夫ですの、わたしも手順はしっかり覚えていますから♪」
実に嘆かわしい限りではあるが、急速な改革が出来る問題でもない。
神姫を扱う側として、今は誠意あるオーナーを増やすしかないのだ。
何時かもっと大胆且つ能動的なアクションをしてみたい物だが……。
神姫を扱う側として、今は誠意あるオーナーを増やすしかないのだ。
何時かもっと大胆且つ能動的なアクションをしてみたい物だが……。
「それじゃあこれで帰るか、女房煩いし。マイスターに宜しくね」
「はい、申し伝えておきますの。有り難うございましたですの♪」
「はーい……それにしてもあの娘、ロッテちゃんに雰囲気が……」
「はい、申し伝えておきますの。有り難うございましたですの♪」
「はーい……それにしてもあの娘、ロッテちゃんに雰囲気が……」
……中野め、伊達にこの店に通い詰めている訳では無さそうだな……。
気付かれる事はないと思うが、こういう局面は何時でもヒヤヒヤする。
さて、客足も減った様だし寝床に戻るとしようか……しまったっ!?!
──────思った時には、既に実行しているッ!地下に響く轟音ッ!
気付かれる事はないと思うが、こういう局面は何時でもヒヤヒヤする。
さて、客足も減った様だし寝床に戻るとしようか……しまったっ!?!
──────思った時には、既に実行しているッ!地下に響く轟音ッ!
「きゃうっ!?……く、痛ぁ~っ……」
「ふぇ?お、お姉ちゃんなんでっ!?」
「ふぇ?お、お姉ちゃんなんでっ!?」
迂闊だった。纏っていた毛布に足を取られ、私は倒れてしまった。
階段を無様に転げ落ち、下階の床に突っ伏す羽目となってしまう。
幸い精密機器の眼鏡は外していたし、毛布の御陰で怪我もないが。
なんとも見られたくない姿を、葵に見せてしまった……無念、だ。
階段を無様に転げ落ち、下階の床に突っ伏す羽目となってしまう。
幸い精密機器の眼鏡は外していたし、毛布の御陰で怪我もないが。
なんとも見られたくない姿を、葵に見せてしまった……無念、だ。
「葵がちゃんと店番出来ているか、見たくなって起きた……ケホッ」
「ダメですの!お姉ちゃんの躯はHVIFと大差ないんですから!」
「葵お姉ちゃん、マイスターが布団に居ない……って居たんだよッ」
「マイスター何してるんですかッ!あんな熱あったのに、もう!?」
「ダメですの!お姉ちゃんの躯はHVIFと大差ないんですから!」
「葵お姉ちゃん、マイスターが布団に居ない……って居たんだよッ」
「マイスター何してるんですかッ!あんな熱あったのに、もう!?」
咳き込んだ所で、充電から目覚めたアルマとクララにも見つかった。
直後アルマは力強く、私の口に体温計をねじ込む。測定はクララだ。
乾いた電子音が数分ほどして鳴り響き、体温を示した……いかんな。
直後アルマは力強く、私の口に体温計をねじ込む。測定はクララだ。
乾いた電子音が数分ほどして鳴り響き、体温を示した……いかんな。
「38.4度……マイスターは普段体温高いけど、これは異状」
「体格の所為もあって、体温が高いですからねマイスターって」
「アルマ、変な事を言うんじゃない!……ケホケホケホッ!!」
「ああもう!ほらお姉ちゃん、ベッドに運びますの……んしょ」
「体格の所為もあって、体温が高いですからねマイスターって」
「アルマ、変な事を言うんじゃない!……ケホケホケホッ!!」
「ああもう!ほらお姉ちゃん、ベッドに運びますの……んしょ」
深く咳き込み倒れ伏す私を、葵が躯の全面で抱きかかえ運んでいく。
……ちょっと待て、これは俗に言う“お姫様抱っこ”ではないか!?
熱っぽさもある所為か、彼女の仄かな体温が優しく感じられる……!
アルマとクララの、駆動系の放熱も感じられるが……やはり暖かい。
……ちょっと待て、これは俗に言う“お姫様抱っこ”ではないか!?
熱っぽさもある所為か、彼女の仄かな体温が優しく感じられる……!
アルマとクララの、駆動系の放熱も感じられるが……やはり暖かい。
「あ、あの!?その、えっと……あのな?葵ッ……えっと」
普段有りえない状況故か、或いは不安に満ちた為か。言葉が出ない。
病気の人間を運ぶのは、“殻の躯”では為しえぬ事の極北だからな。
こんな事で報告要素をゲットするのは、なんとも情けない話だが……
でも今だけは、彼女らの厚意に甘えようと思う。それが私の義務だ。
病気の人間を運ぶのは、“殻の躯”では為しえぬ事の極北だからな。
こんな事で報告要素をゲットするのは、なんとも情けない話だが……
でも今だけは、彼女らの厚意に甘えようと思う。それが私の義務だ。
「す、すまないな葵。いつもいつも世話を掛けて……アルマとクララも」
「何言ってるんですのおとっつぁん、ですの♪大事なお姉ちゃんですし」
「そう、大事なマイスターだから。病気の時はじっとしててほしいもん」
「本当にダウンしちゃったら、皆心配しちゃいますよ?ホントにもうッ」
「何言ってるんですのおとっつぁん、ですの♪大事なお姉ちゃんですし」
「そう、大事なマイスターだから。病気の時はじっとしててほしいもん」
「本当にダウンしちゃったら、皆心配しちゃいますよ?ホントにもうッ」
──────姿形が違っても、誰かを思う“心”は変わらないよね。