そのいち「前夜」
僕はモニターから目を離すと、そのままPCの傍らで座っている体長15㎝ほどの『少女』に視線を移す。
僕の視線に気が付いた『彼女』は、僕の目を確認すると「にひゃー」と満面の笑みを浮かべた。
「もう少しだけ、我慢してくれるかな?」
「全然平気なーのでーすよぉ♪」
彼女――MMS TYPE CAT 機体名『猫爪』、固体名『ティキ』――は歌うように答えた。
その言葉に僕は少しだけ笑いながらうなずくと、眼鏡を上げて再びモニターに目を移す。
もう一息。
僕は緑色の装丁をしている炭酸飲料をあおるように口に流し込んだ。
僕の視線に気が付いた『彼女』は、僕の目を確認すると「にひゃー」と満面の笑みを浮かべた。
「もう少しだけ、我慢してくれるかな?」
「全然平気なーのでーすよぉ♪」
彼女――MMS TYPE CAT 機体名『猫爪』、固体名『ティキ』――は歌うように答えた。
その言葉に僕は少しだけ笑いながらうなずくと、眼鏡を上げて再びモニターに目を移す。
もう一息。
僕は緑色の装丁をしている炭酸飲料をあおるように口に流し込んだ。
これは僕がティキと初めて会った、あの数日間の話。ほんのわずかだけ前の事。
その頃の僕は、オタク気質のクセにいまどきの高校生のフリをしていたから、まるで武装神姫については知識が無かった。……もちろん興味はあったけど、やっぱり高校生としての見栄もあったからチェックなんてしてなかった。
個人的な不幸と、身内の不幸。そしてチョットばかりの幸運が僕とティキを引き合わせたんだ。
順を追って説明すれば、ある日何の前触れもなく僕はその時付き合っていた彼女に振られた。彼女から告白してきたというのに、二股を掛けられていたのだ。……僕等ぐらいの年齢じゃ、それはものすごい不幸だと信じてしまえる。
で、そのショックから立ち直る時間も与えられず、僕は親父を亡くした。さして仲が良いってワケでもなかったけど、彼女に振られた事なんて消し飛ぶくらいには頭が空っぽにはなれた。
幸い、母方の祖父が僕らを援助してくれると言ったので、僕と母は路頭に迷う事無く済んだけども。
葬儀も終わりしばらく日がたった後、親父の私物の整理をするため、僕は初めて親父の書斎に入った。
その時発見したのがティキだった。
親父の書斎で机の上のベッドみたいな機具――後で分かった事だけどクレイドル――に横たわり、微動だにしない15cm弱の大きさの人形。
正直に告白します。最初見たとき父に対して怒りに似た感情を持ちました。40後半になろうというおっさんが、家族にも内緒でナニを後生大事に持ってたんだ! と。
だから、というわけでも無いけど、僕は人形ごとそのベッドを払いのけてしまった。
かたん、という乾いた音と、がしゃり、というぶつかり合う音。
「痛っ」
そして声。
「…………は?」
思いもよらぬ言葉。
「くぅぅぅぅ~~~~っっっ…… 旦那さ~ん、痛いのですよぉ~」
そこには――
頭をさすって涙目になって……動いている、さっきの人形があった。
僕はその人形を見て、思考が真っ白になった。
そんな僕をその人形は『発見』したらしく、じっと僕の目を見る。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……えっと、どなたなのですかぁ?」
なおもポカンとしている僕にその人形は、人差し指を添えて首を傾げて問いかけた。
個人的な不幸と、身内の不幸。そしてチョットばかりの幸運が僕とティキを引き合わせたんだ。
順を追って説明すれば、ある日何の前触れもなく僕はその時付き合っていた彼女に振られた。彼女から告白してきたというのに、二股を掛けられていたのだ。……僕等ぐらいの年齢じゃ、それはものすごい不幸だと信じてしまえる。
で、そのショックから立ち直る時間も与えられず、僕は親父を亡くした。さして仲が良いってワケでもなかったけど、彼女に振られた事なんて消し飛ぶくらいには頭が空っぽにはなれた。
幸い、母方の祖父が僕らを援助してくれると言ったので、僕と母は路頭に迷う事無く済んだけども。
葬儀も終わりしばらく日がたった後、親父の私物の整理をするため、僕は初めて親父の書斎に入った。
その時発見したのがティキだった。
親父の書斎で机の上のベッドみたいな機具――後で分かった事だけどクレイドル――に横たわり、微動だにしない15cm弱の大きさの人形。
正直に告白します。最初見たとき父に対して怒りに似た感情を持ちました。40後半になろうというおっさんが、家族にも内緒でナニを後生大事に持ってたんだ! と。
だから、というわけでも無いけど、僕は人形ごとそのベッドを払いのけてしまった。
かたん、という乾いた音と、がしゃり、というぶつかり合う音。
「痛っ」
そして声。
「…………は?」
思いもよらぬ言葉。
「くぅぅぅぅ~~~~っっっ…… 旦那さ~ん、痛いのですよぉ~」
そこには――
頭をさすって涙目になって……動いている、さっきの人形があった。
僕はその人形を見て、思考が真っ白になった。
そんな僕をその人形は『発見』したらしく、じっと僕の目を見る。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……えっと、どなたなのですかぁ?」
なおもポカンとしている僕にその人形は、人差し指を添えて首を傾げて問いかけた。
お世辞にも行儀良く、とは言えない様でその人形――神姫――は僕の目の前で座っている。
この娘が『武装神姫』である事に気がついたのは、お互いに名を名乗ってからだった。
「なるほどですよぉ~。つまり雪那さんは旦那さんのお子さんなのですねぇ♪」
何かを納得してる風だけど、僕はそんな余裕はなかった。
いくら僕が無知とは言え、まるで知識がないわけじゃない。
少なくとも「所有者を無くした神姫は機能を停止させる」くらいの事は知っていた。『武装神姫』じゃなくても、『神姫』そのものはすでに世の中に浸透しつつあるのだから。
だからこそ、僕は彼女――ティキ――の話を聞きながらも、彼女の説明書を読み漁る。
大事な事は黙ったままで。
「雪那さん、聞いてるですかぁ?」
「うわっ」
説明書と僕との間に、彼女が顔を割り込ませる。
そうして僕が驚いたのを確認すると、満面の笑顔を浮かべた。
「だから、ティキと雪那さんは兄妹みたいですねぇ♪」
なにが「だから」で、どうしてそんな結論が導き出されたのかわからないけど……こんな笑顔を見ちゃうと、親父が死んだなんて言えないよぉ。
そうやって考えると神姫の機能停止って、神姫に対して負荷を与えない為の適切な処置なのかもしれないけど、一体そこの所をメーカー側はどう捕らえているのか?
って、今はそんな事に思いを馳せている場合じゃなく。
「雪那さんはなんだか難しい顔してるですねぇ?」
……誰のせいでこんな顔していると思っているのか。
この娘が『武装神姫』である事に気がついたのは、お互いに名を名乗ってからだった。
「なるほどですよぉ~。つまり雪那さんは旦那さんのお子さんなのですねぇ♪」
何かを納得してる風だけど、僕はそんな余裕はなかった。
いくら僕が無知とは言え、まるで知識がないわけじゃない。
少なくとも「所有者を無くした神姫は機能を停止させる」くらいの事は知っていた。『武装神姫』じゃなくても、『神姫』そのものはすでに世の中に浸透しつつあるのだから。
だからこそ、僕は彼女――ティキ――の話を聞きながらも、彼女の説明書を読み漁る。
大事な事は黙ったままで。
「雪那さん、聞いてるですかぁ?」
「うわっ」
説明書と僕との間に、彼女が顔を割り込ませる。
そうして僕が驚いたのを確認すると、満面の笑顔を浮かべた。
「だから、ティキと雪那さんは兄妹みたいですねぇ♪」
なにが「だから」で、どうしてそんな結論が導き出されたのかわからないけど……こんな笑顔を見ちゃうと、親父が死んだなんて言えないよぉ。
そうやって考えると神姫の機能停止って、神姫に対して負荷を与えない為の適切な処置なのかもしれないけど、一体そこの所をメーカー側はどう捕らえているのか?
って、今はそんな事に思いを馳せている場合じゃなく。
「雪那さんはなんだか難しい顔してるですねぇ?」
……誰のせいでこんな顔していると思っているのか。
そんなこんなで二・三日もたった頃、メーカーに問い合わせというごくごく基本的な手段にやっと気がついた僕は、サービスセンターに電話をした。
その間僕は、ティキに親父が死んだ事も告げられず、そしてお袋にティキの事を言う気にもなれず、一人で悶々としていた。
その気分を打開するはずの電話で、僕はもっと悩むことになる。
『神姫にオーナーが亡くなった事を告げれば、自分から機能を停止するはずです。それが嫌なのでしたら神姫の設定をリセットするしかありません』
そんな事を聞きたかった訳ではなく。
確かにそれが一番の方法なのは解っていた。けれど僕は、AIにしろなんにしろ、心を持つ『神姫』という存在の側に立った答えを聞きたかったんだ。
メーカー側のその『回答』に軽く失望した僕は、またティキがいる親父の書斎へと向かう。
一体どうしたら良いのか。僕の中にまだ答えは無い。
「雪那さん、いらっしゃいなのですよぉ♪」
相変わらずティキはこの部屋を親父と自分のものとして認識いていた。
「……元気?」
「ティキは元気なのですよぉ♪ 雪那さんも元気ですかぁ?」
この突き抜けた笑顔に、僕はぎこちない笑顔で答える。
「それにしても、旦那さんは今日も帰ってこないのですかぁ?」
少し拗ねた様な口調で首を傾げた。
「う……ん、そうだね。出張なら、ティキも連れて行けば良かったのに……ね」
その時の僕には真実を告げる事なんてやっぱりできなかった。
その間僕は、ティキに親父が死んだ事も告げられず、そしてお袋にティキの事を言う気にもなれず、一人で悶々としていた。
その気分を打開するはずの電話で、僕はもっと悩むことになる。
『神姫にオーナーが亡くなった事を告げれば、自分から機能を停止するはずです。それが嫌なのでしたら神姫の設定をリセットするしかありません』
そんな事を聞きたかった訳ではなく。
確かにそれが一番の方法なのは解っていた。けれど僕は、AIにしろなんにしろ、心を持つ『神姫』という存在の側に立った答えを聞きたかったんだ。
メーカー側のその『回答』に軽く失望した僕は、またティキがいる親父の書斎へと向かう。
一体どうしたら良いのか。僕の中にまだ答えは無い。
「雪那さん、いらっしゃいなのですよぉ♪」
相変わらずティキはこの部屋を親父と自分のものとして認識いていた。
「……元気?」
「ティキは元気なのですよぉ♪ 雪那さんも元気ですかぁ?」
この突き抜けた笑顔に、僕はぎこちない笑顔で答える。
「それにしても、旦那さんは今日も帰ってこないのですかぁ?」
少し拗ねた様な口調で首を傾げた。
「う……ん、そうだね。出張なら、ティキも連れて行けば良かったのに……ね」
その時の僕には真実を告げる事なんてやっぱりできなかった。
それから一週間も過ぎた頃、さすがにティキも親父の不在に対して疑問を感じたらしい。
その日部屋に入った僕を出迎えたのは、涙目になったティキだった。
「……雪那さん……ティキは、ティキは旦那さんに捨てられたのですかぁ?」
その言葉に僕は絶句。
「だから、……だから旦那さんは、ティキの所に帰って来ないのですよねぇ?」
「ち……違うよ!」
僕の声は存外に大きかった。
「あんなのでも、ティキにとっては良いオーナーだったんだろ? だったら何も言わずにティキを捨てたりするもんか! だから……だから……」
「なら、なんで何時までも帰って来ないのですかぁ?」
「そ……それは」
何時もの様な都合の良いウソがとっさに出てこない。
「だって、だって……」
そういってうずくまるティキは、そこで更に何かに至った。
「あ……? ああああぁぁぁぁ――――!!」
「ち……違う! そうじゃない!!」
「――雪那さん…… 旦那さんは」
「そんなんじゃない!!」
「死 ん だ ん で す か ?」
ティキのその顔は作り物とは思えないくらいに悲壮で、それなのに生きているものとは思えないほどにゾッとするものだった。
あぁ、ここまでだ。
もう僕は自分にもこの娘にもウソをつけない。
僕は天井を仰ぎ、親父が死んでから初めて涙を零した。
「親父は……親父は仕事帰りに事故に巻き込まれて――」
ティキの顔はますます無表情になり――
「死んだよ」
そして目を見開いた。
僕はティキから眼を逸らす。
僕のその言葉はおそらくティキを『殺す』。でも、捨てられたなんて誤解したまま心が消えてしまうより、本当の事を伝えたかった。
こんな形で伝えたかった訳じゃないけれど。
扉に寄りかかり、そこに崩れて、俯いて泣いた。
親父の死を自らの言葉で認識し、理解し泣いた。
そして、ティキを殺してしまった事実に泣いた。
その日部屋に入った僕を出迎えたのは、涙目になったティキだった。
「……雪那さん……ティキは、ティキは旦那さんに捨てられたのですかぁ?」
その言葉に僕は絶句。
「だから、……だから旦那さんは、ティキの所に帰って来ないのですよねぇ?」
「ち……違うよ!」
僕の声は存外に大きかった。
「あんなのでも、ティキにとっては良いオーナーだったんだろ? だったら何も言わずにティキを捨てたりするもんか! だから……だから……」
「なら、なんで何時までも帰って来ないのですかぁ?」
「そ……それは」
何時もの様な都合の良いウソがとっさに出てこない。
「だって、だって……」
そういってうずくまるティキは、そこで更に何かに至った。
「あ……? ああああぁぁぁぁ――――!!」
「ち……違う! そうじゃない!!」
「――雪那さん…… 旦那さんは」
「そんなんじゃない!!」
「死 ん だ ん で す か ?」
ティキのその顔は作り物とは思えないくらいに悲壮で、それなのに生きているものとは思えないほどにゾッとするものだった。
あぁ、ここまでだ。
もう僕は自分にもこの娘にもウソをつけない。
僕は天井を仰ぎ、親父が死んでから初めて涙を零した。
「親父は……親父は仕事帰りに事故に巻き込まれて――」
ティキの顔はますます無表情になり――
「死んだよ」
そして目を見開いた。
僕はティキから眼を逸らす。
僕のその言葉はおそらくティキを『殺す』。でも、捨てられたなんて誤解したまま心が消えてしまうより、本当の事を伝えたかった。
こんな形で伝えたかった訳じゃないけれど。
扉に寄りかかり、そこに崩れて、俯いて泣いた。
親父の死を自らの言葉で認識し、理解し泣いた。
そして、ティキを殺してしまった事実に泣いた。
「よし、出来たっと」
僕はそういって背もたれに体を預けた。炭酸飲料の缶の中身は、すっかり空になっている。
「マスタ、お疲れ様なのですよぉ♪」
そう言うと、ティキは僕に笑顔を見せる。そっちこそお疲れ、と言いながら、僕はティキとPCを繋いだコードをはずした。
「ふにゅうぅ……っぅうんん……ぅんっ」
ティキが体を震わす。
「……大丈夫?」
「っふぁ……大丈夫……ですぅ☆」
ティキはいつもコードを外す度に、今みたいなチョット鼻にかかったような声をあげて体を小刻みに震わせる。
……不具合か何かなのかな?
その度に僕は不安を感じるのだが、当のティキが「何でも無いったら何でも無いのですよぉ!」と顔を赤くしてまで強く言うので、僕としてはそれを信じるしかない。
「さて……と、これで今度のデビュー戦の準備が整ったね」
「ハイですぅ♪」
デビュー戦。と言っても公式戦に出るわけではなく、あくまで草試合。付け焼刃で知識を集めた僕は、それでもようやくバトルへ参加する事が出来るようになった。
親父もそっち方面に興味があったらしいが、時間が無いくせに凝り性なため、ついぞバトルに参加する事は無かったそうだ。
「取りあえず試運転と行こうか。装備付けてみよう」
そういって僕は基本のパーツを付けていく。基本、と言っても猫爪の基本武装ではない。
親父は他の神姫の素体は一切保有していなかったくせに、何故か第二段までの各々の基本武装および、TYPE RABBITの武装だけをコンプリートしていた。……ヴァッフェバニーって、コアパーツ付いてなかったっけ?
とにかくそんな訳だから、僕はティキの特性と、自分の好みとで好きにパーツを選べると言う、他のオーナーから恨まれても文句言えない贅沢を味わっている。
そんな中から僕が選んだのは――
鉄耳装・改
buAN FL012 胸部アーマー
exOPT KT36C1 キャットテイル
exAM FL013 01スパイクアーマー ×2
exOPT VLBNY1 リフトガード/L・R
exOPT VLBNY1 脚部アーマー/R
exOPT VLBNY1 収納ポケット/L・R
WFブーツ・タイプ・グレイグ/L・R
リアウイング AAU7
で、リアウイングにオリジナルの情報集積ユニットを搭載し、有線で鉄耳装・改と繋げている。空いている左大腿部には、自作の鞘を装備させておいた。
更に武装として、
モデルPHC ハンドガン・ヴズルイフ
親父のコレクションにあった西洋剣
GEモデル LC3レーザーライフル
ちなみにLC3レーザーライフルはお手製接続パーツによりリアウイングに装着した。
「で、この剣は一体なんなんだ?」
「風の魔装機神の剣ですよぉ♪」
「???」
「でぃすかったーって言うのですよぉ♪」
「あー……いや、知らない、悪かった…… で、どう? 着け心地悪いところ無い?」
「大丈夫なのですよぉ♪ と言うよりむしろ快適無敵なのですぅ♪」
そういうとティキは早速、広いとはいえない部屋の中を飛び回る。
「マスタ、ティキはこの装備がとっても気に入ったのですよぉ♪」
「そいつは良かった。ティキが気に入ってくれたんだったら僕も嬉しいよ」
本当に楽しそうに飛び回るティキを見て、僕もなんだか幸せな気分になってくる。
しばらく飛んでいると、ティキは僕の頭の上に降り、そしてそのままうつ伏せになる。
「さすがに少し疲れたですぅ☆」
「あはははは、まだ慣れていないからね。明日から少しずつ慣れていこうな」
「ハイですぅ♪」
僕はティキの元気のいい返事を聞くと、頭にティキを乗せたまま電気を消し、親父の書斎だった部屋を後にした。
「明日天気が良かったら外で飛んで見よう」
「本当ですかぁ☆ うっれしいのですよぉ♪」
僕はそういって背もたれに体を預けた。炭酸飲料の缶の中身は、すっかり空になっている。
「マスタ、お疲れ様なのですよぉ♪」
そう言うと、ティキは僕に笑顔を見せる。そっちこそお疲れ、と言いながら、僕はティキとPCを繋いだコードをはずした。
「ふにゅうぅ……っぅうんん……ぅんっ」
ティキが体を震わす。
「……大丈夫?」
「っふぁ……大丈夫……ですぅ☆」
ティキはいつもコードを外す度に、今みたいなチョット鼻にかかったような声をあげて体を小刻みに震わせる。
……不具合か何かなのかな?
その度に僕は不安を感じるのだが、当のティキが「何でも無いったら何でも無いのですよぉ!」と顔を赤くしてまで強く言うので、僕としてはそれを信じるしかない。
「さて……と、これで今度のデビュー戦の準備が整ったね」
「ハイですぅ♪」
デビュー戦。と言っても公式戦に出るわけではなく、あくまで草試合。付け焼刃で知識を集めた僕は、それでもようやくバトルへ参加する事が出来るようになった。
親父もそっち方面に興味があったらしいが、時間が無いくせに凝り性なため、ついぞバトルに参加する事は無かったそうだ。
「取りあえず試運転と行こうか。装備付けてみよう」
そういって僕は基本のパーツを付けていく。基本、と言っても猫爪の基本武装ではない。
親父は他の神姫の素体は一切保有していなかったくせに、何故か第二段までの各々の基本武装および、TYPE RABBITの武装だけをコンプリートしていた。……ヴァッフェバニーって、コアパーツ付いてなかったっけ?
とにかくそんな訳だから、僕はティキの特性と、自分の好みとで好きにパーツを選べると言う、他のオーナーから恨まれても文句言えない贅沢を味わっている。
そんな中から僕が選んだのは――
鉄耳装・改
buAN FL012 胸部アーマー
exOPT KT36C1 キャットテイル
exAM FL013 01スパイクアーマー ×2
exOPT VLBNY1 リフトガード/L・R
exOPT VLBNY1 脚部アーマー/R
exOPT VLBNY1 収納ポケット/L・R
WFブーツ・タイプ・グレイグ/L・R
リアウイング AAU7
で、リアウイングにオリジナルの情報集積ユニットを搭載し、有線で鉄耳装・改と繋げている。空いている左大腿部には、自作の鞘を装備させておいた。
更に武装として、
モデルPHC ハンドガン・ヴズルイフ
親父のコレクションにあった西洋剣
GEモデル LC3レーザーライフル
ちなみにLC3レーザーライフルはお手製接続パーツによりリアウイングに装着した。
「で、この剣は一体なんなんだ?」
「風の魔装機神の剣ですよぉ♪」
「???」
「でぃすかったーって言うのですよぉ♪」
「あー……いや、知らない、悪かった…… で、どう? 着け心地悪いところ無い?」
「大丈夫なのですよぉ♪ と言うよりむしろ快適無敵なのですぅ♪」
そういうとティキは早速、広いとはいえない部屋の中を飛び回る。
「マスタ、ティキはこの装備がとっても気に入ったのですよぉ♪」
「そいつは良かった。ティキが気に入ってくれたんだったら僕も嬉しいよ」
本当に楽しそうに飛び回るティキを見て、僕もなんだか幸せな気分になってくる。
しばらく飛んでいると、ティキは僕の頭の上に降り、そしてそのままうつ伏せになる。
「さすがに少し疲れたですぅ☆」
「あはははは、まだ慣れていないからね。明日から少しずつ慣れていこうな」
「ハイですぅ♪」
僕はティキの元気のいい返事を聞くと、頭にティキを乗せたまま電気を消し、親父の書斎だった部屋を後にした。
「明日天気が良かったら外で飛んで見よう」
「本当ですかぁ☆ うっれしいのですよぉ♪」
僕らはまだ本当の意味で過去の思い出から巣立ってはいないのだろう。でも、それでも僕は前を見る。
え? 結局この『ティキ』は親父の『ティキ』と同じなのかって? もちろんそれは……
え? 結局この『ティキ』は親父の『ティキ』と同じなのかって? もちろんそれは……