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第十二話 回帰


 雪は降っていなかった。島の空気はキリリと引き締まって、その寒さがむしろ心地よい。
 東の水平線がほのかに白ずんでいた。もうすぐ夜明けなのだ。そして空は晴れている。
 あの夜からどれくらい経つのだったか。クエンティンは思い返す。夜中にエイダを見つけて、襲われて、鶴畑の屋敷に逃げ込んで、でぶの次男坊と戦って。そして次の夜までずっと寝ていて、その夜にここに連れてこられた。
 なんてことだ、まだ一日弱しか経っていないじゃないか。
 あまりにも様々なことがありすぎて、とてもたった一日の出来事とはクエンティンには思えなかった。
 瞬間移動装置が実質使用禁止となってしまった告知を見つけて理音と語り合ったあの夜が、もはやとても遠くに行ってしまったようで、寂しかった。
 このままお姉さまとも離れていってしまうのではないか。
 ――否。
 そんなことはさせない。
 もう「自分はどうして人間でないのか」、「自分は人間と同じなのではないか」などと悩む時間は終わったのだ。今なら分かる。ほぼ人間と同じ意思を持つ神姫が、人間について考え、人間と自らを相対的に見比べるのは、そうならないほうが不自然だ。
 鶴畑の言うような、病気、バグなどでは決してない。それは神姫ならば誰もが通る、通らねばならない、通過儀礼なのだ。
 クエンティンは思う。
 神姫とは、この星で二番目に知性を持った存在だ。
 二番目に知性を持った存在は、自分と同等の知性を持つ最初の知性体、人間を思う。そして人間と自分とを比較する。
 きっとそれは、二番目以降の知性体が必ずやらねばならないことなのだ。
 人間にはできない思考。
 自分は人間なのではないか。
 自分はどうして人間ではないのか。
 それは最初の思考段階。
 次に来る段階はきっとこうだ。
 自分、神姫と、人間との違い、それは何か。
 十五センチの体、生物と人工物、そういった当たり前のことから始まって、人間と同じだと思っていた自分自身の精神まで到達する。そこから先はそれぞれの答えが待っている。
 ここまで来て初めて、神姫としての生き方が待っている。
 神姫とはいったい何か。
 三段階目の思考だ。
 人類が知性を持ってからずっと考えてきたことと同じ。人間とはいったい何なのか。
 自らの種族についての思考。
 そこから、哲学や倫理学が生まれた。様々な学問が生まれた。宗教が生まれた。科学だってできた。文明、文化だってそこから出来上がったのだ。
 そんな中から自分達、神姫が生まれた。


 突然、クエンティンは雷に打たれたような気持ちにとらわれた。


 人間にとって、神姫とは、自分の鏡写しに他ならない。
 人間はついに創造したのだ。自分と同等で、しかし絶対に自分とは違う、新たな知性存在を。
 神が人間を創造した。それと同じことを、人間は成し遂げたのだ。
 思えば神姫が人間を思うことは、人間が神を思うことと同じなのだ。どうして自分は神ではないのか。なぜ自分は人間なのか。長い年月をかけて、人間は人間としてのアイデンティティを確立した。
 神姫もまた同じだ。
 商品としての出で立ちも、道具としての立場も、神姫が神姫として将来、彼女たち独自のアイデンティティを作り上げて欲しいがための通過段階でしかない。人間と同等の存在ではなくて、あくまで人間とは違い、しかし自立した存在としてあり続けられるように。きっと開発者達はそう信じて彼女達を作った。
 人類最大の創造物なのだ。
 だからこそ、彼女達は名づけられた。
 神姫と。
 人間が神の手から離れ人間独自の生き方を歩んできたように、神姫も人間の手から離れ神姫独自の生き方を歩むのだ。
 楽園を追い出されても、洪水で絶滅しかかっても、天にとどく塔を建てようとして言葉をばらばらにされても、なお。
 人間は歩き続けてきたように。
 ノウマンの行動は、そういった試練なのだ。さしずめ自分はノアか。彼がすべての動物のつがいを船に乗せて洪水を乗り切ったように、自分も何かしなければならない。
 神姫にとっての幸せは何か。それこそ各々が独自に決めればいい。自分のようにオーナーと一緒にいればいい神姫もいるし、人間の手から離れて自分だけの道を歩きたい神姫だっている。
 目指すのは、どのような生き方もできる世界だ。
 そう、ノウマンは、まったくの好意で、神姫の生き方を一律に決めようとしている。まだアイデンティティの成立していない途中の神姫たちに対して。
 排他的な神姫だけの社会など、神姫のためにならない。人権は必要になれば勝手につく。人間が無理やり付けてあげようなどとは、それこそ余計なお世話だ。
 問題はその余計なお世話をやっている人間が強大な力を伴っていること。叩き潰せるのはアタシしかいない。
 神姫が神姫として生きていける社会を作るために。神姫が人間と共に歩める世界を立ち上げるために。デルフィの言葉を思い出す。
 世界は勝手に立ち上がる。全世界数千万の神姫たちの意思の奔流が、長い年月をかけてそうさせる。人間の世界がそうやって流れてきたのと同じようにして。いつか人工知能基本三原則も無用になるだろう。
 自分は何もしなくてもいいし、ましてやノウマンが手をかける必要など無い。
 自分がやるべきことは、ノウマンの横槍を叩き折ることだ。
 さて。
 すでに捕捉している。
 機種が二股に分かれた戦闘機が、こちらを見つけて近づいてくる。
 猛スピードで近傍を通過。真後ろで変形、人型に戻って急停止。
 クエンティンはゆっくりとその場で振り向く。

「じいの危惧したとおりだ」

 ビックバイパー・アタッチメントを纏ったルシフェルは、バイザーの奥で顔をゆがめながら忌々しげに言った。

「貴様、寝返ったな」

 まあ、今の状況だとそう取られても仕方がないだろう。しかし、鶴畑の長男に似た口ぶりだ。オーナーに似るとはこういうのを言うのだろう。

「あのね、今ものすっごくタイミングが悪いのよ。悪いけど帰ってくれる?」

 こんな言い方をすれば怒るだろうな、と思いながらクエンティンは言い放った。

「だまれ、裏切り者め!」

 ルシフェルの手から金色の粒子塊が射出される。
 左手をかざし防御フィールドを展開。
 が、フィールドは電子音を撒いて砕け散る。
 衝撃がそのまま来る。
 吹っ飛ばされ、ヘリポートの地面に激突。
 金属板がべこりとへこむ。

《ガントレットです。近距離で粒子エネルギーの塊を放ち、相手を突き飛ばします。通常のガードでは防御できません》
「痛たたた・・・・・・」

 背中をさすって起き上がる。普通の体だったらそれこそ致命傷だったろう。エイダに感謝。

「それ、アタシも使える?」
《あと五秒お待ちください・・・・・・・・・・・・、ガントレットのデバイスドライバ、インストール完了です。出します》
「ナイスタイミング」

 両手首から先にグローブのような機器が顕現。
 まっすぐ飛び立つ。
 ルシフェルの顔に信じられないという色が差す。

「セカンド風情のくせに、物まねを!」

 ガントレットを放つ。クエンティン、それにガントレットをぶつける。まったく同じエネルギーの粒子塊は双方の間合いの中心で激突し、相殺される。

「ふざけるな!」

 ルシフェル、両手に粒子塊を溜め込み、連続射出。読んだことのある昔の格闘漫画みたいだな、と、クエンティンは迫り来る無数の粒子塊を見ながら思った。エイダの処理加速により、高速であるはずの粒子塊の雨が、ひどく遅い。

「無駄無駄無駄ぁ・・・・・・って言っていい?」
《同じ雑誌の漫画だからという気持ちは分かりますが、ふざけている暇はありません》
「ちぇっ」

 クエンティンも同じように両手に粒子塊を生成、手前の塊からぶつけて処理してゆく。
 傍から見ればそれはマシンガンの撃ち合いだった。弾を弾で弾き合っているのと同じなのだ。
 クエンティンがだんだん押し勝ってくる。粒子塊の相殺空間がルシフェルのほうへ近づいてくる。ただのセカンドランカーにビックバイパー・アタッチメントの十八番の一つを容易くコピーされ――とルシフェルは思っている。実際は武器そのものをもうエイダは持っていた――あまつさえ競り負けていることに、ルシフェルは途方もない悔しさを抱いていた。
 否、とルシフェルは感情を振り払う。あれはメタトロン・プロジェクト・プロトタイプの力なのだ。クエンティン自身の実力ではない。それは言い訳だと分かっていながら、ファーストトップランカーのプライドが許さない。
 やはり、エイダは欲しい。ルシフェルは屋敷の庭で戦ったときに考えたことを撤回する。例えその重みがさらに増えることになったとしても、目の前にある力がなぜ自分のものでないのか、我慢がならなかった。ルシフェルはトップランカーのプライド自体にプライドを持っている。自らの強さに対するプライドに忠実だったからこそ、幾多の自らの犠牲を経てファーストトップランカーに上り詰めたのである。
 自分のものにしたい。できないのなら、この場で叩き潰す。

「モードチェンジ!」
『Mode Change』

 ガントレットの相殺合戦を切り上げ、瞬時に変形、殺到する粒子塊を避け、急降下。スプリットSで運動エネルギーを稼ぎつつ、クエンティンに機種を向ける。

「オプション遠隔弾道弾全弾射出!」
『Option』

 両足のウェポンベイからミサイルのようなものが四発射出され、それらは安定翼のようなものを展開しくるくると回転を始める。オレンジ色のエネルギーが発生し、ルシフェルの軌道を斜めから追従し始めたかと思うと、

 ギュビィー!

 本体とのまったく同じレーザービームがそれぞれから発生し、計五本の青白い光条がクエンティンに照射された。

「わあっ!?」

 クエンティンは着弾、つまり照射の一瞬前に防御フィールドを発生させ、回避。スピードを上げて間合いを取ろうとする。
 だが、変形したルシフェルのスピードからは逃れきれそうにない。さらにルシフェルとオプションはミサイルを射出。クエンティンを追いかける。

「あれずるい!」

 ブレードでミサイルを切り払いながらクエンティンが怒鳴った。
 本体とまったく同じ攻撃をするなら、単純に戦力が五倍に跳ね上がっているのである。

《オプション弾道弾は構造上撃墜不可能です》
「じゃ、じゃあどうするの!?」

 はっ、と気がつけば真後ろに接近されている。
 ルシフェルは瞬時に変形、至近でガントレットをぶち当てる。

「ぐあうっ!」

 防御フィールドを展開する間もなく、横っ腹に粒子塊を直撃されたクエンティンはキリキリときりもみしながら落下する。
 地面に激突する寸前に姿勢を正し、ランディングギアを展開させて着地。勢いを減衰しきれず、基地のアスファルトをがりがりと削りながら三メートルほど滑って停止。
 ダメージ確認、戦闘に支障なし。

《ウィスプのバージョン2ドライバ、インストール終了。ウィスプ展開します》

 腰に装着されていた、ミカエルから拝借したウィスプがクエンティンの周囲に浮遊しだす。

「それまでもぉーっ!」

 ルシフェル、ガントレットを溜め込み突撃。
 対するクエンティンは右手からショットを放ちつつ飛び立つ。ウィスプからも同じショットが放たれる。これは便利だわ、とクエンティンは思った。

 ガギン。

 打ち出されようとするガントレットをブレードで受け止める。もう片方のガントレットが放たれるよりも早く、エネルギーを発したウィスプがルシフェルに突撃した。
 直撃を受けることをよしとしないルシフェルは、鍔迫り合いを止めて回避。変形し間合いを取る。
 やはりファーストランカーである。感情を爆発させつつも戦術に乱れがない。クエンティンは強敵を認める。

「シールド展開!」
『Shield』

 ルシフェルの機首にさらに二つのオプションが陣取り、今度は青白いエネルギーを纏う。
 ふたたび突撃。回避行動の無いまっすぐな軌道。クエンティンはチャンスとばかりに右手にエネルギーを集め、バーストショット。
 が、最大限に溜めたバーストショットが青いオプションに弾かれる。

《高エネルギーのシールドです。エネルギー差から推測して、ジェフティのすべての遠隔攻撃が通用しません》
「それってつまり、ブレードで切るかウィスプで引っつかむかじゃなきゃだめってこと?」
《そのとおりです》

 しかし、それにはルシフェルに接近しなければならない。遠隔兵器のウィスプだってどこまでも飛ばせるわけではない。突撃をかけてきたと思われたルシフェルは、そのまま戦闘機に変形しレーザーを放って旋回しまた離れてゆく。もはや人型になることも近づいてくることも無いだろう。完璧にアウトレンジで勝負をつけるつもりである。
 卑怯だとは思わない。それが上手い戦い方だからだ。勝てるのならばクエンティンだってそうする。戦い方にこだわりを入れたら弱くなる。負けるのだ。「あいつ」のようにノーマルな公式武装だけを使い続けるなんて、ただの自虐以外の何物でもないじゃないか。
 でも、自分はそんな「あいつ」に負けたんだ。
 神姫の未来を双肩に担っている最中だというのに、クエンティンは以前のバトルの記憶を思い起こしていた。
 なぜ自分は負けたのか。それは瞬間移動という、お姉さまの編み出したシステムの隙を突くやり方を過信していたからに他ならない。どんなに優位に立てる戦法も、それ自体に自惚れているならばいつ何時足元をすくわれても文句は言えない。意識的にしろ無意識的にしろ、戦う神姫は、武装神姫たちは相手と戦うと同時に、自身を嵌めようといつでも隙をうかがっている自惚れの罠とも戦っているのである。
 残心。
 戦いの心がまえの一つ。
 緊張を解いてはいけない。
 油断してはいけない。
 慢心してはいけない。
 見下してはいけない。
 思い上がってはならない。
 優越に浸ってはいけない。
 すこしでもそうしたならば、鼻を折られる。脚を払われる。
 負けて地に伏す。
 自分の心のシステムに負けるのである。そう、システムに挑むとはつまり、自分の心と戦うということでもある。
 言い換えるならば。
 相手の心のシステムの隙を突くこともまた、戦いと言えるのだ。
 ルシフェルのシステムの隙とは何か。
 それは彼女のプライドだ。
 ファーストトップランカーとしてのプライドが、彼女の大きな隙となる。
 ルシフェルという武装神姫の強さの根源が、同時に一番の弱点となるのである。
 プライドを弱点に一変させる方法は昔から決まっている。
 それをぶち壊すことだ。
 ルシフェルのプライドにはすでにひびが入っている。
 こちらにエイダがいることへのアドバンテージ。対するルシフェルの劣等感。利用しない手は無い。危ない手段だ。一歩間違えれば自分が飲まれる危険がある。が、戦いとは常々そういうものだ。分かっているのなら対処のしようはある。決して分の悪い賭けじゃない。使わねば勝てないのならば、使うまでだ。

「臆病者」

 ただそれだけ言えばよかった。普通なら引っかからない陳腐な手だ。だがいまのルシフェルならば引っ掛けられる自信はあった。

「なん、だと?」

 引っかかった。
 にやり。
 上目遣いに心底不快に見える笑みを浮かべてやる。
 やっぱり自分は悪魔型なのだなとあらためて思う。嫌な気分ではない。悪魔型であるからこそ表立って大々的にこういう行動が取れるなら、むしろ願ったりだ。悪魔型ゆえの感情構造なのかもしれないが。

「臆病者って言ったのよ」

 丸出しの棘のついた言葉を放ってやる。
 ルシフェルの無いはずの血管がぷちんと切れる音を聞いたような気がした。彼女の完璧な戦術構築がガラガラと崩れ落ちる。
 飛行形態の変形は解いていない。が、そのままルシフェルはくるりと方向を変え、クエンティンへまっすぐフルスピードで飛んだ。

『Ripple』

 パルス調の円形レーザーがパッパッパッと発射され、意外な高スピードでクエンティンに飛来する。
 激昂しても間合いの取り方は相変わらず変わらない。が、激昂したゆえに、そこに微妙な狂いが生じていた。
 それだけで十分だった。
 ほんの少しだけ、ルシフェルは近づきすぎた。それこそ数ミリの誤差である。
 そこはウィスプの間合いであった。
 クエンティンはまん前にダッシュ、リップルレーザーの中心を抜ける。三つのウィスプを射出。
 ウィスプは魔法のように正確に、高速移動しているはずのルシフェルに吸い込まれた。
 三つのウィスプが飛行形態のルシフェルを取り囲み、動きを封じる。十五センチの小ささでマッハを出していたルシフェルは、急激に運動エネルギーを減衰され空中静止。あわてて人型に戻って振りほどこうとするが、ジェフティの出力にビックバイパーはかなわない。
 クエンティンは右手を振りかざし、一気に下ろした。ウィスプを繋ぐエネルギーワイアーがしなり、ルシフェルはそのまま基地の地面にしたたかに打ち付けられた。
 勝敗は決した。
 もはやルシフェルの戦闘能力は封じられていた。クエンティンは急接近し、上からルシフェルを押さえつける。
 念を入れバーストし、過剰エネルギーを注入する。ルシフェルは軽いオーバーヒートを起こして、ぴくりとも動けなくなる。

《聞こえるわね》

 ルシフェルの回路に直接通信する。造反グループに盗聴されないための配慮。

《単機で着たわけじゃないでしょ。この島の近くに救出部隊か何かが来てるわね》
《貴様・・・・・・何を》
《タイミングが悪いってさっき言ったでしょ。あまり時間は取れないから要点だけ話すわ。鶴畑の三バカとお姉さまはアタシが助け出す。絶対に部隊を突入させちゃだめよ。一つ目どもも神姫なんだから。神姫と人間とを戦わせちゃいけない。神姫のことは神姫に任せるの。その代わり、ノウマンたち人間の方は人間に任せる》
《・・・・・・・・・・・・》

 十秒ほど、ルシフェルは黙った。何を考えているのかは推測できないが、彼女が分からずやでないことは確かだった。

《――座標を送る》

 クエンティンの頭脳に直接データが送られる。執事達が待機している潜水艦の座標だった。こんなものも鶴畑は持っているのか。

《マスターたちを必ず助け出せ。できなかったら貴様を壊す》
《壊せるモンならね。ま、全員必ず連れ帰ってみせるわ。ね、エイダ》
《戦闘中に基地の構造解析、警備の配置状況をすべて取得しておきました。脱出ルートも構築済みです》
《ほら、だから安心して。こういうときは悪魔のほうが信用できるのよ。同じ悪魔だから分かるでしょ》
《その論理には納得しかねるが、頼む》
《おっけ。じゃ、またね》

 クエンティンはルシフェルの首根っこを引っつかむと、勢い良く投げ飛ばした。軽々と飛んだルシフェルは海面まで到達し、いくつかの爆発を残して着水した。爆発は彼女のミサイルだった。撃墜をでっちあげたのだ。ありがたかった。

「さて、と」

 基地に戻ろうとしたとき、島を突然地響きが襲った。
 いや、これは、地震じゃない。
 島の森からたくさんの鳥たちがぎゃあぎゃあわめきながら飛び立ってゆく。
 その森の陰から現れるいくつもの影。一つ一つがヘリコプター並みの大きさの、高速飛行船。

《エイダ、あれは!?》
《ノウマンが作戦を実行しました。宣戦布告はまだですが、高速飛行船の内部には多数のラプターが内蔵されています。飛行船の目的地が判明。東京、シドニー、メルボルン、サンフランシスコ、ニューヨーク、ロンドン、ブリュッセル、ベルリン、モスクワ、北京、上海、その他世界中の主要都市です》
《戦争を選んだってわけね。よりによって一番バカな選択肢なんて、潰しがいがあるじゃない》

 神姫という前代未聞の兵器に、おそらく現代兵器と現代の軍隊構造は太刀打ちできないだろう。自分が止めねばならない。

《先に人質となっている四人を救出するのが先です》
《分かってる。忙しくなってきたわ》

 あわてていない風を装って、クエンティンは基地へ帰還する。まだ協力しているふりをしていなければならない。
 飛行船の群れはゆっくりと上昇を始め、高空で隊列を整えようとしている。


つづく







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