その御名は、誇りと想いと麗しの
今日は良い日だった。アルマは自らの忌まわしい過去をほぼ清算して、
クララは己の武器を見つけ、良い師にも出会った。本当に素晴らしい。
というわけで今日の祝勝会は、少し奮発して“エルゴ”近所の喫茶店を
訪ねる事とした。日暮にクララの戦闘ログを見せるのも目的だが……。
クララは己の武器を見つけ、良い師にも出会った。本当に素晴らしい。
というわけで今日の祝勝会は、少し奮発して“エルゴ”近所の喫茶店を
訪ねる事とした。日暮にクララの戦闘ログを見せるのも目的だが……。
「いらっしゃい……あらあら貴女、エルゴさんに通ってる女の子ね?」
「有無。私の“妹”が此処の評判を聞きつけたのでな、来てみたのだ」
「初めましてですの。人間一人と神姫三人ですけど、大丈夫ですの?」
「ああ。神姫の為のコーヒーなら任せろ、大火力で相手してやるぞッ」
「有無。私の“妹”が此処の評判を聞きつけたのでな、来てみたのだ」
「初めましてですの。人間一人と神姫三人ですけど、大丈夫ですの?」
「ああ。神姫の為のコーヒーなら任せろ、大火力で相手してやるぞッ」
喫茶店“LEN”と言ったか?なんでも看板娘の神姫・レンが淹れる
コーヒーは店主の物に負けず、食事が出来る一部神姫に好評らしい。
……些か“大火力”の意味を測りかねるが、信頼は出来そうだった。
というわけで、コーヒーを四人分と人間用のパフェを一つ。それから
各々が好きな軽食を一品ずつ注文した。心地よいアロマが広がるな。
コーヒーは店主の物に負けず、食事が出来る一部神姫に好評らしい。
……些か“大火力”の意味を測りかねるが、信頼は出来そうだった。
というわけで、コーヒーを四人分と人間用のパフェを一つ。それから
各々が好きな軽食を一品ずつ注文した。心地よいアロマが広がるな。
「はい、お待たせしました。そっちの娘、こんなに食べられるかしら」
「ああ、少々大食いでな……この程度ならどうにかなるか、アルマ?」
「大食いなんてひどいですマイスター!……でも、おいしそうかもッ」
「……アルマお姉ちゃん、行儀良くしようって話じゃなかったかな?」
「ああ、少々大食いでな……この程度ならどうにかなるか、アルマ?」
「大食いなんてひどいですマイスター!……でも、おいしそうかもッ」
「……アルマお姉ちゃん、行儀良くしようって話じゃなかったかな?」
その言葉で、ハッと息を呑むアルマ。そう言えば、無邪気に食べ出す
以前までとは違い、なんだか三人の行儀は……妙に良くなっている。
“いただきます”の挨拶も普段からするとは言え、今日はより丁寧。
以前までとは違い、なんだか三人の行儀は……妙に良くなっている。
“いただきます”の挨拶も普段からするとは言え、今日はより丁寧。
「はむ……はむ……このチキンサンド、とってもジューシーですの♪」
「あむ……こっちのコブサラダ、スパイシーで凄く美味しいんだよ?」
「はむはむ……カツサンドが、とっても柔らかくて……大好きですッ」
「あむ……こっちのコブサラダ、スパイシーで凄く美味しいんだよ?」
「はむはむ……カツサンドが、とっても柔らかくて……大好きですッ」
流石に各々の好物を食べる時は、堅苦しさを微塵も感じさせないが。
何というか、そうだな……“雰囲気”に気を配っている様子だった。
一体何があったのか、私は聞いてみる事にした。答えは意外な物だ。
何というか、そうだな……“雰囲気”に気を配っている様子だった。
一体何があったのか、私は聞いてみる事にした。答えは意外な物だ。
「ん。だって今日から、わたし達は正真正銘“戦乙女”ですの」
「ヴィネットさんの妹が“舞姫”である様に、責任は重いもん」
「うんと……なら、せめて立ち居振る舞いからしっかり、って」
「ヴィネットさんの妹が“舞姫”である様に、責任は重いもん」
「うんと……なら、せめて立ち居振る舞いからしっかり、って」
“ヴィネット”。ここから割と遠くにある硝子工房、“Moon”の
看板神姫の名だな。確か私・槇野晶が、常連のオーダーで非戦闘用の
ドレスを作る際、そこの硝子工芸品を利用したくて訪ねた事がある。
流石に上質な硝子細工を、あの地下室だけで作り上げるのは無理だ。
というわけで、その時はロッテを伴い直接交渉に赴いたのだが……。
看板神姫の名だな。確か私・槇野晶が、常連のオーダーで非戦闘用の
ドレスを作る際、そこの硝子工芸品を利用したくて訪ねた事がある。
流石に上質な硝子細工を、あの地下室だけで作り上げるのは無理だ。
というわけで、その時はロッテを伴い直接交渉に赴いたのだが……。
『……貴女ね、名前には相応しい振る舞いって物があるのよ?!』
『きゃっ!?な、名前……ですの?えっと、“戦乙女”……って』
『そう名乗りたいなら、それらしいスタイルを心がけなさいッ!』
『きゃっ!?な、名前……ですの?えっと、“戦乙女”……って』
『そう名乗りたいなら、それらしいスタイルを心がけなさいッ!』
工房主・リカルドとの会話に割って入ったのが、ヴィネット嬢だった。
ロッテは当初から、外見よりも多少幼い印象を周囲に与えがちな娘だ。
自由奔放が過ぎる彼女の生活態度を、ガツンと一発叱ったのだったな。
そして叱責を受け止め反省したロッテを、ヴィネット嬢は撫でていた。
ロッテは当初から、外見よりも多少幼い印象を周囲に与えがちな娘だ。
自由奔放が過ぎる彼女の生活態度を、ガツンと一発叱ったのだったな。
そして叱責を受け止め反省したロッテを、ヴィネット嬢は撫でていた。
『フェスタの事もあり、つい言わずに居られませんでした』
『……ううん、気付かせてくれるのは有り難い事ですの♪』
『よろしい。じゃ、マスターの作品を少し見ていきなさい』
『……ううん、気付かせてくれるのは有り難い事ですの♪』
『よろしい。じゃ、マスターの作品を少し見ていきなさい』
フェスタとは、ヴィネット嬢の“妹”である“舞踏の天使”たる神姫。
ヴィネット嬢がその霊妙なる歌声をもって“歌姫”と呼べるのならば、
フェスタ嬢のダンス映像を見た感想は、クララの言葉通り“舞姫”だ。
呼ぶ名・呼ばれる名に相応しい姿を、力を持つ言霊に負けぬ生き様を。
それは“神姫”という単語の段階で始まっている、彼女の信念なのだ。
ヴィネット嬢がその霊妙なる歌声をもって“歌姫”と呼べるのならば、
フェスタ嬢のダンス映像を見た感想は、クララの言葉通り“舞姫”だ。
呼ぶ名・呼ばれる名に相応しい姿を、力を持つ言霊に負けぬ生き様を。
それは“神姫”という単語の段階で始まっている、彼女の信念なのだ。
「そうか。既にあの一件、アルマとクララに話したのだな?ロッテや」
「はいですの。今日からは二人も“戦乙女”……そう名乗りましたし」
「……あれだけの大見得を切ったのだから、ボクらも自覚しないとね」
「はいっ。今すぐ、あのお二人みたいになれなく……ならなくてもッ」
「はいですの。今日からは二人も“戦乙女”……そう名乗りましたし」
「……あれだけの大見得を切ったのだから、ボクらも自覚しないとね」
「はいっ。今すぐ、あのお二人みたいになれなく……ならなくてもッ」
その出会い以来神姫同士投合したのか、メールでの交流が続いている。
優しくも厳しいヴィネット嬢の言葉は、ロッテ達三姉妹にもいい刺激。
そして今日は三人がその真名……二つ名を、堂々と名乗り上げた日だ。
再び逢えた時、誇らしくその名を口に出来る様に……堅い決意だった。
優しくも厳しいヴィネット嬢の言葉は、ロッテ達三姉妹にもいい刺激。
そして今日は三人がその真名……二つ名を、堂々と名乗り上げた日だ。
再び逢えた時、誇らしくその名を口に出来る様に……堅い決意だった。
「それなら応援するが、焦らずともいいぞ?お前達はお前達だからな」
「はいですのッ!マイスターの“妹”として……“戦乙女”として!」
「大仰な二つ名に恥じないだけの、“神姫としての魂”を会得するよ」
「HVIFを使っていても……その志、大事に生きていこうかなって」
「はいですのッ!マイスターの“妹”として……“戦乙女”として!」
「大仰な二つ名に恥じないだけの、“神姫としての魂”を会得するよ」
「HVIFを使っていても……その志、大事に生きていこうかなって」
彼女らの想いが単なる憧れだけでない事は、私がよく実感していた。
ある時は私が見繕ってきたMMS用の楽器を鳴らし、またある時には
三人で机に向かい何かを特訓した……思えば、全部“コレ”の為だ。
疑念が解けた瞬間、私は皆の頭を撫でてやらずにいられなかったッ!
ある時は私が見繕ってきたMMS用の楽器を鳴らし、またある時には
三人で机に向かい何かを特訓した……思えば、全部“コレ”の為だ。
疑念が解けた瞬間、私は皆の頭を撫でてやらずにいられなかったッ!
「……よく言った。成長を期待しているぞ、お前達ッ!」
名乗る権利を謳うからには、相応の義務と生き方を……という信念。
それは私自身の二つ名……“マイスター(職人)”にしても同じ事だ。
故に自らを奮い立たせる意味も込めて、私は某巨大掲示板を覗いた。
ウェアラブルPCを起動させPHSを接続、眼鏡に情報を映し出す。
それは私自身の二つ名……“マイスター(職人)”にしても同じ事だ。
故に自らを奮い立たせる意味も込めて、私は某巨大掲示板を覗いた。
ウェアラブルPCを起動させPHSを接続、眼鏡に情報を映し出す。
「ふむ。お前達の事が、“三色の戦乙女”と話題になっているな」
「え、えっと……うん、もう引き返せない。引き返さないですよ」
「……アルマお姉ちゃん、真っ赤。大丈夫、この調子で行こう?」
「今日は二人ともとっても格好良かったですの。大丈夫ですの!」
「え、えっと……うん、もう引き返せない。引き返さないですよ」
「……アルマお姉ちゃん、真っ赤。大丈夫、この調子で行こう?」
「今日は二人ともとっても格好良かったですの。大丈夫ですの!」
──────貴女達ならきっと、間違いない“戦乙女”になれるから。