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目次

インターバトル0「アーキタイプ・エンジン」



 涼しい秋の風が網戸を通って、彼の頬をなでた。
 私はたわむれに彼の頬をなでていた空気の粒子を視覚化して追う。
 くるりと彼の頭の上で回転した空気は、そのまま部屋に拡散して消えた。
 彼はもう一時間ほどデスクに座りっぱなしで、ワンフレーズずつ、確かめるようにキーボードを叩く。彼の指さばきが、ディスプレイに文字を次々と浮かべる。浮いている文字。
 その後ろの、ベッドの上に座りながら、彼の大きな背中を見ている。これが私。
 私は武装神姫。天使型MMSアーンヴァル。記念すべき最初のマスプロダクションモデル。全世界に数千万の姉妹がいる、そのうちの一人。
 パーソナルネームは、マイティ。彼が一晩考え抜いて、付けてくれた名前だ。
 私はこの名前に誇りを持っている。
 うーむ、と、彼がパソコンチェアの背もたれに寄りかかって、腕を組んだ。再び
涼しい風が部屋に遊びに来る。窓を見る彼。外は快晴。ついで視線に気づいて、私を見る。
 彼はくすり、と微笑む。ちょっと陰のある、はにかんだ笑顔。
「おまえは、食べ物は食べられるのかな」
 壁の丸い時計をちらりと見て、彼は訊ねた。私に。
「はい。有機物を消化する機能があります。99.7パーセントエネルギー化して、排泄物を出しません」
「いや、それはいいんだが」
 彼はちょっと困った顔をして、私はすぐに彼の言わんとしていることを悟った。
「味も識別できます」
「そうか。良かった」
 昼飯にしよう、と、彼は台所に立つ。ワンルームの小さな部屋。一つの部屋がリビングとダイニングとキッチンと、仕事部屋と寝室を兼ねる。十畳以上あるから狭くはない。
 カウンタをはさんでキッチンが見える。キッチンの横のドアは廊下があり、玄関へと続く。それまでに洗面所経由のお風呂があるドアがあって、玄関に近い方にトイレのドア、と並ぶ。反対側は大きな納戸だ。
 カウンタの手前には小さなテーブル。一人暮らしのはずなのに、なぜか椅子が二つある。そのことを聞いてみたら、
「セット商品だったのさ」
と、苦笑した。
 いい匂いがキッチンから漂ってくる。ガスコンロの上で、フライパンが踊る。お米と、たまねぎと、玉子、そしてお肉が舞う。
 ほどなくして、テーブルに大小二つの皿が置かれて、そこに金色のご飯が乗せられた。
 チャーハン。私のプリセット知識が料理の詳細を再生する。
 私はテーブルに座らせられて、小さいお皿のほうが手前に寄せられる。
「多いか」
「いえ、丁度良いです」
 彼は微笑して、椅子に腰掛けた。
「小さいスプーンがこれしかなかった」
 と、彼はプラスチックのデザート用スプーンをくれた。
「いただきます」
 私はチャーハンをほお張る。
 おいしい。
 有機物を摂取するのはこれが初めて。私のコア頭脳に新たなネットワークが築かれているのが分かる。
「おいしいです」
 私は心からそう言った。
 心、から。
 そう。このときに、私が生まれたのかもしれない。初めて。

 私は、マイティ。





「強敵」


『不良品』の著者様に敬意を込めて。


 なんてこった。強すぎる。
『きゃあああ!?』
 タイプ<ゴーストタウン>バトルフィールド内において、おれの天使型MMSアーンヴァル「マイティ」は、空中にいたところを相手神姫に攻撃された。アウトレンジから一方的に射撃することで安心しきっていた
マイティは、ビルの外壁を蹴たぐって「跳んで」きた敵と避ける間もなく激突。そのまま失速し地面へ真っ逆さまに落下した。
「体勢を正せ!」
 おれはすかさず命令する。ダメージからではなく驚愕に前後不覚に陥っていたマイティはおれの声で平静を取り戻した。神姫スケール換算地上三メートルでマイティはウイングブースターを反転させ、下方への運動エネルギーを強制排除、墜落寸前でホヴァリングした。
 頭上から脳天割らんと落ちてきた敵。巨大なアームに握られた「フロストゥ・グフロートゥ」が道路を粉砕。まるで砲弾がぶち当たったようにアスファルトの破片が炸裂する。
 マイティはすんでのところで避けていた。十二分に間合いを取る。若干組み替えているとはいえアーンヴァルそのものの優秀な中遠距離戦闘性能は殺していない。離れれば離れるほどこちらにとっては有利になれる。
 相手神姫は悪魔型MMSストラーフだった。武装はほぼノン、カスタムに見えるが、一目で分かる最大の特徴――今やあれは特長と呼んだほうが良いかもしれない――があった。
 一本足なのだ。性格には右足のみ、悪魔型のレッグパーツを取り付けてある。左足は素体のままで右レッグパーツに添えるだけ。右のレッグパーツはバッタの足みたいな補助シリンダーが装備され、片足以上の跳躍性能を秘めていた。ビルの壁面を蹴り登りマイティのところまでやってこれた正体だ。
 決して不恰好ではない。正面から対峙すれば、本当に脚が一本しかないように見えてしまう。もともとが人型であるから、どうも対戦した神姫は生理的な恐怖か嫌悪感のようなものを感じてしまうらしい。
 おれのマイティも例外ではなかった。
「片輪の悪魔、か……」
 おれは相手神姫とそのオーナーに付けられた通り名を思い出していた。考えてみれば通り名がつくほどなのだから、そいつはめっぽう強いか笑えるほど弱いかのどちらかでしかないのだ。あいつはまず間違いなく前者だった。
 まるで神姫と会う前から示し合わせていたように、オーナーの男は左足が、無かった。
『マスター!』
 懇願するようにマイティが叫ぶ。命令をしてくれというのだ。しかし、おれは有効な戦術が思いつかない。
「今ので空中も危ないと分かったはずだ。動き回って間合いを取り続けろ」
『は……、はいっ』
 有効な安心が得られなかったからか、やや不本意そうにマイティは応えた。
 その後もこちらの不利が続いた。動き回れば追ってくるのは近接型のセオリーだが、悪魔のそれはつかみ所の無いトリッキーな動きだった。ビルの壁を利用し、三次元的に追ってくるのだ。そのくせこちらが予測して撃ったはずの弾は例外なくかわす。避けるのではない。弾丸をはじき飛ばしたり隙間を抜けさせたり、並大抵の神姫ではできない戦術を呼吸するようにやってのける。
 マイティのコンディションに焦りが見え始めた。先頭の切れ目だ。おれは彼女にアウトレンジ戦法ばかり教えてきたから、突発的な対処にはめっぽう弱い。
 悪魔が隠し持っていた拳銃を二、三連射する。マイティのちょうど後ろにあるビルの外壁に当たり、マイティはおののいて急制動をかけてしまった。拳銃は命中させるための攻撃ではなかったのだ。
 すかさず悪魔の右アームが背中にまわり、目にも留まらぬ速さで前方に振られた。
「いけない。マイティ避けろ!」
『えっ』
 ずがっ
 マイティの右ウイングが叩き切られた。外壁に刺さっていたのは忍者型の手裏剣。マイティは揚力を失い、墜落した。
『あ、あ……?』
 衝撃で動けなくなり、地面に転がるマイティ。
 どすん。目の前に悪魔が着地する。とどめを差す気だ。逆手に握られたフロストゥ・クレインを天高く持ち上げる。
『いやぁー!』
 マイティの悲鳴。
『そこまでっ。試合終了』
 審判側から試合終了の合図。
 もちろんおれ達は負けた。マイティはなんとかぶち壊されずに済んだ。
「マスター!」
 破損した部品を修理ブースへ預け戻ってくるなり、マイティはおれにしがみついた。体が小刻みに震えている。尋常でない恐怖だったのだろう。
 おれは「大丈夫だ、もう大丈夫だよ」マイティの頭をなでた。
「よう、こっぴどく負けたな」
 観戦していたらしい神姫仲間の一人が寄ってくる。胸ポケットには彼のハウリンが心配そうにマイティを見つめている。
「惨めなもんさ。見てたのか」
 おれは頭を掻きながら、嘆息した。







「犬達の出会い」



「……でよぉ? そしたらそのバカの神姫が勢い余って壁にぶつかってやんの。で、目ぇまわして、相手不戦勝」
「はぁ」
「しっかし昨日の、なんだっけ。『片輪の悪魔』は強かったよなぁ。あいつのマイティがこっぴどく負けるほど強いんだぜ? 戦ってみたいよな」
「はぁ」
「……おいシエン、聞いてんのか?」
「へっ?」
 やっぱ聞いてなかったか。
 オレの神姫、犬型MMSハウリン「シエン」は、あわてて直立。
「も、申し訳ありません、ご主人様。聞いておりませんでした」
「いや、別にいいんだけどよ。なに見てたんだ?」
 シエンの後ろには先ほどまでこいつが操作していたパソコン。画面にはおもちゃ屋のページが開いている。なになに……?
「ごっ、ご主人様!?」
 すかさずシエンがマウスを操作し、ウインドウを消す。
「おいおい、何だよ?」
「いえ、あの」
「お前にしちゃずいぶん熱心に見入ってたじゃねえか」
「そ、それは」
「いいから。見せてみろよ」
 オレはブラウザの履歴を開く。
「でも」
「見せろ。命令だぞ」
 その言葉には逆らえず、シエンはその場でうなだれた。うーん、ちょっと卑怯くさかったな。
 最新の履歴には「ホビーショップNOVAYA……」とあった。
 開いてみると、そこには、
「1/12スコープドッグ復刻版、フルモータライズエディション?」
「あう……」
 三十年も前に発売されたロボットのおもちゃを、間接の一つ一つに小型動力を仕込んだ、ラジコン操作が可能なやつだった。
 このおもちゃのすごいところは、完全再現されたコクピットの計器・レバーがすべてアクティブだってことだ。武装神姫とのコラボレートを見込んだ機能らしい。
「お前ぇ、こいつが欲しいのか?」
「いや、その……」
「欲しいんだろ?」
「…………はい」
 シエンは顔を真っ赤にして、蚊の鳴くような声で答えた。
「なんだよ。だったら言えばいいだろ。これくらい買ってやらんこともねえぞ」
 まあ、ン万ぐらいだったらこいつに出しても良いだろうな、という覚悟は決めた。今。
「でも」
「あ?」
「お値段が……」
「値段?」
 オレはページを下に少しスクロールした。
「いちじゅうひゃくせんまん……」
 うぐ。オレはのどを詰まらせた。そこにはオレの予想を一桁超えた額が、メタリックフォントで燦然と輝いていたのだ。
 まぶしいぜ。
「いえ、いいんです。自分は別に」
 オレはシエンの顔を見た。申し訳なさそうに見上げるそいつの目。
 そのとき、オレの中で何かが切れた。
「買うぞ」
 オレは間髪いれずに言ってしまった。なんだか知らないが、買わなきゃいけない気がしたからだ。こいつのために。
「でも」
「いや、買う。これはご主人様めーれーだ」
 言葉が間違っている気がする。
「ご主人様……」
「いいんだよ。金もあるし。お前が喜ぶなら、こんくらい」
「あ、あ。……ありがとうございます、ご主人様!」
 シエンは満面の笑みでオレに抱きついた。尻尾を千切れんばかりに振っている。おいおい、そんな表情初めて見たぜ?

 数日後。神姫の箱を四つ合わせたくらいどデカいパッケージが部屋の真ん中に鎮座していた。
 オレとシエンはパッケージの前に正座する。ごくり。おもちゃに対して固唾を呑むのはさすがに初めてだぞ。
 いよいよ開封。鉄片から発泡スチロールの梱包材ごと取り出す。とてつもなく重い。きっとおもちゃのガワの中身は動力がぎっしり詰まっているのだ。下手な持ち上げ方をすればぎっくり腰になるぞこりゃ。背筋をまっすぐにして「ふんぬっ」と中身を持ち上げ、シエンが箱をおろす。適当にスチロールを外すと、出てきたのはシエンの二、三倍はあろうかという緑色のロボットだった。
 オレは触ってみて重さの正体を知った。重いのは動力のせいだけではなかったのだ。
「全身金属かよ……。これホントにおもちゃか?」
 シエンは尻尾をぶんぶん振り回しながら、ほあー、という顔をしてロボット、スコープドッグを見上げていた。こいつにとっては神姫スケール換算四メートル弱の巨大ロボットなのだ(作者注:倉田光吾郎氏製作、一分の一ボトムズを見上げたことのある方はそのときの感情を思い出してください)。
「あの、ご主人様」
「ああ、良いぜ。乗ってみな」
 オレは説明書片手にスコープドッグのハッチを開ける。シエンを持ち上げて乗せようとしたが、
「自分で乗ります」
 と言って歩み出た。なるほど、昇降用の手すりや出っ張りがちゃんとあるのか。三十年前のおもちゃにしてはよくできたデザインだと感心する。シエンは乗り込む楽しみも味わいたいようだった。その気持ちはオレも良っく分かる。
 シエンが自分でハッチを閉める。中でなにやらカチャカチャしていると思ったら、突然ロボットのカメラアイが「ヴゥーン」という電気音を立てて光りだした。
「うわっ!?」
 オレはびっくりして引いてしまう。
 主動力らしいエンジン音のようなグングンという音が鳴り始める。
 ガシャン。スコープドッグが最初の一歩を踏み出した。
「シエン、大丈夫か!?」
 スコープドッグのバイザーが上に競りあがる。頭の穴からシエンの顔が見えた。
「問題ありません。動きます。すごいです、ご主人様」
「そ、そいつは良かった……」
 シエンを載せたスコープドッグが部屋の中を歩き回る。時折腕を回したり、いらない段ボールに向けてアームパンチを繰り出したり。うわ、ダンボールが破れた。どんだけ強力なんだ? ローラーダッシュのスピードは俺の狭い部屋じゃ速すぎる。やめろピックを打ち込むな、ターン禁止!! あーあ、床がへこんだ。こりゃあただのおもちゃじゃないぞ?
 いやしかし。オレも乗ってみてぇ……。
「ん?」
 説明書のほかに妙なチラシが入っている。店側が入れたやつだろうか?
 チラシにはこう書かれていた。
『武装神姫in装甲騎兵ボトムズ・バトリングリーグ&トーナメント 近日開催!!』
 オレはもう一度、シエンの動かすスコープドッグの方を見やった。






「バトリングクラブ」(上)



「ここか」
「……みたいですね?」
 おれとマイティ――天使型MMSアーンヴァル――は、すえた臭いの立ちこめる場末の会員制クラブの入り口にいた。
 なぜおれがこんなところにいるかというと、彼から招待状が届いたからだ。
 彼――犬型MMSハウリン「シエン」のオーナー――は、
「いいから来い。面白いモンを見せてやんよ。来なかったら私刑」
 と言って、半ば無理やりおれを呼び出した。私刑は誤字ではない。
 おれは正直怖気づいていた。いや、私刑にではない。
 そもそもおれはこんないかにも治安の悪そうな場所に自分から赴くような人間ではない。
 なにより今はマイティを連れている事がおれをためらわせた。が、彼の「大丈夫だから」
という言葉を信じてやってきた。
 とりあえずからまれることもなく無事に現地へ着いたわけだ。玄関先の巨漢の黒人に
招待状を見せる。
「ドウゾ、オハイリクダサイ」
 片言の日本語だが、やはり威圧的な空気は篭っている。目の前にいるのはまったく場違いな人間なのだ。無表情な中から怪訝そうな感情がにじみ出ていた。
 ウェイターに案内され、控え室の一つに通される。クラブであるはずなのにホールでは誰も踊っていなかった。何かを待っているようだった。そういえば真ん中のお立ち台には頑丈な金網が回されてあったが……。
「よお、来たな!」
 出されたキツイ酒を飲んでいると彼が現れた。
「お前はこんなところにいても違和感ないよな」
 おれは彼の茶髪やヒゲやピアスを見ながら言った。
「なんだそりゃ。まあいいや。ようこそ。バトリングクラブへ」
「バトリングクラブ?」
「シエン、入って来い」
『了解です、ご主人様』
 妙にくぐもった声だなと思う間もなく、スコープドッグが入ってきた。
 あのスコープドッグだ。ボトムズの。なぜか頭部が真っ赤に塗られている。
「シエンちゃん!?」
 マイティが俺の懐から飛び出した。シエンが無骨な戦闘ロボットになってしまったと
思ったのだ。
「久しぶり、マイティ」
 ハッチを上げて、中からシエンが出てきた。素体のままではなく、専用の対Gスーツを
着ている。頭には同梱の頭甲・咆皇にモニターゴーグルを取り付けていた。
「どうしたの、このロボット?」
「ご主人様に買ってもらったんだ」
 なんだって?
「お前買ったのか、このバイクが買えるくらいのやつを?」
「買った。シエンの為だからな」
 ある意味、こいつはおれ以上の神姫ラヴァーかもしれない。
「バトリングってのは、やっぱりボトムズのだったんだな」
「そうだ。オレはここで、パートナーをやらせてもらってる」
「誰と?」
「ここのチャンピオンとさ。もうすぐ試合があるんでそろそろ、……来たな」
 ドアが開く。
 そこには気さくそうな眼鏡の青年が立っていた。チェックのワイシャツにチノパン。おれよりも場違いな人間だった。
「やあ、君が『屍ケン』のご友人だね」
「屍ケン?」
「オレのリングネームさ」
「僕は舎幕(しゃばく)。リングネームは『青の騎士』だ。よろしく」
「あ、ああ。よろしく」
 俺はごく自然に舎幕と握手していた。細い手だった。
「僕の神姫とATを紹介しよう。ライラ、入っておいで」
 入ってきたのはスコープドッグよりもひとまわり大きな、青いロボット。
「僕のAT、ベルゼルガだ。パイロットは兎型MMS『ヴァッフェバニー』のライラ」
 ハッチが開いて、中から完全武装の――とおれが思ったのは、その神姫がガスマスクと
ゴーグルを付けていたからだ――神姫が出てきた。
『コーホー、コーホー……』
「ライラ、控え室にいるときぐらいはマスクを取りなさい」
『……ラジャー、オーナー』
 渋々その神姫が素顔を見せた。
「……ライラです」
 それだけか。愛想の無い神姫だ。
しかし人懐っこいマイティはすぐに寄っていって挨拶をしている。
「舎幕、時間だぜ」
 彼――屍ケンが呼ぶ。
「ああ、そうだね。挨拶だけですまない。これから試合なんだ」
「いや、いいんだ」
「オマエには特等席を用意してあるぜ。楽しみにしてな」
 そうして俺たち一人と一体は、その特等席とやらに通された。
 思ったとおりあのお立ち台はバトルリングであり、特等席とはそのまん前、最前列であった。
「レィディースえ~んどジェントルメェン! ようこそ、クラブサンセット、武装神姫in装甲騎兵ボトムズ・バトリングマッチへ! 今宵もクラブチャンピオンの座を賭けたアツいバトルの始まりだ!」
 司会のスタートコールにホールに集まった観客が歓声を上げる。
「まずは我らがチャンピオンタッグの紹介だ。」
 リングの東方、おれのいた控え室の方向へ司会が手をかざす。
「チャンピオンの愛弟子! 幾度と無く敗れてなお、立ち上がってきたアンデッドマン。屍ケン&「ハウリン」シエン!」
 フードを被った彼が、プッシング・ザ・スカイのBGMとともに登場。肩に立ったシエンが観客に手を振る。彼女のファンらしいグループが「シエンちゃーん!」と黄色い声。
「シエン‘sAT、ムダな装甲を限りなくそぎ落としたライト・スコープドッグ、『クリムゾンヘッド』!」
 彼の後ろからハッチを開けた無人のスコープドッグがローラーダッシュで入場。彼の肩にいたシエンは跳躍、コックピットに見事着地し、ハッチを閉め、そのままリングへ登壇した。
「そして我らがクラブチャンピオン。並み居る挑戦者を華麗に撃破し続けるハンサムボーイ。青の騎士・舎幕&「ヴァッフェバニー」ライラー!」
 青年舎幕が控え室そのままの姿で登場する。やっぱりどこかの理系の大学生にしか見えない。
 ライラはどこだ?
「ライラ‘sAT。どんなATもその巨体にはかなわない。ヘヴィ級アーマードトルーパー、『ベルゼルガ』!」
 ブルーの巨体が舎幕の後方からローラーダッシュしてくる。もうライラは乗り込んでいるようだ。
 どうやら彼女は人前で素顔を見せたくないらしい。
 挑戦者の紹介が始まった。
「今宵のチャレンジャー。都内各地のバトリングクラブを潰しまわって十二件。息のぴったり合ったユニゾン攻撃は相手を混乱の渦へと叩き込む。バックス兄弟、そして「ストラーフ」マリア&ミソラ!」
 バックス兄弟? どう見ても日本人じゃないか。屍ケンより格段にガラの悪そうな連中だった。
 たとえるなら、徒党を組んでカツアゲでもしていそうな連中だ。おれなら絶対に関わらない。
 連中の神姫はそろってストラーフだったが、おれは妙な違和感を覚えた。
 目に神姫特有の生気が宿っていないのだ。
「あのストラーフたち、感情回路を外されてます」
 マイティが寒そうに胸をかき抱きながら言った。
「どうなるんだ?」
「ただのロボットになってしまうんです。マスター、あの、少し抱いていてください」
「ああ……」
 おれはマイティを両手で包んだ。
 無理も無い。あのストラーフたちの姿は、彼女らにとっては脳みそをいじくられているも同義。
 痛々しい姿をマイティは見ていられないのだ。おそらくシエンとライラも同じ気持ちだろう。
「おい、舎幕」
「ああ。分かってる。倒すさ」
 二人はそう打ち合わせた。
 挑戦者のATは、黒いストロングバックスの背中にストラーフのアームユニットを二対も取り付けていて、さながら阿修羅のような格好だった。カメラは人間の目のようなステレオスコープ。
 ルールは白兵戦武器も使わない肉弾戦のみの限定ブロウバトル。
 ゴングが鳴った。

つづく





「バトリングクラブ」(下)



 ◆viewpoint change… “おれ”→”3rd person”
 リングは正八角形の平面で、直径は10メートル前後。1/12のATが悠々と走り回れる広さになっている。
「どちらかのATがすべて行動不能になった時、試合終了とします。それでは、レディー……ファイッ!!」
 ゴングが鳴らされた途端、四体二組のATはそれぞれローラーダッシュを全力でかけ突進した。
 いち早く飛び出たのは屍ケン、シエンのクリムゾンヘッド。頭部が真っ赤に塗りたくられたライトスコープドッグは、異常なまでに良好な出力重量比をもって機動する。
 コックピット周辺を中心に可能な限り殺ぎ落とされた装甲は、駆動限界ギリギリまで迫る。重量軽減のために左腕のアームパンチさえオミットしているのだ。
「そんなにガリガリで、俺様のマリアに真正面から挑むのか、死にたがりめ」
 ほくそ笑む、バックス兄弟の兄。
「ぶっ潰しちまえ、マリア!!」
『了解』
 ひどく無機質な応答があり、「ストラーフ」マリアの阿修羅ストロングバックスがステレオスコープの両目を真っ赤に光らせ相対する。本体のと合わせ計六対のアームユニットが開かれ、迫るクリムゾンヘッドを殴り潰さんとランダムに飛来した。
 さながら他弾頭ロケットの着弾である。掛け声を付けるなら「オラオラオラオラ」あるいは「無駄無駄無駄無駄」だが、あいにくパイロットの神姫は感情回路が無いためそんな気の利いた気合は出さない。
 しかし、クリムゾンヘッドは当たらない。超軽量のボディはATらしからぬアクロバットな回避を簡単にこなすことができる。スウェー、ステップ、側転を織り交ぜ、機関銃のように繰り出されるパンチの雨を避け続ける。避けられたパンチはリングの床をえぐった。
「こりゃ負けたほうが弁償だぞ」
 カウンターのバーテンダーがぼそりと呟いた。
『遅い!』
 クリムゾンヘッドはついにマリア阿修羅STBの懐へ到達。唯一の武装である右手のアームパンチに気爆薬を装填、相手の胸部装甲へまっすぐに叩き込んだ。
 マリア阿修羅STBが吹っ飛ぶ。が、すぐに体勢を整え着地。ストロングバックスは通常のスコープドッグよりも前面装甲が分厚い。1/12といえどその特性は変わらない。ダメージが思ったほど通っていない。
『ちっ』
 シエンはコックピットの中で舌打ちした。
「ドン亀が! やっちまえミソラ!」
『了解』
 ミソラ阿修羅STBはベルゼルガにターゲットを合わせた。ローラーダッシュでもさほどのスピードしか出ないへヴィ級ATベルゼルガを捉えるのは容易い。
 あっという間に間合いを詰め、二対のアームでがっしりと青い巨体をホールド。両のアームパンチを連打する。
「はぁっはっはっは! さすがの青の騎士もこいつはキくだろう!」
「ベルゼルガを甘く見ないで欲しいね」
 舎幕はふふと笑うと、自身の神姫に命令を下した。
「ライラ、思いっきり痛めつけてやりなさい」
『ラジャー、オーナー』
 ベルゼルガの図太い腕がミソラ阿修羅STBを挟み込んだ。
「何ィ!?」
 そのまま、なんとベルゼルガはストロングバックスを軽々と持ち上げたのだ。
『ふんっ』
 気張って一発。投げ飛ばした。マリア阿修羅STBの方向へ。
 二体の阿修羅は激突し、リングのすみへ転がった。
 ベルゼルガの装甲は擦り傷さえあれ、少しのへこみも見当たらなかった。
ウォォォォォォォォ
 ギャラリーの吼えるような歓声。スタンディングオベーション。
「すごいな」
「はい……」
 マイティたちは唖然としてリングの攻防を見つめていた。
「もう君たちの負けだ。僕らには勝てないよ」
 冷静な顔で舎幕が言った。こんな台詞なのに、決して気取らない、チャンピオンの風格。
「こンの小僧があぁ……」
「兄貴、やっちまおうぜ」
 バックス兄弟はリングの中へ何かを次々に投げ込んだ。
 阿修羅たちがそれをキャッチ、六本のうでに装備する。
 スコープドッグの標準装備、ヘビーマシンガンだった。それぞれ六丁ずつ。大型のマガジンを搭載してある。
「リアルバトルに変更かい」
「そうくると思ったぜ」
 舎幕、屍ケンも投げ込んだ。ただしそれぞれ一つずつ。
 クリムゾンヘッドが肩に背負ったのは、見覚えのあるキャノン砲。
 ハウリンの同梱武装、吠莱壱式だ。
 ベルゼルガのもとには、胴体部分をくまなく覆えるような大盾が落ちてきた。中心部分には針のようなものが通っている。
「出たぞ! ベルゼルガの必殺武器、パイルバンカーだ!」
 司会が待ってましたとばかりに叫ぶ。
 リングをリアルバトル用の強化透明プラスチック壁が覆う。ルールはリアルバトルに変更された。
 銃火器使用可能、実戦さながらの無制限バトルである。銃火器と言ってももともとはマーキング弾が飛ぶおもちゃだが、リアルバトル用の銃器はだいたいATの装甲を貫けるように改造されている。小口径と言えど銃弾が飛んでくるようなものだから、リアルバトル時にはこのような専用の防護壁がリングもしくはバトルエリアを覆うのだ。
「シエンちゃんたち、大丈夫かな……」
 マイティが心配そうにマスターに聞く。
「まあ、問題は無いと思うが。あの二人の表情を見てみろ」
 マスターは屍ケンたちを指差した。
「楽しそうじゃないか」
 バックス兄弟は声をそろえて自らの神姫に命令した。
「蜂の巣にしてやれァ!」
『了解』
 合計十二丁の銃口が向けられた。
 爆音。
 目がくらむほどのマズルフラッシュがリングの一角を支配した。
 ベルゼルガは大盾を構えて防御の体勢をとる。クリムゾンヘッドはローラーダッシュを最大出力にし、真横に避けた。
 クリムゾンヘッドの通った壁にペレットの雨あられが着弾する。壁は二重構造で絶対に貫通することは無いが、その後ろにいる観客は恐怖にかられてのけぞった。
 吠莱壱式が文字通り吠える。大口径の砲弾は連射能力こそないが、移動間射撃にもかかわらず相手のマシンガンを一丁ずつ、的確に撃ち落してゆく。
 最後の一丁になったとき、弾丸が切れた。吠莱壱式の方だった。このときの間合いはAT二体分しかなかった。
「ぶっ殺せ!」
 容赦なく、マリア阿修羅STBは撃った。照準はコックピット。
「シエンちゃん!!」
 マイティが乗り出して悲鳴を上げる。
 撃たれたとほぼ同時にコックピットハッチが開放された。マシンガンの弾は誰もいないシートに穴を開けた。
 ほとんど素体のままのシエンが飛び出していた。右手には同梱武装の十手が逆手に握られている。
「うおおっ!」
 シエンはマリア阿修羅STBの頭頂部めがけて、十手を突き刺した。落下の勢いが加算され、刃物でないはずの十手が頭部装甲を貫通した。シエンはマリアのコアユニットをつぶす手ごたえを感じた。シエンは哀れむべき同族を楽にしてやった。

 ミソラ阿修羅STBの一斉射は、ベルゼルガの大盾に勝てなかった。
「くそう、くるな、くるなよお!」
 バックス弟は涙目でがなりちらす。
 ゆっくり、ゆっくりと、大盾を構えたベルゼルガは近づいてゆく。
 ついに六丁のマシンガンが沈黙した。
 ベルゼルガは緩慢な動作で大盾を引く。中心のパイルが後退してゆく。
『許せ』
 一撃。
 ストロングバックスの胸部装甲を、ベルゼルガのパイルバンカーが貫いた。斜め下方から侵入したパイルは、ミソラのコアユニットを破壊しながら、ATの後頭部まで到達した。
「試合終了! 勝者は屍ケン&青の騎士、チャンピオンチーム!!」
 今迄で一番大きな歓声が上がった。マスターとマイティは耳を押さえた。
 試合終了後にブチ切れた兄弟がナイフを振り回して舎幕らを襲おうとしたが、門番の巨漢の黒人、ボビーに「きゅっ」と締め落とされ、放り出された。
「ありがとう、ボビー」
「オ仕事デスカラ」
 ボビーは門番に戻っていった。

◆      ◆      ◆

「やっぱり、こっちには来ないのか?」
 屍ケンが寂しそうに言った。
「悪いがあんな危険な試合はできない。マイティを戦わせるのは神姫だけで十分だ」
 マスターは答えた。
「そうか……。まっ、そう言うとは思ってたけどな」
「だがいい試合だった。あのストラーフの二人も浮かばれるだろうな」
「へっ……」
「じゃあな。おれはこれで」
「なあ」
「ん?」
「お前ぇ、リベンジするんだろうな。あの片足の悪魔に」
「……」
 マスターはあごに手を当てて空を見ていたが、ややあってこう言った。
「考えておくよ。マイティ、帰るぞ」
「は、はい。……じゃあね、シエンちゃん」
「ああ。またな」
 こうして二組のオーナーはそれぞれの戦いへと身を投じることになる。
 それはまた、別のお話。







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