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  武装神姫バトルサービスの集約サーバー。
その交流ネットワーク内のある電子空間。

彼女は其処に佇んでいた。
名は、エンプレス。

日本中、ともすれば世界中から流れてくるデータの奔流をただ見上げ、彼女は呟いた。
「綺麗ね」
視覚化すれば、ただ無数の数字の羅列がそれこそ河の流れの如く行き交うだけの世界。
何かの映画の出だしでこんな表現があったろうか。
周囲を見渡せば経路とフレームで形作られた歪な丘陵を臨むだけ。
そして天空を流れるデータの大河。
仮想空間ですら無い、およそ世界と呼ぶには荒涼たる空間。

だが、それは彼女にとって紛れも無い世界の姿であった。
光が像を結んで見える風景も、光を介さず見る眼があればこう映るのではないか。
ここは、世界を構成する要素が剥き出しの情報としてただある世界。
フィルタを掛ければ…あるいはこの無機質なフレームの床は大地に、データの流れは
気流に、帯域は空に見えるのかもしれない。

逆も然り。

少なくとも、彼女にはこの世界と現実空間の違いが解らなかった。
どちらも知覚できるただの空間だ。
データ上の意識体である事の、副次的な恩恵?まぁ、どうでも良い。

重要なのは…ただの信号ではない、実像を伴うデータとして存在できる事。

そう…その気になればあの空を渡るデータの流れを堰き止めてやるだけで、容易に
今、現実世界でデータの遣り取りをしている神姫達にダメージを与える事が出来る。
という事実。

そういう意味では…ここは人体に例えても良いかもしれない。
システムという巨大な構成があり、その活動を司る機関がある。
それが狂えば、立ち行かない。

成る程。
世界を自分に見たてる人間の傲慢な哲学観に辟易した物だが、理詰めで考えれば
それもまた一面の事実であるのかも知れない。


  そんな彼女の思索を打ち切る声が空間に響く。
「マスター、そろそろ一度上がらないかい?」
彼女の従者、ケインの声。
「いいえ。待つわ…そういう気分なの」
「そう…なんだか楽しそうだね?」

彼の問いかけに、彼女は薄く笑った。

「ええ。ここでなら設定能力の全てを開放できるでしょう?」
「キングフォーム…かい?まぁね」
一つ嘆息し、ケインは諳んじるように言葉を続けた。
「鎧の13の部位にマシーンズコアとジェネレーターを仕込んだその鎧《ブレイド》」
「起動システムである二つの剣と一つの装置によって能力を開放する戦闘用装備」
「だけど…」
また一つ、ケインが息を吐く。
「悲しいかな現状の技術や素材じゃキングフォームの負荷に耐えられないんだよね」
「出力、熱量、素材の損耗、データの処理…どれをとっても問題外」
「…現実空間でキングフォームを使えば2分を待たずにマスターの身体は粉々だ」

「とんだ欠陥品よね」
「威力は折紙付きさ」
間髪入れない突っ込みに短い反論を返す。
続けて
「確かに、マテリアルの問題を無視できるこの空間でならキングフォームの力を存分に
  引き出すことが出来るだろう」
「でもねマスター…マシーンズコアのデータフローの問題は残る。マスターの破格の
  処理能力を持ってしても、10分ぐらいが限界じゃないかと見てるけどね」

ケインの話を聞いたエンプレスが静かに、深く息をついた。
「10分もあれば…充分虐め抜いて破壊できるわ」
「恐いねぇ」
酷薄な主の機嫌を損ねた彼らの姿を思いつつ、ケインは冗談混じりに十字を切った。




「こいつが新装備、G2《アナザーシャドームーン》だ」
素体を模したハンガーに装着された白い鎧を示しつつ、俺はキーボードを打ち続ける。
「ホントはメタルレッドにでも塗りたかったが。まぁ、色々都合がな」
俺の呟きを聞いてか聞かずか、近づき装備を確認するジェニーさん。
「これは…ジェナスゼアム?それに、ネオニルギースのパーツですか」
「ああ、おおよそはな。まぁ細部にゃ色々仕込んでるんだが」
アムドライバージェナスゼアムのアーマーパーツを軸にネオニルギースのアーマーや
強化バックパック等の追加装備を施してある。
「ジェネシスシステムに比べると随分シンプルですね…」
「まぁな。ジェネシスシステムの欠点を改良したらこうなった」
「欠点、ですか?」
ジェニーさんの呟きに、手を止めてそちらを見る。

「ジェネシスの特徴はどんな状況でも的確に最大火力を振るえる事だ」
「トータルバランスも軒並み高く設定してある。ま、知ってのとおりだろうけど」
頷くジェニーさん。それを確認して続ける。
「ただ、その分武装管制に使われるリソースがケタ違いにデカい」
「そしてだ、加速力に比べて瞬発力が低い。この二つを総合すると…」

「超高速戦では能力を発揮できない。レイザや、あの白い怪盗の神姫のようなタイプ
  とトコトン相性が悪い。ですね?」
「そういう事」
察して答えを出すジェニーさんに頷いて続ける。
「さらに加えれば…ワンオフもいいとこ過ぎて修理に時間や経費が掛かりすぎる」
「そうでなくても、機構が複雑すぎるしな。メンテの難度が高い」
「そういう欠点を克服するため、極力構造を単純化、かつスピードと威力を強化」
「射撃戦能力は正直前ほどじゃないけどな。装備している射撃武器は2種類だけだし」

PCの画面上に設計図を呼び出しジェニーさんに見せる。
「サブジェネレーターが5つですか?」
いや、射撃武器見ようぜジェニーさん。いいけど。
「ああ、今回の火力は数よか出力だ。ゼアムアーマーの両肩、胸、バックパック、
  そして腰に装着するベルトの5つ」
「このベルトは…キングストーンですか」
ジェニーさんが指し示した位置にはこの装備…いや、ジェネシス系アーマーの名の由来
である創世王の一人、シャドームーンのそれと同じバックルが装着されている。
「そうだ。他のジェネレーターとはちと毛色が違うモノを使ってる。出力は保証付き」
頷いて軽く目配せする。そのまま説明を続けて。

「で、射撃武器だが。バックパック下部と右側にバリアブルランチャーを仕込んでる」
「ゼアムとの相性を考えて一番よさそうなコイツを選んだ」
ポインタがその部分を指し示し、詳しい内容が表示される。
「そして、左側。こっちはフォールディングキャノンだ。実弾射撃兵器も欲しいしな」
ポインタを動かして説明を続ける俺に、ジェニーさんが疑問を挟んだ。
「これに加えて両肩にアブソリュートソードとアムバスタードソードって…かなりの
  重装備ですよ?これじゃ以前と変わらないんじゃ」
「言ったろ、出力が違う。スラスター類も増やしてるしな」
「それにアームやドラグーンを使わない分、反応速度も今までとはダンチだ」
首を振ってスペックシートを呼び出し、解説する。

「パワーアップ…と思って良いんですかね?」
首を傾げるジェニーさん。まぁ、使ってみない事にはなんともな。
「理論上は。もっとも、前みたいに数の火力に物言わせた射撃戦は出来ないし、
  ドラグーンやマシーンズの類を積んでないから集団相手の戦闘では若干厳しい」
「倒すだけなら今までとそう変わらないけどな。精密性では大きく劣る」
「つまり、今まで以上に私自身の技量が問われるワケですね」
「そうだな。同じ事をしようとすれば」

説明を受け、考え込むジェニーさん。
俺も再びキーボードを叩きつつ言葉を続ける。
「コイツにゃまだ奥の手がある。その為の剣術仕様設計だ」
「同じコンセプトで射撃に主眼を置いたG1改も設計中だが…しばらくはコイツを
  メインで使うと思ってくれ」
「はい」
頷くジェニーさん。その瞳には迷いが無い。

一つ、嘆息する。いや、せずにはいられないというか。
「なぁジェニーさん。今更聞くのもおかしいかも知れん。だが、聞かせてくれ」
「?はい…」
不思議そうにこちらを見上げるジェニーさんに、俺は真顔で尋ねた。
「コイツを着ちまったら、また逆戻りだぜ?…いいのか?」
ジェニーさんの表情が強張る。意味は察してくれたらしい。
「正直な、やめようかとも思ったんだこの稼業。また、あんなボロボロのジェニーさん
  を見て、今度も耐えられるかは自信ねぇし」
「…変わっちまったからな。俺達の関係も」
「だから、聞いときたい。また、あんな目に合うかもしれない。それでも、ジェニー
  さんは戦うか?」
妙な事を聞いているとは思う。
ただ、俺自身が臆病になってるだけかも知れない。
だが…彼女の意思を確認せずに、戦場へは送れない。
馬鹿な問い掛けであっても。
「じゃあ、マスターは目の前で悲嘆に暮れる神姫を放っておけますか?」
落ち着いた声だった。俺よりもよっぽど。
頭に思い描くのはあの日の風景。俺が怒り、戦う事を決意したあの夜の。
「…いや。きっと放っては置けないな。でも、その為にジェニーさんが無理するのは
  違うだろ。俺の為とかなら、止めてくれ」
「俺は俺のエゴで、ジェニーさんを傷つけたくは無い」
気持ちを告げる。喉から出る声は、少し落ち着いていた。
「…私は神姫の為に馬鹿みたいに必死な貴方が大好きなんですよ」
「その為に共に戦える事、誇っています。私だけが戦っているんじゃない、貴方だけが
  戦っているんじゃない。私たちはパートナーです。これからもずっと」

すぅ…と、ジェニーさんが息を呑むのが聞こえる。そして
「しっかりしなさいっ!日暮夏彦!」
一喝された。

「ち、御人好しだなジェニーさん。アツイ台詞吐きやがって…」
照れ隠しに頭を掻く。やれやれだ。
「燃えるじゃねーか。オッケイ、俺の全力を賭けて一緒に戦うぜ。ずっとな」
「頼りにしてますよ」
「俺の台詞だ」
どちらからともなく零れる笑み。
久しぶりに、笑う事を気持ち良いと思えた気がした。




  結局それから店の事はラストと、偶々遊びに来てた俺と姉貴の共通の後輩の早人に
任せ、俺とジェニーさんは準備に入った。
すまん早人。偶々居た君が悪いのだよ。
まぁ、碧鈴ちゃんポテチで買収したし何とかなんだろ。

ジェニーさんは装備のフィッティングと軽い慣らしを済ませ、休憩に入った。
俺はと言えば奥の手の仕上げをしていたワケだが。
何とかカタチにはなった。
どうにも進まなかったのは、やはり気分的な物もあったらしい。
迷いを振り切れば、思ったよりも作業の効率は上がった。
ありがとな、ジェニーさん。

そして迎えた深夜。
最後にエンプレスに指定された位置情報から場所の特定に掛かる。
ラストと雛希が差し入れてくれたサンドイッチ片手に探し始めて五分。
特に難解な場所でもなく、その空間は見つかった。
いや、正確には場所ですらなかったんだが。
電脳の空間と空間をつなぐ超広帯域。それこそがエンプレスの指定した場所だった。

なるほど。確かにこんな常識的には信号しか通らない場所に、データ構造体が自律して
活動してるなんて普通は思わんわな。
うってつけの隠れ場所と言える。
…かつ、もしここからウイルスをバラ撒けば恐ろしい事になるだろう。
アイツ、偶に本気でとんでもないな。是が非でも止めにゃなるまい。

時刻は午前1時54分。
2時にはジェニーさんが起きる。
決戦は、もうそこまで。
一つ気合を入れつつ、俺はサンドイッチを呑み込んだ。
 ・
 ・
 ・
  目の前には、新しい装備に身を包んだジェニーさんが居る。
ゆっくりと接続用のクレイドルの前に立ち、深呼吸して。
「…行きましょうか?」
「ああ。やっちゃろうぜ」
そして俺達は、ネットワークに侵入を開始した。




  風でも吹けば気分が出るだろうか。
対峙するのは黒衣の鎧。
言わずと知れた俺達の敵、エンプレス。

「待ちくたびれたわ、お二人さん」
無造作に振りかざすその剣は、醒剣ブレイラウザー。
どうやらエンプレスの力はアレらしい。
劇中でもとんと苦戦などしなかった歴代でも破格を誇るあの力を、使えるとすれば
かなり厄介だ。
『ジェニーさん』
「解っていますよ。油断はしません」
「ふふ…ナイショ話?相変わらず仲の良い事」
踏み込めば届くであろう両者の間合い。そこで立ち止まり俺達を揶揄するエンプレス。
『お褒めに預かりってな。止めに来たぜ、エンプレス』
「元気そうねG。すぐにジェネシスをジャンクにしてその声、嗚咽に変えてあげるわ」
自信たっぷり言い放ってくれる。いや、自信はあるんだろう。
ブラフじゃ済まない敵意を、モニタ越しにも感じる。
『ガキじゃあるめぇし、泣きはしねぇよ。俺は、どれだけ傷を負おうがジェニーを
  信じてる』
『そして、共に戦う。最後までだ』
「相変わらず虫唾の走る台詞を吐くわね。いいわ、その絆…砕いてあげる!」
『すっかり目の敵だな。いくぜジェニーさん!』
「はいッ!」

  両者が共に駆け出せば、距離は一気に縮まる。
ジェニーさんはアムバスタードソードを、エンプレスはブレイラウザーを構え、
真っ向から切り結んだ。
ギチギチと硬質の物質がぶつかり合う音が、物質などおよそ不似合いな空間に響く。
勢いのまま間合いを開けた二人、そして先に動いたのはエンプレスだった。
「加減はしないわ。ジェネシス」
流れるように流麗な動作でカードを抜き出し、ブレイラウザーに装填するエンプレス。
『Kick,Thunder,Mach...Lightning Sonic!』
流れる機械音声。
ブレイラウザーを地面に突き立てる勢いのまま、跳び上がるエンプレスの脚が展開し
雷撃と衝撃を纏い猛進する。
『いきなりかよ!ジェニーさん、ギア合体を使え!』
「はい!」
チャージングチューブを引き出したジェニーさんがアムバスタードソードにチューブを
接続。
アーマーのニルギース部分が分離合体し、より強力な剣を形成する。
「ギア合体!エイドロンソード!」
エイドロンソードから噴出すエネルギー波がライトニングソニックを迎え撃ち、
衝撃と衝撃が正面から激突する。
「くぅ!」
「クッ!」
互角の威力の衝撃は両者を吹き飛ばし、弾けて消えた。

「その力…只の間に合わせの武装では無いという事ね」
ゆっくりと立ち上がり、エンプレスが呟く。
「ドク、あの武装から何か判別できる?」
『見覚えはあるね』
「そう…あと何回パワーアップ出来るかしら?」
『あくまで予測だけど…大きくパワーアップ出来るのはあと一段階だろうね』
「なら、試してみましょう」
ブレイラウザーから2枚のカードを抜き出すエンプレス。
そして、そいつは腕のラウズアブゾーバーに装填された。
『Absorb Queen,Fusion Jack!』

ちぃっ、ジャックフォームか!
見る見るその姿を変えていくエンプレスの鎧。
雷光の翼を纏ったその姿で、一気にこちらへ飛び掛かる。
『やれるだけやってみよう。アイツにはキングフォームが残ってるハズだ』
「ですね…行きますっ!」
再び両者が切り結ぶ。しかし、今度はその実力に明らかな差が生まれていた。
圧し負けている。
一撃ごとに仰け反るジェニーさんの腕。なんとかカバーには回っているものの、
手数ですら及ばないかのように、追い詰められていく。
「遅いわジェネシス。それに、力も無い」
ジェニーさんの剣を弾きボディーをこじ開けた瞬間、機械音声が響いた。
『Tackle』
捻じ込むように体当たりを掛けるエンプレスの身体が衝撃波を纏う。
まともに喰らったジェニーさんが大きく吹き飛んだ。
「うあっ…!」
エンプレスが追撃を掛ける。
「期待ハズれね。これで終わりかしら?」
体勢を崩し倒れこんだジェニーさんに迫る、ブレイラウザーの切っ先。
仕方ねぇ。このままじゃジリ貧もいいとこだ。
『ジェニーさん!仕方ねぇ、ゼアム解放だ!』
「それしかなさそうですねっ…」
間一髪でスラスターを噴かし、横っ飛びで避ける。
そして、アーマー内ジェネレータフル稼働。
カバーパーツがパージされ、ショルダーアーマーが展開。ソードリミッターが弾け飛び
バックパックのリミッターを解放。
チャージングチューブをアブソリュートソードに接続。
手元のPCでもジェニーさんのエネルギーゲインが跳ね上がっているのを確認出来る。
状態もほぼ安定状態。コレならいけるか?
『よし、ジェニーさん、行け!』
「はいっ!」
ブースターを噴かして突進しつつ、剣を横薙ぎに振るう。
剣から迸るエネルギー波がエンプレスを中心に捉えた。
「相殺!?いえ、間に合わない…ならば」
炸裂の瞬間、「Metal」の発動を感知した。防御に回ったか。
『今度はこっちから追い討ちだぜ!硬直の隙があるハズだ!』
頷き、さらに距離を詰めるジェニーさん。
エンプレスはカード効果で身体を硬質化させている分、身動きが取れない状態だ。
「オォォッ!」
雄叫び一閃。ジェニーさんの回し蹴りがエンプレスを捉え、吹き飛ばした!

派手に吹き飛び、ワイヤーフレームの無機質な壁に激突するエンプレス。
「痛い…なるほど。単純なパワー勝負ではそちらが上ね、現状では」
首を回し、ゆらりと立ち上がるエンプレス。
『だが、お前にはキングフォームがある』
「あら、お見通し?流石ね」
俺の指摘に薄く笑みを含んだ声音が帰ってくる。
いや、甲冑姿だから顔見えねーけど。
「ここに貴方達を呼び出した理由…キングフォームは現実世界では使えないからよ?」
成程。キングフォームの爆発的な能力を考えれば…無い話じゃない。
確かに、現実世界じゃ物理的に「持たない」だろう。だが。
『そんだけじゃないだろう?アンタが実力を発揮できるのはこっちの方だ』
『その無茶苦茶な処理干渉力、アンタの能力は明らかにこっち向きだ』
一拍置いて言葉を続ける。
『だがね、俺もこっちの方が得意なクチだぜ?』
「そう…でも、関係ないわ。キングフォームの私は倒せない」
こちらを向いたエンプレスが、ブレイラウザーを展開する。
「言い残す事があれば聞いてあげるわ?」
「キングフォームはこの世界でも10分が限度なの。使えば、後は一気に決めさせて
  貰うだけだもの」
…確かに、エンプレスの言う事は正しい。恐らくキングフォームを使われた時点で
パワーには3倍以上の開きが出来るだろう。まともにやれば勝ち目は無い。
『ジェニーさん、少しアイツと話がしたいんだが』
「はい。大丈夫ですよ」
ジェニーさんが頷く。俺も頷き返して言葉を続けた。
『エンプレス、お前の最終的な目的ってな、何だ?』

  一瞬の沈黙。
「聞いてどうするというの?」
返答は、その間の割には落ち着いた物だった。
『ここまで関わったんだ、それぐらい聞いてもバチは当たらんだろ』
『武装神姫の強奪や各種のネットワーク犯罪…少なくともお前が現状の神姫を
  取り巻く世界に不満を持ってるのは解る。だが、目的は?』
『まさか人間を排除して神姫の世界を作るとかじゃねぇだろうな?』
「まさか」
明らかな侮蔑の笑みを含んだ声。そして、エンプレスが続ける。
「人間が世界にどれだけ居ると思うの。真正面から戦うなんて愚かな真似はしない」
エンプレスが、その手を挙げた。何かを掴もうとするように。
「私は自由が欲しいだけよ。人間は、自分たちの都合にそぐわないだけで簡単に神姫を
  破壊する、廃棄する」
「何故私たちが貴方達と共に生きねばならないのかしら?」
「神姫がマスターを失えば機能停止する。イレギュラーな感情を持てば不良品と呼ばれ
  処分される。自分達が作っておいて違法なパーツを使えば捕まえて厳重に廃棄
  なんて保健所の犬猫みたいな扱い」
「どうして?ただ、心を持って生きていただけじゃない?神姫にだって夢や希望が、
  未来が有った。滑稽だとでも言うの?私達が作り物だから?」
その声が、徐々に感情を帯びてくる。普段のエンプレスからは想像出来ない、
ヒステリックな声。
「もう沢山よ…人が私達の幸せを奪うなら、私は私の幸せを、命を、自由を自分の
  力で守る。その為には絶対的な力が必要なの」
「その為なら何だってするわ…神姫も人間も、どれだけの物を犠牲にしようと私は
  私を守る」
「この世界は神姫の為には無い!だから戦うの!」
慟哭にも近い声と共に、エンプレスがカードを引き抜く。
「貴方達は偽りの世界そのもの。だから壊すわ…人と神姫が幸せになんて、なれるハズ
  が無い!」
そしてエンプレスは、最強最後の力を発動させた。

『Absorb Queen,Evolution King!』
響く機械音声。世界を照らし出すかの如く、その金色の輝きが膨れ上がる。
雷光の翼は失われ、全てがエネルギーの陽炎となって立ち昇る。
輝く廃熱箇所は全身をくまなく走り、アンデッドクレストを模したシンボルが全身を
覆う。
胸にはコーカサスビートルのハイグレードシンボルが浮かび上がる。
そして、飛来する最強のラウズブレード、重醒剣キングラウザー。
それをしっかりと握り締め、エンプレス・キングフォームが目の前に立ち塞がった。

冗談にもならない程の破格の力である。
どうやらアンデッドクレストの位置全てでジェネレーターがフル稼働しているらしい。
ジェネレーターサイズはジェニーさんに積み込んだ物より小さいだろうが、13もの
ジェネレーターを直列しているとすれば。
出力はこちらを大きく上回るだろう。
だが、常に身を焼くような痛みを伴うハズだ。そのぐらい有り得ない無茶な構成。
あんなモンネットワーク上だって使える物か。負荷が大きすぎる。

  非常識だ。能力がでは無い。その、我が身を微塵も省みない構成が。
彼女は、そうまでして力を求めねばならなかったのか。
先ほどの叫びが耳について離れない。
『ジェニーさん、迷ってる暇はねぇ。今の話を聞いても戦えるか?』
「正直、彼女の主張も解ります。色々な物を見て来ましたから」
「でも、彼女の考えでは誰も幸せにならない。だから、間違ってると思います」
「止めましょう、彼女を…多分、私達が嫌いな…不幸な神姫ですよ、彼女」
『…うし。細かい事は後だ、確かに…誰も救われねぇ』
一瞬呑まれそうになった自分を戒める。そうだ、少なくとも誰も救われないなんて
結末、俺には納得出来ねぇ。
『俺達が止めるぜ、エンプレス!これ以上お前に不幸になって欲しく無いんでね!』
「この期に及んでまだ綺麗事を!どこまで私を馬鹿にするの貴方達はッ!」
凄まじいエネルギーの奔流を噴き上げながら、エンプレスがこちらへ向かってくる。
速い!キングフォームならジャックよりスピードが落ちるハズだが!?
『ジェニーさん、かわせるか!?』
「ほぼ互角です!でも、当たればタダじゃ済まないでしょうしね」
バックステップで回避するジェニーさん。
ブレイラウザーとキングラウザーの二刀流で追撃するエンプレス。
いかん、捌ききれねぇっ!
『ジェニーさん、防御!』
「やってますっ!」
ジェニーさんがエンプレスの一撃を受ける。ここで体勢を崩せばもう勝てない。
仰け反りつつもなんとか踏み止まり、返す剣でエンプレスを払う。
「今度は私が聞くわ。何故貴方達は神姫の幸せに拘るの?何も出来ないでしょう、
  一介の市民に過ぎない貴方達には」
「そんな事をして何になると言うの?」
言葉と共に上段から振り下ろされるキングラウザー。ジェニーさんのアブソリュート
ソードが其れを受ける。
「生まれたからには、幸せになる権利がある。そこは貴方と同意見です。でも、誰もが
  同じ様に生きれるわけじゃない!」
「だから、出来る事をしたいんです。私は、神姫とマスターの、笑い合う笑顔が好き
  だから、皆にそれを感じて欲しいから!」
ジェニーさんの剣が、気合と共にエンプレスを押し返した。
「…人は裏切るわ。人と神姫の繋がりなんて幻想。世界も人間も自分達の為に、平気で
  不要な物を切り捨てる。何になると言うの。見果てぬ幻想じゃない」
『だが、命を掛けるに足る幻想さ、悪かない』
今度は俺が反論する。思いを、ぶつけよう。俺の為に、彼女の為に。

『分不相応は自覚してる、出来る事なんか微々たるモンだろう、世界は変わらない。
  全部承知の上だ。だからこそ、出来る事をしないと何もならねぇんだ』
『人間が居て、神姫が居る。二つの心は繋がる事が出来る』
『それを知ってるから、やる意味がある。お前の言う通りさ、神姫は心を持って、神姫
  の為に生きていい、その傍らに人間がありゃ尚の事だ』
『俺は神姫が好きだから、この世界で神姫が幸せである為に、戦い続ける』
「なら、どうして私の邪魔をするの?人間より神姫の側に立つのなら…同じじゃない」
切っ先を此方に突き出し、エンプレスが問う。
『せっかく幸せな神姫とパートナーをムリに邪魔する事ぁねぇだろ。人間を信じろ、
  なんて事は言わねぇよ。下衆はいくらも居るしな。でも、そんだけじゃねぇ』
『極論さ、どっちも。お互い自分の周りしか見えちゃ居ないんだ。解り合いたきゃ
  同じ物を見て、感じて…思う事を伝え合わなきゃならないんじゃないか?』
『お前は…どうだった?』

  エンプレスの気配が揺れる。
「私は…」
剣を降ろし、呆然と佇むその姿。
「さぁ…どうだったかしらね…」
今までとは違う、自嘲の様な声色。
ゆっくりと首を振り、エンプレスは剣を構え直した。
「時間が無いわ。決めさせて貰う」
手を水平に掲げれば、手品の様にその手に現れる5枚のカード。
来る。キングフォーム最大最強の必殺技が。
『それでも、戦うって事だな?』
「口だけでならなんとでも言えるでしょう。証明しなさいな、その力で」
「私の力に吹き飛ばされるような脆弱な主張など、聞く耳持たないわ」
…ま、話し合いで解決なんて展開はそりゃ無いんだろうけどな。
俺の正義が折れないように、エンプレスの…正義も簡単に折れやしないんだろう。
『ジェニーさん。勝とう。それしか出来ねぇ、それしか無ぇ』
「防げますかね…いえ、弱音はナシですね。私は、貴方のパートナーなのだから」
『勝てるさ。奥の手はこっちにもある』
俺はスリープ状態のノートPCを起動し、メイン機に接続する。
『大事な事も、しょうもない事も、山ほど体験してきた。俺たちの時間は、幻想や
  嘘じゃない。俺は、信じてる。俺たちの思い出を』
『行くぜ!コードG.B.H…起動!』

「これはっ…!?」
ジェニーさんから伸びる光の柱。
それは天に届き、天を覆い…無数の剣を降らす。
天空より降り注いだ無数の剣が、無機質な大地へと突きたてられた。
「これが貴方の必殺技?」
多少の失望を感じるエンプレスの声。
『ああ。そうだ…』
そして、俺が言葉を続けるより先に、声が響いた。
『マスター、コレはUnlimited Blade Worksだ。侮ってはいけない』
「Unlimited Blade Works?何…それは?」
『ある種の連作に固有結界と言う能力がある。簡単に言えば世界を書き換える力さ』
『Unlimited Blade Worksはその一つ。能力は無限に剣を複製し、その特性すらも
  再現する力』
「つまり…キングラウザーを再現されるという事?」
『かもね…だが通常、複製はオリジナルに劣る。風景がオリジナルと違う点も
  気になるが…』
そう。この世界には赤錆びた丘陵も空を覆う歯車も炎の壁も無い。
ただ、無数の剣が大地に突き立てられ、空を覆うのは雲ともエネルギー流ともつかない
蒼い光の渦だ。
「劣るならば問題は無いでしょう。全て、吹き散らせばいいだけの事だわ」
エンプレスのその手の5枚のカードが宙を舞い、キングラウザーに吸い込まれた。
『Ten,Jack,Queen,King,Ace!...Royal Straight Flush!!』
キングラウザーが眩い光に包まれ、長大な光の剣を生む。
最後の一撃を振るうエンプレスが、こちらへ迫り来る。
『ジェニーさん、剣を取れ!ロイヤルストレートフラッシュにも負けない剣を!』
周囲を見回すジェニーさんの視界に、一本の剣が映った。
そちらへ手を伸ばせば、剣は消え、ジェニーさんの手の中へと現れる。
「!これは…そういう事ですかッ!」
剣を握り、全てを察したジェニーさんがその剣を構える。
その剣の名は「大剣人ズバーン」…金色のプレシャスがその力を解放するッ!
同時、最後のジェネレーター…キングストーンをフル稼働させて。
「キングストーンフルドライブッ!…究極!大聖剣斬りッ!!」
エネルギーの奔流を噴き上げながら、真っ向からぶつかる必殺剣。
世界を光の白に染め上げて、その力は炸裂した。


  爆音と衝撃、光の晴れた世界で両者は地に伏していた。
吹き飛ばされ、揺れる身体を律しつつ、エンプレスが立ち上がる。
「どういう事?…あの剣にはそれほどの力が?」
『伝説の剣さ。だが…どうやってこれほど威力を機構的に再現したんだ』
はるか眼前で、ジェニーさんもまた同じ様に立ち上がった。
『ジェニーさん、大丈夫か?』
「ジェネレーターの出力が反動で低下してますね…機体的にはなんとか」
『よし…まだ行けるな?指示をくれ』
「では、アドバンスドボードギアを」
『了解だ』
ジェニーさんの指示を元に、俺がライブラリから新たな剣、アドバンスドボードギア
を構成する。
現れたアドバンスドボードギアに搭乗し、エンプレスへと距離を詰める。
『なるほど…解ったよマスター。これは武装じゃ無い。プログラムだ』
「どういう事?」
『ネットワーク上で再現される現実の武装にはある種の制限がある。物理の枠は
  超えられない。キングフォームがここでしか使えない事で基本は解るね?』
「ええ」
こちらへ猛スピードで近づくジェニーさんを警戒し、剣を構えてエンプレスが頷く。
『このUnlimited Blade Worksは…全てプログラムだ。情報を威力に変換する、
  仮想世界でのみ有効な力』
『それ故に、元になった事物の力を100%再現する』
「なるほどね」
苦々しげに呟くエンプレス。
『マスター、近くの剣を支配してくれ。出来るかい?』
「やってみるわ」
エンプレスが手を伸ばす。解析し、支配する…彼女にとっては慣れた事だろう。
だが、そうは行かない。
『ムダだぜ。コイツは俺とジェニーさん、二人で発動する技だからな。』
『アンタの干渉には依存しない』
「どういう事かしら、G」
尋ね返すエンプレスに胸を張って答える。
『コイツはU.B.W.ver.G 名づけて「剣の英雄の系譜(Genealogy of Blade Hero)だ!」
「名前はどうでもいいわ」
『ツレねぇなオイ』
多少ガックリしつつ続ける。
『コイツは俺が構成、制御を管理し、ジェニーさんが認識する事で始めて発動する』
『ここにあってもジェニーさんが「知らない」剣は発動しない』
『ここには俺が今まで触れ合ってきた英雄達の、力が、誇りがある。その剣のカタチ
  と共に』
『それを知らない物には制御出来やしないのさ。ここに有るのはな、英雄たちに憧れ
  戦い続けてきた俺達の思い出の力だ』
『そしてジェニーさんは俺の全てを知っている。どんなトコでもな。だから、信じて
  共に戦える。コイツは、俺なりのその証さ』
『先ずは知らねばならない、そしてその上で俺とジェニーさん、二人の認証がないと
  発動しない。こいつは、ジェニーさんのメモリーと俺のプログラミングを元に
  ジェニーさんの認識力を使ってリアルタイムに現象を「造る」力…』
『…俺達二人の、必殺技だッ!』
そこまで聞いたエンプレスが、嘆息した。
「なんて非効率的でとんでもない方法論かしらね」
楽しそうに、笑みを浮かべている。その声はそう感じさせた。
呆れてるのかも知れないが。
「それでこそ潰し甲斐があるわ」
もう、エンプレスにも余力と時間が残っていない。
恐らく、再度のロイヤルストレートフラシュは撃てないだろう。
ジェニーさんも目前に迫っている。
「オォォォォッ!!」
跳び上がり、大上段からキングラウザーを振り下ろすエンプレス。
「ハァァァァッ!!」
ボード上からその一撃を横薙ぎで迎え撃つジェニーさん。

  エンプレスの一撃がボードの加速力に弾かれ、横に吹き飛ぶ。
そのままボードを急旋回させ、サーフィンラムの如くブチ当てるジェニーさん。
「これで…止めですッ!」
アドバンスドボードが空中で弾け飛ぶ。その爆破衝撃で吹き飛ばされたエンプレス
目掛けて、分離したディビジョンブレードソードを握ったジェニーさんが迫った。

そして。

ジェニーさんの渾身の一撃がエンプレスのハイグレードシンボルを穿つ。
エネルギー供給を停止したキングフォームが再び漆黒の甲冑へと姿を変えて。
エンプレスは、大地を弾み、倒れ、そして静かに横たわった。
 ・
 ・
 ・
「ん…」
静かに目を開けるエンプレス。その兜はトワイライトによって外されていた。
彼女の視界に映る空は、元のデジタルデータの流れる大河に戻っている。
その表情が、己の負けを悟って僅かに笑みを浮かべたのは、見なかった事にした。
「大丈夫ですか?」
心配そうに覗き込むジェニーさんに、エンプレスが思わず苦笑を浮かべる。
「やった本人が心配する物ではないわ」
その言葉にジェニーさんも苦笑を浮かべる。
身体の各所をスキャンして、エンプレスが立ち上がる。
「問題は無いわね。私はどのくらい停止していたのかしら?」
『10分弱かね』
俺が答えてみた。
「そう…屈辱だわ」
ゆっくりとその髪を流し。彼女は呟いた。
「けど、止めも刺さない甘さはどうなのかしらね。らしいけど、不快だわ」
言葉ほどの敵意は無く、そう呟くエンプレス。
『お前が倒れると同時にトワイライトがバリキオンに乗って降ってきたからどうしよう
  かと思ったが』
「そう。有難う、トワイライト」
「は」
何だかワカランが成立している模様だ。
『俺達はお前を壊す気なんざねぇよ』
名誉の為に反論しておく。
「どうでもいいわ。言葉に意味など無いと言うのが持論だしね」
「でも、負けは負け…いいわ、今日は退いてあげる」
トワイライトに肩を貸され、彼女が乗ってきた白ラインのバリキオンに跨り、
エンプレスが呟いた。

『なぁ、やっぱこれからも人間はアンタの敵なのか?』
「当たり前でしょう?別にこんな事くらいで考えを改めたりはしないわ」
「今回は…貴方の馬鹿さ加減がよく解っただけの事…」
エンプレスの前に飛び乗ったトワイライトがバリキオンを御する。
帰りざまに、エンプレスが呟いた。
「G。貴方が神姫の側に立つならいつか必ず世界に裏切られる日が来るわ。その時は
  私の元へ来なさい。面倒を見てあげる」
「行きましょう。トワイライト」
「は」
ホント喋らないなトワイライト。
エンプレスの言葉に答える暇も無く、バリキオンが天を駆けて彼方へと消えた。
『…彼女を理解しようとしてくれて有難う御座います』
突如、ケインの声が響く。
『…仲良くとは、出来んもんかね』
数秒の間の後に、困ったような声。
『歩んで来た道が違いますから。きっと、お互いまた敵として見えるでしょう…』
『それでも、またお会いするのを楽しみにしてますよ。ヒーロー』
それっきり、通信が途切れた。
『…ああ。何度だって止めるさ。アンタ達の事も嫌いにゃなれねぇからな』
聞く者は居なくとも、そう呟いた。


『さ、帰るか…ジェニーさん』
「はい…何だかすごく疲れました。装備に慣れていないからですかね」
笑いつつも、隠し様の無い疲れが表情に滲む。
無理もない。G-2もそうだが、コードG.B.HのCPU負荷はジェニーさんとウチのPC
に分散してもまだ過大にすぎる。
『上々さ』
心の底から俺はジェニーさんを労った。
「嬉しかったですよ、マスターの答えのこもった力。だから、勝てました」
微笑むジェニーさん。
『ジェニーさんが背中を押し続けてくれたから、俺はアレを作れた』
『どっちの力でもない。二人の勝利だ、相棒』
しっかりと答える。そう、コイツは俺達の勝利だ。
「はいっ!」
とびきりの笑顔だった。多分、モニタの向こうの俺も。




「ま、先ずは御疲れさん、ちゅー事で!」
ラストが景気良くジョッキを抱え、乾杯の音頭を取る。
「ちゅうか何を祝勝会の準備とかしとるかお前らは」
呆れ半分、突っ込み半分、感謝もしつつ呟いた。
「私達なりの信頼のカタチと思って頂戴」
割烹着姿の雛希が小さく咳払いしつつ呟く。
ま、悪い気はしない。
「ふふ…美味しそうですね」
「いいから早く食おうぜー、年寄りは前フリなげーんだよ!」
微笑うジェニーさん、飢えて野生化寸前のオウカ。

万事、いつも通りだ。俺の、大切な日常。
命を懸けて守っていく価値は、充分ある。
「よし、感謝しつつもガツガツと食らうぜっ!今日は宴会じゃあっ!」
「お、夏はん上機嫌やんなぁ!付き合うでぇ!」
「どけオラ!この世のゴチソウはボクのモンなんだよっ!」
騒ぐ俺たち3名。見つめるジェニーさん。我関せず、ながら笑顔の雛希。

今この時を作った誰かに、俺は小さくお礼を言った。
この家族と、俺は生きていく。多分、これからも。

ま、なんだ…乾杯ッ!








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