暗き過去に、深き眠りを(前編)
爽やかに晴れた日曜日。今日は一月に一度の“週末の定休日”である。
普段は毎週水曜日に休みをもらうMMSショップ“ALChemist”なのだが、
私・槇野晶は勿論、“妹達”にも週末をいっぱい満喫してもらいたい。
というわけで、今日は久しぶりに秋葉原神姫センターへ行こうと思う。
その為にはまず、身だしなみからちゃんと整えねばならんな……って。
普段は毎週水曜日に休みをもらうMMSショップ“ALChemist”なのだが、
私・槇野晶は勿論、“妹達”にも週末をいっぱい満喫してもらいたい。
というわけで、今日は久しぶりに秋葉原神姫センターへ行こうと思う。
その為にはまず、身だしなみからちゃんと整えねばならんな……って。
「ほら、初舞台に出るのだ。今日は入念に躯を磨かねばならんぞ」
「きゃうっ……ま、マイスター!シャンプーが目に沁みますっ!」
「すぐ流してやるから、少しだけ耐えてくれんかアルマや?ほら」
「ロッテお姉ちゃん……そこ、少しかゆいかもしれないんだよ?」
「こうですの?ん、クララの緑色の髪ってやっぱり綺麗ですの♪」
「きゃうっ……ま、マイスター!シャンプーが目に沁みますっ!」
「すぐ流してやるから、少しだけ耐えてくれんかアルマや?ほら」
「ロッテお姉ちゃん……そこ、少しかゆいかもしれないんだよ?」
「こうですの?ん、クララの緑色の髪ってやっぱり綺麗ですの♪」
今すぐ後ろを向け。3秒で応じたなら赦してやる……そう、それでいい。
普段から神姫専用の洗浄剤で清潔にしている“妹達”だが、他人様の前に
出るだけでなく、アルマとクララは今日が初陣なのだ。身だしなみには、
尚一層気を遣わねばならん。そうだろう?風呂の後は勿論、衣装選びだ。
普段から神姫専用の洗浄剤で清潔にしている“妹達”だが、他人様の前に
出るだけでなく、アルマとクララは今日が初陣なのだ。身だしなみには、
尚一層気を遣わねばならん。そうだろう?風呂の後は勿論、衣装選びだ。
「今日はこの青いスーツを着ていきたいですの、マイスター♪」
「有無。派手過ぎず、丁度良いな。観戦もそれなら楽だろうて」
「……ボクは、緑色のコートかな?帽子に似合う気がするもん」
「あたしは紅いこれで、いいですか?ちょっとスリットが……」
「どうせアレだし、自信がなければ大人締めでもいいのだぞ?」
「う、ううん……いえ、これでいきます!今日は冒険ですから」
「有無。派手過ぎず、丁度良いな。観戦もそれなら楽だろうて」
「……ボクは、緑色のコートかな?帽子に似合う気がするもん」
「あたしは紅いこれで、いいですか?ちょっとスリットが……」
「どうせアレだし、自信がなければ大人締めでもいいのだぞ?」
「う、ううん……いえ、これでいきます!今日は冒険ですから」
ロッテはブラウスとロングスカートを用いた、青色のシックなスーツ。
クララは前閉じ式のロングコート。私が誂えたお揃いの帽子も装備だ。
アルマはこれまた私が作った、チャイナドレス風の紅いジャケットを。
ショートヘアのクララ以外は、髪をそれぞれポニーテールとお団子に。
武装も大事だが、戦闘時以外は“神の姫”に相応しい姿も必要だしな?
例えHVIFを使っていようとも、彼女らには優雅さを保ってほしい。
クララは前閉じ式のロングコート。私が誂えたお揃いの帽子も装備だ。
アルマはこれまた私が作った、チャイナドレス風の紅いジャケットを。
ショートヘアのクララ以外は、髪をそれぞれポニーテールとお団子に。
武装も大事だが、戦闘時以外は“神の姫”に相応しい姿も必要だしな?
例えHVIFを使っていようとも、彼女らには優雅さを保ってほしい。
「さ、準備は出来たな。まずはアルマとクララのリーグ登録に往くぞ!」
「はいですの~♪わたしの時みたいに色々言われないといいんですけど」
「……溜息なんか付いてる。何かあったのかな、ロッテお姉ちゃんに?」
「ああ。物分かりの悪い担当者に当たって、登録に少々手間取ったのだ」
「うんと、そういえばマイスター。何かトランクに積んでましたよね?」
「はいですの~♪わたしの時みたいに色々言われないといいんですけど」
「……溜息なんか付いてる。何かあったのかな、ロッテお姉ちゃんに?」
「ああ。物分かりの悪い担当者に当たって、登録に少々手間取ったのだ」
「うんと、そういえばマイスター。何かトランクに積んでましたよね?」
目敏いアルマには“アレ”を見られていた様だ。重量級ランクに出す
装備の先行試作品なのだが、その存在故に最初は一悶着あった物だ。
今回も恐らくそうなるだろうが、レギュレーションは何ら問題ない。
案の定見知った八階の担当者は渋い顔で私を出迎え、愚痴ってきた。
装備の先行試作品なのだが、その存在故に最初は一悶着あった物だ。
今回も恐らくそうなるだろうが、レギュレーションは何ら問題ない。
案の定見知った八階の担当者は渋い顔で私を出迎え、愚痴ってきた。
「……槇野晶さん、また貴方ですか?しかも二体とも同じ様に」
「勿論だ。今回も重量級・軽量級、どちら共規約範囲内だぞ?」
「相変わらずギリギリですねぇ……いいんですか、って愚問か」
「構わない、と言っただろうが!他に問題があるのか、ん?!」
「……こっちのハウリンタイプ、規約変更に凄く弱いですよ?」
「ならば規約内に収まる様、都度調整すればいいだけだろう!」
「勿論だ。今回も重量級・軽量級、どちら共規約範囲内だぞ?」
「相変わらずギリギリですねぇ……いいんですか、って愚問か」
「構わない、と言っただろうが!他に問題があるのか、ん?!」
「……こっちのハウリンタイプ、規約変更に凄く弱いですよ?」
「ならば規約内に収まる様、都度調整すればいいだけだろう!」
という一喝で以前よりもずっと早く参加審査は完了し、晴れて彼女らにも
重量級ランク用と軽量級ランク用、双方のIDが無事に交付された訳だ。
その脚で、私達は三階のサードリーグ用バトルフィールドに向かい……。
重量級ランク用と軽量級ランク用、双方のIDが無事に交付された訳だ。
その脚で、私達は三階のサードリーグ用バトルフィールドに向かい……。
「あ、あっ……マイスター……あ、あの人!」
「……猪刈め、よくも図々しくここに居るわ」
「全然反省してなかった、って事なんだよ?」
「みたいですね……あ、神姫を抱えてますの」
「……猪刈め、よくも図々しくここに居るわ」
「全然反省してなかった、って事なんだよ?」
「みたいですね……あ、神姫を抱えてますの」
一番この界隈で見たくない最悪な卑劣漢、猪刈久夫と再びまみえた。
あの外道めは、新しい神姫……どう見ても改造済みだ……を撫でて、
己の対戦予約を始めようとしていた。私は皆の意思を確認し、接近。
程なく此方に気付いたのか、奴は卑賤な笑いをこちらへ向けてきた。
あの外道めは、新しい神姫……どう見ても改造済みだ……を撫でて、
己の対戦予約を始めようとしていた。私は皆の意思を確認し、接近。
程なく此方に気付いたのか、奴は卑賤な笑いをこちらへ向けてきた。
「ぶ、ぶひゃ!?……あ、あの時のロリッ娘と“あくまたん”?」
「その様な穢らわしい名は棄てた。今、この娘はアルマという!」
「……もう、あたしは貴方の物じゃないんです。見ないで下さい」
「ぶひゃひゃ、すっかりツンツンしちゃって……可愛くなった~」
「その様な穢らわしい名は棄てた。今、この娘はアルマという!」
「……もう、あたしは貴方の物じゃないんです。見ないで下さい」
「ぶひゃひゃ、すっかりツンツンしちゃって……可愛くなった~」
……この胆力だけは褒めるべきかもしれんが、自分のやった事すらも
数週間で省みなくなるというのは、頭痛がする程に不愉快な物だな。
しかも彼奴めはすっかり有頂天らしく、馬鹿な事を突然言いだした。
数週間で省みなくなるというのは、頭痛がする程に不愉快な物だな。
しかも彼奴めはすっかり有頂天らしく、馬鹿な事を突然言いだした。
「ぷひひぃ、ボク良い事考えたんだよねぇ~。絶対泣かせるッ」
「……ロクでもない思考に時を費やす位なら、自己改造をしろ」
「あるまたんだっけ、あくまたんだっけ。そいつと試合する!」
「なんだと?……そのフォートブラッグ改造品で来るか、猪刈」
「そうそう、でボクが勝ったらお前を一晩言う事聞かせるの~」
「……ロクでもない思考に時を費やす位なら、自己改造をしろ」
「あるまたんだっけ、あくまたんだっけ。そいつと試合する!」
「なんだと?……そのフォートブラッグ改造品で来るか、猪刈」
「そうそう、でボクが勝ったらお前を一晩言う事聞かせるの~」
何処から突っ込んでいいのかわからんが、少なくとも“一晩”等と
区切る辺り、猪刈の底の浅さが見て取れるな。乗る気はなかった。
その様な賭けで、“妹達”を無闇に不安にさせるのは愚かしい事。
……だからこそ彼女が切り出した時、驚きつつも心が躍ったのだ。
区切る辺り、猪刈の底の浅さが見て取れるな。乗る気はなかった。
その様な賭けで、“妹達”を無闇に不安にさせるのは愚かしい事。
……だからこそ彼女が切り出した時、驚きつつも心が躍ったのだ。
「……じゃああたしが勝ったら、二度と神姫に酷い事しないで下さい」
「アルマ!?……お前、本当によいのだな。無理はせずともいいぞ?」
「勝つのは、マイスターの“妹”であるあたしですから……それに!」
「アルマ!?……お前、本当によいのだな。無理はせずともいいぞ?」
「勝つのは、マイスターの“妹”であるあたしですから……それに!」
その言葉で、私はアルマが己の闇に刃向かう訳を知る──猪刈の神姫。
武装自体はかつての“あくまたん”程でない彼女だが、目に光がない。
カメラ機能は生きているが、確固たる意思という物が失せているのだ。
それは、猪刈めが何も懲りずに非道を繰り返したという……証だった。
武装自体はかつての“あくまたん”程でない彼女だが、目に光がない。
カメラ機能は生きているが、確固たる意思という物が失せているのだ。
それは、猪刈めが何も懲りずに非道を繰り返したという……証だった。
「この娘を、どうしても解き放ってあげたいんです……マイスター!」
「ふむ、よかろう。猪刈、貴様が負けたらその神姫を即刻他人に渡せ」
「ぶふふ、どーせ勝つのはボクだもんね。泣かせてやるんだ、ぶふ!」
「ふむ、よかろう。猪刈、貴様が負けたらその神姫を即刻他人に渡せ」
「ぶふふ、どーせ勝つのはボクだもんね。泣かせてやるんだ、ぶふ!」
アルマの志を信じ、私は指名戦を予約。程なく呼び出しが掛かった。
両肩のロッテとクララが案じる中、私は新型の装備をアルマに装着。
それは、メイド服の様であり司祭の様でもある“聖なるドレス”だ。
実戦ではこれが初めて。だが、私には不思議と絶対的な自信がある。
両肩のロッテとクララが案じる中、私は新型の装備をアルマに装着。
それは、メイド服の様であり司祭の様でもある“聖なるドレス”だ。
実戦ではこれが初めて。だが、私には不思議と絶対的な自信がある。
「よし、全ての準備は整った……蹴散らしてこい!」
「は、はい!……決着、つけてきます。マイスター」
「ぶふぅっ、さあボクの“かまきりん”、壊せッ!」
「────────────イエス、マスター……」
「は、はい!……決着、つけてきます。マイスター」
「ぶふぅっ、さあボクの“かまきりん”、壊せッ!」
「────────────イエス、マスター……」
そして、戦いを告げる荘厳なサウンドが鳴り響く!
『ロッテvsかまきりん、本日のサードリーグ第24戦闘、開始します!』
──────忌まわしき過去の為に、素晴らしき明日の為に。