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  人の心というのは、かくも奇妙なモノだ。
それは魂とも精神とも言い換えられ、人は永い間それを解明しようとした。
それを脳の火花だと言う人間もいた。
それを幻想と言い捨てる人間もいた。
それを全ての生物が持つ普遍的なものという人間もいた。
しかし、何千年もの時を経てもその答えは闇の中だ。


  荒涼としたフィールドにアルヴォ PDW9の乾いた発射音が木霊する。
弾丸は見えない軌跡を残しつつ、眼前の紅緒に向かい直進する。
しかし、紅緒は為虎添翼で一つ残らず叩き落した。
トロンベはそれに銃火器では太刀打ち出来ないと察し、アルヴォ PDW9を紅緒目掛けて投げつけた。
紅緒はそれを一刀の下に両断し、トロンベとの距離を詰める。
トロンベもそれに応じ、背中から一対のハグタンド・アーミーブレードを抜きつつ肉薄する。
一瞬の静寂の後に甲高い金属音が連鎖した。
熾烈、としか表現できない程の斬り合い。
一撃一撃を大胆に、しかし的確に繰り出す紅緒。
近接戦闘に特化した性質であるその斬撃は脅威的だった。
万能性を重視してあるトロンベは少しづつだが、確かに圧されていた。
「…破ッ!」
紅緒は為虎添翼を横に寝かせ、一息に突き出した。
トロンベは身体を半身にしながらそれを避ける。
避けながら紅緒と同様にハグタンド・アーミーブレードを突き出す。
両者の得物が一瞬錯綜し、火花を散らす。
両者は鍔迫り合いの体勢になった。
禍々しい餓鬼之面頬を付けた紅緒と黒く塗られた頭甲・咆皇をつけたトロンベの視線が見えない火花を散らせた。
「死ねぃ…!」
腹の底から滲み出るような、くぐもった低い声が髑髏の下から発せられる。
それと同時に為虎添翼に更なる力が込められる。
体格的に紅緒に劣るトロンベは圧され思わず膝を付いた。
「とどめだ…!」
ぐっと、更に力が込められる。
トロンベの持つハグタンド・アーミーブレードに細かな罅が入った。
しかし、その圧倒的に不利なその状況に置いて、トロンベは笑った。
「何が可笑しいッ!」
紅緒の怒号が飛ぶ。
それに怯む事無く、トロンベは余裕を含ませた口調で答えた。
「…何故私が接近戦に定評のある貴女とチャンバラをしたか解りますか?」
その口調は、まるで紅緒を嘲る様に発せられた。
「負け惜しみか…見苦しい」
表面上は冷静を取り繕ってはいるが、その声音からは怒りが滲み出ている。
「直ぐに解りますよ」
トロンベは口元を緩ませた。
まるで親しい友人に話しかけるような、温和な表情。
しかし、紅緒の怒りを爆発させるには充分だった。
「黙――――!?」
手に持つ為虎添翼に更なる力を込め、眼前の頭を叩き斬ろうとした、その瞬間。
紅緒の背中にアンクルブレード、デファンス、フォービドブレイド、破邪顕正、四つの得物が突き刺さっていた。
「な……ぜ……?」
表情を窺い知る事は出来ないが、恐らく理解不能という表情である事は容易に理解出来た。
崩れ落ちる紅緒を尻目に、トロンベは両手に持ったハグタンド・アーミーブレードを背中に仕舞った。
「ぷちマスィーンズ、便利でしょう?」
トロンベの周囲には5体のぷちマスィーンズがくるくると飛び回っている。
その内4体は何の装備もしていないが、1体だけ下部に蓬莱・壱式を取り付けている。
「まあ、そういう訳です」
蓬莱・壱式をぷちマスィーンズから受け取り、右手に装着するトロンベ。
「恨まないで下さいね」
トロンベの言葉はマズルフラッシュに掻き消された。
何もない空間に『YOU WIN』の文字が躍る。
紅緒だったモノは既にデータの塵へと還元され、やがてはログアウトするだろう。
「トロンベ、お疲れ様!」
ご丁寧にもヴン、という音と共にアリカの顔が映し出された。
「いや~まるで漫画の主人公ね。斃れ逝く宿敵に対し、トリックを説明する!」
腕を組み、うんうん頷きながら嬉しそうに喋るアリカ。
「……そ、そんな」
先程とは打って変わり、俯きながら恥ずかしそうにぼそぼそ喋るトロンベ。
バトル中の凛々しさは何処へ言ったか、その顔は真っ赤だ。
「照れちゃって~! このこのぉ~」
「……うぅ」
何というか、賑やかなやり取りをする二人である。
「それじゃあ、ぼちぼちログアウトするね」
子犬弄りの気が済んだのか、アリカの調子が何時ものモノに戻った。
「はい、了解です」
トロンベもそれに釣られて何時もの調子に戻る。
画面の向こう側でコンソールを操作し、ログアウトの手続きを取るアリカ。
「ん?」
その作業はサブディスプレイに浮かぶ『challenger!』の文字で中断させられた。
「どうかしましたか、ご主人様?」
「うん、オンラインでの挑戦者みたい。相手は…紅緒だけど、どうする?」
挑戦者、という単語にトロンベの目が光る。
「って聞くまでもないか」
アリカは笑いながらバトル受諾の手続きを取る。
「トロンベ、相手は同じ紅緒だけど油断しないように」
「了解です!」
トロンベが応えた。
それと同時にバトルフィールドがランダムに選択しなおされた。
「……少し気になる事があるから、慎重に」
アリカは普段出さないような指令を与えた。
その視線は挑戦者のデータを示すサブディスプレイに刺さっている。


「……で、負けたのか」
「だってー、あの紅緒こっちの攻撃効かないくせにあっちの攻撃はバンバン当たるんですよ!?」
研究室に来るなり愚痴を溢しに来たアリカに対応していた恵太郎は気の無い相槌を打っていた。
「トリスと同じ様なシステム積んでんじゃないのか」
「それにしては、何ていうか、ちょっとおかしいんですよ」
「おかしいって何が」
「オーナーが表示されなかったんですよ」
「オーナーが?」
今までやる気無く話を聞いていた恵太郎が顔を上げた。
神姫というのは周知の通り、オーナーが居なくては起動も出来ない代物だ。
仮に、起動後捨てられた神姫がバトルをしていたとしても、オーナー登録は抹消されない。
「…孝也、何か知らないか?」
「そんな話聞いた事無いなぁ」
「そうか…」
黙って天井を見つめる恵太郎。
しかし、それは一瞬だった。
「アリカ、それどこのセンターだ?」
「となり町のセカンドセンターです!」


「出てこねーじゃねーか」
恵太郎はセンターに備え付けられたベンチに座って不満を隠そうともせず言った。
「おっかしいですね…」
アリカは頭をぽりぽり掻きながら困った様な顔をしている。
「あの時はバトルが終った直ぐ後に現れたんですけど」
まるで首を捻りながら頭の上に疑問詞を表示するようにアリカは考え込んでいる。
「ご主人様、あの時は紅緒とのバトル直後でした」
トロンベがアリカの肩の上から言った。
「そっか…そうよね!」
ポン、と手を叩き目を輝かせるアリカ。
「……これで出てこなかったら帰るからな」
恵太郎はもの鬱げだ。


オンライン込みで紅緒オーナーを探し当てるのは容易だった。
情報化社会の恩恵に感謝しつつ、ナルは紅緒を軽く打ち倒した。
相手はセカンド上がりたてだった様で、難なく勝利する事が出来たが、恵太郎の良心が少しだけ痛んだとか。
「さて、これで条件は全て満たした訳だが」
誰に言う訳でもなく、恵太郎は呟いた。
「…師匠!」
アリカに言われるまでも無く、恵太郎はそれを見た。
サブディスプレイに挑戦者を告げる『challenger!』の文字。
それに伴い映し出される紅緒の姿。
そして。
「オーナーは不在、と……」
アリカの言うとおりだった。
「ナル、準備は良いか?」
やや緊張した口調で恵太郎は言った。
「…OKです」
それを聞いた恵太郎はコンソールを叩き、バトル受諾の手続きを取る。
「バトル開始と共にセンサー類を稼動させて本体の位置を探索。
本体が居た場合はそれに向かえ。それ以外は随時指示を出す」
手短に作戦を与え、バトル開始を待つ恵太郎。
「了解しました」
ナルの周囲の空間が一瞬で異なるフィールドに変化した。
バトルフィールド『戦場』
空は暗雲が覆い、時折雷鳴が鳴り響く。
見渡す限りの荒野には折れた刀や槍などの武器や打ち壊された小屋の様なモノがごろごろしている。
戦場と言うよりは戦場跡、だ。
そして、そのフィールドに最も似合うのは紅緒だった。
鮮明な赤い鎧。
腰に差した太刀と脇差。
手に持った薙刀。
そして、髑髏の面。
TPOを弁えた、正しい出で立ちだ。
それに大してナルの武装は一応ドレスを模して作られている。
スカートの様な腰アーマー。
リボンの様な背部ブースター。
物々しくてそうは見えないが、見ようと思えばドレスに見れなくも無いそれを纏っているナルはこのフィールドには不釣合いだ。
しかし、それを気にする風でもなく、ナルは頭部ホーンセンサーを稼動させた。
「…反応は目の前の紅緒一機のみです」
短く、小声で恵太郎に報告するナル。
その表情からは如何なる感情も窺い知る事は出来ない。
「接近は避けて銃鋼主体で行こう。くれぐれも警戒を怠らずに」
「了解です」
短い作戦会議の後、バトルのカウントダウンが始まった。
紅緒は微動だもせず、ナルを見据えている。
その表情は髑髏の面のせいか、それとも他の要因の性か窺い知る事は出来ない。
『START!』
バトル開始を告げる文字が仮想現実空間に躍る。


「…で、先輩も負けて、おめおめと逃げ帰ってきたという訳ですか」
研究室に帰ってくるなり愚痴を溢した恵太郎に向かって、茜はその顔も見ずに言った。
「だから言ってんだろーが。アレは迷彩とか分身とかチャチなもんじゃねーって!」
「…私も、正直信じられません」
珍しく喚きたてる恵太郎と同じく、ナルもその表情を曇らせプルプルと震えている。
「あの紅緒、本当にこっちの攻撃が当たらない上、あっちの攻撃は普通に食らう。やっぱチートMMSなんじゃねーか?」
明らかに不機嫌そうな顔で捲くし立てる恵太郎。
「チートMMSは無いと思うんだけどなぁ」
孝也は恵太郎の考えをやんわりと否定した。
「何でだよ」
ずい、と孝也に迫る恵太郎。
「公式のバトルマシーンにチートMMSなんかでログインすればものの数秒でアカウント消去されちゃいますよ」
冷や汗を垂らし愛想笑いをする孝也に代わり、茜が答えた。
しかし、その視線は眼前のPCに注がれている。
「じゃあ、一体あれは何なんでしょうね、師匠」
「知るか」
恵太郎は椅子で踏ん反りかえっている。
「ところで」
茜の声が研究室に響いた。
「ネットでもその噂で持ち切りですよ」
そういってキーボードをカタカタと叩いた。
次の瞬間、研究室の明りが落ち、真っ白い壁に茜が見ている画面と同様のモノが映し出された。
「何、これ?」
アリカがキョトンとしながら言った。
「世界最大の電子掲示板『2.5ちゃんねる』」
茜はそう言いながらマウスを動かした。
「これは2.5ちゃんねるの武装神姫スレッド。ここを見てください」
茜がある一部分をドラッグした。

404 :ぼくらはトイ名無しキッズ:2036/02/09(土) 22:33:05
   武士子の亡霊って知ってるか?

405 :ぼくらはトイ名無しキッズ:2036/02/09(土) 22:34:23
   >>404
   バトルで武士子倒すと出てくるってヤツか
   どうせ都市伝説だろwww

406 :ぼくらはトイ名無しキッズ:2036/02/09(土) 22:36:01
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
『バトルで乱入してきた武士子に
全く攻撃が効かなかった』
催眠術だとか超スピードだとか
   そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

407 :ぼくらはトイ名無しキッズ:2036/02/09(土) 22:38:49
   >>406
   マジ?
   詳細キボン

406 :ぼくらはトイ名無しキッズ:2036/02/09(土) 22:40:30
   >>407
   406じゃないが、俺も会ったぜ
   フル装備型の紅緒で、バトル後に乱入してくる
   その時サブディスプレイに情報出るじゃん?
   そこにオーナー不在って出てるから一発でわかるぜ

「これはほんの一部ですが、ほぼ全てのセンターで同じ現象が確認されています。おまけに、それら全てが同一IDで」
研究室の明りが元に戻る。
「……どう言う事だ、一体」
苦虫を噛み潰したような表情で恵太郎は呟いた。
「まさに、亡霊。といったところで御座るな」
今まで何処に居たのか、トリスが恵太郎の頭上に突如として現れた。
「IDを持っているという時点で公式の神姫という事は間違い御座らん。しかし、それがまるで亡霊のように攻撃を擦り抜けるカラクリは皆目見当もつかないで御座る」
トリスの言葉に皆は考え込む様に黙り込む。
「……もう一度行ってみよう」
何か思いついたように言った孝也に、皆の視線が集まる。
「何か考えがあんの?」
アリカが訝しげな声で疑問を口にする。
「一つだけ、思い当たる節があるんだ」
しかし、孝也はニコニコと笑うだけだ。


紅緒の亡霊に遭遇するのはアリカは三回目、恵太郎は二回目だ。
「現れましたね、亡霊さん」
仮想空間の中で対峙するナル、そしてトロンベもそれは同様だ。
薄暗い戦場の中に佇む紅緒のその姿はまさに亡霊だ。
静かに、しかし激しく睨みあう三人。
先に動いたのは紅緒だった。
破邪顕正を両手に構え、動いた。
カチャカチャという鎧と鎧が擦れ合う音と共にナルとトロンベへとゆっくりと迫る。
「行きますよ、トロンベ」
「はいッ!」
しかも、紅緒は飛び道具の類は一切装備していない。
ナルの銃鋼とトロンベのアルヴォ PDW9とSTR6ミニガンが火を拭いた。
爆音とマズルフラッシュの嵐がバトルフィールドを文字通り戦場へと化した。
普通の神姫であらば欠片一つ残らなさそうな弾幕。
しかし、紅緒の身体にそれは一つとして当たらない。
否。
確かにそれは当たっている。
ただ、その全てが紅緒の身体をすり抜けているのだ。
「やはり効きませんか……」
銃鋼を稼動させつつナルは呟いた。
「どうしますか?」
トロンベもアルヴォ PDW9とSTR6ミニガンで弾幕を作りながら口を開く。
その間にも紅緒は一歩一歩距離を詰めてくる。
「ナル、トロンベ、接近戦を仕掛けてくれ」
このままでは埒が明かない、そう判断したのか恵太郎が口を開いた。
「トロンベ、そう言う事だから頑張って!」
アリカも良く分からない応援を送っている。
「そういうことです。私はサポートに回ります」
ナルが銃鋼を下ろし、刃鋼で試す様に空を斬った。
「了解です!」
トロンベはアルヴォ PDW9とSTR6ミニガンを投げ捨て、背中のハグタンド・アーミーブレードを抜き、駆けた。
歩み寄る紅緒は一瞬動きを止め、そして駆けた。
紅緒は地面を削りながら止まり、駆けた勢いを破邪顕正に乗せて鋭く突いた。
左手のハグタンド・アーミーブレードで軌道を逸らし、一気に接近するトロンベ。
ここぞとばかりに右手のハグタンド・アーミーブレードで紅緒の腹部目掛けて突き出した。
紅緒の腹に何の抵抗も無く滑り込むハグタンド・アーミーブレード。
「…不気味ですね」
そう呟きながら、バックステップで紅緒から離れるトロンベ。
紅緒に損傷は無い。
無言で再び距離を詰めようとする紅緒。
が、その瞬間紅緒の胴体を刃鋼が両断した。
「…本当に不気味ですね」
しかし、紅緒は何事も無かったように距離を詰めてくる。
ナルは内心、軽く舌打しながら駆けた。
紅緒の破邪顕正の射程外ギリギリの所まで駆け寄り、そして止まる。
その勢いを殺さずに刃鋼に乗せて振り回す。
時折地面を削りながら紅緒の身体を何度も切り裂く刃鋼。
トロンベは小回りの良さを活かし、刃鋼の斬撃の隙間を掻い潜りつつ紅緒に攻撃を加える。
しかし、紅緒はそれを意に介す様子は無い。
紅緒は両手に構えた破邪顕正をゆったりとした動作で構え、力を込めるように静止した。
「…このっ!」
一向に有効打が与えられないこの情況に痺れを切らしたトロンベの攻撃が大振りになった。
それを見計らった様な空気ごと貫くような鋭い突きがトロンベ目掛けて繰り出される。
トロンベの首筋を正確に狙い澄ました一撃。
思わずトロンベが目を瞑る。
甲高い金属音と空気を裂く音。
「らしくないですね、トロンベ」
しかし、刃がトロンベの喉を突き破る事は無かった。
トロンベが目を開けると、破邪顕正に纏わり付いた刃鋼が切っ先を捻り折るその瞬間が飛び込んできた。
「…武器は壊せるようですね」
ナルが間合いを離しつつ呟いた。
トロンベも大きく跳び退りつつ口を開く。
「武器だけは攻撃が効く?」
「恐らく武器も彼女の身体と同じでしょう。ただ、攻撃しようと思えば実体を持つ、そんなところでしょう」
紅緒は切っ先の折れた破邪顕正を投げ捨て、腰の為虎天翼と怨徹骨髄を抜いた。
「時間稼ぎはどうにか出来そうですね」
トロンベが小さく笑った。
「その前にやられないよう注意してくださいね」
ナルは少し皮肉っぽく言った。

「まだかよ孝也!?」
恵太郎は苛立ちを隠そうともしないで怒鳴った。
「あと少し……あと少しなんだ」
孝也は恵太郎の顔見ずに膝の上に置いたノートPCを弄っている。
「糞、そうそう長く持たねぇぞ!」
恵太郎は眼前のディスプレイを睨んだ。
そのバトルは一見、ひどく味気無いものだった。
ナルとトロンベは余り踏み込まずに牽制より少し強い程度の攻撃を繰り返し、紅緒はただゆったりと両者に歩み寄り、静かに一撃を加える。
一進一退の攻防というよりは膠着状態といった方が正しいだろう。
フィールドに充満するのは鋼と鋼が打ち合う甲高い音ではなく、虚しく空を切る間の抜けた音だった。
しかし、その攻防は少しずつではあるが、確実にナルとトロンベの集中力と体力を奪っていた。
紅緒はまるで亡霊の様に攻撃が透き通ってしまう。
それなのに紅緒の攻撃はナルとトロンベにしっかりと当たる。
ナルとトロンベに今のところ目だった外傷は無いが、それでもそう長くは持たないことは明白だった。
「…得物の方は持ちそうですか?」
やや憔悴した面持ちでナルは言った。
そのボディは所々に擦り傷が目立つ。
「まだ二本残っています」
いつも使っているハグタンド・アーミーブレードではなく、ポラーシュテルン・FATEシールドに取り付けてある四つのフルストゥ・グフロートゥの内、二本を両手に持ちながらトロンベは答えた。
トロンベもナル同様、全身の装甲に細かな切り傷が見える。
まさに満身創痍、といった様子である二人に対して紅緒の身体には傷一つ見えない。
もっとも、両手に持つ為虎天翼と怨徹骨髄には刃毀れが目立つ。
「さて、もう一働きしますか」
静かにそう呟くと、ナルは動いた。
大地を踏み締めて紅緒に向かい一直線に駆けた。
その速度は恐るべきもので、ものの一瞬で紅緒との距離を0にした。
「…破ッ」
小さく息を吐き出しながら刃鋼を振るう。
鞭の様に柔軟に紅緒に襲い掛かるそれは、彼女を確かに捕らえた。
顔面を、腹を、腕を、脚を。
何度も何度も捕らえたが、その全てが彼女の身体をすり抜けてしまう。
それでもナルは攻撃を止めない。
背部に搭載された第三腕・鉤鋼で紅緒の身体を鷲掴みにしようと伸ばす。
しかし、紅緒の身体はまるで水が指の隙間から飛び出るように擦り抜けた。
まるで何事も無かったかのようにゆったりとした動作で歩を進める紅緒。
それに薄ら寒いものを感じつつもナルは左足を振り上げた。
かなりの質量を持つGA2“サバーカ”レッグパーツの一撃は、本来ならば神姫の身体を容易く粉砕出来る。
しかし、この紅緒に対してはそれすらも何の効果もなさない。
ナルはニヤリ、と紅緒が笑ったような錯覚を覚えた。
次の瞬間、ナルは考えるよりも先に大きく横に跳んでいた。
「大丈夫ですか、ナルさん!?」
紅緒に接近しながらトロンベが叫んだ。
「…問題無い、と言いたい所ですね」
ナルは刃鋼を杖のようにして身体を支えながら憎憎しげに呟いた。
その視線の先には自身の左足だった部分に向けられている。
ナルの左腿から先は、何も無い。
ただ空虚な空間が広がっているだけだ。
「トリス、私はもう持ちませんよ」
明後日の方向に向かいナルは口を開いた。
「心配御座らん。お膳立ては丁度終ったところで御座る」
何も無かった筈の空間から、ノイズと共にナ・アシブを纏ったトリスが現れた。

「良し、準備出来たよ、けーくん!」
孝也が顔を上げて言った。
「ならとっととやれ!」
恵太郎は怒鳴った。
「OK!」
孝也はノートPCに視線を移し、キーボードの上で指を躍らせた。
カタカタという音と共に、ノートPCの真っ暗な画面に大量の白い文字や記号が流れ出す。
「トリス、準備は良いかい?」
張り上げるような声で孝也は言った。
「何時でも大丈夫で御座るよ!」
トリスも負けじと声を張り上げる。
それを聞いた孝也は二コリと笑い、タイピングの速度を上げた。
「ナルちゃん、トロンベちゃんは紅緒の動きを止めて!」
その声はバーチャル空間にいるナルとトロンベにもしっかりと聞こえた。
鉤鋼を左足代わりに立ち上がったナルは溜息を吐きながら言った。
「人使い…いえ、神姫使いが荒いですね」
紅緒と刃を交えながらトロンベは言った。
「キツイのならそこで休憩していても良いんですよ!」
「ふふ、言うようになりましたね」
ナルは軽く笑うと駆け出した。
その背後では三つ折のアルゴス・ランチャーを展開させた。
トリスの身の丈を遥かに凌ぐそれをナ・アシブの大きな腕で構える。
「…ふぅ」
小さく息を吸い、意識を集中させる。
見ることは出来ないナノマシンの大群が、アルゴス・ランチャーの先端に集まる。
それは複雑に絡み合い、混じり合い、一つの法則に従い形を変える。
ナノマシンは凄まじい密度で集結し、一つのプログラムへと昇華する。
それは、仮想現実を構成する1と0との信号を強引に書き換える形へと変貌した。
やがて、それはアルゴス・ランチャーの先端で実体化した。
神姫の握りこぶし程度の大きさしかない、塊。
黒く光るそれは声ならぬ声で唸りを上げた。
「むぅ…これほどとは」
トリスが思わず声を上げた。
その頬には冷や汗が垂れている。
小刻みに震えるアルゴス・ランチャーをしっかりと抱えなおし、深く深呼吸するトリス。
「……ナル殿、トロンベ殿! 今すぐ其処から逃げるで御座る!」
そして、力の限り叫んだ。
声と共に一瞬で大きく跳び退るナルとトロンベ。
トリスはそれを確認すると、アルゴス・ランチャーの引鉄を引いた。
「……くぅ!」
アルゴス・ランチャーの先端から黒い塊が紅緒目掛けて跳んだ。
それと同時に、凄まじい衝撃がトリスを襲った。
トリスは全身に力を込め、歯を食いしばり耐えた。
黒い塊は避ける間もないほどの一瞬で紅緒に到達した。
今までどおり、自身の身体を透過すると考えていた紅緒から初めて声が漏れた。
「……gaaaaaaaaaa!!」
それは神姫の声ではなく、もっと機械的で酷く音割れした声だった。
黒い塊は瞬時に膨張し、紅緒の周囲を取り囲んだ。
半径2smはあろうかという真っ黒い球状のそれの表面には白く発光する文字列が幾重にも浮かび回っている。
それは急速に集束して、元の小さな黒い塊に戻っていく。
その過程で、大きな球が占めていた空間には何も残っていなかった。
場所を切り取ったとしか言い用が無い真っ白い空間。
その中に、小さな黒い塊は浮いていた。
「展開!」
トリスはアルゴス・ランチャーを傍らに突き立てて両手を突き出した。
ナ・アシブの巨大な両腕がそれに追従し、同じく前方に突き出される。
次の瞬間、ナ・アシブの腕を中心に黒い花びらが咲いた。
そして、それに吸い込まれるように黒い塊が時間を巻き戻すようにトリスの元へと迫った。
「……ッ!」
それがナ・アシブの腕と触れた瞬間、周囲に凄まじい衝撃が奔った。
それは空気を媒介に伝わるものではなく、プログラムを媒介に伝わる衝撃だった。
激しいノイズの中、黒い塊から細長い糸のようなものが溶け出し、黒い花びらに吸い込まれていく。
やがて、黒い塊の全てが黒い花びらに吸い込まれた。
「収納!」
そう言いながらトリスは両腕を胸の前で突き合わせた。
それと同時に、腕の周りに展開していた黒い花びらは消えた。
「……やった、んですか?」
未だ残るノイズのなか、トロンベが呟いた。
「…さあ、どうでしょう」
ナルは地面にへたり込んでいる。
肝心のトリスはというと、苦しそうな表情で目の前を睨むだけだ。

「けーくん、アリカちゃん、ログアウト急いで!」
先程とは打って変わって緊迫した表情で孝也が叫んだ。
『へ?』
恵太郎とアリカは揃って間抜けな声を出した。
「あれ見て、あれ!」
そういって孝也はバトルマシーンを統括するメインサーバーの方を指した。
一個ウン百万するサーバーがプスプスと黒い煙を吐き出していた。


「結論から言います。あの紅緒は正真正銘の亡霊です」
研究室の一角に備え付けられている巨大な機械の前。
そこで茜が一同を見回しながら言った。
「どういうこと?」
アリカは理解しきれていないようで、困惑の表情を見せる。
しかし、それは隣に居る恵太郎やナル・トロンベも同じ様だ。
「ま、順を追って説明しましょう」
茜は機械の前で何やら作業を始めた。
それを見計らって、孝也が一歩前に出た。
「それじゃあ、センターでトリスが何をしたか説明するね」
「手短にな」
恵太郎の言葉に苦笑しつつ、孝也は続けた。
「トリスの武装にナノマシンが応用されてるのは知ってるよね? ナノマシンというのはリアルでは超微小機械として動く。そして、それを一箇所に集中させて光を操作する。
けど、バーチャルでは実際に光は無いし、ナノマシンを放出する訳ではないんだ。その代わり、バーチャルではナノマシン・プログラムを散布する。
リアルでのナノマシンは光を屈折させる。それは光、という実際にある物理現象一つを変化させるだけ。
けど、バーチャルでの光というのはプログラムの一端でしかない訳で、それを操作するにはプログラムを操作する必要がある」
「…つまり、どう言う事?」
アリカの質問に、孝也は小さく頷き続けた。
「簡単に言えば、ハッキング能力があるって事かな」
「ハッキング……データ操作か」
恵太郎が思いついた様に呟いた。
「けど、ナノマシン・プログラムのデータ要領はそんなに多くない。精々フィールドの画像を操作するのが関の山なんだけど……塵も積もれば山となる、って言葉がある」
「もっと解りやすく説明しなさいよ!」
アリカがブーイングをするが、孝也は困ったように笑うだけだ。
「…思いっきり掻い摘んで言うと、ナノマシン・プログラムを一箇所に高密度で集束させると、それなりに高位のハッキングが可能になるんだ。例えると、小さなコップをたくさん集めて大量の水を汲み上げるようなイメージかな」
孝也の説明にそれなりに納得したのか、アリカは少し大人しくなった。
「通常、ナノマシン・プログラムは視覚出来ない。純粋に要領が低くて神姫のAIに引っ掛からないんだ。
けど、高密度に集束した場合、視覚出来るケースがある。」
「それが、アレか」
恵太郎は低く呟いた。
「そう、あの真っ黒い球体。あれがナノマシン・プログラムの集合体。あれくらいになると神姫数体くらいのデータならを吸収出来る」
孝也はニヤリと笑った。
「じゃあ、あれは紅緒を捕まえた…?」
バトルの光景を思い出しながらアリカが言った。
「対象のデータを強制的に圧縮させ、ナノマシン・プログラム内に保存する。
”データドレイン”、僕の研究している技術の集大成だよ。」
「へぇ、完成してたのか」
恵太郎は驚いたように言った。
しかし、孝也は肩を竦めた。
「まだ実用には程遠いね……現に、トリスに負荷が大きすぎて一回使えば軽いフリーズを起こしちゃう」
そういって、茜が作業している機械を見た。
それは特殊なクレイドルで、外からは見えないが中にはトリスが眠っている。
ナルやトロンベはそれを心配そうに見上げている。
「…とにかく、紅緒のデータを確保する事は出来たんだ。後は茜ちゃんの解析待ちさ」
孝也は椅子に腰掛けた。
代わりに茜が恵太郎達の前に進み出た。
「では、私の方からも説明しますね」
手に持ったレポートを見ながら言った。
「まずは神姫のAIについて説明します。
神姫のAIというのはご存知の通り、人間と同等の精神活動を可能にするほど高性能です。
人間の精神、というのは人類が探求する永遠のテーマの一つです。そして、それは未だに解明されてません。
そこで問題です。解明出来ていない人間の心理、それをどうやって神姫に搭載したか?」
悪戯っぽい笑みが茜の口から漏れた。
「…師匠、知ってます?」
「聞いた事はあるな」
アリカは頼るように恵太郎に聞くが、恵太郎はそれを言う気は無いようだ。
「降参?」
茜が楽しそうに言った。
「待て!ちょっと待ちなさい……」
そういうと、アリカは腕を組み虚空を睨んだ。
頭をフル回転させているのは明白だった。
「……人の魂をコピーした!」
数分間考えに考え抜いたアリカは大きな声で言った。
「ん~、まあ正解って所かしら」
茜は心底楽しそうだ。
「人間の脳というのは、大雑把に言えばコンピューターを大差ありません。コンピューターと脳の器官を合わせ見ると解ります。
それはともかく、一番大事なのは、人間の脳から身体に命令を出すのは電気信号。コンピューターが使うのも、電気信号です。
AIの研究者達は、人間の脳を丸々プログラムに置き換えた。もっとも噂話の域を出ませんが」
噂話、と言うが茜の表情はそうは言っていない。
「まあ、これでAIの基盤は完成したわけです。これを元に神姫のAIは完成したのです。一点の問題を残して」
「問題?」
アリカが首を捻った。
「先にも言った様に、AIは人の脳を丸々コピーしました。
さて、ここで問題です。人間は自身の事を知り尽くしているかどうか?」
アリカはまたも押し黙った。
しかし、今回はそれを聞く気は無さそうだ。
「答えは、Noです。人間は自身の脳の事を半分も理解していません」
茜は自分のこめかみを指先で叩きながら言った。
「当然、AIにはその理解出来ていない部分も多く含まれます。現に神姫のAIにも含まれているでしょう」
「そんなの取っちゃえば良いのに」
アリカがさも当然といわんばかりに言った。
「そうね、当時の研究者達もそう考えたでしょうね。そして、多分実践した。結果は失敗だったでしょうけど」
茜は少し冷めた口調で言った。
「何で?」
「…原因不明のバグが多発したの。これはよく知られてる事だけど、神姫のAIにも人間と同じ内蔵器官を司るプログラムは存在しているの。神姫には内蔵が無いのにも関わらず。」
頭上に?マークを浮かべるアリカに恵太郎が説明した。
「内蔵器官のプログラムが無いAIにも原因不明のバグが多発した。結構有名だぞ」
「纏めると、神姫のAIにはブラックボックスが沢山あるって事です」
一通りの説明を終えた茜はレポートから視線を上げた。
「それとこれと、あの紅緒とどういう関係があるわけ?」
アリカの疑問はまだ解決していないようだ。
それはナルとトロンベも一緒の様だが。
「ねえ、アリカ。幽霊って信じる?」
突然方向性の違う話題にアリカは驚いた。
「何よ、いきなり…」
「私はね、幽霊っていると思うの。だって人間の精神は2036年になった今でも解明されてないのよ?その中に幽霊がいたって不思議じゃないわ」
茜は視線を宙に泳がせながら言った。
「それとこれとどういう関係が…」
そこまで言って、アリカははっとした。
「……まさか」
その様子に、茜は嬉しそうに微笑んだ。
「そう、そのまさかよ」
茜は身を翻し、巨大なクレイドルを操作した。
それと同時に研究室の明りが落ち、壁にあるものが映し出された。
「これは…」
恵太郎の口から言葉が漏れた。
そこにあるのは大量の画像だった。
ノイズが混じり、所々欠損しているデータの残骸だった。
見づらいことこの上ないが、辛うじてそれが文だという事は解る。
そして、それが罵倒の言葉だと言う事も。
「ひどい…」
アリカが拳を握り締めた。
「……MMS第三弾、紅緒をサイフォスが発売された当初のものです。
第一弾、第二弾とフェイスの出来が良かったのに比べ、第三弾のフェイス部分は粗悪な物でした。
とりたて、紅緒に対する風当たりは酷かった様ですね」
淡々とした口調で語る茜。
「サイフォスは近接武装の面でそれなりの人気はありました。しかし、紅緒は武装面でも余り人気が無かった。
その結果、大量の在庫の山と……全ての神姫オーナーが、という訳ではないですが一部の心無い物たちによって紅緒への虐待といった行為が頻発しました」
孝也が説明を代わった。
「その後、メーカーの方で交換作業があったらしいけど、後の祭りだね。表沙汰には成らなかったけどそれなりに問題になった…いや、今でも燻ってるね」
「じゃあ、あの紅緒の亡霊は……」
「そういうことで御座るよ」
アリカの言葉に応えたのはクレイドルの中から飛び出てきたトリスだった。
「あの紅緒の亡霊は、虐げられた紅緒の怨念がネットワークを介し集合した物で御座る」
心配そうに見つめるナルとトロンベに軽く微笑みながらトリスは言った。
「そんな事が起こり得るとはな…」
恵太郎は低く呟いた。
「あのデータを拙者なりに解析してみた結果で御座るが、攻撃をすり抜けるのはどうやらバグの一種で御座った。
ID自体のほうも他の紅緒のものをランダムに選択するものであった。
しかし…それ以外、AIなどは正常で御座る」
AIが正常、と言う事は即ち、心が残っているという意味だ。
皆はそれを理解している。
だからこそ、研究室の明りが元に戻った今でもその雰囲気は重苦しいままだ。
「…その紅緒」
恵太郎が重々しく口を開いた。
「その紅緒、どうするつもりだ?」
一瞬の沈黙の後、茜が口を開いた。
「AIだけ、という時点で選択肢はそう多くないです。ネットワークに解放すればまた同じ事態を引き起こすでしょうし、それに遅かれ速かれBMAに見つかって削除されると思います…」
「素体に移し変える、ってのは?」
アリカが神妙な面持ちで言った。
「無理よ。あの紅緒のAIの要領は普通の神姫の比べて3倍近いわ。移し変えた所で素体が持たない」
「そんな…」
嫌な雰囲気が皆を包んだ。
「僕に考えがある」
孝也がその場にそぐわない陽気な声で言った。


ガッチャガッチャと研究室のテーブルの上を走り回る機影が一つ。
「待つで御座る!」
それをトリスがピョンピョン跳ねながら追いかける。
「…gigigigi」
それ―――ナ・アシブは機械的な音声を上げて逃げ回る。
まるで小さな子供が逃げ回るように、楽しそうに。
しかし、強化骨格であるナ・アシブが走り回る様は内蔵が挿げ落ちた骨格標本のようである。
つまりはシュールな光景なのだ。
「おのれ…こうなったら、ニトクリス強制発動!」
左腕を胸の前に構えたトリスが叫んだ。
それと同時に、ナ・アシブの動きが止まり、その身体から霧のようなものが染み出してきた。
「ニトクリス、何度言ったら解るで御座るか!」
それはやがて人の形になった。
慎重15cm程度。
鮮明な赤い鎧。
腰に差した太刀と脇差。
背中に括りつけた薙刀。
そして、髑髏の面。
「勝手にナ・アシブを動かすなと…て、コラ!」
やや半透明な紅緒はトリスの事などほったらかしで走り去った。
「待つで御座る、ニトクリス!」
それをやや離れてみていた恵太郎がげんなりと呟いた。
「…ナノマシンってあんなことも出来るのか」
「いや~元気になって良かったよ」
孝也はにこにこしながらそれを見守っている。
紅緒の亡霊と言われた彼女は、今ナ・アシブの中に居る。
神姫の素体に入りきらないならば、ナ・アシブの中に入れてしまえば良いと孝也は言い、そして実践した。
今の彼女の名はニトクリス。
彼女は実態を持たないが、ナノマシンを用いて身体を作る事は出来る。
ものに触る事は出来ないが、ナ・アシブで走ることは出来る。
「…また賑やかになるな」
恵太郎の視線の先には追いかけっこをするトリスとニトクリスの姿があった。







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