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 第三幕。再度上幕。


 ・・・。
 電車とバスに揺られ一時間と少しかかったか。既に曇っていた空は泣き出し、夕焼けを伴わず陽は暮れつつあった。
 薄闇が周囲に影を落とす中。マコトは肩にフェスタを乗せ、差した傘に雨音を聞きながら、その店の前に立っていた。
「・・・」
「・・・。・・・」
 平屋のその『店』の佇まいは、二人の声を奪うのに十分な姿を雨中に晒していた。

 白い壁。看板などは無く、入り口には赤銅色の金属板のレリーフが吊るされて雨風に打たれて鳴いている。大きい三日月型が切り抜かれたそれには、店の名前であろう『Moon』という飾り文字が彫られていた。
 臙脂に近い赤色の煉瓦を敷いた屋根には、最早本でしか見た事がない『煙突』と言われる筒が頭を出しており、そして彼らが立つ扉の真上には・・・。
「・・・ねぇ、マコト。あれ何?」
 フェスタは風に吹かれる度に身体を震わせるように揺れる、鶏の形をした妙なレリーフを指差した。
「何だろう?」
 強い風が一度吹き抜け、くるくるとその鶏が回転する。
「ん、風見鶏かな?」
「けど装置が付いてないし、ライティングも無いよ」
 自宅。姉の部屋に面したベランダにあるそれは、常にぼんやりを光を発して風速・風向・湿度を測定する事が出来たはず。
 それに、あんなに大きくなくても風を捉える。
「そうだね。何か、古い様式というか・・・」
「非効率的って感じがするね」
 フェスタがずばりと言った単語こそが、正にそれそのものだろう。
「まぁ。気にしてても仕方ない。入ってみようか」
「うん!」
 傘を畳んで、乾燥機構が内蔵されていないらしい傘立てに入れる。
 当然のようにオートでもない扉を、マコトは押した。


 カラ、カララン。
 これまた本でしか見た事が無いドアベル・・・いや。カウベルというのだったか? そのクラシックな鐘の音と共に店舗内に足を踏み入れ、彼は思わず息を飲んだ。
 フェスタなどは目を丸くして完全に硬直してしまう。しばし唖然としていたが、彼らはゆっくり店内に歩みを進めていった。
 木材製のフックバーが張られた店内。
 その壁に沿うように配された・・・ガラス製だろうか、透明なショーケースが並べられており、その中に見事な装飾が施されたシルバーアクセサリーが丁寧に陳列されている。イヤリング、ネックレス、チェーン。リングにブレスレット、そしてストラップ。
 女性用、男性用で区分けされ、値段が小さな付箋で付けられている。千円程度の物もあれば、それより桁が二つほど上がる物も平然と並んでいた。
「・・・綺麗だねぇ」
「うん・・・。?」
 ふっとマコトが視線を向けると。
 出窓の近くに一つだけ大きめの、黒いラックが置かれており、小さなライトがたくさんついていた。
 近づいてみれば、そこには数センチの小さな物から、大きいものは20センチほどのガラスの芸術品が並べられている。
「あ、マコト。天使がいるよ」
 フェスタが肩からトコンとラックに飛び降り、小さな可愛い天使の置物をそっと撫でた。
「フェスタ、欲しいの?」
「ううん? 新堂家の天使は私だけで十分!」
 マコトは笑うと、何に対してかは解らないが自信満々なフェスタを手で持ち上げた。

「御客様。いらっしゃいませ。何かお探しですか?」

「あっ、はい。すいません」
 後ろから声をかけられ、慌てて振り返る。が、そこには誰もいない。
「あれ?」
 ・・・確かに、人の声がしたのだが。
「こちらですよ」
 先程よりも大き目の、少し笑いの混じった声で呼ばれ、そちらに視線を移す。
 店の奥のキャッシャー台の上。見事な銀細工が周囲にほどこされた・・・ベット状の、あれはクレイドルだろうか? 普通のクレイドルよりも5割ほど大きいが。
 そこに座っているのは一人の神姫。スーツからストラーフであると解るが、その髪の色は見事なスミレ色。瞳は紅く、そして深い。 何よりも。光、風景をも照り返す・・・黒く深い見事な『角』。
 喉の奥が鳴る。マコトは、そしてフェスタもまた。一瞬もあれば理解できた。
(『角子さん』だ・・・)

「今の、声・・・」
 フェスタが少し震える声で呟く。マコトは頷くとそちらに足を向けた。
「お決まりですか? そろそろ閉店の時間ですが・・・」
 キャッシャー台の上の彼女は立ち上がり、そのクレイドルから伸びる銀の階段を降りると、笑顔で問いかける。
「いえ。実は、その」
 マコトが此処に来た理由を説明しようとした時。フェスタがぱっと飛び降りた。膝を曲げて着地する。
 その姿を驚いたような顔で見たストラーフの表情が。いきなり一変した事に、マコトだけは気が付いた。
(え・・・?)

 何を話そう。何から話そう。聞きたい事が、話したい事が多すぎる。

 胸のわくわくを抑えきれず、フェスタはストラーフに駆け寄り、口を開いた。
「・・・あのっ! 私!」
 しかし。 声を遮る様に投げつけられたのは歓迎の声ではなく・・・。
「何か、ご用?」
 身を凍らせるような冷たい声だった。
「あ・・・っ」
 その心が急速に冷やされる。笑顔のまま、フェスタは固まった。間違いなく『あの声』だ。だが。
 真紅の視線は明らかに歓迎している物ではない。ストラーフ特有の見下すような強烈な眼光。
「・・・ぇ、と・・・」
「先ほども言いましたが」
 フェスタが声を失っていると、ストラーフはジロリとフェスタの姿を観察するように視線を動かし、ゆっくりと。神姫とは思えない声量で・・・『あの声』でマコトにも聞こえるように話し始めた。
「本店はそろそろ閉店のお時間です。ご用件は手短に」
 冷たい感情を詰め込んだ声。フェスタにも。それがどういう声かは痛いほど理解できているだろう。
 マコトの脳裏を、聞いた事がある嫌なウワサがふと、走った。

 ストラーフとアーンヴァル。悪魔と天使。そのモチーフがそうさせるのか。
 ・・・時として『相手』に対し強い憎悪の感情を本能的に抱く者がいるという。

(だけど)
 ただの都市伝説だと思っていたのに。
 彼は、運命を呪いたくなった。
(だけど、そんな・・・)
 初めて。『姉妹』に会えると。
 あんなにフェスタが楽しみにしていたのに。
「・・・それで? 用は無いのかしら?」
 黙り込んだ事に苛つきさえ込もった声で、腰に手をやりながらストラーフはフェスタに言い放つ。
 そのショックが強すぎたのか、彼女は泣き出しそうな顔で下を向き、肩を落とし、その場に立ち竦むだけだ。

「・・・ふぅ」
 何も言えないフェスタに向けていた瞳を一度閉じ。ストラーフはスミレ色の髪をかきあげると、小さく溜め息をついた。
「では、こちらから言うべき事があるんだけど」

(!)
 マコトは思わず止めようとした。
 ・・・その『声』で。『母の声』で。これ以上フェスタを傷つけないでくれと。
 だが、彼が口を開く前に。

「アーンヴァルの貴女・・・何なの? その格好は」

 ・・・。
「・・・え?」
 かけられた予想外の言葉に、フェスタは顔を上げる。
「だから。え? じゃないでしょうっ!?」
 ストラーフは大きな声で言うと。それにびくっと身体を縮こませたフェスタにツカツカと、怒った顔で詰め寄る。
「スーツの塗装は剥げているし・・・スペーサーだってジョイント補正してないじゃない!」
 ぱっぱっと掌でフェスタの肩の埃を落としながら、彼女は続けた。
「もう・・・! 汚れも落ちてないし。ちゃんとボディを洗っているの?」
「あ・・・これは、バトルで・・・」
「っ、なら余計にそうでしょうっ!?」
 言い訳がましいフェスタの呟きに眉を吊り上げ、ストラーフは怒鳴った。

「『武装神姫』である前に! 『神姫』である事を自覚なさい!!」

 その声は神姫としての常識的なレベルではない程に。大きく店内・・・そして彼らの耳に響いた。
「武装のコンディションだけではなく、自身のコンディションも把握する事!」
「は、はい!」
 慌てて姿勢を直したフェスタを見る目が少し和らぐ。
 ・・・と。
 そのくすんだ金髪を見て、ストラーフは眉を顰め、先ほどよりも更に鋭い瞳で、ギロリとマコトを見上げた。
「貴方・・・この子のオーナーね?」
「あ、はい」
 呆気に取られていた彼は、間抜けに生返事をする。ぴくりと、その眉が不機嫌そうに動いた。
「彼女・・・人間用のシャンプーを使わせているんじゃない?」
「え? そうです、けど」
 何故か敬語になってしまう。
 だが、その言葉を聞くと。その視線に明らかな敵意が込められた。
(う・・・)
 ぞっと、寒気さえ走るほどの。
「私たち神姫の髪は人のそれより遥かに丈夫に出来ている・・・。ただし、反面再生能力は脆弱・・・だからこそコートがされているのは知っているわね?」
 低い声。睨みあげられていると、身が竦むような猛禽の視線。
「石鹸か専用のコンディショナーは?」
 迫力に圧倒され、喉で声がつまり、答えられずにいる彼を完全に無視して。彼女はフェスタの手を取った。
「時間、あるかしら?」
「え、はい」
「OK。・・・マスター!!」
 ストラーフは店の奥に向かって大きな声で主を呼んだ。

 十と数秒後。
 長身の、グレーの瞳と視線を持つ、眼鏡をかけ、デニムエプロンをした男性が顔を見せた。
「はいはい。・・・?」
 どうやら怒っているらしい自分の神姫と。恐縮しているっぽい少年と。彼のパートナーであろう、手を引っ張られている天使型神姫。
 なかなかに理解に苦しむ図だ。
「どうしました?」
「少し彼女を、シャワーに入れてきます。御客様の相手をよろしくお願いします」
 さ、来なさい。と、主の返答も聞かずにぐいっとフェスタを引っ張っていくストラーフ。
「あっ、あのっ」
 何か言おうとするが、為す術なく引っ張られていくフェスタ。
 そして。それをぽかんと見送るしかない人間二人。

 やがて。長身の男性は肩で溜め息をつくと、マコトに振り向いた。
「やぁ、ごめんね?」
「いえ・・・」
 まだ圧倒される空気に飲まれている彼が、慌てて首を振るのを見て、男性は笑う。
「私はリカルド=ケンザキ。リカルドでいい。この店の店長だ」
「あ、オレはマコト・・・新堂真人です」
 しばらく眼鏡の奥の細い視線でマコトをじっと見つめていたリカルドは、一つ満足げに小さく頷いた。
「・・・?」
「じゃぁマコト君。アップルティーでいいかい?」


 ・・・。
 いつしか完全に陽は落ちていた。雨が強くなったのか、打ち付けられてカタカタと鳴る窓の音が零れて入る。
 林檎の甘い匂いが広がる店内。その中央の折りたたみ型の木製のテーブルに、湯気立つカップとポットが並んでいた。
「そうか」
 リカルドはマコトから、此処に来た理由を聞くとしばし何かを考えていたが、やがて何かに納得したように頷いた。
「あの・・・やっぱり」
「うん、君らの予想通り。彼女の『喉』は・・・ゼリスさんの物だ」
 かちゃり。
 リカルドはカップに口に持ち上げながらぽつりと思い出すように言う。
「生まれながらに・・・彼女には喉が欠けていてね」
「えっ」
 聞き返された言葉に、彼は一口アップルティーを喉に下し、一息ついてから答えた。
「・・・そう。『良品不足』というヤツで。分解される寸前・・・ゼリスさんの喉を貰ったんだよ。そうか・・・そうか」
 天井を仰ぎ、さきほどと同じく納得したような声で。少し嬉しそうに続ける。
「『響いた』んだなぁ」
「『響いた』・・・?」
 不思議なワードを口にしたリカルドに、問い返すマコト。しかしリカルドは細い目を、更に細くして小さく笑うだけで、問いには答えなかった。

「お待たせしました。マスター」
「マコトっ」
 声がして振り返ると。二人の神姫が晴れ晴れとした顔で戻ってきていた。それぞれの主の膝を経由して、二人ともテーブルの上に降り立つ。
「今後はしっかりなさい? いいわね」
「はいっ」
 頭をポンと叩くストラーフ。それに対し、素直に嬉しそうに返事をするフェスタ。
「・・・え? フェスタ?」
 唖然とするマコトに、ストラーフはやれやれと言った感じで肩をすくませた。
「これが彼女の本当の髪色よ」
 フェスタの髪は、はねっ返りの強いくすんだ金髪から・・・鮮やかな山吹色に変わっていた。
「表層コートがザラついていたから正しい色が出てなかっただけね」

 戻ってきた来客の神姫に、ほほう、と感嘆の声を上げていたリカルドが。今ひとつ理解していないといった感じのマコトに説明してくれた。
 製造の時に塗られた表層コートは色が付いている上に工業用。人間用のシャンプーで洗っているといつまでも落ちず、むしろ痛み、表面がザラつくだけである、と。
「酷くなっていたコートを落とし、単にクリアコートを新しく施しただけ。彼女もファーストロットの髪色の混乱が起きていたのね・・・」
 フェスタの髪に指を通す。
 綺麗に光をはらむ山吹色に、どことなく羨ましげにストラーフは言った。

「・・・あぁ。面白いことが聞けましたよ?」
 ぽむ、と。手を鳴らしたリカルドに、彼女は顔を上げる。
「何ですか?」
 その声ににっこりと笑い。
「おめでとう。彼女は、貴女の『姉妹』です」


「・・・」
 テーブルの上に座り、一通りの説明を受けたストラーフは、隣に座っているフェスタの膝を指先でトントンと叩いた。
「この脚が、母の脚なのね」
「はい」
「そっか。ここだけスーツの色が違うから・・・不思議には思っていたけど」
 先ほどの厳しい視線ではない。
「確かに・・・母のスーツカラー・・・」
 紅い瞳にうっすらと、涙が浮かんでいる。
 そこには優しげな笑みを浮かべる・・・『姉』がいた。

「それでは改めまして・・・」
 こほん、と一つ咳を払い。
「私の名は『ヴィネット』。ニックネームの角子でもいいわ。よろしくね?」
 初めて聞いた『名前』。姉妹の名前。フェスタは満面の笑顔で答えた。
「私は『フェスタ』です! よろしくお願いしますヴィネットさん!」

 互いの『名前』が響いた時。
「・・・?」
 顔を上げるマコト。
 ふっと。店内の空気が揺れたような気がした。


「しかしながら・・・その、大切な姉妹のマスターが。自分の神姫のコンディションさえ気に留めないとなると。許しませんよ?」
 じろっと視線をマコトの方に動かしてそう言うヴィネット。マコトはただ平伏するしかない。
「すいません。以後気をつけます」
 小さな溜息と共に肩をすくませ、仕方ないわねという表情を浮かべると。彼女は立ち上がり、フェスタに向き直った。
「・・・『舞踏の天使』。その名は少しは聞き及んでいるわ? どうかしら? フェスタさん」
「?」
 差し出された手と、その顔を交互に見て、不思議そうに首を傾げるフェスタ。
「舞ってくれたら・・・嬉しいんだけど」
 ウィンクを送るヴィネットの意を汲み取り、彼女は顔を輝かせる。
「喜んでっ!」
 その手を取り、指を絡ませ、引かれるままについっと立ち上がった。


 テーブルの中央に立つ二人の神姫。

 『舞姫』が手を後ろで組み、小さく、たった二人の観客へ礼をする。
 『歌姫』は喉を指先で軽く叩くと。目を瞑り息を吸い込んだ。
 ゆるやかに歌が流れ出す。豊かな声量が店内に響いていく。
(・・・『母が教えてくれた歌』)
 それは。あの日・・・その脚で初めて舞った曲だった。

 ヴィネットは胸の前で手を重ね、特有の非常にゆっくりとしたリズムを保ちながら伸びやかな旋律を紡いでいく。
 フェスタはその曲が歌われる事を知っていたかのように自然に受け入れ、手をしなやかに揺らせた。
 厚い、雨の水分を吸い込んだテーブルの上にトコン、トコンとゆったりとしたリズムを刻みながら。しかし全身を大きく広げて舞う。

「・・・不思議、ですね」
 素朴な雰囲気を醸す歌が続く中。ぽつっと小さな声で。どことなく嬉しげにマコトが呟いた。
 フェスタもヴィネットも目を閉じ、自分の体が作り出す不思議な流れに身を任しているようだ。
「ん?」
 リカルドが柔らかい視線を向ける。
「フェスタの脚も、角子さんの声も。本当はゼリスさんの物で」
 あの日、ディスプレイでフェスタに語りかけた、優しい神姫の緑の髪。銀の瞳を思い出す。
「ゼリスさんは、もう。いないのに・・・」
 歌に重なるステップは、一切ずれる事なく、その音は一つの楽器として歌の中に溶けていく。
「だけど・・・こんな」
 何かを言おうとするが、上手く言葉にできない。ただ、その歌と舞いを聴き、見続けるだけだ。

「・・・ねぇ、マコト君?」
 リカルドが同じく彼女たちの邪魔をしないように。小さな声で問いかける。
 そちらに視線を向けると、嬉しそうにリカルドは頷いた。
「私はね。・・・彼女たちに『弦』を見る」
「弦・・・?」

 リカルドは目を細めるだけ。
 やがて歌が終わり、二人が目を開け、互いに顔を見合わせて笑った。



 その後も色々と話し込んでしまい、結局、マコトとフェスタは車で駅まで送ってもらう事になってしまった。

 改札前で頭を下げるマコト。
「色々ありがとうございました。来て、本当に良かったです」
「いやいや。こちらも楽しかったよ。ありがとう。・・・あと」
 リカルドは自身のポケットから、銀細工のストラップを取り出した。
「これを、もらってくれないかな?」
「え? ですけど・・・」
「・・・・・・。うん、実はね、作品名が『舞姫』なんだ。偶然か・・・それとも必然か。丁度今日、君たちが来る前に完成したんだけど」
 困った顔をしていたマコトに、そう言って差し出されたそれには。舞い踊る小さな舞姫と、蝶が彫り込まれていた。
「・・・はい。ありがとうございます」
 全てを不思議と思わなくなっている自分がいる。笑顔を浮かべてマコトはそれを受け取った。

 と。
 先ほどから何やらもじもじしていたフェスタが、意を決したように口を開く。
「あの・・・『ヴィネット姉さん』!?」
 その言葉に、リカルドの頭の上にいるヴィネットは少し驚いたような顔を浮かべた。
「また、来てもいい?」
 照れくさそうに頭を掻きながら言う『妹』に、彼女は優しく笑って見せる。
「・・・えぇ。いつでも来なさい? 『フェスタ』」
 そのままちらりと流し目をマコトに向け。
「ただし、ちゃんとして来るのよ?」
「うんっ!」
「・・・はい」
 ぱっと顔を輝かせ、嬉しげに言うフェスタと、恐縮するマコト。
 笑いが広がった。

 最後にもう一度礼をして。マコトとフェスタは改札を通っていった。
 手を振るリカルドとヴィネットも。やがてゆっくりと踵を返し、その場を後にする。


 ・・・。
 弦は、同じ一本より紡がれる。
 互いが決して交わる事はなく。一本に戻る事もない。
 しかしそれらは時として触れあい、時として共に歌声を上げ。

 ・・・そして。豊かに、響きあう。

 小降りになった雨は続く。
 風は、穏やかだった。


 第三幕。下幕。






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