自らの成せる事を、為したいから
世間では三連休となる少し前の日。私・槇野晶は一つの店に向かった。
“ホビーショップ・エルゴ”……日暮めが経営する店に“二人”でだ。
少々挑戦的な行動ではあるがこれもまた、HVIFの意義を問う為には
欠かせぬ行為の一つである……そう、“人間社会への単独進出”だな。
“ホビーショップ・エルゴ”……日暮めが経営する店に“二人”でだ。
少々挑戦的な行動ではあるがこれもまた、HVIFの意義を問う為には
欠かせぬ行為の一つである……そう、“人間社会への単独進出”だな。
「お出かけ~、お出かけ~、お姉ちゃんとお出かけですの~♪」
「葵、そんなにはしゃぐな。クララが胸ポケットから落ちるぞ」
「だってわたしは初めてですの、この姿で一緒におでかけはッ」
「葵、そんなにはしゃぐな。クララが胸ポケットから落ちるぞ」
「だってわたしは初めてですの、この姿で一緒におでかけはッ」
とは言え制約を自ら課した手前、今日HVIFを使うのはロッテのみ。
というわけで、私達は四人で……見た目は二人だが……店の門を潜る。
暖冬の所為もあってか、カウンターでは日暮めが眠そうに欠伸をする。
奴が私達に気付いたのは、欠伸が終わって数秒後……気を確かに持て。
というわけで、私達は四人で……見た目は二人だが……店の門を潜る。
暖冬の所為もあってか、カウンターでは日暮めが眠そうに欠伸をする。
奴が私達に気付いたのは、欠伸が終わって数秒後……気を確かに持て。
「ふぁあぁぁ~……ん?晶ちゃ、じゃないや。晶、いらっしゃい」
「有無。来てやったぞ、日暮。先日のメールは読ませてもらった」
「あ、あれね。基本プログラムとかは……って、そっちの娘は?」
「む、異母姉妹の葵だ。先日フィンランドから帰ってきたのでな」
「は、初めましてですの。日暮さんにジェニーうさ大明神さま♪」
「有無。来てやったぞ、日暮。先日のメールは読ませてもらった」
「あ、あれね。基本プログラムとかは……って、そっちの娘は?」
「む、異母姉妹の葵だ。先日フィンランドから帰ってきたのでな」
「は、初めましてですの。日暮さんにジェニーうさ大明神さま♪」
無論、異母姉妹だのフィンランドだのは全部私の描いた筋書きだ。
欺くのは心苦しいが、フェレンツェめとの“約定”だからな……。
極力平静を装った私と葵だが、流石に若干疑いの目が向いている。
日暮は勿論の事、胸像のジェニー。そしてたった今来店した客も。
欺くのは心苦しいが、フェレンツェめとの“約定”だからな……。
極力平静を装った私と葵だが、流石に若干疑いの目が向いている。
日暮は勿論の事、胸像のジェニー。そしてたった今来店した客も。
「人間の妹さんなんていたんだ、晶。てっきりロッテちゃんとか……」
「……そう言えば、何故初対面なのに私をその名で呼べるのですか?」
「あれ?ゲッ、やべ……!て、店長アタシこれで帰る、また来るッ!」
「……そう言えば、何故初対面なのに私をその名で呼べるのですか?」
「あれ?ゲッ、やべ……!て、店長アタシこれで帰る、また来るッ!」
──何故、客である所の少女にまで逃げ出されるのか不可解だが。
というより、あの少女が着ていた服。私がデザインした物に……?
いや、それ所ではないか。今日は、結果報告をしに来たのだった。
待ちきれずに、葵の胸ポケットから飛び出したのはクララである。
その手に握られていたのは、本と杖であった。私の作品の一部だ。
というより、あの少女が着ていた服。私がデザインした物に……?
いや、それ所ではないか。今日は、結果報告をしに来たのだった。
待ちきれずに、葵の胸ポケットから飛び出したのはクララである。
その手に握られていたのは、本と杖であった。私の作品の一部だ。
「日暮さん。貴方から送られたアーカイブ、ボクが解読したんだよ」
「クララちゃんが?じゃあ、この本と杖ー……いや、違うかなコレ」
「察しがいいな。共に解析した私が作り上げた、彼女の“武器”だ」
「クララちゃんが?じゃあ、この本と杖ー……いや、違うかなコレ」
「察しがいいな。共に解析した私が作り上げた、彼女の“武器”だ」
それは本と言うには無骨であり、杖と言うには先端が槍の様であった。
何よりどちらにも鋼が使われており、杖には弾倉まで備え付けている。
そう……これは“盾”と“槍”であり、更に“魔導具”でもあるのだ。
何よりどちらにも鋼が使われており、杖には弾倉まで備え付けている。
そう……これは“盾”と“槍”であり、更に“魔導具”でもあるのだ。
「備蓄データは、日暮さんの書式通りボクが変換して書き込んだ」
「えっ?だって、一頁当たりでもPCなら二分くらい掛かるぞ?」
「ボクの能力なら、二分で十二頁は処理できるもん。余裕だよッ」
「……へぇー。流石“オーバーロード”って所か、クララちゃん」
「えっ?だって、一頁当たりでもPCなら二分くらい掛かるぞ?」
「ボクの能力なら、二分で十二頁は処理できるもん。余裕だよッ」
「……へぇー。流石“オーバーロード”って所か、クララちゃん」
確かにクララの“ゲヒルン”は、スパコンも凌ごうかという超常的な
情報処理能力を、彼女自身に与えている。だがそれだげではないぞ。
クララは元より読書が好きなのだ、趣味として明記できる程度にな?
読むジャンルも、漫画からビジネス書……更には辞書や専門書まで。
彼女は暇さえあれば本を読む。故に知識の量は、半端ではないのだ。
情報処理能力を、彼女自身に与えている。だがそれだげではないぞ。
クララは元より読書が好きなのだ、趣味として明記できる程度にな?
読むジャンルも、漫画からビジネス書……更には辞書や専門書まで。
彼女は暇さえあれば本を読む。故に知識の量は、半端ではないのだ。
「ただ能力を持つだけではなく、能力を使うのが好きだからこそだ」
「与えられた役割と才能を、使う事が好きか……良い事だと思うよ」
「ボクに出来る事をなんでもしたいだけ。褒める事じゃないもんッ」
「与えられた役割と才能を、使う事が好きか……良い事だと思うよ」
「ボクに出来る事をなんでもしたいだけ。褒める事じゃないもんッ」
と素っ気なく言い放つクララだが、少し照れている様に見えるな。
ここで、彼女にさせてみたい事を思いついたが……それは後々だ。
色々手続きが面倒な事になりそうだが、そこは何とかしてみよう。
ここで私の胸ポケットから、やっとアルマが顔を出してきた様だ。
ここで、彼女にさせてみたい事を思いついたが……それは後々だ。
色々手続きが面倒な事になりそうだが、そこは何とかしてみよう。
ここで私の胸ポケットから、やっとアルマが顔を出してきた様だ。
「あ、あのっ。初めまして!日暮さん、ジェニーさん……です?」
「そうです、大明神ではありませんので。宜しくお願いしますね」
「君が、アルマちゃんかな?話は晶から聞いたよ……元気そうだ」
「はいっ、マイスターの御陰で……あたし自身が見えてきました」
「晶。人数が増えて大変だけど、君が拠り所なんだから確りな?」
「そうです、大明神ではありませんので。宜しくお願いしますね」
「君が、アルマちゃんかな?話は晶から聞いたよ……元気そうだ」
「はいっ、マイスターの御陰で……あたし自身が見えてきました」
「晶。人数が増えて大変だけど、君が拠り所なんだから確りな?」
何を言うか、と笑ってみせる。“パーフェクトな仕事を”が信条だ。
ならば“妹達”を立派に、幸せにしてみせるのもパーフェクトにッ!
私自身の魂に掛けて、それだけは一生を掛けて成し遂げるつもりだ。
ただ同時に、私は皆の自由意思を護る。したい事をさせてやりたい。
理論だけではない感性や心情は、マイスター(職人)には必要なのだ。
ならば“妹達”を立派に、幸せにしてみせるのもパーフェクトにッ!
私自身の魂に掛けて、それだけは一生を掛けて成し遂げるつもりだ。
ただ同時に、私は皆の自由意思を護る。したい事をさせてやりたい。
理論だけではない感性や心情は、マイスター(職人)には必要なのだ。
「これ、マイスターが作ってくれたんですよ。戦乙女の槍です!」
「これが……なかなか攻撃的な能力持ってるね、使いこなせる?」
「分かるか日暮。だが、アルマの身体能力を一度見てみるといい」
「え?!あ、あのマイスター、ここで踊っちゃっていいんです?」
「構わぬ。ポケットの中で窮屈だっただろう、少し披露してやれ」
「これが……なかなか攻撃的な能力持ってるね、使いこなせる?」
「分かるか日暮。だが、アルマの身体能力を一度見てみるといい」
「え?!あ、あのマイスター、ここで踊っちゃっていいんです?」
「構わぬ。ポケットの中で窮屈だっただろう、少し披露してやれ」
その言葉を聞いてアルマは瞑目し、槍をそっと構えて舞い始めた。
彼女はとりわけ躯を動かす事が好きなのだ。しかも舞踊の類をな。
更に興が乗れば──────ほら、耳を澄ませ。聞こえるだろう?
軽やかで澄んだ彼女のハミングが、最近流行のJPOPの旋律が。
猪刈めに抑圧されて長らく出来なかった、自分の趣味が出来る事。
それが如何に幸せか、舞い踊るアルマが一番感じているだろうな。
彼女はとりわけ躯を動かす事が好きなのだ。しかも舞踊の類をな。
更に興が乗れば──────ほら、耳を澄ませ。聞こえるだろう?
軽やかで澄んだ彼女のハミングが、最近流行のJPOPの旋律が。
猪刈めに抑圧されて長らく出来なかった、自分の趣味が出来る事。
それが如何に幸せか、舞い踊るアルマが一番感じているだろうな。
「……こんな感じです。あの、えっと。如何ですか皆さんっ?」
「ストラーフとは言え、そんな重い槍を持って踊れるんだ……」
「修理は勿論、晶さんの改造も目覚ましい効能がある様ですね」
「うん。でもそれ以上に、綺麗だったと思うよ?楽しそうだし」
「ストラーフとは言え、そんな重い槍を持って踊れるんだ……」
「修理は勿論、晶さんの改造も目覚ましい効能がある様ですね」
「うん。でもそれ以上に、綺麗だったと思うよ?楽しそうだし」
……日暮、人の“妹”に色目を使って赤面させるのが楽しいのか?
クララも身長程ある槍を抱え、おろおろするばかりで可笑しげだ。
だが、どちらも満更では無さそうだな……これが平穏という物か。
クララも身長程ある槍を抱え、おろおろするばかりで可笑しげだ。
だが、どちらも満更では無さそうだな……これが平穏という物か。
「どうせですから、エルゴのバトルフィールドで試験してみますの?」
「おおッ、それは良いな葵!クララ、アルマ。一度模擬戦してみるか」
「ん、丁度いいや。オレも二人が気になるし、試してみてくれるかな」
「は、はい分かりました日暮さんっ!クララちゃんも、一緒にやる?」
「やってみよう、アルマお姉ちゃん。一度使って、様子を見たいもん」
「では、愛する“妹達”の勇姿をとくと拝見しよう。楽しみだな……」
「おおッ、それは良いな葵!クララ、アルマ。一度模擬戦してみるか」
「ん、丁度いいや。オレも二人が気になるし、試してみてくれるかな」
「は、はい分かりました日暮さんっ!クララちゃんも、一緒にやる?」
「やってみよう、アルマお姉ちゃん。一度使って、様子を見たいもん」
「では、愛する“妹達”の勇姿をとくと拝見しよう。楽しみだな……」
──────為したい事、成せる事。それがあれば、前に進めるよ。