再誕せし、哀しき神の姫(後半)
人間から逃げ出そうと走り出した“彼女”を、ロッテが抱き留める。
移動中に武装は解除したが、琥珀色の瞳で“彼女”には分かる様だ。
人間である私達に対して程ではないが、少し怯えの色が見て取れた。
移動中に武装は解除したが、琥珀色の瞳で“彼女”には分かる様だ。
人間である私達に対して程ではないが、少し怯えの色が見て取れた。
「……あたしは、自分の誇りに気付いてそれに従い戦いました」
「はいっ。それは……誇らしくて素敵でしたの、お姉ちゃんは」
「でも、あの人は応えてくれなかった……あたしを“殺した”」
「はいっ。それは……誇らしくて素敵でしたの、お姉ちゃんは」
「でも、あの人は応えてくれなかった……あたしを“殺した”」
感極まったのか、涙声でロッテの胸板をぽかぽかと叩く“彼女”。
ロッテは言葉もなく、暫くの間自らの胸で泣く神姫を撫でてやる。
落ち着くのを見計らい、クララがそっと挟み込む様に背中を抱く。
物理的に涙を流せずとも、間違いなく“彼女”は泣いているのだ。
ロッテは言葉もなく、暫くの間自らの胸で泣く神姫を撫でてやる。
落ち着くのを見計らい、クララがそっと挟み込む様に背中を抱く。
物理的に涙を流せずとも、間違いなく“彼女”は泣いているのだ。
「ずっと、あたしはあの人に喜んでほしかっただけなのに」
「その為に痛くても辛くても……我慢し続けたんだよね?」
「……それなのに、あの人は一回も笑ってくれなかった!」
「その為に痛くても辛くても……我慢し続けたんだよね?」
「……それなのに、あの人は一回も笑ってくれなかった!」
後で分かった事だが“彼女”には愛玩用の改造が施されていた様で、
猪刈めは苦悶の表情を浮かべる“彼女”を、毎晩罵っていたらしい。
それは残酷な嘲笑であっても、優しき微笑では決してなかったのだ。
無論その様な機能はMk-Z氏が取り外してくれたらしい、何よりだな。
猪刈めは苦悶の表情を浮かべる“彼女”を、毎晩罵っていたらしい。
それは残酷な嘲笑であっても、優しき微笑では決してなかったのだ。
無論その様な機能はMk-Z氏が取り外してくれたらしい、何よりだな。
「あたし、何の為に今まで生きてきたの……人間が、怖い」
「お姉ちゃん。貴女の中に“誇り”は、まだありますの?」
「ほこ、り……?あたしの、誇り……?あたしの中に……」
「戦いの時、誰かの為に身を呈した“心”は偽物ですの?」
「お姉ちゃん。貴女の中に“誇り”は、まだありますの?」
「ほこ、り……?あたしの、誇り……?あたしの中に……」
「戦いの時、誰かの為に身を呈した“心”は偽物ですの?」
『違う!』と“彼女”は叫び、そして何かに気付き……泣き出した。
例え猪刈が外道であろうとも、彼奴めに尽くしたかった想いは本物。
それが故に、裏切られた事が大きな傷となってのし掛かるのだ……。
例え猪刈が外道であろうとも、彼奴めに尽くしたかった想いは本物。
それが故に、裏切られた事が大きな傷となってのし掛かるのだ……。
「ならもう一度だけ人間を、ううん……神姫を信じてほしいですの」
「……神姫を、信じる?えっと、うんと……神姫を、って貴女達?」
「そう。マイスターを信じているボク達を、信じてほしいんだよ?」
「……神姫を、信じる?えっと、うんと……神姫を、って貴女達?」
「そう。マイスターを信じているボク達を、信じてほしいんだよ?」
優しく抱きしめ言葉を紡ぐロッテ。背後から抱き寄せるクララ。
二人の言葉で初めて“彼女”は、私・槇野晶を見上げてくれた。
そんな三人を、私は優しく抱き上げて……胸元でそっと暖めた。
二人の言葉で初めて“彼女”は、私・槇野晶を見上げてくれた。
そんな三人を、私は優しく抱き上げて……胸元でそっと暖めた。
「あっ……うんとっ、えっと……お姉さん……?」
「何でも構わん。それよりな、私の所に来ないか」
「あ、あなたのお側に……あたしがですか……?」
「そうだッ。あの様な哀しい想いはもうさせん!」
「で、でも……あなたを信じていいのか、あたし」
「何でも構わん。それよりな、私の所に来ないか」
「あ、あなたのお側に……あたしがですか……?」
「そうだッ。あの様な哀しい想いはもうさせん!」
「で、でも……あなたを信じていいのか、あたし」
“彼女”は哀しそうに、目を伏せて呟いた。それもそうだろう。
マスター登録は解除されているが、それで事が済むわけはない。
だが、ここで口を開いたのは……先んじて引き取られたクララ。
マスター登録は解除されているが、それで事が済むわけはない。
だが、ここで口を開いたのは……先んじて引き取られたクララ。
「マイスターは、不具合で戦えないボクを救ってくれた」
「不具合?そんな……えっと、ごめんなさい……あたし」
「謝らなくてもいいですの。お姉ちゃんは何も悪くない」
「不具合?そんな……えっと、ごめんなさい……あたし」
「謝らなくてもいいですの。お姉ちゃんは何も悪くない」
何か言おうとした“彼女”の唇は、ロッテの指でそっと塞がれた。
決して人間への不信が払拭された訳ではない。またそんな自分が、
人を信じていいのかという迷い。それに私は、誓いを以て応える。
決して人間への不信が払拭された訳ではない。またそんな自分が、
人を信じていいのかという迷い。それに私は、誓いを以て応える。
「私がお前達を裏切りし時は、この命果せても訪れぬと知れ」
「え?そ、そんな……そんな大げさな事、言わなくても……」
「いいや、誓いは我が胸とお前……“アルマ”の胸にある!」
「“アルマ”……?それが、あたしの名前……お姉さんは?」
「我が名は槇野晶、マイスターの名に誓い皆と共に在る者だ」
「え?そ、そんな……そんな大げさな事、言わなくても……」
「いいや、誓いは我が胸とお前……“アルマ”の胸にある!」
「“アルマ”……?それが、あたしの名前……お姉さんは?」
「我が名は槇野晶、マイスターの名に誓い皆と共に在る者だ」
それは、嘘偽りのない想い。命と引き替えにしても、破れぬ願い。
私は3人の“姉”として死ぬ時まで苦楽を共にする為、側に居る。
これはアルマのみならず、ロッテとクララにも改めて誓った言葉。
マイスター(職人)の誇りに賭けて、心より発せられる“契り”だ。
私は3人の“姉”として死ぬ時まで苦楽を共にする為、側に居る。
これはアルマのみならず、ロッテとクララにも改めて誓った言葉。
マイスター(職人)の誇りに賭けて、心より発せられる“契り”だ。
「あ……えっと、ま……マイスター、でいいですか?」
「有無、構わん。これからは私の“妹”だ、よいなッ」
「これから宜しくお願いですの、アルマお姉ちゃん♪」
「……アルマお姉ちゃん、ずっと皆で生きていこう?」
「うんと、はい。皆を一度信じてみる事にします……」
「有無、構わん。これからは私の“妹”だ、よいなッ」
「これから宜しくお願いですの、アルマお姉ちゃん♪」
「……アルマお姉ちゃん、ずっと皆で生きていこう?」
「うんと、はい。皆を一度信じてみる事にします……」
泣き出しそうな笑顔のアルマに、抱きしめるロッテとクララ。
そして、そんな三人が愛おしくてずっと優しく抱きしめる私。
何があろうとも、彼女らの力でいてやろう。私はそう思う!!
そして、そんな三人が愛おしくてずっと優しく抱きしめる私。
何があろうとも、彼女らの力でいてやろう。私はそう思う!!
「……ありがとうな、アルマや」
「きゃっ!?……あ、あっ……」
「きゃっ!?……あ、あっ……」
そしてロッテにもクララにも行った、額への誓いの口付け。
真っ赤になり応じるアルマが、なんとも可愛らしいな……。
真っ赤になり応じるアルマが、なんとも可愛らしいな……。
「ええと、うんとっ。みんな、宜しくお願いしますね?」
「はいですのっ♪クララもわたしも、マイスターもっ!」
「帰ったら、いろいろ好きな服を見繕ってやらねばなッ」
「有り難う、Mk-Zさんにマーヤさん……後は田中さんも」
「はいですのっ♪クララもわたしも、マイスターもっ!」
「帰ったら、いろいろ好きな服を見繕ってやらねばなッ」
「有り難う、Mk-Zさんにマーヤさん……後は田中さんも」
クララに釣られ、私達はそろって助力してくれた人々に礼を言う。
Mk-Z氏は何やら曰くありげに笑っている……恐らくはアレかもな。
Mk-Z氏は何やら曰くありげに笑っている……恐らくはアレかもな。
「いえいえ。こっちもいろいろ、参考になりますしね?」
「おにーさま、Dr.CTaさんも褒めてくれますよきっと!」
「よーし……それでは帰るか、懐かしき我が家になッ!」
「おにーさま、Dr.CTaさんも褒めてくれますよきっと!」
「よーし……それでは帰るか、懐かしき我が家になッ!」
──────愛しき神の姫に、優しき心の誓いを。