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 第一幕。上幕。



 中学校から家路を急ぐ少年と、彼の肩に、ちょこんと座った金髪の小さな少女。

 彼の名前は新堂真人。名はマコトと読む。少女は天使型神姫「アーンヴァル」。名はフェスタ。
 二人は顔は決して明るいわけではない。 マコトの横顔には暗い印象があり、フェスタの視線は定まらず、何処と無く虚ろでただ遠くを見ている。それに・・・。

 かちゃん。
 という音で脚を止める。見れば数歩前でフェスタが落ち、ひっくり返っていた。頭をさすりながらゆっくりと上体を起こしている。
 マコトは手を差し伸べて彼女を拾い上げ、胸ポケットに入れようとする。と、両手でポケットの縁を掴んでそれにフェスタは抵抗した。
「肩しか、ヤだ。肩がいい」
「・・・解った」
 そっと肩に手を持っていくと、せっせと手だけでよじ登り、フェスタは何とか元の位置に納まった。

 彼女には。腿から先が無かった。



 ダンスが好きな神姫だった。

 家に初めて来た神姫。母が発売日にこっそり買ってきて、マコトに押し付ける形になったのだが。姉も、フェスタを可愛がってくれた。
 良く笑い、リズムだけ歌いながら何時もクルクルと踊っていた。どちらかといえば寡黙な彼の肩や頭は即席のステージと化し、いつしか人が集まって来るようになった。フェスタ(祭)という名前も、そのダンス好きな一面から取った物。
 バトルは決して得意ではなかったが、そこでもダンスの才能を垣間見せた。純正装備に加えてマコトが買ってきた、大型のライトサーベルでの近接戦が得意・・・いや、好きだった。マコトの適切な指示の元、彼女はジュニアランクの上位に食い込んでいった。

 バトル・・・そう、戦場であるにも関わらず。そこでも彼女は舞っていた。
 指先まで伸ばし、しなやかな肢体をくねらせ、翼を羽ばたかせて。その完璧な姿勢制御で駆け巡るフィールド。淡い粒子が舞い散る大剣は、ステージに姿を変えた戦場に美麗なる光の帯を引いた。流麗なるは光剣の天使。と噂され、彼女の舞いを見る為に遠征者が来る程であった。
「もっと色んな人に見て欲しいね」
 そう言って、彼女は笑っていた。

 自慢の神姫だった。

 いつものように肩で踊っていた時。弘法も筆の誤りか。彼女はバランスを崩し、落下した。失敗失敗と起き上がろうと身体を起こし。
「フェスタッ!!」
 絶叫に近い大好きなマコトの声を掻き消したのはエンジン音。
 悲劇は、一瞬だった。


 脚が潰れただけ。
 メーカーからの補充パーツさえ来さえすれば、直ると思っていた。武装神姫は圧倒的人気を誇る商品だ。順番待ちなのは仕方が無い。
 かかった期間は三週間。届いた純正の脚部を神姫ショップで装着。それで全てが解決するはずだった。
「・・・」
 ぽかんと口を開けて、フェスタは呟いた。
「何も感じない・・・」
 次の瞬間に堰を切ったように泣き叫ぶ彼女を何とか宥め、その日のうちに電車に乗ってメーカーに修理に行った。
 何か色々なデータが取られ、様々な脚部が試された。武装神姫の物だけではなく、それ以前の神姫の物も。
 その結果は残酷な物であった。
 センサー類に異常は見つからず、原因は不明。恐らくは潰れたときのショックか、長く脚が無かった為に運動系制御機構にバグが発生しているのだろうとの事だった。
 ・・・だが。
 マコトはうっすらと別の理由を感じていた。
 それは。非現実的だけれども。

 その日から、フェスタは笑わなくなった。



 手だけで肩に掴まっているフェスタが、ぼんやりとした目のまま思い出したように言った。
「マコト・・・」
 また。はじまった。
「私を、捨ててもいいよ?」
 あの日から。彼女は口癖のように言い始めた。
 自分を捨ててと。邪魔だろうと。決して目をあわさずに。
「嫌だ」
「マコトはバトルが上手だし・・・頭も良いし」
 黄色い髪が彼の歩幅に合わせて揺れる。
「歩けない神姫なんか連れてたら彼女も出来ないよ?」
 自嘲が僅かに混ざる声。
「嫌だ」
 いつもの返答を、たった一言の返答を繰り返す。数秒の空白。なおもフェスタが口を開く。
「だけど」
「フェスタがいい」
 その言葉を聞くと、ふっとフェスタは黙り込んだ。
 解っているんだ。喧々囂々と怒鳴りあった、はじめて捨ててくれと彼女が言い出した日。
 知らず、口を吐いて出たその一言でフェスタは静かになった。
 ・・・きっと、彼女は。この言葉が聞きたいのだ。聞かなくては不安で仕方ないのだと、マコトは解っていた。

 いつしかマコトも、笑わなくなった。



 何度か落ちそうになりながらも、フェスタを肩に乗せて自宅に到着する。無機質な様式の家。大量に作られた、特徴のない家。
 家としても初めての神姫であるフェスタが来て、そんな家も一気に華やいだ。
 ・・・あの日までは。
「?」
 ふと見ると、家の車庫に見慣れない車が止まっていた。怪訝に思いはしながらも、彼は玄関の扉を開けた。


「おかえりなさいマコト」
 聞きなれた声。今は僅かに無機質ささえも感じる。
「・・・お客さんが見えているわよ?」
 トレイを持った母親が玄関にぼんやりと突っ立っている息子に声をかける。
「お客?」
 我を取り戻し覗き込むと、応接間には身形の良い初老の女性が座っていた。
「・・・誰?」
「神姫研究所の方よ。その・・・フェスタちゃんの事で。話したい事があるんだって」
 研究所というワードに眉を顰めながらも、彼は鞄を置いた。


「はじめまして。新堂真人さん。そしてフェスタさん」
 初老の女性はその外見同様、固そうな性格を思わせる一応の笑みを浮かべながら言葉を切り出した。
「私、千葉峡国神姫研究所の所長を務めております。小幡紗枝と申します」
 差し出された名刺を受け取り、はぁ・・・としか答えられないマコト。
 フェスタは机の上に腿を前に投げ出す形でぼんやりと座っている。視線は小幡の方を向いてはいるが、その焦点が合っているかは甚だ怪しい。
「えっと・・・」
 返答に困る彼に、小幡と名乗った彼女は金属製のケースを机の上に置いた。
「用件とは他でもありません。彼女・・・フェスタさんについてです」
 ちらりと、机に座っているフェスタに視線を移す。
「フェスタにですか?」
「はい。失礼ながらお話は聞いています。残念な事故に遭われたと・・・」
 光を照り返さぬ瞳のまま、フェスタが小幡を睨みあげた。
「そこで、こちらを持参しました。フェスタさんは初期ロット。系統が合うという事で」
 ケースをゆっくりと開ける。と。
「脚・・・?」
 そこには、白いメインカラーに草色のラインが走った神姫の脚が入っていた。
(こんな塗装見た事が無い)
 どことなくディティールがやぼったいというか・・・古臭い上、表面も武装神姫のようにツルツルしておらず、処理が悪い。
「あの、小幡さん。でもフェスタは・・・」
「だからこそ、この脚部を持参した次第です」
 マコトははっと、思わず身を乗り出す。
「この脚なら、フェスタでも動かせるとか!?」
 ぴくっと、フェスタが肩を揺らせた。

 だが小幡はゆっくりと首を横に振った。
「それは解りません。この脚部はCRZRタイプの物。つまりは、旧式です」
「え?」
 マコトの間の抜けた返答。すると、フェスタがポツポツと呟くように言った。
「CRZR・・・タイプ・クラリネット。製造年2031年から2034年。少数生産された会話や通訳を主目的とするタイプであり、発声能力や気候対応能力、外国語発音能力に非常に優れる・・・」
 そこで彼女は口を噤んだ。
「その通りです」
「・・・で?」
 虚ろな瞳のまま、フェスタは肩を竦めた。
「そのポンコツとも言える脚を、どうしようと言うのですか? 所長さん?」
「フェ、フェスタ!」
 乱暴な言い方に慌てたマコトの声を無視して、彼女は淡々と続ける。
「確かに第一弾初期ロットにCRZRの脚部は合います。でも、そのクラリネットタイプの脚は既に試しました。まさかそれをまた?」
 小幡は一つだけ頷き、同じ返答をした。
「その通りです」
 馬鹿げてる・・・と小さく口の中で悪態を吐き、フェスタは歯を鳴らして再び口を噤んだ。
 マコトもまた肩で溜息をついて、目を伏せた。
(きっと・・・フェスタはもう・・・)
 試す事さえも、苦痛なのだろう。
 幾度試しても、どれを試しても動かない脚。ほんの僅かな期待はその都度に踏みにじられ、その度に絶望のシャワーを浴びて、泣き叫び続けたのだから。
「あの小幡さん、ありがたいお話ですが・・・」
 断ろうとしたマコト。だが、その床を見つめていた間にか、小幡は鞄の中から小型のコンピュータを取り出していた。
「失礼ですが。コンセントを貸していただけますか? 充電を忘れてしまって」
「あ・・・はい」
 彼はとりあえず頷いてしまっていた。


「その脚部を持参したのは・・・」
 手元で立体モニターを搭載したコンピュータにデータを打ち込みながら、小幡はゆっくり話し始めた。
「実は、私の意志ではありません」
「え?」
 その意を介す事が出来ず、思わず聞き返すマコト。
「言うなれば『遺志』です。私の、神姫の」
「・・・遺志?」
 神姫の遺志?
「フェスタさん」
 小幡に頼まれる形でコンピュータの真正面に座らされ、相変わらず虚ろな視線をしているフェスタに声をかける。フェスタはフェスタで反応を示そうともしない。
「貴女は、自分を捨ててくれと。言っているようですが」
 目線だけ動かし、彼女は小さく返した。
「それが何の・・・」
「未来を紡ぐ事を、止めようと言うのですか? 『今、ここにいる』のに」
 少し強く言う。
 紡ぐという単語に疑問符を浮かべ、フェスタは僅かに首をかしげた。
 その仕草を見て小幡は悲しげな顔をし、やがて目線を逸らすと、データを再生させた。
「・・・どうか、御覧なさい。これはきっと、貴女へのメッセージです」


『はじめまして。妹であり娘である神姫よ』

 モニターに。
 腰まで届く草色の髪と、透き通るような銀の瞳を持った、美しい神姫が映し出された。
 スペーサージョイントの部分から解るが、武装神姫ではない。もっと古いタイプの神姫。そのスーツカラーはパールと草色に彩られている。
『私はゼリス。プロトタイプ=クラリネット。私はこれより、全ての機構を停止して眠りに就きます』
 その自己紹介で放たれた名前。そして続けられた言葉に、フェスタとマコトは息を飲んだ。

 聞いてはいた。
 去年のクリスマス、ゼリスという名の「死」を選ばされた神姫がいたという事は。それは神姫の意思ではなく・・・。
 少なくとも。マスコミはそう伝えていた。

『想い出を守る為に、大切な人との日々を失わない為に。この素晴らしい時間を与えてくれた世界に感謝して』
「・・・想い出?」
 ゼリスはモニターの中で。しかし彼女はフェスタのぽつりと漏らした言葉に、小さく頷いてから言葉を続けた。
『私が眠りに就いた後、私の身体をパーツとして、哀しみに囚われた神姫に与えてくださるようにマスターに頼みます。この映像を見ている貴女は、身体の一部を失って嘆き哀しんでいるのですか? それとも生まれながらに身体に不自由を持ち、それの為に涙を流しているのでしょうか?』
 ぎくりとしてフェスタはゼリスの顔を見返した。これは録画された物のはず。しかし、その口元に浮かぶ静かな微笑は、確かに彼女自身に向けられている。
『・・・私の身体は、きっと貴女達には旧式でしょう・・・すみません』
 少し目を伏せ、悲しげに言う。
 そんなこと・・・と思わずフェスタは小さく漏らし、僅かに首を振った。数秒の間の後、再び優しい笑みを湛えてゼリスは語る。

『心が豊かであればあるほどに、貴女は知らず、新しい身体を拒むでしょう』

「!」
 マコトとフェスタは共にはっとしてモニターを直視する。
「拒む・・・? 私が? ・・・?」
「フェスタ・・・?」
「う、うん・・・そんな事」
 少し自信なさげに下を向いた彼女に、ゼリスは諭すように続けた。

『そう・・・貴女が失ったのは身体だけではなく。そこに込められた『心』そのものなのですから』
「・・・!?」
『非現実的と、非科学的と笑いますか?』
 驚いたように顔を上げたフェスタに、くすっと笑う。
『けど・・・私は信じます。信じています』
 目を閉じて、彼女は胸に両手をやった。

『・・・『ここ』に、作り物じゃない、心があるという事を』

 そこにあるのはCSC。プログラミングによる人工の属性付与機構。
 フェスタは知らず、自分の胸に手をやっていた。
 ・・・それだけだろうか?

 ・・・それだけなんだろうか?

 熱い、何かがゆっくりと。胸から込み上げてきた。
『受け取りなさい・・・私の身体を使う事で、娘の嘆きが止むのであれば。この『心』を与える事で、妹の涙を拭い、哀しみを癒す事が出来るのであるならば。何故、どこに迷う必要があるでしょう?』
「あなたは・・・」
 マコトが思わず声を出すが、小幡が手で制する。
 気付くとフェスタはじっとモニターを微動もせずに見つめていた。その空虚だった瞳には確かに光が宿り、涙で揺らいでいる。
『この身体には・・・何者にも代え難い、きっと・・・貴女達が築き歩いてきたと同じ程の『想い』が込められています』
 ゆっくりと語りかけるゼリス。フェスタの口が、何か言葉を紡ごうとする。
「・・・っ」
 ぱくぱくと。何かを必死で言おうと。何かを伝えようとする。
 ・・・涙が、一筋、零れた。
『私の身体は想いで満ちています。私の想いを受け継ぎなさい。私の心と共に歩んでください。きっと、きっと貴女の閉ざされた心も開けると・・・信じています』
 フェスタの涙を見て、ゼリスのその笑顔にも一本の涙が伝った。
 それはきっと。自分への嘆きではない。
 これを見ている、哀しみを抱いた娘へと送る涙。
『・・・笑顔のとき、そして涙のとき。空を見上げ、海を眺め、夢を描くとき・・・心が揺れ、そして『想い』が生まれ出るそのとき。いつでも私は、貴女と共にいます』
 フェスタが身をゆっくりよじりながら、肩を揺らせた。目からは涙、唇は震え、首を僅かに左右させる。
『妹達、娘達よ。貴女達を愛しています。・・・これまでも、これからも』
 優しさと、ほんの少しの哀しみを湛えた唇が、言葉を紡いでいく。
『そして・・・』
 一度、口を噤む。
 ゼリスは、優しい母の微笑みを浮かべ、両手を広げるように確かにフェスタに語りかけた。

『想いと共に。未来を、紡ぎなさい』

 もう、抑えることは出来なかった。口をついて出る、その言葉を。
 神姫。生まれながらのツクリモノの身体。だけど・・・。 
「お母さん・・・」
 涙でもう満足に前が見えない。フェスタはモニターに近づこうと指を伸ばし、そのまま前のめりにカチャンとその場に倒れ込んだ。
「う・・・うぁあ・・・っ」
 手だけで這うように進み、モニターの中で尚も優しげな微笑みを浮かべるゼリスに・・・母に、彼女は腕を伸ばす。
 ゼリスの柔らかな視線は・・・不思議と真っ直ぐにフェスタに向けられていた。そのまま、小さく頷いて娘を迎える。
 フェスタはようやくモニターに辿り着き、母の姿に顔をすりつけ、泣きじゃくった。


 コンピュータのキーボード部を椅子にして座ったフェスタ。背からはケーブルが数本、コンピュータの本体に向かって伸びている。
 腿より先に取り付けられたのは・・・美しい草色のラインが走った脚。応接間にはマコト、小幡だけではなく。母、そして大学から帰ってきた姉も集まって、それを見届けようとしていた。
「セッティングは終了しました。さぁ・・・」
 小幡が背中からジャックをゆっくりと抜く。小さな手が震えながら膝に据えられた。
 ぐっと身体を前にして、力を込める。真綿の上から触っているような感覚しかない。
(でも・・・。違う)
 武装神姫の高質合成樹脂でもない。旧式の神姫の脚。しかしそれだけじゃない。
 確かに、確かにそこは暖かい。
「ううっ・・・!」
 力を込め、ゆっくりと腰が浮いた。
「フェスタっ」
「大丈夫・・・!」
 心配そうな声を出したマコトを制し、フェスタは目を閉じ、歯を食いしばった。
(もう一度)
 いつから諦めたのだろう。それを。あんなに大事だったのに。
(もう一度・・・踊りたい)
 もう一度。あの時のように。今も鮮明に思い出す自分の姿。喜んでくれたマコトの顔。
 本当にいつから・・・夢を見る事さえ止めたのだろう。
「うあっ!」
 キリキリと音を立てながら、ゆっくり膝関節が曲がっていく。
(マコトと・・・笑いたいよぉっ!)

 彼女の偽りない想い。しかし、それに反して脚は動いてくれない。
(ダメ・・・!)
 力が続かず、膝からガクっと崩れかける。

 ・・・・・・。
 小さな背を、誰かが押した。

 確かに感じた、掌のぬくもり。
 大丈夫、と。耳元で優しく囁く声。
 草色の髪の匂いが、ゆるやかに舞った。

 カタカタッと足音を残し、彼女は二歩、進んだ。長く忘れていた脚の感覚が全身に伝わる。じんわりと伝わる、立っているという確かな抵抗。そのまま更に、ゆっくりと二歩三歩と、信じられないといった顔で歩みを進めた。
 カタ、カタ。足音は小気味良い音を立てながら、歩くという実感を与える。
 彼女はゆっくりと、振り返った。
「・・・フェスタ!」
 いつ以来かさえ忘れたマコトの笑顔が、そこに。
「マコトぉ・・・!」
 笑顔が零れる。抱き上げられ頬擦りされながら。フェスタは確かに、近くに母を感じていた。
 脚は。優しく、暖かかった。


 ありもしないドレスの裾を指先で持ち上げるジェスチャー。
 腰から礼をすると同時に左膝を曲げ、爪先でコツンとテーブルの天板を叩く。

 姉が持ち出したオーディオから流れ出す音楽。
 彼女は舞った。
 柔軟性の高い武装神姫の高質樹脂の脚とは違う、旧式の、少し硬い合成樹脂の脚。
 それは木のステージの上でステップを踏む度に乾いた音を響かせ、周囲の空気を奮わせる。翻す腕。伸びた指。くすんだ金髪が光をはらむ。音楽とステップが奏でるテンポは一つに解け合い、彼女の踊りにリズミカルな拍子を贈った。

 やがて舞い終えると、彼女はドレスを直す仕草をしながら、仰々しく一礼をした。
 拍手が彼女を包む。
 小さな舞姫が顔を上げると、その瞳には涙が薄く湛えられていた。


 ・・・。
 いつか、貴女に会う時に。胸を張って娘だと言える様に。
 未来を紡ぎます。お母さん。



 第一幕。下幕。







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