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 人、人間、ヒューマン。
 今現在、地球の食物連鎖の頂点に君臨する種族たるそれは、地球に存在するあらゆる獣に劣る。
 犬に噛まれて、最悪死ぬ。
 道に落ちているものを食べて、最悪死ぬ。
 熱かったり寒かったりで、最悪死ぬ。
 身体能力、免疫能力、適応能力etcで動物以下の能力しかもたないそれらが、唯一獣に勝る物、それは頭脳。
 人は思考する。
 人間は想像する。
 ヒューマンは予想する。
 犬に噛まれない為に、その習性を理解して手なずける。
 道に落ちているものが安全かどうか、知識を持つ。
 熱かったら身体を冷却し、寒ければ防寒具を身につける。
 本能の命じるままに動く野性を抑え。
 頭を働かせる理性を伸ばす。
 それが人の人たる由縁であり、最大の武器でもある。
 しかし、それはあまりに複雑だ。
 人は理性と共に高度な自我を持った。
 それは一つとして同じ物は無く、それを完璧に予測するのは困難を極める。
 どんなに技術が進歩しても、それを意のままに操る事は出来ない。
 それを心の底から痛感している人間―――恵太郎が、ここにいる。
 狭いアパートの4分の1を占めるベッドの上に力なく寝そべりながら、その日何度目か解らない疑問を口にする
「何でこうなるんだろうなぁ」
 悩む事は無駄ではない。
 試行錯誤の果てに正解を見つける、この試行錯誤こそが重要ではないだろうか。
 その過程で人の自我は成長していくのではないだろうか。
 もっとも、正解を既に見つけているにも関わらず苦悩するということを現実逃避とも言うのだが。
 恵太郎の心を掴んで離さない人物、それは他ならぬアリカだ。
 だからといって、それは恋のような甘酸っぱいものではなく、どちらかといえば苦いものだ。
 アリカは先日のリアルバトルからというもの、恵太郎を師匠と仰ぎ付き纏うようになったのだ。
 その原因の8割程は恵太郎自身にあると言えるだろう。
 だが、これだけでは恵太郎が苦悩する理由にはならない。
 恵太郎が苦悩する理由、それはアリカがかつての自分と被って見えてしまうからだ。
 アリカが本当に鬱陶しいのなら、冷たく突き放すという選択肢もある。
 しかし、恵太郎にはそれは出来ない。
 何故なら、アリカと恵太郎は全く同じ境遇にいるからだ。
 もしもアリカを冷たく突き放す、という事を恵太郎がやられた場合。
 恵太郎は立ち直れない自信があった。
 だから、恵太郎の執る選択肢はアリカを極力避けるという無気力なものだった。
 しかし、運命の悪戯というものは、かくも皮肉なものなのだろうか。


 恵太郎や佐伯姉弟が通う大学、その門を潜り抜けながら恵太郎は深く溜息をついた。
「何でこうなるんだろうなぁ」
 そして、その日何度目か解らない疑問を口にした。
 もっとも今までと違う点を挙げるとすれば、その疑問の中心人物がすぐ脇にいる事だが。
「弟子たるもの、何時如何なる時でも師匠に付き添うのがキホンってものです!」
 恵太郎の脇でご機嫌な様子で元気に喋るのはアリカだ。
 その肩の上ではアリカの武装神姫たるトロンベが困惑半分、興味半分といった様子で静かに座っている。
 恵太郎はそれを尻目に、その身に降りかかった不幸を嘆いている。
 一体何処の誰がアパートの前でアリカを鉢合わせる事になると想像できようか。
「それにしても、大きな大学ですねー」
 そんな事とは露知らず、アリカは周囲を見回しながら感嘆している。
 確かに、その大学は大規模な工場を備えているのでその分大きい。
 だが、そこまで驚く物ではないのではないかと、恵太郎は内心呟いた。
「あんまりキョロキョロするなよ」
 恵太郎は周囲を探るように言った。
 どちらかといえば、周囲の視線を測るようにだ。
 その理由は単純明快。
 アリカが人の目を集めているからだ。
 ここは大学であって、遊園地ではない。
 アリカのような少女がいる場所ではないのだ。
 人数まばらな日曜とはいえ、アリカはそれなりに奇異の視線を集めている。
 それが恵太郎の頭痛の種となっているのだ。
 恵太郎は、それを振り払おうとするように歩く速度を上げた。
「っと、師匠待ってくださいよ~」
 それはアリカにしては速すぎたようで、早足で恵太郎を追いかけた。
 空は雲ひとつ無い快晴である。
 だが、恵太郎はそれに気付くほどの余裕をまだ持ち合わせていなかった。


 重厚な扉の上に掲げられたプレートには『多目的研究室』と書かれていた。
 その下には張り紙で『第13班』とも書かれていた。
「師匠、今日は大学で何をするんですか? 今日日曜ですよね?」
「それは全員そろってから説明する」
 アリカは小首を傾げつつ、恵太郎に問いかけたが一瞥されただけで満足の行く回答は帰って来なかった。
 それに不満を感じたのかアリカは少し膨れているが、恵太郎はそれに触れる事無く扉を開け中に入っていった。
 恵太郎の後に続き、部屋に入るアリカ。
 その部屋は白い壁に3方を囲まれ、1方はガラス張りの壁だった。
 壁際には様々な器材が所狭しと置かれており、部屋の中央にあるテーブルの上では資料と思しきものが山を作っている。
「アリカ、お前を紹介するからちょっと来い」
 アリカはそれらを物珍しそうに見てたが、恵太郎の声にそれを中断した。
「コイツがあのアリカです……ほれ、挨拶」
「あ、あの、はじめまして。アタシは水野アリカって言います」
 アリカは恵太郎に促されて挨拶したが、緊張しているのか、その身体は強張っていた。
「初めまして、トロンベと申します」
 それと対照的にトロンベは落ち着いて挨拶した。
 だが、良く見ると身体が小刻みに震えている。
「この人が佐伯 裕也先輩」
 恵太郎は裕也を指して短く紹介した。
「おう、よろしくな、譲ちゃん達!」
 それに気を悪くする事無く、豪快に挨拶をする裕也。
「にゃーは蒼蓮華なのだー、よろしくなのだー!」
 その肩の上で元気一杯に挨拶する蒼蓮華。
「この人が佐伯 裕子先輩。裕也先輩の双子の姉に当たる」
「よろしくね、アリカちゃん、トロンベちゃん」
 春の日差しを思わせるのほほんとした口調で裕子は挨拶を交わした。
「初めまして、私はアル・ヴェル。今後ともよろしく」
 ポニーテールにしたアーンヴァル型のアル・ヴェルが挨拶をする。
「そういや、茜は来てるんですか?」
 一通り紹介が住んだのを見計らって恵太郎は口を開いた。
「ああ、奥の部屋で武装のメンテをしてるぞ」
 裕也は指でガラス張りの壁を指差しながら応えた。
「それと、孝也も来てるぞ」
 最後に一言付け加えたが、その言葉に恵太郎は顔を顰めた。
「アイツも来てるんですか…」
「我が主をアイツ呼ばわりとは、恵太郎殿はまことに我が主に厳しいで御座るな」
 何時の間にやら恵太郎の肩の上で腕を組んでいた忍者型の神姫が口を開く。
「確かに多少問題はあれど、あれはあれなりに良いところがありまするぞ」
「ああ、解ったから降りてくれ、トリス」
 トリスと呼ばれた神姫は、恵太郎の言葉を聞き入れ、テーブルの上へと移動した。
「アリカ殿、トロンベ殿。お初にお目にかかる。拙者、忍者型神姫のトリスと申す。以後お見知りおきを」
 そして、アリカとトロンベに向かい丁寧に挨拶した。
 アリカはそれに軽く返礼すると恵太郎へ向かい問い掛けた。
「師匠、茜って?」
「ちょっとした事で知り合った女の子なんだけど、凄い技術を持っていたからスカウトしたの。それと、コーヒーしか無いけど良いかしら?」
 アリカの質問に裕子が代わりに応えた。
 それと同時にインスタントのコーヒーを差し出した。
「あ、ありがとうございます」
 アリカはコーヒーを受け取り、ガラス張りの壁に視線を送る。
 その奥の部屋はこの部屋と違い黒い壁、というよりコンクリートむき出しの部屋で、機械的な装置が多数設置されており、床には大小無数のコードが這っており、天井にはダクトやケーブルが縦横無尽に奔っている。
 そこでは白衣を着た二人の人間がなにやら作業をしているのが見受けられた。
 それと同時に、アリカは言いようの無い不思議な感覚に襲われた。
「……まさか、ね」
 アリカはそれを振り払うように首を振った。
「ご主人様、どうかしましたか?」
 主の変化を機敏に察知したトロンベがアリカに声をかけた。
「ううん、何でもないの。ありがとう、心配してくれて」
 それに人差し指で頭を撫でながら事によって応えるアリカ。
 トロンベは心地良さそうに目を閉じるだけだ。
「茜ちゃん、孝也君、皆揃ったわ」
 テーブルの上に置かれたマイクに喋りかけるアリカ。
 それはスピーカーを通じて奥の部屋へと呼びかけられた。
「解りました~、今行きます」
 確かに少女の、ただ若干機械的な響きを伴った声が恵太郎達の部屋に響いた。
 少し遅れてガラスの壁が天井へと向かいスライドした。
 それが完全に天井の中へと収納されるのを確認した人物が恵太郎達の元に走りよりつつ口を開いた。
「けーくん、会えて嬉し…アダッ!」
 恵太郎は走り寄ってきた人物に容赦のない蹴りを叩き込んだ。
「寄るな、鬱陶しい」
 腹部を蹴られたその人物は地面をのた打ち回っている。
「…師匠、誰ですかコイツ」
 アリカはそれをやや離れた位置から見下している。
「ああ、君がけーくんの弟子のアリカちゃんだね! ボクは高野 孝也、けーくんの親友だよ」
「誰が親友だ、誰が」
 いつのまにか立ち直った孝也は、恵太郎から冷たい視線を浴びせられた。
「なーんかオタク臭いわね…」
「あはは、手厳しいね」
 アリカは孝也の白衣に眼鏡という出で立ちを見て、正直な感想を漏らした。
 しかし、それに対して孝也は困ったように笑うだけだ。
 その様子を傍観していた恵太郎だが、ふと思い出したように口を開いた。
「…アリカの事、お前に話してたか?」
 言いながら佐伯姉弟の方も一瞥した。
「それなら、私が話しときました」
 今まで黙っていた、もう一人の白衣の少女が口を開いた。
 眼鏡に白衣と、孝也と同じ服装だが、こちらは様になっていてどっからどう見ても研究者だ。
「アリカの事なら私が一番知っていると思いましたから」
 にこやかに言い放つ少女。
 それをワナワナとしながら見ていたアリカは口を開いた
「何でアンタがココにいるのよ!?」
 その叫び声は、四つ隣の研究室まで聞こえたという。


 世界は広いようで狭い。
 芸能人が近場に住んでいたり、学校の友人が実は親戚だったり。
 幼馴染と10年ぶりに再会したり、街中で親とすれ違ったり。
 人と人との縁というのは、本当に摩訶不思議な物だと思う。
 それでも、こんな縁は御免だ。
 アタシの目の前では茜が師匠達と和やかに談笑している。
 それは永年連れ添った中間達、といった様子でアタシのような新参者が入り込むことすらおこがましく感じる。
「マスター、そろそろ今回の目的を話されては?」
 今まで他の神姫とテーブルの上で談笑していた師匠の神姫、ナルちゃんが口を開いた。
「ああ、そうだったな。……実は先輩達に頼みたい事がありましてね」
 師匠は周囲をぐるりと見回しながら言った。
 その中に、アタシが少しでも入っていれば良いのに。
「なんだ、恵太郎が頼みとは珍しいな」
「ボクに出来る事だったら何でもやるよ、けーくん」
 裕也先輩と高野が快く快諾している。
 声には出していないけれども、裕子先輩や茜の表情からは悪い感情は感じられない。
「単刀直入に言うと、ナルの装備が壊れました。よって、その修復を手伝って貰いたい訳です」
「ああ、アリカが壊したアレですね」
 茜がアタシの方を見ながら言った。
 今気付いたが、ここでの茜はちゃんと人の目を見て話している。
 それに学校で話すときと随分感じが違う。
 この感じは、茜の家に遊びに言った時と同じだと思う。
 つまり、ここにいる人たちにそれほど心を許していると言う事なのだろうか。
「私達で良ければ幾らでも力になるわ」
「ありがとうございます、先輩」
 どうやら話が纏まったようだ。
 師匠が懐からだしたメモリーカードを差し出して、色々と話し込んでいるのが聞こえる。
 その中にはアタシが聞いた事の無い単語が飛び交うので、師匠たちが大学生なのだと実感する。
 そして、それに茜が混ざっているのに違和感は感じられない。
 アタシはそれに加わる事無く、ただ傍観に徹するのみ。
 残り少なくなったコーヒーを口に含みつつ、視線を泳がす。
「そうだけーくん、アリカちゃんに大学紹介してあげたら?」
 その言葉に身体が反応する。
「そうですよ先輩、ここは私達に任せてどうぞごゆっくり」
「いやマスターの俺がいないと色々問題が…」
「気にすんな恵太郎! ちゃんと改造しといてやるから!」
「何ですか改造って。俺はただナルの装備を修復しにきただけですから…」
「恵太郎君、年上の言う事は聞くものよ?」
 師匠は思いっきり抵抗していたが、裕子先輩に言われると黙ってしまった。
 ……これはチャンス?
「解りました。後は任せますけど、おかしな事はしないで下さいね?」
 師匠は念を押すように、低い声で言う。
 それと同時にアタシの方を見てから、指で扉を指した。
 外に行くという合図だろう。
 アタシはコーヒーをテーブルの上に置いて師匠に歩み寄った。
「そうだ、アリカ。トロンベちゃんもメンテしとくわ」
 途中で茜に呼び止められたので、渋々トロンベを手渡した。
 その間際、トロンベがどうする~アイ○ル~的な視線を送ってきたので、頭を優しく撫でてあげた。
「大丈夫、直ぐに戻ってくるから、ね?」
「…はい! ご主人様」
 元気に応えるトロンベを確認して、師匠の元へと向かう。
 師匠は既に廊下に出ており、扉の隙間から雲ひとつ無い快晴が見えた。


「さて、これで邪魔者はいなくなりましたね」
 恵太郎とアリカが出て行ったのを見計らい、茜が口を開いた。
 かけた眼鏡のレンズが反射して、その眼を窺い知る事は出来ない。
「じゃあ、とっとと作業始めようか!」
 裕也がやたら元気に音頭を取る。
「…ただ直すだけというのも芸が無いでござる」
 その時、孝也の頭上から声がした。
 トリスは腕を組み、足を揃えて静かに続ける。
「ナル殿の刃鋼と銃鋼は確かに高性能でござる。しかし、あの御寮人にはもう物足り無いのでは御座らんか?」
「そうえば恵太郎君、ナルちゃんの装備をあれにしてからもう一年経つのね」
「そうだな、そろそろ強化の頃合かもな、姉貴」
 トリスの言葉に佐伯姉弟も同意しているようだ。
 それを確認し、満足そうに頷くトリス。
「そうであろう、そうであろう。今のナル殿に必要なのは機動力と火力の両立、そして隙の無い間合いだと拙者は思う」
「けど、けーくんのいない間に勝手に弄っちゃまずいんじゃ…」
 乗り気ではない孝也に対し、茜はノリノリだ。
「…そういえば新型の荷電粒子砲を開発したって、四班の人たちが言ってましたねぇ。それに六班は燃料電池の小型化に成功したとも聞きましたよ。」
 顎にひとさし指を添え、上方を見ながら喋る茜。
 その言葉に反応したのは佐伯姉弟だった。
「なるほど、じゃあ俺は四班の連中と交渉してくるか」
「じゃあ私は七班の人たちに頼んでくるわね」
 そういい残すと、颯爽と部屋から出て行った。
 後に残されたのは茜と孝也だけだ。
 孝也は未だに乗り気でないらしく、困った顔をしている。
「主殿、首尾良く強化できれば恵太郎殿もお喜びになられますぞ」
 その肩に飛び降りたトリスは軽く耳打ちをした。
「でも、ナルちゃんの意思は…」
「私はむしろウエルカムです」
 だいぶ心が揺れてきたのか、孝也の視線が泳いできた。
 そして、最後の希望として話しかけたナルにも快い快諾を貰ってしまった。
「それでは制御用プログラムを作りましょうか。先輩、私だけではキツイので援護お願いします」
 もはや言い逃れる術は無かった。


「ただいま戻りました」
 広大な敷地面積を誇る大学をアリカに案内していた恵太郎が研究室へと帰ってきた。
 その顔には明らかな狼狽の色が現れている。
「ただいま戻りました~!」
 そんな恵太郎とは対照的に、元気一杯に研究室へと飛び込んだアリカ。
 その顔には満面の笑みが浮かんでいる。
「よう、遅かったな恵太郎」
 奥の部屋から裕也の言葉だけが響く。
「ここの敷地面積知っているでしょう…」
 それに力なく椅子に腰掛けながら応える恵太郎。
 その言葉からは肉体的な疲労と言うより、精神的な疲労の方が多く見える。
「どうだった、アリカちゃん?」
「はい、凄い楽しかったですっ!」
 裕子の問いに満面の笑みで応えるアリカ。
 その表情からは翳りは一切無く、その言葉が本意であることを物語っている。
「で、けーくん。何処を案内したんだい?」
 孝也は壁際に備えられたパソコンに向かいながら問い掛けた。
「ひとまず一班から十二班まで順番に。その後MMS博物館を回って資料室と工場見学。最後にバーチャルマシーンセンタの順に。」
「成る程、それは疲れるね」
 机に突っ伏しながら応えた恵太郎に軽い労いの言葉を掛ける孝也。
「神姫好きにはたまらないコースですね、先輩。どうぞ」
「ん、ありがとう」
 恵太郎にインスタントコーヒーを手渡す茜。
「はい、アリカも。あとトロンベちゃんのメンテだけど、当然ながら問題は無かったわ」
「悪いわね」
 アリカはコーヒーとトロンベを受け取ると、恵太郎の隣に座った。
「ご主人様、外はどうでしたか?」
「そりゃ凄かったわよ~。初期に作られたというMMSのアーキタイプとかあって……」
 アリカはトロンベに今見てきたことを話して聞かせている。
 茜はそれを一瞥すると奥の部屋へと歩いていった。
 暫しの間、研究室にコーヒーの香りとキーボードを叩く音、そしてアリカとトロンベの談笑が支配した。
「ところで、ナルの修復は?」
 一息ついたところで、恵太郎は誰にでもなく話しかけた。
「後は孝也君が制御プログラムの最終調整をしている所よ」
「……制御プログラム? 何か問題でもあったのですか?」
 恵太郎の問いに裕子が応える。
 その問いが若干予想外であった為、恵太郎は二度目の疑問を口にした。
「まあ、出来上がってからのお楽しみね」
 しかし、その問いに満足の行く回答が反される事は無かった。
 恵太郎はそれ以上追及する事無く、孝也へと視線を移した。
 孝也は忙しなくキーボードを叩きディスプレイを睨んでいる。
 裕也と茜は奥の部屋で作業をしている。
 裕子は資料の整理をしている。
 恵太郎とアリカは並んでコーヒーを飲んでいる。
 名状しがたい、しかし、悪くは無い空気が研究室に満ちていた。
「ところで、四班と七班の連中から嫌な視線を感じたんですが、知りませんか?」
「それも出来上がってからのお楽しみね」
 恵太郎はそれ以上追従出来なかった。
「ふう」
 その空気の中、孝也が静かに溜息をついた。
 研究室にいる全員の意識が孝也に集中する。
「制御プログラム、何とか出来たよ。かなり突貫だから荒が有るのは許してもらいたいけどね」
 そして、パソコンからメモリーカードを抜き取ってそれを茜に手渡した。
「ご苦労様です、先輩。では、こちらへどうぞ」
 茜に促されるままに恵太郎達は奥の部屋へと向かう。
 地面を這うケーブル類をうっかり踏まないように、全員が注意して歩く。
 目指すは部屋の隅に陣取る天井まで届く円柱状の装置。
 その脇に置かれたコンソールを叩き、スロットにメモリーカードを挿入する。
「それでは恵太郎殿、生まれ変わったナル殿をご覧あれ」
 コンソールの上に、何処からとも無く表れたトリスが恵太郎に恭しく頭を垂れる。
 それとほぼ同時に、円柱状の装置の真ん中から上下にスライドした。
 その中からは大量のスモークが溢れ出し、油圧式アクチュエーターによりナルが固定された台座ごと押し出された。
 徐々に薄くなっていくスモークと共に、ナルの全貌が明らかになる。
 それを見て、恵太郎は絶句した。
「何…この……何?」
 それも無理は無い。
 何故なら、今のナルの姿は以前とは比べ物にならない姿になっていたのだ。
 まず頭部には目を惹く大きな、紅い角が生えた。
 そして脚部はストラーフ型の基本パーツを装着。
 が、その右腕はその身の丈と同等のサイズの砲身と化している。
 次に左腕自体も大型化し、持つ刃鋼は規則正しい割れ目が入った不思議なモノになっている。
 最後に最も異形の部分、背中である。
 腰部には元からあった補助ブースターを改造したと思しき巨大なブースターが。
 そして、背中部分には腕、と言うより触手が生えている。
「ただ装備を修復するだけではつまらないと思ったので、色々と強化してみました」
 茜はその様子を楽しむように解説を始めた。
「まず、右腕の銃鋼は四班が新たに開発した荷電粒子砲を搭載しました。従来のトライリニアアクセラレータ型ではなく、シンクロトン型へと変更しました。これによって装置自体は巨大化しましたが、その分耐久性能は抜群に上昇、更に、同型の荷電粒子砲を一対に組み合わせ、交互に発射する事で威力は従来のままに連射性能を底上げしたので以前のようなチャージの必要はありません。次に左腕の刃鋼ですが、これは裕也先輩のアイデアを基に設計しました。俗に言う蛇腹剣というものなのですが、最大射程は10smと中距離戦闘では抜群の戦力を誇ります。 また、ある程度の操作が可能なので熟練すればまさに手足のように扱えるかと思います。今回強化した銃鋼と刃鋼ですが、その威力と引き換えに機動性を大きく削ぐ結果となってしまいました。簡単に言えば、重すぎたんです。それを補う為に背部ブースターの巨大化と全身各部に補助スラスターの設置で、一応は機動性を確保しました。ですが、重量が極端に増加してしまい、立つことすら侭なら無い状態になってしまった訳です。その為に、身体を支える為に三つ目の腕。鉤鋼を追加したところ、身体のバランスを取ることが可能になったばかりか、かなりトリッキーな動作も可能になりました。また、鉤鋼自体を使った攻撃も可能でそれなりに使い易いかと。最後に一つ留意点なのですが、銃鋼・刃鋼・鉤鋼のそれぞれの武装を使用中は、他の武装を併用できない事を覚えておいて下さい。具体的には、銃鋼を使用する為には左腕を使った照準補助と鉤鋼を使った姿勢補助が必要なんです。銃鋼は連射性能を飛躍的に強化したんですが、その反動自体は以前より悪化しているんです。次に、刃鋼の場合ですが、これも鉤鋼の姿勢補助が必要です。銃鋼は反動等の理由で併用はほぼ不可能です。最後に鉤鋼ですが、これは鉤鋼を使用している間は姿勢制御が出来ないのが理由です。それと、頭部ホーンは高性能センサー群です。以前と同じドップラーセンサーと超音波センサーを搭載しています……何か質問はありますか?」
 心なしか嬉々としている様に見える茜とは違い、恵太郎は呆然としている。
「マスター、似合いますか?」
 当のナルはというと、頬を若干紅く染めて恵太郎に問い掛けている。
 その表情だけ見れば可愛らしいものだが、その全貌と合わせてみると悪魔の囁きにしか見えない。
「……ああ、最高に似合っているよ」
 ようやく我に返った恵太郎が、ナルを褒める。
 その表情に嘘偽りの影は無く、其方かといえば清々しい表情だ。
「茜、バッテリーはどうなってる? 前のままだとガス欠で動けないだろう」
「はい、第七班の新型燃料電池のお陰でバトルには一切支障はありません。銃鋼自体も外部イオン供給型なので、打ち放題です」
「パーフェクトだ、茜……孝也、鉤鋼の制御プログラムの内訳は?」
「通常歩行、走行、跳躍、武装使用時の四種類だけだよ」
「ナルは元々腕が四つある、多少の負荷は許容範囲だ。そこら辺を考慮して、自由度を上げて置いてくれ」
「分かったよ、けーくん」
「裕也先輩、刃鋼の耐久性は?」
「刀身部分は秒速5km/sの弾丸にも耐えられた。連結部分は集束モノフィラメントワイヤーで防護してはいるが、秒速2km/sレベルが限界だ」
「ありがとうございます、充分ですよ」
 そのやり取りは研究者というより、悪の秘密結社という方が似合っていた。
「全く、先輩達には何時も驚かせられますよ。こりゃ馬鹿と冗談が総動員だ」
 もう吹っ切れたのか、全員を見回しながら言った。
「師匠、凄いじゃないですか! これで向かうところ敵無しですねっ!」
 アリカはまるで自分の事のようにはしゃいでいる。
「そうでもないさ」
「へ?」
 アリカと対照的な恵太郎は、視線をアリカから裕子へ移した。
「裕子先輩、ナルの作動テストとして手合わせ願います」
 その言葉にはある種緊迫したものが混じっていた。
「ええ、良いわよ」
 裕子の表情は何時ものように小春日和の陽射しのようだ。
「…アリカ、良く見て置けよ」
「も、勿論ですよっ!」
 恵太郎は険しい表情でアリカに言った。


 バトルフィールド『宇宙船』
 剥き出しの金属フレームに金網の足場。
 余計な装飾は一切無く、あるのは金属の冷たい感覚。
 戦う為に生み出された武装神姫の戦場に相応しい……ナルは新たな武装を纏いそんな事を考えていた。
 今回の相手はアル・ヴェル。
 もう両者共にフィールドへの転送は終わっている。
 普通のバトルなら、こんな悠長に構えている暇は無い。
 だが、これはナルの新武装の作動テストだ。
 あくまで、名目上はだが。
 恐らく恵太郎は本気だ。
 ナルはそう考えていた。
「お待たせしました、ナル」
 頭上から声が掛けられた。
「いえ、お気になさらず」
 その声の元へ視線を送る。
 そこには空中を踏み締めてナルを見下ろす雪の様な白い髪の神姫―――アル・ヴェルが居た。
 アーンヴァル型の彼女だが、その装備はアーンヴァルとは異なるシルエットを醸し出している。
 胸部アーマーはナルのモノと酷似している。
 腰部のブーストアーマーもナルのモノと酷似している。
 唯一違うのは、脚部。
 脚には足首部分から三対の巨大な鋼の羽が生えている。
 武装名は『羽鋼』


「裕子先輩の神姫、ナルちゃんに似てる…?」
 茜はディスプレイに映る両者を見て、思わず声を漏らした。
 赤と黒のボディ、白いボディ。
 機体色の違いこそ有れど、それほどまでに両者は似通っていた。
「そりゃそうさ。恵太郎はアル・ヴェルの武装を模倣してナルの装備を作ったんだからな」
 裕也はさも当然と言わんばかりだ。
「そんな事より」
 そこに茜が割り込んだ。
「アリカは運が良いわ。だって裕子先輩のバトルしている所が見れるのだから」
「どう言う事?」
 アリカは茜の真意を測りかねている。
「裕子先輩はこの大学最強の神姫マスターなんだよ」
 それに端的に答える孝也。
 しかし、その目線はディスプレイに釘付けだ。
 気付けば蒼蓮華やロン、トリスですらディスプレイを凝視していた。


『ナル、初めは銃鋼だ』
 恵太郎の声がバーチャル空間に響く。
『アル・ヴェルは攻撃に当たらないように避けてね』
 それに続き、裕子の声が響く。
 ナルとアル・ヴェルは無言で頷きある程度距離を取る。
「…師匠と手合わせするのは久しぶりですね」
 ナルは全身の駆動チェックを行いながら呟いた。
 その呟きには哀愁に満ちていた。
「マスターはバトルを好みませんからね」
 アル・ヴェルの声は、ナル程では無い物の哀愁に似た響きが混じっていた。
「今日は、師匠を満足させられると良いのですが」
 ナルは刃鋼で銃鋼を支えながら持ち上げた。
 背部では鉤鋼に備え付けられた巨大な鉤爪が足元の金網を抉っている。
「ふふ、そんな気張らなくても良いわ」
 アル・ヴェルは羽鋼を展開させた。
 その翼長は悠に3smはある。
『よし…ナル、用意が出来たら好きなタイミングで発射してくれ』
 ナルの用意が整ったのを確認した恵太郎から通信が入る。
「了解です、マスター」
 それに短く応えるナル。
「…行きます、師匠」
「来なさい、ナル」
 その言葉に、哀愁は無かった。
 構えた銃鋼から爆音と共に光弾が放たれた。
 上下に二つある銃口から交互に、凄まじい勢いで光弾と爆音を排出する。
 しかし、光弾を撃ち出す事にナルの身体は凄まじい反動を受けていた。
『ナル、大丈夫か?』
 恵太郎からの通信。
 その声音には若干緊張の色が含まれている。
「…はい…ッ……問題、ありません」
 銃鋼を撃ち続けながら、擦れた声で返答するナル。
『……もう暫く撃ち続けてくれ』
 暫しの沈黙の後、恵太郎から続行の指令が下る。
「…了解」
 それに簡潔に応えるナル。
 その眼はアル・ヴェルだけを見据えている。
 銃鋼から放たれる光弾はまさに雨の様だった。
 しかし、それは反動によるブレで命中精度は良いとは言えないものだ。
 その証拠に、アル・ヴェルは軽く身体を捻ったりするだけで大きな回避運動を取っていない。
 が、背後の壁に命中した光弾は悉く被弾箇所を貫いている。
『ナル、銃鋼のテストは終了だ。お疲れ様』
 恵太郎の通信と同時に銃鋼を停止させる。
「ありがとうございます、マスター」
 支えていた刃鋼と銃鋼を下ろして応えるナル。
『…何か問題点は?』
「今のところありません」
『そうか、次は刃鋼だ。準備が出来次第好きに始めてくれ』
「了解です」
 事務処理のような応答を繰り返す二人。
 ナルは無表情で刃鋼を前方に突き出す様に構えた。
 そして、ガチャリという音と共に刀身に規則正しく入った割れ目を境に分裂した。
 紅と黒の刀身は何節にもわかれ、刀身同士を繋ぐのは複合ワイヤーのみ。
 その間接部分ごとに自在に折れ曲がるそれは、最早剣では無い
 床に分離した刀身が落ち、甲高い音を鳴らす。
 それを確認したナルは左腕を高く掲げると、刀身の四分の一程が吊り下げられる。
 ナルは左腕を振り下ろし、続けざまに右に跳ね上げ、そこから左に鋭く振った。
 それと呼応して刃鋼が激しく波打つ。
 そして、鋭く、速く、迸った。
 刃鋼はまるで大蛇の様に蠢きながら、アル・ヴェルへと襲い掛かった。
 伸縮自在の間接を持つそれは、瞬間的には10sm程にもなる。
 そして、その先端部分は遠心力やらなにやらで相乗的に破壊力を増す。
 ここでようやくアル・ヴェルが回避行動らしい回避行動を取った。
 空中で脚に力を込めるようにしゃがみ込んで、刃鋼が目前に迫り自身に衝突すると言う瞬間に一気に翔けた。
 その速度は神姫の眼を持ってしても図り知ることは出来ない。
 それほどまでに、速い。
 目標を見失った刃鋼は背後の建物を大きく抉る。
 ナルはそれを確認し、左腕を大きく引いた。
 それに呼応し、間接が縮まる。
 一瞬で元の剣の形状へと戻った刃鋼を下ろし、前方に下りてきたアル・ヴェルを見据える。
『ナル、調子はどうだ?』
「…銃鋼ほどではないですが、反動が大きいです」
 ナルは左腕を見ながら言った。
 機械の腕に疲労に似た感覚が襲っているのだ。
 恐らく、荷重に耐え切れないアクチュエータが悲鳴を上げたのだろう。
『なるほど、そこらへんは調整が必要だな』
 恵太郎の言葉に、感情は込められていない。
「そろそろ良いかしら、マスター?」
 アル・ヴェルが裕子に向かい通信を開いた。
 その声には何かを待望する、そんな色が含まれていた。
「マスター……ボクもそろそろ我慢できないよぉ」
 ナルの口調が変わった。
 若干俯きながらも、その瞳は紅く輝いている。
『…良いわよ、アル・ヴェル。たまには羽を伸ばさないとね』
 裕子の諦めたような、それでいて優しげな声が聞こえてきた。
「ありがとう…マスター」
 アル・ヴェルはゆっくりと浮上しながら礼をした。
『ナル、お許しが出たぞ。好きなだけ大暴れしな!』
 恵太郎は凄く嬉しそうだ。
「あはは、言われなくても……そのつもりだよぉ!」
 そう叫ぶと同時に、ナルは銃鋼を構え、無数の光弾を穿き出した。
 先程よりも雑で疎らな光弾の雨に、アル・ヴェルは羽鋼の出力を全開にして超高速で翔け回り、回避する。
 その姿を目で捉えることが出来ないナルだが、それでも攻撃を止めない。
 次第に光弾の及ぶ範囲が広くなって行く中、ナルのドップラーセンサーは確かにアル・ヴェルの姿を捉えていた。
「そこだぁ!」
 支えていた刃鋼を左に大きく振り抜く。
 刀身は伸びながらアル・ヴェルへと迫る。
 ナルは銃鋼の欠点である集弾性の悪さを逆に利用した。
 逆に光弾をばら撒く事によって、アル・ヴェルの逃げ道を塞いだのだ。
 そして、動きが止まる瞬間を予測して刃鋼の攻撃を加える。
「なるほど、いい作戦ですね」
 しかし、それはアル・ヴェルにはまだまだ通用しない作戦のようだ。
 迫ってきた刃鋼を、アル・ヴェルは蹴り飛ばして凌いだ。
 勿論、ただの武装では刃鋼を蹴り返す事など出来ない。
 その秘密は、羽鋼にある。
 羽鋼は電磁推進装置を利用した機動装備である。
 従来のブースタータイプと違い、一種のバリアーによる反発力を用いるこの装備は爆発的な速度と運動性能を得る事が出来る。
 そして、アル・ヴェルはこの反発力を刃鋼にぶつけたのだ。
「まだまだ脇が甘いですね」
 一気に、一瞬でナルへと接近したアル・ヴェル。
 ナルの息がかかるほどの近距離で一言言うと、ナルに強烈なローキックを浴びせた。
 先程同様バリアーの反発力を乗せたそれはナルの巨体を軽々と吹き飛ばした。
 それでもアル・ヴェルは攻撃を止めない。
 吹き飛ぶナルに一瞬で追いつくと、ナルの顎を蹴り上げた。
 再び軽々と上方へと吹き飛ぶナル。
 ナルが最高到達点に先回りしていたアル・ヴェルは身体を横向けに回転。
 そして、渾身の力を込めて蹴り落とす。
 それは必殺の威力を孕む攻撃であり、喰らえば唯では済まない。
 否。
 唯ではすまないのは両方だった。
 アル・ヴェルの脚がナルに触れる一コンマ前。
 その瞬間、ナルの銃鋼はアル・ヴェルへと照準を定めていた。
 爆音が響き、爆炎が渦巻く。
 それと同時に両者は弾かれた。
 ナルは床に、アル・ヴェルは壁に叩き付けられる。
 銃鋼の光弾と羽鋼のバリアーの高エネルギーの衝突が爆発を引き起こしたのだ。
「あははぁ、やっぱ師匠は強いやぁ」
 刃鋼を杖代わりにし、鉤鋼で体制を立て直すナル。
 見た目は酷い損傷だが、その眼の闘志は消えていない。
「ナルも随分と肝が据わってきましたね」
 壁にめり込んだ体を引き抜き、空中を踏み締めるアル・ヴェル。
 しかし、その身体に損傷は見受けられず身を包む覇気も衰えない。
「さぁ、休憩はオシマイ。第二ラウンドだよぉ」
 ナルは刃鋼を前方に向けたまま、左腕を深く引いた。
「休憩なんて挟むのも勿体無い」
 羽鋼を大きく羽ばたかせ、前傾姿勢になった。
 彼女達は武装神姫。
 戦う事に、理由は要らない。
 アル・ヴェルの羽鋼が瞬く。
 度を超えたバリアーの過剰出力が強い光を伴わせる。
 その速度は最早如何なる方法を取ろうとも、捉えきれるものではなかった。
 だから、ナルは予測した。
 左手を勢い良く繰り出す、一般に言う突きだ。
 ただし、刃鋼の突きのリーチは10smオーバーだ。
 アル・ヴェルは最高速度で飛翔した。
 それはつまり機動性を殺すことだとナルは考えた。
 そして目標は自分。
 その道筋は一本道。
 そこに、刃鋼を置いておけばどうなるか?
 単純明快、正面衝突である。
 しかし、アル・ヴェルの機動性はナルの思惑を遥かに凌駕していたのか。
 アル・ヴェルに迫り来る刃鋼。
 その衝突の寸前に、アル・ヴェルが進路を変えたのだ。
 アル・ヴェルの羽鋼はいかに速く動いている状態でも、自在な機動を実現したのだ。
 そして、最高速度のままナルに激突。
 純粋な加速エネルギーだけの攻撃。
 だが、それだけで神姫を粉砕するには充分すぎる破壊力を孕んでいる。
 決まった。
 アル・ヴェルは思った。
 確実にナルの胸部を貫いていると。
 自身の勝利が決定したと。
 が、心のどこかでそれを否定したかった。
「あははぁ、やっと捕まえたぁ」
 そして、それは否定された。
 アル・ヴェルの脚は確かに貫いていた。
 胸部をガードした銃鋼を貫いていた。
 その上、鉤鋼でアル・ヴェルの脚をがっちりと掴んでいた。
「師匠…ボクの……腕は…三つあ…る…んだ……」
 だが、アル・ヴェルの爪先がほんの少し、ナルの胸部を抉っていた。


 すっかり暗くなった帰り道。
 アリカと茜は帰路に付いていた。
「それにしても凄かったなぁ…」
 アリカはナルとアル・ヴェルとのバトルを反芻している。
「私もアル・ヴェルさんのように強くなれるでしょうか…」
 トロンベもバトルを反芻しているようで、小さく呟いた。
 悲観的な言葉に対し、その声音は強い意志を感じさせた。
「ふふ」
 その光景を見ていた茜が思わず笑い声を漏らした。
「何よっ、文句あるの!」
 何となく気恥ずかしいのでそれに食って掛かるアリカ。
「ただ、アリカって変わったよねぇ、って」
 アリカの目を真直ぐ見据えて微笑む茜。
 その様子にいきなりしおらしくなるアリカ。
「変わったといえばアンタの方よ……今まで大学の研究室に行ってたなんて一言も言ってくれなかったじゃない」
 俯きながら少し拗ねる様に言う。
「…アタシが先輩達の研究室に通うようになったのは丁度一年前からよ。その時、アリカが変わったと思っていたの。私の好きなアリカはもう居なくなったと思ったわ。私は寂しかった。その寂しさを埋めてくれるのは先輩達だったわ。だからアリカに言わなかったの。もし、アリカがずっとあのままだったら私はアリカを見限っていたわ」
 急に真面目な口調で喋る茜。
「じゃあ、何で今更」
 歩くのを止めてアリカに向き直る茜。
「私の大好きなアリカが帰ってきたからよ」
 そう言うと、茜はアリカに軽く触れるだけのキスをした。
「…随分と久しぶりにしたわね」
 顔を真っ赤に染め、そっぽを向きながらアリカは言った。
「ふふ、じゃあ久しぶりにアリカの家に泊まろうかしら?」
 悪戯っぽく笑いながら歩き出す茜。
「マスター、トロンベに噛まれますよ」
 それに空中散歩していたロンが喋った。
「わ、私はご主人様さえ良ければ…その……別に」
 ロンの言葉に顔を真っ赤にしてトロンベは反論した。
「良いわよ…皆で泊まれば良いじゃない」
 アリカは蚊の鳴く様な声で言った。
 しかし、それは茜に耳にきっちり入っていた。
「じゃあ今日は大好きなアリカのお家でお泊りパーティね?」
 軽くスキップをしそうな茜に、アリカは咆えた。
「気安く好きだの言わないでよっ!」
 その顔はトマトの様に赤かった。









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