プロローグから時間は多少前後し、光矢は友人Fと共にホビーショップエルゴに居た。まだ彼の胸ポケットは空で、商品の陳列棚を見る目にも少々の呆れが見え隠れしている。
この日は友人Fの公式戦が組まれており、Fの提案によりライブで神姫のすばらしさを語ることに付き合うことになっていた。
この日は友人Fの公式戦が組まれており、Fの提案によりライブで神姫のすばらしさを語ることに付き合うことになっていた。
「さ、始まるぞ。クリス、存分に暴れてやれ。光矢にも神姫の素晴しさを見せ付けてやれ」
『イエス、マスター』
『イエス、マスター』
普段はヘッドセットを着用して、周囲からの雑音を切り離し、マスターと神姫がセットになって戦うのだそうだ。しかしこの日Fは戦闘中継を光矢に全て見せるべく、ヘッドフォンなしで神姫ポッドの前に立っていた。当然、神姫の声は画面横のスピーカーから聞こえてくる。
光矢はFの横に立ち、3つ並んでいる画面の中央、一番大きなセンターディスプレイに目をやった。テロップが次の対戦カードを表示している。
光矢はFの横に立ち、3つ並んでいる画面の中央、一番大きなセンターディスプレイに目をやった。テロップが次の対戦カードを表示している。
サードリーグ 公式戦
フリッツ V アモーレ田中
クリス S ろべっち
制限時間制 ゴーストタウン
フリッツ V アモーレ田中
クリス S ろべっち
制限時間制 ゴーストタウン
『GO』の文字が表示されると同時に、それまで静けさを保っていたフィールドが一気に加熱した。
砂埃を巻き上げ疾走するのはFのクリス。右は逆手にマチェット、左手にはサブマシンガンを携えたMMSで、頭部は赤いレンズのゴーグルと黒いガスマスクを着用している。頭から生えている(ように見える)細身の剣は、走る速度に比例して広報へと倒れていく。そして、そのシャープなシルエットに全身の黒系塗装が合わさり、疾走する姿は弾丸を彷彿とさせた。
それに対して相手のMMSは、同じく黒い色が特徴的なのだが、そのふいんき(なぜか変換できない)は真逆だった。
黒の生地に白のフリルがあちこちにあしらわれている布製の服をまとい、スカートはふんわりとした膨らみを保ったまま揺れている。頭部には同じくフリル付のカチューシャを装備し、ご丁寧に眼鏡までかけている。『メイド』を意識したその姿は、おおよそ戦闘とは無縁に思えるのだが、手にした黒い傘でクリスの連撃を捌く姿は確かに戦場に居る者の様子を備えていた。
初接敵の接近戦はビビアンに部があった。クリスの繰り出す連撃は尽く『傘』に防がれ、逆に相手はマチェットをいなしてはじいた後に、そのまま流れるような軌道で『傘』を振る。傘の石突の部分は通常のそれとは違い、研ぎ澄まされた刃になっている。近接戦闘を意識して改良された特別製らしい。
クリスの4度目の斬撃を避わしたメイドさんは次に、自分の背後にあった自分の背丈ほどの崩れたレンガの壁を宙返りをしながら飛び越えた。その際、ちらっと笑みを浮かべつつスカートを翻しその裾から何かを放った。
体勢を立て直したクリスが次に見たものは、目の前に落ちてくるボール状の物体。重い金属音を響かせて着地したソレは・・・
砂埃を巻き上げ疾走するのはFのクリス。右は逆手にマチェット、左手にはサブマシンガンを携えたMMSで、頭部は赤いレンズのゴーグルと黒いガスマスクを着用している。頭から生えている(ように見える)細身の剣は、走る速度に比例して広報へと倒れていく。そして、そのシャープなシルエットに全身の黒系塗装が合わさり、疾走する姿は弾丸を彷彿とさせた。
それに対して相手のMMSは、同じく黒い色が特徴的なのだが、そのふいんき(なぜか変換できない)は真逆だった。
黒の生地に白のフリルがあちこちにあしらわれている布製の服をまとい、スカートはふんわりとした膨らみを保ったまま揺れている。頭部には同じくフリル付のカチューシャを装備し、ご丁寧に眼鏡までかけている。『メイド』を意識したその姿は、おおよそ戦闘とは無縁に思えるのだが、手にした黒い傘でクリスの連撃を捌く姿は確かに戦場に居る者の様子を備えていた。
初接敵の接近戦はビビアンに部があった。クリスの繰り出す連撃は尽く『傘』に防がれ、逆に相手はマチェットをいなしてはじいた後に、そのまま流れるような軌道で『傘』を振る。傘の石突の部分は通常のそれとは違い、研ぎ澄まされた刃になっている。近接戦闘を意識して改良された特別製らしい。
クリスの4度目の斬撃を避わしたメイドさんは次に、自分の背後にあった自分の背丈ほどの崩れたレンガの壁を宙返りをしながら飛び越えた。その際、ちらっと笑みを浮かべつつスカートを翻しその裾から何かを放った。
体勢を立て直したクリスが次に見たものは、目の前に落ちてくるボール状の物体。重い金属音を響かせて着地したソレは・・・
「…手榴弾!?」
慌ててその場を離れるクリスだったが、あまりに唐突だった相手の『反撃』は完全には避け切れなかった。爆発した手榴弾はクリスのゴーグルを砕き、クリスからHUD(ゴーグル上に各種戦況データを示す機能)を奪った。
「ふざけた名前と格好のくせに、やるじゃん……」
初撃の失敗と報復に驚きと焦りを殺しきれないF。その横で光矢は初めて目にする武装神姫の戦いに魅入られ始めていた。
各所パーツにカスタマイズを施しているFの凄さは耳が痛くなるほど聞かされていた上、仮想戦闘プログラムでの画面も見せられていた。その時はまだ神姫に熱くなっているFへの軽い軽蔑があったが、ここでの対戦を見ればそのときのFの言動も理解できる気がしてきた。
クリスの攻撃をかわす相手のメイドは、以前どこかで読んだ漫画の人のようだ。レンガの壁の裏にふわりと着地した瞬間、壁に向けて傘を広げると、爆発で吹き飛んだレンガ片はその盾にはじかれて、本体には埃一つつかない。よく見ると、その傘の持ち手の部分も、通常とは明らかに違う形をしていた。傘の中に折りたたまれていたストックが開き、右の肩に押し付けられると同時にメイドさんはトリガーを引いた。瞬間、二度目の爆発が起きたような音と煙が上がった。ショットガンを花束に仕込むのと同じように、仕込みショットガンとでもいうのだろうか。先ほどの手榴弾といい、暗器をよく使う。
各所パーツにカスタマイズを施しているFの凄さは耳が痛くなるほど聞かされていた上、仮想戦闘プログラムでの画面も見せられていた。その時はまだ神姫に熱くなっているFへの軽い軽蔑があったが、ここでの対戦を見ればそのときのFの言動も理解できる気がしてきた。
クリスの攻撃をかわす相手のメイドは、以前どこかで読んだ漫画の人のようだ。レンガの壁の裏にふわりと着地した瞬間、壁に向けて傘を広げると、爆発で吹き飛んだレンガ片はその盾にはじかれて、本体には埃一つつかない。よく見ると、その傘の持ち手の部分も、通常とは明らかに違う形をしていた。傘の中に折りたたまれていたストックが開き、右の肩に押し付けられると同時にメイドさんはトリガーを引いた。瞬間、二度目の爆発が起きたような音と煙が上がった。ショットガンを花束に仕込むのと同じように、仕込みショットガンとでもいうのだろうか。先ほどの手榴弾といい、暗器をよく使う。
手榴弾によりHUDを失ったクリスは、ショットガンの射撃に反応がわずかに遅れ散弾を避けることができなくなり、やむなく背部のアームを展開し体の前で交差させその場で身構えた。着弾と同時に激しい衝撃が襲い、にわか構えの体勢は脆くも崩され、そのうえアームの隙間を縫ってきた細かな散弾が本体をも削っていく。頭の中をエラーメッセージが叫び、痛覚値が上昇していく。ショック状態にはならないものの、痛覚値を感覚値と切り離すための処理が大きくなり、長時間の戦闘は厳しくなった。
「クリス、物陰で機会を待て。相手に気づかれる前にマチェットを見舞ってやれ!」
『イエス、マスター。時間の余裕はあまりありませんし、早々に決めます』
『イエス、マスター。時間の余裕はあまりありませんし、早々に決めます』
相手のショットガンの銃声が6発目で止まったことを確認すると、砂埃に紛れて再び駆け出す。しかし、今度の方向は相手ではなくその左手側、無作為に投げ出されたコンテナが積みあがっている陰である。その際、移動の邪魔になると判断し、散弾で削られたアームを棄て去った。
相手のメイドは自らの作り出した砂煙で視界を失ったらしく、クリスがコンテナの陰に走りこんだ後も傘を正面に向けていた。
やがて砂煙が落ち着くと、メイドはゆっくりと傘を構えたまま前進し始めた。クリスの棄てたアームユニットに注意を払いつつ、周囲に気を張りながら臨戦態勢を崩さない。一歩毎に広がる視界を常にチェックしながら……12歩目に差し掛かったときに戦況が動いた。それまで息を殺し、コンテナの陰に隠れていたクリスが、マシンガンを放ちつつメイドの側面に飛び出したのだ。予想していた範囲とはいえ、右手に持った『傘』では防御が間に合わず、体勢を崩しながら後退した。
しかし、本業を接近戦に持つクリスの追撃は中途半端な間合いでは無いのと同等である。クリスは相手の体制が崩れるのを確認すると、左手のサブマシンガンを投げ捨て、代わりに左の太ももにぶら下げていたダガーを抜き取った。そのまま低い体勢を保ったまま、右手のマチェットと交差して傘に切りかかる。相変わらずマチェットは傘の幕を破れないが、左手のダガーは発熱設計になっており、紅くなった刃の触れた部分から一気に傘を切り裂いた。
仕込みショットガンの敗れたメイドはそのまま尻餅をつき、今度は反撃する間もなくマチェットの刃を鼻先に向けられた。
相手のメイドは自らの作り出した砂煙で視界を失ったらしく、クリスがコンテナの陰に走りこんだ後も傘を正面に向けていた。
やがて砂煙が落ち着くと、メイドはゆっくりと傘を構えたまま前進し始めた。クリスの棄てたアームユニットに注意を払いつつ、周囲に気を張りながら臨戦態勢を崩さない。一歩毎に広がる視界を常にチェックしながら……12歩目に差し掛かったときに戦況が動いた。それまで息を殺し、コンテナの陰に隠れていたクリスが、マシンガンを放ちつつメイドの側面に飛び出したのだ。予想していた範囲とはいえ、右手に持った『傘』では防御が間に合わず、体勢を崩しながら後退した。
しかし、本業を接近戦に持つクリスの追撃は中途半端な間合いでは無いのと同等である。クリスは相手の体制が崩れるのを確認すると、左手のサブマシンガンを投げ捨て、代わりに左の太ももにぶら下げていたダガーを抜き取った。そのまま低い体勢を保ったまま、右手のマチェットと交差して傘に切りかかる。相変わらずマチェットは傘の幕を破れないが、左手のダガーは発熱設計になっており、紅くなった刃の触れた部分から一気に傘を切り裂いた。
仕込みショットガンの敗れたメイドはそのまま尻餅をつき、今度は反撃する間もなくマチェットの刃を鼻先に向けられた。
「参りましたわ、ギブアップです」
「…ハァ…ハァ、 中々手強い相手だったよ。アンタ」
「…ハァ…ハァ、 中々手強い相手だったよ。アンタ」
* * *
「それを見て、君を買おうと思ったんだ」
「そうだったんですか、すみません気づかなくて……」
「いや、いいんだ。君が戦うの好きじゃないなら強要しないから」
「そうだったんですか、すみません気づかなくて……」
「いや、いいんだ。君が戦うの好きじゃないなら強要しないから」
殺風景な部屋で光矢とアーンヴァルの会話が続いていた。
初期起動からすぐ、光矢の見ていた武装神姫のアリーナ中継を見たアーンヴァル型神姫は「自分は争うのは好まない」と言ったのだ。それから二日間は、光矢はリーグのことを話さなかったが、アーンヴァルになぜ自分を買ったのかと聞かれ、今に至る。
初期起動からすぐ、光矢の見ていた武装神姫のアリーナ中継を見たアーンヴァル型神姫は「自分は争うのは好まない」と言ったのだ。それから二日間は、光矢はリーグのことを話さなかったが、アーンヴァルになぜ自分を買ったのかと聞かれ、今に至る。
「無理に戦うこともないしさ。今もこうしてライブ見てるだけでも……」
「……やります、マスター!」
「ボクは満足だし……え?」
「……やります、マスター!」
「ボクは満足だし……え?」
それまで話を黙って聞いていた神姫は突然、声を上げリーグに参戦する意思を述べた。
「でも、この前は戦うのは嫌だって……」
「それはそうですけど……」
「それはそうですけど……」
何故か顔を赤らめ、目線を泳がせる。手を握ったり指を合わせたり、俗に言う『もじもじポーズ』を取りながら、アーンヴァルは上目遣いで見上げた。
「とにかく!私出たいです。リーグ!その、戦うのは苦手だし、好きじゃないですけど…。ホラ、マスター、私のために武器とか色々作ってくれてますし、試し撃ちも家の中だけだと味気ないし、もしそれで勝てたら万々歳でマスターも私に何かうにうに……じゃなくて。とにかく、出してもらえませんか!?」
あまりに必死な懇願に、しかし自分のやりたかった希望を提案され、光矢は「よし、それじゃぁやってみようか」と答えた。
その翌日、リーグに参戦するに当たって神姫に名前をつける必要があることをFから聞いた光矢は、その日の夜に自分の神姫に名前を贈った。
「クラウ・ソナス。神話に出てくる光の剣で、絶対に負けないっていう由来なんだ」
その後の結果はプロローグでも触れたとおり、2週間経っても未だ勝ち星なしである。
彼らの挑戦はまだ始まったばかりである。
彼らの挑戦はまだ始まったばかりである。
~続く~