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 第二十四話  「俺がメリーで私がアキラさんで」




 ある日、俺は大学の喫茶室で三盥を待っていた。
 というのも、奴が「次の研究テーマのことで相談をしたい」と言ってきたからで、しかもメリーを同伴させろという妙な条件までついている。
 奴のことだから、どうせまたろくでもないことを企んでいるんだろうが、普段から神姫のことで付き合いがある手前、無碍に断るわけにもいかないだろう。
 しかし、約束の時間を十五分過ぎても現れない三盥に、俺はだんだんと腹を立て始めていた。
「おせーなあ。なんも無えなら帰るぞ俺」
「まあまあアキラさん。ここは気長に待ちましょうよ」
 椅子にどっかと腰を下ろし、腕組みをしている俺の苛立ちとは対照的に、メリーはのほほんと桜ヂェリーを飲み、泰然自若としていた。


 思えば、ここで気づいているべきだったのかもしれない。
 なぜメリーが嬉々として三盥を待っていたのかを。
 そして、三盥はすでに俺の心理を見抜き、俺を手のひらの上で操っていたのだということを。



 さて、それからさらに五分が過ぎたころになって、ようやく三盥はやってきた。
「やあ、ごめん。友達に捕まっちゃっててね」
 しかし、合計ニ十分も待たされた俺は、三盥の軽い態度に完全に苛立ってしまった。
「おせーんだよ! そっちから約束取り付けといてお前」
「まあ落ち着いて。ほら、アイスコーヒーでもおごるよ」
 言うが早いか、三盥は先に注文しておいたのであろうアイスコーヒーをトレーごと俺に差し出した。俺の心情を察したのか、三盥のブライトフェザー型神姫・美香が、
「申し訳ありません、島津様。隼人さんはわざと遅れたのではありません。どうか、隼人さんをお許しください」
 と言った。三盥がわざと遅れたのかそうでないかは分からないが、まあここは美香に免じて許してやるとするか。オーナーに似ず良くできた神姫だ。
 と、俺はコーヒーを置き、三盥の話を聞くべく椅子に腰かけた。
「……さて、どこから話そうかな」
 座るなり、三盥はいつものように笑みをたたえて、言った。俺がコーヒーに手を伸ばすのと同じタイミングで、奴は続けた。
「実はね、今日は島津にお願いがあって」
「なんだ」
「僕ね、この前ある装置を手に入れたんだ。そうだな……あの、ライドシステムって知ってるだろう?」
 聞いたことはあった。ライドシステムってのは、神姫に人間の意識をライド、つまり投影させることが出来るシステムのことだ。しかし、俺の周りではあまり使っているという話を聞かない。
「それで?」
「単刀直入に言うとね、島津にその装置のモニターになって欲しいんだよ」
「は? 俺が?」
 メリーを連れて来いってのは、そういうことだったのか。しかし、三盥の話はさらに続いた。

「もっとも、ライドシステムとは少し違うんだ。そうだね、僕もまだ実験してないから分からないけど、人間の意識と神姫の意識を交換するっていうモノなんだって」

 ……なんだって?


「ちょっとまて三盥。交換ってのはあれか?」
「そっくりそのまま文面通りの意味だよ。島津がメリーに、メリーが島津になる」
「はぁ!? ちょっ、んなことのために俺を呼んだのかよ!」
 やってられるか。そんな訳のわからん悪趣味なシステムの実験台にされて、後でおかしくなりでもしたらどうする。
 俺は帰ろうとしたのだが、その時を見計らったかのように、三盥が声をかけた。
「ま、簡単に了解してもらえるとは思ってないよ。……ところで島津。なんだか眠くなってこないかい?」
「あ!? なにを言って……ぐっ!?」
 まったくピッタリだとしか言いようのないタイミングで、俺は強烈な眠気に襲われた。立つことすらもままならず、テーブルに手をついているのがやっとなほどだ。
「三盥、てめえまさかっ」
「睡眠薬さ。やー、まさか言われるまで気が付かないなんてね」
 なんだと。しまった、このコーヒーかっ!
「すみません島津様、これも隼人さんの研究のためですので。あの、念のためにお薬は少量しか含ませておりません」
「美香あぁ! お前だけは信じていたのにっ!」
「平気ですよアキラさん。私たちとうとう一つになれるんですから、なにも怖がることなんてありません」
「メぇリイィィ! お前も一枚噛んでやがったのかああああ!! ……あ、やべっ……」
 何度も申し訳なさそうに頭を下げる美香と、今までに見た中で一番の笑顔をたたえたメリーを視界の端に、俺の意識は途切れた……。



 ※※※


「う、む……」
 こうして三盥のバカ野郎の作戦にまんまとはまってしまった俺は、意識を取り戻した時にはすでに、ベッドの上に両手と胴体を縛り付けられていた。ここはどうやら医務室のようで、ベッドの横には、縦に割ったドラム缶とスーパーのレジをくっつけたような、奇妙な形の機械がある。そこから伸びたコードが、今まさに俺の頭に付けられようとしているのだ。
「美香、それを島津の頭に接続して」
「はい、隼人さん」
「ぐおお放せ! このっ、放せ!」
 だが、どれだけ身をよじっても、縛り付けられた体はびくともしない。見れば、そんな俺の頭の横で三盥が嬉々として作業を進めている。
「ちょっと島津、おとなしくしてなよ」
「黙れこの腐れ外道が! いいから俺を解放しろ!」
「おや、今この場で僕に逆らっていいと思ってるの?」
「だ、誰かー!! 襲われるぅぅう!」
「落ち着きな島津。君を選んだのだって、ちゃんとした理由がある」
 三盥は神妙な面持ちになって言った。
「僕だってね、だれかれ構わずこんなことはしないさ。君を選んだのはね、君のことを信頼しているからだよ」
「俺を……信頼?」
 三盥は、慈愛に満ちた笑みを浮かべ、
「君はいつも誰かの厄介ごとを引き受けてる。文句を言いながらもね。そう。平たく言っちゃえば、お人よしの君なら後腐れもなく実験台になってくれると思ったんだ」
「なーにが平たく言えばだ! てめー後で覚えてやがれ!」
 だが三盥は意にも介さず、今度はパソコンにデータを打ち込み始めた。そのパソコンの隣には、クレイドルに寝ているメリーの姿が。
「むふふ……私ついにアキラさんのナカに……一つに……合☆体できちゃうんですねぇ」
 これまでになく恍惚とした表情だった。よもや自分の神姫がこんな状態になるとは。手遅れになる前になんとかすべきだった。
「じゃ、美香。そろそろ試験を始めよう」
「はい、先生」
 ノリノリなんだか真面目に返しているんだか良くわからない美香の手で、悪魔の装置のスイッチが押された。途端、俺はまた意識を失いかける。
「ぐっ、なんだ!?」
 意識を吸い出される、といった感覚か。もしくは掃除機を頭に押し付けられて、頭皮と髪の毛を引っ張られているようなイメージ。そんな感覚が俺を襲う。
「う、ああああぁ……」
「なっ、んですかこれ……! あ、あああああ!」
 メリーさえも苦しげな表情を浮かべている。冗談じゃなくマズイんじゃないかこの状況は。と、
「いっ!?」
 口から変な声が漏れると同時に、脳裏に『ブチっ』とおかしな感覚が走り、またも俺は意識を失った。



 ―――そして、再び目を覚ました時―――。




「う、む……」
 まぶたが重い。
 まるでぐっすり熟睡した後のような感じだ。
「おえっ」
 それか、二日酔いの後の感覚にも似ている。と、ぼんやりそんなことを考えた時、俺はあることに気づいた。
「……あれ?」
 ……なんか俺、声高くねーか?
「あーあー、あー」
 喉から声を出してみる。いや、俺の声こんな高くねーよって。 しかし、いくらなんでも女みてーな……と、

「きゃああああああああああああ!」

 ―――頭上から、男の悲鳴が降ってきた。しかも、よく聞きなれた俺の声が。
 驚いてそっちを見ると、
「あっ、アキラさん! 見てくださいよ、これ!」

「……へ?」
 ……俺がいる。
 しかも、鏡に映ったとかそんなんではなく、断崖と見まごうばかりにでかい俺が。
「んもう、なにをボーっとしてるんですか! あっ、へ~、私って改めて見るとこんなに小さかったんですねぇ」
 その巨大な俺は、好奇に満ちた視線で、俺や自分自身の体を眺めまわしている。
 ―――いや待て、言ってることがおかしいぞ島津 輝。落ち着いて考えろ。目の前に、どっかで聞いたような、やけに女らしい口調で話す俺がいて、そいつがこっちを見ている、ってことは、
「やったよ美香、実験成功だ!」
「はい、先生!」
 三盥と美香のはしゃぎ合う声で、俺はようやく事態が飲み込めた。いや、もしかすると今まで飲み込むことを拒否していたのか。

 ……細い両腕。
 ソックスをはいたように見える、白い太もも。
 フリルに似せてデザインされたスカートと、なだらかな胸。頬に触れてみれば、ぷるぷるとした弾力がある。
 そして視界の端に映る、オレンジの髪。
「……な」
 ということは、

「なんじゃこりゃあああああああああああああああああああ!?」

 俺の意識は、そっくりメリーのものと入れ替わっちまったのだ。



※※※






「やー、大成功だよ島津。心からお礼を言っておこう」
「なにが心からだボケが!」
「神姫になってみた気分は?」
「うっせえ! いいから今すぐ元に戻せ!」
「えーっ、アキラさんったら、私の体なんですからもう少し喜んで下さいよぅ」
 神姫になってしまった俺は、三盥と、俺の体を手に入れたメリーにいじられていた。
 どれだけ凄んでも、こんな小さな体では全く迫力がなく、むしろ三盥やメリーには笑ってあしらわれる始末。俺は回転いすの上でキャンキャンと甲高い声でわめくしかなかった。
「あぁ……アキラさんったらこんなに小さく……ぬふ…ぬっふふ……ああ可愛いなぁもおおーーっっ!!」
「いやああああああ!」
 掴みかかろうとするメリー(見た目は俺)の手を必死でかわす。知らない人間が見れば、自分の神姫に欲情するマスターの姿。しかしてその実態は自分のマスターを襲おうとする神姫なのである。前者ももちろん変態的だが、後者も大概ではなかろうか。
「ええい三盥! いいかげんに元に戻せ!」
「えっ、ちょっと島津ったら、待ってくれよ」
 そう言うと、三盥は紙とペン、それからボイスレコーダーを持ってきた。なにをするのかと思えば、
「ちょっと記録を取らせてほしいんだ」
「記録?」
「言っただろ、研究テーマのことだって。それでそれで、神姫になったらどんな感じ? どこか気分が違うとかってある?」
「……なんだよ。今んトコは、これと言って変わりはねーけど」
 あんまり真剣な視線だったもんだから、俺も真面目に返答してしまった。こいつはこと研究に関しての熱意は目を見張るものがあるから、納得はできるが。
「よし。じゃあ次は、そこからここまで歩いてみて」
「おう――ってメリー! どこ触ろうとしてるんだお前はぁあ!」



※※※



――とまぁ、簡単なテストをいくつか終えたところで、三盥が用紙をまとめて後始末に入った。
「はい、どうもありがとう。二人のおかげでいい回答が得られたよ」
「そうか。じゃあさっさと俺を元に戻せ」
「ええーっ! もう終わりですかぁ!?」部屋の隅でなぜかラジオ体操の動きをしていたメリーが振り返った。
「やかましい! これ以上お前に俺の体を預けたら、なにをされるか分からねーだろ!」
「まぁまぁメリー、この装置があれば今日のことはいくらでも体験できるからさ」
 しぶしぶといった様子で、メリーは台の上に横になった。俺もそれに続く。ったく、やっと元に戻れるぜ。もう二度とこんな体験はごめんだ。


「……あれ、あれっ」

 と、機器を操作していた三盥が素っ頓狂な声を上げた。
「なんだよ、御手洗」
「おっかしいなぁ。レバーが降りないよ」
「なんだって?」
 確かに、御手洗がガチャガチャと手元のレバーを引っ張っているのだが、それがうんともすんともしない。奴の慌てた様子から、ふざけてやっているのではないようだ。
「おい、一体どうした」
「分からないよ。今調べて……」
「あ、私がやりましょうか」
「私もお手伝い致します」
 美香と、俺の体を借りたメリーが代わりに動かそうとする。
「ちょっと、素人が勝手に触ったら」
「へーきですへーきです。さっきからなんだか力が満ち溢れてるみたいで、ちょっとの故障くらい軽く直せちゃいそうなんですよ」
 言うが早いか、ぐいっ、と腕に筋肉が盛り上がり、レバーを力任せに引っ張る。
「ん、ぎっぎぎぎ」
「危ないってば。無理しないで僕に任せて」
「あら。このボタンは……」
 機械の裏にまわっていた美香が、なにかを発見したようだった。
「おい美香! 勝手に触ってないで、メリーを止めて!」
「は、はいっ!」
 予想だにしない三盥からの大声の注意に驚いたのか、美香は勢いよく振り向いてしまった。
 それがまずかった。
 美香の武装である、背中のフェザーブレイド。羽の形をしたそれは、背中から大きく出っ張っており、美香が後ろにもたれかかると『カチッ』と音を立てた。
 直後、
「きゃあああああ!??」
 機械が美香の背後で、勢いよく跳ね上がったかと思うと、がたごとと上下左右に揺れ(まるで洗濯機そのものの動きだった)、ボディのあちこちから火花を散らし、最後には煙を吐き出して止まった。
「……」
「あ……」三盥が静かに計器をいじるが、全くでたらめな数字を示している。
 あんまりにも漫画じみていたが、事実だ。
 壊れた。
 人間に戻るための唯一の方法が、目の前で壊れちまった。
「嘘っ……」
「あ、あーあ……やっちゃった」
 三盥の口の端から乾いた笑いが漏れる。
 しばし沈黙。煙を噴き上げる装置から白い外装が外れて、カランと音を立てる。それがやけに滑稽に響いた。
「じゃあ、僕はこれで」
「待てオラ」
 三盥のズボンの裾を強く握りしめる。余裕があったなら、神姫の体って思っていたほど力があるものだなと考えていたかもしれないが、今はそれどころではない。
「どぉーーーすんだテメエェェェェ!!?? これっ、元に戻んねえじゃねえか!?」
「う、う~ん」
「うーんじゃねええええ!!」
 最悪だ。どうなっちまうんだこれ。明日からこの格好で生活して、授業にも出ろっていうのか!?
「元に戻らないんですか!? それは願ったりかなったりです!」
「メリーお前はいい!! 御手洗、なんか考えろ! 元に戻る方法を!」
 三盥は少しの間逡巡した後、こう言った。


「……やっぱりこういうのは、開発元に問い合わせるのが一番かねぇ」




※※※





 三盥の言う『開発元』とは、俺が想像したようなビルとか工場とかいったような建造物とはまるで違っていた。
「……城尊……公園?」――と、門の字は読める。
 綺麗な月夜の下、ただのクソ重たいガラクタと化した機械をリヤカーに積みこんで、三盥がひぃひぃ言いながら坂を上ったその先の、なんの変哲もない公園だった。
 神姫と人間の中身を入れ替えるというおかしなテクノロジーを有した機械を、こんな場所で作れるとは思わないが。
 だが到着した三盥は一息つくと、額の汗をふきつつ、誰もいない石畳の道に向かって呼びかけた。
「おおーいぃ! 出てきてよ! 僕だよ!」
 その言葉が、むなしく木々や地面に吸い込まれる、と思った時。二メートルくらい先の茂みが小さくかさこそと揺れ、


「……んにゃあぁ~~~ああ。ワガハイを呼んだかにゃ? 人を呼ぶときはノックくらいするにゃよ」


と、一体のマオチャオ型神姫が呑気に現れた。
「あぁ、いたいた。カグラちゃん、僕だよ」
「んにゃ? ―――おお、誰かと思えばお前さんかにゃ。どうしたにゃ? やっとこさお前さんの巨乳看護婦の秘蔵写真を持ってくる気になったかにゃ」
「そ、そんなものないって言ってるでしょうカグラさん! 全くいつになったら諦めてくれるんですか!」
 カグラ、というマオチャオらしい。御手洗と美香とどういった関係なのか知らないが、少なくともある程度の付き合いはあるようだ。
「今日はあの二人はいないのかい?」
「アイツらは物売屋にいるって伝言にゃ。ワガハイ今夜はたったひとりの戦場にゃよ。そういうお前さんは? そこの連れはインターポールから連れて来たのかにゃ?」
 カグラは俺とメリーを指して言った。御手洗は俺を連れてカグラの傍まで行くと、その場にしゃがみこんだ。
「紹介するよ。僕の友達で、島津 輝っていうんだ。島津、彼女はカグラちゃんだ」
「よろしくにゃ。して、今日はにゃんで大人数で来たのにゃ」
「……いや、そこなんだけどねカグラちゃん。ほら、前に貸してもらった装置あったでしょう?」
「んにゃ。お前さんにモニターを頼んだといえば、例のアレのことかにゃ」
「それそれ。でね……今日大学で実験したらさ、成功したんだよ」
 それを聞くなり、カグラが跳び上がった。
「にゃんと! それは朗報にゃよ。やはりワガハイの理論は間違っていなかったにゃ。もちろん彼女、ワガハイの方にも寄越してくれるにゃ?」
「誰が行くかっ。これ以上おかしくされてたまるか」
「おやおや。口が悪いにゃマドモワゼ~ル。メイドはもっと淑やかにしてるのがいいのにゃよ」
 カグラはそれだけ言うと、「あ~背中痒っ」と毛づくろいを始めた。どうもこのマオチャオ、マイペースなのは普通のマオチャオと変わらないが、どこか違っているところがある。
 なんというか、相手に尻尾をつかませない、得体のしれないのらりくらりとしたところがあるというか―――。
「そりゃつかませないにゃ。デビルーク星人的な痴態を披露して、読者諸兄が悩殺されたら大変にゃ」こうやってモノローグに対してツッコミを入れてくる辺りとかが特にだ。まぁ、こんなおかしな装置を開発できる奴だ、普通のはずがない。
「それで、何かほかに用事があるんにゃろ?」
「う、うん。それがね。言いづらいんだけどさ」三盥がしどろもどろになった。
「早く言うにゃ」
「……アレ、壊れちゃったんだよねぇ~」
「……にゃ?」
 三盥が張り付いたような笑みを浮かべて、今まで引っ張ってきたリヤカーを指さすと、カグラのマオチャオらしく可愛らしい表情が、

「アイエエエエエ!? ナンデ? 故障ナンデ!?」

 一瞬で、……なんだか、「ムンクの叫び」と、範馬勇○郎の顔を合わせたような、そんなとんでもない表情になった。
「にゃ、にゃんとおおおおお! お、オマエ、何してくれとるんにゃワレえええええッ!」
「や~、あの、使ったはいいんだけどさ、詳しく操作方法を聞いてなかったもんだから」
「マニュアルにして渡したにゃろうがああああ!!」
「あれっ、そうだっけ?」
「とぼけるにゃオマエ! マニュアルにゃらワガハイきっちり作ってここに……」懐から消しゴム大の冊子が現れた。
「……マニュアル、カグラちゃんが持ってたら意味ないんじゃない?」
「にゃ? あ、言われてみればそうにゃ」
 火の消えるように、スッと元のマオチャオ顔に戻ったカグラ。はたから見ていたら一々漫画チックというか、感情の変化が激しい奴である。
「ともかく! ワガハイから借りたものを壊して返すとはどういう了見にゃ。責任はとってくれるんにゃろうな?」
「えー、責任っていわれてもなぁ」
「アホンダラ! ニッポンにおいて失敗の責任を取らない、これは戦闘前にアイサツをしないのと同じでスゴイ・シツレイに当たるにゃよ。古事記にもそう書いてあるにゃ」
 カグラはビッと人差し指を三盥めがけて突きつけ、
「このおバカチンが! それをまた使えるように元に戻してからまた来るにゃ! 話はそれから聞いてやるにゃ」
「はぁっ!? おい、じゃあ俺は元に戻れねえのかよ!?」
「そんなの知らんにゃ。ほな、ばいにゃら~」
 それだけ言って、カグラはさっさと草むらに姿を消した。

「……」
「……おい、どうすんだ三盥」
 しばし俺たちはその場に佇んだ。
「……なんとかアレを直して、カグラちゃんに許してもらうしかないかなぁ」
 ガラクタと化した装置を指さして、三盥は言う。
 俺はもはや、後ろで困ったように小ぢんまりと控えたままのメリーと美香を振り返ることしかできなかった。





 ※※※



  三盥の提案で、俺とメリーが入れ替わったことは秘密にしておこうということになった。
『まだ僕もあの装置の基本構造は理解してないからね。変に大騒ぎになったら、島津とメリーの体が解剖なんかされちゃうかもしれないし』ぞっとする一言を残し、三盥はリヤカーをひいこら引っ張りながら夜の街に消えた。
 メリーと共に食堂まで帰ってくる頃には、いつも桐皮町を見守っている夕焼けも仕事を終え、薄雲のかかった満月が商店街を照らしていた。
「ふぅ」
「どうしたんだメリー」
「なんだかアキラさんがいたたまれなくて。この体でいるのが素直に喜べなくなっちゃいましたよ」
「その心配はありがたく受け取っていいのか複雑だな」
 いつもメリーが座っている、俺の左肩というポジションに、今は俺自身が座っている。慣れない上下の振動に、俺は何度もバランスを崩しかけた。
 空を見上げれば、表面の黒い部分まではっきりと分かる満月と、鏡でなら見慣れていた俺の横顔。こんなじっくりと見たことは無かったが。
 あまりにも事態が急転直下すぎて、――この先どうなってしまうのだろうか。



「帰りましたー」
「おや、お帰り二人とも。ずいぶん遅かったね」
 店まで帰り着いて、俺がいつもの調子でただいまと言うと、店番をしていたおやっさんがメリーが言ったものと勘違いしたようだった。そうだ、今は俺であって俺でないのだ。
「ちょっと野暮用でして。おやっ……おじさま、少しの時間休憩を頂いてもよろしいですか?」
「ん? ああ、かまわないよ。輝も疲れただろうし、夕飯にするかい?」
「えっ。ご飯ですか?」
 カウンターの中から問うたおやっさんに、メリーは逡巡した。
「じゃ、じゃあ頂きます」
「うん。今日はもう閉めちゃおう。雅、上がっていいよ」
「はい、京介さん。……」
 店の奥へ引っ込もうとした時、雅が俺の顔をじっと見つめた。
「……」
「な、なにかしら雅さん」
「……あんた、雰囲気変わった?」
「そっ、そんなことありませんわ。おほ、おほほほほ」
 ぐぅ。このままで本当に生活してけるのか不安だぞ。



 台所に到着し、四人掛けの食卓につくと、おやっさんが夕飯を出してくれた。
「じゃあ、みんなで。いただきます」
「いっただっきまーす! おおっ、チャーハンか!」
「……メリー? ずいぶん嬉しそうだね」
 おっと、しまった。おほんと咳を一つして、メリーの様子を伺う。するとメリーは、物珍しそうな目をして、レンゲで皿の上のチャーハンとキクラゲをちょんちょんと突いていた。
「ちょっとアキラ、あんたなにしてんの」
「あっ、す、すみませ……じゃなかった。すっ、すまない雅」
「ったく、食べ物いじって遊ぶんじゃないわよ」
 ぐちぐち文句を抜かしながらも、専用の小さなスプーンでチャーハンをすくって口に運ぶ。途端、雅の表情がほころんだ。
「ん~、おいし~い! 京介さんってば、また腕を上げましたね」
「ハハ、ありがとう。でも、途中で雅も手を貸してくれただろう」
「じゃあ、あたしの実力も上がったってことですかね。えへへっ」
 新婚生活みてーなトークをにこやかにかます二人を横目に、メリーはそっとチャーハンをすくった。おやっさんの動きを真似ながら、慎重に慎重にレンゲを口に入れる。すると、
「……おいしいっ……」ため息交じりの言葉があふれ出た。
「喜んでくれたかい、輝」
「はいっ! とっても!!」
 もはや隠すのも忘れて、メリーは夢中でチャーハンをほおばった。

 そんなメリーを横目に、俺は俺でチャーハンを食う。
 程よく色のついた米を、人間だった時していたのと同じように口に運ぶ。……別に違和感はない。食感も味もおやっさんが作ったチャーハンだ。ただ、体の中で機械が作動する感覚がある。恐らく、これが食物の消化や味を感じるのを助けているんだろう。
『なるほど。神姫の体も別に不便じゃねぇな』
そのままチャーハンをペロリと食べ終えてしまった。相変わらずおやっさんのチャーハンは美味い。
「アキラさん、アキラさん」
 下腹をさすっていると、メリーが声をかけた。
「ご飯がお済みでしたら、私お願いがあるんですけど……♪」





「やぁーめぇーろぉぉーっ!!」
 メリーが言った『やること』。それは、
「えっ、だってお風呂に入らなきゃ汚いですよ」
「お前今まで風呂なんかクリーニングの時以外入らなかっただろうが! こういう時に限って入ろうとするんじゃねえ!」
「え~、だってそれは、むほ、むほほほほほほ」
 脱衣所で服を脱ぎつつ、体をくねくねと左右によじって興奮するメリー。とても人様に見せられるような姿ではない。
「あのですねアキラさん。これはおかしなことではなくてですね」
「おかしいだろどっから見ても。アニメ見たかお前。神姫の風呂シーンは喜ばれてもマスターの風呂シーンなんか誰が喜ぶんだ」
「一部の方には需要があると思いますよ? それはそれとしてですね。これはおかしなことなんかじゃないんです。お風呂に入らなくちゃ体が汚くなる。アキラさんに人が寄り付かなくなる」
「サラッとキツイこと言いやがる」
「まぁ他の女が寄り付かなくなるのは結構なんですが、ナオヤさんやハヤトさんに顔をしかめられるのは気分が良くないですよね。ですから洗って差し上げようとしてるんです」
 洗面所の縁に座った俺に、メリー(俺)の顔面がのそっと近づいてきた。
「それに……私まだこの体に慣れてなくて、その……殿方が、というよりヒトがどうやってお風呂に入るのか分からないんです」
 元の神姫の姿で言われるんだったら可愛げもあっただろうが、今じゃそれも全くない。だがここまで頼まれると仕方なく、
「……変なことすんなよ」
「わぁい! ありがとうございます! じゃあ遠慮なく……グへへ」
「あっ、ちょ、バカ! 武装を……脱がすなっ!」
 俺の文句も気にせず、メリーは小躍りして喜んだ。



 湯気の中、腰にタオルを巻いた人影が揺れる。
「アキラさんと~、おっふっろ~」
「いいか、絶対にそれ取るなよ。あと俺の指示があるまで体を洗うな」
「は~い♪」
 俺の指示で浴槽に体を沈めたメリーは、実に気持ちよさそうに湯を体に浴びせかけた。
「はぁ。人間の体ってすごいんですねぇ」
「そうか? 神姫の体と違うもんなのか」
 メリーの話を聞きつつ、桶に湯を張って中に飛び込んだ。温度は人間の時と大差なく感じる。
「ええ。さっきのお食事の時も、なんだか……うまく言い表せないんですが、これが食べるってことなんだって感じがして」
「ほう」
「神姫にとって、食事という行動はコミュニケーションの一つ、言ってしまえば必ずしもする必要のないことです。けれど、アキラさんの体になってみて、ご飯を噛みしめる感触とか、エビや卵の風味とか……そういうのが、全部私のマスターにとっては大切なことで、生きるために必要なんだって感じて」
 メリーが目を閉じた。体を動かすたびに、湯のはねる音が風呂の中に響く。
「呼吸も、心臓の鼓動も……全部、似た機能こそあれど、私たち神姫のそれとは全く違っていて。暖かい血の流れるこの体が……強くて優しいアキラさんが、前よりもとっても身近に感じるんです」
「メリー……」
 ――確かに、そうだ。
 機械が体の中で作動する感覚や、小さな体でしか見ることのできない風景。そんな普段味わえない世界を、俺ももっと楽しむべきじゃないのか。メリーのように。
 俺にとっては当たり前すぎた世界を、メリーは無邪気に受け入れて楽しんでいるのだ。きっと、俺が初めに思っていたほど、この体験はひどいものじゃない。
「……そうだよな。俺が頑なになりすぎてたかもしれねぇ」
「アキラさん……。ふふ♪ ではもう、待ちきれないので体を洗って」
「なっ!? しまった油断した! おいコラ!」
「ふふふ~、さあ、ショータイムです、なんて……おご!?」
 突然、メリーが下腹を押さえて苦しみだした。
「あ、アキラさん……」
「なんだっ!? どうしたメリー!?」
「なんだか、お腹がゴロゴロいってるんですが……く、苦し……」
「おいっ!? そりゃまさか」
「さっき、あんまりおいしいからチャーハンをいっぱい食べて……おごご」
「!? まずい、メリー上がれぇっ!」
 ――神姫と人間の違うところは、まず一つ。
 神姫の食事はあくまでコミュニケーションだ。だが、人間はものを食ったら出るもんが出るのである。
 つまり―――











 ※しばらくお待ちください。(よろしければ一面の花畑をイメージして下さい。)




「……アキラさん」
「何も言うな……」
 人間の体って悲しい。そしてとりあえず、お見苦しいシーンがあったことをお詫びします。
「きっ、気を取り直して。そろそろ寝ましょうねっ」
「おう……」



 部屋に戻り、布団を出す。メリーはその布団へ、俺は机の上のクレイドルへ。
「なんだか疲れちゃいましたね」
「本当にな」
「ふわァああ~。人間の体って、疲れるとあくびが出るんですね……。じゃあ、私はこの辺で……おやすみなさい……」
 言うが早いか、メリーは横になって眠ってしまった。「おい」声をかけるが、あっという間に寝息が聞こえてきた。
 仕方なく、俺もアーマーを取り外してからクレイドルに寝そべった。――全身が満たされていくような奇妙な感覚だった。そうか、クレイドルで充電をするってのはこんな感覚なのか。ほどなくしてそうやって思考を続けることもできなくなり、俺も眠りに落ちた。


 ※※※





 その、次の日。
「……なあ輝、お前今日変じゃね?」
「そ、そんなことありませ……、ね、ねーよ?」
「……メリー殿、今日はどうされたのです。いつもと様子が違っておいでですが」
「な、なんでもね……っと、な、なんでもありませんわ、おほ、おほほほほ」
 いつものように学食で昼飯を食べるも、同席した直也やアッシュから明らかな不審の眼をもって迎えられた。
『ちょっとアキラさん、私そんな感じでしゃべりませんよ』
『うるせえ、今はこれで精一杯なんだッ』
 裏でこそこそとこんな会話をする。朝に登校してからこんな調子で隠し通してはいるが、もう限界に近い。肝心の三盥と美香はといえば、会話にあまり参加せずにいる。
 そしてまた困るのが授業の時だ。例えば体育科の授業。
「島津~、ボール回してくれ~」
「はい! 行きますよっ」
 メリーはそう言って、野球のボールを思いっきり投げた。
「んがっ!?」
「あっ、すみません!」
「ちょっ、気をつけろよ島津!」
 あまりにも強く投げつけたために、ボールを受けた奴がミットごと後ろに吹っ飛ぶ。どうやらメリーがまだ、人間の力の加減というものに慣れていないらしい。
『くっそ、こりゃ思ったよりキツイぞ!』
 思ったよりも、長く隠し通すことは難しそうだ。こうなれば、直接あの猫をシメて、元に戻すと言わせるしかない。
 俺は決心を固めた。



 ※※※



 さて、夜中になってから食堂を抜け出して、一人公園に着くも、肝心のマオチャオの気配どころか誰かの息遣いも感じられない。草木も眠るなんとやらといった感じだ。
「あンの野郎……」
 あまり長く走ってきたせいか、悪態をついても途中で切れるくらい疲れた。メリー同様、俺もまだ神姫の体に慣れきっていないようだ。
 一休みしようと、噴水の方へ歩く。
 その時だ。

「……玲子……絶対に……許さにゃ……」

 噴水のそばから、誰かの声が聞こえた気がした。
「ッ!?」
 俺が近づく足音に気づいたのか、そいつが声を荒げる。同時に、俺の足元に銃弾が飛んできた。
 チュン――と、地面が甲高い音を上げる。
「おわっ!?」
「誰!? 姿を見せにゃさい!」
 ……にゃ?
「お、おい、待ってくれ。その声、まさか……」
「えっ……。あ、貴女こそ……」


 そこにいたのは、―――漆黒の装甲を身にまとい、薄緑の髪をなびかせ、
「貴女、ウェイトレスでしょう? にゃぜ、こんにゃところに……」
 “にゃ”と奇怪な言葉をしゃべる、アテナだった。




 ~次回予告~

 神姫になってしまった輝。

 人間になってしまったメリー。

 猫になってしまったアテナ。

 三人の受難はまだまだ続く――。


 武装食堂に戻る




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