そのじゅういち「勝ち負けよりも価値ある性質の立ち合い」
僕が武装神姫のオーナーだという事が学校で噂になった。
原因はもちろんあの女――モトカノをあの女呼ばわりもアレだけど――があること無い事吹聴してまわっている為だけど、それに伴って僕にとっては懐かしい事すら噂になっていた。
あんまり僕にとって愉快じゃない事なんで、明言は避けとくけど、まぁ、若気の――といっても今でも若輩なんだけど――至りってヤツで。
ついでと言っちゃついでなんだけど、僕に美人の彼女がいると言う噂までおまけに広まったもんだから、ここの所、どーにも学校が居心地よくない。
人の噂も七十五日とは言うけど、二ヵ月半もこんな噂に悩まされ続けるのかと考えると、自然と憂鬱になるというもの。
というか、年明けちゃうし。
更に更に、この噂のせいで、僕は今年一杯の部活動の禁止を顧問に言い渡された。
曰く、「精神修行であるこの場に、たかだか一学年の間とは言え他のものの集中を邪魔する原因を置いておくわけにいかん」とか。「お前の所為ではないのだが、スマンな」とも言ってくれはしたけど、僕の意思は無視ですか?
でも、僕としてもそれはありがたい事でもなくもなく。
……やっぱりどうしたって学校が居心地悪いわけだから、それこそ放課後はさっさと学校から逃げ出したい訳だから。
かと言って、毎日開き直って神姫バトルを繰り返すだけのゆとりがあるわけでも無いので、学校には秘密で短期バイトでも探そうかとも思いながら、それでも僕は1時間20分電車に揺られて、平日だって言うのにエルゴまで来ていたりする。
……バカだなぁ、僕。
今日はせっかく学校が早く引けたのに、なんだかチョット時間無駄にしてる様な。
何で休日にしなかったのか。バカだなぁ、僕。
「とはいっても先立つものも無いしなぁ……」
「ですぅ~」
懐のさびしさに僕とティキは思わず同じタイミングでため息を吐く。
なんで金欠だってのにわざわざ1時間20分強の時間を費やしてるのか。つくづくバカだなぁ、僕。
そんなに自分のことをバカだバカだといってても凹むだけなんで、気を取り直して僕は店内へと入った。
どうでもいいけど、神姫もため息って吐くもんなんだな。……ホントにどうでもいいことだけど。
「「「いらっしゃいませ」」」
店長とは明らかに違う、女の人の声が三つ、同時に発せられる。
一つはこの店のシンボル、『ウサ大明神様』ことジェニーさん。他の二人の声は、聞いたことの無い声。
と言っても、僕はこの店に来るのがまだ二度目なので、バイトの人だとしても知らなくて当然なんだけど。
一人は接客をしている女の子。僕と同じか、一つ二つ上くらい。高校生なのは見ただけで丸わかり。だって、制服着てるし。
もう一人は神姫。TYPE 吼凛。なんだか商品モデルをやってる風。うん。このハウリン、接客している彼女の神姫みたいだ。一応、距離感でそれくらいはわかる。
でもこのハウリンがアノ有名な魔女っ子神姫だなんてその時の僕には知る良しも無く。後々に思えばすごくもったいない。……写真でも一緒に取れたら式部に自慢できたのに!
「こんにちは、ジェニーさん。店長さんいますか?」
レジで店番をしているジェニーさんに話しかける僕。この前来た時、思わず『ウサ大明神様』と呼んでしまったが、彼女はどうやらあまりそういう風に呼んでもらいたくないらしい。
「お久しぶりですね。今、二階に居ますよ」
ジェニーさんはまだ二回目の僕の事を覚えてくれていたらしい。……神姫なんだから当然と言ってしまえば当然だけど、うれしかったりする。
「二階……筐体コーナーですね。でも、あれ? なんか随分盛り上がってますねぇ?」
事実、二階からどよめきとも喚声ともつかない一種異様な音がもれ響いている。
「チョットしたハプニングと言うか、イベントと言うか……」
ジェニーさんは苦笑を浮かべながらなんとも歯切れの悪い事を言う。
「? とにかく行ってみるですよぉ♪」
ティキは好奇心が抑えきれないと言う風にウズウズしている。
僕としてもそこら辺はティキと同じ気持ちなので、ジェニーさんにお礼を言うと、二階へと向かった。
二階は異様な熱気に包まれていた。
3on3の、所謂チーム戦。それがただのチーム戦なら、こんなにも盛り上がりを見せる事は無い。
まず参加者が凄まじい。
セカンドリーグで名を馳せる『D-コマンダー』と言えば、知らないやつはそう居ない。かくいう僕も、実際そのバトルを見た事は無いが、チーム戦におけるファースト昇進の壁と言われる風評を知らないわけが無い。
片や相手チーム。オーナーブースに二人いる変則マッチだけど、神姫はそれでも三姫。このメンバーもすごい。
『隻眼の悪魔』・『神速の紅眼』・『紅き眼の狙撃手』・『紅の剣客』・『朝霧の紅眼』……などと幾つもの二つ名を持ちながら結局固体名そのままの名で呼ばれることの多い隻眼のストラーフ、十兵衛。
二つ名を持たないまでもその戦闘スタイルから『ケット・シー』と揶揄される事も多いマオチャオ、ねここ。
最後の一姫はさすがにその手の情報に疎い僕だから名前まではわからないけど、それでもそのハウリンの戦闘スキルは、見ただけでその高さを窺い知れる。
「おい、ティキ…… 僕達、とんでもない時にとんでもないタイミングで来たみたいだ……」
こんなカード、早々見られるもんじゃない。と言うか、絶対お目にかかれない。
今、この場所以外のところでは。
「全てを吸収なんて、できるはず無いけど、それでも絶対に参考になるから、見逃しちゃダメだ」
「……ハイです!」
いつもにも増して真剣な僕とティキ。僕らはそのバトルに釘付けになった。
中でもやはり注目しちゃうのは、同じマオチャオであるねここ嬢だろう。基本は同じ特性を持っているわけだから、一番参考にしやすいって言うのもあるのだけれど。
原因はもちろんあの女――モトカノをあの女呼ばわりもアレだけど――があること無い事吹聴してまわっている為だけど、それに伴って僕にとっては懐かしい事すら噂になっていた。
あんまり僕にとって愉快じゃない事なんで、明言は避けとくけど、まぁ、若気の――といっても今でも若輩なんだけど――至りってヤツで。
ついでと言っちゃついでなんだけど、僕に美人の彼女がいると言う噂までおまけに広まったもんだから、ここの所、どーにも学校が居心地よくない。
人の噂も七十五日とは言うけど、二ヵ月半もこんな噂に悩まされ続けるのかと考えると、自然と憂鬱になるというもの。
というか、年明けちゃうし。
更に更に、この噂のせいで、僕は今年一杯の部活動の禁止を顧問に言い渡された。
曰く、「精神修行であるこの場に、たかだか一学年の間とは言え他のものの集中を邪魔する原因を置いておくわけにいかん」とか。「お前の所為ではないのだが、スマンな」とも言ってくれはしたけど、僕の意思は無視ですか?
でも、僕としてもそれはありがたい事でもなくもなく。
……やっぱりどうしたって学校が居心地悪いわけだから、それこそ放課後はさっさと学校から逃げ出したい訳だから。
かと言って、毎日開き直って神姫バトルを繰り返すだけのゆとりがあるわけでも無いので、学校には秘密で短期バイトでも探そうかとも思いながら、それでも僕は1時間20分電車に揺られて、平日だって言うのにエルゴまで来ていたりする。
……バカだなぁ、僕。
今日はせっかく学校が早く引けたのに、なんだかチョット時間無駄にしてる様な。
何で休日にしなかったのか。バカだなぁ、僕。
「とはいっても先立つものも無いしなぁ……」
「ですぅ~」
懐のさびしさに僕とティキは思わず同じタイミングでため息を吐く。
なんで金欠だってのにわざわざ1時間20分強の時間を費やしてるのか。つくづくバカだなぁ、僕。
そんなに自分のことをバカだバカだといってても凹むだけなんで、気を取り直して僕は店内へと入った。
どうでもいいけど、神姫もため息って吐くもんなんだな。……ホントにどうでもいいことだけど。
「「「いらっしゃいませ」」」
店長とは明らかに違う、女の人の声が三つ、同時に発せられる。
一つはこの店のシンボル、『ウサ大明神様』ことジェニーさん。他の二人の声は、聞いたことの無い声。
と言っても、僕はこの店に来るのがまだ二度目なので、バイトの人だとしても知らなくて当然なんだけど。
一人は接客をしている女の子。僕と同じか、一つ二つ上くらい。高校生なのは見ただけで丸わかり。だって、制服着てるし。
もう一人は神姫。TYPE 吼凛。なんだか商品モデルをやってる風。うん。このハウリン、接客している彼女の神姫みたいだ。一応、距離感でそれくらいはわかる。
でもこのハウリンがアノ有名な魔女っ子神姫だなんてその時の僕には知る良しも無く。後々に思えばすごくもったいない。……写真でも一緒に取れたら式部に自慢できたのに!
「こんにちは、ジェニーさん。店長さんいますか?」
レジで店番をしているジェニーさんに話しかける僕。この前来た時、思わず『ウサ大明神様』と呼んでしまったが、彼女はどうやらあまりそういう風に呼んでもらいたくないらしい。
「お久しぶりですね。今、二階に居ますよ」
ジェニーさんはまだ二回目の僕の事を覚えてくれていたらしい。……神姫なんだから当然と言ってしまえば当然だけど、うれしかったりする。
「二階……筐体コーナーですね。でも、あれ? なんか随分盛り上がってますねぇ?」
事実、二階からどよめきとも喚声ともつかない一種異様な音がもれ響いている。
「チョットしたハプニングと言うか、イベントと言うか……」
ジェニーさんは苦笑を浮かべながらなんとも歯切れの悪い事を言う。
「? とにかく行ってみるですよぉ♪」
ティキは好奇心が抑えきれないと言う風にウズウズしている。
僕としてもそこら辺はティキと同じ気持ちなので、ジェニーさんにお礼を言うと、二階へと向かった。
二階は異様な熱気に包まれていた。
3on3の、所謂チーム戦。それがただのチーム戦なら、こんなにも盛り上がりを見せる事は無い。
まず参加者が凄まじい。
セカンドリーグで名を馳せる『D-コマンダー』と言えば、知らないやつはそう居ない。かくいう僕も、実際そのバトルを見た事は無いが、チーム戦におけるファースト昇進の壁と言われる風評を知らないわけが無い。
片や相手チーム。オーナーブースに二人いる変則マッチだけど、神姫はそれでも三姫。このメンバーもすごい。
『隻眼の悪魔』・『神速の紅眼』・『紅き眼の狙撃手』・『紅の剣客』・『朝霧の紅眼』……などと幾つもの二つ名を持ちながら結局固体名そのままの名で呼ばれることの多い隻眼のストラーフ、十兵衛。
二つ名を持たないまでもその戦闘スタイルから『ケット・シー』と揶揄される事も多いマオチャオ、ねここ。
最後の一姫はさすがにその手の情報に疎い僕だから名前まではわからないけど、それでもそのハウリンの戦闘スキルは、見ただけでその高さを窺い知れる。
「おい、ティキ…… 僕達、とんでもない時にとんでもないタイミングで来たみたいだ……」
こんなカード、早々見られるもんじゃない。と言うか、絶対お目にかかれない。
今、この場所以外のところでは。
「全てを吸収なんて、できるはず無いけど、それでも絶対に参考になるから、見逃しちゃダメだ」
「……ハイです!」
いつもにも増して真剣な僕とティキ。僕らはそのバトルに釘付けになった。
中でもやはり注目しちゃうのは、同じマオチャオであるねここ嬢だろう。基本は同じ特性を持っているわけだから、一番参考にしやすいって言うのもあるのだけれど。
迫力のバトルは終わりを告げ、僕は今サブモニターでのエキシビションとして流れてるさっきまでの試合を眺めていた。
周りはそのときの熱気のままに、バトルが盛り上がっているけど、僕はそのあまりのレベルの高さに、試合が終了したと同時に脱力してしまっていた。
格好悪いけど、腰が抜けたんだ。
そんな僕の頭の上で、上手にバランスを取って座っているティキも、その眼はサブモニターを注視していた。
エキシビションのねここ嬢を見ながら、僕は誰に向けるわけでもなく小声で言う。
「すっげー、すっげー、すっげー。 あんな挙動、参考になんないよ。あんな、『幻惑する流星』のごとき、『切り裂く雷神』のごとき挙動なんて」
多分僕は放心状態で、ティキにしてもきっと衝撃的な体験で。
でもそれでも。
きっとティキもそう思っているんだろうけど。
その地平に憬れて。
そこに立てない自身が悔しくて。
それでもそこに向かう決意を固めてる。
三回目の試合映像を見終えると、僕ら二人はお互いなにも言わず、誰にも何も告げず、大いに賑わっている店内から出て行った。
周りはそのときの熱気のままに、バトルが盛り上がっているけど、僕はそのあまりのレベルの高さに、試合が終了したと同時に脱力してしまっていた。
格好悪いけど、腰が抜けたんだ。
そんな僕の頭の上で、上手にバランスを取って座っているティキも、その眼はサブモニターを注視していた。
エキシビションのねここ嬢を見ながら、僕は誰に向けるわけでもなく小声で言う。
「すっげー、すっげー、すっげー。 あんな挙動、参考になんないよ。あんな、『幻惑する流星』のごとき、『切り裂く雷神』のごとき挙動なんて」
多分僕は放心状態で、ティキにしてもきっと衝撃的な体験で。
でもそれでも。
きっとティキもそう思っているんだろうけど。
その地平に憬れて。
そこに立てない自身が悔しくて。
それでもそこに向かう決意を固めてる。
三回目の試合映像を見終えると、僕ら二人はお互いなにも言わず、誰にも何も告げず、大いに賑わっている店内から出て行った。
帰りの電車の中。
僕とティキ――ティキは僕のジャケットの内ポケットの中――は、バトルの余韻と、不甲斐ない自分達に向けられた悔しさに当てられたままに電車に揺られている。
「あっ!」
内ポケットでティキが声を発した。
何事かと思いコッソリとティキを覗く。ポケットの中のティキは何処か驚いたような顔をして――
「あっ!」
そして僕も思い出す。
店長さんに、相談しようと思ってわざわざエルゴまでやって来た事を。
僕とティキ――ティキは僕のジャケットの内ポケットの中――は、バトルの余韻と、不甲斐ない自分達に向けられた悔しさに当てられたままに電車に揺られている。
「あっ!」
内ポケットでティキが声を発した。
何事かと思いコッソリとティキを覗く。ポケットの中のティキは何処か驚いたような顔をして――
「あっ!」
そして僕も思い出す。
店長さんに、相談しようと思ってわざわざエルゴまでやって来た事を。