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キズナのキセキ

番外編「黒兎と盗賊姫」 前編



「……なるほどな」

 尊は感嘆と共に一言吐き出した。
 隣に座る真那は、どっと大きなため息をついていた。
 梨々香の神姫・モナカにメモリーされていた映像を鑑賞し、たった今終わったところだ。
 映像の内容は、武装神姫同士のリアルバトル。
 つい先日行われた、『異邦人(エトランゼ)』と『狂乱の聖女』の一戦である。
 身内しか見ることのかなわなかった大一番であるが、幸いにして、尊の弟子・江崎梨々香は『エトランゼ』のチームに所属している、つまり身内であった。ゆえに、神姫を使って密かに撮影した、貴重なバトルの様子を見ることができるのだ。

 死闘だった、と言えるだろう。
 メモリーに記録されていたのは、命を削り合うようなリアルバトル。双方の装備は破壊され、奥の手をも出し尽くした死闘。
 勝利を手にしたのは、絆を武器にしたミスティだった。

「でもさ、ミコちゃんはどこまでわかっていたの?」
「……なにが?」
「久住さんちからの帰り道で、言ったじゃない。逆算すればわかるとかなんとか……」
「ああ」

 尊は口元にだけ苦笑を浮かべる。確かにそんなことを言った。

「俺だって何もかもわかってたわけじゃない。
 あの「特訓場」のネットワークは、ローカルで閉じていた。しかも、バトルのデータは持ち出し禁止で、集まっていることも他言無用……つまり、ミスティのデータを外に漏らしたくないってことだ。
 外に漏らすと不都合がある。何の不都合かと言えば、来るべき決戦……マグダレーナとの対決だ。
 ということは、マグダレーナは漏らしたデータを拾うことができる能力を持つ神姫だと考えられる。つまり、ネットワークをに強い神姫ってことだな。
 ネットワークから掘り出したデータを分析し、相手の対策を練る。それを一瞬にしてできる神姫ならば、確かに強いだろう。敵を知り己を知れば百戦危うからず。すくなくとも、有利に立てる。
 遠野の秘密主義はその能力を封じるためだと考えれば、筋が通る……そんなところだ」
「……はあ」
「実際は、俺の想像を超える神姫だったがな、マグダレーナは」

 ネット上の神姫のあらゆるデータ検索と分析、それを元にした正確な行動予測……そんなことができる神姫なんて、非常識にもほどがある。
 「特訓場」に二度ほど出入りしただけで、そんな神姫の正体にまでたどり着けるはずがない。

「でも、そのマグダレーナっていう神姫がネットワークに強いとしても、もっと簡単に攻略する方法があったんじゃない?」
「そうだな、俺もそう思う。だが、『エトランゼ』が『エトランゼ』としてマグダレーナに勝つためには、ああする必要があったんだ。」
「……どういうこと?」
「言ったろ、遠野は絆を武器にする方法を知ってるって。『エトランゼ』がそう呼ばれる理由……各地を回って戦ったことで得たものは強さだけじゃない。たくさんの神姫マスターと知り合い、絆を結んだ。あの「特訓場」はそれを最大限に生かすための仕掛けだ。ミスティに新しい武装を練習させるのと同時に、『エトランゼ』が「どう戦い続けてきたのか」を再確認させる。
 絆がミスティを強くする……例えではなく、本当にな。
 まどろっこしい方法だなんて、遠野自身も気付いていただろうさ」

 そう、遠野ほどの男であれば、そんなことはとっくに分かっていたはずだ。
 俺とあれほどのバトルを戦える奴なのだから。
 尊は、あの日のバトルを……遠野貴樹との一戦を思い出す。



「あんたは対戦しないのか?」

 眼鏡の男の何気ない問いに、俺は顔を上げた。
 『双姫主』の尊(みこと)。今関わっている事件のことを除き、個人的な興味だけで語るならば、俺が今一番気になっている神姫マスターだ。

「いや……そういうわけじゃないが」
「だったら、どうだ。俺たちとバトル」
「君と、俺で……?」

 尊は頷いてみせる。

「俺がここに来たのは、『エトランゼ』との対戦ももちろんだが……『ハイスピード・バニー』ティアのバトルが見たかったからだ」
「……できればやめてほしいんだが、その呼び方」

 『ハイスピード・バニー』という呼び名が定着しつつある状況は、俺としてはまったく好ましくない。あまりに安直で、あまりに格好悪くないか?
 尊は少し不思議そうな顔をしながら続けた。

「まあ……ティアの対戦が見られるのを楽しみにしていたんだが、あんたが対戦しようって気がまるで見られなかったんでな。二回もここに足を運んでいるのに、一度もティアのバトルが見られないままじゃ、来た甲斐がない」
「ああ……それはすまない」

 確かに俺は、菜々子さんの特訓に必要な対戦以外は、ろくに対戦していない。
 したくないわけではなく、ミスティの特訓用のマッチメイクや、ミスティのデータ管理に忙殺されていたからだ。

「君がそう言ってくれるなら……俺としても願ってもない」
「ほう……?」
「俺だって、今一番気になる神姫マスターがそばにいるのに、対戦したくないはずがないだろう」
「驚いたな……。まさかお互い、同じようなことを考えていたとは」
「確かに」

 俺と尊は苦笑する。
 会ったこともなかった神姫マスター同士だが、お互い気にかけていたとは。

 尊との対戦は確かに面白そうだ。
 彼の特殊能力・デュアルオーダーを抜きにしても、戦術や策を駆使した頭脳的なバトルを展開するのは、この「特訓場」での対戦で目にしている。
 そして『盗賊姫』の異名を持つフブキ型の蒼貴と、パワーだけでなく、壁走りも駆使する機動性を持つイーダ・プロトタイプの紫貴……彼の神姫たちも特徴的で興味深い。
 彼らを向こうに回して、ティアをどう戦わせるか……想像するだけで楽しくなってくる。
 だが、今の俺は、自分の対戦以上に優先しなくてはならないことがある。

「すまんが、ちょっと待ってくれ。許可をもらわないと、俺個人の対戦はできない」
「許可?」
「ああ。俺は今、菜々子さんのバトルのすべてを管理してるんでね……彼女の許可がないと……」

 俺はこの「特訓場」の主・久住菜々子さんに視線をうつし、そして思わず言葉を失った。
 彼女は、俺が声をかける前から、俺たちをじっと見つめていた。
 いや、菜々子さんだけではない。
 いつの間にか、ここにいる全員、人も神姫もみんな、俺たち二人の会話に注目してた。
 俺より先に菜々子さんが口を開く。

「許可!? そんなもの、取るまでもないでしょう! 遠野くんと双姫主のバトルなんて、絶対見たいに決まってるし!」

 周囲からも、そーだそーだ、と一斉に賛成の声が上がる。
 ……そんなに見たいもんか? 俺とティアのバトルなんて、そんなに面白いものでもないと思うんだが。
 いや、双姫主のバトルならみんな見たいか。

「許可は出たみたいだな」

 尊が苦笑する。
 俺は肩をすくめた。

「それじゃあ、少し待ってくれ。準備する」
「準備?」
「ティアの武装のセッティングをろくにしていないんだ」
「わかった」

 尊は頷いてくれた。
 俺は早速準備に取りかかる。装備のセッティングをしていなかったというのは嘘ではない。
 だが、対双姫主用の準備をしないとも言っていない。
 俺はデータカードに登録された武器データを家庭用VRマシンで呼び出すと、使用武器を選び、データをいくつか変更した。
 作業は五分足らずで終了した。



「双姫主とバトルということは、二対二。ティアにパートナーが必要ということです。微力ながら、わたくし雪華が引き受けましょう」
「いえいえ、我が女王にお手を煩わせるのは忍びない。ここはわたくしが出るのが最善かと」
「控えなさい、ランティス。あなたの出る幕ではありません」
「恐れながら女王、双姫主の神姫は二人とも地上型。飛行型の女王では、相手ペアとのバランスが取れないのではありませんか」
「問題ありません。地上戦用にオールベルン装備を持ってきています」

 珍しいことに、主従の関係にある雪華さんとランティスさんが睨み合っている。
 つまり、これから対戦する尊さんは、二人の神姫を同時に扱うので、わたしの他にもう一人バトルに参加するということ、みたい。
 二人がその座を争ってくれるのは、光栄だし、嬉しくも思うけれど。

「あの……喧嘩は良くないと思います……けど……」
「貴女は黙っていてください!」

 わたしが口出しした瞬間に、二人が声を揃えてそう言うものだから、わたしは一歩離れて縮こまってしまう。
 すると、わたしの前に出てきた神姫が、雪華さんたちに向かって宣言する。

「いや、むしろアンタたちがティアのパートナーになるのは、アタシたちより優先度低いだろ。まずはチームメイトにして親友であるこのアタシ、虎実様が一番だ」
「それは抜け駆けですよ、虎実さん! チームメイトっていうなら、この涼姫もです。それに、涼子は遠野さんの一番弟子。わたしとティアさんのコンビこそふさわしい……」
「あんたじゃ、あのパワータイプを相手にできないでしょが。カイ様が相手のイーダ型を相手にすれば、バランスとれるってもんです」
「いやいや、それならこのわたしだって……」
「いえいえ、わたしだって参加したい……」

 虎実さんが口火を切ったら、次から次へと神姫たちが、わたしのパートナーに名乗り出た。
 いったい、何なのだろう?
 みんなそんなに双姫主さんと対戦したいのかしら。
 わたしの意見はまったく考慮に入らないまま、神姫たちの議論はヒートアップしている。
 もはや、わたしはそっちのけで盛り上がっており、どうすることもできない。
 議論が白熱しすぎ、実力で決めるしかない、という危険な結論に至り、一触即発の危険な空気が場に流れ出した頃。

「ミスティ。二対二でやるから、ティアのパートナーについてくれ」

 という、わたしのマスターの鶴の一声で、緊張と熱気は一気に霧散した。



 パートナーにミスティを指名した理由は単純である。
 尊の神姫が、フブキ型とイーダ型の組み合わせだったからだ。似たような組み合わせの方が、神姫による差が出にくいだろう。
 双姫主とはいえ、実質二対一だ。手を抜く気はないが、実力以外のところでこちらが有利になる試合にはしたくなかった。

 向かい合う四台のVRマシン。尊の向かいに、俺と菜々子さんが並んで座る。
 周りには、来ていた神姫マスターたちが全員、俺たちのバトルを観戦するために、取り囲んでいる。
 俺は尊に言った。

「ステージは廃墟か都市にしたいんだが、どうだ?」
「そうだな……廃墟ステージがいい。俺たちもそっちも、持ち味が活かせるんじゃないか」
「話が早くて助かる」

 小気味いいやりとりだ。お互い、このバトルに求めるものが同じだからなのかもしれない。
 興味のある相手と、全力のバトルをしたい。そのためには、お互いの持ち味が存分に活かせるステージなくては意味がない。
 尊もそれをよくわかってくれている。

 俺たちはアクセスポッドに神姫たちを送り込む。
 俺は隣にいる菜々子さんにだけ聞こえるように、小声で話しかけた。

「菜々子さん、準備はいいか?」
「もちろん。……作戦はどうするの?」
「ちょっと試したいことがあるんだ。ミスティには紫貴を任せたい」
「あのプロトタイプのイーダね。わかったわ」

 俺たちは視線を交わすと、頷いた。
 菜々子さんは俺の考えのすべてが分かっているわけではないだろう。だが、俺の意志を汲み取って、尊重してくれるのはありがたかった。

「さて……はじめようか」
「よし、スタートだ」

 俺と尊が静かに告げ、三人は同時にスタートボタンを押した。
 モニター画面に対戦カードが表示される。

『蒼貴・紫貴 VS ティア・ミスティ』

 すると、周囲のギャラリーがわっと沸いた。
 この感覚、どこか懐かしい。
 そう言えば、しばらくゲーセンに足を向けていないな……などと考えているうちに、バトルは始まった。



 見慣れた廃墟ステージのメインストリート。
 ミスティは同じイーダ型と対峙していた。
 少し離れているが、トライクモードをどちらかが使えば、あっという間に詰まる距離。
 新装備のミスティは、副腕に拳を構えさせ、自らも手にした刀・エアロヴァジュラを持ち上げる。
 背面にマウントした二丁のアサルトカービンの銃口は、ストリートの先を睨んでいる。
 待ち構える。
 微動だにせず佇むミスティに対し、紫貴は戸惑っているようだったが、すぐにトライクモードに変形して突っ込んできた。
 ミスティはアサルトカービンを撃つ。二本の弾痕が紫貴に向かって突き進む。
 紫貴はジグザグに走って狙いをかわす。スピードは落ちたが、それでもミスティに向かって走る。
 射撃をやめ、待ち受けるミスティの前を、トライクが横切った。すれ違いざまに斬り結ぶ。お互いの得物は同じ、イーダのデフォルト装備であるエアロヴァジュラ。
 ミスティの左へ駆け抜けた紫貴を、副腕のバックナックルが追撃する。
 それをターンしてなんとか回避すると、紫貴はそのままビルの壁に貼り付き、ターンしながらアサルトカービンを引き抜いた。

「……!」

 ミスティが大きく右方向に跳ねる。
 射線がミスティを追う。
 すると、ミスティは両足に装備されたホイールを操り、小さなターンを連続で行って回避した。
 紫貴の射撃が止まると、間髪入れずにアサルトカービンを再び吼えさせる。
 紫貴は壁を蹴って銃弾を回避、再びメインストリートに着地した。

「……やるわね」

 姿勢を低くし、再びダッシュしようとする紫貴に、ミスティは手を挙げた。

「ちょっと待って」
「なに? いまさら怖じ気付いた?」
「違うわよ。このバトルで、あなたと争う気はないの」
「はあ? バトル中に何言ってるの?」
「……あなた、マスターから指示が全然来てないでしょう」
「な……」

 図星だった。
 バトルが始まった直後から、尊の指示は一切、紫貴のところへ来ていない。

「なんで、そんなことわかるのよ」
「タカキとティアは、そんなに甘い相手じゃない、ってことよ」
「……」
「そんなことより、あの二人のバトルを観戦しに行きましょう」
「……正気?」
「当たり前よ。みんなが注目してるティアと蒼貴のバトルを同じステージ上で間近に見られるのは、バトルに参加してるわたしたちだけ。特等席で観戦できるわ。このチャンスを見逃す手はないでしょ」
「……」

 紫貴は納得がいかない。
 このバトルは蒼貴だけのものではないのに、なぜ自ら蚊帳の外に出なくてはならないのか。
 しかし、尊の指示なしに、ミスティを相手にできないのもまた事実。
 それに、尊が自分に指示を送れないほど煮詰まり、蒼貴が苦戦するバトルとは、いったいどんな戦いなのだろう。少し気になる紫貴である。

「……不意打ちはしないでよね」
「そんなことしないわよ」

 ミスティは肩をすくめて笑って見せた。
 イーダ型の二人は、そろって移動を開始する。蒼貴とティアが戦うストリートが見下ろせるビルの上へと。



 メインストリートと交差する通りの上。
 俺の希望通り、ティアと蒼貴が対峙している。
 紫貴も尊の神姫ではあるが、『盗賊姫』とあだ名される蒼貴の方が、彼本来の持ち味が活かされているはず、と考えている。

 ティアの今の装備は、いつものランドスピナーに、手にはハンドガンが一丁。
 先日のバトルで壊れたレッグパーツは、海藤と大城の協力を得て、特訓が始まった頃に修理し、復活した。見た目は変わらないが、内部はアップグレードされている。

 対する蒼貴は、ミズキ型の白い忍者装束を身に纏っている。武器は大鎌と苦無で、これもフブキ型として変わったところはない。
 通常のフブキ型と変わっているのは、素体のカラーリングだ。特に頭は、半分がフブキ、半分がミズキというのが、なんとも異様だ。黒いボディのところどころが白くなっているのは、やはりミズキ型のパーツを流用しているのか。まるで、フブキ型の欠けた部分をミズキ型で補完しているかのようだ。
 はたして、蒼貴の異様な外見に意味があるのか。何かのカモフラージュか、あるいは特別な能力が……。
 そこまで考えて、俺は思考を切り替える。
 おそらく蒼貴自身は特別な神姫ではない。見る限り、装備に恵まれているわけでもない。だからこそ技を磨く。そうであるはずだ。
 警戒すべきは、彼女の「技」だ。相手から装備を盗むというその技こそ、蒼貴の真骨頂。
 まずは相手の出方を見る。

「ティア、蒼貴の背中を取るように動け。セオリー通りにな」
『はい!』

 素直な返事がヘッドセット越しに聞こえてくる。
 ティアが走り出す。
 さて、尊は、蒼貴は、どう出るか?



『まずは小手調べだ。ティアのハンドガンを奪え』
「はい」

 尊の指示に、蒼貴は動き出す。
 姿勢を低くし、物陰に隠れながらの機動は、蒼貴の戦い方の基本である。
 だが、相手神姫の行動から目が離せない。ティアは地上型ながら高機動タイプ。油断して姿を見失ったりしたら命取りだ。
 案の定、ティアは一カ所に留まることなく、常に動き続けている。
 蒼貴の背後を取るような機動は、確かに戦闘におけるセオリーだ。
 しかし、それは逆に読みやすくもある。
 蒼貴は自らも高速で移動しながら、物陰に飛び込もうとするところで、わずかに背後に隙を作った。
 ティアはそれを見逃さない。
 蒼貴の後ろに回り込んだところで、一瞬足を止め、ハンドガンを構える。
 その瞬間。
 蒼貴の身体が翻った。
 わずかにハンドガンの射線をはずす機動。
 照準をし直そうとしてももう遅い。
 蒼貴は手にした鎌を斜め下から振り上げ、先端をティアのハンドガンに引っかけた。

「あっ!?」

 ティアの手からハンドガンが離れる。
 鎌から飛んだ銃は、蒼貴の方へと落ちてくる。
 蒼貴はハンドガンを頭上で取ると、すぐさまグリップを握り、ティアに向かって構えた。
 超至近距離。この距離ならば、はずす方が難しい。
 ……呆気ないものですね。
 蒼貴は少し落胆しながら、引き金を引いた。


 ……かちん。

 乾いた音が響き、二人の間を真っ白な風が吹き抜けていった。


「……!?」

 弾が出ない。
 蒼貴は慌てて銃を確認する。
 フルオートタイプのハンドガンは、ブローバックしたままの状態になっていた。
 炸薬が爆発する反動で戻るものが戻っていない。つまりそもそも、弾が入っていない。
 蒼貴はグリップを見た。
 そこにあるべきもの……装填されているはずのマガジンが入っていなかった。
 ハンドガンの向こう側に、ティアの姿が見える。

「……え、えと……」

 なんだか申し訳なさそうな顔をしたティア。
 その手に持っていたものは、今蒼貴が手にしているハンドガンのマガジンだった。
 つまり、ティアはハンドガンが奪われることを見越して、マガジンを抜き取っていたのだ。
 奪った銃の弾が出ないはずである。

「くっ……」

 蒼貴は悔しさをにじませながら、ハンドガンを投げ捨てた。まさかハズレの武器を掴まされるとは……予想もしていなかった。

『……なるほど。対策された、というわけか』
「オーナー、感心している場合ではありません」

 蒼貴は少し苛立っていた。まさか自らの得意技をこんなふうに封じられるとは思ってもみなかったのだ。これは蒼貴の自尊心を少なからず傷つけていた。

 ティアの手にサイドボードから別の銃が送り込まれてくる。攻撃力が強いが、連射できないエネルギー銃・ブラスターだ。
 蒼貴はティアを……というより、その手にしたブラスターを睨みつけた。
 今のはしてやられた。だが、二度目はない。次は完璧を期す。必ず弾が撃てる状態で奪ってみせる。
 蒼貴が地を蹴る。
 地を這うような低姿勢でダッシュし、ティアに迫る。
 ティアはブラスターの銃口を向ける間もなく、ホイールを回転させて後退する。

「逃がすか!」

 追う蒼貴、逃げるティア。
 ティアがステップを踏みながら路地を曲がる。
 続けて蒼貴が路地に飛び込んだ。
 まっすぐに続く路地の奥。
 いない。
 壁走りか。それならば紫貴だって使う戦法だ。
 蒼貴はすぐさま頭上を仰いだ。

 はたして、ティアは垂直の壁の上で、高速でスピンしていた。
 その技術に舌を巻きながらも、蒼貴は嫌な予感にとらわれ、路地の入り口から飛び退いて、壁を背にした。
 次の瞬間、背にした壁と先ほどまでいた路面上に、オレンジ色のエネルギー弾が三発、立て続けに着弾した。
 ……なんですか、この技は。
 ティアが手にしたブラスターは反動が大きく、こんな速射はできないはずなのに。
 蒼貴は疑念を抱きながらも、苦無を手にして、再び路地の入り口から頭上を振り仰ぐ。
 ティアの姿を見つけ、間髪入れずに苦無を放った。
 ティアは飛来する手裏剣をかわそうと、壁を蹴る。
 空中のティアを追撃すべく、さらに苦無を取り出す蒼貴。空中制御のないティアはこの攻撃をかわせないはず。
 だが、次の瞬間。
 宙に身を躍らせたティアは、おもむろにブラスターを撃った。

「うわっ!」

 小さな熱球はあやまたずに蒼貴を襲い、頭に着けていた狐面に着弾、爆砕した。
 蒼貴は転がるように、再び壁際に隠れる。
 頭に深刻なダメージはないようだが、爆発の衝撃でくらくらする。
 今のは危なかった。ブラスター弾に反応して頭を振っていなかったら、狐面の代わりに自分の頭が吹っ飛んでいただろう。
 油断?
 いいえ、油断なんてしていない。
 空中にいるティアに追撃しようとしたのには、確実な勝算があったからだ。
 あの時、ティアは蒼貴の方を見ていなかった。だから、向こうから攻撃が来るはずはなかったのだ。
 ティアは蒼貴を見ずにブラスターを撃った。それなのに、あの射撃精度。
 蒼貴はぞっとする。大した装備もないのに得体が知れない。次にどんなことを仕掛けてくるのかも分からない。
 考えていた蒼貴は、ふと気配を感じた。
 蒼貴は何も考えず、勘だけで横に飛んだ。それと同時、

『蒼貴、上だ!』

 マスターの尊の声が耳に届いた。
 次の瞬間、今蒼貴がいた位置に、黒い影が飛び降りてきた。
 勘に従って正解だった。稼いだ一瞬を使って、降りてきた影と余裕を持って対峙できる。
 影の正体はもちろんティアだ。
 蒼貴は悟る。
 壁に囲まれた廃墟の路地では、ティアはまさに水を得た魚。縦横無尽の機動で翻弄してくる。
 装備で判断してはだめだ。
 彼女はいままで出会ったことのない強敵。
 蒼貴は意識を切り替えると、改めて大鎌を構えた。



「なによあれ……垂直の壁の上で高速スピンしながらブラスターを連射とか……どんなトリック使ってるのよ」

 自らも壁走りを利用して戦う紫貴だからこそ、ティアの並外れた動きに戦慄を感じる。

「それに、あの空中での射撃……相手を見ないで撃ってなかった!?」
「ノールック・ショット……ティアの得意技ね」

 ミスティにしてみれば、今の戦闘はティアの得意技のオンパレードである。彼女には見慣れた技ばかりだ。
 だからこそ、ティアは出し惜しみをしていない、とわかる。
 遠野が本気モードでバトルしている証拠でもある。

「なんでレーダーもなしに、あんなことできるのよ……」
「あの子のマスターに言わせると、神姫の特性を見抜いて伸ばしただけ、って言ってたけど……」

 まあ、信じがたい話よね。
 ミスティは少し困ったように肩をすくめた。
 幾度となくティアと対戦したミスティですら、あの技を超能力の類ではないかと疑っているのだから。



 着地の体勢から、ティアが顔を上げる。
 まっすぐに蒼貴に送られる視線。表情は真剣そのもの。
 隙などありはしない。
 ティアがブラスターを構えた。
 まっすぐに蒼貴を狙う。
 蒼貴はダッシュした。壁を走り、ブラスターの照準を逸らしながら、ティアに向かって進む。
 ティアが慌てて、照準をし直そうとするが、もう遅い。
 蒼貴は壁を蹴って飛び降りると、ティアが引き金を引くよりも早く、大鎌を下から振り上げつつ着地した。

「あっ!?」

 ティアの小さな叫びとともに、ブラスターは鎌の先に引っかけられて、蒼貴の手の中へと収まる。
 一挙動でブラスターを構える。
 さっきの三連射プラス一発しか撃っていないブラスターである。今度は間違いなく弾が出る。
 蒼貴は躊躇いなく引き金を引いた。


 ぱすん。

 なんとも間抜けな音だけが銃口から発射され、二人の間を真っ白な風が吹き抜けていった。


「そ、そんな……!?」

 蒼貴は慌ててエネルギーカートリッジの残量を確認する。
 残量はゼロを示していた。
 まだ四発しか撃っていないのに、なぜエネルギー切れなのか。
 蒼貴が逡巡している一瞬の隙に、ティアが動く。
 一歩踏み込み、低い体勢のままスピン。
 蒼貴が気がついて防御態勢を取るより早く、勢いよく振り出されたティアのサイドキックが、蒼貴の腹部に炸裂した。

「かはっ……!」

 地面を転がり、壁で三方を囲まれた袋小路の奥まで弾き飛ばされる。
 壁に激突する直前、転がる勢いを利用して、蒼貴は立った。
 路地の先にいるティアを見る。
 彼女は止まらない。
 回転を速め、再び片足を振り上げようとしている。
 何か、来る。
 蒼貴がそう悟った刹那、

『塵の刃だ! 手裏剣で決めろ!』

 尊の指示が来た。
 蒼貴のマスターは、この追い込まれたピンチをチャンスと捉えていた。これは逆転の一手。

「はああぁっ!」

 応える代わりに気合い一閃、背中に回した右腕を、神速で振り抜く。
 その刹那の間に、蒼貴は光煌めく大型手裏剣を生みだし、投擲していた。
 それと同時。

「ライトニング・アクセル!!」

 ティアの叫びとともに、振り抜かれた右脚が蒼い三日月の稲妻を放った。
 二人の大技が宙を駈け、二人の間で激突する。
 すると。
 あえかな音をたてながら、手裏剣と三日月は光を散らし、かき消えた。



「な、なに……っ!?」

 俺のつぶやきは誰かの声と重なって聞こえた。
 見れば、正面に座る尊も、俺と同様、少し腰を浮かせている。
 彼もまた、今の現象に驚いているようだ。
 つまり、蒼貴の放った大型手裏剣が、ライトニング・アクセルにかき消されるとは、尊も思っていなかったに違いない。
 逆に、俺も勝負を決めにいった必殺技が相殺されるなど考えてもみなかった。
 なんだ、あの手裏剣は。
 尊がサイドボードから送り込んだ武器ではないのか。
 だとしたら、いったいどんな原理で作られているというのか。
 ライトニング・アクセルを相殺できるなんて、並大抵の威力ではない。

「くっ……」

 俺の口から無意識のうちに声が漏れた。
 焦っているのか、俺は?
 待て。
 落ち着け、俺。
 確かにあの大型手裏剣は得体の知れない武器だが、こっちの大技で相殺している。別にダメージを食ったわけでもない。今まで見せていなかったということは、そうそう使える武器でもないのだろう。
 一度見た大型手裏剣を、易々と食らうティアではない。
 向こうにも『ライトニング・アクセル』を見せているが、それはおあいこだ。
 試合はまだ続いている。
 そう、状況は振り出しに戻っただけだ。
 俺は呼吸を整えるため、一度大きく深呼吸した。



 尊にしてみれば、今の一撃は起死回生、一発逆転の奥の手だった。
 CSCの力を解放し、空中の塵を固定化することで、鋭い武器を生み出す……蒼貴が持つスキル『塵の刃』。
 イリーガルマインドで強化されたボディすら、一刀の元に斬り捨てる威力だ。触れたが最後、ただではすまない。
 それを相殺した。
 あの『ライトニング・アクセル』という技は何だ。CSCの力を使わずに、『塵の刃』と同等の威力を持つ攻撃を放てるというのか、あの軽装備で。
 尊は肌が粟立つのを自覚する。
 俺はもしかして、とんでもない奴にバトルを申し込んでしまったのか?
 いや、それでいい。それでこそだ。
 とんでもない相手だと思ったからこそ、戦ってみたかったのだ。
 このバトルはバーチャルバトル。尊がよく遭遇するリアルバトルではない。現実の破損、あるいは破壊を気にしなくてもいい。純粋にバトルだけを楽しむことができる。
 そう、楽しもうじゃないか。
 このバトルを……とんでもない神姫、とんでもない男との戦いを存分に。
 尊の口元に、不敵な笑みが浮かんでいた。



 ステージ上の神姫二人も、驚愕に動きを止めていたが、

『ティア、作戦の変更はなしだ』
『行け、蒼貴。油断するな』

 と言われれば、二人とも心は前を向く。
 向かい合うお互いの視線に、油断はない。
 油断などあるはずがない。
 蒼貴とティア、向かい合う二人の思いは一致している。

 侮れない相手。今までに出会ったことのないタイプの強敵。
 限られた装備で相手に立ち向かう。頼りは自らの特性を生かした技と戦術。
 そういう神姫こそ真の強敵なのだと、二人の神姫は悟っていた。
 蒼貴とティア、二人は同時に走り出す。










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