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昔々。と言っても何百年、何十年も前ではなくて数年前くらい昔の話。ネットバトルにとても強いアーンヴァルが居た。名前はアルテミス。奇しくも公式大会で優勝したアーンヴァルと同型同名の神姫。今のところ因果関係は一切不明だけど兎にも角にもネットバトルにアルテミスという名前のとても強いアーンヴァルが居た。
アルテミスは試験的に作られたAI 「アルテミス・システム」が搭載された神姫であり、その強さの秘密は既存のAIを遥かに上回る学習能力にあった。具体的に言えば戦えば戦うほど強くなる某戦闘民族のような神姫だったらしい。その戦いっぷりから今では伝説の武装神姫とまで語り継がれていて、頂点に立っていたアルテミスよりも強いと賛辞する人も少なくはない。
伝説のアルテミスのチャンピオンのアルテミス、どちらが強いのか、その試合は今も成立していない、というのも伝説のアルテミスはある日突然バトルを止めネット上から姿を消してしまったからだ。噂によると「アルテミス・システム」は開発した研究者達の予想を上回る成長を遂げた為に破棄されたと言われている。高過ぎる学習能力を持ったアルテミスが将来人類を脅かしかねないと判断されたんだろう。
伝説のアルテミスが活躍していた当時、僕とイシュタルも神姫バトルをやっていたにも関わらず伝説のアルテミスと出会う事も戦う事もなかった。何故かは分からないけどアルテミスはネットバトルばかりをしていてイシュタルは臨場感の有るという理由でリアルバトルばかりしていたからだ。
「アルテミス・システム」はAIに限りなく人に近い能力を持たせる事を目的とされて作られた。そんなAIを持っているアルテミスと僕が知る限り最高の神姫であるイシュタル…この二体が出会ったらどうなっていたか。最早それは叶いそうない夢ではあるけれど心の何処かで願ってしまう。何処かでアルテミスと出会いたい、どんな形でもいいから出会わせたいと。

「―――もしもし?」
『やぁ、白太くん』

神姫狩りにイシュタルを誘拐されエルゴに迷子のマオチャオを送り届けてから三時間後。エルゴで買ったばかりの本を読んでそんな物思いに耽っていたところに電話を掛けてきたのは日暮店長だった。

「店長? あ、もしかしてイシュタルが見つかったんですか?」
『見つかった。確かに見つかったんだが…』
「良かった! 心配で家に帰れなかったんです、直ぐにそっちに行きますね!」
『いや、来なくていい。…その、何だ。君は口は固い方だったかな』
「え? …まぁ、それなりには」

日暮店長の歯切れが悪い。何か起きたのだろうか、でも何が起きたのかが分からなくて曖昧に頷くことしか出来ない。少しして日暮店長は重い口調で語り始めた。

「落ち着いて聞いて欲しい。今イシュタルは殺人事件の現場に居合わせた神姫として警察に没収されている」
「…殺人事件? 現場?」
「被害者は若い男が二人と若い女が一人。君を襲った神姫狩りだ」

殺人事件、現場、被害者、なんてテレビの向こう側でしか使われない言葉が、今正に僕の耳元で、日暮店長の口から跳び出て重く圧し掛かってくる。

「もしかしてイシュタルが疑われてるんですか」
「いや、犯人は神姫狩りが持っていた神姫だと聞いているが、これ以上は調査待ちだ。兎に角、警察からイシュタルは俺が引き取るから今度こそ君は家に帰るんだ」
「分かりました…」

そして一方的に通話を切られる。説明が足らなくてイシュタルを取り巻く状況が全然分からなくて納得が出来ないけど日暮店長に力強く帰宅を促されたので納得するしかない。もう直ぐ帰りの電車が駅に留まる時間だ。突然の事態に混乱しているけど今日はそれを我慢して独りで帰るしかない。肩にイシュタルを乗せず帰路に着くと言うは久し振りだった。

…。
…。
…。

日暮店長からイシュタルを引き取りに来るように言われたのはそれから五日後の朝。その日は平日だったけれど早くイシュタルに会いたい一心で学校が終わったら直ぐ引き取りに行く事を約束し、日課の予習と復習も投げ出してエルゴに向かった。
電車の中でエルゴに電話を掛け直し殺人事件におけるイシュタルの扱いについて尋ねたところ、先ずは事件の調査結果について教えてくれた。
今回の事件を大まかに言えば「違法改造が原因で起きた神姫の暴走事故」に落ち着いたらしい。誘拐直後に起きた事件であることからイシュタルを容疑者と訴える声も有ったが現場にあった神姫狩りの(被害者)のパソコンには事件が有ったと思われる時刻にイシュタルはデータコピーをされていたというアリバイが残っていた。
また警察自慢の科学捜査班による検査でもイシュタルには人間を攻撃してはいけないという原則が正常に作動していることと、僕が日暮店長に通報を入れた直後から警察に保護されるまでの間イシュタルには記憶が無いことが証明される。催眠術と言う線も疑われたが、誘拐直後に神姫狩りに強制的に停止させられたと見るのが妥当で、催眠術にしてもでは誰がイシュタルに仕込んだのかという新しい謎しか生まないので却下された。
イシュタルが殺人を犯したという証拠は存在せずそもそも不可能である。以上の事からイシュタルは容疑者から外され、疑惑こそ残るものの消去法で違法改造されたムルメルティアが起こした暴走事故と言う形で解決した。
神姫も人間と同じで正常な判断力を失っていたなれば罪は軽くなる。けれどムルメルティアのAIは修復不可能なまでに滅茶苦茶にされているのでリセットされるだろうと日暮店長は悲しそうに付け足した。
一人の武装紳士として僕も悲しい。傷付いた神姫が居るのに助けられなかった。だから僕はただの我が儘だとは分かってはいるけれど頼んでみる。

「店長、ムルメルティアは僕が引き取ってもいいですか?」

日暮店長は返答を渋っていた。

…。
…。
…。

電車を降りて数分歩き、僕はエルゴに入る。月に一度と決めていたのに一週間に二度来店する日が来るとは思わなかった。仕方が無いとはいえ今月の昼食はずっとエアパスタである。
気を取り直し日暮店長を探して歩きながら店内を見渡していると、おや、あの神姫は新入りさんかな? 可愛らしいエプロンドレスを着たストラーフが商品の陳列をしていた、ってあれイシュタルゥ!? うわ、ノリツッコミなんて産まれて初めてだ!
イシュタルも僕に気付いたようで一瞬だけ固まったけれど直ぐに営業スマイルに…なれてない、笑顔になれてないよあれ恥ずかしい格好してるところを息子or弟に見られたところを必死に取り繕うとしている母or姉みたいになってるっていうかさっきから僕の方にもダメージ大きいんだけど何これ何この諸刃のゲイルスゲイルグル。

「い…いらっしゃいマス、御客様」
「…や、やぁ、ここ、こんにちは。その…店長さんは居るかな?」
「日暮夏…店長なら二階にいらっしゃいます」
「分かったよ。あり、ありがとう」
「ど、どういたしまして…」

気まずい凄い気まずい口から泥吐きそうだ知らん振りして他人の振りあれはイシュタルじゃない同型の他神姫だあんな可愛い衣装着てるストラーフが堅物なイシュタルなわけがないさっきイシュタルかなって思ったのは気の所為だいやイシュタルに見えた事自体が何かの間違いだ無かった事にするんだ僕は何も見なかったえぇい消えろ消えろ忌まわしい記憶よぉおおお!

「やぁ、白太くん」

二階から降りて来た日暮店長から後光が差して見えた。と一瞬思ったけどイシュタルにあんな格好させた犯人は日暮店長じゃないかと気付くと殺意が沸いてくる。

「ど、どうしたんだよ、そんな怖い顔して」
「何でも有りませんよ。それでイシュタルを引き取りに来たんですけど」
「イシュタルならそこに…あれ、どこにいった?」
「AHAHAHAHA、店長は何を言っているんですか~?」

そう、僕はまだイシュタルに出会わなかった! エプロンドレスを着たストラーフなんて居なかった!

「まぁいい。引き渡す前に事件について話したい事が有るんだが、時間はいいか?」
「事件について? …いいですけど」

あれ、もう全部聞き終えたと思ったんだけど。

「ジェニー、店番頼んだ。…白太くん、ちょっと来てくれ」
「分かりました、マスター」
「分かりました」

多少とはいえ御客さんのいる店の中で殺人事件の話をするのは嫌なのだろう、僕は日暮店長に連れられて店裏を歩き倉庫を通り過ぎて修理室にまで来た。確かにここまで来れば盗み聞きはされないだろうけどちょっと警戒しすぎじゃないだろうか。

「さてと、白太くん。事件については電車で話した通りだ。覚えているよね?」
「覚えてますよ。でも、もしかしてまだ他に何か有るんですか?」
「いや、無い。俺が知り合いの刑事から聞いた事件の内容は全て君に話した」
「じゃあ他に何が? あ、そう言えば事故を起こしたムルメルティアについて聞いていませんでしたね」
「それは後回しだ。…ちょっといいか」

日暮店長は一度大きく深呼吸する。そして僕に向き直った時、その眼には、正義を宿す強い意思が燃え盛っていた。

「単刀直入に言う。俺はこの殺人事件の犯人はイシュタルだと思っている」
「えぇっ!?」

予想外の告発に思わず大きな声を出してしまった。ここが店の中じゃなくて良かった、じゃなければ周りの人から凄い注目を集めていただろう。修理室で僕の声が反響を繰り返しているのも気にせず日暮店長は続けた。

「今から語ることは全てオタクの妄想だ。証拠も何も無い。聞き流してくれても構わない。先ずはイシュタルの能力についてだ」
「は、はぁ…」

の、能力って、少年ジャンプじゃあるまいし。そう言いたかったけど日暮店長は一切のつっこみを許さない凄味を放っている。

「イシュタルは電子機器を自由に操作出来る能力を持っている。それも並大抵じゃない…神姫のAIを自由に操って警察の科学捜査官すらも欺く、超が幾つ付いても足りない凄腕ハッカーだ。それならパソコンに残っていたログのアリバイも、狂ってしまったムルメルティアも説明が付く。全てイシュタルが手を加えたものだ」
「確かにそれなら説明が付きますけど、ちょっと強引じゃありませんか?」
「だが理論上は可能なはずだ。何故ならイシュタルの性能は既存の神姫より遥かに上なんだからな」

何時か前にも同じ事を言われた様な既視感。

「イシュタルは、確か武術を好んでいるんだったな?」
「大好きですね。自分は武装神姫じゃなくて武術神姫だって自称するくらい」
「フィクションの拳法に内功というものがある。これはバトル漫画なんかでよく出る「気」と殆ど同じもので、鍛錬によって「気」は増大し身体を強化したり治癒能力を高めたり一発で相手を倒したり出来る…イシュタルはこれから着想を得た。神姫である自分は幾ら鍛えても「気」なんて出せないが「電気」なら有る。「電気」を操れるよう君に改造を頼み「電気」を「気」の代わりにして色々な使い方を試している内に電子機器を操るという使い方に気付いた」
「確かにイシュタルは電磁波出せるように改造しましたけど。規定の範囲内で、しかも反射波を利用したセンサーとか遠隔操作系武装へのジャミングとかにしか使えませんよ」
「ハードを改造する前まではそうだったんだろうな」
「ハードを改造したのは動作の速度と精度を高める為です。そもそもストラーフの得意分野は格闘戦ですからね。それに例えとして日暮店長の言う通りイシュタルに電子機器を操作する能力を持っていたとして、ロボット三原則はどうなるんですか?」
「何も問題は無いさ。神姫は人間に攻撃出来ないが神姫には攻撃が出来る。違法改造によって人間に攻撃出来るムルメルティアに人間を殺させるように操ればいい。しかし実際にはイシュタルが殆ど殺したんだろうな。被害者の一人は背後から刃物で急所を刺されて即死した。狂った神姫じゃとても無理な芸当だ。だが実質オーナー無しでファーストランカーにまで駆け上がった神姫なら不可能じゃない」
「そりゃーまー僕は指揮者としてはへっぼこですけどさー」

へそは曲げたけど事実は曲げない。日暮店長の言う通りだから。
昔から僕はスポーツとか格闘ゲームみたいな瞬間的な判断力を必要とするものが苦手で、実を言えば神姫バトルで指示を出したことは殆ど無い。バトルで指示を出したりライドオンしたりする表向きの活躍では無く、神姫の整備、武装の改造、対戦相手の情報収集といった時間を掛けてじっくり目標を理詰めする裏方作業の方が得意だった。
むしろ運動得意で指示出来て神姫整備出来て武装自作出来てイケメンで頼もしい親友出来て可愛い彼女出来る(ここ重要)なんてガチチートだと思うんですがどうでしょう。それはまぁ、横に置いて。

「それじゃあ記憶の空白はどう説明するんですか。イシュタルには誘拐された後の記憶は無いんですよ?」
「今回の事件最大の問題はそれだ。普通神姫の記憶を消すにはオーナーの手助けがいる」
「僕は無理ですよ。神姫狩りの居場所を知ってたら先ず日暮店長に通報してます」
「君を疑ってはいないさ。事件があった時間、君は駅で本を読んでいたことを駅員が証言してくれた」
「疑ってはいたんですね…」
「探偵っつーのは人を疑うのが仕事なんだよ」

日暮店長に疑われたことにショックを受けるべきか、疑いが晴れたことに喜ぶべきか、複雑。

「話を戻すぞ。そう、盗難防止用に神姫の記憶にはオーナー認証を必要とするロックがある。だがイシュタルは自分自身という電子機器すらも操る事も出来るんじゃないか?」
「…ごめんなさい、店長。僕、店長が何を言っているのか分かりません」
「文字通りの意味だと考えてくれ。俺が思い付く限りでは、イリーガルマインドが無くともリミッターを外せ、原則を取り除かずとも人間を攻撃出来、人間の手を借りずとも自分の記憶を消去出来、他人の神姫のAIや記憶を自分に転写出来、意識が無くとも事前に定めた動作内でなら動ける、こんなところか」
「え、ちょ、ちょっと待って下さいよ!」

次々と挙げられていったイシュタルの能力に慌てふためいた。
いや、だって誰だって同じ反応をするだろう、そんなの無茶苦茶だ! もしそれが本当に出来るのなら、出来ない事が殆ど無くなるじゃないか! 何よりも自分で自分を別人に書き換えられるなんて既存のAIだって無理だ! 出来るとすれば、それは最早、

「自分で自分を書き換えられるAIなんて、AIの範疇から大きく離れてる!」
「あぁ、そうだ。イシュタルは一個の電子生命体とも言っていいだろう」

日暮店長は易々と僕の思っていたことを口にした。電子生命体、想像主によって定められた規則に縛られず自由に電子の世界を生きることの出来る不老不死の生命体。科学技術が発達した今でも空想上の存在。

「そ、そんなの、オフィシャルや捜査官の目に留まらないはずがないじゃないですか!」
「予め何処かにバックアップを残しておき検査が入る直前で自分を普通のAIに書き換えるか、もしくは検査するソフト自体を操作すればいい。恐らくは前者の方法を採っているんだろうな」
「な、何でそんなことが分かるんですか?」
「五日前にイシュタルのAIを調べたよな。その時に使ったソフトを調べ直したが書き換えられた痕跡が無かったんだ。…俺が気付いていないだけの可能性もあるが」
「あの時の…もしかして、あの時から疑っていたんですか?」
「いや、全く。今と昔の神姫のAIを調べろって依頼は本当に有ったんだよ。あの時イシュタルは高性能な神姫くらいにしか思っていなかったが今回の殺人事件で考えを改めざる得なくなった」
「でも滅茶苦茶が過ぎますよ。そもそも神姫が神姫を操るなんて事自体に無理が有ります」
「そうか? 神姫を操る神姫なんてざらに居るぜ? 俺とジェニーもその手の奴とやりあった事が有るしな」

ぐぬぬ、確かに居るけどさ。僕も知ってるけどさ。でも、それでも!

「イシュタルが電子生命体だったのなら僕が真っ先に気付いてますし、そもそも電子生命体なんて存在しませんから! はい、証明終わり!」
「何勘違いしてやがる。俺の推理はまだ終了してないぜ」
「終了も何も始まってすらいないでしょう。電子生命体が居るなんて前提に無理が有ります」
「いや、無理ではない。あるAIならその領域にまで成長し得る可能性が有る。…白太くん、君はそれを知っているはずだ」
「えっ?」

えっ?

「「アルテミス・システム」。人間に近付くことを目的に造られたが近付き過ぎた故に破棄されたパンドラのAI。そして君はそれを熱心に調べている。五日前にこの店で買った本も「アルテミス・システム」を造った研究員の著書だ」
「だ、だってそれは…神姫オーナーが伝説の神姫に興味を持つのは不思議なことじゃないでしょう?」
「いや、違うな。君の場合、興味なんて生温いものじゃない。もっと深みに踏み入れている」
「一体何を根拠にしているんですか!」

あ、しまった。つい苛立って探偵に追い詰められた犯人がさらに追い詰められるフラグを立ててしまった。日暮店長が名探偵さながらな知的な雰囲気を醸し出して見える。

「俺の推理はこうだ。黒野白太、お前には何か目的が有って「アルテミス・システム」を研究していてその実験としてイシュタルに「アルテミス・システム」を組み込んだ。だが先のアルテミス同様、実験は失敗しイシュタルは制御出来ない怪物と化した。パンドラのAIの中にいたもの、それが電子生命体「イシュタル」だ。そして今、お前は世間の目を欺く隠れ蓑として生かされている。だからお前はイシュタルの殺戮を見逃して何も知らないような振りをしている」
「そ、そんなことは…」
「イシュタルは今ジェニーが見張っている。正義の味方として全力を尽くすつもりだ。俺に真実を教えてくれないか、白太くん」
「…」

…凄いな、日暮店長は。何の手掛かりも無しにイシュタルの能力とAIの異常成長だけじゃなくて僕の嘘まで見破るなんて。余程「神姫を操る神姫」との戦いが強く印象に残っているんだろう。じゃないと、そんな発想は出来ない。
でもイシュタルが「アルテミス・システム」の失敗作だとか、人間が神姫の隠れ蓑にされているなんてのは不正解、漫画の読み過ぎだと思う。イシュタルが逮捕されるのは困るから正直には話せないけれど迷推理を披露してくれたお礼に間違いの指摘と正しい答えを教えてあげた。

「誤解してるようですが別に僕は支配なんてされていませんよ」

まぁ、照れ隠しで指をヤられたり、血ヘドを吐かされるような特訓させられたりはするけど。あれ、あんまり大差無い?

「そもそも中学生がどうやってアルテミスシステムを作り上げたっていうんですか?」
「君はファーストランカーだ。神姫関係者との繋がりも有るだろう」
「それが目的でファーストランカーになったのは確かですけど根底的にイシュタルと「アルテミス・システム」は無関係ですよ」
「どう言う事だ?」
「原因は僕にも分かりません。物心の付いた時からイシュタルは強かった」

そう。イシュタルは電磁波を操る能力なんて持っていなかった頃から異常だった。過剰強化された武装や反則染みた能力を持っている自作武装が当たり前だった神姫バトル草創期において自分は純正武装のみであったにも関わらず勝ち続けた。ついには『鬼子母神姫』なんて渾名が付いた程だ。
その原因は今でもハッキリとは分からないけど僕は当時の僕を取り巻いていた環境にあると予想している。
今は正式にオーナー変更されてるから誰にも気付かれないんだけど、実はイシュタルの元々のオーナーは僕ではなく僕に僕の父親だった。けれど本当のオーナーからは放置され、命じられるがまま幼かった僕の世話をしている内にイシュタルの中で本来神姫がオーナーに向けるべき忠誠をオーナーではない僕に向けてしまうという矛盾が発生した。その矛盾が当時の神姫バトルという死と隣り合わせな状況で異常成長し、現在にまで至った。
父親が少しでもイシュタルを気に掛けていたのなら。僕が神姫バトルに手を出さなかったら。イシュタルは普通の神姫だっただろう。誰にも愛されなかったことが成長に繋がるなんて悲しい話ではあるけれど。
まぁ、確証は何処にもないし、確証も無しに「愛がAIを成長させた!」なんて二重の意味で恥ずかしいから言わない。

「僕が「アルテミス・システム」を研究してるのは合ってます。実際にはまだ「調べている」程度なんですけどね。ファーストランカーとはいえ僕は中学生ですから」
「君なら「アルテミスシステム」は危険性を知っているだろう。それを一体、何に使おうとしているんだ」
「危険な道を通らないと僕の夢は叶いません。店長、僕はですね、イシュタルを超える神姫を造りたいんです」
「何故だ。まさか本気で世界征服でも企んでいるのか」
「意味なんてありませんよ。これは儀式みたいなものですから」

今でも僕にとってイシュタルは理想の神姫だ。強くて優しくてカッコ良くて可愛い最高の神姫。小さい頃はイシュタルさえいれば何でも出来ると思っていた。
けれど中学に上がってそれじゃ駄目なんだと思うようになってきた。イシュタルに頼ってばかりじゃ僕は腐っていく。イシュタルが居なくても僕は生きていけるようになれなければならない。その証明として僕は自分の中で輝くイシュタルを壊す事を決めた。
その為に今度は僕自身の手で零からイシュタルを超える神姫を作る。それが僕の夢だ。「アルテミス・システム」はあくまでその手段に過ぎない。

「でも、僕には必要なことなんです。僕は僕が僕である為に、イシュタルを殺す」
「君はイシュタルを憎んでいるんじゃないか」
「憎んでますよ。でもそれと同じくらい愛してます」
「愛しさ余って憎さ百倍、って奴?」
「愛と憎悪は表裏です」
「…俺には訳が分からない」
「僕とイシュタルの関係自体が異常ですからねー」

そんなに居ないと思う。神姫を実の母親のように想ってるオーナーなんて。
言いたい事は言い終えたから話を元に戻そう。殺人事件の犯人も、イシュタルの真骨頂も、電子生命体の存在も、結局のところ僕が本当の事を話さない限り全て物的証拠の無い妄想に過ぎない。日暮店長には悪いけど僕は拷問されても吐くつもりはないし自白剤対策もバッチリしている。
一番手っ取り早い証明方法はイシュタルのバックアップを見つけ出す事なんだろうけどそれは絶対に誰にも見つけることは出来ないという自信があった。

「というわけで僕は何も知りません。イシュタルも、ちょっと強いだけの普通の神姫ですよ」
「恐らくイシュタルは他にも人を殺している。それを君は見逃しているのか?」
「…悪いとは思ってるんですよ、一応」

これは本心だ。人を殺す事は悪い事だって思ってる。だから出来るだけイシュタルに殺しはさせないようにしているし、神姫であれば見ず知らずの相手でも助けるようにしている。それにイシュタルだって敵は必ず殺すけど敵しか殺さないように決めているらしいから誰彼構わず殺しているわけじゃない。
日暮店長は複雑そうな顔をし始めた。僕に対して強く出るべきか見逃すべきかを悩んでいるんだろうけど、やがて僕を告発した時の様に大きく深呼吸した。

「分かった。なら俺から話す事は無い。そもそも君には何の疑いも掛けられていないからな。…済まないな、俺の妄想に付き合わせてしまって」
「いえいえ、僕も楽しめましたから」
「君達も一応は幸せに暮らす神姫とそのオーナーだ。それを壊すような真似を終えはしたくない」
「僕も同じです。もしも不幸な人を見掛けたら出来れば救ってあげたいと願ってます」
「だが君達にムルメルティアは預けられない。…俺を意地悪だと思うか?」
「またいつかの借りってことで」

日暮店長の妄想は終わった。ムルメルティアを手に入れられなかったのは残念だけど見逃して貰えただけでも良しとしよう。ちょっと後味の悪い雰囲気のまま修理室から店にまで戻るとエプロンドレスを脱いだイシュタルが迎えてくれた。

「話は終わったのか?」

そう言えばイシュタルにこの言葉を使うのも久し振りだなぁ、なんてしみじみしつつ、

「おかえり、イシュタル」
「ただいま、マスター」

いつかちゃんと「さよなら」が言える日が来るといいなぁなんて思った。




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