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目次

インターバトル4「親友」



 その日は朝からずっと吹雪いていた。
 このあたりでは珍しく、雪がすねまで降り積もり、なおもそのかさを増そうとしていた。
 そんな中を、マスターはコートを着込んで歩いていた。内ポケットの中にアーンヴァル「マイティ」がいる。
 今彼らは普段行くことの無い裏通りにいる。
 この裏通りは神姫のパーツショップが並び、オーナーたちは「神姫横丁」と呼んでいる。
 ここに行けば手に入らないパーツは無い、とまで言われている場所である。
 だがそのほとんどが実は違法なパーツを取り扱っており、問題の温床となっていることもまた事実だった。
 店の多くは客が来そうに無いこんな天気の下で、律儀に店を開いている。
 マスターは適当な店を選んで入ってゆく。
 重い音を立てて自動ドアが開く。

「いらっしゃい」
 疲れた顔をした細目の店主が、挨拶はしたが雪まみれのマスターを見て露骨に嫌な顔をした。マスターは入り口で雪を落とす。
 人一人ぎりぎり通れるかどうかにまで敷き詰められた通路の左右の棚には、神姫のパーツが無造作に並んでいる。足元のダンボールには、ジャンクパーツと言っても差し支えないような、薄汚れた部品が投げ込まれていた。
 コートの隙間から、マイティは恐る恐る、店の陳列を見渡す。
 棚の一角に手足がばらばらに積まれている。
 素体の手足だ。その横にはボディ、だけ。文字通りの素体のばら売り。禁止されているはずだ。どこから仕入れてきたのだろう?
 コアパーツは無い。が、たぶん言えば出て来そうにマイティに思えた。
 マイティは初めて、吐き気と言うものを覚えた。
 ここまで神姫が徹底的に「ただのモノ」扱いされていることにである。
 すこし奥へ行くとガラスケースがあり、中はまるで特殊パーツの展覧会だった。
 どこかで見たパーツも多く入っている。
 ドールアイを改造した大出力レーザー発振装置。
 超遠距離に正確無比な射撃を叩き込む対物ライフル。
 幅広のレーザー刃を展開させる、ほとんどレーザーメスのようなライトセイバー。
 間接の馬力を向上させるテフロンディスクに、特殊合金製装甲版。
 バッタからそのままもいできたような脚部追加シリンダーもある。これは、かの片足の悪魔が使っていた奴だ。
 これを両足に付ければかなりの移動性能向上が見込めるだろう。
 超小型イオンエンジンを搭載した推進装置の類もたくさんあった。一つ付けるだけで飛行タイプの運動能力は飛躍的に上昇する。
 どれもこれも、違法ぎりぎりの特殊パーツ。魅力的な品ばかりであった。
 だが、マスターはケースの前に立ち尽くしたまま、パーツを見下ろすばかりである。
「マスター……」
 マイティの呼びかけにも答えようとしない。
「マスター、私は」
 そこまで言って、よどんだ。マスターの悩みを、悩みというには大きすぎるが、解消させるには私の言葉がいる。
 本当にそれでいいのか?
 だがマイティはこれ以上、マスターが苦しむのを見ていられなかった。
「私は、構いませ……」
 すると唐突に自動ドアが開いた。
「おーっ、ドンピシャ。やっぱりここにいたか」
 聞き覚えのある声。
 振り返ると、雪まみれのケンがいた。
「なんだいケン、こいつと知り合いか」
 客にこいつ呼ばわりは無いだろう、とマスターは思った。
「そうだよ、オレたちゃ親友なんだ」
「そうやって同族以外からダチを作るのが悪い癖だぞ。この前のOLだって」
「いいじゃねえかよ」
 二人して笑い会っているのを、マスターとマイティはぽかんとして見ているしかない。
「そうそう、お前ぇに話があるんだ。ちょっと付き合え」
 ケンはマスターを無理やり引っ張って店を出る。
 権の襟元からハウリン「シエン」が顔を出して、申し訳なさそうにこちらに手をあわせて謝っているのをマイティは見つけた。

◆      ◆      ◆

「おやじ、とりあえずビール二つね。あとおでん二人前」
 近くの居酒屋に無理やり連れてこられて、気がつけばビールとおでんを注文されていた。
「一体何がしたいんだ」
 腹に据えかねてマスターが切り出した。
 ケンはシエンをテーブルに置くと、タバコに火をつける。
「吸うか?」
「俺はタバコは吸わん」
 マスターもコートを脱ぎ、ポケットからマイティを出してテーブルに座らせた。
「?」
 マイティが何かに気がつく。
「どうしたの、マイティ?」
「シエンちゃん、ちょっとごめん」
 マイティはシエンの体の臭いをかぎ始める。
「ま、マイティ!?」
 シエンは何が起こったのか分からず、慌てた。この子ってこんなに大胆だったかしらん?
「シエンちゃん、なんだかイカみたいなにおいがするよ」
 ぎくぅっ!? シエンとケンは揃ってのけぞった。
「なんだ、二人して?」
「あいや、その、さささっきちょっとイカ食っててな。シエンがイカの上にすっ転んだんだよ」
「そうですそうです!」
「ちゃんと体洗っとけっつったろ!」
「すすすすみませんっ」
 二人は顔を真っ赤にして言った。
「???」
「ま、まあいいじゃねえか。それより本題だ」
 ゴホン、と咳払いして、ケンは体裁を繕う。
「お前ぇ、特殊装備を使いこなす奴に負けたんだってな」
「どこで聞いた」
「フツーにエルゴの店長に」
 ビールとおでんが運ばれてくる。
「そんで、特殊装備も使わないとこの先辛いぜ~、見たいなコトも言われたんだってな」
「そこまで聞いてるのか」
「まあな」
 ケンはビールを一口飲んで、続ける。
「で、お前のことだから、横丁で違法スレスレのパーツを漁ってるかと思ったら、案の定、ってやつだ」
「何でもお見通しなんだな」
 マスターもビールに口を付けた。
苦い。相変わらずこの味は好きになれない。
 神姫たちは二人の会話にはわざと参加せず、黙々とおでんを食べている。
「まあ、それがお前さんの考えなら、オレは止めねえけどよ」
 大根を切って、口に入れる。
「それでお前ぇは納得するのか?」
 がんもどきをつまもうとしたマスターの手が止まる。
「お前ぇは昔っから頑固だったからな」
 がんもどきを奪って、ケンが丸ごと食う。
「ふぁっちちち……。まあ、頑固なら頑固なりに、納得するやり方を素直に選ぶのが、オレは一番いいと思うぜ。あ、おやじ、だし巻き玉子ちょうだい」
 マスターは黙っている。箸も動かさず。座ったまま。
「マスター?」
 マイティが気付いて心配そうに見上げる。
 ふう。
 マスターがため息をついた。マイティにはそれが、安心して出したため息に見えた。
 彼の顔にはいつもの微笑が浮かんでいたからだ。
 自分の分の代金を置いて、立ち上がる。
「ケン、ありがとう」
「いいってことよ」
「マイティ、帰るぞ」
「はい!」
 マスターはコートを着て、マイティを内ポケットに入れると、しっかりした足取りで店を出て行った。
「へっ」
 ケンは笑って、自分のビールを一気に飲み干すと、マスターの残したビールに手を伸ばした。
「お前も飲むか?」
「アルコールはコアに変な影響があるので飲みません」
「これからはちゃんと体洗えよ」
「…………はい」







インターバトル5「トレーニング・デイ」


 その日から、マイティとマスターの特訓が始まった。
 部屋の一角に置かれた山は、現在発売されている公式装備のパッケージである。
 ストラーフ、マオチャオ、ハウリンそれぞれの武装一式。そしてサイズオブザグリムリーパーに、なぜかうさぎさん仮装セットや黒ぶちメガネなど愛玩用のパーツまである。
「一応は、これで全部だな」
「オフィシャル装備の購入漏れは無いですね」
「じゃあ早速試してみよう。まずはストラーフの基本武装からだ」
「はい!」
 GAアームバックパックと、サバーカ・レッグパーツを取り付け、胸にはストラーフ用のアーマーである。攻撃装備は何も武装していない、基本的なストラーフの形態だ。
「このアーマー、胸が圧迫されます……」
「試合で見たときも大きさがえらく違っていたからな。そんなものだろう」
 トレーニングマシンに接続。
「マシンを使うのは久しぶりだ」
「行きます」
 意識が引き込まれる感触がして、マイティはバーチャル空間へアクセス。

『シアイカイシ、フィールド・ゴーストタウン』

 ほとんど瓦礫に近い建物群。
 道路はえぐれていて、普通の移動が出来そうに無い。
 有効な機動はなるべく実戦に近い方法で覚えるのが一番である。一人だけのテストでやった動きが試合では全然役に立たないことがざらにある。
 相手は同じ装備のストラーフ。トレーニングマシンにプリセットされている動作からも、学ぶのである。
 ストラーフがうさぎ跳びで、アスファルトを蹴って近づく。
『なるほどな。不整地では確かに有効な移動法だ』
 マイティもそれに倣って後退、しようとした途端、
「きゃっ!?」
 バランスを崩して倒れてしまう。普段より重心が上にあることに加え、接地戦闘の経験がほとんど無いのだ。無理もなかった。
 近接したストラーフが、GAアームの手刀をマイティに叩き込む。
 ガキンッ!
 何とかGAアームを交差させ、手刀を防御。腕が新たに二個増えた感覚に、本来がアーンヴァルタイプのマイティは混乱する。
「いっ、やああ!」
 アームを押し出して相手をふっ飛ばし、何とか立ち上がる。まだすこしよろめいている。
『まずはマスタースレイブフォームを心がけるんだ。自分の腕と動きを同調させろ』
 マスターの指示が飛ぶ。
「了解っ」
 一回ずつ、両腕で正拳突きをしてみる。自分の手の動きに合わせて、GAアームを動かす。三本目、四本目の腕が同調する感覚。これなら簡単だ。
 考えてみれば足だって、ちょっと長くなった感覚がある。これを頼りに慣らせば大丈夫そうだ。
 ストラーフが再び突進してくる。
 マイティも突撃。

『シアイカイシ、フィールド・バトルドーム』

『次はハウリンの装備だ』
 ヘッドアーマー以外を着込み、吠莱壱式を携えたマイティがドームに立っている。
 上半身がほぼ固定され、動きにくいことこの上ない。防御力はあるのだろうが……。
 相手も同じハウリンタイプ。
 試合開始直後、砲撃戦が始まった。
 横に動きながら撃ち続ける。足元もほとんど固定され、動きづらい。こんなのでどうしてあんなに早く動けるのだろう。マイティは試合におけるハウリン、マオチャオの高機動を思いだす。
『尻尾だ、マイティ。テイルパーツ』
 そうか! マイティはひらめく。
 さっきから腰の辺りにあった違和感の正体は尻尾だったのだ。
 これでバランスをとりながら走れば、うん、いける!
 打って変わってマイティの機動性がアップする。
『そのままぷちマスィーンズに指令を出してみろ』
「は、はい!」
 指令は口頭命令も可能だが、主に使うのは頭で考えたことをそのまま伝達する思考指令だ。そしてアーマーの背中に一機取り付け、命令の補佐を行わせる。
「簡単で良いんで命令出してくださいな。ワタシがかいつまんで伝えます」
 プチマスィーン壱号がその役を担う。
(散開し全方向から時間差攻撃)
 すると弐号から伍号の実働部隊四機がパッと散開。相手のハウリンに対してそれぞれ攻撃を始める。
 マイティはその場で援護射撃。だが誤って自分のマスィーンの一体を撃ってしまう。
「味方撃ってどないするんですか!?」
「ご、ごめんなさい」
 使役AIに叱られる主人。
 マスターは頭を抱える。

『シアイカイシ、フィールド・チカチュウシャジョウ』

 マオチャオ装備も近接特化であること以外は同じようなものだったが、ハウリン以上にぷちマスィーンズの扱いが面倒だった。
 要するに各々自分勝手に動き回り、なかなか命令を聞こうとしないのだ。
「にゃにゃー」
「みゃあ~」
「なーおうぅ」
「ふーっ、しゃーっ」
 以前からマイティと一緒にいたおかげで真面目になったシロにゃんも、アーマーの背中で途方に暮れている。
「世界中のマオチャオで、同じような僕たちが苦労してるんでしょうね……」
 本来ならばボクにゃんあたりの役目である。
「もーう、ちゃんと命令聞きなさーい!」
 あとで分かったことだが、マオチャオのぷちマスィーンズは自分勝手にやらせるのがセオリーのようだった。それぞれの性格を汲み取って、その穴を埋めながら戦うのだ。
 一見同じように見えるハウリンとマオチャオ。しかしその性格は戦闘方法以外も、ほぼ真逆といえるほどに違っていたのである。

◆      ◆      ◆

 もう二人とも、「固執」と言われた意味を十分に分かっていた。
「おや、いらっしゃい。久しぶりですね」
 ホビーショップ・エルゴの入り口を、数週間ぶりにまたぐ。
「あなたあての待ち人、来てますよ」
「分かってる」
 マスターは対戦スペースのある二階への階段を上がる。
「来たわ、お姉さま」
 メガネをかけたストラーフ、クエンティンが自らのオーナーへ伝える。
「いい顔になったわね」
 クエンティンのオーナーの女性、夢卯理音(ゆめう りね)はマスターに言った。すこしやつれた、黒髪の女性だった。自分の神姫と同じようにメガネをかけている。
「やはり君だったか」
「え? え?」
 突然のマスターの言葉に、二人の顔を見比べるマイティ。
「特殊装備は使いこなせるようになったかしら?」
「使いこなす必要はないさ」
「?」
 マスターは公式武装が全て入ったキャリングケースを見せた。
「こいつが俺のスタンスだからな」
「あくまで頑固をつらぬくわけね。そういうところ、好きよ。でも、それじゃあ私のクエンティンには勝てない」
「それは試合をしてから言ってもらおう」
「いいわ。やりましょう」
「???」
 マイティは頭にクエスチョンマークを浮かべたまま。
二人はオーナーブースへそれぞれ入ってゆく。


つづく





「信念」


 熱い。
 普通に立っているだけでもオーバーヒートしそうだ。
 アーンヴァル「マイティ」はあごから滴る冷却液をぬぐった。
 あたりに舞い散る火花はただの演出オブジェクトでダメージは無いと知る。
 フィールド・火山地帯02。
 現実世界ではありえない、灼熱の世界。
 開けた平地の周囲には大小さまざまな活火山が囲むように林立し、絶えずマグマを垂れ流している。一部は葉脈のように平地にも入り込んでいて、とある場所では水たまりのように滞留してしまっている。このマグマにはしっかりダメージ判定があり、体の正中線が浸かればその瞬間にデッド判定されてしまう。
「相変わらず、マスターの頑固に振り回された節操のない装備ね」
 マイティはストラーフのGAアーム・バックパックに、サバーカ・レッグパーツを装備している。胸には防御性能に特化したマオチャオの争上衣。
 武装はGAアームにLC3レーザーライフル、ガードシールドではなくコンパクトな増設アーマーにくるわれた素体の手には、忍者刀・風花とカロッテTMP。頭に棘輪を浮かべている。
 マイティの眼前おおよそ十メートルに、相手神姫、ストラーフ「クエンティン」が立っている。自分のサバーカレッグならばニ、三歩で届く距離。クエンティンなら一瞬。
ふふん、とクエンティンは不敵に笑う。
「そんな変な格好じゃ、このアタシには勝てないわ」
 対する彼女は前回と同じ装備。
 ハウリンの胸甲、四本のフロストゥナイブズを頭と二の腕に付けスタピレータとし、武装はサイズ・オブ・ザ・グリムリーパーとぷちマスィーンズ二体のみ。
 マスィーンズは今回飛行突撃タイプ。強力なバーニアを持った、体当たりしか出来ないやつだ。
「私はマスターを信じています」
 マイティはそれだけ言う。
「そうでしょうね。でも、あなたが彼をどれほど信用していようとも、アタシとお姉さまは一心同体なのよ」
 自信たっぷりに、クエンティンは言い放った。
右手の中指をマイティに向けて立てながら、その指でめがねを直す。
「格の違い、見せてあげる」
 ふっ
 クエンティンが消えた。瞬間移動。

◆      ◆      ◆

 ブースではマスターが黙々と準備を始めている。人が二人ほど立てるだけの透明プラスチック壁で覆われた個室で、マスターはしゃがみこんで装備の構成を考えている。
 今回はあらかじめ戦うフィールドが決められていて、事前にで戦略を練ることが出来るのだ。
「あの、マスター……?」
 準備が終わるまでポッドの上に座って待っているしかないマイティは、たまらず切り出した。
「ん?」
 ようやく決まったのかマスターは立ち上がり、コンソールを操作し始める。
「あの人、マスターのお知り合いなんですか?」
 一瞬、彼の手が止まる。
 ふう、とため息をついて、空を見上げる。
「まあな」
 すぐに作業を再開。装備ボードとサイドボードにそれぞれ武装を入れてゆき、画面内で開始装備のセッティング。
 この間マイティには目もくれない。
 聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がして、マイティはそれ以上言葉を継ぐことが出来なかった。
「今回のフィールドは火山地帯だ。陸戦特化の装備で行く」
「はい。注意事項はありますか」
「溶岩には絶対に触れるな。それと、一定時間経つと火口からランダムに火山弾が飛び出してくる。それにも気をつけろ。後は……。まあ、相手のことはもう分かっているだろう」
「はい。大丈夫です」
 マイティは卵形のポッドの、赤いベッドに寝そべる。マスターはスイッチを入れ、ハッチを閉じる。
 閉じきる寸前、マイティは言った。
「マスター」
「なんだ」
「信じてます」
「俺もさ」
 マスターはマイティを見つめて、微笑んだ。
 それで彼女は安心した。
 ハッチが閉じる。
 アクセス。

『試合開始。フィールド、火山地帯02』

◆      ◆      ◆

 目と鼻の先にクエンティンが出現した。
 瞬間移動の風圧がマイティを襲う。これにひるんではいけない。すぐに本当の攻撃がやってくる。風圧は流してもいいが、それは流してしまったらすなわちデッドだ。
 グリムリーパーの石突――というにはいささか鋭すぎる突起――が、ぬうっ、とマイティのみぞおちめがけて伸びてくる。
 腕の増設アーマーで弾くか、否。
 マイティはとっさに右手の忍者刀をしゅぱっと振るう。
キィンッ
 グリムリーパーが切り払われる。
 マイティはもうTMPを構えて引き金を絞り始めている。
 バララララララララ
 金色の薬莢が舞い、無数の鉛弾がクエンティンに殺到する。
 しかし命中寸前で瞬間移動。マイティは頭上に脅威。
 GAアームの左手を思い切り振り上げる。手ごたえ。
 マイティの頭頂部めがけて致死速度で突っ込んできたプチマスィーン肆号はアームの打撃でバラバラになり、爆散。
 これが囮だということは分かっている。マイティは自分の左手で頭の棘輪をひっつかみ、後ろも見ずにそちらへ投擲。
 キュルキュルと回転しながら棘輪が飛ぶ。その先には瞬間移動を終えたクエンティン。
「わっ!?」
 意外な攻撃にクエンティンは驚いて声を出したが、フロストゥの姿勢制御による移動で回避。グリムリーパーで器用に棘燐を引っ掛ける。
 棘輪は鎌の切っ先できゅるきゅると慣性回転し続けている。
「ありがとう、お姉さま」
『相手はずいぶん上達しているわ。気をつけて』
 落ち着いた理音の声が届く。
 いつも冷静なお姉さま。
 絶対の信頼。どんな神姫とオーナーの関係も、アタシたちの一心同体には敵わない。
 マイティはここでやっと振り向く。
 クエンティンは棘燐を投げ返す。
「下手なストラーフタイプより、その装備を使いこなしているじゃないのさ」
 マイティ、肆号を破壊したGAアームで棘燐をキャッチ。頭に戻す。
「訓練の成果です」
「よっぽどアタシに負けたのが悔しかったみたいねぇ」
「さっき棘輪を避けたとき、『ありがとう』ってオーナーに言いましたね。瞬間移動はオーナーがやっているんですか?」
「あらら、ご明察。そうよ。瞬間移動の操作は、冷静なお姉さまが動かしてくれてるの。的確な位置に的確なタイミングでね」
『こらクエンティン。教えちゃだめでしょう』
「あうう、ごめんなさいお姉さまぁ~」
「……一心同体、というわけですね」
「でも、それが分かったくらいでアタシに勝ったと思っているなら、大間違い」
 ふふん、と、鼻にかけた笑い。
「大丈夫です。その程度で勝ったなんて思ってませんから」
 マイティもふふ、笑い返す。
「じゃあ素直に諦めて死んじゃいなっ!」
 クエンティン、普通に走り出して突進。
 マイティはGAアーム右手に携えたレーザーライフルを撃つ。撃つ。撃つ。
 しかし射線上にいるはずのクエンティンは発射直前に横へのフロストゥ制御で回避。
「瞬間移動を使わなくたって、こうやってね!」
 ひときわ強く地面を蹴たぐる。
 次の瞬間にはもう目の前にクエンティンがいる。
「接近できるんだから」
 下からグリムリーパーを切り上げる。
「くっ!」
 マイティは忍者刀で防ごうとする。
 刀身が柄を防いだ。
 だが。
 ざくっ
「はうぅっ!?」
 鋭い痛みが背筋を駆け上る。
 鎌の切っ先がスケール換算数センチではあるが、マイティの股間部に刺さったのだ。
 鎌という武器のアドバンテージである。正中線であるにもかかわらずデッド判定は出なかったが、両足の制御系が死んでしまった。
 下半身から一気に力が抜ける。
『やるなっ……!』
 マスターはすかさずサイドボードを起動。
 マイティが崩れ落ちてさらに鎌を刺してしまう前に、装備を変更、ストラーフの装備が消え、白き翼を主体とした機動戦闘装備へ瞬時に変化。
 マイティは痛さと恥ずかしさから左手で股間部を押さえながらひと羽ばたきし、飛び上がる。
 クエンティンは面白そうに笑った。
「ざーんねん。でもあなたのバージンもらっちゃった♪」
「ばっ、バーチャルではカウントされません!」
 涙目で言ってしまったあとで、マイティは自分の発言にはっとして真っ赤になった。
 もう両足が動かない。
 サイドボードには予備なんて入っていないから、これで翼を切られたらアウトである。
 脚でスタピライズできないから、機動はおのずと制限されてしまう。
 マイティは思い切った。
バシュ、バシュッ!
 大腿の接続部分から火花が飛び散り、デッドウェイトと化した両脚が脱落した。
 マスターは彼女の意を汲んで、サイドボードを操作する。
 マイティの腰から青い尻尾が生える。本来はストラーフのツインテールである部品だ。これを脚代わりにスタピライザーとして用いるのである。
 両足の無い飛竜のようなプロポーションに、マイティは変わった。
 残った武装は忍者刀、棘輪、そしてTMP。TMPの予備マガジンは二本しかない。両手首には今回ライトセイバーではなく、開始装備の増設アーマーをそのままにしている。
 体を反転させ急降下。TMPを三発ずつの指きりバースト射撃。
 クエンティン、これをグリムリーパーの回転で防ぐ。
「死ににゃー!」
 ぷちマスィーン、オレにゃんが特攻。
 マイティ、一刀のもとに両断。オレにゃんは爆砕。
「ばぁ」
 爆煙をカモフラージュにクエンティンが瞬間移動で急接近。グリムリーパーを振り下ろす。
ガギィッ!
 増設アーマーで直接防御。アーマーがひしゃげる。マイティは刀を振るってグリムリーパーを切断。
「やったなー!」
 クエンティン、二の腕のフルストゥ・クレインを両手に持ちかえる。エックス斬り。マイティこれを刀を真横にして受ける。
 TMPを撃つ。数発がクエンティンの胸部に着弾。だがハウリンの胸甲は貫けない。空になったマガジンが自動的にパージされる。
 クエンティンは瞬間移動。真上からマイティをねらう。
ズズズズズズズウ、ウウ、ウン
 同時に腹を震わす轟音が周囲から響く。
 一定時間が経過して火山が活動を始めた。予想よりはるかに大量の火山弾が中心のフィールドに殺到する。
 マイティこれで命拾い。二人は火山弾を避けつつ間合いを取る。マイティ、予備マガジンをTMPへ叩き込む。
 クエンティンは火山弾をも瞬間移動で完全に回避できる。瞬間移動はオーナーの理音がやってくれるから、彼女自身は気にする必要が無いのだ。
 あの瞬間移動を何とかしなければ。
でもどうやって? 
マイティは火山弾を避けつつ、考えるが、思い当たるものが無い。
「マスター!!」
 窮まって、叫ぶ。

◆      ◆      ◆

 マスターは瞬間移動の正体を調べていた。
 特殊装備に間違いは無い。だが、操作が全てオーナーにゆだねられているというのが気にかかる。
 マスターは自分に照らし合わせてみる。
 オーナーがここで出来ること。
 それは、フィールドを俯瞰し、自らの神姫に指示を出し、そして状況に応じてサイドボード――予備武装格納庫――を操作して装備を変更させるだけ。このうち能動に出来るのは指示とサイドボード操作。
 神姫に指示を出して瞬間移動させるにはあまりにも手順が早すぎる。
「ということは」
 インターフェイスはサイドボードしかない。
 しかしサイドボード操作でどうやって神姫自身を瞬間移動させるのだろう? しかも任意の距離で、任意の位置に? 
 サイドボード依存なのだからおそらくバーチャルでしか使えない機能だが、これを解明しない限り今のマイティには勝ち目は、無い。
 マスターはサイドボードを見る。
 オーナーがここで出来る操作。
 サイドボードに装備を入れること。
 後は……。
「まさか……」
 卵形のポッドを見やる。
 今ここにはバーチャル空間にアクセスしているマイティが眠っている。
 マスターは一つの結論に到達した。

◆      ◆      ◆

『聞こえるかマイティ』
「はいっ!」
 火山弾を避けている中、マスターの声が届く。
『サイドボードだ』
「え?」
『瞬間移動の正体はサイドボードだ。装備の変更だ』
「でも、わっ」
 ひときわ大きな火山弾が至近をかすめる。
「で、でも、本体も移動してるんですよ!?」
『だからさ。奴は、神姫本体ごとサイドボードに入れている』
 マイティは耳を疑った。
 神姫ごとサイドボードに?
「そんなことが可能なんですか? じゃあ、ポッドには何が入っているんですか?」
『おそらくそれこそが特殊装備だ。おそらく彼女のポッドには、ダミーコアか何かが入っている』
「それって違反じゃ……」
『神姫自体がちゃんとフィールドに出現できるなら、どんなアクセス方法でも違反にはならない。同時に、「本体をサイドボードに入れてはいけない」という禁止事項も無いんだ。ルールの穴さ』
 たしかに、それならほとんどの説明はつく。
 彼女があんな軽装備であるにもかかわらず、武器を破壊されても新しいものを呼び出さないのは、本体自体でサイドボードの容量を圧迫しているからだ。
 瞬間移動の間に本体ごと装備を解除し、直線距離上の任意の場所で再装備すれば、瞬間移動に見せることだって出来る。
 でも。
 それでも、大きな疑問がたった一つ残る。
 どうやって移動しているのか?
 神姫よりも早く、目にも留まらぬ超高速で動ける、それは。
 ぷちマスィーンではない。いくら突進専用のユニットだって、あんなに素早く動けない。
 直進距離でしか動けない、超高速の物体といえば。
「銃弾……」
『だろうな。おそらくダミーコア自体が銃弾だ』
 任意の方向に撃ち出し、任意の位置で再装備して留まる。
 ポッドに入った素体は自らの攻撃では破壊されないようになっているから、銃弾は何発でも撃つことが出来る。
 銃弾の向きや発射シークエンスはクエンティン自身がやっているのであろう。それにオーナーが呼吸を合わせてサイドボードによる装備解除再装備をやってのけているのだ。
 まさに一心同体。
 ではなぜその銃弾自体で相手神姫を攻撃しないのか?
 リスクが高すぎるからであろう。銃弾一発で神姫が倒せるとは思えないし、着弾した場合フィールドのどこにも自分がいない状態になってしまうから、その瞬間デッド判定され負けが確定してしまうのだから。
 天才的な発想である。他に誰がこんなことを思いつくだろう。
「何ぼーっとしてるのさ!?」
 クエンティンが接近を始める。火山弾のおかげで直線移動が出来ないのか、断続的な瞬間移動で間合いを詰めてゆく。
 マスターはサイドボードを操作し、犬猫合わせた八機のぷちマスィーンズを出現。
「任意に展開、私をサポートして!」
 マイティの命令を背中のシロにゃんが八機にそれぞれ具体化して伝える。
 マオチャオマスィーンズは勝手に動き回らせ、ハウリンマスィーンズには明確に指令を出す。
 マスィーンズは散開。
 空中戦を意識しているため、戦車タイプ以外の全てのユニットをそれぞれ配置している。
「アーンヴァルの癖に大量に使ってぇ!」
 突撃してくる三機をまとめて切り伏せるクエンティン。
 双方接近。
 フロストゥをそれぞれ忍者刀とTMPで受ける。TMPを乱射するが、銃口が本体に向けられないようクエンティンにがんばられ一発も有効弾を得られない。
 二本目のマガジンが抜ける。
 そのまま鍔迫り合いの態勢に。
「銃弾でしょう!」
「そーよ。でも分かったところで、何が出来るのさ」
 笑っている隙を突いて、マイティが押し出す。フロストゥ、クレインを取り落とすクエンティン。
「とった!」
刀を横薙ぎに振りきる。
 ズパッ
 胴体からクエンティンが真っ二つになる。
 だが、デッド判定が出ない。
「無駄よ無駄。べーっ」
 上半身だけの状態で、何事も無かったようにあっかんベーをするクエンティン。
「どうして!?」
『素体自体がサイドボード扱いだ。コアを停止させるか、さもなくばダミーコアをぶち壊さない限り勝てない』
「そんなことって!」
「あ・る・の・よ♪」
 頭のグフロートゥを両手に装備し、またもや瞬間移動。
 直後、マスィーンズの反応が次々と消えてゆく。
 各所で爆発が見える。瞬間移動で各個撃破されているのだ。
はは、は、はは
 高らかなクエンティンの笑い声がフィールドにこだまする。
 全機撃墜。
 火山弾の雨あられの中、的確な動き。
 特殊装備でなくてもかなりの実力を持った相手である。マイティは改めて実感した。
 だがもうスタピライザー代わりのフロストゥは無く、限定機動は両手でしか出来ない。
 瞬間移動の合間に、頭部、コアを破壊する。
 勝ち目はそこしか無い。
 さらに火山弾の勢いが増す。
 実質的にここには制限時間がある。地面に降り積もることは無いが、だんだんと火山弾の数が増えてゆき、最終的には隙間が無くなる。
 決着をつけなければならない。
 グフロートゥの投擲は現実的ではないから、相手は必ず接近してくる。
 唯一のチャンスだ。
 マイティは思い出す。
 マスターの元へやってきた次の日。
 彼の頬をなでる空気の粒子の流れを、一粒一粒追ったこと。マスターの頬をなで、部屋の虚空に消えた空気の粒子たちを。
 火山弾に置き換える。
 億兆の空気の粒子を数えるよりも簡単だ。火山弾は巨大で、はるかに少ない。
 それくらいの計算、武装神姫には朝飯前なのだ。
 あとでちょっと頭が痛くなるけれど。
 視界に絶えず変化する有効移動空間が表示される。
 彼女は必ずそこを通ってくる。移動中はセンサーに捕らえられないが、必ずそこを通って目の前に現れる。
 全方向を注意しなければならなかった感覚が、必要な方向だけに研ぎ澄まされる。
 楽になった。集中。
 ばさり、羽ばたく。移動する。
 有効な位置へ。もっとも有利な位置へ。彼女もそこへ現れる。間違いない。
 移動完了。
 七秒、ここには火山弾が通らない。
 十分だ。
『マイティ!』
 マスターの叫びが聞こえる。
『とまった、自殺する気? クエンティン!』
「観念したわね!」
 有効移動空間内でマイティへ続く直線距離の一本からクエンティンが消える。
 斜め前から。目の前に現れるか。
 いや、違う。
 マイティの右横に空間がある。そこをダミーコア、銃弾が通過する。
「死んじゃえー!!」
 クエンティンが背後に出現。
 左手のグフロートゥを突き出す!
ず、ぶ、り
 マイティの無防備なわき腹に幅広のグフロートゥが刺さってゆく。
 痛みからかマイティはのけぞる。
 致命傷のはずだが、デッド判定はされない。
 瞬時に判断し、クエンティンは右手のグフロートゥを袈裟懸けに振り下ろす。
 切っ先はマイティの首筋を捉えた。
 勝った! クエンティンは確信する。
 だが。
「!?」
 右手はそれ以上動かなかった。まるで強固な壁に阻まれたように、首筋の手前で止まっている。
「ど、どうし」
 て、まで言えなかった。言語機能が死んだ。
 なぜ?
 クエンティンは視界の右上に変なものがあるのを見つけた。
 銀色の長いものが自分の額から生えている。
 生えているのではない。刺さっているのだ。
 そう気付いた瞬間、クエンティンの意識はぶつりと途絶えた。
 彼女のトレードマークのメガネがぱきりと割れ、落ちる。
 直後、マイティが数えた七秒が経過し、二人は真上から降ってきた火山弾に飲まれて見えなくなった。

『試合終了。Winner,判定中』

 立体モニターに火山弾が当たる直前の静止映像が映し出される。
 モニター上面に赤黒い火山弾がのしかかっている。
 一見、相打ち、に見える。
 クエンティンのグフロートゥがマイティの腹部を背中から貫通。
 マイティは忍者刀・風花を、自らの肩越しにクエンティンの額へ突き刺していた。
 六つある下位ジャッジコンピュータ「副審」の判定は真っ二つに割れ、主審であるジャッジAIが異例の映像判定を行ったのだ。
 機械であるにもかかわらずこのような回りくどい判定が行われるのは、ジャッジAI以下審判コンピュータ系は、バーチャルバトルを統括するメインシステムとは完全に切り離された存在であるからだ。このためよりリアルに近い、揺らぎのある判断が可能となった。
 にもかかわらず機械であるから、誤審も存在しない。審判コンピュータはリアルバトルにも導入されている。
わずか、ほんのわずかではあるが、クエンティンの本体がポリゴンの塵を散らしている。
メインシステムは、クエンティンのデッドを示していた。

『判定終了。Winner,マイティ』

 マイティは、勝った。

◆      ◆      ◆

「負けたわ」
 夢卯理音はあきらめた風にため息をついた。彼女の肩には悔しそうにふてくされたクエンティンがうつ伏せでぐったりしている。
「信念を貫いたわね。ちょっと見直したかな」
「ただ頑固なだけさ」
 マスターは肩をすくめた。
「ねえ、マイティちゃん」
「はい!?」
 突然呼ばれて、コートの胸ポケットで眠たそうにくびを揺らしていたマイティはあわてて返事をする。
 理音は微笑んで、言った。
「次は負けないわよ」
「は、はい」
「それと、そいつをよろしくね」
「え?」
 マスターを見上げる。彼は困ったように笑った。
 前を見ると、もう理音は店を出て行くところだった。
 肩のところでクエンティンがこちらを見て、べぇ、と舌を出した。
「俺たちも帰るか」
「……はい」
 キャリングケースを持ち、マスターとマイティも対戦スペースを離れた。
 その場に居合わせたオーナーたちが、いまだに惚けた眼差しで、彼らを見つめていた。








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