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「重い、ですね……」

 ヒルダは付けられていた両腕の新武装【エンノオヅヌ】に対して、そう素直な感想を漏らした。
 ちなみにヒルデも第一声は「重いですわね」である。やはりこの二人、根本的なところでつながっているのか。はたまたそこまでこのエンノオヅヌとやらはクソ重いのか。どちらかだろう。

「その点に関しては申し訳ない。詰め込みたい技術と装備の防御力を両立させると。どうしてもここまでの重量がでてしまう。ボクの力の無さを嘆くばかりだ。その代わり性能は【ニニギ】とは比べモノにはならないことは保障しよう」

 クズハは先ほどヒルデに発したものと一言一句変わらないセリフを言った。どうやらこの感想はある程度予想は出来ていたらしい。

「そんなに重いのか? 俺からしてみれば十円玉程の重みもないんだが……」
「マスターからしてみればって、それはあたりまえじゃないですか……。そうですね、いつも付けていたリストバンドを新しくしたら実は筋トレ用のパワーリストだった、っていえば分かってもらえますか?」

 なるほど、そりゃ違和感があって当然だな。

「……それって腕部のアクチュエーター、劣化激しくなるんじゃねーか?」
「なるよ。普段は外しておくといい。バトル以外では無用の長物だ」

 クズハはあっさりと言ってのけた。そりゃまあ確かにそうだが、言い方ってもんはないか? お前の作品だろうに。

「道具は正しい時に正しく使ってこそ真価を発揮する。それ以外のときはしまってやるのがまた愛情だよ。幸人」
「愛情、ねえ……」

 道具に愛を感じた事はねえなあ、俺。

「さしあたり起動してみてくれ。もう一人のキミはテストを終了している。次はキミによる運用時のデータがほしい」

 クズハはPCに向かい、いくつかのプログラムを再起動。先ほどヒルデが実演した時と同様のプログラムのようだが、いくつか異なる数値がはじき出されている。どうやらヒルダ用にセッティングされているらしい。詳しくはわからんが、「For Hilda」ってタイトルバーにあるからたぶん間違いない。

「――行きます」

 すぅ、と深呼吸し、武装を起動。キュン、という極小の起動音とともにエンノオヅヌが展開。装甲がスライドし、内部機構が一部露出する。
 それと同時にヒルダは動き始めた。片足を上げ、踏み込むと同時に拳を正面に打ち込む。続いて逆手。回し蹴りの後、左掌底。からの左肘打ち。それらをすべて、一挙手一投足確認するように一つ一つ丁寧にこなしていく。
 ヒルダが今行っているのは、八極拳の演武だ。以前俺が通信教育で中途半端に知識だけ覚え、ヒルダに教えたものを彼女はほぼ完璧、完全な形でトレースした。ほかにも柔道、剣道、合気道、弓道、空手、ボクシング、フェンシング、カポエイラ、エトセトラエトセトラ。彼女が覚えている武術は優に二十を超える。どこぞの一人多国籍軍も真っ青である。
 これはこの二カ月の間、まともな武装を扱えなかったことから得たヒルダの武器だ。どうやらいろいろ試した結果、ヒルデに比べてヒルダのAIは素体の作動効率が若干低いらしく、ヒルデが得意とするような武装と素体を限界値まで出力を上げて相手に突撃するという戦法が取りにくい。
 そのため、ヒルデが力押しの戦法をとるならば、ヒルダは技を磨きあげればいい、という提案を俺が行った結果、彼女はさまざまな武術を吸収し、血肉へと変えた。
 一方、同じメモリー上に保存されているはずのヒルダの技の記憶にヒルデはどうやらアクセスできないらしく、また、ヒルデ曰く「性分に合わない」と、武術を自身の動きに取り入れようとしないため、ヒルダとヒルデの完全な差別化に成功したともいえる。
 初起動して一カ月当初こそ、勝ち星はヒルデがほとんど取得していたが、現在の勝率はほぼイーブンである。そのことについてヒルダは「ようやく彼女に追いかけられるようになりました」と笑顔を浮かべた。

「はっ、たっ。せぃやっ!」

 一通りの徒手空拳での演武を終え、今度はヒルダはエアロヴァジュラを手に取り、正眼に構えた。そこから今度は流れるように剣先が走る。
 突き。続けて面。一瞬引いて引き胴。擦り上げ小手。抜き面。俺が知らない技もいくつかあった。どうやら、学校剣道だけでなく、ネットで調べたさまざまな流派の技も取り入れているらしい。まさに流水のような技から技への繋ぎに内心舌を巻く。

「――はぁっ!」

 綺麗な逆胴の体勢でぴたりと止まり、その後エアロヴァジュラを納めて一礼。ふぅ、と肩で一息つくヒルダ。

「……こんな感じで、良かったですか?」
「うん。ありがとう。どちらかと言えば君はあまりそれが好きじゃないようだね」
「えぇっ?!」

 クズハの言葉にヒルダはぎょっとし、首を振った。

「ああ。気にしないでいいよ。単純に君の戦法を見ていると。どうにもエンノオヅヌの力は必要なさそうだなあ。と思ってね。まあ相手に組みついた時の必殺用装備とでも思うといい。逆にそれ以外の使い道もあまりないがね」
「……はい」

 ヒルダはエンノオヅヌを待機モードへと移行させ、取り外した。

「はい、どうぞ」
「ありがとう。さて。微調整を終わらせたら幸人。キミにこれは譲渡するよ。バトルで使って暴れまくってくるといい」
「ありがとよ」
「その代わり。今度はきちんとバトルログを転送してもらうよ。バトルのあった日は毎日だ。半月に一度はメンテにもくること」
「……厳しくなったなあ。そこまでしなくてもいいだろうが」
「こうでもしないと。キミは動かないだろう。メール提出も受け付けるからきちんと出してくれ」
「……大学教授見たいなこと言うなよ」

 俺はちょっと溜まりだした大学のレポートの数々を思い出してげんなりする。

「大学のレポートなんて。テンプレートに合わせて意見を書くだけだろう。なにがそんなに苦手なのか。理解に苦しむね」
「そりゃ俺がレポート書くのが苦手だからだ。お前が天才的に頭と手先がいいみたいなもんだ。先天的欠陥ってやつだ」
「マスター、それは全然違うと思います……」

 ヒルダがため息をつく。俺は頭をかきながら部屋を見渡した。
 六畳程度の和室の四方の壁は、机のある一角を除いて巨大な棚で占められている。半分は洋書を中心とした物理学や化学、電気電子学などの分厚い本、もう半分はクズハお手製の神姫用武装である。
 幻の神姫武装メーカー、ミラージュフォックス社――という割には本人曰く、別に幻でもなんでもなくただ単に喧伝していないだけだそうで、社という文字が付いているものの、俺からしてみれば同人サークルと体裁は同じではないだろうかと思っている。
 しかしその武装の性能。そしてピーキー具合はメーカー品のそれとすら比べモノにならないレベルだ。
 クズハの天才的な発想と、それを実現可能にする技術力、そしてそれを結集して作られた武装は神姫界隈のアンダーグラウンドな領域でかなり有名らしく、それを欲しがって接触しようとするプレイヤーは後を絶たないそうだが、なんにせよクズハはやや人嫌いであり、かつこいつがどこにいるのかも全くネット上で語られていないため、保有者はごくごくわずか。今のところ武器のテスターですら俺を含めて片手で数えられるほどしかいないらしい。
 そしてテスターにはバトルログの報告義務の代わりに無償で武装を与えているので実入りはゼロである。こいつ、商売する気があるのかないのか。多分ないんじゃないだろうか。
 俺は一番近くにあった棚の武器を見てため息をついた。やや複雑な形をしたギミックソードで、お値段なんと十二万円。剣一本が、である。高額ってレベルじゃねーぞ!
 ただし本人曰く、ほとんど材料費だけでこの価格に達するらしく、販売価格は素材の仕入れ値とほぼイコールだそうだ。このあたりからも強い武器を売りまくって将来ウッハウハだぜとかは思ってないらしい。

「まあ、ボクは持っている特許の使用料だけで今のところ生計は立てられているからね。これはほとんど道楽だよ」

 人の思考を読むんじゃねえよさっきから。

「マスターは顔に出やすい人ですから……」

 ヒルダよ、お前もか。



◆◇◆



 調整が終わったこともあり、俺はクズハのもとを辞した後、その足でゲーセンへと向かっていた。
 ヒルデが新しい武装を試したがったためである。
 俺個人としては、帰る直前にも耳にタコができるほど聞かされたクズハの話に(ほとんどがバトルログの送信の件についてだった)辟易し、疲れがでていたので帰ってゴロゴロしたかったのだが、そうしようもんなら俺の頭の上に乗っているコイツは俺を容赦なくハゲ散らかすに違いない。
 今の疲労と未来の醜態を天秤にかけ、俺は苦労を選択した。
 ……近いうちにヒルデから受けるストレスで若ハゲになる可能性もなきにしもあらずであるが、今は無視する。

「さーて、つきましたわ! 早速バトルしますわよ幸人!」
「あーはいはい、わかりましたよおじょーさま」

 セカンドに上がってからしばらくの間、大学が忙しかったためバトルはおあずけだったこともありヒルデのやるきは十分のようだ。
 まあ俺も楽しみにしていたことではある。俺は空いていた筐体に腰を下ろした。
 装備チェック。武装の主軸となるトライクパーツ。長剣エアロヴァジュラ。機銃アサルトカービン。そして腕甲【エンノオヅヌ】。
 それらをすべてメインデッキとして登録し、予備のエアロヴァジュラや弾倉、ヂェリカンをサイドボードに登録する。
 準備完了だ。マッチングメイクが行われ、レートの近い対戦相手が選択される。
 インサートポッドの入ったヒルデガルドの意識が筐体の中央に位置するARフィールドへと転送され、それと同時にこちらのメインモニター、彼女の視界、そしてサブモニターに彼女を見下ろす俯瞰視界と彼女自身のデータ、周囲の状況をしめすデータなどが展開された。
 そしてジャッジが高らかに戦舞の始まりを告げる。



――Ready? Fight!


 転送されたのは魔天楼が立ち並び、きっかりと区画が整備されたナイトシティ。
 ステージのはるか上層までビルが立ち並び、ビルの影や夜闇に紛れて行動しやすく、一部極めて視界が暗いスポットも多い。
 ちなみにこの魔天楼の中、入ることができるので忍者型などの隠れて攻撃する神姫や、遠距離狙撃を行えるゼルノグラード型などが得意と言われるステージでもある。
 ヒルデはトライクモードへと変形しながら、周囲の様子をうかがっていた。

「ヒルデ、どう動く?」
「決まってますわ。相手に近づいてこの右手で――うふふ」
「あー、また以前みたいなことやらかそうとするなら今この場でサレンダーすんぞ」
「……………………………………冗談ですわ」

 あ。本気だったな、こいつ。

「対戦相手は……ビックバイパー型か。赤い接近戦型のほうだな」
「リルビエート、と言いましたっけ? 戦うのは初めてですわね」

 ビックバイパー型リルビエート。MAVA Industries製の最新型だ。
 特筆すべきは武装でもあり、支援機にもなる特殊戦闘機のビックバイパーだが販売されて割と最近の神姫であるため、あまり戦闘での情報が少ない。
 よくみると相手のランクはサードであった。レートマッチを行うと、こういう事も稀にある。

「まあ、セカンド神姫を持つ高ランクオーナー、ってこともあるけどな」

 一人ごちる。ヒルデはトライクで走り出していた。
 目指す先はどうやら中央にそびえたつセントラルタワーのようだ。その判断におそらく間違いはない。
 セントラルタワーの高さは他のビルの中でも群を抜き、かつステージのど真ん中に位置する。索敵には最も効率がいい場所であり、かつ接敵しやすい場所でもある。

「何かしら、あれ」
「あん?」

 ヒルデの素体駆動率を見ていた俺は、彼女の声にメインモニターをみやった。ビューモードをPrincessに選択。視界をヒルデと共有する。
 彼女の視線の先には確かに何かがあった。セントラルタワーよりもはるか高高度を飛んでいるようでよく見づらいが、あの形状はおそらく――

「――! ロックオン警報!?」
「! 避けろヒルデ! あれは多分支援機のビックバイパーだ!」

 直後、高高度を飛ぶ物体から何かが射出された。高速で飛来するそれはヴェリクルムのミサイルだろう。
 しかし、幸いにして相手はリルビエート。これが姉妹機のヴェルヴィエッタだったら飛んでくるのはレーザーキャノンに違いない。
 距離があるのを幸いに余裕を持って避けるヒルデ。しかし、その先にすでにビックバイパーが姿を現していた。

「なっ!」
「速ッ!?」

 ビックバイパーの機首から二条のレーザーがほとばしる。ヒルデはとっさにトライクをパージ。身を投げ出して回避した。しかし代償はでかく、副碗につながるジョイントパーツを焼き切られた。これではエアロチャクラムを使う事も、トライクとして走ることもできない。
 追撃を逃れるため、ヒルデはショーウィンドーを突き破って屋内に転がり込んだ。そのまま駆け抜け、裏口から路地へ出る。
 トライクからアサルトカービンとエアロヴァジュラだけは回収できたので、俺はそれをサイドボードへと移動、ヒルデにビックバイパーから離れるよう指示を送る。

「……やられましたわ。まさかあの位置からここまで降りてくるのにこんなに早いとは。撃ったミサイルを追い越したんじゃなくって?」
「神姫史上最大のスラスターを持つ、って前評判は聞いたことがあったがどうやら本当らしいな。エンジェリック・スカイ並みの加速力だ」

 状況を分析しながらヒルデと軽口を飛ばす。こちらに不利だが、絶望的状況というわけではない。まだ巻き返せる。
 手持ちの武装はアサルトカービン、エアルヴァジュラ、ヂェリカン、エンノオヅヌ。
 対して相手はミサイルにレーザー、さらにリルビエートの最大武装である大剣のグラジオラス――

「……ん?」

 違和感。さっきのビックバイパー、大剣なんて持ってなかった。
 そして何より、現れたのは支援機だけで肝心のリルビエートが出てきてない。
 ……これはもしかすると、もしかするぞ。

「ヒルデ」
「何かしら幸人。状況を打破する方法でも見つかった?」
「ああ、どうやら相手の戦法はどうやらこちらにとってはラッキーなほうに転がっているらしい」

 俺は再び頭の中で自分の思い描いた作戦を吟味する。おそらく、アレの仕様がそのままなら、十分通じるはずだ。

「いいかヒルデ、まずは――」



「……あ、ビックバイパーの信号、途絶えちゃった」

 センタータワー最上階。眼下に広がる魔天楼がほとんどゴミ粒のように見える高さである。
 そこにリルビエートはいた。
 開始早々、ビックバイパーにここまで運ばせて、自分は高みの見物としゃれこんでいたのである。
 彼女の戦法は開始直後からビックバイパーにすべてを任せ、倒せなかった場合のみ自分が出張るというスタイルだった。
 支援機と彼女たちの間は常に同期がとられており、ビックバイパーのセンサーが捉えた情報ははある程度までは彼女がモニターでき、挙動に関しては自分の手足のように操作できる。
 ビックバイパーがやられたあとのこちらに装甲面での不安はのこるが、大体の攻撃は盾で防ぐことができるし、ビックバイパーとの戦闘で疲弊した相手をグラジオラスで仕留めるのは難しいことではない。

「んー、じゃ仕方ないか。降ーりよっと」

 センタータワーのエレベータを用いて地上へと降り、ビックバイパーの信号が消えた地点へと向かう。
 大体の場合、ここに疲れ果てた神姫と大破したビックバイパーがあるのだが、今回はいつもと違っていた。
 まず一つが、対戦相手のイーダ・ストラダーレ型がいないこと。そして【ビックバイパーが大破していないこと】。
 ヒューマノイドモードとなったビックバイパーに多少の戦闘痕は見られるものの、特にどこかが大きく破損していることなどないのに、仰向けに倒れていた。

「……エネルギー切れぇ? 何で?」

 調べると、ビックバイパーのバッテリーが干上がっていた。残電力は0。これでは信号も途切れるし、動きようもないだろう。
 しかし、そんなに激しい戦闘をしていただろうか? こちらのモニターでは再接敵した相手のイーダ型が肉薄し、軽い衝撃を受けた直後にビックバイパーからの信号が消えたので、てっきり動力部でもブチ抜かれたかと思っていたのだが――

「あら、貴女がリルビエートですわね? お初にお目にかけますわ」

 慇懃な口調が背後から聞こえ、とっさに大盾を構えるリルビエート。そこには袖口に小さな角がついた腕甲をしたイーダがこちらにアサルトカービンを向けて立っていた。

「あんたが今回の対戦相手? 思ったより早くコレを倒せたね。ホメてあげるよ」
「ずいぶん生意気な口をきく小娘ですわね。対戦相手には敬意を払うべきですわよ? ――うるさいですわ幸人」

 オーナーから何か突っ込まれたらしい。リルビエートはゆっくりと立ち上がり、大剣を構える。

「ま、どーでもいいよ。こいつを倒すのにどれだけ武装を使ったのか知らないけど、もう残り少ないでしょ。さあさっさとお終いにしよう? サレンダーも認めてあげるよ」
「冗談。貴女を倒して、ジ・エンドですわ」

 アサルトカービンを斉射。盾で防ぎ切り、肉薄するリルビエート。グラジオラスをふるうが、それはエアロヴァジュラと噛みあう。
 盾を用いて殴ろうとするとあっさりと距離を離された。そして再激突。二度、三度互いの剣が相手を切り裂かんと食らいつく。

「結構余裕あるね。予想外だよ。バッテリーとかもそろそろ限界じゃないの?」
「相手の心配をされる貴女も余裕ですわね。バッテリーに関しては問題ありませんわよ。たっぷりいただきましたので」

 たっぷりいただいた……?
 その言葉を理解した瞬間、リルビエートは悟った。
 このイーダ型、間違いない。どういう理屈かは知らないが、ビックバイパーの電力をこいつが根こそぎ奪い取ったのだ。

「――なにやったか知らないけどさぁ、そういうの、ムカつくんだよね!」

 大盾を振り回してイーダ型を振り払うリルビエート。そのまま突進してグラジオラスを振り下ろすが、下段から降り上げられたエアロヴァジュラと激突。二つの大剣は回転しながら舞いあがり、地面に突き立った。

「くっ」

 すぐさま、グラジオラスを回収しようと動くが、イーダが肉弾戦を挑んできたのでやむなく大盾でその右拳を受け止める。

「貴女もエネルギー切れにして差し上げますわ!」
「!」

 イーダの右腕装甲が展開。何がくるかと身構えるが――何も起こらない。

「……あら?」
「不発? ラッキー!」

 盾でイーダを押し飛ばすリルビエート。そのままグラジオラスを回収し、起動する。
 青色のエネルギー刃がかすかな音と共に現出し、イーダに向けられた。

「……どうやら、電力過多のようですわね。セーフティかしら? これ以上の吸収はできませんわ……」
「これで、お終いだっ!」

 何やら思索にふけるイーダに対し、大上段から振りかぶって切り裂こうとするが、半身でかわされ、逆に左の掌底を腹部にもらう。

「ぐっ!」
「――だったら、余剰分を放出すればいいだけですわね!」
「――!!!!???? qzwェcrvyぶにも、pp8t7tで3sdfgyjこl;rtdtぎおdrftyぐういj@@@@@@@@@@ッッッ!!!!!」

 刹那、イーダ型――ヒルデのバッテリーにプールされた過剰電力が左腕甲【後鬼】によって一時的に最大限まで増幅され、大気の絶縁限界値を超えて稲妻として放射される。
 それはリルビエートを容赦なく貫き、まさに大地から空へと駆け上がる雷となった。
 そのたった一撃でリルビエートのHPは削り切られる。0と1へと分解されていくリルビエートを確認しながら、ヒルデはジャッジの勝ち名乗りを高らかに受けた。



「……まさかあれほど威力があったとはな……」

 投影されていたARビジョンを見て、俺は冷や汗をぬぐった。
 何人かいたギャラリーも目を丸くしている。どうやら派手にやりすぎたらしい。これは明らかに目立っている。
 別に目立つと何か困るわけでもないが、正直なところもう帰って寝たいので、これ以上バトルを申し込まれるのはご免だった。

「ふぅ、勝ちましたわよ幸人! この武装、なかなかのものですわね。前のものよりも気に入りましたわ」
「そいつはよかった。さ、帰るぞヒル――」
「おい待ってくれ! 次よかったら俺と対戦してくれよ!」
「あ、ずるい! 私と先よ!」
「そのあと俺な! 俺!」

 ……どうやら遅かったらしい。
 先の対戦のショックから戻った一部のオーナー達が我先にとこちらに店内対戦を申し込んできた。やんわりと断ろうとしたがその前に

「構いませんわ、受けて立って差し上げますわよ!」

……ああもう、このバカ野郎。
 結局俺はそのあと4時間ゲーセンで拘束され、ヒルデは大量の勝ち星を得たことに、クズハは送ったバトルログに至極満足していた。
 もうしばらく筐体に座りたくない……。
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