一番好きなのはⅧの斬鉄剣(著者の好みであって本編とは一切関係ありません)
7月30日(土)
「…………」
「おう、奇遇だな」
「おう、奇遇だな」
翌日、復帰した華凛とともにゲームセンターへと訪れた私を待っていたのは、あの宮下さんだった。確かに昨日、いい勝負が出来るかもと思ってはみたが、まさか本当に宮下さんがくるとは。
この間と変わらぬ黒いコートに鋭い視線。ここに立つだけで私は逃げ出してしまいたくなる。当然そんなことはしたくない。
私は一度だけ華凛の方を見た。私の視線に気付いた華凛は、無言で一回頷いた。
私はそこに“自信を持って頑張りなさい”と言う意味を見い出した。
私は覚悟を決めて筺体の前に座った。
この間と変わらぬ黒いコートに鋭い視線。ここに立つだけで私は逃げ出してしまいたくなる。当然そんなことはしたくない。
私は一度だけ華凛の方を見た。私の視線に気付いた華凛は、無言で一回頷いた。
私はそこに“自信を持って頑張りなさい”と言う意味を見い出した。
私は覚悟を決めて筺体の前に座った。
「やるんだな?」
だがしかし、私の決意はその低い声だけであっけなく崩れかけた。
「やります」
一言、私ではなくシリアがそう宣言した。真っ直ぐ宮下さんに向き合い、手を握り込んでいる。心なしか肩が震えている。シリアだって怖いはずだ。手も足も出せず倒されてしまった相手だ。また負けるかもしれないという圧倒的恐怖。シリアはそれに耐えて自ら立ち向かっている。
これが私の見習うべき姿なのかもしれない。
これが私の見習うべき姿なのかもしれない。
「……やる」
私も再び覚悟を固め、そう宣言した。
宮下さんも一回頷くと無言でコートのポケットを叩いた。すぐに静が飛び出し、筺体の上に着地する。そしてすぐに筺体の中に入り込んだ。シリアもそれに続くように筺体に入る。
私もヘッドギアをつけて、ボタンを押した。宮下さんも同様に。
宮下さんも一回頷くと無言でコートのポケットを叩いた。すぐに静が飛び出し、筺体の上に着地する。そしてすぐに筺体の中に入り込んだ。シリアもそれに続くように筺体に入る。
私もヘッドギアをつけて、ボタンを押した。宮下さんも同様に。
『神姫ライドシステムを起動します。マスターは椅子に深く腰掛けてください』
いつもの無機質なアナウンス。それなのに、どことなく違うように感じる。
『カウントダウンを開始します。10、9、8、7…』
カウントダウンも、まるで私の緊張に呼応しているように思えてくる。そして……
『…3、2、1、0、RideOn―――』
バトルが始まった。今回のバトルは強制負けイベントなんかじゃない。正々堂々の本気のバトルだ。
大画面の中で静が刀を握る。その刀は、いつもの光学兵器殺しだった。まぁ、始めはそれだろう。樹羽のボレアスの警戒だ。
大画面の中で静が刀を握る。その刀は、いつもの光学兵器殺しだった。まぁ、始めはそれだろう。樹羽のボレアスの警戒だ。
(宮下さんは、アレ使うのかしら……?)
2本ある内のもう一本。宮下さんがアレを使うことは滅多にない。使う時は、本気の時だけだ。
(使っちゃったら、バトルにならないか……)
静の武装が純正装備なのは、コストの大半をそれに持っていかれているからだ。使いどころの中々ない、このままでは本当にお荷物になってしまう刀。それを、今日は抜くのだろうか?
(抜かれたら抜かれた時、か。あれ……?)
急に視界がぼやけていく。唐突に立ちくらみがして、あたしは思わず壁に背を預けた。頭がひどく痛む。肺が酸素を求めている。ゆっくりと息を吸い、落ち着いて吐き出す。うん、ちょっと楽になった。
(ったく、病気かってのあたしは……)
別に病気な訳ではない。原因はだいたい予想つく。だからこそ、どうしようもない。どうすることも出来ない。
(何であたし、ここまでしてんのかしらね……)
頭に腕を当てながら、今更そんな事を考える。本当に今更過ぎて、なんだか笑えてくる。
でもこれが、今あたしが生きている意味だから。
壁にもたれかかりながら、天井から下がった画面を見つめる。もう勝負は始まっていた。今まさに両者が激突するところだ。
でもこれが、今あたしが生きている意味だから。
壁にもたれかかりながら、天井から下がった画面を見つめる。もう勝負は始まっていた。今まさに両者が激突するところだ。
(頑張んなさいよ、樹羽。負けたら承知しないんだから……)
あたしはそのまま画面を見続けた。
あたしには見ることしか出来ないから。今も、そして、これからも。
あたしには見ることしか出来ないから。今も、そして、これからも。
(あれ、やっぱり……変だな……)
ふらふらと平行感覚がなくなっていく。両肩を抱いたが、足から力が抜けた。体を支えきれず視界が傾く。頭と肩から床にぶつかったのにも関わらず、何故か痛みはなかった。瞼が重い。あたしの意思に関係なく勝手に閉じようとする。
(樹羽の勝負……見たいのに……)
必死に目を開けようとする。なのに、意識はどんどん深く落ちていく。
その時、誰かがあたしの側まで駆け寄ってきた。
その時、誰かがあたしの側まで駆け寄ってきた。
(誰か……呼んでるの?)
誰かがあたしのことを必死になって呼んでいる。樹羽かな? さっき勝負始まったばっかりなのに、もう終わっちゃったの?
(ごめんね……やっぱり無理……)
あたしは起きようとしたが、そのまま意識は闇の中へと消え去った。
「マスター、早くいこうよ!」
「わーってるよ! 珍しいよな、お前がネタ探し以外でゲーセン行くなんて」
「もちろんそれもあるよ。だけど、あたしもたまには普通にバトルしてみたいんだ。神姫の性ってやつ?」
「神姫の性、ねぇ……」
「わーってるよ! 珍しいよな、お前がネタ探し以外でゲーセン行くなんて」
「もちろんそれもあるよ。だけど、あたしもたまには普通にバトルしてみたいんだ。神姫の性ってやつ?」
「神姫の性、ねぇ……」
俺は今、シンリーを連れてゲーセンに向かっている。夏休みに入って特にやることもなかった俺を、シンリーが誘ったのだ。こいつが自分から進んでバトルをしようと言うのは中々に珍しい。神姫であるにも関わらずバトルよりも作曲に興味があるなんて、何度も思うがもしかしてこいつ壊れてるんじゃないだろうか? まぁ、そういうところがいいんだがな。
「? どうしたのマスター?」
「いや、なんでもない」
「……そう?」
「いや、なんでもない」
「……そう?」
そんな話をしながら、俺は歩調を早めた。今日も暑い。早く室内に入って涼みたい気分だ。やがて見慣れた建物の前に辿り着く。
「ほら、着いたぞ」
「よし! バトルが私を待っている!」
「あんまりはしゃぎすぎるなよ」
「よし! バトルが私を待っている!」
「あんまりはしゃぎすぎるなよ」
言いながら、俺は急いで自動ドアをくぐった。途端、冷たい空気に包まれる。あぁ、暑い日はクーラーとかエアコンとかの有りがたみがよくわかる。
人やゲーム器を避けながら、俺たちは神姫バトルブースへとやってきた。今日もいろんな人がバトルしている。
人やゲーム器を避けながら、俺たちは神姫バトルブースへとやってきた。今日もいろんな人がバトルしている。
「あれ? マスター、あれって華凛さんじゃない?」
シンリーが指さす先には、秋已がいた。壁に寄りかかって画面を見据えている。
「ん、本当だ。おーい秋已……秋已?」
「なんか、様子変だよ……」
「なんか、様子変だよ……」
俺たちが話す中、秋已は自分の肩を抱いたかと思うと、そのまま足から崩れた。
「倒れたっ!?」
「秋已っ!!」
「秋已っ!!」
駆け寄って呼び掛ける。こういう時、あんまり触らない方がいいんだっけ。
「おい、しっかりしろよ!」
「マスター、脈と呼吸!」
「マスター、脈と呼吸!」
慌てて俺は秋已の口元に手を当てた。幸い息はしている。気を失っただけのようだ。とりあえず一安心。
しかし秋已をこのままにしておく訳にはいかない。また休憩室に運ぶかと思い、秋已の首と膝に腕を通そうとした。
しかし秋已をこのままにしておく訳にはいかない。また休憩室に運ぶかと思い、秋已の首と膝に腕を通そうとした。
「待ちな」
突然の声に、手が止まる。振り返るとそこには若い女性が立っていた。気の強そうな目尻にハチマキ。だいたい俺と同じか、少し年上ぐらいだ。さらに目を引くのはその服だった。数十年前に廃れ、今では絶対に見ることの出来ないとさえ言われている白の長ラン。そして、目の前のクラスメイトよりも鮮やかな紅い髪だ。
「その子をどうする気だい?」
「ど、どうって、突然気を失ったから休憩室に運ぼうとしたんだよ」
「…………」
「ど、どうって、突然気を失ったから休憩室に運ぼうとしたんだよ」
「…………」
あからさまに信用されていない。なんで俺は初対面の人に信用されないんだろう。この間も目の前の女の人が落とした物を届けたら、盗んだんだろっておもいっきり濡衣着せられたし。
「姉貴、前の姉貴に戻ってるよ」
そう言って女性をたしなめているのは、彼女のポケットから顔を除かせているアーク型だった。
「……悪い、紅葉。からまれてるのが知人だとわかっちまうと、どうにも収まりがな」
「いや、からんでねぇんだけど……」
「いや、からんでねぇんだけど……」
女性は一回深呼吸をした。そしてもう一度こちらを見る。その瞳からは警戒色が薄れていた。
「あんたその子の友達?」
「友達っつうか、クラスメイトだ」
「そっか、悪いね。どうにも男って生き物は信用ならなくて」
「そ、そうか……」
「友達っつうか、クラスメイトだ」
「そっか、悪いね。どうにも男って生き物は信用ならなくて」
「そ、そうか……」
どうやら俺の人柄云々ではないらしい。女性は秋已に近付くと、俺の代わりに彼女を抱き上げた。
「とにかく行こう。話はそれからだ」
「あ、あぁ……」
「あ、あぁ……」
俺とその女性は、まるで雑木林のような人の波を抜けて休憩室に入った。中にはちょうどよく誰もいなかった。扉が閉まると同時に、ゲーム類の騒音は消え去る。
女性は秋已を備え付けのソファに寝かせると、こちらに振り返った。
女性は秋已を備え付けのソファに寝かせると、こちらに振り返った。
「改めて、さっきは悪かったな。あたしは木嶺楓。こっちは紅葉」
「よろしくな!」
「俺は東雲榊。こっちはシンリーだ」
「…………」
「よろしくな!」
「俺は東雲榊。こっちはシンリーだ」
「…………」
てっきりすぐ後に続いてくれるかと思ったが、なぜかシンリーはバックの中で何かぶつぶつ呟いている。
「姉貴……廃れた番長……その内に秘められた想い……」
「……シンリー?」
「……シンリー?」
駄目だ、完全に作曲の世界に入ってしまっている。こうなったこいつは、会話<作曲になるのだ。
「悪い、こうなったらこいつ周りが一切見えなくなるんだ」
「気にすんな。あたしも男に触れられたら周りが見えなくなるから」
「今の内に言っとくけど、不可抗力でも姉貴には触れるなよ。じゃないとあんた、ここの天井か壁に突き刺さる……いや、埋まるから」
「気にすんな。あたしも男に触れられたら周りが見えなくなるから」
「今の内に言っとくけど、不可抗力でも姉貴には触れるなよ。じゃないとあんた、ここの天井か壁に突き刺さる……いや、埋まるから」
訳がわからないが、どうやら触れてはいけないらしい。そう言えば、男性恐怖症の女性マスターがいると聞いた事がある。二年くらい前に聞いたが、なるほど、この人か。割りと目立つのに、二年間一切姿を見なかったな。
「あんた、榊だっけ? この子の連れの樹羽って子知ってるかい?」
「あぁ、一回戦った事がある」
「あぁ、一回戦った事がある」
結果はドローだったが、最初からクライマックスなら勝てる自信はある。全てはシンリーのやる気次第だがな。
「なら話が早い。あたしはこの子を看てるから、榊は樹羽ちゃんにこの事を知らせてきてくれ」
「わかった。秋已のこと頼むな」
「わかった。秋已のこと頼むな」
俺は秋已を彼女に任せ、休憩室を出た。
シンリーは既に鞄の中で端末を使って曲を作り始めている。この間作ったばかりだと言うのに、何故こんなに曲が作れるのだろうか? やっぱりこいつはどこかおかしいのかもしれない。
シンリーは既に鞄の中で端末を使って曲を作り始めている。この間作ったばかりだと言うのに、何故こんなに曲が作れるのだろうか? やっぱりこいつはどこかおかしいのかもしれない。
(この間作ったのは……『夢追うままに努力して』だったかな?)
いやにパチモン臭いが、これはこれで人気もあるのが事実なのだ。どこがどういいのか、俺にはわからん。
バトルブースまで戻ってくると、俺はバトルしていると思われる小柄な影を探した。それはあっさり見付かった。まだバトルしている。モニターを見たが、そろそろ終わりそうだ。
バトルブースまで戻ってくると、俺はバトルしていると思われる小柄な影を探した。それはあっさり見付かった。まだバトルしている。モニターを見たが、そろそろ終わりそうだ。
(さて、どう説明すっかな……)
まぁ、普通に話せば問題ないはずだ。
俺はバトルが終わるのを一人で待った。
俺はバトルが終わるのを一人で待った。