新たなる力を手にし
7月29日(金)
「練習相手、ですか?」
翌日の午後、私は柏木さんに一つの頼み事をしていた。
昨日の午後と今日の午前中に練習した薙刀と機関銃の成果を確認したかったのだ。
昨日の午後と今日の午前中に練習した薙刀と機関銃の成果を確認したかったのだ。
「そうですね、僕もたまにはライドしないと、体が鈍ってしまいますからね」
「そうですねぇ、店長は慢性的に運動不足ですし」
「そうですねぇ、店長は慢性的に運動不足ですし」
そう言ってエリーゼは腕を組んでいる。そんなエリーゼを思わずまじまじと見てしまう。
「…………」
「ん、どうしました?」
「最近驚かさないなと思って」
「ああ、店長と樹羽さんには効かないことはわかりましたから。無駄なことはしたくありません極力」
「ん、どうしました?」
「最近驚かさないなと思って」
「ああ、店長と樹羽さんには効かないことはわかりましたから。無駄なことはしたくありません極力」
どうやらこれからは驚かさないようだ。内心では驚いていて最近それが表に出そうだと思っていたから、都合がいい。
と安心した所を驚かされるのが容易に想像できるから、あくまで気は抜かないが。
と安心した所を驚かされるのが容易に想像できるから、あくまで気は抜かないが。
「そう言えば華凛さんはどうしたんです?」
柏木さんが疑問に思うのは無理もないが、今日華凛は用事があるとかで午後になったら来ると言っていた(連絡は昼にあったけど)。だからもうすぐ来るはず。
「こんにちは~。まったく夏期講習って面倒よね~」
噂をしたらなんとやら、間延びした華凛の声がして店の扉が開かれる。その瞬間、エリーゼの姿が視界から掻き消えるのを私は見逃さなかった。
華凛は制服姿だった。しかし、どこかやつれているようにも見える。いつも鮮やかとも言える髪の張りがない。疲れているのだろうか?
華凛は制服姿だった。しかし、どこかやつれているようにも見える。いつも鮮やかとも言える髪の張りがない。疲れているのだろうか?
「いらっしゃい、とりあえずそこに腰掛けて待ってて下さい。今何かいれて来ます」
柏木さんは空いているソファを指し示し、カウンターの奥のドアの奥に消えた。
「じゃあ、よっこいしょっと……」
華凛が空いているソファに座ろうとした。つまり出来なかった。
「トゥッ、ヘァーッ!」
「どああっ!?」
「どああっ!?」
ソファの座る部分がばん、と開き中からエリーゼが飛び出したのである。何故であろう。なんか背中に大きなオーラのようなモノが見える。まぁ気のせいだろうけど。
「エ、エリーゼ! あんたは一体なんなのよ!」
「やっぱり華凛さんは驚いてくれるんですね。まぁこんな事が得意でも何の意味もありませんけど」
「やっぱり華凛さんは驚いてくれるんですね。まぁこんな事が得意でも何の意味もありませんけど」
エリーゼが何やら感傷に浸りながらソファから降りる。華凛は軽いため息をつきながら今度こそソファに座った。
「はぁ……なんかお店に来る度に驚かされてる気がする」
「私と柏木さんに効かないから華凛に照準を定めた?」
「シリアにやればいいじゃない。なんであたしばっかり……」
「私と柏木さんに効かないから華凛に照準を定めた?」
「シリアにやればいいじゃない。なんであたしばっかり……」
当のシリアはポーチの中で苦笑いを浮かべている。この間なんか影が薄くないかと相談されたが、もしかしたらその通りなのかもしれない。
「で、首尾はどうなの?」
「それを今日確かめる」
「そっか……」
「それを今日確かめる」
「そっか……」
華凛はそれきり黙ってしまった。やっぱり疲れているのかもしれない。
妙な気まずさだけが店内に残り、私は柏木さんが帰ってくるのを待つしかなかった。
妙な気まずさだけが店内に残り、私は柏木さんが帰ってくるのを待つしかなかった。
朝目を覚ますと、異様に暑かった。昨日は熱帯夜だったから、朝になって余計に熱いのかもしれない。
とてつもなくだるい体をなんとか起こす。体が気持悪いと思ったら寝汗で服がびしょびしょだった。
とてつもなくだるい体をなんとか起こす。体が気持悪いと思ったら寝汗で服がびしょびしょだった。
「…………」
時計を見てみると、既に短い針が真上を指していた。訂正、朝ではなく昼だ。
「起きなきゃ……」
今日は朝から樹羽と一緒に行動するはずだったのに、つい寝過ごしてしまった。
今日は29日、貴重な時間を睡眠に使ってしまった。これからは気を付けないと。
とにかく樹羽に連絡しなければならない。あたしはベッドの脇に置いてある携帯を手に取る。これだけの作業なのに、下手をすれば息切れしそうになる。
落ち着いて呼吸を整え、樹羽の番号を呼び出し、通話ボタンをプッシュ。数回のコールで電話は通じた。
今日は29日、貴重な時間を睡眠に使ってしまった。これからは気を付けないと。
とにかく樹羽に連絡しなければならない。あたしはベッドの脇に置いてある携帯を手に取る。これだけの作業なのに、下手をすれば息切れしそうになる。
落ち着いて呼吸を整え、樹羽の番号を呼び出し、通話ボタンをプッシュ。数回のコールで電話は通じた。
「もしもし、樹羽?」
『華凛? どうしたの? 今日来なかったけど』
『華凛? どうしたの? 今日来なかったけど』
樹羽の問いに、あたしは前もって考えて置いた答えを言った。
「ちょっと用事があってね。ごめんね、昨日の内に言っとけばよかった」
『ううん、平気。午後は来れるの?』
「ええ行くわ。樹羽の成長ぶりを見ないとね」
『そんなにうまくないよ?』
「謙遜しない。樹羽器用なんだから、武器の一つや二つ、すぐに使いこなせるでしょ」
『大袈裟』
『ううん、平気。午後は来れるの?』
「ええ行くわ。樹羽の成長ぶりを見ないとね」
『そんなにうまくないよ?』
「謙遜しない。樹羽器用なんだから、武器の一つや二つ、すぐに使いこなせるでしょ」
『大袈裟』
自然と笑いがこみあげてくる。少し落ち着いてから次の言葉をつむぐ。
「じゃあ行くからね。勝手に始めちゃわないでよ?」
『うん、待ってる』
『うん、待ってる』
電話を切る。通話時間はそんなにかかっていないが、不思議と体のダルさは取れていた。これなら動ける。
あたしはまず汗で濡れた体をどうにかしようと風呂場へ向かった。
あたしはまず汗で濡れた体をどうにかしようと風呂場へ向かった。
樹羽には用事があるとしか言っていなかったが、あたしは制服を着ていくことにした。夏期講習があったと言えば問題ない。
「こんにちは~。まったく夏期講習って面倒よね~」
あたかも高校から直接きたように扉を開ける。店の中にあるソファには仁さんと樹羽が座っていた。シリアも樹羽のポーチから顔を覗かせている。
「いらっしゃい、とりあえずそこに腰掛けて待ってて下さい。今何かいれて来ます」
仁さんが空いているソファを指し示し、カウンターの奥のドアの奥に消えた。
「じゃあ、よっこいしょっと……」
あたしは指定されたソファに座ろうとした。その時のあたしは一週間前の経験を忘れていたらしい。
「トゥッ、ヘァーッ!」
「どああっ!?」
「どああっ!?」
突然ソファからエリーゼが飛び出してきた。一週間前にも同じように驚かされた気がするのは気のせいではない。
「エ、エリーゼ! あんたは一体なんなのよ!」
「やっぱり華凛さんは驚いてくれるんですね。まぁこんな事が得意でもどうしようもありませんけど」
「やっぱり華凛さんは驚いてくれるんですね。まぁこんな事が得意でもどうしようもありませんけど」
エリーゼがソファから降りる。あたしは軽くため息をつきながらソファにすわった。
「はぁ……なんかお店に来る度に驚かされてる気がする」
「私と柏木さんに効かないから華凛に照準を定めた?」
「シリアにやればいいじゃない。なんであたしばっかり……」
「私と柏木さんに効かないから華凛に照準を定めた?」
「シリアにやればいいじゃない。なんであたしばっかり……」
ま、こんなこと言っても何も変わりはしないけど。
「で、首尾はどうなの?」
「それを今日確かめる」
「そっか……」
「それを今日確かめる」
「そっか……」
自然とそこで会話が途切れた。なんでだろう、理由はわからない。疲れてるのかな、あたし。
しばらくすると仁さんが人数分のカップを持ってきた。カップからは湯気が立ち上り、少し甘い匂いがする。それはチョコレートの匂いだった。ホットココアだろう。
しばらくすると仁さんが人数分のカップを持ってきた。カップからは湯気が立ち上り、少し甘い匂いがする。それはチョコレートの匂いだった。ホットココアだろう。
「とりあえずどうぞ」
あたしと樹羽はそれを受けとり、一口。うん、なんか程良い甘さだ。
「華凛さんも来たことですし、始めましょうか」
実はあたしは仁さんから呼ばれていたりもする。仁さんがバトルしている間の店番だ。まぁ、あたしは呼び出されるまでもなく来るつもりであったが。
二人が練習用の筐体に向かう。あたしは樹羽の様子を見た。少し緊張したような、そんな表情。もっとラクにしたらいいのに、とあたしは思ったが言わなかった。
仁さんはいつもの調子でヘッドギアをつけている。この人は昔からどこか掴めないイメージがある。空気(決して影が薄いと言う意味ではない)、と言うかそんな感じ。悪く言って目立たない。良く言ってどこでも対応できる。そんな店の主は今、あまり得意でないバトルをしようとしている。練習相手としてはちょうどいいかもしれない。
樹羽がシリアと言葉を交す。会話の内容まではここまで聞こえてこないが、樹羽の表情が僅かに和らぐのがわかった。
二人が練習用の筐体に向かう。あたしは樹羽の様子を見た。少し緊張したような、そんな表情。もっとラクにしたらいいのに、とあたしは思ったが言わなかった。
仁さんはいつもの調子でヘッドギアをつけている。この人は昔からどこか掴めないイメージがある。空気(決して影が薄いと言う意味ではない)、と言うかそんな感じ。悪く言って目立たない。良く言ってどこでも対応できる。そんな店の主は今、あまり得意でないバトルをしようとしている。練習相手としてはちょうどいいかもしれない。
樹羽がシリアと言葉を交す。会話の内容まではここまで聞こえてこないが、樹羽の表情が僅かに和らぐのがわかった。
(シリアも頑張ってるわね)
やがて二人が筐体にライドした。あたしは戦闘の様子を店のパソコンで見ることにする。
「……あと、3日」
不意にそんな言葉が漏れた。そう言えば、あと3日しかなかったのだ。
「……っ」
頬を一筋の涙が伝う。あたしはそれを拭うとパソコンの画面を食い入るように見た。
時間がない。わかってはいるけど、これは樹羽の問題だ。あたしが動き回っても限界がある。
時間がない。わかってはいるけど、これは樹羽の問題だ。あたしが動き回っても限界がある。
「樹羽、頑張ってよ……」
あたしは準備を進める樹羽にそう小さく呟いた。