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『マッドサイエンキャット』-1/3



※ 念のための注意書き ※
第二章でも同じ注意書きをしましたが、インダストリアル・エデン社製神姫をご存知ない方はおりますまい。


◆――――◆



バトルをするわけでも、他に用事があるわけでもなく、私はオンラインの茶室を借りることがあった。
月に一度か二度、お金はかからない。
静穏な雰囲気を壊さない程度の和風にしつらえられた四畳半で、ただ時間の過ぎるままにまかせる。
ちゃぶ台を部屋の隅によせて、部屋の中心に仰向けに寝転がって、小窓から、あるいは壁を伝って聞こえてくる自然の音に耳を澄ませる。
竹林を撫でるように流れる風に揺れる音。
絶え間なく水が溢れる池では時々、魚が跳ねた。
私の知る限りここは、最も贅沢に時間を使うことのできる場所だった。
勿論、ここはディジタル信号によって作られた場所であり、本物の自然とは真逆の存在であると言ってもいい。
小窓からは確かにあるがままの自然を見つけることができるが、簡素な戸を開いた先に通じているのは、銃弾飛び交うバトルステージか、もしくはクレイドルに横になっている自分の体だ。
それでも、私を含めたすべてを電子データで作られたこの場所を、私は独占したくなるくらいには気に入っていた。
だから、
「失礼する。我は『清水研究室 室長兼第一デスク長』ゴクラクだ。ふむ? セイブドマイスター殿は休養中であったか。邪魔をしてしまい申し訳ない」
招待した覚えのない奴が戸を開けて踏み込んできて、ましてそいつが顔見知りでなく、さらに清水研究室の関係者とあっては、安らかだったところから堪忍袋の緒が切れるところまで一瞬で到達するのも仕方のないことだった。
機関砲を具現化し(茶室を予約する際のアカウントがバトル用だから、武装も一緒に登録される)マズルの火花が直接当たる至近距離で一発ぶっ放した。
しかしこの侵入者は部屋に入ってきた姿勢のまま右に『ずれた』。
ずれた、という言葉が適切かどうなのか分からないが、少なくとも私には信号機の黄信号が赤信号に変わるように、一瞬の間にこいつの立ち位置が変わったように見えた。
腰まで届くほど長く、羊毛のような癖がある灰色の髪は戸から入ってきた時のまま、少しも揺れ動いていない。
髪は早く動けば動くほど頭に置いていかれるようになびくはずなのに。
弾丸とマズルから出た火花のどちらも侵入者の横を通り過ぎ、戸の向こうへと消えていった。
「そう邪険にされるな。今日は戦いに来たのではない」
しかも全然動揺してない。
見たこともない型式の神姫は戸を閉め、隅にあったちゃぶ台を部屋の真中に置いて、どっかりと胡座をかいた。
「これはつまらぬものだが」とちゃぶ台の上に出された草色の包を私は無視して、ふてぶてしい神姫を観察した。
切れ長の目の奥で、金色の瞳が私をサーチするように怪しく光っている。
無言のうちに試されているような不快感が肌にまとわりついた。
私にはその金色が、濁って濁って濁り切った果てにできた色のように思えてならなかった。
まだ出会って間もないにもかかわらず、こいつは私程度では手に負えないことを直感で理解してしまった。
油断すれば腰が抜けそうになるのを、相手には見えないように必死にこらえなければならなかった。
もし畳の上にへたり込んでしまったら、私は恐らく、この型式すら分からない神姫に屈服してしまう。
戦闘力は疑う余地もなく普通の神姫の枠で測れないレベルにあるだろう。
しかしこの神姫は強さ以上に危険な何かを隠している。
ゴクラク(極楽)なんてものが本当あるとしたら、恐らくこいつが歩く道とは逆方向にあることだろう。
少しでも目をそらそうと、シルエットを全体的に眺め回した。
まず目に入ったのは額からそそり立つ、太くて硬そうな黒い角。
神姫が頭にとんがったものを立てるのは珍しいことではない。
カブトムシやらクワガタなどの神姫は当然のこと、私にだってうさぎのような耳がある。
でもこいつの角は私達の飾りやセンサー、アンテナとは違う、正しい意味での角だと感じた。
威嚇するため、あるいは貫くため。
ポケモンじゃあるまいし、まさか本当に主武装ではないのだろうけど、それだけの威圧感があった。
角の次に目に入ったのは、顎の先端から真っ直ぐ下に降りた先にある肌の谷間だった。
谷間に何かを差し込めば力を入れることなく挟めてしまいそうだった。
盛ってやがる。
ムカつく。
腕や足、首元、カーディガンはすべて緑の濃淡で描かれた迷彩柄で統一されている。
密林に飛び込む気満々であるようだが、ボリューム過剰の髪と誇張されまくっている胸元を見れば、どんな場所であっても小賢しく隠れることを良しとしない性分であることが分かる。
関わる気になれず、できることならゴクラクを無視して茶室から出ていきたかった。
しかしゴクラクには、有無を言わせない雰囲気があった。
「一躍有名になられたセイブドマイスター殿と話がしたかったのだ。唐突な訪問であったことはご容赦願いたい」
「私がこの場所にいることは誰も知らないはずよ。どうやって潜り込んだのかしら」
これには答えず、ゴクラクは話を続けた。
「先日の一戦はさすがだった。強者を相手取っても冷静に策を巡らせ勝利してしまうとは、凡百の神姫にできることではない。我が研究室の者共にも見習わせたいものだ」
「ふん、いくら褒めたって私が清水研究室に出すものなんて何もないわよ。あんた室長だって?」
「そうだ」
「なら部下のしつけくらいちゃんとしなさいよ。ギンが節操無く勧誘し回ってるのは研究室の方針?」
「失敗を表に晒してしまったのは研究室として手痛いことだ。ギンの武装がジョーカーのようなものであることはご存知であろう。『大魔法少女』を引き入れることができれば儲けもの、程度に考えていたのだがな」
芽のない欲を出してしまった、と言うゴクラク。
しかしこいつの表情から後悔する気持ちは欠片も読み取れなかった。
すべての感情が瞳の金色の中に混ぜられ、押し殺されているようだった。
「我が清水研究室は強い神姫を求めている。今は第七デスクまで【それなり】の神姫を揃えたつもりだが、まだ不足している。我に匹敵するレベルとまではいかずとも、そうだな、少なくともギン程度の神姫をあと数体は揃えたい」
ギン程度。
その言葉を聞いた私は心を揺らさずにはいられなかった。
「何と戦ってんのよアンタは。世界大会の賞金でも狙ってんの?」
ゴクラクは答えなかった。
まあ、こいつらの目的なんて興味無い。
本当に賞金目当てなら、私の知らないところでどうぞご自由に荒稼ぎしてくださいって感じだ(目の前の神姫がお金なんて俗なものに興味を持つとは思えないけど)。
気になったのは、清水研究室が第七デスクまであるということと、ゴクラクがギンをずいぶん格下に見ているってことだ。
ちゃぶ台を挟んでゴクラクと向かい合うように、私も座った。
セイブドマイスターは具現化したまま傍に置いた。
ゴクラクが持ってきた包の中身が少しだけ気になった。
「第七デスクまであるってことは、他のデスク長もギンみたいに勧誘して回ってんの?」
「そうだ。しかし我は『強い神姫を集めよ』としか命令していない。収集対象と手段は各々に任せてある」
七という数字にいや~な予感がする。
私が目下挑戦中の人間になるための勝利ノルマが七人。
清水研究室のデスク長も七人。
アリベは清水研とは無関係だし、次の対戦相手はマオチャオのリーダーともう決まっているらしいけど、残り四人の中に清水研の連中が含まれないとは限らない。
いや、あのひねくれた神様のことだし、絶対にあと一人くらいは入ってくる。
そのあと一人の最有力候補は今、目の前に座っている。
改めてゴクラクの姿を見た。
刺さると痛そうな額の角、肩幅よりも大きく膨らんだ灰色の髪、無駄にミリタリー仕様の服、そして金色の両眼。
この神姫を相手にして、私に勝つ可能性はあるのだろうか。
「もう一つ質問。あんたの型式は?」
「インダストリアル・エデン社製犀型MMSディアドラ。飛鳥型とは比較にもならないマイナー神姫だ。しかしその性能、特に我の強さはそこそこだと自負している。今日はセイブドマイスター殿に我の能力を伝えるために来た」
「なっ、何よいきなり。教えてって頼んだ覚えはないわよ」
「ディアドラは元来、重火器による制圧を得意としている」
ゴクラクは勝手に話しはじめた。
「しかし我は室長であるが故に雑務が多く、ペンより重い物を持たぬものでな、セイブドマイスター殿が愛用されるような重火器は勿論のこと、ハンドガンのような小型武器であっても携帯するのは億劫だ。武装は最小限まで減らしたい。ところでセイブドマイスター殿は【共振】という現象をご存知か?」
「共振? 共鳴みたいなもの?」
「そうだ。あるシステムにそのシステムの固有振動数で力を加えると、その振動は増幅される。振り子を想像するといい。一定の間隔で押してやれば振れ幅は増幅するだろう。その時の間隔が固有振動数であり、この現象を共振という」
さすが研究室にいるだけのことあって、小難しい理屈を出してきた。
たとえ話で分かりやすく説明しようとしてんのは分かるけど、私のような一般人は専門的な単語を出されるだけで思考回路をフリーズさせてしまうことをゴクラクは知るべきだ。
振り子とか言われても、それを思い浮かべるのに数秒かかってしまうわけで。
「乱暴な言い方をすれば共振とは力の乗法だ。物の思わぬ破損を招く厄介なものだが、我はそれを武器として扱う術を持っている」
「ふ、ふうん」
私はたぶん、すごく重要な情報を聞かされている。
自ら戦術の情報を公開するなんて「バトルでカモにしてください」って言ってるようなもので、そうでなければジャンケンで「私はチョキを出す」と宣言するくらい程度の低い揺さぶりだ。
でも私にはゴクラクの言っていることに嘘はないという確信があった。
にもかかわらず、ゴクラクの短い説明を半分以上聞き流してしまった。
だって難しいんだもん。
【共鳴】を武器にする(あれ? 共振だったけ?)ということは分かった。
でも共鳴を具体的にどうするのかサッパリ分からない。
他には……そう、振り子がどうとか言ってた。
じゃあゴクラクの武装は振り子なのか。
振り子でできることなんて、「あなたはだんだん眠くな~る」の催眠術しか思いつかない。
つまりゴクラクの技は催眠術――いやいや共鳴はどこ行った。
どうしよう、もう一度説明を頼んでみようか。
聞かぬは一生の恥って言うし、清水研の神姫を相手に恥かいたって別になんとも思わないし。
よし、聞こう。
見下されるかもしれないけど、それならそれで早々にお帰り願えばいいじゃない。
さあ聞けセイブドマイスターホノカ。
素直な心でお願いするんだ。
「……で、どうして私にあんたの情報を?」
だめだった。
飛鳥型ホノカさんはちっぽけなプライドと引き換えに重要な情報を逃した。
「ほう、ご理解頂けなかったようだがご質問は無しか。さすがはセイブドマイスター殿、潔くて助かる」
しかも理解してないことがバレてた。
自分の顔がみるみる赤くなっていくのを感じた。
魔法少女になった時くらいの恥ずかしさと自殺願望を抱えきれず、機関砲を再度手に取り弾の限りぶっ放した。
部屋中に何度も炸裂音が反響し、備え付けの調度品が被弾した箇所からひしゃげていく。
ちゃぶ台の上にあった包の中身は一口サイズのヂェリ缶詰合せだったらしく、弾が当たってヂェリ缶が弾け飛んだ。
破片が部屋中に舞って、トリガーを引いても弾が出なくなった頃にはあらかたの物を壊し尽くしていた。
全弾避けきったゴクラクを除いて。
「錯乱されるな。涙が出ているぞセイブドマイスター殿」
「じゃかあしいっ! さっさと答えなさいよ、なんで私に能力ばらしたっ! ええ!? 私を嘲笑うためか! 小難しいこと言いやがってインテリぶりやがってえっ!」
「違う。我が戦闘スタイルを開示したのは、セイブドマイスター殿の信頼を得るためだ。我はセイブドマイスター殿を我が研究室の第一デスク長に――」
「出てけ! 二度と来んな! 次そのツラ見せたら額の角と尻の穴を連結しちゃるかんね!」
「やれやれ、曲がりなりにも『大魔法少女』と肩を並べる御身であろうに。まあよい、一度の謁見で心が掴めるとは思っていない。今日のところは挨拶にとどめておこう」
そう言うとゴクラクは穴が空いて歪んだ戸を強引に、しかし力を込めた感じもなく開けて外に出た。
「そうだ、もう一つ」
いかにも【今思い出したという演技をした風に】ゴクラクは足を止めてこちらを向いた。
「我が研究室の第六、第七デスクの者らが近いうちにセイブドマイスター殿を訪ねると言っていた。その時はよろしくご相手願いたい」
返事の代わりに機関砲を投げつけた。
ゴクラクはここに来た時のように瞬きの間にその場から姿を消し、今度はどこにも現れることはなかった。


◆――――◆


「『清水研究室 第六デスク長』クロカゲ」「並びに『第七デスク長』シロカゲ参上!」
今ほど不愉快な気分で茶室から帰ってきたのは初めてだった。
癒しを求めたはずの茶室で、なぜこんなにも嫌な思いをせにゃならんのか。
難しい説明を一方的に聞かされた混乱、悶絶したくなるほどの羞恥、戦力差を忘れさせるほどの殺意、それらの感覚が、ネットワークから帰って目を覚ますことで頭痛に変換されたようだった。
頭痛薬、そうでなければニトロヂェリーが欲しい。
今更になってゴクラクの手土産が惜しくなった。
確か冷蔵庫にはヂェリーがまだ残ってた。
でもクレイドルから動く気になれず、目覚めた時の体勢のまま窓のほうを見た。
「今日は貴様の命」「を頂戴しに参った!」
開け放たれた窓の縁に黒と白の小人が立っていた。
腕を組んで背中合わせに立ち、景観が荘厳なわけでも雷鳴が轟いているわけでもない外をバックに、謎めいた登場を演出している。
黒と紫の忍装束、青いオカッパが少々幼く見えるフブキ。
白と赤の忍装束、赤い長髪を後ろで一本にまとめたフブキ。
二人とも首元にスカーフを巻いていて、外から室内に入り込んでくる湿っぽい風に僅かに揺れている。
忍者のくせに忍ぶ努力すら見られない。
ところで忍者型といえば、最近は『和』の心を捨ててしまった弐式とかいう神姫がいるけど、そういった意味であの二人は古き良きを守る正統派と言えた。
初代フブキとミズキの純正装備を身につけている。
私は和風神姫には、型式を超えた切り離し難いつながりがあると考えている。
紅緒に始まり、飛鳥、フブキ&ミズキ、こひる、蓮華、他少数。
『和』というコンセプトが武装の幅を狭めてしまうきらいがあるものの、単純な性能では語れないひとつの信念と少数精鋭であるというシンパシーは、私たち和風神姫にとって捨てがたいものとなっている。と思う。
それに、忍者型には個人的な思い入れもある。
なにせ忍者型は――唐突に告白するが――私のご先祖様なのだ。
詳しく知っているわけではないが、忍者だった私はホノカゲという爆弾魔で、尋常ならざる理由あって、かの有名な『ドールマスター』に弱者を装い近づいたそうな。
戦闘スタイルは爆弾魔の名に違わぬ卑怯卑劣なもので、バトル開始前からステージ全域に遠隔操作型の爆弾を仕掛けておくというものだ。
バトルの混戦の最中に誰も気付かないうちに仕掛けておいた風を装って、これで何人もの神姫を屠った。
同様の手口で『ドールマスター』を破壊しようとした、が、あっけなく撃退される恥さらしだったという。
せめてもの救いは、そんなご先祖様の噛ませ犬的な姿がWikiに晒される前に、歴史がデータの海に溶けて消えた(ボツになったとも言う)ことだった。
こんな情けないご先祖様でも、私のベースになっていることは間違いない。
そういったわけで私は、忍者には一目置くようにしている。
困っている忍者がいたら積極的に助けようとも思う。
私にできることであれば、漫画を読むことと天秤にかけたうえでお願いをされたっていい。
しかし今日ばかりはタイミングが悪かった。
寝そべったまま手を伸ばしてセイブドマイスターを掴み、セイフティを解除、ハンドルを引いてチャンバーに弾を送り込み、床と肘で大きな図体を固定してファイア。
「「あびゃあっ!?」」
命中したような悲鳴をあげる忍者二人。
しかしちゃんと狙わなかったため、弾は二人の頭上を通り過ぎて窓の外へ消えていった。
舌打ちして、もう一度構えた。
次は当てる。
「お、おい待て! いき」「なり何をするんだ貴様!」
忍者は二人で一つの文をしゃべるという、とても面倒なことをしていた。
黒い方が半分まで喋り、白い方が残り半分の文を引き継いている。
私に向けて手を付き出した「待て」のポーズは二人一緒だ。
焦った表情も一緒。
その芸風は私を馬鹿にしているように思えてならなかった。
いや、絶対馬鹿にしてる。
さっきのゴクラクといい、あいつらといい、どこまでもふざけた連中だこと。
清水研究室、死すべし。
「「ひえええっ!!」」
今度はしっかり狙ったのだが、忍者二人はそれぞれ両側へ跳んで回避した。
ゴクラクのような余裕綽々の避け方ではない、それはどちらかというと逃げる動作だった。
清水研のデスク長だからって、全員がゴクラクやギンのようにずば抜けて強い神姫とは限らないらしい。
まあ、そんなことは私にとっちゃ関係のない話なわけで、まずは黒いほうを屠る。
「ま、待てセイブドマイスター! 分かった、我ら」「が悪かった! だからまず話をしようではないか!」
「あんたらと話すことなんてないわ」
砕けろCSC。
「うっひょお!? だから待てというに! このままリアル戦闘行」「為を続ければ警察沙汰になるぞ! それは本意ではあるまい!」
「む」
それもそうだ。
こんなところで死なれちゃったらこの家が家宅捜索されてしまう。
それはちょっとマズい。
でもあいつらは私の命を取りに来たとか言ってたし、正当防衛じゃなかろうか。
ならば何も問題ない。
「爆ぜろCSC」
黒い方に銃口を向け直すと、とうとう両手を上げた。
黒い方だけでなく遠く離れた白い方まで同じく両手を上げた。
「分かった降参だ! 降参、マジで参りまし」「た! だからその銃を下ろしてください!」


◆――――◆


「自分らだって本当はこんな悪役」「みたいなことやりたくないんスよ」
とっちらかったマスターの机の上に忍者二人を呼んで正座させた。
私は二人の前に仁王立ちして、自分はいったい何をやっているんだろうと疑問に思った。
忍者達は、聞いてもいないのに勝手に身の上話を始めた。
「それなのに室長のヤツ、勝手に自分らを第六、第七」「デスク長にしといてこき使うんスよ。酷くないスか」
「知らないわよ」
私のご先祖様もそうだけど、忍者型ってこんなに情けない神姫だったっけ。
忍者のみんながみんな、こうじゃないはずだけど。
きっとフブッホとミズキッチョムの呪いとかそんな理由なんだろう。
「それに自分ら仲良しじゃないスか。だからせめて一緒のデスクに」「してくれって頼んだのに聞く耳持たないんスもん、あの迷彩巨乳」
「プッ、迷彩巨乳ね」
「あれ、姉さん知って」「るんスか、自分らの室長」
ついさっき会ったばかり、とは言わないでおいたほうがいいような気がした。
この二人は迷彩巨乳(的確な呼び名だ)の動きを知らないみたいだし、変に話を持ち出してややこしくなるのは避けたい。
「まあ、ちょっとね」
「マジっスか、すげぇな姉さん。室長って神姫センターと」「か普通の場所じゃ絶対にお目にかかれないレア神姫スよ」
「なんで?」
「そりゃあ強す」「ぎるんスもん!」
二人の眼の輝きが増して、表情に自慢の色が濃く表れた。
なんだかんだ言って自慢の室長なんだろう。
「ここらの地域って実は結」「構スゴいんスよ。知ってます?」
「さあ」
「日本代表レベルの神姫が五人も集まってるんスよ。五人とも公式戦みたいな表には出」「ないだけでガチっスもん。海外の筋肉ムキムキMMSとか一捻りスよ。スゴくないスか」
私のような平凡神姫が日本の頂点と聞くと、まず頭に思い浮かぶのは現日本一のアルテミスだ。
アルテミスは動画でしか見たことないけど、そのバトルは私の理解を超えた異次元にあった。
もし勝負したら十秒以内に撃墜される自信がある。
あんなのが身近に五人もいるんだ、恐ろしい。
海外の、特にアメリカのMMSも動画で見たことがあった。
ごくまれに神姫センターでも外国人マスターがバトルさせている。
一応同じMMSということで同じ筐体を使えるのだけれど、当然ながら彼らは武装神姫ではない何かで、普通の神姫バトルのようにはいかない。
アメコミヒーローみたいな筋肉塊が腕力にものを言わせて、比較的小さな建造物くらいなら軽々と放り投げたかと思うと、他のところではSWATみたいな装備のイカついMMSがプロの市街戦を見せつけていたり、文化の違いを感じさせた。
戦場は女子供が立ち入っていい場所ではない、それが彼らの言い分だった。
「あのイカついMMSとは関わりたくないわね。私達と同じ規格で作られてるってことが信じられないわ」
「あんなモンスターは室長みたいな」「バケモノに任せとけばいいんスよ」
「尊敬してるわりに薄情ねあんたら。――ちょっと待って。日本代表レベルってもしかして迷彩巨乳のことを言ってる?」
「そう」「っス」
あっさり頷く忍者。
私は急に気が遠くなり立っていられなくなって、クレイドルに座り込んだ。
「ど、どうした」「んスか姉さん」
「なんでもない。ちょっとめまいがしただけ」
忍者二人が来る前の出来事が、まるで映画のテープをめちゃくちゃに繋ぎ変えて再生したように次々と思い返されていく。
武装神姫の頂点に立つレベルの神姫と茶室で二人っきりになった。
武装神姫の頂点に立つレベルの神姫から土産を出されたのに無視した。
武装神姫の頂点に立つレベルの神姫に向けて機関砲を撃ちまくった。
武装神姫の頂点に立つレベルの神姫の強さの秘密を聞かされた。
【次そのツラ見せたら額の角と尻の穴を連結しちゃるかんね!】
人間で言うならば、おでん屋台で隣に居合わせた方が天皇陛下とは知らずに馴れ馴れしく愚痴ったり肩を組んだりしてしまうような感じだと思う。
手が震えてきた。
CSCが勝手にオーバークロックを始めて、思考が暴走しかかっている。
頭の中を迷彩巨乳の存在感あふれる姿が、最近お会いしていない【あの人】の姿と交互に走馬灯の影絵のように駆け巡った。
どうでもいいけど「死の直前に走馬灯が見えた」って言い方をすると、人生の最後に見たものが風流な灯籠だった、って意味になっちゃうから注意してねフフフ……。
「姉さん落ち着いて。走馬灯」「のたとえは大袈裟すぎっスよ」
「な、なななんで私の考えてること、分か、わか」
「姉さんの顔に書いてあるんスもん。室長と会った時に何やらかしたか知ら」「んスけど、気にしすぎっスよ。いくら強くても所詮は迷彩巨乳なんスから」
「そ、そうよね。あんな胸を見せびらかすようなヤツにわ、私、なに動揺してんのかしら」
慎ましい自分の胸に手を当てて、ゆっくりと落ち着きを取り戻していった。
そう、バトルの強さに関係なく迷彩巨乳は迷惑な清水研のリーダーで、それ以上でもそれ以下でもない。
クールになれ『セイブドマイスター』。
強さのインフレが止まってよかったと考えればいいじゃないか。
世界にはもう迷彩巨乳を超える神姫は出てこないんだ。
15cm程度の死闘の天井が見えたことは喜ぶべきことよね。
「ふう。もう大丈夫。そうよ、みんな同じ規格で作られた神姫なのよ。強い神姫、弱い神姫、そんなのマスターの勝手。大切なのは自分が武装神姫であることに誇りを持つことよ」
「うっは。さすが姉さん」「言うことがハンパないス」
「まぁね。それで? この地域にいる残り四人の強い神姫って誰なの?」
「一人は姉さんがよく知って」「るっスよ。『大魔法少女』ス」
「あばばばば……」
「うわあ姉さん」「が泡ふいたー!」










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