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(動いた……)

 相手が笑い終わると、相手に――正確には鎧に変化がおこっていた。スカートのような部分が稼働し、大きな翼のようになったのだ。

(あれが……本気?)
(たぶん、シンリーさんの調子が戻ったんだと思う……)

 距離はミドル。さらに残り時間は一分と少し。ここから取れる戦法は2つ。
 1つ目は後方に下がりながらボレアスで牽制する持久戦。
 2つ目は真っ向から立ち向かい、相手を倒しきる短期決戦。私は……。

(エウロスとゼピュロス出して)
(行くんだよね)

 そう、後ろに下がってもジリ貧になるだけ。ならば、立ち向かわなければならない。

(スラスターは任せた)
(うん、樹羽はブースターを)

 お互いの役割を割り振り、身構える。相手も小剣を握り締める。その表情は、どこか活気に満ちている。
 先に仕掛けたのは相手からだった。
 大地を強く蹴り、跳ぶ。その速さはまさに弾丸のごときだった。
 私はとっさに横に飛んだ。だが相手は翼を器用に動かし、それを遮るように動く。

「っ……」

 私は片足を前にだし、大地に踵落としする形で接触し、減速。そこから直角に方向転換。つまり相手に向かってである。
 相手も減速から方向転換。お互いに相手に向かっていく形になる。相手は小剣を上段に構えている。

「てぇぇいっ!」

 振り下ろされる小剣。私は左手のエウロスでそれを剃らし右手のエウロスを相手に付き出す。が、それを副腕がガッチリと押さえこむ。

「っ!」
「へへっ♪」

 本体の左手がすかさず私の腕を取る。これで私は武器をしまっても逃げられなくなってしまった。
 お互い地面に着地し、視線を交す。状況は圧倒的に不利だ。
 右手は完全に抑えられた。これは相手の左手にも言えるが、問題は残った腕の本数。
 こっちは左手が一つ。対する相手は副腕含めて二つある。なんか、ずるい。

「えへへ、捕まえたよ♪ これで逃げられないよね」

 シンリーがイキイキとした表情を見せる。さっきの死んだ魚の目に比べたら、もはや別人だ。

(樹羽……どうしよう……)

 シリアの困惑した思考が入ってくる。確かに状況は絶望的だ。下手に動けば左手まで使えなくなり、悪ければそのままやられるだろう。それだけは避けたい。
 この硬直状態をどうにかしなければならない。その為には多少のリスクは仕方がない。

(両手のエウロスとゼピュロス、閉まって……代わりに左手にボレアス出して)
(まさか、この距離で撃つの!? 駄目だよ! こんな近距離で撃ったらこっちまでダメージが!)
(この状態を打破するには、それしかないの。お願い)

 相手の小剣が飛んでくる。さらに同時に副腕がエウロスを取るために動く。それに対し、小剣をゼピュロスで受け流した後、エウロスの柄を回転させ、刃を腕の軌道から剃らす。

(……わかった)
(私が合図したら、お願い)

 相手は未だに余裕の笑みを浮かべている。だが、その表情を今すぐに驚愕にかえる。
 もう一度さっきと同じ攻撃がくる。それを今度は小剣だけを受け流し、エウロスをわざと掴ませる。相手は勝ち誇った表情になった。

(今っ!)
(っ!)

 両手の武器が一斉に無くなる。これにより、左手は再び自由になる。そこから身を捻り、まるで弓を構えるような体勢になる。つがえるのは矢ではなくボレアスだが。
 わずかなタイムラグでボレアスが出現する。現れたそれは、相手の胸元にピタリと照準をつけていた。

「なっ!?」

 慌てて相手が左手を離す。私は空いた右手を砲身に添え、トリガーを引いた。とっさに後方へ待避した相手を追うようにビームが発射される。それが当たる寸前で、副腕が動くのが見えた。
 被弾、小さく爆煙が上がる。

(今がチャンスだよ!)
(わかってる!)

 相手の体勢が崩れた今がチャンス。一気に攻めあげる。
 ブースターを一杯に入れ、爆煙へと突っ込む。既に両手に展開されたエウロスを突きだしながら。
 当たれば、かなりの致命傷になっただろう。しかし、相手もそれはわかっていたらしい。爆煙への突入角をもっと考えた方がよかったと後で後悔した。
 突きだしたエウロスは左に身を反らされかわされる。

「まだっ!」

 膝を曲げ、足のスラスターをふかす。同時にシリアが翼のスラスターを動かし、上体を起こしながらバランスを取る。そこからさらに翼は動き、タイミングを合わせブースターを入れる。
 体が急速に右に回転する。遠心力の乗った刃は、相手の副腕の肩を切り裂いた。

(駄目だ、踏み込みが甘い!)

 完全に本体を斬るつもりでいたのに、副腕しか斬れなかった。相手は手にした小剣を左から逆袈裟にエウロスに勢いよく当てる。

「ナメ……るなっ!!」

 弾かれるエウロス。相手は地面、しかも両手で小剣を持っていたのに対し、こちらは支えのない空中。エウロスは片手で持つしかない。
 エウロスが弾かれたことにより、その勢いのまま脇腹を晒してしまう。

「もらったっ!!!」

 相手の小剣は、私の脇腹めがけて迫り――

  試合終了のブザーがなった。



 バトルが終了すると同時にあたしは我に返った。結果は、ドロー。タイムアップだ。このゲームセンターでは、客を効率良く回すためにドローは両者ともに敗北扱いになる。

(それにしても……)

 改めて思うが、バトルの時の樹羽はやっぱり別人のようだ。さっきの最接近状態からのボレアスといい、その前の息も付かせぬ連続攻撃といい。

(あれは、樹羽にしか……ううん、樹羽とシリアにしか出来ない芸当ね……)

 スラスターの細かい動きを全て神姫に任せ、自分はブースターを入れる。デタラメに聞こえるが、樹羽とシリアなら出来る。あんな行動は、今までどんなマスターを見ても一人もいなかった。

(樹羽は、一体どこまで行けるんだろうな……)

 その先の未来のことを考え、私は少し胸が痛くなった。
 その時だった。

「中々面白い若造がいるじゃないか、ありゃ、おめぇのダチか?」

 後ろから懐かしい声がして、あたしはかなり驚いた。振り返るとそこには、見知った顔があった。

「宮下さん、戻ってたんですか?」
「おお、2年ぶりに覗いてみたが、盛り上がってるじゃねぇか」

 そう笑うのは、顔に傷のある渋いオジサマ、宮下信彦(みやしたのぶひこ)であった。少し日に焼けたしわのある顔は未だに衰えを見せず、どこかの組のお頭と言われても納得できそうな身なり。2年程前からふらりと旅に出ていたのは知っていたが、まさかここで出会えるとは。

「嬢ちゃんも見ねぇうちにデカくなったなぁ、ん?」

 そう言って顔を近付けてくる。とても酒臭かった。

「あのエウクランテを使ってる嬢ちゃん、かなりいいもん持ってるなぁ。ありゃ、かなりいいとこまでいくぜ」

 かなり饒舌だが、これは酒が回っているせいだろう。これがこの人の酔っ払った状態なのだ。

「樹羽――あのエウクランテを使ってる子と戦うんですか?」
「いや、一回やっただけでばててちゃ話になんねぇよ。俺はまた来っから、おめぇは早く行ってやんな」

 そう言って宮下さんは行ってしまった。あたしは何のことか分からず、振り返ってみた。
 そこには、椅子に座ってぐったりしている樹羽の姿があった。



 バトル終了のブザーが鳴った。結果はドロー。両者ともに負けらしい。
 私はいつものようにライドアウトした。しかし、いつまで経っても手足の感覚は戻らない。視界など存在せず、あるのは無限の闇ばかり。

(あれ……何が……?)

 思考がまとまらない。そこにない体が冷たくなっていくのがわかる。
 私、このまま■ぬのかな……?













 「樹羽っ!!!!」









「……華凛?」

 目を開けると、そこには今にも泣きそうな華凛の顔があった。その奥には見慣れない天井がある。

「よかったぁ、よかったよぉ……」
「……ここは?」
「ゲーセンの休憩所だ。あんた、バトル終了しても目を覚まさなかったんだぜ」

 手に当たる感覚や、背中に当たる感覚で自分が長いソファに横たわっていることがわかった。声のする方に首を巡らせると、壁に寄りかかってカップを傾けている東雲くんの姿があった。
 さらに首を巡らせる。確かに休憩所のような場所だ。ゲームセンターのやかましいゲーム音は、この部屋までは届いていない。本当にゲームセンターかどうかも怪しいほどだ。

「シリア、いる?」
「ここにいるよ」

 シリアが顔を覗き込んでくる。やっぱり、心配そうな顔をしている。

「みんな、ごめんね。心配かけて……」
「ううん、樹羽が無事でなによりだよぉ……」

 華凛が涙声で答える。東雲くんは少し浮かない顔をしていた。

「どうしたの?」
「いや……」

 私は体を起こそうとして、出来なかった。まだ力が入らない。

「こんな時になんだが、さっきの試合、どうにも納得いかなくてな。あの尋常なまでの速度はなんだよ」
「んー、あれはスラスターをシリアにやってもらって、私はブースターを」
「はぁ?」

 東雲くんが呆れた顔をする。あからさまに「こいつは何を言ってるんだ」という顔だ。

「出来るのよ、この子は。どういう理屈かわからないけど、ブースターを感覚で動かせるの」

 華凛が涙を拭き、いつもの調子を取り戻す。

「秋已、お前まで何言って……」
「あんたは直に体験したでしょ。あれを全て神姫にやらせようってのは無理があるわ」
「む、むちゃくちゃだ……」

 東雲くんは頭を抱えてしまった。やはり、私の能力は一般的に言ったら異常らしい。

「樹羽、立てる?」
「うん、そろそろ平気」

 華凛に手を貸してもらい、なんとか起き上がる。

「ほんとに平気? 樹羽」
「ありがとうシリア。大丈夫だから」
「むちゃくちゃだ……そんなの」

 まだ頭を抱えていた青年がいた。


  樹羽は『むちゃくちゃ少女』の称号を得た。


 明日もゲーセンね!
 有無を言わせない口調で華凛はそう告げ、私はまた一人帰路についていた。

「今回のバトル、うまくいったね!」
「ドローだったけど」

 訂正、二人だ。シリアは今肩に乗っている。揺れが酷いのか、片手は私の頬に、もう片方の手は私の服をしっかり握っていた。

「不思議だったよ! まるで樹羽と一体になったみたいだった!」
「……私も」

 あの連続攻撃の時、不思議とシリアが次にどっちにスラスターを動かすかがわかったような気がする。なんと形容したらいいんだろう? こう、私がもう一人いるような、そんな……。

「あ、樹羽前!」
「え、あうっ」

 考えごとをしていたら誰かとぶつかってしまった。慌てて飛び退く。
 かなり大柄な人だ。歩く度にジャラジャラと付けたアクセサリーが鳴る。それに変な髪型だ。フランスパンを頭に乗っけたような感じ。その顔にある二つの目が、私を睨みつけていた。

「ああ!? どこに目ぇつけてんだ!?」
「ひぅっ、す、すみませ……」

 突然怒鳴りつけられ、私はびくついた。よく見ると、後ろにも似たような人が二人ほどいる。

「すいません! ぶつかってしまったことは謝ります! ですから許してください!」
「シリア……」

 シリアが必死に頭を下げる。だが男達はシリアの言葉を聞こうとはしなかった。

「へっ、すみませんで許されりゃ、ポリ公はいらねぇんだよ!」
「へぇ~、よく見たら可愛いじゃねぇか。きっちり落とし前付けてくれなきゃなぁ?」
「てめ、ロリコンかよ」

 会話しながら、私の腕を掴んでくる。とても手が大きく、力も強くて逃げられそうにない。

「おら、きっちり落とし前付けさせてやるよ!」
「樹羽に触らないで!」

 シリアが抗議する。しかし、全長15cmの体では無理があった。

「うっせぇ! 神姫はひっこんでろっ!!」

 シリアは掴まれ、別の男の手に渡る。

「シリア!」
「おら! ついてきやがれ!」
「いや、離して……」

 しかし、私もまた非力だった。抵抗する側からそれ以上の力でねじふせられる。
 このまま私はどうなってしまうんだろう?
 私が諦めかけたその時、

「待ちな!」

 凛とした声が、閑散とした住宅街に響いた。



「すいません! ぶつかってしまったことは謝ります! ですから許してください!」

 必死に頭を下げる。だが相手はこちらにわざとぶつかってきた。本来なら、謝る必要などない。
 しかし、ここで私が強く言えば、迷惑するのは樹羽だ。

「シリア……」
「へっ、すみませんで許されりゃ、ポリ公はいらねぇんだよ!」
「へぇ~、よく見たら可愛いじゃねぇか。きっちり落とし前付けてくれなきゃなぁ?」
「てめ、ロリコンかよ」

 話ながら、樹羽の腕を掴む不良。

「おら、きっちり落とし前付けさせてやるよ!」

 私が我慢出来たのはそこまでだった。

「樹羽に触らないで!」
「うっせぇ! 神姫はひっこんでろっ!!」

 男の手が私に迫る。私はあっさりと捕まり、放物線を描いて別の男の手に渡る。

「シリア!」
「おら! ついてきやがれ!」

 不良が樹羽を無理矢理引っ張る。私はここでそれを見ているしかなかった。

「いや、離して……」

 私は無力だった。所詮は15cmの人形。人の力には敵わない。
 あの時もそうだった。私はあの時から何も変わっていない。人を止められる力は、ない。

(誰か……誰でもいい! 樹羽を……樹羽を助けて!!)

 それは悲痛の叫び。そしてその叫びは、願いは、叶ったのだ。

「待ちな!」

 閑散とした住宅街に響く、凛とした声。私は声のする方向を向いた。
 最初に目につくのは、真っ白な長ラン。夕日で真っ赤に染まったそれと、同じ白の鉢巻き。そして、元から紅い鮮やかな長髪。木刀を持ったら、昔流行った番長のようだ。
 だが夕日をバックに立っている立ち姿は、今の私には正義の味方のように見えた。
 不良の視線が一斉にその“女性”に向けられる。

「その子から手を離しな。いい歳した男が女の子に手ぇ出すたぁ情けねぇ」

 しゃべり方もそれっぽいし。

「ああん? 誰だてめぇ?」

 不良の一人が物凄い形相で聞く。その表情に私は少し怖じ気付いたが、女性はむしろ呆れていた。

「てめぇらの耳は飾りか? あたしはその手を離せって言ったんだ」

 その言葉に不良二人が反応する。

「へっ、意気がんのも大概にしろやこのアマ……」
「女だからって容赦しねぇぞコラァ……」

 私を放り、手をごきごきとやらしながら女性に近付く。

「わわっ、と」

 放られた私は、なんとか地面に着地した。神姫の重さがそれほどないことが幸いした。
 女性は黙って近付いてくるその男たちを睨んでいる。不良たちが女性の前に立つ。ここからだと、男の姿で女性が見えない。

「今なら、さっきのは聞かなかったことにしてやるよ」
 そう言って、不良の一人が女性の肩を叩いた。

 次の瞬間、肩を叩いた不良が宙を舞った。

 3メートル近く高く吹き飛んだ不良は、白眼を剥いたまま落下した。

「あたしに……触れるな」

 仲間がわけもわからず吹き飛んだことについていけず、フリーズしていたもう一人は、その言葉に我に返った。

「……っ! っこいてんじゃねぇぞこのアマ!!」

 そう叫び、右手で殴りかかる。だが、この不良も先程の不良同様、投げ飛ばされることになる。女性はそれをパシッとそれを左手で受け止めると、

「遅い……」

 ギュルン、とすさまじい回転をつけて不良を投げ飛ばした。今度は高さが無い分、回転が酷い。頭は右に、胴体は左に、足は左右別々の回転がかかっている。
 これまた白眼を剥いて、しかも泡くって落ちた。

「最後通告だ。その子から手ぇ離しな」

 冷たく言い放った言葉に、残った不良は耐えられるはずもなく。

「ち、畜生っ! 覚えてろ!」

 お決まりの捨て台詞を吐き、仲間二人を引きずって去っていった。

(す、すごい……)

 私は思わず息を飲んだ。どうやってあんな大男を投げ飛ばせたんだろう。なんかもう物理現象を無視しているような投げっぷりだった。

「シリア、大丈夫?」

 樹羽が私に手をさしのべてくれる。私はそれに乗って座った。

「うん、私は平気。ごめんね、私、全然役に立たなかった……」
「そんなことない、ありがとう」

 何の嫌味もない、素直なありがとう。私はあの不良に無意味に頭を下げたり、叫んだりしか出来なかったのに、樹羽は私にありがとうだなんて……。

「せめて、エウロスがあれば刺せるのに……」
「……?」
「ううん、なんでもない」

 今度ヤスリで削って仕込んどこうかな?

「怪我はないかい?」

 その時、女性が樹羽の元までやって来た。さっきまで不良を投げ飛ばしていたとは思えないほどさっぱりしている。

「…………」

 樹羽はうつむいて少し気まずそうにしている。たぶん、何て言えばいいのかわからないんだろう。華凛さんがいないからフォローは私の役目だ。

「あ、大丈夫です。ね、樹羽」
「う、うん、大丈夫……」

 私が同意を求めると、樹羽は小さく頷いた。やっぱり、まだ初対面の人とのコミュニケーションが苦手らしい。

「そっか、そりゃよかったよ」

 女性はにっこりと笑う。その笑顔には、不思議と安心する何かがあった。

「神姫、持ってるんだね。なら、あたしも紹介しとこうかな」

 そう言って、僅かに膨らんだ長ランのポケットを軽くつつく。すると、中から神姫が顔を出した。
 桃色の長い髪に、赤いスポーティなボディ。アーク型だった。

「んー? 終わったのかい? あー、自己紹介だっけ」

 少し眠たげな声をしている。さっきまで寝ていたのだろう。

「あたしは紅葉。姉貴の神姫だよ」
「姉貴?」
「ああ、あたしのことだよ。あたしは木嶺楓(もくれいかえで)。呼びにくいだろうから、楓でいいよ」
「か、楓さん……その……」

 樹羽が何か言いたそうにしている。私はそれを黙って見守っていた。

「あ、ありがとうございます……」
「いいって、あたしがああいうのが許せないだけだから」

 朗らかに笑う楓さん。樹羽もつられて少し表情を崩したのを私は見逃さなかった。

「姉貴、急がないと遅れるよ」
「あ、もうそんな時間か? 悪いね、あたしちょっと急用あるから、それじゃまたどっかで!」

 登場と同じく、素早く消える楓さん。本当に一陣の風のようだ。なんというか、怖そうに見えて実のところそうじゃないあのギャップというんだろうか? なんとなく親しみやすい人だった。

「……私たちも帰ろっか」
「うん、そうだね」

 不良に襲われたのがまるで嘘だったかのように、私達は家に帰った。
 今更だが、こっちは一切名乗っていなかったのを思い出したのは、家に着き、クレイドルに腰をおろした時だった。








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