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与太話9 : トントン


注1)『シェルノサージュ』のネタバレはないはずですが、気になる方はすみませんがトップページにお戻り下さい
注2)『トントン』がゲシュタルト崩壊します。ご注意下さい。





トントン、と。
マスターの人差し指の先が、私の肩を優しく触れるくらいの強さで叩いた。
「明日の神姫センター行く約束だけどさ、悪いんだけど……なにニヤついてんだ?」
「えへへ~。最近マスター、よく私に触ってくれますよね~」
「触る? いや、俺触ったか?」
「照れなくてもいいじゃないですか。私はマスターのものなんですから、好きなだけ触っちゃってください」
「? よく分からんが、分かった。それでさ――」
マスターが私を呼ぶ時に積極的にタッチしてくれるようになったのは、つい最近のこと。
丁度MMSの規格が変わったとかなんとかで全神姫一斉アップデートが行われた日くらいだったと思う。
インストール時間が長かったわりに私自身には何も変化がなくて、その代わりにマスターに影響が出たような感じだ。
肩だけでなく、ほっぺだったり、頭だったり、お腹だったり、何か用事があるときは必ず指でトントンとしてくれるようになった。
何故? と聞いてもマスターは無意識に触っているふりをしてはぐらかしてしまうけど、それでよかった。
どこかで神姫との肌と肌の触れ合いを大切にしようキャンペーンでもやっているとか、そんな取って付けたような理由でいい。
大切なのは私がマスターに触れてもらえることであって、これまではメンテナンスの時くらいしかベタベタ触ってくれなかった(姫乃さんとは節操無くベタベタするくせに)マスターが私のことを今まで以上によく見てくれてるってことに大満足だった。
ほっぺが少し沈むくらいの強さでトントンしてくれるってことは、それだけ私を気遣ってくれてるってことだし、ちょっと調子に乗って深夜に眠りについたマスターに話しかけてみても、ブスッとしながらも必ず返事をする前にはトントンしてくれた。
触れ合いキャンペーンを広めたどこかの誰かさん、ありがとう。
背比さんちのエルさんは今、とても幸せです。


◆――――◆


《それにしたってさ、ここ最近ちょっと度が過ぎてると思うんだ》
電話越しにうんざり感を漂わせてくるメルに同意せざるを得なかった。
いくらなんでも【トントン】され過ぎてる。
マスターから話しかけてくる時はおろか、私から話しかける時も必ずトントンされている。
一度たりとも例外なく。
本当に必ず、絶対に、まるでそうしないと死んでしまうとばかりに。
不思議なことに、メルも私と同じようにトントンされまくってるらしい。
《メンテの時なんか頻繁に調子を聞かれるんだけどさ、その度にショウくん、トントンしてくるんだもん。され過ぎて、頭の中でトントントントンってずーっと鳴ってる気がする》
「ハナコ姉さんもトントンされるんですか?」
《ハナ姉は寝こんじゃった。ほら、ハナ姉ってシャイだから、今まで甘えられなかった分をこれ幸いって取り戻そうとしたみたいでさ、ショウくんにものすごい勢いで話しかけてトントンされてたもん。今はうなされてるけど、なんか幸せそうだよ》
「そう、ですか」
マスターだけじゃなく、貞方さんまでトントンしてるとなると、これはキャンペーンなんて可愛らしいものじゃなくて事件のにおいがしてくる。
でも仮にマスターや貞方さんが悪いことに巻き込まれてるとして、トントンすることに何の意味がある?
せいぜい私達神姫をゲンナリさせるだけで、AIを狂わせるだどかならもっとマシな方法があるはずだ。
「何か心当たりはあります? 最近貞方さんが何か言ってたとか」
《それがさ。心当たりどころかショウくん、自分がトントンしてるってことに気付いてないみたい。ゲーム機のコントローラーのAボタン押して村人Aに話しかけるくらいの自然さでトントンしてるみたいなんだけど……んん~~、なんなんだろう、ホントに》
「ゲーム、ですか」
確かに最近の【トントン】、メルの『ゲームのキャラに話しかける』という表現が一番近いように思えた。
話しかける回数やフラグの状態で会話が変わるだけの、心のない登場人物。
人に会話する術を作られたって意味では神姫も同じかもしれない、けど……。
でも、そんなのって……。
《エル姉、あんまり深く考えないほうがいいよ。今考えたって答え出なさそうだし。明日大学でタマちゃん達とも会えるから、他の人の話も聞いてみようよ》
「うん……そうします」
部屋の外からマスターの足音が聞こえて、メルとの通話を切った。
コンビニ袋をぶら下げたマスターに「おかえりなさい」と言うと、私の頭をトントンしてから「ただいま」と言われた。


◆――――◆


翌朝。
「誰がタマちゃんかコラァ!」
会うなりキレたコタマ姉さんに驚く私とメル。
マシロ姉さんは顔をしかめてる。
「なんですかいきなり。午前8時47分になったら吠えるのがレラカムイの特性ですか。兄様に頼んであと2時間ばかりタイマーを早めて頂いて、妹君のモーニングコールでも務めなさい」
「いや、なんか昨日メルとエルにナメたこと言われた気がしたんだけど、なんでだろ。ここんとこ鉄子ちゃんに【トントン】されまくってるからかなあ。悪い病気でももらったかなあ」
「タマちゃ……コタマ姉さん、今【トントン】って言いましたか」
「エル、テメェ今【タマちゃん】って言おうとしたなコラ」
「それどころじゃないってばタ……コタマ姉。やっぱりおかしいんだよ」
遅れて姫乃さんとやって来たニーキ姉さんを加えての神姫会議が始まった。
基本、講義中のマスター達には相手にしてもらえないから、暇な私達はいつも(井戸端)会議をしてるようなものだけど。


◆――――◆


メルの言った『ゲーム』は共通認識として適切だった。
マシロ姉さんとニーキ姉さんもやはり、勇者が村人Aに話しかけるかの如く、度々トントンされているらしい。
「ヒメはまだいいんだがな……射美にトントンされた回数はもう4桁を超えているぞ……」
それでもニーキ姉さんは、マスターを相手取る時のような暴力に訴えず我慢してきたんだろう。
今にもストレスが爆発してマスターに襲いかかりそうだ。
マスターの眉間に爪楊枝が刺さるような事態は回避しないといけないのに、この【トントン事件】が多くの人に関わっているとなると、厄介なのに加えて収集がつかなくなりそうな気がしてならない。
原因は? 目的は? 被害範囲は? 対策は?
寝起きからまだ頭が覚めきっていないこともあるけど、何から考えていいのかも分からない。
頭の中をとりとめのない考えが踏み荒らすように走り回って早くもお手上げ状態だったのだが、マシロ姉さんだけは違った。
「まだハッキリしたことは言えませんが、掴みかけてきました。問題は恐らく、我々の側にある」
キッパリ言い切るマシロ姉さんに注目が集まる。
「我々の側って――どっちの側さ?」
「大きく神姫と人間とに分けて、神姫の側、という意味です。いいですか、我々がトントンされるときは決まって人間が相手です。現に今、誰もトントンすることなく会議ができています」
なるほど、と皆が頷いた。
言われてみれば当たり前のことだけど、言葉にしないとハッキリ理解できないものだ。
さすがはマシロ姉さん、伊達にサスペンスドラマに精通していない。
「でもさ、トントンしてくんのは人間なわけだし、それならアタシらより人間のほうが怪しくない? 鉄子ちゃん達オーナーの脳ミソに誰かが変な電波送り込んでんじゃないの」
「電波かどうかは分かりませんが、仮にそうだとすると、その電波を発信しているのが我々ではないか、と言っているのです。神姫と人間の干渉に不具合を発生させたいのならば、手を加え易いのは神姫のほうでしょうから」
マシロ姉さんの話は大雑把だけど説得力があった。
もし私達がネットから変なデータを一斉に拾ってしまったとして、気づかないよう偽装でもされていたら、メーカーが本腰を入れた精密検査でもしない限り発覚が遅れてしまう。
逆に考えて、もし人間相手にこんな大袈裟なことをしようとしたら、それこそテレビで電子ドラッグを放送するくらいのことをしないといけないはずだ。
もっと現実的に考えても、大多数の神姫オーナーが信じてしまうくらいの【トントン】の刷り込みを行うことだけど、それだとマスター達自身がトントンしていることに気付いていないわけだから、矛盾してしまう。
冴えない顔のニーキ姉さんが頭痛を堪えながらマシロ姉さんに聞く。
「神姫にウイルスでも何でも送り込むのはいいとして、動機をどう推測する。ただ人間に神姫をトントンさせるだけだぞ。私には愉快犯以外の犯人像が思い浮かばない」
「そうですね――例えば、こういったものはどうでしょう。所は東京浅草の小さなバー。そこで起きた服毒殺人事件に偶然巻き込まれた休暇中の刑事が――」
「はいストップ。アンタ、真面目に考える気ゼロでしょ」
「当然です。私もニーキ殿と同じく愉快犯だと思いますから、考えても無駄でしょう。ならば後はネットワークの怪しい情報を辿って、到達した場所にいる何者かを消せば良いだけです」
マシロ姉さんの言う「消す」は言葉の綾じゃなくその通りの意味だから怖い。
「と、とりあえず今日、神姫センターに行ってみませんか。もっといろんな情報があるかもですし、そうです、それがいいです」
あるいは神姫センターなら、もうとっくに解決策まで分かっていたりするかも。
そんな期待するでもない期待も、入り口に張られた臨時休業の張り紙を見てポッキリと折れるのだった。


◆――――◆


気まぐれにマスターか姫乃さんの部屋を選ぶ射美ちゃんが今日ここにいるのは別におかしなことじゃないんだけど、今だけは可愛らしい天真爛漫さが恐怖でしかなかった。
ニーキ姉さんが言っていた4桁って何だ、4桁って。
単純に計算して、トントンを最低でも500セット。
ありえない。
「おかえりパパー」
何も気付いていないマスター達に部活を休んで神姫センターへの寄り道をしてもらって、帰宅すると射美ちゃんがお出迎えしてくれた。
そして、
トントントントントントントントントントン。
いきなりの5連トントン。
タッチされた回数は2倍で、10回。
「エルもおかえりー」
「たっ、ただいま、です」
トントントントントントントントントントン。
「ねえエル、スマブラしよう」
トントントントントントントントントントン。
「はいこれコントローラー。エルは2Pね」
トントントントントントントントントントン。
「あっ、やっぱりちょっと待って。あたし2Pの場所がいい」
トントントントントントントントントントン。
「アイテム有りにする? 無しにする? ん~、今日は全部有りね」
トントントントントントントントントントン。
「このコイン取り合うやつ、あんまりやったことない。今日これにしよ」
トントントントントントントントントントン。
「エルはキャラ何にする? またマルス? あたしはねえ、え~っと」
トントントントントントントントントントン。
「タンマ。やっぱりあたし1Pがいい」
トントントントントントントントントントン。
「ねえエル、聞いてる?」
トントントントントントントントントントン。
トントントントントントントントントントン。
トントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントン…………
「うがぁーーーーーーっ!!」
「ひぃっ!? パ、パパ、エルがいきなりキレたー!」


◆――――◆


「隣から聞こえてたぞ。昨日は災難だったな」
労ってくれるのは嬉しいけど、それならニーキ姉さんもこっちに来てほしかった。
マスターになだめられた後も「ご、ごめんねエル。あたし悪いことした、かな?」など何かと射美ちゃんが話しかけてきたこともあって、累計トントンは結構な数になったと思う。
「どうしましょう、このままだと本当に最後の手段を使わなきゃいけないかもです」
「最後の手段? エル姉、そんなの用意してたんだ」
メルに頷き返して、みんなに告げた。
「マスター達にお願いするんです――もう私に話しかけないで下さいって」
驚いたり呆れたり、反応は様々だった。
私だって、馬鹿げたことを言ってるって分かってる。
でも、今はこれしかない。
何言ってんだコイツって顔してるコタマ姉さんだって、射美ちゃんと一日でも一緒に生活すればきっと同じことを言うはずだ。
少なくとも事件が解決するまで禁欲、禁マスターしないと、私はトントンし殺されてしまう。
「その最後の手段はさすがに今行使すべきではないでしょう。エル殿はしばらく、他の家に外泊してはどうですか。私の兄様ならば暫く家を空けていますから静かにできますが」
「えっ、マシロ姉さんと……」
「何ですか。ハッキリ言いなさい」
「い、いえいえ何でもないです。今いきなり家を出たら射美ちゃんが責任感じちゃいそうなので、やっぱり今のままで我慢します」
「な~に諦めモードになってんのさ。今日中に解決しちゃえばいいわけでしょ、物売屋とかに頼むなりして」
「コタマ姉、お金出してくれるの?」
「ははっ、んなワケないじゃん」
完全にお手上げだった。
武装神姫らしく戦ってどうにかできるならまだしも、私達がマスターにトントンさせる何かを出しているだなんて、もはや不具合とみていいのかすら分からない。
昨日はメルが「帰ったらディオーネにメールしてみる」と言っていたけど、今ここでトントン事件に巻き込まれてる神姫はディオーネ製だけじゃなく、フロントライン、エレクトロ・コタン、インダストリアル・エデン、そして今は寝込んでいるハナコ姉さんのケモテックと、恐らく神姫であるならば無差別だ。
ディオーネ1社に報告したって、あまり期待はできないだろう。
「メル、昨日送ってくれたメール、返事ありましたか」
「それなんだけどねエル姉。メールそのものは送れたんだけど、でも送信するとどうしても文字化けしちゃって、結局まともなのは送れなかった」
「どういうことですか」
「そのまんまだよ。せっかく長々と書いたのにさ、送信ボタン押した途端に文字化けしちゃうんだ。いろいろ試したけど全然ダメで諦めちゃった」
「文字化け……メル殿、そのメール、貞方殿にもやらせてみましたか」
「ショウ君に? ううん、やってないけど」
それだけ聞くとマシロ姉さんは一人で考えこんでしまった。
こうやってみんなで考えて答えが出るのか、不安になってきた。
もし何も分からなければ、これからずっと私達はトントンされ続けるのだろうか。
朝も昼も夜も寝ても覚めても……気が狂うまで。
トントンされ始めてから5日くらいでこの調子だから、あと一週間も続けばまともでいられる自信はない。
「あれ? そういえば5日前って」
トントンされるようになったキッカケって、何だろう。


◆――――◆


困ったときは物売屋に足を運べばいい、と安直に考えてはみたものの、お金のあるなし以前に寿夫妻は昨日から旅行に出かけているらしかった。
「前々から思ってたんだけどミサキって、あんまり愛されてないよね。鉄子ちゃんが来るまで神姫一人に店番させる店主もおかしいけど、律儀に店番するアンタもどうよ」
「面白そうに言ってるところを悪いけど、私から断ったのだからね。旅行なんて付いて行ったら千早さんに何されたものか分かったものじゃないわ。この前箱根に行った時なんて……」
苦労しているミサキ姉さんをよそに、マスターと姫乃さん、鉄子さんは呑気にお茶をすすっている。
私達にトントンしまくってストレスを与え続けていることなんて全然気付いていない。
マスター達に悪気はないし悪くない。
そう分かっていても、ムッとしてしまって、自己嫌悪に陥ってしまうのだった。
「さっきエルも言っていたが、やはり原因はあの一斉アップデートだろうか。いくら各ブランド間の神姫に互換性があるとはいえ、普通アップデートの情報は各ブランド毎に流れてくるはずだろう。今回はそうじゃなかったようだが」
付け加えるなら、MMSの根本的なアップデートが行われる場合でも、各ブランドにはブランド毎のソフトがあるはずだから、全神姫まとめてアップデート、なんてことは経験したことがない。
「あら、いつアップデートなんてあったの? 最近メンテナンスしてなかったから分からなかったわ」
「ミサキよぉ」
コタマ姉さんがどこからか懐かしいシスター服を取り出して、今着ているレラカムイの服の上から羽織った。
丈が前より低くなった身長に合わせてあったり、頭の耳がヴェールからピョコンと飛び出していたりと新調されている。
何故それをコタマ姉さんが取り出したかと言うと、
「アタシも一応神に仕える身だし、知らねぇ仲じゃねぇんだからよ。辛くなったら相談しろよな。八幸助と千早がメンテしないっつーなら鉄子ちゃんにさせるし、アタシが天誅下してやるからよ、黙ってるとか水臭ぇじゃねーか」
頻繁に動くわけではないからメンテナンスは時々で十分、と言い返すのも面倒なのか、コタマ姉さんを無視したミサキ姉さんは早速パソコンに向かった。
「そんなに大切そうなアップデートなら早く済ませておかないとね」
「待ちなさいミサキ殿。アップデートの前に聞いておきたいのですが、ここ数日、八幸助殿と千早殿に【トントン】されませんでしたか」
「トントン? ……心当たりがないのだけれど、それは八幸助さんや千早さんに何かされるようなことかしら」
「フム――では見ていて下さい」
そう言うとマシロ姉さんは「妹君」と鉄子さんを呼んだ。
するとやはり、鉄子さんはマシロ姉さんにトントンと触れてから「なん?」と返事をする。
「これが【トントン】です」
「これが、って……どれが?」
「今鉄子さんがマシロ姉にトントンってしたじゃん」
メルが鉄子さんがしたように指でミサキ姉さんの頬をつっついてみるも、ミサキ姉さんは首を傾げるだけだった。
「あなたたち何のことを言ってるの? コタマじゃあるまいし、皆で私を困らせたいのかしら」
「ミサキ殿、しつこいようですが確認させて下さい。先程、私が妹君に【トントン】されたところを見ましたか?」
「マシロまで私をからかって……るようには見えないわね。答えは「NO」よ。私にはあなたと鉄子さんが普通に呼びかけ合ったように見えたわ」
「成る程。ではミサキ殿、今からアップデートしてみて下さい。それから――」
「あの、ごめんください」
物売屋がお店だということをすっかり忘れていた。
今はまだ開店中だからお客さんが来て当然だけど、入り口に立つお客さんは随分と小さかった。
いや、小さいというか私――戦乙女型アルトレーネとまったく同じ身長だ。
頭に生えたネコミミを除いて。
「ここにマオチャオ来ませんでしたか。以前ここでお世話になったマオチャオで、ええと、見た目は普通の猫型なんですけど、厄病猫っぽいというか」
出迎えた鉄子さんはアマティ姉さんに対してもトントンした。
「あのバカ猫は見とらんよ。どうしたん、家出でもした?」
「家出かどうかは分かりませんが、5日くらい前から帰ってこないんです。ほむほむは放っておけって言うんですけど、前の日にマオチャオ達とコソコソ連絡とり合ってたから、また何かしでかさないかって心配で」
「当たりだな(マシロ姉さん)」
「当たりだぜ(コタマ姉さん)」
「当たりですね(私)」
「当たりだね(メル)」
「呆れたものだな(ニーキ姉さん)」
「話にぜんぜん付いて行けないんだけど(ミサキ姉さん)」
「ああ……もう既に何かやらかしたんですね(アマティ姉さん)」


◆――――◆


「オマエタチ、表の張り紙を見なかったのにゃ? 神姫センターは今日は臨時休業っつーか、猫が貸しきってます。にゃので出てけ」
この町のマオチャオ達が集まりそうな場所の最有力候補、城尊公園がハズレだったので、まさか閉まっている神姫センターに潜り込んでいないだろうな、と当てずっぽうで訪ねたらこの有り様だった。
それも、ただ場所を占拠しているだけじゃない。
床に大量のクレイドルとパソコンが散らばっていて、マオチャオ達が惰眠を貪っている。
こんがらがったコードの束に絡まったままいびきをかいていたり、クレイドルがシェルターのように改造されていて中が見えないものもある。
パソコンの熱気なのか室内はムアッと暑い。
どのパソコンの冷却ファンもフル稼働しているようで、排気口のすぐ側にクレイドルを置いているマオチャオは寝苦しそうにしていながら、しかし起きようとはしない。
「よくもまあ、毎度毎度これだけの数が集まるもんです。カグラには猫なりのカリスマがあるんでしょうねえ」
「アマティなんでここにいるにゃ! ほむほむのやつぅ~あれだけ足止めしろって念を押したのに、使えない猫にゃ! まあいいにゃ、オマエタチも七次元に遊びに来たのにゃ? 悪いんにゃが、今はまだワガハイ一人しか接続できないんにゃよ」
「待てやコラ。テメェ今何やってんだ? トントン事件と何か関係あんのか」
修道服を着ることで昔を思い出すのか、コタマ姉さんの口調がハーモニーグレイスだった時の威圧的なものに戻ってしまっている。
可愛らしいレラカムイの見てくれと声に全然合っていない。
「トントン? 何の話にゃ」
「白切ったって無駄だぜ、5日前のアップデートに乗じて何かしやがっただろ。アップデートした神姫は全員、オーナーにトントンされるようになったんだからな。正確に言えば【トントンされているように錯覚するようになった】だ。ゲロっちまえよクソ猫、さもなきゃ、ちょいとばかし痛い思いをしちまうことになるぜ」
コタマ姉さんは「ま、どの道シメるけどな」とナチュラルに付け足すくらい絶好調だった。
レラカムイになってキャラが弱……性格がちょっと丸くなった分を取り返さんとばかりに。
「ん~、そう言われてもにゃあ、心当たりがあるよーな、ないよーな」
「ならばコタマの言う通り少々傷めつけてみますか」
「フッ、悪いことは言わないからやめとけにゃ。オマエがいくらこの界隈で最強だったとしても、武装も無しに完全武装のワガハイに勝てるかにゃ?」
「まあ、造作もなく勝ちはしますが――そうですね、武器はあったほうが楽でしょう」
鼻で笑う猫を相手にしても、さすがはマシロ姉さん、いつも通り冷静だった。
あくまでいつも通り、冷静に商品棚に近づいて槍の入った箱を取り上げ、躊躇いなく封を破った。
「な、なにやってんですかマシロ姉さん! 万引きですよ泥棒ですよ犯罪ですって!」
「少々借りるだけです。傷つけるような下手はしませんから心配無用」
「おいマシロ、家の連中が悲しむことはやめろよ、な」
「いざとなれば、ここらのマオチャオが遊んで散らかした、とでも言えば済む話です」
「誰か! 誰でもいいからあのクーフランを止めて!」
「おいそこの猫、さっさと白状しろ! 首だけで尋問されたいのか!」
「く、首だけってなんにゃ、そんなアラレちゃんみたいなことできるかにゃ!」
この後、コタマ姉さんがマシロ姉さんをなだめている間に私とメル、ニーキ姉さんアマティ姉さんでカグラを捕まえて差し出すことで、鉄子さんが悲しむ事態は回避することができた。
さんざん暴れたのだが、眠ったマオチャオ達は誰一人として目を覚ますことはなかった。


◆――――◆


「マオチャオズからは演算のためにコアとCSCを借りてるからにゃ。強制的なスリープモードみたいなもんにゃ」
マシロ姉さんの正面に正座させられたカグラは、さっきまでの威勢のよさはどこへやら、すっかり大人しくなってしまった。
「始めはここら一帯の神姫全員に、気付かないくらい少しだけ処理スペースを借りてただけだったけどにゃ、数が多くても一体一体は微々たるもんだからにゃ、全然足りなかったのにゃ」
「借りるって、どうやったんですか」
「数日前の一斉アップデートはワガハイに協力してもらうための更新にゃ。MMSの規格改正とか言えばそれっぽいかにゃって」
「意味が分かりません。詳しく説明しなさい」
「そ、そう怖い顔するにゃよ……異次元旅行だけじゃなくて、今後他にも大きな演算容量が必要になる時があるかもしれないにゃろ? だからこの町の神姫に、ワガハイが直接アクセスできるように――ま、待つにゃ槍をこっち向けるにゃ! ワガハイの話を最後まで聞くにゃ!」
「早くしゃべらないとバーベキューの串みたいになっちゃいますよ」
「アマティそれでも仲間かにゃ! 猫戦乙女の時に家族がどうのこうの言っときながら薄情なヤツにゃ……言えばいいんにゃろ言えば。ネットにばら撒いたのは『次元転送パッチ』にゃ。今度のはすごいんにゃよー。にゃんと、インストールした神姫は仮想的にゃが、別の次元に飛んでいけるんにゃよ」
「別次元? 飛んだ覚えはないぞ」
自分の体を見回すニーキ姉さん。
私にもそんな覚えはない。
「フッフッフ、聞いて驚くにゃ。実は今、既にオマエタチは別の次元にいるのにゃ。こっちの次元で姿も見えるし声も聞こえるってだけで、オマエタチはもう別次元の住人にゃ。そうしたらこっちの次元とそっちの次元にちょっとだけ違いが出るにゃろ、その違いをワガハイが頂いてるって寸法にゃ。喩えるならそうにゃあ、エクセルってあるにゃろ、表計算ソフト。ワガハイがいるシート1のE6セルの場所が元々アマティがいた場所だとすると、今は別のシート2のE6セルに移動してて、こっちのシート1には関数で呼び出してるって感じにゃ。演算容量を借りるだけならホントはもっと楽な方法もあるんにゃがね、借り物してるわけにゃし、借り賃として別次元への旅にご招待してやってるのにゃ。ワガハイ超サービスフルにゃ」
「テメェそれ……ヤバそうに聞こえるのはアタシだけか?」
「ワガハイの技術を侮ってもらっちゃあ困るにゃあ。ま、関数にエラーが出たら時空の迷子にゃがね――痛っ! ちょっ蹴るにゃ! やめっ、ほんとやめて、ちゃんとアンインストールできるからやめて! よってたかってネコをいじめにゃぎゃあっ!? 弁慶は! 弁慶だけは勘弁にゃ!」


◆――――◆


バカ猫の言う、元の次元に私達を呼び出す関数のひとつが【トントン】だったらしく、修正アップデートという名目のアンインストールが終わった後は、マスターも射美ちゃんも普通に話しかけてくれるようになった。
「ふうん、そんなことがなあ」
「ふうんってマスター、本当に大変だったんですからね。一日中トントンされるのって考えてみるより拷問に近いですよ」
「ごめんねエル……あたし、うるさかったよね」
「あー……いえ、えっとですね、射美ちゃん」
辟易はしたけど、目に涙をにじませる射美ちゃんを見て責める気にはなれなかった。
この子はたぶん、愛される天才なんだろうなって思う。
マスターと姫乃さんが溺愛する気持ちがよく分かる。
「いっぱいトントンしてくれるってことは、それだけ私に興味を持ってくれてるってことですから、嬉しかったですよ。……後から考えて、ですけど」
「ほんと!? じゃあこれからも沢山トントンするね!」
「やめてください。マジで」
「結局そのマオチャオの目的って何だったんだ。そこまで大掛かりなことしといて」
マッドサイエンティストの言うことはよく分からなかった。
別次元にこの次元に酷似した世界を見つけたとか、リアルなイオンちゃんを探すとか言ってたけど、そんなことより神姫センターの後片付けに追われて大変だったのだ。
どんな手を使ったのか神姫センターを休業させて、中に機材とマオチャオズを持ち込んで、好き勝手に電気とネットを使って、散らかして――私達には何の責任もないけど、半泣きで土下座するアマティ姉さんにお願いされては置いていけるはずもなく、渋々後片付けを手伝った。
役立たずのマオチャオズよりコタマ姉さんとマシロ姉さんのほうが働いた、と言えば、どれだけ大変だったかが伝わると思う。
「さっきのアップデートでもう解決したってことでいいんだよな。ここら一帯の神姫はもう正常に戻ったってことで」
「はい。これで綺麗サッパリ元通りです。アンインストールも問題なさそうですし、神姫はみんな元通りです」
「アンインストールが漏れた神姫とかいないよなあ」
「大丈夫ですよマスター。今時パソコンに接続しない神姫はいないでしょうから」
「だよなぁ」
「ですよぅ」
今日の昼間、普段パソコンに接続しない神姫と会っていたことを、私はすっかり忘れてしまっていた。
翌日、物売屋ではミサキ姉さんが千早さんにトントンされすぎて、これまで積み重ねてきた鬱憤をついに爆発させるのだけれど、それはまた別の話。





























シェルノサージュとは、イオンちゃんという女の子のおっぱいをトントンするゲームである。
しかし、あんまりやりすぎると……







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