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ウサギのナミダ
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遠征からの帰宅途中だった久住菜々子がその名前を知ったのは、ほんの些細な偶然からだった。
何気無くコンビニに寄り、何気無くアーンヴァル型神姫が大きく写っている雑誌が眼に映り、何気無く立ち読みし、何気無くその名前を知った。否、偶然、何気無くと言ったが、『異邦人(エトランゼ)』として強者を求め遠征を繰り返した事で養われてきた嗅覚が、それとも自身が誇る女のカンが、凄腕の神姫プレイヤーを探し当てる事は、例え久住菜々子本人が意識したことで無くても、必然であり意図的な物であるのかもしれない。それが偶然か、必然か、少なくとも今この場では問題では無いのは確かで、問題は、その名前と、その名前に付けられた由来である。
ストラーフMk2型神姫を操る中学三年生の神姫プレイヤー、黒野白太…その異名は『刃毀れ(ソードブレイカー)』。
実力はセカンドリーグでの上の下、神姫そのものに際立った武装や戦法は無いのだが、最大の特徴はマスター自身の言動。黒野白太は神姫バトルは勝利こそが全てであると公式の大会で発言しており、勝利以外を目的としている神姫プレイヤーに批難を浴びせている。曰く、負けてもいい戦いなんてしている奴は負け犬。曰く、絆とか努力とか上から目線で語る前に先ず勝利して他人の上に立て。そして勝利の為にと対戦相手であるマスターや神姫を嘲笑い挑発し戦意を奪う事から付けられた異名が『刃毀れ』。
容赦も無く自重もしないその徹底っぷりから多くの神姫プレイヤーに嫌われているが、一方で黒野白太の言動は正しいと言う神姫プレイヤーも居る。記事を読み切った久住菜々子が黒野白太に抱いた感情は前者、勝利こそが全てという信条は間違っているという、紛糾だった。彼女には勝利こそが全てであると信じていた時期があり、今でもその時の名残である勝つ事だけを目的とした戦法に頼ってしまう時もある。それでも尚、彼女が黒野白太の信条を否定するのは、過去に様々な出会いと戦いをし、確固たる思い出がその胸に秘められているからに他ならない。
「どうするの?菜々子。」
右肩に座ってマスターと同然に記事を読んでいたのだろう、彼女の神姫であるイーダ型神姫ミスティに声を掛けられる。ミスティの言葉には多分な意味合いが含まれている、それを理解出来ないほど久住菜々子は浅い付き合いをしているつもりはなかった。
つまり、勝利が全てだと考えていた頃の貴方と似たような道を歩んでいる子が居るけど、貴方はどうするの? と。
久住菜々子の答えは決まっていた、黒野白太が通っている神姫センターが今居る場所から近い場所にあるという事実も、彼女の決意を後押しした。
「今から『刃毀れ』に、黒野白太に会って戦いを申し込むわ。」
「時間は大丈夫なの?お婆様を心配させて、三冬さんに怒られるのは私なんだから、気を使ってよ。」
「大丈夫よ、ミスティ。その時は私も一緒に怒られてあげるから。」
「怒られるのが嫌なのよ、私は。」
等と文句を垂らしながらもその表情は意気揚々と、さらに戦える事に昂ぶっているのか、それともマスターの成長に喜んでいるのか。雑誌をカウンターに出し、コンビニ店員の営業スマイルを背に受けながらも久住菜々子はコンビニから出て黒野白太が通う神姫センターへと向かった。
…。
…。
…。
「やぁ、初めまして。僕の事は親しみを込めて店長と呼んでくれ給え。」
「初めまして。貴方がここの店長さんなんですか?」
「いや、違うけど?」
「何だか遣り辛い人ね。」
「こら、ミスティ、間違っても大きな声でそんな事を言っちゃ駄目よ。」
「まぁ僕は経営とかそういう任されているからさ。だから僕の事は店長か、店長さんか、店長様と呼んでよ。」
「…じゃあ、店長さんで。」
黒野白太が通う神姫センターの品揃えを眺めていた久住菜々子とミスティに声を掛けたのは瓶底眼鏡を掛けた優男である。杉の様にひょろっとした胴体に、腕や足もまた木の枝のように細く、身長は高いが、髭も無く皺も無く風格も無いので年齢は今一判別し辛い。そんな優男に店長と呼ぶ事を強要され、彼女達は名札に書かれている名前で呼ぶべきかどうか悩んだが、面倒な事になりそうなので店長と呼ぶ事にした。
「さてと、君は初めて見る顔だ。おっと、何でそんな事が分かるのって顔をしているね。僕は御客さんの顔を全て覚える事が出来る。だから分かる。」
「あの、そんな事は少しも考えていないんですけど…。」
「菜々子、今直ぐにでもこ離れるべきよ。この男、気味が悪いわ。」
「でも神姫始めたばかりの初心者って訳でも無さそうだ。そんな君が日常並みに有り触れた神姫センターに何か用かな?」
「神姫バトルを申し込みに来たんです。店長さん、『刃毀れ』の黒野白太君は今センターに居ますか?」
名前を出してみると店長は納得が言ったかのように相槌を打つ。
「あ、成程。そっちか。白太君なら今日はまだ着てないよ。いつもなら今頃にはもう来ているんだけどね。」
「そうですか。分かりました。」
「このまま帰っちゃうの?もしそうなら白太君が来た時に今度君が来る時間とか伝えておくけど。」
「その必要はありません。しばらくここで戦って待ってみようと思いますから。ええと、それでバトルスペースは…。」
「二階だよ。それにしても君は変わっているね。白太君と戦いたいからってわざわざ神姫センターにまで来るなんて。」
「…それ以外の目的もありますから。店長さんは『異邦人』と言う異名はご存じじゃないのですか?」
「いやぁ、神姫センターの店長をやっているんだけど、神姫バトルは空っきしでね。白太君はその辺り詳しいと思うけど。」
「そうですか。じゃあ黒野君が来たら『異邦人』が待っているって伝えて下さい。」
「承ったよ。まぁ、白太君が遅れているのは、多分、今日は日直だからとかそういう理由だろうから、もう少しで来ると思うよ。」
店長の言う通り二階へと登った久住菜々子は先ず周囲をぐるっと見回して、神姫バトルをしている人の顔触れや、人数などを数えてみる。
彼女がかつて通っていた『ポーラスター』に比べ専門的である所為かバトルロンドの筺体は多いが利用者の数があまり多くは無い。利用者達の顔触れも興奮に満ちたそれとは程遠い、何処か冷めていて、極端な言い方だが機械的に神姫バトルを繰り広げているようにも見える。モニターに映る戦闘中の神姫達も、装備はてんでバラバラで、戦法もまったくチグハグで、戦っていると言うよりは削り合っているという表現が正しいだろう。
見ただけでそこまで言ってしまうのは失礼かもしれないと筺体の指定席に座った久住菜々子であったが、その希望は呆気無くも崩れ去った。数人と戦ってみて確信する、ここの利用者達は、彼ら彼女らが操る神姫も含め、バトルに勝とうとする気概が無いのだ。避けられたかもしれない攻撃を避けようとせず防ぎ、攻めれたかもしれない好機に攻めようとせず防ぐ、ただただ無難で安全な策を取り続けている。そして自分達と彼女達の実力差を知るや否やサレンダーボタンを押して「ありがとうございました。」と礼を言ってそそくさと去ってしまう。
そもそも彼等は自分よりも強い相手と戦おうとしないのか、久住菜々子とミスティの強さが知れ渡るや否や、誰も彼女達の挑戦を受けなくなった。
「菜々子、帰りましょう。こんなところで戦っていても時間の無駄だわ。」
ミスティの言葉は厳しかったが、それは久住菜々子も口に出して言わないだけで心の中では同感していた。
『異邦人』の名が知れ渡る前に彼女は今まで全国の神姫センターやゲームセンターを巡って様々な神姫プレイヤー達を見てきた。和気藹々としている場所もあった、キノコ派とタケノコ派で争っていた場所もあった、違法な賭博行為と繋がっている場所もあった。だが今此処に居る場所はそのどれとも違う、ここまで無気力で惰性で怠惰な雰囲気が支配する神姫センターと神姫プレイヤー達は初めて見た。ここにいちゃいけないと久住菜々子の中の何かが嘯き、しかしそれが何なのかに困惑している中、彼女に話し掛けてきた男がいた。
「あんた、『異邦人』のミスティとそのマスターだな。」
「そうですけど…。」
「『刃毀れ』と戦うのは止めて早く帰った方がいい。これは注意でも忠告でも無い、警告だ。」
「警告だなんて、そんな大袈裟な…。」
「大袈裟じゃない。あいつには他人を不幸にする才能みたいなものがある。ここを在り様を見れば分かるだろう。」
男の真剣身を帯びた語り口調と、提示され彼女自身納得してしまった事実に久住菜々子は黙ってしまう。
他人を不幸にする才能なんてあるはずがない、それは自分の不幸を他人の所為にしてしまうような弱い心が生み出した幻想に過ぎない。だが此処に居る神姫プレイヤーとその神姫達の現状を知った今では、その決意すらも揺らぎ、その存在を疑ってしまっている。全ては黒野白太の所為なのか? だとしたら男が言う通り黒野白太には他人を不幸にする才能と言うものがあるのか? 久住菜々子の困惑を悟った男はその困惑に答えを、自身でも与り知る事の出来ない答えに似た絶望で、返答する。
「ここにいる皆がそう思っている。黒野白太には他人を不幸にする才能がある。だから自分達は悪くない。それで安心する。」
「そんなの、そんなの責任の転嫁もいいところだわ。黒野君が何かしたわけでもないのでしょう。」
「あぁ、あいつは普通に神姫バトルをして勝っただけだ。でもな、俺達がそんな考え方をするようになったのは、あいつが来てからだぜ?」
黒野白太個人の才能とやらが悪かったのか、それとも黒野白太を取り巻く環境が悪かったのか、その答えは等しく『分からない』。しかしそのどちらであっても『黒野白太が関わった神姫プレイヤーは情熱を失う』という確かな事実は残る。だから久住菜々子も自分達と同じようになってしまうのではないか、それが男の怖れる事であり警告の意味でもある。
「俺はあんたのバトルを見て別の場所で神姫バトルをする決心が付いた。あんたに、俺達と同じようになって欲しくはない。」
「心配のし過ぎだし馬鹿にし過ぎよ。関わったら不幸になるなんてどこぞの名探偵でもあるまいし。」
「そのどこぞの名探偵みたいな奴だとしたら?」
男は久住菜々子と黒野白太を会わせたくないが為にあれこれと話し、久住菜々子は生来の負けん気を発揮してそれは無いと否定する。話は平行線を歩み始めた。もしかしれば一時間は続いたかもしれない平行線の果ては、それから僅か五分後、最悪の事態を以てして切り落とされた。
「あの~、ごめんなさ~い。」
何故か妙に間延びされた声と共に真っ白なTシャツの上に真っ黒なジャンパーを羽織った少年が二人の白熱し始めた会話に割り込んで来た。会話に割り込まれ、自分よりも少し小さな少年に対し僅かな反感を覚えた久住菜々子であったが、対照的に男は目を見開き両拳を強く握っている。蛇に睨まれた蛙の様な男の反応が語り掛ける意味に彼女は自分達の会話に割り込んで来た少年が何者であるのかを理解する。
「初めまして、『刃毀れ』の黒野白太です。…店長に急げって言われたから会話に割り込んじゃったけど、もしかして御邪魔でしたか?」
「邪魔なんかじゃないわ。丁度、貴方について聞かされていたところだから。初めまして、『異邦人』のマスター、久住菜々子です。」
「初めまして。黒野白太の神姫であるイシュタルだ。」
「初めまして、菜々子の神姫を努めておりますミスティですわ。よろしく。」
この少年…『想像したよりも普通っぽい顔をしている』と思ったのが久住菜々子が黒野白太に抱いた第一印象だった。
男が口を酸っぱくして警告なんてものをするものだから嫌でも目につくような容姿を連想したものだが、そういったものは全く無かった。彼の右肩に乗るストラーフ型神姫、中身はストラーフMk2型らしいが、イシュタルも無改造の市販品である。
いや、神姫がわざわざマスターの肩に乗りたがるくらいだから、そこには確かな絆があると言っていいだろう。初対面の人に御辞儀こそしないがきちんと挨拶する事もプラスに働いて久住菜々子は黒野白太に対し好感を持っていた。だがミスティにとっては人畜無害な人物に見えるらしく、マスターは放っておいて、その神姫に挑発的な視線を向けている。それにイシュタルはストラーフMk2型らしく応じる事無く受け止めてミスティを測る様な視線を以てして返答している、と男が口を開いた。
「黒野白太! 『異邦人』のマスターにも何かしたら承知しないからな!」
「何かって…僕は貴方達に何かした覚えは無いんですけど…。」
「嘘を吐くな、お前には他人を不幸にする事が大好きなんだろう ! そんな奴が何もしていない筈が無い!」
「…その言い方は幾らなんでも酷く無いですか ? それじゃまるで僕が鬼畜みたいじゃないですか。」
「あぁ、そうだ。お前は他人の足を引っ張る「いい加減にして。」っ!?」
「貴方はさっきから黒野君の事を悪く言っているけど、私は少しも悪いとは思えない。悪いのは貴方の方よ。」
「悪いって…それはあんたの為を思って…。」
「私の為だなんて言い訳はしないで。みっともないと思わないの!?」
「…ぐぅっ…警告はしたからな!」
久住菜々子からの威嚇する鷹の様な眼差しに堪え切れなくなった男はその場からすたこらと逃げ出した。周囲の神姫プレイヤーの「言わんこっちゃない。」と冷めた目を浴びつつ去っていく後ろ姿を見届けていると黒野白太に御辞儀をされた。
「ありがとうございました。」
「気にしなくていいわ。私は私の思っていた事を吐き出しただけ。でも、驚かせちゃったかな。」
「僕はいつも相手が去ってくれるのを待つだけでしたから。…その、人に助けられたのは初めてですから、こんな事しか言えないのですけど、ありがとうございました。」
「だから気にしなくていいって。むしろ貴方はもっと自信を持つべきだわ。そんなに腰が低いと侮られるわよ。」
「いや、でも、ほら、相手が年上なのに大きく出るのは、なんだか失礼じゃないですか。」
「それは立派な心構えだけれども、強く出る時も大事。だから、ほら、私は貴方を白太君って呼ぶから、貴方もその敬語を辞める!」
「え、えぇえっ!?」
「…何て言うか、御免なさいね、イシュタル。貴方のマスター、菜々子の好みに引っ掛かったみたい。」
「君が謝る必要は無い。私のマスターは一人っ子だったから何だかんだで喜んでる。」
何だかんだそうだこうだであれやこれやと久住菜々子と黒野白太は話が弾み、陰湿なバトルスペースで一輪の会話の花が咲く。敬語について彼女は押し通し続けたが彼は最後まで折れる事が無かったので神姫バトルをして勝った方の言う事を聞くと言う事になった。試合方法は互いに損傷が出ないヴァーチャルでステージは廃墟、三回勝負で先に二回勝った方が勝者である。
『ミスティ&久住菜々子 VS イシュタル&黒野白太 First Battle Get Ready…Go!』
…。
…。
…。
「久住さん。僕達、会った事がありませんか?」
「え? …それ、いつの時代のナンパ?」
「それもありますが僕は貴女と会った事があるような気がするんです。何時だったかなぁ。イシュタル、何か覚えてない ? 」
「今はバトルに集中しろマスター。でないと無様を晒す事になるぞ。」
「それにしても貴方は余裕がありますわ、ね ! 」
独自のカスタマイズによりストラーフのそれと同じく独立して動くエアロチャクラムの一撃は肘から手の甲までに取り付けられたシールドによって防がれる。衝撃は殺し切れず空中から地面に叩きつけられるように殴り飛ばされたイシュタルであったが直ぐ様、着地出来るよう姿勢を取り戻す。着地の瞬間に両手両足と自身の副腕チーグルを折り曲げて衝撃を吸収し次の瞬間には別の方向に跳び上がる事でアサルトカービンによる銃弾の追撃から逃げ切った。
逃走と同時に牽制の発砲、ミスティの動きを止めた隙に両足とチーグルで張り付いていた壁を押し出して急接近、短剣のコートと剣のコーシカで斬りかかる。ミスティは短剣の突撃を身を捩る事で回避し、剣の斬撃を太刀のエアロヴァジュラで受け流すとそのまま踏み込んで肘鉄を喰らわせた。息を詰まらせ体勢を崩されるが、畳み掛けるように迫り来るエアロヴァジュラが届く前にイシュタルのチーグルが再び壁を押し出してその場からの離脱をさせた。
あえて追撃はせず、今の攻防で判明した事実を突き付けるように、ミスティは太刀の切っ先をイシュタルに向けて挑発的な笑みを見せた。
「もしかしてもう疲れたので? まだまだバトルはこれからですわよ? イシュタル。」
「…あぁ、勿論だ。」
型は違うと言うのに戦い方は酷似していた、双方とも、副腕を巧みに操って壁と言う壁を跳び回って観客の眼を回すようなバトルを繰り広げている。マスターと型と装備の違い以外に異なる点があるとすれば、装備の違いから来る戦法の違いだろうか。
ミスティはイーダ型の武装に脚部を初代ストラーフ型のサバーカと取り換え動きは鈍いがトリッキーな動作でクモのようにイシュタルを圧倒する。イシュタルはフブキ型の武装にリアパーツを初代ストラーフ型のチーグルを取り付けて直線的だが急加速と急停止を繰り返しバッタのようにミスティを翻弄する。
剣術は互角、素早さではイシュタルが上回っているが、防御力ではミスティが上だ、殴り合いになればミスティに軍配が上がるだろう。その為に黒野白太はイシュタルに真正面からの攻撃は止めさせて自身が上回る速度でミスティを惑わせ奇襲を仕掛けるように指示を出した。だがその戦法は久住菜々子とミスティには通じない。
「ミスティ、右方向斜め上からの攻撃!」
久住菜々子が誇る女のカンによる無茶振り戦法…諸事情により今は攻撃する術としては使えないが、相手の動きを察知する術としての転用は可能であった。彼女は相手の動きを予測し教えるだけ、具体的な防御策は指示しないが、相手を動きを知る知らないでは迎撃に転じる速度に数倍の差が出る。久住菜々子とミスティに奇襲の類は通じない、女のカンによる効果は防御だけではなく、黒野白太とイシュタルにも影響を与えていた。
「何なんですか、何でこっちの動きが分かるんですか! 久住さんはエスパーですか!」
例えその理由は不可解であっても自分達の動きが対戦相手には丸分かりいう事実を知れば攻める手に躊躇が生まれる。この手を打っても余計に状況は悪くなるだけではないか、この手を打っても簡単に防がれるのではないか、その思念はマスターによっては最悪のマイナスだ。それを打破しようと考えれば考えるほど深みへと嵌り結果として神姫への指示が疎かになり神姫はバトルステージを孤独で戦う事になる。実力が伯仲していた中でマスターという支えを失ったイシュタルが不利へ不利へと追い込まれていくのは当然と言えるだろう。
「ぐぁっ…。」
「イシュタル!」
エアロチャクラムの爪がイシュタルの腹部を穿ち、止めを刺さんとミスティは下段に構えていたエアロヴァジュラを振り上げる。先程までと同様にチーグルで逃げようとするイシュタルであったが、自分の副腕はミスティの副腕に掴まれて逃げ出す事は叶わなかった。それでも諦めまいと両腕のシールドで頭部と胸を守るがエアロバジュラの袈裟切りに右腕を切断され防御が解かれた胸部に太刀の切っ先が突き刺さる。
勝負が決した瞬間からほんの少し遅れてイシュタルのポリゴンは砂の城のように崩れ去りヴァーチャル世界に飲み込まれた。バトルステージに一体だけ残ったミスティの誇らしげな表情に、ジャッジマシンは祝福のコールを報せた。
『First Battle Winner ミスティ&久住菜々子!』
第二試合までのインターバル、神姫をセットとしてスタートボタンを押せば直ぐに始められるのだが、久住菜々子は先に黒野白太に話し掛けた。
「白太君。神姫バトルは楽しい?」
「え? …はい、楽しいですよ。」
「でもそれは、神姫バトルがじゃなくて、神姫バトルで勝つのが楽しいんじゃないかしら。」
「そうですけど…何でそんな事を聞くんですか。勝ったら楽しくて負けたら悔しい。それが当り前ですよね。」
当たり前とまで言い切る黒野白太の眼と言葉には一切の迷いも無く、むしろ久住菜々子の言葉に疑問を抱く程だった。
「久住さん、もしかして貴女は勝ったら僕に勝利の為に戦う事は止めろと言うつもりですか?」
「そんな事をしても意味は無い事くらい分かってる。他人に変えられるんじゃなくて自分から変わらなくちゃ意味が無い。」
「じゃあ僕に説教をしに来たんですか。」
「そうよ。白太君、貴方は間違っている。私達は貴女にそれを教える為に来たの。」
「なら、それは無意味な努力ですよ。無駄な足労、御苦労様です。 」
黒野白太は、言葉遣いこそ丁寧だがその言葉は明らかに久住菜々子の行動を否定し感情を逆撫でする様な意味合いが含まれている。だけどその言葉の裏に何処かの寂しさを感じ、彼女はその他人を嘲笑する表情の奥底に、何処かで見た事があるような不思議な感覚に襲われる。デジャヴュは記憶の中で眠る、久住菜々子にとって忌わしくも忘れ難い過去を刺激し、連想させ、現在の今この場に転移される。
「(あぁ、そうか。)」
久住菜々子は理解する、自分も勝利こそが全てだと考えていた時期があり、その時は意味が分からず困惑する事はあっても他人を否定する言動はしなかった。
その理由(違い)はきっと誰にも出会わなかったから。
目の前の少年は神姫を与えてくれた祖母や神姫バトルの楽しさを教えてくれた『ポーラスター』の仲間達に出会う事がなかった自分の姿だ。両親を失った悲しみを引き摺ったまま成長し段々と厳しくなる首輪(過去)に耐え切れず他人にそれを撒き散らす事でしか自分と言うものを保てない。誰も愛せず誰も敬わず誰も憧れず誰も信じず独り静かに戦い続け孤独であり孤高であったからこそ黒野白太は平気で見下すのだ。
「…白太君、貴方は、寂しいのね。」
彼女の言葉に黒野白太の傍に居たイシュタルが驚いた。口にこそ出さなかったが先程までの冷静な佇まいは崩れ眼を離せないといった様子で食い入るように久住菜々子を見つめている。
それに答える形で、久住菜々子は再び口を開き、自分が感じ取った黒野白太が勝利に拘る理由を、彼が何を望んでいるのかを宣言する。
「貴方は本当は気付いている。勝利以外にも楽しみはあると言う事に。それでも貴方がそれを否定するのは…皆(勝利以外にも楽しみはあると言う人達)に構って欲しかったから。本当は愛していた。敬っていた。憧れていた。信じていた。でもどうしたら愛してもらえるか、敬ってもらえるか、憧れてもらえるか、信じてもらえるかが分からなかった。だから否定した。皆に敵対する悪役を演じる事で、どんなに憎まれても、蔑まれても、疎まれても、裏切られても、それはきっと全て好意の裏返しだと貴方は思っていた。でも現実が違った。貴方がばら撒いた好意(悪意)は何一つ実る事も帰ってくる事も無かった。貴方と戦った人達は諦めて、絶望し、無気力になった。それを知っていて尚も貴方が好意をばら撒くのを止めないのは、今でも諦めていないから。いつかきっと願いは叶うのだと、求めて止まないから。」
「三十点です。一年前の模範解答ですよ、それ。」
だが久住菜々子の答えに対し黒野白太は全否定をする。
「一年前…?」
「ええ。一年前まではそれで合っていたのですが…今は違います。もう僕は諦めてますよ。」
「じゃあ何で…。」
「それを答えるのは僕が貴女の言う事を聞く代わり、というのはどうでしょう?」
平然として黒野白太から提案を突きつけられて久住菜々子は息を詰まらせる。
一年前に何があったのかを知りたいのが正直な感想であったが、この条件を呑み込んでしまえば戦いの主導権は向こうに握られてしまうだろう。眼の前に堂々と置かれた罠に懊悩する久住菜々子の背中を、黒野白太の一言が押し出した。
「あ、そうそう。これはバトルには関係無い話でしょうけど。バトルが始まる前に僕は貴方に会った事があると言いましたね。」
「ええ、それが何か?」
「思い出しました。やっぱり僕達は会った事がありません。でも僕は貴女の事を聞かされたんです。僕によく似ていると、ある女性から。」
「………まさか。」
自分と同じようにあっちこっちを放浪していて、自分について詳しい、女性、久住菜々子が思い当たる人物は一人しかいない。初めは有り得ないと思った、だがよくよく考えれば、いや、初めから考えるまでも無く黒野白太とあの人が出会うのは十分に有り得る出来事だったのだ。『勝利こそが全て』と言って久住菜々子を裏切ったた女性が『勝利こそが全て』と公言する黒野白太に接触を仕掛けるのは何の不思議も無い事なのだ。
自分が会いに行こうと思うのであれば、あの人も会いに行こうと思うに決まっている、何故そんな事にも気付けなかったのかと久住菜々子は自分自身への苛立ちが募る。その女性こそが久住菜々子の愛している人であり敬っている人であり憧れている人であり信じている人であり裏切られた人なのだから―――!
「ええ。桐島あおいさんとその神姫マグダレーナ…それとも『狂乱の聖女』と言った方がいいですか?」
「…あの人は、お姉様は、どこに行くと言っていましたか?」
「申し訳ありませんけどそれは知りません。ある事を要求されてそれを断ったらすぐに何処かへ行ってしまいました。」
「何を要求されたの?」
「それも僕が貴女の言う事を聞く代わりというのはどうでしょう? 貴女が勝ったら僕の事も含めて教えます。」
「分かった。じゃあ私の要求は『白太君は私の質問に対して嘘偽り無く答える事』。これでいいわ。」
「疑り深いですねぇ。まぁ、いいんですけど。」
「白太君は?」
「次の試合で僕が勝てたら考えます。」
「…勝てたら、ね。」
久住菜々子は考える事を止めた、ただ次の試合、勝つ事だけを確信した。久住菜々子は耳元のワイヤレスヘッドセットをオンにするとマイクに悪魔との契約の言葉を囁き掛ける。
「ミスティ、リアルモード起動。入力コード“icedoll”、タイプ・デビル。」
かつて久住菜々子は黒野白太と同じく勝利こそが全てであると考え容赦無く、迷い無く、相手を破壊に追い込むスタイルを編み出した。今でもその名残はあり強敵や傍若無人な敵に対し確実に勝利する為に使用する、彼女はこれを『本身を抜く』と表現している。
次のバトルで使用するのは正にそれであり久住菜々子とミスティは黒野白太とイシュタルを絶対的な、斃すべき敵として認識することを意味している。全ては答えを得る為に、黒野白太に何があったかを、そして桐島あおいと彼が何を話したかを知って手掛かりを一つでも集める為に。
『Second Battle Get Ready…Go!』
次は、勝つ。
…。
…。
…。
廃墟をうろつきながらもイシュタルは瓦礫を探していた。一回戦目の敗北の要因となったものの一つは自身のパワー不足だ、それを補う為に礫として利用出来る瓦礫を探しているのである。勿論、瓦礫はミスティにも利用される可能性はあるが、多少は賭けに出るしかない、リスクの無い作戦など有る訳が無いのだ。
きょろきょろと辺りを見渡すイシュタルの頭上からミスティは音も無く跳びかかってそのエアロチャクラムで引き裂かんとし、しかしその奇襲は避けられた。着地したミスティはそのまま急接近、ハンドガンの牽制を無視し完全な人形のような無表情と共にエアロチャクラムがイシュタルを押し倒した。コートとコーシカで迎撃するがエアロヴァジュラの一閃で彼方へと弾き飛ばされてしまいハンドガンもバラバラに切り崩された。
相手に武器はもう無い事すらも気にせずミスティは無表情のままイシュタルの武装を剥がしていく。先程までとは全く別人と化したミスティにイシュタルは恐怖の声こそ上げないが困惑し、されるがままであった。あったが。
「…え?」
「……あ。悪いな、つい。」
つい、君のコアを壊してしまった。
ミスティの胸部から背中を食い破っているイシュタルの手が、その言葉の先を悠々と物語っている。一番初めに気付いた黒野白太は「あぁ~。」と悔しそうな声を出し次にミスティと久住菜々子がほぼ同時に驚愕して最後にイシュタルが言葉を発した。開始から四十秒、ちょうど悪魔が好むと言われる数字でバトルは終了した。
「白太君…貴方、今、何をしたの!?」
「僕は何もしていないんですけど…むしろそっちが仕掛けてきたからイシュタルの素が出ちゃったわけで。」
「マスター、ちゃんと説明しよう。私もこんな事になるとは思わなくて驚いているのだから。」
「まさかイシュタルにも私達と同じように本気を隠していたの?」
「本気と言うか…むしろあれは素というか…物凄く簡単に言いますと、あれがイシュタルの普通です。ぶっちゃけイシュタルは僕が居ない方が強いんです。」
「…ごめん、訳が分からない。」
「そのままの意味ですよ。イシュタルは壁は走れますし素手で弾丸掴めますしエストリル型を追い抜けます。チート神姫なんです、はい。」
「そんなの違法改造しない限り、いえ、違法改造しても無理なんじゃ…。」
「残念がらイシュタルはちゃんとした正規品です。これは店長に証言貰ってます。で、普段は僕は指示を出す事でイシュタルの行動を抑えているんです。」
「しかしながら君達の奇襲が余りにも見事だったので、つい、避けてしまい、つい、仕留めてしまった。誠に申し訳ない。」
土下座するイシュタルは目に入らず、久住菜々子とミスティには開いた口が塞がらなかった。とは言っても相手に、つい、で本身を抜いた自分達の奇襲を避けられ、つい、で仕留められた、そんな事実を受け容れろと言う方がどうかしているだろう。
「な、そ、それなら、初めから本気で掛って来なさい!」
「…それ、僕にマスターとして働くなって言ってる様なもんですよ。流石に僕でも神姫頼りの勝利なんてしたくありません。」
「うわぁ…そうか…そういうことになるわね…。」
「いやぁもう別に気にしてないんですけどね。僕が指示を出すと八年間戦ってようやくセカンドリーグなのに単身だとファーストリーグの連中相手に無双していたり…。」
マスターとして神姫をサポートしようと働けば働くほど神姫には負担になる、これ程、マスターとして屈辱的な事があるだろうか。何と言うか、久住菜々子は、黒野白太に対し同情の他に憐れみすらも感じるようになってきた。
「と、いうわけで、この試合は僕達の勝ちで、次が最終戦ですよ!」
ぐだぐだになり掛けた空気を黒野白太は無理矢理にでも立ち上げつつ、さりげなく先程の試合結果を自分達の勝利だと宣言する。
と言うか、あんなのを見せられて、抗議する気すら出なかった、そっとしておいた方が無難だと理解していた。
「でも、さっきのは色々な意味で反則勝ちなんで、僕が桐島あおいに何を要求されたか教えますよ。何て事はありません、仲間になれって言われただけです。」
「仲間に… ?」
「ええ。信条以前に僕は自分の愛弟子に…貴方の事ですね、似ているから、誘われたんです。」
「何で断ったの? 貴方にとってお姉様は魅力的な人だったでしょう。」
「今更、特別、何かしようとは思わなかったからですよ。一年前のあの日から僕にはもう勝利以外どうでもよかった。だから蹴ったんです。」
また一年前。
「これ以上はバトルに勝って聞くべきかな。」
「いや、いいです。正直な話、僕にとってはどーでもいい思い出話ですし、ついでに話しますよ。」
一勝するや否や掌を返して自分の過去を話し始める黒野白太。
「信じていた人に裏切られたんです。その人は僕にもう無理する必要は無いって言ってくれた人でした。でも裏切りました。」
「(やっぱり、同じだわ。)」
黒野白太の話に久住菜々子は再びデジャヴュを感じた。いや、これは既視感なんてものではない、そのまま自分の歩んできた人生とそっくりではないかと思い始めた。深い絶望の中に居て何も見えない闇の中でやっと信じられる人を見つけてその人に裏切られた。久住菜々子にとって黒野白太はまるで自分が写る鏡の向こう側に居る様な少年であった。
だがその先にまだ続きがあった、鏡の向こうに写るのは自分自身の姿ではなく、不快洞穴だった。
「だからもう諦めました。」
「諦めるって、何を?」
「幸せになる事をですよ。」
淡々と言った。
「決めたんです。僕には他人を不幸にする才能がある。なら、それでいいじゃないって。他人を不幸にする人間でもいいじゃないって僕は自分を許したんです。」
「そんなの…そんなの自己満足じゃない。自分でそう思っているのなら余計に頑張るべきじゃないの。」
「頑張った結果が今なんですよ。勝利しても勝利しても現実は常に裏目に出る。黒は白に白は黒にね。黒野白太なだけに。ここ、笑うところですよ?」
「笑えない。そもそも全然面白くない。」
「勝っても勝っても物事は全然良くならない…思い出したんです。勝利って空しくて寂しくて詰まらなくて不幸なものだって。」
「それなら何でまだ勝利を求めるの。」
「僕には元から勝利以外何も無かったからですよ。僕は裏切られた時も勝利する事だけを考えていた。そして勝った。あの人は幸せを夢見た僕を裏切り、僕も幸せを夢見た僕を裏切った。どっちが先に裏切ったのかは分かりませんけど。」
「白太君はそれで辛く無いの。勝利より大事な物があるって分かっているのなら何でそれを求めないのないの。」
「僕は勝ちたいだけの武装紳士です。僕に勝利よりも大事なものなんて在り得ない。それ以外を求めるのは間違っている。」
空しくても寂しくても詰まらなくても不幸でも勝利が欲しい。どんなに神姫が強くても自分が足手纏いでも相手が強くても弱くても手加減していてもされていても勝利が欲しい。勝利し続けても現実が自分を裏切るけれど勝利が欲しい。
――――何と言う醜悪。
久住菜々子はつい先程まで自分の過去と黒野白太の現在を重ねていた事に激しい嘔吐感と生理的な嫌悪感を覚え始めていた。少なくとも久住菜々子はアイスドールと呼ばれていた時でさえ勝利する事は楽しい事であると信じて戦っていた。今では勝利以外の楽しみがあると知り勝利が全てではないと言い切る強さを身に付ける事が出来た。
だが黒野白太は勝利以外に楽しみがあると知っておきながら勝利以外を諦め勝利だけを求めるようになった。それはもう勝利に取り憑かれていると言ってもいい、何を失っても構わないと言える死んだ人間が導き出す考え方だ。
――――何と言う邪悪。
それは久住菜々子が自分よりも小さな少年に対して初めて感じた恐怖だった。黒野白太とは戦うな、親切にもずっと前に男が警告した言葉の意味をようやく理解する事が出来た。今この場でもう二度と自分に関わるなと言ってしまいたい、そんな彼女の心の内を知ってか知らずか黒野白太はこう言った。
「僕が貴方に何を命令するかを決めました。初めはバニーガールのコスプレを頼むつもりでしたが…もし次の勝負で僕が勝ったら明日デートして下さい。一緒に不幸になりましょうよ。」
バニーガールのコスプレもデートも絶対に嫌だった。
『Final Battle Get Ready…Go!』
…。
…。
…。
久住菜々子は勝利した。
どうやって勝ったのかは思い出したくも無かった思い出せば嫌でも黒野白太の顔を思い出してしまうから。
勝者の権限で命じたのは「二度と自分に関わろうとするな会おうとするな見ようとするな話そうとするな戦おうとするな。」。黒野白太はあっさりと了承し逃げるように神姫センターから出て行く久住菜々子を見届けただけで追い掛ける事は無かった。
電車に揺られながらも彼女は考えてしまう黒野白太は何故あんな風になってしまったのかを。元からそうだったのか孤独な神姫バトルの内にそうなってしまったのかそれとも信じていた人に裏切られてそうなってしまったのか。考えるだけ無駄だった。自分には黒野白太を救う事が出来ないという事実だけが大事だった。
…。
…おまけ。
…。
『異邦人』が『刃毀れ』に出会う三ヶ月と二週間と四日前の事である。
『狂乱の聖女』桐島あおいが黒野白太に会う為に彼が通う神姫センターを訪れていた。マグダレーナが自分達の行動と目的を彼と彼の神姫に聞かせた後、桐島あおいが黒野白太に優しく諭すように話し掛けた。
「黒野君、貴方は私の相方の女の子によく似ている。でもあの子と違って貴方は賢い。『勝利こそが全て』それは正しい事よ。」
「おお…ついに僕にもファンが…しかもこんな美人…僕もようやく幸せになれるかもしれない…。」
「でもファンとかそういうのじゃないの。」
「はぁ、そうですか。」
「でも貴方の理解者ではある。貴方は裏バトルを憎んでいるのでしょう? 金子の御曹司…金子銀条に裏切られた貴方は。」
「…どこでその情報を手に入れたかは知りませんけど僕にとっては触れて欲しく無い話題なんです。もう口にしないでくれませんか。」
「それは悪かったわね。でも私の誠意は知って欲しかったの。」
「ええ、よく分かりましたとも。でもタダ働きって奴はちょっと癪に障るんですよね、僕。」
「何かしら。大した謝礼は支払えないんだけど。」
「お金は要りませんよ。あおいさんが白生地に花柄のビキニ水着の状態で這い蹲ってくれれば僕は喜んで貴方の仲間になりましょう。」
「。」
「あ、ストロベリーコーンアイスを舐めていていいですよ!」
「ごめんなさい、この話は無かった事にさせてもらうわ。」
「えー、いいじゃないですかー、別に何か減るわけじゃあるまいし―。」
「黙れ。下種で下劣で下品な道化が。それ以上、あおいに近付くな。」
蛇の様に擦り寄ろうとしていた黒野白太であったがマグダレーナに釘を刺され途端に動けなくなる。それでも一瞬の油断を狙ってあおいへの接近を目論む黒野白太に注意しつつもマグダレーナの関心はイシュタルに向けられた。イシュタルはマスターの右肩に座りつつも無関心を装っていたのだがマグダレーナに意識されては流石に無視出来ない。
「そこな無銘の神姫。そなたの名を聞いていなかったな。」
「知る必要はあるのか? 私は君が言うところの下種で下劣で下品な道化の神姫だぞ?」
「いやいや、謙遜なさるな。そなたは無改造の正規品でありながら…随分と逸脱しているではないか。」
「買い被りだ。私はただのストラーフ型。それ以下である事はあってもそれ以上にはなれない。」
「単刀直入に言おう。そなただけでも我々と来ないか。名も無き星よ、そなたは無能の玩具で満ち足りる様な器ではないだろう。」
「名も無き星か。私好みの言葉だが…貴様は私のマスターを無能と言った。五体満足で帰れると思うな。ぶち殺すぞ木偶(パペット)!」
「だーかーらー、あおいさんがビキニ水着で這い蹲りながらストロベリーコーンアイス舐めてくれれば僕もイシュタルも仲間になりますってー。」
「やめてこっちにこないでそれ以上近付いたら警察を呼ぶから。」
「な、なんで警察呼ばれなくちゃいけないんですか! むしろ逆でしょう !?」
今度こそ終わる。




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