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『13km』-2/3



「ふへへ……」
ああ、ダメだ。
ニヤけすぎた顔が引き攣って痛むのに、いくら気を引き締めようとしても昼間のことを思い出してしまう。
さっきからずっとHDDの側面の放熱するアルミに顔を押し付けて冷やしてるけど、もう顔が届く範囲で冷たい箇所がなくなってしまった。
そして再びトロ~リ緩む、私の表情。
「ふへへ……」
「なんだなんだ、気持ち悪い飛鳥型がいるぞ。HDDに頬ずりなんかして、そんなに大切なデータがその中にあるのかい」
振り向くと、いつの間にか自称神様のオールベルンが私のクレイドルに寝そべって、私以上にニヤニヤしていた。
慌ててHDDから離れた。
「君は今日、愛しの彼とその神姫に負けたんだろう。だというのにその奇行、考えられる理由は2つだな。ひとつ、帰り道で100円を拾った。ふたつ、君は想いを寄せる相手に痛めつけられることで快感を得られるマゾだった。これから君と深く関わる僕としては前者であって欲しいところだけど、どっちだろう?」
「どっちでもないわよ!」
「100円といえば、最近は武装の性能とコストのインフレが激しいな。どんな対戦型ゲームにしても長く続けば続くほど火力やスペックに節操がなくなっていくのは、興味深い現象だとは思わないかい。特に最近発売されたビックバイパーにしても、あの飛行ユニットは――」
「わざわざこんな夜中に、そんな話をしに来たの」
「つれないなぁ。もう少し僕に優しくしてくれたっていいと思うけどなぁ。なんてったって君にとって御利益満載の神なんだから」
「う……」
確かに今日ことはすべて、この自称神様のおかげだった。
武装のメンテもしてない睡眠もとってない、そんな情けない状態からどうやってか最高のコンディションまで引き上げてくれたのだ。
まさか身体を変に弄られていないかと神姫センターに行く前にチェックしたけど、どこもおかしいところはなかった。
もしかしたらこの神姫は【神がかった技を持つトレーナー】、略して【神】なのかもしれない。
何にせよ、お世話になったことは、不本意ながら確かだった。
「……ありがと。おかげ様で上手くいったわ」
「はっはっは、いやなに、気にすることはない。君が僕のことを信じてくれるのならお安い御用さ」
「神様ってまだ信じたわけじゃ」
「しかし君には理解し得ない技を持っていることは確か、だろう? その程度の認識で十分さ。これから君が願いを叶えるにあたってはね」
「願いって、頼んだ覚えはないんだけど。もしかしてあなた、勝手に人の願いを叶える代わりに破滅させてしまう邪神系?」
「おいおい、モッコスやセイバーと一緒にするなよ。お望みとあらば君の造形を邪神化してやることも容易いが、僕は八百万の中でも特別善良な神と定評があってね、願いを叶える時は基本的に前払いだ」
「前払い?」
「君が言う邪神ってヤツはおおよそ、願いを叶えた後で不当な対価を押収するタイプだろう。そういう後払いタイプは人を持ち上げてから突き落とすことに快感を得る極悪党だ。しかし僕みたいな善良なる神は、まず対価を示す。それが達成されれば見事願いを叶えるし、ダメならばハイそれまでよ、となるわけだ」
クレイドルの上でだらけきったまま自分の善良性を主人張されても、あまり説得力はなかった。
毛先だけ桃色に染まった長い髪を片手でいじくり回すその姿は、どう見たって、情けないオールベルン以上でも以下でもなかった。
「ちょっと待ってよ。じゃあ昨日のアレはどうなるのよ。銃のメンテとか、対価なんて一切渡してないわよ」
「初回サービスだって言ったじゃないか。一回目に限ってタダだよ、タダ。せっかく僕の力を見せてやったのに信用しないなあ。こんなチャンスは二度とないんだから、ほら、思いつくまま願い事を言ってみればいい。その願いに応じた対価を支払う支払わないは、君次第だ」
「……本当に、信用していいの?」
「勿論」
うつ伏せになって頬杖をついて、私が願い事を言うのを待つ体勢になった。
しかし急に言われても、困る。
願いと言われても、ほとんど今日叶ったようなものだった。


◆――――◆


戦闘時間は二秒にも満たなかった。
ゴーグルを付けていても目を細めたくなるような砂嵐の中、白いシルエットが急接近してきて、私もそれを目指して真っ直ぐ飛んだ。
大口径の銃なら一発さえ回避すれば懐に潜り込める――そう目論んで飛び込んできたハルヴァヤにダダダダッと連続で弾丸をお見舞いしてやった。
反動はかなりキツかったけど、扱えないほどじゃない。
「!?」
目を見開いたハルヴァヤは体を投げ出すような横っ飛びで回避しようとしたけど、一発がスカートアーマーの付け根に命中、腰があらわになった。
速度を急激に落とした彼女とすれ違った。
砂の上を転がるハルヴァヤにマズルを向けるのは間に合わず、一旦距離を取って仕切り直すことにした。
スカートを翼に変形させての飛行も可能なアルトレーネから、その片翼をもぎ取ったのは大きい。
今度は高度を上げて、上から一方的に狙う。
そう決めて上体を起こした途端、腹部に何かが引っかかって、飛ぶ勢いのまま砂の中に頭から突っ込んだ。
「んぐっ!? んんーーーーっ!!」
首が折れるのだけは、スターを手放して両手を前に突き出すことで防いだ。
しかし両足のストライカーは急には止まらず、私の体をどんどん砂の中に押し込んでいって、ついには腹部に引っかかっていたものが胴を、そして背中を突き破った。
飛行の邪魔をしただけでなく、LPが一瞬で尽きるほど深く私を抉ったものは、ハルヴァヤの長い槍だった。
いつの間に刺さっていたのかを考える暇も与えられず、私の体はポリゴンに分解されていった。



「砂嵐に紛れて『ゲイルスケイグル』を使えたのは本当に幸運だった。ステージが砂漠でなかったら、結果は変わっていただろうな」
筐体から出て、武装解除したハルヴァヤはなんと、そんなことを言ってくれた。
「そ、そんなことないわよ! だって私、まだあのライフルを使いこなせてないし、後の作戦なんて考えずに突撃しちゃったから、ハルヴァヤにライフルの性能を見られた後じゃ――」
「ハル」
「えっ?」
「私のことはハルと読んでくれ。主人がつけてくれた名は響きが勇ましくて気に入ってるんだが……その、「ハル」のほうが可愛らしい感じがしないか?」
照れながらそんなことを言うハルは意識が遠くなりそうなほど可愛くて、気が付けば私は思いっきり抱きついていた。
「お、おいっ!?」
「えへへ、ハル、ハル~♪」
「……ははっ、まったく」
そんな私達の様子を尻目に、マスターはあの人と話していた。
さっきのバトルについてあれこれと、腕を組んで考察するあの人はとても知的な感じがした。
正面で話す醜い豚の息がかかってしまうのは申し訳なかったけど、あの人との繋がりができたことが嬉しかった。
しかも、マスターとの話が終わった後で、私にも話しかけてくれた。
緊張でカッチコッチになったせいでちょっと醜態を晒してしまったけど、あの人は気にした様子もなく、私のことを褒めてくれた。
頭を指で撫でながら(!)またハルヴァヤと遊んでやってくれ、と言われて何度も頷いた。


◆――――◆


「ふへへ……」
「また顔が気持ち悪くなってるぞ。変わってるし難儀だなあ君は。普通、神姫ってヤツは自分のスタートボタンを押したマスターに惚れるものなんだろう。まあ、神様的美意識をもってしても、アレはちょっと度し難いものがあるが」
自分の神姫だけでなく、神様にまで侮蔑の目を向けられる我がマスターもとい豚。
聞こえていないのだろうけど、「フゴッ」と鼻を鳴らしてまたいびきをかきはじめた。
「他の神姫のマスターに惚れる、か。そうだな、じゃあ彼の神姫になってみるかい」
「は? どうやって」
「説明が面倒だから、神様的なパゥワーとでも思ってくれればいい。君が米国大統領になりたいと言えば明日にでも米国大使館からお使いがやって来るし、彼の神姫になりたいと言えば明日から君の生活はウハウハだ」
「……マジすか」
「マジだ」
願い事と言われても叶えられるのはせいぜい、音速を超えて飛べるようになりたいとか、全国大会で優勝したいとか、そんなレベルだと思ってた。
スポーツで壁にぶつかった人が願いを叶えてやろうと言われてスパルタ的指導を受け、優勝した後で「願いは君自身の力で叶った。俺はその後押しをしてやったにすぎない」だとか。
せいぜいそんなレベル。
現実的とは思えないけど、あり得ない話じゃないレベル。
そのレベルをこの神様は、深夜に雑談する程度の気軽さで超えてしまうという。
じゃあ――。
それならば――。
「あくまで僕にそれだけの力がある、というだけの話だぜ。実際には君が僕の提示した条件をクリアしてくれないことには、君の願いは叶わない」
「もし私が……人間になりたい、って言ったら?」
「願ったとおり、君がホモ・サピエンスの仲間入りをする。銀河鉄道を逆方向に進む」
「…………」
「フフン、もう少し悩むと思ってたけど、これは決まりかな。人間になって彼にアタックする、か。うん、実に王道で良いじゃないか。この手の物語で成功した例は神である僕もまだ見たことがないが、君が第一号となることを願ってるよ。確認だが、願い事はそれでいいんだな?」
ほんの少し躊躇ったけど、頭を大きく縦に振った。
本当に人間になったら……突然すぎて突拍子もなさすぎて漠然とした想像しかできないけど、期待に胸を膨らませずにはいられなかった。
いつの間にか私のご都合主人義な頭は、この胡散臭いオールベルンのことを本物の神様だと信じていた。



「実は君にやってもらうことはもう決めていてね、七人の神姫を倒してもらう」
「……それだけ?」
「おっと、随分と強気なことを言うじゃないか。『七人? じゃあ弾は七発用意しとけばいいか』だって?」
「い、言わないわよそんなこと」
でも拍子抜けしたのは確かだった。
てっきり、「CSCを差し出してもらおう」とか「寿命があと一週間になる」とか、取り返しのつかないことを要求されるとばかり思っていた。
倒さなきゃいけない七人は恐らく、とんでもなく強い神姫ばかりなんだろうけど、それでも、人間に生まれ変わらせてもらう対価としては安すぎる。
安すぎて、不気味だった。
「おいおい、何か勘違いしてるようだな。僕のやってることは単なる暇つぶし、つまり道楽だ。君のような凡俗極まりないオートマタから価値あるものを巻き上げようだなんて、これっぽっちも思っちゃいない」
「あっそ。すみませんねぇ、無価値なガラクタで」
「しかし戦うことはできる。神姫バトルだ。君は僕が指名した神姫を相手に死力を尽くして、僕を楽しませてくれればそれでいい。どうだい、こんなチャンスはもう二度とないぜ。君がいかに幸運か分かったろう」
「七人を倒すだけなの? 後から追加で何かしろって言われてもできないわよ」
「七人目を倒した瞬間に君はヒトの肉体を得る。五分で元の神姫に戻るとか、中身が機械仕掛けのハリボテだとかいうこともないから安心していい」
あまりに話がおいしすぎる、その理由を「僕の道楽だから」とこの神様は言った。
神様って、そんなもんなんだろうか。
そんなもんなんだ、と納得しておけばいいんだろうか。
やっぱりイマイチ信用し難いわけだけど、それでも拒否し難くもある。
達成報酬が魅力的なことに加えて、単なるバトルなら達成しようとできなかろうと、普段からバトルをしている私には何のデメリットもないからだ。
「その七人って、もう誰だか決まってるの?」
「勿論だとも。まだ名前は伏せておくけど、最初の一人は――そろそろだな」
神様がちらりと壁掛け時計を見ると同時に、マスターの携帯が鳴り出した。
マスターのいびきに負けない音量でやかましく着信を知らせ、しかしそれでもマスターが起きる気配はない。
ニートであるマスターの携帯が鳴るのなんて親からのおつかいの時くらいなので、驚いて飛び上がってしまった。
画面に表示されていたのは、昼間に番号を交換したらしいあの人の名前だった。
慌てふためいていると「五月蝿いから早く出たまえ」と背中を押されて、通話ボタンを押した。
「も、もしもし?」声が裏返ってしまった。
《その声はホノカだな、良かった。夜分遅く申し訳ない。ハルヴァヤだ。あなたなら起きてそうだと思ったんだ》
あの人の声が聞けると期待してた分だけ落胆してしまったけど、ハルだって大歓迎だ。
でも心なしか、声に疲れの色がにじみ出ているようだった。
この時間に電話を掛けたことを何度も謝ろうとするのを無理矢理遮った。
「気にしないで。でも本当にどうしたの」
《ああ、実は……今日のバトルの腕を見込んで頼みがある。出会って間もないあなたにこんな話をするのは心苦しいんだが》
「水臭いこと言わないでよ。何でも頼まれてあげるから」
《すまない、埋め合わせは必ずする。頼みというのは明日、私と一緒に戦って欲しいんだ。時間は、その……大丈夫?》
「年中ヒマよ。それで、一緒にってことはタッグバトルなのね。どんな相手なの?」
《『清水研究室』というチームを知らないか》
記憶を辿ってみたけれど、聞いたことがないチームだった。
そもそも私のマスターがどこかのチームに加わるだなんてあり得ないものだから、私も必然、チームというものにあまり興味を持てないでいる。
団体戦はあまりメジャーではないし、チームを組むメリットの【練習相手に困らない】【武装を交換し合うことでいろいろと試せる】【人脈が広がる】は魅力的だけど、私自身、そんなに頑張ってまで勝とうとは思わない。
《その名のとおり大学院の研修室内の同好会みたいなものなんだが、実は主人が昨年まで在籍していた研究室なんだ。在学中はまだチームにはなっていなかったが下級生に神姫仲間はいてね、目覚めたばかりだった私はいつも主人に悔しい思いをさせてしまっていた》
「……なんか、意外」
《すまない。こんなことをいきなり話されても困惑させるだけだな。でも一緒に戦ってもらう相手のことだから、あなたにも知っておいて欲しいと思ったんだ》
「う、ううん、そうじゃないの」
ハルにだって、まだアルトレーネの専用武装にも慣れてなくて危なっかしく槍を振る時があって当然なのに、その姿がまるで想像できなかった。
性格がパッケージ詐欺と揶揄されるアルトレーネの中では珍しく、引き締まった表情とそれに見合った筋の強さ、これは最初から私の想像通りだろう。
でも初めから上手くいくわけじゃなくて、何連敗もしたり、壁にぶつかったり、いきなり強かったわけじゃない。
私が想像する【今も昔も勝ち続けてきたハルヴァヤ】なんて、勝手な妄想の産物に決まっている。
心を痛めてるハルには申し訳ないけど、そこにまた、親近感が湧いてきた。
どうしてだろう、ハルとは話せば話すほど親しみを感じてしまう。
「それで、その神姫にリベンジしようってことなのね?」
《いや、私と主人にそんなつもりはない。苦い思い出に引きずられて戦いたくはないから》
「でも、昔はまだ経験不足だったんでしょ。今なら――」
《今、負けたんだ》
腹の底から吐き出しそうになった悔しさをすんでのところで飲み込んだような、苦しい声だった。
まだ出会ったばかりの私に助けを求めてでも勝ちたい、そんな思いが伝わってくる。
《二時間前のことだ。主人が急遽、会社に呼び出されて出かけるのと同時にね、まるで見計らったように連絡が来たんだ。『先輩としてチーム清水研究室に入りませんか』と。勿論ハッキリと断った。しかし向こうもしつこく『では一対一のバトルでこちらが勝てば手前共の仲間になって下さい』と食らい付いてきた。そして……ははっ、後悔先に立たず、とはよく言ったものだな》
自嘲するハルに何と言葉をかけていいのか分からなかった。
あれ?
でも負けてしまったならもう、ハルは清水研究室とかいうチームに入ってしまっている?
どうして再び戦うことになったんだろう。
《敗北した上、バトル後の茶室で……言うのも恥ずかしい話だが、情けをかけられたんだ。自分の武装は初見の相手を必ず斬れるから、初めの一戦はノーカウントにしている。次はタッグバトルで、その結果でチーム入りしてもらう、と》
「なにそれ、すっごい腹立つ。しかも初見なら必ず斬れるって、そんなことできるわけないじゃない」
《その相談もしたかったんだ。バトルログがあるから送ろう。……一つ、できたらでいいんだが頼みがある》
「なに?」
《今から見てもらうのは当然、私の負け試合なんだが……他言しないでもらえると嬉しい》
後ろを振り向くと、相変わらずニヤニヤしている神様はヒラヒラと手を降った。
「誰にも言わないし、言われなくても用が済んだらちゃんと削除するわよ」
《恩に着る。あなたに頼んで良かった》
バトルログと聞いた瞬間、ハルの姿が映ったデータを永久保存しようと考えたことは口が裂けても言えなかった。


◆――――◆


巨大ビルが立ち並ぶステージの一角にハルが降り立った。
背後の斜め上からのカメラではハルの表情はうかがい知れないけど、ビルの林の向こうにいるであろう敵を睨みつけているのは確かだった。
槍を握る手に必要以上に力が入っていたから。
そしてバトル開始……私は自分の目を疑った。
開始直後、ビルを突き抜けて赤く細い光が水平に走った。
ビームソードの光に見えたけど、光は光学ランチャーなんて比較にならないくらい広範囲に及んで、しかもビルを貫通していた。
ハルは動かなかった。
あまりに唐突に走った光を、恐らく警戒したのだろう。
でも、警戒するには遅かった。
光が走った後では遅すぎた。
立ち続ける下半身を残して、ハルの上半身は地に落ちた。


◆――――◆


叫びそうになるのを辛うじて堪えた。
代わりにマスターのHDDを力いっぱい殴りつけた。
神姫が真っ二つになることなんて珍しくもなんともない。
でも、あの強いハルが動くことすらできずに真っ二つにされるなんて、信じたくなかった。
ハルの下半身が力無く倒れ、ポリゴンになって消える前に動画を閉じて削除した。
《第三デスク長、ギン。通称『13km』》
ハルの声はさっきまでとは打って変わって、不気味なくらい冷静だった。
恐らく、もう何十回も、自分が真っ二つにされるログを繰り返し見たんだろう。
分析のためであっても、それは拷問のような辛さに違いない。
《ラプティアス型だ。どんな武器なのかは分からなかったが、ランチャーとビームソードを足したようなものかもしれない。しかしあれだけの出力が可能な武器となれば正直、私には想像もつかない》
「とんでもなく長いビームソード。しかもビルごと神姫を――いえ、神姫ごとビルを斬れるだけ強力。言うのは簡単だけど、信じられないわね」
《……今更だが、あなたに迷惑はかけたくない。ただ私と一緒に戦ってくれればいいんだ。だからバトルが終わった後のことは気にしなくていいし、少しでもあなたを巻き込んでしまった私を軽蔑してくれ》
「ちょっとちょっと、なに負けること前提で話してるのよ。勝つために私に声を掛けてくれたんじゃないの?」
《勿論だ、あなたとなら何か打開策が開けるかもしれないと思ったんだ。……しかしやはり》
「わけわかんない神姫チームになんて入りたくないんでしょ? あなたのマスターを変なことに巻き込みたくないんでしょ? じゃあ勝たないと。ううん、もう勝つことは決まりきってるのよ」
《まさか、もう策を思いついたのか》
「いいえ、全然」
電話の向こうでハルの気がカクッと折れたのが分かった。
「明日は何時から?」
《あ、ああ。えっと、正午に茶室で落ち合うことになっている》
「正午ね。それまでに対策は考えておくから、それまでハルはゆっくり休んでて。疲れてるんでしょ」
《しかしそれでは、あなたが――》
「つべこべ言わないの。この電話を切ったら、何も考えないでクレイドルに向かうこと。いいわね?」
《あ、ああ》
「じゃ、おやすみなさい。また明日ね」
ハルの返事を待たずに通話を切った。
さて、明日の対策を考える前にまず、問い詰めなきゃいけない。
「この事、あんたが仕組んだのね」
精一杯睨みつけても、神様はニヤニヤした表情を崩さなかった。
「僕はただ君が経験する物語に明確なボスを設定しただけさ。淡々と神姫を七人倒すだけじゃあつまらないだろ? せっかくだからRPGのような演出にしたくてね。ステージの最後には必ずボスキャラを倒さなきゃならない。僕が指定するのはあくまでボスキャラだけで、君がどんなステージを選択するのかは知らないし文句はないさ。君は実に幸がいいな、これほど自由度の高いRPGをプレイする機会はそうそうないぜ」
はぐらかされてるのか、本気なのか、この神様を相手に考えること自体が無駄のように思えた。
全部このオールベルンが仕組んだことであっても素知らぬ顔をされそうだし、逆にまったくの無関係であっても意味ありげなことを言われて混乱させられそうだった。
「ボスを設定したのよね。じゃあギンとかいう神姫のことも知ってるんでしょ」
「君の想像通り、長ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーふうっ、あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいビームソードを持つ神姫さ。それ以上のことは教えられないな、自分で戦って確かめてくれ」
「ハルは確かめる前に真っ二つにされたんだけど……」
ギンのビームソードは遠距離武器にカテゴライズされるんだろうけど、ライフルを持つ私でなくともそんなもの、反則としか思えない。
今更真面目に考えるのも馬鹿馬鹿しいけど、普通、銃のような遠距離武装といえば、照準を合わせて引き金を引いて、さらに着弾してようやくダメージを与えられる。
しかも外せば再び同じ過程を繰り返さなきゃいけない。
でもあんなに極端に長いビームソードなら、レーザーサイトを的に合わせるくらい……いや、一度でも相手に当たればそれで済むんだから、ホースで水を撒くくらいの気軽さで攻撃できてしまう。
私がのんきにスコープを覗いている時にはもう、さっきのハルのように下半身がおさらばしちゃっているのだ。
さらにビルを平気で突き抜けてくる威力ならシールドも期待できない。
回避するにしたって……いや、空中ならば、長くない時間であれば回避し切る自信はある。
相手がどんな武装をしていても、照準を振り切ることくらいはできなきゃ、飛鳥型ストライクウィッチカスタムの名が廃るってもんだ。
でも離陸前に上半身と下半身が別れたんじゃあ話にならないし、ずっと回避し続けることなんて集中力が持つはずもない。
その上で攻撃に転じなきゃいけないとなると……いっそ斬られること前提で、上半身にストライカーを付けてみようかしらん。
「って、いやいやいや、上半身だけで戦う神姫とか怖すぎるわ」
「悩んでるな乙女よ。じゃあ特別にヒントをあげよう。そのビームソードの名前は『神殺槍』という」
「ふむふむ、カミシニノヤリ、ね。いかにも自信過剰っぽい名前だわ。それで?」
「それで? いや、それだけだが」
神様の胸倉をつかんだ。
神様というならこいつが神殺槍に斬られてしまえ。
「フハハハハ、冗談だよ冗談。こっちが本当のヒントだ。そういう変態的な武器を相手取る場合、まず考えるべきことは『自分ならその武器をどう扱うか』だ」
「そんなもの、遠くから斬る以外に何するのよ。っていうか今になってそんな基本的なことを言われても」
「後は自分で考えるんだね。いくら徹夜しても僕がまたコンディションを整えてやるから、好きなだけ脳内シミュレーションしたまえ。それじゃ、僕は一旦帰ることにするよ」
そう言い残して窓から出ていこうとする神様は、「アデュ~」とあまりに無責任に手を振った。


◆――――◆


およそ30分後、私とハルは仲良く真っ二つにされなきゃいけない。
体の調子とは裏腹に、ハルに電話をする気はとても重かった。
1コールが鳴り終える前に出たところから察するに、ずっと携帯の前で私からの連絡を待っていたらしい。
《私だ。調子はどうだ》
「あー、うん、調子はいいんだけど……ごめん。自分で考えるって言っておきながら……」
《いや、いいんだ、頼むから君は気負わないでくれ。君を巻き込んでしまったのは私なんだから。……本当に、申し訳ない》
息苦しい沈黙が続いた後、茶室のアドレスだけ教えてもらって通話を切った。
一晩考えても良案は思い浮かばなかった。
まず最初の一閃を回避する手段が分からない。
昨日見たバトルログでは見えない所からハルが斬られていた、つまり相手はこちらの位置を探る手段を持っている。
センサーか何かは分からないが、こちらが開始前に地に伏せたり最初から高い位置にいたとしても斬られる可能性が高い。
仮に避けるなり防ぐなりに成功したところで、だから何だって話だ。
相手は続けてビームソードを振ればいいだけなのに、こっちは相手が見える位置まで移動して初めて攻撃できる。
どう考えたって分が悪すぎるのに、さらにタッグバトルならば加えてもう一人を相手しなければならない。
もし、そのギンとかいう神姫の連れが同じビームソードを持っていたら……そいつらに勝つためには同じく超遠距離・大威力の武装を持ってくるしかないんじゃないか。
私自慢の大口径ライフル、セイブドマイスターが頼りなく思えてくる。
考えれば考えるだけ、自分達の勝ち目の無さを証明していくだけだった。



「気休めだが、これを持っておいてくれ」
茶室でハルに渡されたのは、手ですっぽりと握れるくらいの球状の道具だった。
「強く握れば自分の周囲にシールドを展開する、使い捨てのアイテムだ。ギンの斬撃の前にはシールドなんて紙屑同然だろうが……」
それでも、何も無いよりはマシだったから、受け取ったそれを懐にしまった。
小さなちゃぶ台を挟んで無言で座っていると、黒くリペイントされたラプティアスとアーティルが約束の時間から少し遅れて入ってきた。
二人ともヨレヨレの白衣を着流している。
「なんや二人とも葬式みたいなカオして。自分らのマスター死んでもうたんかいな」
目が開いているのか閉じているのか分からないラプティアス――ギンはいきなりそんなことを言った。
「貴様……!」立ち上がったハルが掴みかかりそうな勢いで詰め寄っても、ギンは眉ひとつ動かさない。
なんとなく、苦手なタイプだ。
「軽い冗談や。これから一戦やるんやからちょっと気張ってもらわんとこっちもヤル気出えへんで。せっかく今日はお友達も連れてきてもろたんやし」
座ったままでいた私の側へズカズカと近づいてきたギンはいきなり顔を覗き込んできて、
「『清水研究室 第三デスク長』のギンや」
そう言った。
「お互いはじめましてやろ? 『火葬』がどないな神姫連れてくるか興味あったんや。名前聞かせてくれんか」
「火葬?」
「ギン! いい加減にしろ!」
今度こそ本当に、ハルはギンに掴みかかろうとした。
しかし手が触れる直前でアーティルに羽交い絞めにされた。
こっちのほうはギンと違って気が小さいのか、すごく申し訳なさそうにハルのことを掴まえている。
「なんや知らんのかいな。このアルトレーネさんは昔『火葬』って呼ばれとったんやで。なぁ? 間違うたこと言うとらんやろ」
「っ……!」
ハルの怒り方は普通じゃない。
私やアーティルがいなかったら、今すぐギンを壊してしまうんじゃないかとすら思えるほど怒りをはらんでいる。
たぶん『火葬』という呼び名は聞いてはならない名だったんだ。
ハルはそれをずっと隠す気でいた。
でもギンはそれを、軽い挑発のために口に出した。
つまりこいつは本当の意味で、ハルの敵であって、私の敵だ。
立ち上がってハルとギンの間に割って入った。
「『セイブドマイスター』のホノカよ。あんたをけちょんけちょんにするために来てやったわ。覚悟してなさい」
「おー怖っ。フロントラインの神姫はどれも怒ると恐ろしいで。そう睨まんといてぇな、頼むわホンマ。でもこれくらいイキがいいんやったら、ウチの研究室に来てもろたらええ活躍できるで」
「なっ!? 話が違うぞギン! チームの話は私だけ――」
ハルを手で遮って、私は覚悟を決めた。
どんな覚悟かってそりゃあ、こんな時は『背水の陣』と相場が決まってる。
「いいわ。あんたが勝ったら私もそのチームに入ったげる」
「お、おいホノカ、何を言い出すんだ!」
「いやぁ、話が早くて助かるわホンマ。実はウチの研究室の勢力を伸ばそ思ててな、でもさすがに人手……神姫手が足りんのや。ボクのデスクもまだ助手がそこの一人しかおらんで、是非『火葬』の席を作りたいと思とるんや。ええと、『セイブドマイスター』? 聞いたことない呼び名やけど、『火葬』のお友達なら大歓迎や。ほれ、いつまでそうしとんのやイヅル、早う離したれや」
ギンが手をはらう仕草をすると、アーティルはハルからパッと離れて萎縮してしまった。
もじもじと指をからめ、なんだかこの子こそ一番の被害者のように思えてくる。
「一応紹介しとかんとな、自分らの将来の同僚になるんやし。『第三デスク補佐』のイヅルや。アーティルのくせに肝っ玉のちっちゃいヤツでな、気ぃ利かんのやけど、まぁこんなでもボクのサポートだけは抜かりないやっちゃ。言うてもサポートやから実質今日は二対一になってまうんやけどな、しんどいわぁ」
もう勝利を確信してるのを隠そうともしないくせに、糸目と同じくらい細い眉を八の字にしてわざとらしいくらい困ったジェスチャーをしてみせた。
全部こいつの作戦なのか、それとも素でこんなムカつく性格なのか。
たぶん両方なんだろうけど。
「一つ約束して」
「なんですの? ああ、ボクのデスクに来ても武装は自腹やで。研究室で買ってやれる予算なんかないんや。研究室を名乗っとってもただの神姫チームと変わらんし、型落ちの武装ならまあ腐るほど――」
「私達が勝ったら、二度と私達の前に現れないで」
「……へえ、まだ勝てる気でいるんや。ガッツがあるのは嫌いやないけど、賢いとは言えんなぁ」
私を品定めするように、全身を舐め回すように、ほとんど閉じられた視線が私の体を這いずり回る。
そこにハルが割って入ってきて、「おっと」とおちゃらけた調子で飛び退いた。
「じゃあ先にステージで待っとくわ。時間あげたるさかい、気ぃ済むまで話し合ってな、いろいろと。ほれイヅル、なにモタモタしとんのや、行くで」
白衣をなびかせて、二人は茶室を後にした。
「あなたはなんてことを言い出すんだ!」
ギン達の姿が見えなくなってすぐ、ハルは今度は私に掴みかかってきた。
「これであなたを完全に巻き込んでしまった! 私は……私はいったいどうすれば……」
「聞いてハル。私達、勝てるわ」
肩を抱いてはっきりそう言うと、ハルはぽかんとした顔になった。
そんな顔も可愛いけど、今は置いておこう。
「やっと分かったの。私達はビームソードばっかり気にしすぎてて、あいつのことを過大評価してたのよ」
「え……い、いや待ってくれ、どういうことだ。過大評価? それって」
「せっかく作戦会議の時間をもらったんだし、ちゃんと説明するわ。……その前に、さ」
「ど、どうしたんだ。何でも言ってくれ」
「私さっき、自分のことを『セイブドマイスター』って言ったんだけど……通名って勝手に名乗っていいのかな?」
再びぽかんとした顔を、今度は崩して腹を抱えて大笑いされた。
そんなにおかしかったのか、息切れしてもまだ笑い足りないらしかった。
「な、なによ! 私だって自分でおかしいって分かってるんだから!」
「はぁ、はぁ、ふふっ……い、いや済まない。緊張しているところにそんなことを言われては……はははっ」
「だ、だって私、そんなに強くないし、通名なんて分不相応だし」
「そんなことはないさ。『セイブドマイスター』はあなたの銃の名前だったな」
なんとか息を落ち着けたハルは涙を拭いて、私の目を真っ直ぐ見つめた。
蒼く光る瞳はいつにも増して、力強く輝いていた。
「空を自在に泳ぎ戦場に流星を降らせるストライカー。あなたにぴったりの名だ」










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