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『13km』-1/3



これから君に戦ってもらうのは、君のようにテンプレートに沿った改造をなされた神姫とはワケが違う。
七人が七人とも天下無双の変わり種だ。
いや、決して君の悲願達成の障害を強固にしようというわけではいよ、本当だ。
神である僕が神に誓ってもいい。
何故かって君、ありきたりな武装でありきたりな攻撃をしてくるありきたりな神姫なんて、いくら倒したところで何の御利益もないと思わないかい?
つまり君の願望はそれほど、普通じゃないということさ。
恨むなら自分のそれを恨むんだね。
しかし相手が普通じゃないということはある意味、君にとって幸運と言えるのかもしれないぞ。
あくまで凡百レベルでしかない君が、例えばだが、全武装神姫の上位互換であるアラストールやキュクノス、それにジャスティスに勝てると思うかい?
そう睨むなよ、君に限った話じゃない。
他の神姫だって、特別なものを持っていなければ単純な性能差で押し切られるさ。
多少の小細工など圧倒的なステータスの前には無力なものだから。
そこは君、様々な思惑を含んだ値札を付けられ、人に買われる身である神姫に生まれた以上、割り切るしかない。
ところが、だ。
僕がこれから提示する七人の神姫は、そんな万能と呼べる神姫から遠くかけ離れている。
一点特化、というやつだ。
ある方向に圧倒的な伸びを見せ、逆にその他はまるでからっきしというわけさ。
どうだい、僕の慈愛に溢れた優しさが分かっただろう、君は実に運がいいな。
……分からない?
まったく、神というものは理解されないのが常だが、優しく差し伸べた手すら気付いてもらえないとなると考えを改める必要があるな。
もし僕がアラストール型を七人倒せと言ったら君、いったいどうするつもりだ。
深く考えなくてもいい、どうすることもできないのだから。
装備を揃えたり経験を積むことくらいはできるかもしれないが、相手だって君と同じように時間を過ごすだろうし、君のマスターは貧乏だし、それに愛しの彼は君が強くなるのを待ってはくれない。
だからそう睨むなって。
もう一度言うが君は幸運なんだ、ラッキーだ。
なにせ相手は特化型だ、然るべき対策を打てば凡百である君にも勝利の可能性が見えてくる。
勿論、特化型の強さは並大抵のものじゃない。
ぶっちゃけノーマルのアラストールやキュクノス、ジャスティスなんて相手にならないだろう。
しかし付け入る隙がおおよそ見当たらない万能型より、隙だらけの特化型のほうが倒し易さという意味でなら、楽な相手だと思わないかい。
まあそれに、普通のバトルならその辺の神姫センターに行けば飽きるほど見られるのだから、僕を楽しませる意味でも君には特化型を相手して欲しいんだよ。
それもまた、願い事を叶えてくれる神様への供物、ってところさ。
さて、前置きはこれくらいにして。
記念すべき駈け出しの相手は、これもまた僕からのサービスなのだが、特化している部分が非常に分かりやすい。
呼び名が『13km』と言えば、どんな神姫か想像がつくだろう。
つかない? なに、あんなに有名な刀を君は知ら……ああそうか、あの漫画は三十年以上前のものだったか。
これはいきなり人選を誤ったか……。
いや、君は気にしなくていい、説明してやろう。
簡単に言うと、彼女はとてつもなく長いビームソードを持っている。
13kmというのはあくまで人間の大きさに換算したものだから、実際にはその1/12しか伸びないということになるが、それでもステージの端から端まで届いてなおかなりの余裕がある。
無駄? そんなわけがないだろう、13キロという数字にこそ意味があるんだ。
フン、元ネタを知らない君からすれば0.00005キロで十分とでも言うんだろうけどな。
まあいいさ。
あるマイナーな神姫チームの中で『第三デスク長』とも呼ばれている彼女と一度でも戦ってみれば、そのビームソードがどれだけ恐ろしいものか理解できるだろうさ。
いや、理解する時間すら与えてもらえないか。
せいぜい開幕と同時に胴体を真っ二つにされないよう気をつけることだね。




◆―◇―◆―◇―◆―◇―◆―◇―◆




神姫にだってヒトのような心があるんだから、ヒトにヒトメボレしたって何もおかしいことはない。
何もおかしなところのない夢見る乙女だ、恋の一つや二つくらい許されて当然だと思う。
私の取扱説明書に「神姫が他の男性に一目惚れしないようご注意下さい」とは書いてないんだし、ルール違反でもない。
などなど……などなどなど。
他にもいろいろと言い訳を考えてはみたものの、やっぱり言い訳は言い訳でしかなくて、クレイドルの上で夢の世界に旅立つこともできず、枕を抱きしめて悶々とするばかりだった。
6日前のこと。
私――飛鳥型ストライクウィッチカスタムのホノカさんは、不覚にもとある男性に一目惚れしてしまった。
不覚も不覚、まったくの不覚。
それは本当に一瞬のことだった。


◆――――◆


その日は神姫センターのエアコンから良い風でも吹いていたのか、妙に調子が良くて、見事三戦快勝、私の愛機セイブドマイスターは面白いように相手を撃墜していった。
いつもは勝っても負けても三戦したら必ず帰るのに、自分が戦ってるわけでもないのに調子に乗ったマスターは、もう一戦やる、とか言い出した。
まあ、私だって少しばかり気が大きくなっていた。
勝つ時は大勝ちして負ける時は大負けしてしまう私の性質上、できる時に勝利の美酒を貯めこんでおきたい気持ちもないでもなかった。
ちょっと強そうな相手を物色しつつ、ひとつの筐体の中をそれとなく覗いた時だった。
そのアルトレーネは私の目をきつく縫いつけた。
長い髪をポニーにした以外、装備も装飾もありきたりな戦乙女。
なのに、その戦騎は一際強く光り輝いていた。
「ぜやあああああああああっ!」
槍を構え、銃弾の嵐の中を怯まず押し通るその戦い方は、私とは真逆に位置する――そのはずなのに、気がつけば、彼女の動作を一つでも多く目に焼き付けようと、目を見開いていた。
白い頬を銃弾が掠め、ポリゴンとなって分解されていく。
それでも彼女は止まらなかった。
運悪く副腕の最も脆い可動部に銃弾が当たり破損し、片方が千切れ飛んだ。
それでも彼女は止まらなかった。
彼女のことだけを見ていたのに、対戦相手の表情が手に取るように分かった。
あるいはその表情は、彼女と相対した私を想像したものかもしれなかった。
自身が持つ火力では彼女の道を遮ることはできない――どうしようもない恐怖に表情を引きつらせたまま、彼女の槍に胸を貫かれた。
試合が終わって、彼女達を模していたモデルが消え去っても、まるで真夏の太陽を凝視してしまった時のように、視界に焼き付いた戦乙女の姿は消えなかった。
あの時の感覚は今でもハッキリと胸に残っている。
強いて言葉で言い表すとすれば、【心が燃えた】。
彼女と戦うことがバトルの全てのように思えた。
彼女を倒すことがバトルの全てのように思えた。
筐体から出てきた彼女に気づいて、実力差や勝算のことなんてまったく考えず、ただ本能に従って彼女に勝負を挑みに行った。
そして彼女のマスターに話をつけようとした時――CSCをズッキューン! と撃ち抜かれた。
一目惚れ、というより一撃必殺だった。
髪は短く、理知的な顔立ちに細長のメガネがよく似合っていた。
全体的に線は細めで、服装には清潔感があってとても好印象だった。
や、好印象という言葉はなんだかわざとらしいか。
一目惚れしたんだし。
むしろ超印象だ(?)。
その姿が私のマスター……若くしてハゲ散らかした豚の真逆だからかもしれないけど、まさか神姫に自分のオーナー以外に惚れてしまう機能があったとは、この時まで考えもしなかった。
(念のため言うけど、私はマスターに惚れてない。神に誓って言う)
燃えていた心がトクンと高鳴った。
真っ赤に染まっていた心がピンク色に塗りつぶされた。
そして気がつけば、胸にあの槍が突き刺さっていた。
今度は幻覚などではなく、実物が、ザックリと。
挑んだバトルはとっくの昔に始まっていて、ハッと目を覚ますと同時に終わっていた。
「あれほど無抵抗に私の槍を受けたのは、あなたが初めてだ」と後でハルヴァヤに呆れ顔で指摘された時は、恥ずかしくて死んでしまいたくなった。
帰り際、醜い豚もといマスターにせがんで、髪を長くしてもらった。
勿論ハルヴァヤと同じポニーテールにするためだけど、不本意ながらマスターに妙にウケた。
なにが「飛鳥に黒髪ロング……ゴクリ」だ。


◆――――◆


明日、日曜日。
ハルヴァヤにリベンジする約束をしているのだけど、それすらあの人に会うための口実になってしまうことが恐ろしかった。
恋に落ちたあの日以来、寝ても覚めてもあの人のことしか考えられなかった。
あと一度の夜を超えたら、あの人の前で戦わなきゃいけない……だというのに、まだセイブドマイスターのメンテにすら手がつけられないでいる。
いやいや今から整備しろよと自分にツッコミを入れたくなるけど、ここ最近の寝不足がたたって瞼は銀行のシャッターのように無情にも落ちていく。
そして目を閉じてしまうと、暗闇にあの人の姿が浮かび上がってきて、再び目を覚ましてしまう。
その繰り返しだった。
「ふう……」
ダメだ、何もできない。
こんなことじゃあの人だけでなくハルヴァヤにも愛想を尽かされてしまう。
あの二人に『戦う価値なしの雑魚』だなんて思われたら私は、もう生きていけない。
再び瞼の裏に現れたあの人が、私に背を向けて遠ざかっていく。
肩に腰掛けたハルヴァヤは私に冷たい一瞥をくれたまま、あの人の耳元に何かをささやいた。

時 間 の 無 駄 だ っ た な

いやだ、行かないで。
強くなるから、なんでも差し出すから。
なんでもするから、私のことを見捨てないで。
お願い神様、あの二人を遠ざけないで――!
「呼んだかね」
「ひぎゃあ!?」
いきなり耳元で声を出されて、驚いた拍子に尻がすべり、クレイドルの手すりに側頭部をゴツンと強かにぶつけた。
できるはずもないタンコブを手で探しながら顔を上げると、隣にいつの間にか、白い体に私と同じくらい長い金髪の神姫が立っていた。
パッと見だと、その神姫がオールベルンだとは分からなかった。
フロントラインのホームページに掲載されている姿形そのままなのに、人をおちょくったような雰囲気は私が知る剣士型とはかけ離れていた。
くりっとした丸い目は整っているはずの顔のバランスを大きく損ない、薄気味悪く笑みを浮かべた口元からは八重歯なんてのぞいちゃっている。
「ハハッ! うん、いいねいいねその反応。近頃は誰も彼もが神を見ても驚かないから、いよいよ世間の凡俗が超常にまで侵略しつつあると危惧していたんだ。しかし君のその豆鉄砲をくった鳩のような顔――うん、気に入った。次は君の願い事を叶えてやるとしよう」
これが、神様を自称するオールベルンとの出会いだった。



「おいおい、ガッカリさせないでくれよ。神を信じたんじゃなかったのか」
大袈裟に額に手を当てたオールベルンは「オゥマイガッ」と仰け反った。
神様を自称する奴が OhMyGod なんて言うもんだろうか、いや言わない、絶対言わない。
「さっきはあんなに驚いてくれただろう」
「そりゃ、真夜中にいきなり側に誰か立ってたら驚くでしょ、普通は」
私も自称神様も声を落とす気遣いはしなかった。
ゴーゴー寝てる豚マスターはちょっとやそっとじゃ起きやしないから。
「じゃあアレか、君は特別叶えたい願い事がない、どころか神の存在を信じもしないで僕のことを呼んだって言うのかい」
「私が呼んだ? あんたを? いつよ」
「さっき『お願い神様』って言っただろう」
「言ってない。心の中で思ったけど、口には出してない」
「やれやれ、分かってないなぁ」と手を広げて首を振るコイツは多分、日本一ムカつくオールベルンだと思う。
眉を八の字にして小馬鹿にしたように溜息をつく姿は、電気が消えて薄暗い部屋の中でも無駄に強く自己主人張してくる。
「神っていう存在は、下々の心の奥底の願いを聞き届けてやるものなんだぜ。暇つぶしに」
「誰が下々よ。あんただって普通の神姫じゃない。鏡見たことないの? どこからどう見ても店の棚に陳列されたオールベルンと変わりないじゃない」
「この姿もわざわざ君に合わせてあげたのに。いや、武装神姫なら何でもよかったんだけど、このオールベルンは実に素晴らしい造形をしているじゃないか。まさにスワン・レイク! ワルツ・ワーズ・ワイト! って感じだと思わないかい。できれば赤い個体のほうが良かったんだけど、聞けばアレは限定品らしい。君の飛鳥型も品薄商法の煽りを受けて同型の仲間が増えないんだろう。自他共に認めるトップランナーであるフロントラインがこの体たらくじゃあ、武装神姫の将来は明るくないな」
「わざわざ真夜中に不法侵入しといて何? ネガキャン? もう帰ってよ、明日は忙し……ふぁ~あ」
ひとつ大きな欠伸が出た。
明日は絶対に、こんなはしたない真似をするわけにはいかない。
ましてや「全神姫の中で最もお人形さんのようだ」と言われる飛鳥型なんだから、そのイメージをよりにもよってあの人の前で崩していいわけがない。
「ほうほう、忙しいと。それはもしや、この僕を呼んだことと関係が?」
「だから呼んでなんて……そうよ、その通りよ、誰でもいいから何とかしてほしいわよ。明日はどうしてもちゃんと戦わないといけないの。早く寝ないといけないの。分かる?」
「その割にはこんな時間まで起きてたじゃないか」
「だから眠れないって言ってんでしょ!」
募ったイライラが、ついに爆発した。
枕を掴んで、オールベルンに投げつけた。
部屋の外に響くくらい叫んでしまったけど、マスターは寝返りをうっただけで起きる気配はない。
喉から溢れるように出てくる不安は止められなかった。
「明日のバトルは何よりも大切なの! 勝てなくても絶対ちゃんと戦わないといけないのに、あの人のことばっかり考えてたせいで眠れなくて、ハルヴァヤの期待にだって答えなくちゃいけないし、なのに銃の整備もストライカーの調整もやってない!」
「――ふむ」
「リベンジ申し込んどいて最悪のコンディションで挑むなんて、嫌ってくださいって言ってるようなもんじゃない! バカじゃないの!? 何やってるのよ私、こんな……こんなことならバトルの前に自動車に踏み潰されたほうがマシよ!」
「つまり、君は明日のバトルまでにコンディションをベストの状態にしたいんだな」
「だったら何よ! あんたがなんとかしてくれるっての!?」
「その通り!」
パン! と目の前で空気が弾けた。
自称神様が前髪に掠るような距離で手を叩いた――つまり猫騙しをしたんだけど、その音に対して驚いた直後、唐突に強烈な睡魔に襲われた。
魂を抜かれたように力が抜けて、カクンと膝が折れて身体が真っ直ぐ崩れ落ちた。
「僕は神の中でもサービス精神に溢れた性質でね。初回限定サービスだ、君の願いを無条件で叶えてやろう。いやはや君は実に運がいい」
自称神様が何か言ってるけど、最後のほうはほとんど聞こえていなかった。
文字通り電源を切られるようにプッツリと、私の意識は途切れた。


◆――――◆


仮想とはいえ確かな実感を持った身体に生まれ変わる瞬間の不思議な感覚は、もうマスターに起動されて随分時間が経つけれど、未だ慣れる様子がない。
ストライカーユニットの先端まで実体化されると同時にエンジンを起動させた。
プロペラが滑らかに滑り出し、着地寸前だった砂を巻き上げる。
ストライカーが地に降りる前にホバリングできたのは生まれて初めてだった。
それも不安定に空中でふらつくのではなく、ほとんど立っている時と同じように安定している。
脚に伝わる振動はいつもの半分もなくて、代わりにまるで翼を得たような高揚感を伝えてくれる。
空戦型が持つには二回りほど大きく長いライフル、セイブドマイスターのセイフティを解除してハンドルに手をかけると、驚くほどスムーズに引くことができた。
ガシャコッ、と初弾が装填される音もいつもより小気味良い。
おまけに体は睡眠不足による気だるさどころか、活力に満ち溢れていた。
指の一本一本から頭のピンと尖った耳の先、尻尾のフサフサの毛に至るまで回路が通っている感覚を明確に掴める。
自分が持つ本来の性能を、これほど明確に把握できたことはなかった。
「これが……私、なの?」
続々と新型の高性能な神姫が出てくる度に嫉妬していた自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
ちゃんとコンディションを整えれば、私だって、これほどまで素晴らしい性能を発揮できる。
昨日眠っていた間に、あのオールベルンはいったい何を――。
「神姫三日会わざれば刮目して見よ、とはよく言ったものだ。先週とはまるで別人だ、一目見ただけで分かる」
砂嵐の向こう、ハルヴァヤの声は熱砂に焼かれてなお涼し気だった。
「いや失礼、その前に言及すべきかな――髪型、変えたのか。ええと……」
「私はホノカ。髪はあなたを真似したんだけど、気づいてもらえてよかった」
「真似を? どうして私なんか、これは邪魔にならないよう縛ってるだけだし、他にもっと洒落た神姫は沢山いるだろう」
「もしかしてハルヴァヤ、あなた野暮天?」
「……ははっ、昨日同じことを言われた。そんなつもりはないが、でも勘違いはされやすいな。私はあなたが想像するほど規則正しい性格をしていないんだ」
照れ隠しに笑うハルヴァヤはすごく可愛かった。
こうして対等に喋っていることが信じられなくて、自分が自分ではない別人のように思えてくる。
こんなにも気軽に言葉が出てくるのなら、自分の知らない自分になることも面白い。
ハルヴァヤも、私が勝手に持っていた堅物の印象より随分と気さくだ。
遠くから見ていた時は、刃のような鋭い眼差しと不屈の闘争心に見惚れるだけだった。
でも、こうして歩み寄ることで見えてくるものがある。
私の髪の変化に気づいてくれるハルヴァヤ。
照れ笑いをするハルヴァヤ。
もっと、引き出したい。
この神姫のありとあらゆる表情を引き出したい。
差し当たっては――。
「さあ、そろそろおしゃべりの時間は終わりだ。ホノカ、君はリベンジだと言ったな。悔いのない勝負にしよう」
敗北して悔しがるハルヴァヤはどんな表情を見せてくれるんだろう。
ゴーグルをかけ、私に向かって一直線に構えられた槍と揃えるように、スターのバレルを構えた。
距離は十分離れているはずなのに、ナイフを互いの喉元に突きつけ合っているような緊張感。
「隙あらば伐つ」と彼女の目はハッキリとそう言っている。
きっとこれが、私の遥か先にいる彼女のステージなんだ。
流行る気持ちがトリガーにかけた指を勝手に動かしそうになる。
アルトレーネの分厚い装甲でも、この弾丸は防ぎきれない。
でもそれだけじゃハルヴァヤには届かない。
だからセレクターレバーを切り替えた。
力がみなぎってくる今のコンディションなら、マスターがロマンが云々言いながら付属した、余計極まりなかったフルオートも活かせる。
スタートの合図が耳に届いた。
「「 いくぞ! 」」
重なった声を皮切りに、砂嵐はいっそう強くなった。










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