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キズナのキセキ

ACT1-21「キズナのキセキ」




 菜々子さんとミスティの特訓が始まってから、一ヶ月が過ぎようとしていた。
 今日も久住邸の「特訓場」に、新たな神姫マスターがやってきた。

「くぉらああぁぁ!! このクソ寒い中、コタマ様を呼び出そうとは、いい度胸じゃねぇか、ミスティよぉ!」

 と、威勢のいい、いささか不機嫌そうな大声が入り口で放たれた。
 大声の主は、トートバッグから顔を出した神姫らしい。

「……ハーモニーグレイス型?」

 隣にいた八重樫さんが小首を傾げる。
 確かに、その神姫は修道女がモチーフのハーモニーグレイス型だった。
 それにしては、随分と口が悪いようだが……最近のハーモニーグレイスはみんなこうなのか?
 そんなことをふと考えていると、神姫が入るトートバッグの主がたしなめた。

「こら、コタマ。初対面の人も大勢いるのに、そんな風に怒鳴ったりしたらあかんよ」

 なんとも魅力的な女性である。健康的な美人とでも言おうか、全身から快活さが溢れているような印象だ。
 こんな彼女だったら、彼氏は鼻が高いだろうな、などと考えてしまう。
 ……にしても、武装神姫の女性マスターは、本当に美人ばっかりだな。やはり、美人でなければ神姫マスターになれないルールがあるに違いない。
 そんな腐ったことを俺が考えている間に、その人が自己紹介する。

「ご挨拶遅れました。わたしは竹櫛鉄子。これはわたしの神姫で、コタマ。みなさん、よろしゅうに」
「よろしくな」

 気さくな態度の竹櫛さんとは対照的に、彼女の神姫は不遜な態度を崩さない。
 菜々子さんとミスティが、この珍客と一通りの挨拶をすませたところで、大城が横から口を挟んできた。

「コタマって……聞いたことねぇんだけどよ、強いのか?」
「なんだこのヤンキー。この『ドールマスター』様をしらねぇとは、情弱にもほどがあるな」
「んだと、このやさぐれシスター!」
「やめなさいよ、ダイスケ。コタマの口の悪さは、今に始まったことじゃないわ」

 一触即発になった二人に、ミスティが割って入る。神姫に指摘されて、さすがの大城もしびしぶ引き下がった。
 ミスティが続ける。

「……強いわよ。わたしが最後まで一勝もできなかったくらい」
「えぇっ!?」
「それでも『エトランゼ』はマシな方だぜ。最近挑んでくる連中はホントにカスばっかで、もういい加減うんざりしてんだ」
「……ていうか、どうしてその『ドールマスター』のところに挑戦に行ったんだよ?」
「ああ……菜々子が、『狂乱の聖女』とかいう腐れ神姫と、このコタマ様を間違えたんだとよ。同じハーモニーグレイスだからって、いい迷惑だぜ、まったく」

 俺が隣の菜々子さんに目を向けると、彼女はちょっと頬を膨らませて反論した。

「でも、サブマシンを二体も自在に操るハーモニーグレイス型なんて、そういないでしょう? だったら、確認したくもなるじゃない」

 なるほど。菜々子さんが確認するために足を運ぶほどに、コタマとマグダレーナのバトルスタイルは似通っているということか。
 それならば、仮想マグダレーナとして、コタマはもってこいの対戦相手ということだ。

「それじゃあ、早速、君たちの実力を見せてもらえないか?」

 俺はいつものようにそう言った。



「おい、遠野とか言ったよな。アンタ、知ってんだろ」

 乱暴な言葉遣いで話しかけられ、俺は振り返る。
 声の主はハーモニーグレイス型の神姫だった。
 ミスティとの一戦を終えた直後、意外にもコタマは俺に声をかけてきたのだ。

「何を?」
「ああ、『狂乱の聖女』とか名乗って調子に乗ってる、ハーモニーグレイスの居所だよ!」
「……それを知ってどうする?」
「決まってんだろ。ミスティがちんたら練習してる間に、アタシがかるーくぶっ飛ばしてやるのさ。その方が余計な手間暇省けるってもんじゃねぇか、なあ?」

 なるほど。
 今のミスティとの一戦はコタマが勝利した。その戦いぶりを見れば、コタマの実力が並ではないのはよく分かる。
 コタマの言葉は自信過剰ではない。自らの実力に裏打ちされた自信の現れだ。
 だが、それでも。
 俺は小さくため息をつき、言う。

「だめだ」
「……なんでだよ。まさか、アタシじゃ役不足とか言うんじゃねえだろーな」
「それもある」
「んだと、コラ! この『ドールマスター』の実力を、さっきの一戦だけで知ったつもりになってんのか!? 新装備のミスティ相手に全力なんざこれっぽっちも出しちゃいねぇんだ!」
「……それ以前に、俺は奴の居所を知らない」
「……は?」

 コタマは世にも間抜けな顔をした。

「そんなはずねぇだろ。敵の居所も知らずに、こんな大がかりな特訓までやってるなんざ、まったく、大いに、どうしようもなく、無駄じゃねえか?」
「まあ、そこは考えがあるんでな」
「じゃあ、その考えとやらを使って、『狂乱の聖女』に会わせろよ」
「だから、だめだと言っている。負けると分かっている勝負に……それもリアルバトルに、他人の神姫を送り込むなんて真似、俺には出来ない」
「……今何つった? このアタシが、負けるって、そう言ったか!?」
「そう取ってもらって結構」

 俺がためらいなく頷くと、コタマは激昂した。

「ふざけんな、てめぇ! このコタマ様が負けるだなんて、どの口が言ってんだ!」
「どんなに凄んだところで、俺の考えは変わらない」
「いい度胸じゃねーか……てめぇ……!」

 いよいよ怒りが頂点に達し、俺を貫く視線に憎悪すら感じられたとき。

「ちょっとコタマ、落ち着き……遠野さん、わたしもにも言わせてや」

 少し訛のある言葉で俺たちに話しかけてきたのは、コタマのマスター、竹櫛さんだった。

「コタマの言葉は確かにあんまり良くないと思うけど、でも、コタマがそう簡単に負けるとは、マスターのわたしでも思えへんよ。そこまで確信もって言えるんは、なんか理由があるんか?」
「……君たちはいつも、どこでバトルしてる?」
「え? ああ……近所の神姫センターやけど」
「そうだろうな……普通みんなそうだ。神姫センターやゲームセンター、ホビーショップの対戦スペースなんかでプレイしてる。
 だが、そうである限り、誰もマグダレーナには勝てない。コタマだけじゃない、ここに来ているどの神姫も、勝てないんだ。もちろん、俺の神姫も例外じゃない」
「……それじゃあ、ミスティなら勝てるって言うんか?」
「……勝てるように、一生懸命特訓してる。こんな大がかりな機器を使い、君たちのような協力者を募って、ね」

 竹櫛さんは何か考えるようにうつむいて、押し黙った。
 コタマは何か言いたそうではあったが、これ以上の詮索はしてこない。何を言っても、俺が首を縦に振ることがないと理解したのか。
 そう、俺は誰に言われても……たとえクイーン・雪華ほどの実力者であったとしても、『狂乱の聖女』と戦わせる気はなかった。
 ミスティより先にマグダレーナに土を付けることを避けるため、ではない。
 俺の知りうる限り、どの神姫もマグダレーナにかなわない。
 もし可能性があるとすれば……この特訓を無事に終えた、新装備のミスティだけなのだ。
 俺はそう確信している。



 三月になった。
 厳しい寒さは次第に遠のき、春の気配が近づいてきているのを肌で感じる。
 それでも、深呼吸した空気の冷たさに、園田有紀は思わず驚いてしまう。
 今日は日曜日。卒業式を間近に控え、学校はあわただしい。期末試験も近いが、どうにも勉強に身が入らないのは、「特訓場」が気になっているからに他ならない。
 どうして気になってしまうのだろう?
 有紀は心の中で自問する。
 久住菜々子へのわだかまりは、いまだ消えていない。その彼女の自宅にこうも足繁く通っているのは、やはり「特訓場」での対戦が、厳しくも楽しいからだろう。
 有紀が通うようになって半月ほどだが、カイに実力が付いてきていることを実感する毎日だ。
 勝率は未だにさんざんな結果だ。それでも多くの実力者と手合わせできることはこの上もなく魅力的だった。

 F駅で電車を降り、久住邸へ向かう。
 ゲームセンター『ポーラスター』の前を通り過ぎようとしたときだった。

「ねえねえ、そこの神姫マスターさん!」

 背後で上がった声に、有紀は思わず振り向いた。
 ゲームセンターの前だから、他にも神姫マスターがいてもおかしくない。
 しかし、声の方を向いたのは有紀だけだった。
 念のため、声の主に、自分を指さしてみる。
 すると、その声の主……ポニーテールの髪に、派手な出で立ちの美人が、満面の笑顔で頷いた。
 背後に、三人の男性がいる。二人は遠野や菜々子と同じで、有紀より少し年上。もう一人は明らかに中学生くらいだ。
 なんともちぐはぐな四人組である。

「……何か用ですか」
「あのね、わたしたち、『エトランゼ』って呼ばれている神姫マスターのお宅を捜しているのね」

 またか。
 有紀は小さくため息をつく。
 このように久住邸への道を訊かれたのは、一度や二度ではない。

「……あたしもこれから、久住さんのお宅に行くところなんすけど」
「ああ! ちょうどいいね! 一緒に行きましょう!」

 満面の笑みで話す女性の後ろで、男性は三人とも苦笑している。
 この終始ハイテンションな女性は、会話の段階を一つ二つ飛ばして来るので、さすがの有紀も面食らった。

「ねえ、あなたのお名前は?」
「……園田、有紀、ですけど」
「わたしは城ヶ崎玲子。後ろにいる大きいのが佐名木クンで、中くらいのがしまぴー、小さいのがミズリンね」

 ……その紹介じゃ、誰が誰だかわかんないんですけど。
 そうごちる暇もなく、有紀は肩を抱かれ、城ヶ崎に道案内を強制された。
 それにしても、この不思議な四人組は、久住邸に呼ばれるほどに名のある神姫マスターなのだろうか?
 その疑問は、久住邸についてすぐ、解けた。

「佐名木一馬とケイティって、あのお台場で有名な『熱砂の戦鬼』か!?」

 と大城大介が驚けば、

「ちょっと、灰染!? あんた、誰の許可を得て、この家の敷居またいでるの!」

 と久住頼子が珍しく声を荒げ、

「水野健吾とクレア!? 君たちが……」

 と遠野貴樹がなぜか驚いており、

「ああ、島津くんとメリーって、こないだテレビに出てなかった? 食堂で働く神姫とマスターって、紹介されてたよね」

 と、ミスティの装備のメンテナンスをしながら、海藤仁がのんびりと言った。
 四者四様、反応のツボが違ったらしい。

 蓼科涼子は、有紀が連れてきた四人を知らなかったので、遠野たちが何を驚いているのかよく分からないが、いずれも有名な神姫マスターなのだろう。
 そう思っていると、一番神姫マスター事情に詳しい大城が、遠野に疑問をぶつけた。

「てか、遠野。なんでお前が水野のこと知ってんだ? そんな有名なマスターだったか? 俺は知らねーんだけどよ」

 当の水野健吾は、恐縮するように縮こまっていたが、顔には大城と同様の疑問の表情が浮かんでいる。
 遠野は健吾を見ながら、いつもの口調で言った。

「ああ……この間、横須賀にあった裏バトル会場が何者かによってつぶされた、って情報があったんだ。『狂乱の聖女』の仕業かと思ったんだが、奴は関わっていなかった。
 かわりに、その日最後までバトルしていて、会場の摘発に大きく関わっていると見られるのが……水野健吾という名のマスターと、アーティル型の神姫・クレアだ」
「ええっ!? そ、そんな話、広まってるんですか!?」
「いや、俺が最近、裏バトルの情報を集めてるから、聞いたことがあるだけの話だ」

 こともなげな遠野の言葉に、健吾はほっと胸をなで下ろした。
 確かに、裏バトルをつぶした、などという噂は、健全な神姫マスターには望ましくないだろう。裏バトルに参加する荒くれ者、という印象が強いし、必要以上に実力を過大評価されるおそれがある。
 あの水野という中学生が、そんな評価を望んでいるとは、涼子には思えなかった。
 ……それにしても、その横で、明後日の方向を向きながら口笛吹く真似をしている、派手な美人……城ヶ崎玲子はなんなのだろう?
 さらにその正面では、久住頼子が、いつもの穏やかな印象をかなぐり捨て、めらめらと闘志を燃やしていた。

「『灰染の女神』……この家の敷居をまたいで、まさか無事に帰れるとは思ってないでしょうねぇ……」
「……まさか、ナナちゃんの家族とは思いませんでしたよ、おばさま?」
「それは情弱がすぎるわね……せっかくうちに来たんだから、次の大会の前哨戦といこうじゃないの」
「前回大会の再現をなさりたいと?」
「今度はそううまく行かないわよ!?」

 どうやら、頼子と城ヶ崎というマスターは因縁の間柄であるらしい。
 遠野の指示も仰がず、二人はVRマシンを陣取ると、さっさと対戦の準備を始めてしまった。
 止める暇もない。遠野たちは苦笑する。

「……まあ、あの二人にはあとで話すとして……とりあえず、君たちの実力を見せてもらいたいな」
「わかった。早速やるか?」
「ええと、僕も混ざっていいのかな……」

 佐名木が首肯し、健吾は戸惑う。
 残る島津が、手に提げていた大きめのレジ袋を差し上げて言った。

「そうだ、これ、土産なんすけど」
「みやげ?」
「初めてのお宅に手ぶらで伺うのもどうかと思ったんで……ワカサギです」

 俺は首を傾げる。
 なんで手土産に生魚のワカサギなんて持ってきたんだ、この男は?

「いや、待ち合わせまで時間があったんで、駅前のデパート覗いたら、冬のうまいもの市がやってて……この時期、ワカサギがうまいんすよ。しかもキロ単位で安かったんで、つい買ってしまいました」

 すると今度は、小さい方のレジ袋を上げてみせる。

「生なんで、早めに料理しなくちゃいけないから、串と田楽味噌も買ってきました。台所貸してもらえれば、みなさんにワカサギ料理をごちそうしますよ」
「あ、ああ……台所、こっちです」

 菜々子さんは面食らいながらも、その髪を短く刈り込んだ男を案内した。
 隣にいた、中学生の水野健吾はにっこり笑って言った。

「輝さんは料理上手だから、きっとおいしい料理が出てくるよ!」

 ……そういう問題でもないような気がするんだが。



 ワカサギの田楽味噌焼き。ワカサギを串に刺し、田楽味噌をつけて焼いただけ、と島津は言っていた。
 しかし、旬のワカサギの旨みと田楽味噌の香ばしさが口いっぱいに広がり、ことのほかおいしい。

「いったい……なんなんすかね」

 遠野の隣でワカサギの串を頬張った有紀が、ぼそっと呟いた。
 いつもの指定席から離れ、入り口に近いテーブルの前に座っていた遠野は、いつものように表情の読めない顔を、有紀に見せる。

「何、とは?」
「いや……今日来た四人だって、お台場や横浜で名の知れた神姫マスターで、この料理作った人は、こないだテレビで紹介されたっていうじゃないですか」
「うん」
「他のマスターたちも、有名な神姫マスターばっかり……そんな人たちが、なんでここに集まってくるんですかね? 暇なんですかね?」
「わたしも、疑問です」

 二人の会話に、ワカサギを飲み込んだ涼子が口を挟む。
 今日、「特訓場」に顔を出しているのは、有紀と涼子の二人だけだ。他のみんなは、期末試験を控え、試験勉強の真っ最中だろう。

「あの人に声をかけられたからって……遠くからでもやってくるなんて、不思議で仕方がないです」

 二人の口調には棘が含まれている。いまだに菜々子への不信感を払拭できていない証拠だ。
 遠野はくわえていた串を口から離し、ごく真面目な口調で語り始めた。

「……神姫マスターたちがここに集まってくる姿は、菜々子さんとミスティが紡いできた、絆の軌跡だ」
「絆の軌跡……?」
「そうだ。
 菜々子さんは『狂乱の聖女』を追い求め、ミスティと一緒に、二年以上もずっと旅を続けてきたんだ。
 旅をする先々で、多くのマスターたちと出会い、戦い、絆をつないできた。彼女の歩いた跡が絆になったんだ。
 以前、俺はある人に言われたことがある。
 想いによって人は動く。
 『狂乱の聖女』を倒し、大切な人を取り戻したいという、菜々子さんの強い想いが、彼女たちと出会った神姫マスターの心に響いたんだろう。
 だからこそ、菜々子さんの呼びかけに、多くのマスターたちが応えるんだ。
 そしてここに集まってくる。
 だから、ここで繰り広げられているすべてが、『異邦人』が歩き、紡いできた、絆の軌跡なんだ」

 二人は遠野の言葉を黙って聞いていた。
 本当は、遠野に言われるまでもなく、全部分かっていた。
 しかし、その事実を認められない。菜々子をどうしても許すことが出来ない。
 ずっと抱えている葛藤に、二人はどうしても答えを出すことが出来ずにいる。
 だから涼子は、うつむいたまま呟いた。

「わたしは、どうすればいいかわかりません……」
「うん……」

 有紀がやはりうつむいたまま小さく頷いた。
 すると、遠野がこう言った。

「だったら、戦ってみるか? 菜々子さんと君たちで」
「え?」
「武装神姫の真実は、いつだってバトルの中にある。そうだろ?」

 涼子と有紀は突然の提案に呆気にとられた。
 いままで遠野は、二人と菜々子の対戦を組むことはなかった。二人が通い始めて半月もの間、ずっと。
 満を持してのマッチメイクである。
 涼子と有紀は顔を見合わせ、そして頷いた。
 心のどこかでは待ち望んでいたのかも知れない。バトルの結果、たとえどんなことになろうとも。自分の気持ちがどんな風に変わっていようとも。結果のすべてを受け入れる覚悟を今決めた。
 そして、二人の声が重なった。

「お願いします」



 バトルは、涼姫とカイのペアに対し、ミスティ一人のツー・オン・ワン。
 ゲームセンターでマグダレーナに挑んだときも、このペアだった。
 あれから数々の対戦をこなし、二人の実力は上がっている。マグダレーナ戦の時は急造ペアだったが、「特訓場」で何度もペアでの対戦を経験し、コンビネーションの精度も増している。今のミスティの実力を実感するにはいいマッチメイクだ。
 涼子も有紀も、負ける気はさらさらない。むしろミスティを倒す自信があった。
 テーブルの一番奥、菜々子は指定席に座っている。
 二人は菜々子の向かいにあるVRマシン二台の前に座る。菜々子と目を合わせることなく、黙々とセッティングする。
 今日来ている残りのチームメイトは、遠野と大城だけだ。美緒たちは期末試験前ということで、今日は来ていない。遠野たちは少し離れた位置で、観戦用ディスプレイに目を向けている。
 準備が整った。
 二人は改めて菜々子を見る。
 彼女の瞳に若干の戸惑いと怯えが感じ取れる。彼女たちが知る菜々子ではない。
 有紀の胸に浮かんだのは悔しさだった。
 そうじゃない。あなたはもっと自信満々、わたしたちを打ち負かすと笑顔で言えばいいはずなのに。

「よろしくお願いします」

 菜々子が頭を下げたので、二人もあわてて礼をする。
 そう言えば、菜々子はここでの対戦の際、必ずきちんと挨拶をしていた。
 涼子はふとそんなことを考えながら、頭を上げる。
 菜々子と目が合う。
 そして驚いた。
 この一瞬で、菜々子はまるで別人のようになっていた。瞳があまりにも真剣だった。
 まるで、これから真剣勝負をしようとする武道家の瞳。
 菜々子は、ここで行われたたくさんの対戦のすべてを、これほどの真剣さをもって戦っていたのだろうか?
 対戦のために、正面に座らなければ、決して分からない、本気の目。
 二人は思わず気圧される。

「リアルモード起動。ミスティ、行くわよ」
『了解』

 菜々子は静かに口を開き、そしてスタートボタンを押す。
 有紀は思わず、背筋を震わせた。
 まさか……この人は、毎試合リアルモードで対戦し続けていたのか!?
 以前、有紀は菜々子から聞いたことがある。リアルモードは滅多に使わない。勝ちに行くためだけの対戦はつまらないし、もう一つ、リアルモードは普段とは違う意識の持ち方をするので、普通の対戦よりも消耗するから。
 そう言っていたはずだ。
 それなのに、自分たちよりも多くの対戦を連続で、毎日こなしていたっていうのか、この人は!?
 有紀は戦慄する。
 思い出す、美緒の言葉。

「あの人は半端じゃない」

 そのとおりだ。今のこの人は半端じゃない。
 戦慄にとらわれながらも、闘志を奮い起こし、有紀はスタートボタンを押した。
 バトルが始まる。



 ステージは「都市」が選ばれた。近未来的なデザインのビルとハイウェイが配置された、ポピュラーなステージだ。
 ミスティ、カイ、涼姫、いずれの神姫も持ち味が発揮できるステージでもある。

 カイはハイウェイの上で、ミスティを待ち受けていた。
 有紀のカイにとっても、菜々子の神姫であるミスティは師匠も同然である。
 マスターである有紀の気持ちを、カイは正しく理解していた。だが、ミスティに対して憎しみのような感情をもてない。彼女もまた『狂乱の聖女』の被害者だと思っている。
 しかし、それがバトルで手を抜いていい理由にはならない。
 本気で挑んでくる相手に対し、全力で挑むのが礼儀だ。
 だから、マスターたちの思いはこの際横に置いておき、カイは純粋にバトルを楽しむことにしていた。

 カイの視線の先、緩やかなカーブの奥から、甲高いホイール音が聞こえてくる。
 ミスティに間違いない。
 ミスティの新装備は、シルエットこそ変化しているが、装備の意図は以前のミスティと変わらない。ものすごく単純に考えれば、三輪が四輪になった。それだけのことだ。
 カイは、ヴァローナ装備を組み替えた大鎌を構える。
 はたして、ミスティは現れた。
 カーブの向こうから、トライク形態で疾駆してくる。
 カイは素早く思考を巡らせる。
 すれ違った、その直後が勝負だ。すれ違いざまの一撃でしとめられるミスティではない。そしてもちろん、自分もすれ違いざまにやられる気はない。
 被我の距離はあっという間に縮まった。
 スピードを緩めずに突進してくるミスティ。
 カイもまた、大きく一歩踏み出した。

「はああぁっ!」

 横薙ぎに大鎌を振るう。
 刃先が届く直前、ミスティは変形を開始、サブアームの装甲で大鎌の一撃をいなす。
 そしてそのままカイとすれ違う。
 ここだ!
 カイは、大鎌を振り切った勢いを殺さず、また一歩前に出る。そして、「サバーカ」強化脚部パーツの膝をたたんで、その勢いをため込む。次の瞬間、後ろ向きに反転しながら、膝から反動を解放した。
 ミスティ直伝の反転攻撃『リバーサル・スクラッチ』。
 身体を捻りながら後方へと跳ねたカイの瞳がミスティを捉える。
 相手もまた反転している。その動きはカイの速度を上回っている。
 だが、身体を捻りながらの攻撃速度はミスティを上回る。
 接敵した瞬間、先に攻撃が届くのはカイだ。

「おおぉぉっ!!」

 気合い声とともに、副腕「チーグル」を繰り出す。高速で繰り出される副腕の爪の二連撃は捌けても、最後の大鎌の三撃目は捌けない。
 確信を持って、カイは攻撃を放つ。
 しかし、彼女の攻撃は、ミスティに止められた。

「……え?」

 いや、カイの動き自体が止められていた。
 イーダ装備の副腕よりも繊細な動きが可能となった、ミスティのサブアーム。それがカイの上半身を掴み、彼女の必殺の回転自体を止めていたのだった。

 だが、カイは焦らない。
 最終的にミスティに致命的な一撃を与えるのはわたしたちだ。
 カイには見える。
 まさに今、振り子運動によって無音で飛来した涼姫が、ミスティの背後から襲いかからんとする姿が。
 マグダレーナ戦で見せたコンビネーションと同じだが、あの時よりも速度と精度は段違いに増している。
 このタイミングではかわせない。
 そして、ミスティはかわさなかった。
 なんと彼女は、涼姫の背後からの一撃を、一瞥もせずに、空いている右の副腕で受け止めた!
 必殺の一撃を止められた涼姫の瞳が、驚愕に見開かれる。

「……見え見えなのよ、あなたたち」

 ミスティは静かにそう言うと、今度は自ら身を翻した。

「う、うわあああぁぁっ!」
「きゃああぁぁっ!?」

 左手で掴んでいたカイを突き放すと、そのままサイドキックで突き放す。ミスティは動きを止めず、身体の回転はそのままに、今度は右副腕で掴んでいた涼姫をカイに向かって、力任せに投げつけた。
 ワイヤーが延びていた涼姫の左腕がすっぽ抜け、身体はカイに激突する。
 さらにミスティが迫る。
 カイと涼姫は動き出そうとしたが、迫るミスティの背部からマシンガンによる牽制で動きを封じられる。

「よく見なさい。リバーサルの連撃は、こうやるのよ!!」

 ミスティが地を蹴り、身体を捻る。
 そのフォームはカイの必殺技『リバーサル・スクラッチ三連撃』と同じだ。
 違うのは速度。
 竜巻のようにミスティの身体が翻り、カイと涼姫はその渦に巻き込まれた。
 反撃も回避もできずに。

「きゅ、九連撃……」
「……つよい……」

 すれ違いざま、ミスティは三連撃を繰り出しつつ、身体は三回転し、合計九回の攻撃を二人に与えていた。

 カイと涼姫の最後の呟きは、ポリゴンの破片とともに掻き消えた。

 開始一分、ミスティの圧勝でバトルの幕は閉じた。



 バトルが終わり、勝利メッセージが消えても、有紀と涼子は呆然としていた。
 あの『狂乱の聖女』でさえ、二人の攻撃を別々に捌いていた。
 しかし、今のミスティはどうだ。
 あの時よりも精度を高めたコンビネーションを、初見で見切り、受け止めてしまった。
 これが、ここ一ヶ月しか使っていない新装備の動きだというのか。
 その圧倒的な強さと、完全な敗北を、二人はまだ受け止めきれずにいる。
 正面の小さな影が、お辞儀をした。

「ありがとうございました」

 菜々子は、これほどの完勝を手にしても、奢ることも、居丈高になることもない。
 礼儀正しく、頭を下げるのみ。
 瞬間、有紀は、はっと気が付いた。
 菜々子がこうして対戦する時に、必ず最初と最後に頭を下げる、その意味。相手が誰であっても……実力が上であっても下であっても関係なく、謙虚な態度でバトルに望むその想い。
 有紀はそこまで思い至ってしまった。
 そうしたら、もう身体が止まらなかった。
 有紀は立ち上がり、テーブルを回り込んで、座っている菜々子のすぐ横まで来ると、膝を落とし、視線を菜々子に合わせ、そして。

「すみませんでしたっ!!」

 そのまま両手をつくと、深々と土下座した。
 これには菜々子の方がびっくりした。その場にいた誰もが、何事かと、有紀の背中に視線を送る。
 有紀は、頭を床にこすりつけるような姿勢のまま、話し始める。

「……あたし、バカだから……菜々子さんがどうして、こうまでして頑張るのか……わからなかった……。
 今やっと……わかったんです……本気だってことが……あの、マグダレーナを倒そうなんてこと、本気で考えてるって……。
 自分がどんなにキツイ思いしても、あの人を……大切な人を取り戻したいんだって……そのくらい、あの人が大切なんだって……いま、実感した……」

 菜々子は何も言わず、ただ静かに、有紀の言葉に耳を傾けている。

「あたしのは……ただの嫉妬だった……あたしたちよりも、あの女の方が大切なのかって……そう思って……そんなのは、くだらない嫉妬だ……。
 二年も追いかけてきた人、そんな簡単に諦められるはずないのに……あたしは……自分の師匠の気持ち、信じないで、ひどいこと言って傷つけた……! 本当は、あたしが……一番弟子のあたしが、信じなくちゃいけないのに……!
 ……謝っても、許してもらえないかもしんないけど……すみませんでしたっ、すみませんでしたっ!!」

 すみませんでした、と大きな声で繰り返す有紀の背中に、菜々子はそっと手を置いた。
 その時。

「……わたしはあなたを許せない」

 有紀の後ろに立った人影。
 菜々子と有紀は、その人物を振り仰いだ。

「……涼子……」

 有紀の目に映った親友の顔は、柳眉がつり上がり、口は真一文字に閉じられていて、怒っている表情がひどく辛そうだった。

「でも……憧れは止められない……。
 だってそうでしょう? こんなにたくさんのマスターたちに慕われて、ピンチと聞けば集まってきてくれるような……大切な人を取り戻そうと、強くなろうとしてる人に、憧れないわけない。
 だけど、遠野さんを傷つけたことは、どうしても許せない。
 憎いほどに許せないけど、どうしようもなく憧れてる……この気持ち、同じでしょう?……菜々子さんと」

 菜々子はその言葉に、思わず瞳を見開いた。
 涼子がいっそう辛そうな表情を濃くする。

「こんな気持ち、堪えられるはずない。わたしはここに通う半月だって、ずっと悩んで苦しんでたのに……二年以上も……こんな気持ち抱えたまま、ずっと一人で……悩んで、苦しんで、戦って……あの人追いかけ続けるなんて……そんなの、堪えられるはずないじゃないですか……!
 バカです……バカですよ、菜々子さんは!! でもっ……!」

 涼子が倒れ込むように膝をついた。

「そんな気持ちを踏みにじったわたしは……もっとバカだ!!」

 張り裂けそうな声で叫ぶと、涼子は瞳から流れ出す雫を止めようがなかった。
 なぜ泣いているのか。何のために泣いているのか。
 いや、今自分が怒っているのか、悲しんでいるのか、それさえも分からない。

「言ってくれれば良かったのに!
 わたしたちじゃ……全然役に立たないかもしれないけれど……話聞くくらい、させてもらってもいいじゃないですか! そうじゃなきゃ、菜々子さんが辛すぎるじゃないですか!
 遠野さんと大城さんは、きっと力になってくれたのに!
 そしたら、わたしたちがあんなこと言わずに済んだかも知れないのに!
 菜々子さんを助けてあげたいのは、遠くから来た人たちだけじゃない……近くにいたわたしたちだって同じだった!
 だって……わたしたち、チームでしょう!?」

 ああ、こんな恨み言のような言葉をぶつけたくないのに。
 本当はもっと、優しい言葉で伝えたいのに。
 今も感情に引きずられて、うまく伝えられないのがもどかしい。
 有紀が小さく自分の名を呼ぶのを、涼子は聞いた。
 涼子は伝えるべき言葉を探して、ぐちゃぐちゃにこんがらがった頭を働かせようとする。
 その時だ。
 涼子と有紀は、細い腕に、そっと、かき抱かれた。

「ありがとう……ごめんね。ほんとうにごめんなさい」

 すぐ横に、菜々子の顔がある。そっと囁くような声が耳に優しく入ってくる。

「あなたたちに憧れてもらえるほど、強くなくてごめんなさい。
 あなたたちの信頼を、裏切ってしまってごめんなさい。
 あなたたちが今も大切で大好き。
 あなたたちと、チームのみんなと同じくらい……お姉さまが大事なの。
 許してなんて言えないかもだけど……大事な人をどうしても取り戻したいから……だからもう少し、頑張らさせて……」

 涼子と有紀に、もう語る言葉はなかった。
 二人の腕の中にいるのは、今まで憧れていた彼女ではないかもしれない。
 しかし、それでも憧れてやまない、本当の久住菜々子がそこにいた。
 涼子は声を上げて泣きながら、菜々子の背を叩く。
 有紀もまた、大きな声で泣きながら、師匠の名を呼び続ける。
 菜々子はただ静かに泣きながら、二人を抱く腕に力を込めた。
 三人の少女は抱き合ったまま、涙を流し続けた。閉ざしていた心の氷を溶かしつくし、涙に乗せてすべて流しきるまで。



「あんた……こうなることが分かっていて、マッチメイクしたのか?」

 俺の隣にいた男が言う。
 名は確か、島津と言ったか。
 肩にメリエンダ型の神姫を乗せている。見た目はまったくのノーマルにしか見えないが、先ほどの対戦で見せたパフォーマンスは驚くべきものだった。
 俺は苦笑しながら答える。

「まさか。……ただ、あの子たちは悪い子じゃない。きっと分かってくれるとは思っていたけど」
「ははっ……そんなの、分かってたのと一緒じゃねぇか」
「……は?」
「分かってくれると思ってたってことはよ、あの子たちを信じてたってことだろ? 
 こんぶにさんしょう、竹の子にわかめってことさ」
「なんだそれ」
「二つ以上の材料がしっくり合うものじゃなきゃ、いい味の料理は出来ねぇ。あの子たちが仲直りできると信じて、あんたはマッチメイクをした。だから、あんなにうまく行ったのさ」

 そう、なのだろうか。
 俺は、蓼科さんや園田さんが、いつまでも憎んではいられない優しい子たちだ、とは思っていた。
 だが、このバトル一回でどうにかなるなんて、考えていたわけではない。ましてや、すべて分かっていてマッチメイクしただなんて、買いかぶりもいいところだ。
 俺は首を横に振った。

「違うな……俺なんて、ほんとは何も分かっちゃいないんだ」

 そうだ。俺は本当に何も分かっていなかった。
 あちこち出かけて、彼女の過去を暴き立て、自分が大ケガする痛い目を見て、ようやく彼女の力になる覚悟が出来たくらいなのだ。
 それどころか……。

「それどころか、俺はまた菜々子さんを辛い道に誘おうとしている。
 もう二回も神姫を失う悲しみに、心は傷ついているはずなのに、それでも彼女を無理矢理立ち上がらせて、また神姫を失うかも知れない戦いに向かわせようとしてる。
 菜々子さんの幸せを考えれば、本当は俺なんてそばにいない方が……

……って、いってえええぇっ!?」

 俺が独り言のように呟いている途中で、いきなり目の前に火花が飛び散った。
 頭のてっぺんがひどく痛み、思わず涙目になる。
 いつの間にか隣に来ていた大城が、神妙な顔で握り拳を俺に向けていた。
 どうやらこのゲンコツを頭の上に落とされたらしい。

「いきなり何するんだ、大城」
「前から言おうと思ってたがな、おまえ、自分を過小評価しすぎ」
「は?」
「そうやって、何もかも自分のせいだって思ってるのが、嫌みだっつーの! お前はもっと『俺はチームリーダー様だ』っつって、ふんぞり返っとけ!」

 何を言っているのか、この男は。
 しかし、理解していないのは俺だけだったらしく、島津も海藤も頼子さんも、胸ポケットにいるティアまでもが、大城の意見に頷いていた。
 まったく、わけがわからない。


 この日以来、菜々子さんと蓼科さんと園田さんは、元のように、いや今まで以上に仲が良くなった。
 今では、ミスティの特訓を積極的に手伝ってくれている。
 ただ、三学期の期末テストの成績はさんざんだったらしいが、大丈夫だろうか。それが心配だった。










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