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7ページ目『その頃、鉄子は』



 木造二階建ての家屋に『物売屋』の看板を掲げたこの店の歴史は古く、国際連盟発足時から今日に至るまでその姿を変えていないという。戦火をくぐり抜けた伝統ある店なのだと八幸助に教わった鉄子が、
「古いわりに八幸助さんて二代目なんですよね。代が少なすぎやしませんかね」
と尋ねると、
「いろいろあるんだよ、複雑な事情がね」
と茶を濁された。
 八幸助の言う歴史が眉唾物でも、建物がかなり古いことは間違いなく、路地裏にひっそりと立つ様は隠居する老人のようだった。
 入り口を頼りなく閉じる戸を風がカタカタと揺らし、石油ストーブの上に置かれた薬缶がゆらゆらと湯気を立ちのぼらせる。鉄子は灯油が燃える微かな匂いに懐かしさを感じていた。
 無音、よりも静かだった。
 風が吹くまま、火が揺れるまま、湯が沸騰するままに音を出す、それらの動きを遮るものはない。
 有り体に言えば、客が来ない。
 寒波の襲来に負けずこの妙竹林な何でも屋を訪ねてくる暇人などもちろん皆無で、ハナから商売を諦めているのか八幸助、千早の寿夫妻も用事で外出していた。人通りの少ない路地裏に構えられた店の番をしているのがアルバイトの女子大生、竹櫛鉄子ただ一人だけという無用心な無防備さも、この閑古鳥が鳴く現状を思えば納得がいくものかもしれなかった。


 姫乃が飛び出していった弧域の部屋で、弧域と二人きり、非常に気まずい思いをしながら勉強していた鉄子は、八幸助から突然呼び出された時はこれ幸いと、そそくさと物売屋へ向かった。
 さすがに時間が経てば弧域へ寄せていた想いも吹っ切れて今は良き親友としてかつて以上の付き合いを続けているが、姫乃そっちのけで弧域の部屋にいられるほど鉄子の神経は図太くない。
 自転車を飛ばして物売屋に到着するなり、
「やあやあ鉄子君、突然すまないが店番を頼むよ。閉店時間になったら鍵を閉めておいてくれ。ストーブは好きに使っていいけど、店を出る時はちゃんと火を消すんだよ。ああ、でも灯油も残り少ないなぁ」
 八幸助に鍵を渡され一人取り残された鉄子は、律儀に店長代理を務めるのだった。
(どうせお客さん来んのやし店閉めればいいやん)
 鉄子の携帯電話が鳴ったのは、客足など皆無のこの時間をどう潰そうか、薬缶からのぼる湯気をぼんやり見つめながら考えていた時のことだった。
『もしもし、竹さん? 火急の仕事を頼みたい。姫乃を普通の女の子に戻してくれ!』




 仕事云々よりも姫乃と弧域が心配になった鉄子は、意味不明な発言を繰り返す弧域の電話を早々と切って、姫乃に電話をかけた。
 多少わけのわからない事を言って落ち込んではいたものの、弧域の心配は取り越し苦労だった――そう安心しかけた矢先、電話の向こうの姫乃の様子が明らかにおかしくなった。しかも聞き慣れない子供らしい声まで聞こえてくる。
 物売屋でアルバイトを続けること早二年。鉄子の鍛えられた嗅覚は事件の匂いを嗅ぎとった。
「傘姫? 何があったん?」
 姫乃は携帯電話を耳に当てていないのか、聞こえてくる音量は小さかった。
『どこから入ったの? えっと、お名前はなんて言うのかしら』
『ひっどい他人行儀! 射美はママの子供でしょ!』
「か……」
 隠し子!? と叫びかけた鉄子は慌てて口を噤み、いやいやと頭を振った。
(声は幼いけど『他人行儀』とか難しい言葉知っとるし、それなりに成長しとるんやろ。仮に小学生くらいとして、逆算すると――10歳くらいで産まないかんやん! そうなると丁度、二次性徴が始まったくらいで……)
『ちょっと鉄ちゃん? 今とんでもないこと考えてるでしょ』
「ごめん……傘姫が辛い過去を送ってきたのは知っとったけど、まさかそんな早くから……」
『嫌なこと思い出させないでよ! っていうか違うからね、私まだ子供産んだことなんてないからね』
『ママ……あたし、ママの子供じゃない……?』
『ああっ、泣かないで。ほら、良い子だから、ね。よ~しよし』
「で? 今そこにおる子は傘姫の従姉妹かなんか?」
 見ず知らずの従姉妹とある日突然顔を合わせることは、親戚の数が多い鉄子がよく経験することだった。どういった経緯かは知らないが、遊びに来たイルミちゃんという子が姫乃をからかっている――少なくとも、姫乃がランドセルを背負っていた頃には既に腹を痛めて母親になっていた、というよりは現実的だった。
 しかし、姫乃にはまったく覚えがないという。
『従姉妹の悪ふざけならいいんだけど、この子、今本気で泣いて――あっ、どこ行くの! 待って、そっちは弧域くんの――なんで合鍵持ってるの!? ごめん鉄ちゃん、後でかけ直す!』
 慌ただしく電話が切られてしまった。
 ツー、ツー、という音を鉄子はしばらく呆然と聞いていた。
(なんか大変そうやし、私も行ったほうがいいんかねえ)
 そう考えはしたものの、あまりに状況が不明確すぎる。鉄子にしてみれば、今までの通話は弧域と姫乃が仕掛けたドッキリだった、という説明が一番しっくりとくるくらいである。
 だが一応、弧域から『姫乃を普通の女の子に戻してほしい』と依頼を受けてもいる。料金先払の物売屋としてはまだ動くことはできないが、困っている親友を助けるのはプライスレス。
 鉄子のすぐ側に置かれた石油ストーブが、ボッ、ボッ、と勢いのない音をたて始めた。火はみるみる勢いを失っていき、今にも消えてしまいそうである。八幸助が灯油が切れそうだと言っていたことを思い出した鉄子は急須を取った。
(よし、あと一杯飲んだら……帰ろう)
 君子トラブルに近寄らず。これは鉄子が物売屋で働くうちに身を持って学んだ教訓の一つである。
 八幸助から仕事を丸投げされることは多々あったが、あくまでアルバイトであって探偵でもなんでもない鉄子が必要以上に首をつっこんだ時は、必ずといっていいほど藪をつついて蛇を出すことになってしまうのだった。
 フィギュアが動くだの隠し子だの、きな臭い状況に自分一人で挑んでもどうしようもないと見切りをつけてしまえば、
(なんかあったら、そん時にまた考えればいいやね)
何かとズルズルと悩みがちな鉄子であっても割り切ることができた。
 茶が出るのを待つ間、ぼんやりと天井からぶら下がる電球を眺めていた。携帯電話だけで繋がっている向こう側が慌ただしかっただけに、戸が風に揺れ、ストーブが勢い弱く火を灯し、薬缶がゆっくりと湯気をはき出すこの静かな時間が、とても大切なものに感じられた。なんだかんだと物売屋に不満を漏らす鉄子ではあるが、この素朴な土間のことは気に入っているのだった。
 自分用の湯のみに茶を注いだ鉄子は、ぽつりと、誰に宛てるでもなく呟いた。
「これ、ほんとうに武装神姫のSSなんかね」




 さすがの姫乃も、弧域のこの表情は見たことがなかった。
 オカルトに手を出した彼女をどう扱ったものかと頭を抱えていた最中、突然部屋に飛び込んできた美少女にみぞおちを狙ったタックルを仕掛けられた弧域。彼の表情には苦悩、混乱、苦痛、僅かばかりの至福が浮かんだ。
「聞いてパパ! ママがね、ママがね、あたしのこと知らないっていうの!」
「えっと、イルミちゃん? その人から離れてあげて。すごく苦しそうだから」
 弧域のみぞおちに顔を埋めていた射美が顔を上げると、脂汗を流し【耐える顔】をした弧域と向かい合った。驚いた射美はすぐに弧域から離れた。
「あ……ご、ごめんなさい、パパ……」
「い、いいんだ……大きくなった……な…………ぐはっ(ガクリ)」
「パパァァァァアアアアアアアアッ!?」
「なんのコントよ」
 弧域と付き合う中で、知らず知らず妙な方向の耐性を身につけていた姫乃だった。


「冗談はこれくらいで」
 そう前置きした射美は、ベッドの上で胡座をかく弧域の脚の上にちょこんと座っている。その二人の姿があまりにしっくりしすぎていて、姫乃は射美に嫉妬せずにいられた。弧域はというと、姫乃にとてもよく似た少女にドギマギせずにはいられなかった。
「はじめまして、パパ、ママ。一ノ傘射美です。射形が美しいって書いて、イ、ル、ミ、ね」
「初めましてって、じゃあ、さっきまでは」
「びっくりした? にはは、二人を驚かせようと思って」
「待て待て、じゃあ君は誰だ。一ノ傘って言ったけど、姫乃の親族か?」
「違……くはないけど、従姉妹とかじゃなくて、パパとママの子供なの。パパが一ノ傘弧域になって、あたしは一ノ傘家の娘」
「まさか未来から来た……わけじゃないよね?」
「神姫は作れてもタイムマシンは作れないよ。ママ、ちゃんとお勉強しないと」
 ムスッとする姫乃を、弧域がまぁまぁとなだめた。
「射美ちゃんは、あのフィギュアのことを知ってるのか」
 弧域が指差した先には、ロングコートを着て剣と爪楊枝を構えた金髪の戦乙女、アルトレーネのフィギュアがある。アマティやカグラと同じであるはずの神姫。だが、動き出す気配はない。
 射美は頷いた。
「知ってるよ。あの子は眠ったままだね」
「そうか、やっぱり動くやつは動くのか……いや、今は置いておこう。じゃあ、射美ちゃんはどこから、どうやって来たんだ?」
「よく分かんない。ママが逢いたいって言うから来たの」
「私が? えっと、まさか、コウノトリに運ばれてきた、とか、言わない、よね?」
「あはははは。コウノトリってママ、いまどき小学生でもそんなおとぎばなしは信じないよ」
 イラッとする姫乃を、弧域がまぁまぁとなだめた。
「もうちょっと詳しく聞かせてくれ。射美ちゃんは姫乃の部屋にいたんだよな。姫乃は射美ちゃんが部屋に入ったことに気づかなかったのか」
「うん。ずっと廊下にいたんだけど」
「ってことは、窓から入ったのか?」
「分かんない。いつのまにか、ママのお部屋にいたの」
 弧域と姫乃は頭を捻り、早くもお手上げ状態だった。
 一ノ傘射美――そう名乗る少女が嘘をついている、もしくは記憶が混濁していると考えるのが最も妥当だったが、弧域と姫乃は不思議と少女の言葉を信じる気になっていた。
 少女は、他人とは思えないほど【ママである姫乃】に似ていた。さらに太めの眉は【パパである弧域】の特徴でもある。加えて、【射美】という名前は、姫乃が弧域との間にできる子供を一人妄想したもので、まだ物売屋の八幸助くらいにしか教えたことがない。
(あれ? そういえば私、どうして八幸助さんに名前のことを教えたんだっけ)
 いよいよ頭がこんがらがってきたところで、姫乃はハッと思い出した。エルを目覚めさせるため(という名目で弧域に謝罪するため)にアマティ達と部屋を出た時、ストラーフのイルミを部屋に残していたのだ。
「イルミに聞けば何か分かるかも」
「なに? なんでも聞いてよ」
「あなたじゃなくて、神姫のイルミのことよ。私の部屋にずっといたから、あなたが部屋に入った時のことだって――」
「イルミはあたしだよ。ママのお部屋にはいなくて、ここにいるのがイルミだもん」
「どういうことだ? イルミってだって……おおお?」
 姫乃より理解力があるつもりだった弧域だが、姫乃と射美、二人の会話にまったくついていけなくなっていた。なんとか考えをまとめようと瓜二つの二人を交互に見比べているうちに、どちらが姫乃でどちらが射美だったか、本気で分からなくなりそうなほどだった。
「ママの言う【神姫のイルミ】はもういないよ。だってあたしがイルミだもん」
「神姫だったイルミが、人間の射美になったっていうの? そんなこと……」
「フィギュアが心を持つんだし、そんなこともあるかもしれないよ。それにママ」
 弧域の胸元から離れた射美は姫乃に近づき、顔を覗き込んだ。姫乃が驚いて仰け反っても構わず近づき、そのままベッドに押し倒してしまった。
「にはは」と姫乃と同じ顔で笑う射美。
「……にはは」と射美と同じ顔で笑う姫乃。
 二人は【似ている】のではなく【同じもの】ではないかと、姫乃の勘が告げていた。
「ママの神姫はイルミじゃなくて、ニーキでしょ?」


「と、とにかく。迷子の子供は警察に預けるものと相場が決まってるんだ。射美ちゃん、いろいろ忘れてるみたいだけど、警察の情報をもってすればいろいろ分かるかもしれないぜ」
「チッチッチ。パパがあたしをポリスメンに引き渡そうとすることなんて、サンタさんの正体と同じくらいお見通しデスヨ」
 姫乃にしがみついた射美は、目を光らせ、いやらしい笑みを弧域に向けた。姫乃と同じ顔で作られるその表情に一瞬、見惚れそうになる弧域だったが、その可愛らしくも蠱惑的な口から告げられた言葉に唖然とする他はなかった。
「もし警察に連れて行かれたらあたしは、誘拐されて性的虐待を受けていたって証言しマス!」
 近頃の子供ときたら、と嘆きたくなるような突拍子もない発言である。
 してやられた! とギリッと唇を噛んだ弧域とは対照的に、姫乃は鼻で笑いこそしなかったものの、内心では所詮は子供の浅知恵だと嘲笑っていた。
「こらこら射美ちゃん、子供が性的虐待だなんて言葉を使っちゃいけません。それに、そんなすぐにバレる嘘をついたって駄目よ」
「それはどうかなママ。ねぇパパ、ママはこう言ってるけど?」
「……姫乃。世の中のまっとうな男子がどれだけ痴漢冤罪を恐れてるか、知ってるか?」
「え? 痴漢? それはでも、自分はやってませんってちゃんと証言すれば――」
「勿論、『自分はやってない』なんて言葉に意味はないぜ。容疑者にされた時点で、被害者ぶる奴があまりに支離滅裂なことを言わない限り、アウトになっちまうんだ。いろんな意味でな」
「あたしが『この人に誘拐されて虐待を受けた』と言えば、パパにはそれを覆せるだけの証拠がない。被害者であるあたしが嘘八百をつき通すのと、容疑者であるパパがそれを覆すのでは、圧倒的にあたしに利がある。何故ならそれは【悪魔の証明】! 無いものを無いと証明することは、かぐや姫のおつかいを達成することよりも困難!」
「射美ちゃん、キャラが変わってるわ」
「さあどうするのパパ、ママ! 大人しくあたしを子供として迎えるか! 新聞に不名誉な形で名を載せるか! 二つに一つよ!」
 二人の間に立った射美は堂々と、そしてあまりに卑怯に勝ち誇った。一ノ傘夫妻恐れるに足らずと胸を張った。
 射美は弧域が押しに弱いことを熟知していた。手段など実のところどうだってよく、強引に押し切ってさえしまえば、折れた弧域に姫乃を説得させるだけで、二人の心をいとも容易く掌握してしまえる。
 真の親子の姿とあまりにかけ離れている点には目をつぶるとして、射美が勝利し、弧域と姫乃が敗北し、彼らは晴れて親子となる――かに思われた。
「……そろそろいい、かな? 弧域くん」
「ああ、十分だぜ」
 ゆらり、と弧域と姫乃は射美を挟むように、逃さないように、立ち上がった。弧域は言うに及ばず、背の高いほうではない姫乃でも、射美よりは頭一つ分ほど高い。
 二人の只ならぬ気配を感じ取った射美は、勝ち誇った笑みを引きつらせた。そして彼女はこれから、絶対に覆し得ない真理を思い知らされることとなる。
 曰く、子供は大人に敵わない。
「クックック……」
「フッフッフ……」
「な、なによパパもママも、変だよ! 気味悪いよ!」
「射美ちゃん――いや射美よ。お前がママと呼ぶそのお姉さんの趣味を知っているか」
「えっ、趣味? そ、それくらい知ってるもん。 第一部の三話目 で言ってた、ひとりぼっちの自分探しの旅でしょ」
「射美ちゃん、もっと優しく言ってくれないと大人だって傷ついたりするんだよ」
「その通り。休日にフラリといなくなり、土産話を聞いてるこっちが恥ずかしくていたたまれなくなってくるような一人旅で姫乃は――」
「弧域くん!? 今本音が聞こえたんだけど!」
「先月、こいつを拾ってきた」
 弧域がポケットから取り出したもの、それはペンより一回り太いくらいで、鈍い銀色をした機器だった。小さな液晶画面といくつかのボタンがついている。
 それが何なのか分からない射美の前で、弧域はボタンを操作した。すると、
『パパがあたしをポリスメンに引き渡そうとすることなんて、サンタさんの正体と同じくらいお見通しデスヨ』
 機器からノイズ混じりの射美の声が聞こえてきた。
 反射的に射美は手を伸ばすが、弧域はそれをひらりと躱した。
『もし警察に連れて行かれたらあたしは、誘拐されて性的虐待を受けていたって証言しマス!』
「ボイスレコーダー!? ま、まさかそんな……パパとママはエェージェントゥなの!?」
「俺達は潜入捜査を得意とするエェージェントゥでも、腕時計に麻酔針を仕込む名探偵でもない、ただの大学生だぜ。その上で自慢させてもらうが――」
「私と弧域くんの絆の強さは誰にも負けないのよ。私が目で『ボイスレコーダーを使って』って合図すれば、弧域くんはその通りに動いてくれるんだから」
 姫乃はボイスレコーダーを拾った日からずっと、形状がペンに似たそれをペンケースの中に入れていた。勿論、日常的に使う用事などあるはずもなく(一度か二度、鉄子がアルバイトで借りた程度)秘密道具を隠し持つことに少々憧れていただけなのだが、それが今日、初めて実用的な道具となった。
 射美と二人で弧域の部屋へ押しかけた姫乃は、自分が置き忘れていた勉強道具を見つけた。どさくさに紛れて回収しようとしたが、ここでいつもは鈍すぎる勘が珍しく働いた。
 一ノ傘の姓を名乗り、保護を求める怪しい少女の登場。一歩間違えば民事・刑事どちらの訴訟も免れない状況である。
 そしてペンケースの中にはボイスレコーダーが入っている。姫乃がもし弧域とケンカをせずに勉強道具を自分の部屋に持ち帰っていれば使えなかった。まさに不幸中の幸いである。
 秘密道具を今使わずして、いつ使う。
 目で合図を送った姫乃の意思を正しく読み取り、弧域はこっそりとペンケースからボイスレコーダーを取り出し、服の中に忍ばせておいたのだ。
「さあ、どうする射美? あくまでポリスメンに嘘をつくってのならそうしてみろよ。ただし相応の覚悟をしてもらうぜ」
「う、ううう……」
「俺としては、犬のおまわりさんよろしく、迷子の子猫らしく素直でいたほうがいいと思うがなあ」
「ううううううっ……」
「さっきは一ノ傘射美って名乗ったけど、それも怪しいよなあ。ほんとは全然違う本名があるんだろ。ほれ、怒らないから言ってみろ」
「うわあああああああああああああん!」
 あれほど強気だった射美が、大粒の涙を流してうずくまってしまった。どこからそんな声が出るのか不思議なほどの泣き声が部屋中に反響する。
 赤ん坊とは違い明確な意思を持って泣く少女の涙は、二十歳を過ぎているとはいえまだ人生経験に乏しい二人にとって何よりも衝撃的だった。
 その射美を挟むように立つ弧域と姫乃は今更になって、まだ幼い少女に対してまったく大人気なく、卑怯にもよってたかって攻撃していたことに気付いた。
 二人の間に気まずい雰囲気が流れるより早く、姫乃は大泣きする射美をあやしにかかった。
 一時間ほど前は鉄子を泣かし、今度は年端も行かぬ少女を泣かして狼狽えるばかりの弧域とは違い、弱い者には無条件で優しくできるのが、誰もが認める姫乃の良い性格である。
「ど、どうせ嘘泣きなんだろ? その手には乗らないぜ、迷子の子猫ちゃんだからって泣いてばかりじゃ――」
「女の子が泣いてるのに何言ってるのよ! ハンカチのひとつも出せないの!」
「い、いや、だって、俺達はめられそうになったんだぜ? このままじゃ思う壺じゃないか」
「疑いたくなる気持ちも分かるけどね、弧域くん。……この子は今、本気で泣いてるのよ」
 姫乃が射美の背中にそっと腕を回し頭を撫でてやると、射美は姫乃の胸に飛び込んで泣いた。少し落ち着きを取り戻したが、しばらく泣き止むことはなかった。
 辛抱強い姫乃の姿に心を打たれる弧域だったが、先程情けなくも一喝されてしまい狼狽えるばかりだった。それでも射美を落ち着かせようとたどたどしく奮闘する弧域を見て、姫乃はクスリと笑った。
 不格好ではあったが、これが、一ノ傘家としての初めての交流だった。
「ひっく……パパと、マ、ママと、一緒にいたい……うえええええんっ」


 時を同じくして、物売屋では鉄子が最後の茶を飲みきり、戸締りを確認して回っていた。
 泥棒が侵入して盗めるものなど居間に置かれた千早の意味不明なグッズ程度のものだが、尊敬する千早のため、そして一応、雇用主である八幸助のため、鉄子は抜かりなく鍵を確認して回った。
 最後に店の正面、台風が直撃すれば飛んでしまいそうな戸に鍵をかけた鉄子は、ぽつりと、誰かに宛てて呟いた。
「すみません、神姫は次回からちゃんと出ますんで」







■キャラ紹介(7) 竹櫛鉄子

【没ラブレター集】

『その1 テンプレ』
――――――――――――――――――――――――

明日の20時

城尊公園の望楼で待ってます

鉄子

――――――――――――――――――――――――
(意外にも誰も近づかず、かつロマンチックなため逢引にベストな場所と思われたが、下見に行ったら蚊に刺されまくったため、没)





『その2 縦読み』
――――――――――――――――――――――――

あさっての材料力学の試験、
なん章が範囲やったっけ?
たしか3章やったと思うけど自信ない。
のこりあと一日で
こアラ






――――――――――――――――――――――――
(縦読みが思いつかなかったため、没。 仮に完成していたとしても、こんなふざけたラブレターがあってたまるか)





『その3 ポエム』
――――――――――――――――――――――――

背比弧域様
シリウスのように一際強く輝くあなたが眩しくて、私は飛んで火に入る夏の虫くらいちっぽけながらも、あなたの輝きに導かれずにいられません。
(あなたが何と言おうと、あなたはシリウスです(笑))
深く暗い思惑の森で彷徨う中、枝葉の隙間から時折見せてくれるあなたの知的な眼差しが道標となり、蝶となった魔女は初めて、人の暖かさを知るのでした。
そこ! ちゃんとストーリーがあるんだから意味不明とか言わないで!

……コホン。気を取り直して。

その魔女は元は森に捨てられた人間の女の子でした。
(「女の子」にツッコミを入れないこと)。
女の子が立ち尽くす場所、そこは鳥たちのさえずりも、虫たちの合奏もない、木々の沈黙だけが支配する森でした。
昼間は自分の庭のようだった森が、手のひらを返すように女の子を怯えさせます。
勇気を振り絞った女の子は当てずっぽうに前へと歩き出しました。
木の横を何本通りすぎたかも分からないくらい進みましたが、景色が変わることはありませんでした。
恐怖で足がすくみ、実は最初にいた場所から全然進んでいないことなど、女の子が知る由もありません。
温かいスープがある家も、オオカミに食べられたおばあさんの家も、暗い森の中ではどの方向にあるのかすら見当もつかず、ついに女の子は泣きべそをかいてしまいました。
お腹がすいて動けなくなりました。
くたくたに疲れ、寒気に身体がふるえ、木の幹に寄りかかって眠ることにしました。
この森にはもう二度と朝が来ないことを知っていながらも、女の子にはどうすることもできませんでした。
ゆっくりとまぶたを閉じようとした、その時です。
森の中を強い風が通り抜けて、木々がざわめきました。
まるで森が女の子を襲おうとしているようで、女の子はひどく怯えました。
お父さんとお母さんとオオカミに食べられたおばあさんの名前を必死で叫んでも、葉が責め立てる声にかき消されてしまいます。
風が止んでも、森は女の子を責めることを止めませんでした。
いよいよ、女の子は居場所を失くしてしまいました。
誰かの名前を叫ぶことはおろか、そこに立っていることも、息をすることすらも許されないのです。
ですが、たったひとつだけ、奇跡が起こりました。
天も地も黒一色のはずの森、その空に一点の輝きが灯りました。
それはほんの一瞬、暗闇に光を灯してすぐに森に覆い隠されてしまいましたが、女の子の瞳に強く焼き付いた輝きは消えることはありませんでした。
そして女の子は光の方向へ走り出しました。
木の根につまずいて転んでも、枝にドレスを引き裂かれても、シリウスに導かれるまま、森の奥深くへと入っていきました。
ただひたすら走り続けた女の子はいつしか「星を求める魔女」となり、伝説となった今もシリウスを求めて彷徨い続けるのでした。

……ここまで読み飛ばしてない? 後で感想文書かせるからちゃんと読んでよね!

補足しますけど、その女の子は小学生だった時にシリウスを見つけて、ずっとずっと暗い森を彷徨って、大学入試の時にやっと再会することができました。
ここまで言ったんだから、後は何が言いたいかを察して下さい。
(これでいいのかラブレター……)
返事……待ってます。

――――――――――――――――――――――――
(ポエムも酷いが、それ以上に所々に挿入された照れ隠しが目も当てられないため、没)





『その4 ポエム修正』
――――――――――――――――――――――――

「星を求める魔女」

その昔、ある小さな国の領土の四分の一を占める、滅多なことでは人が立ち入らない森があった。
一年を通して少々肌寒いくらいの気候








――――――――――――――――――――――――
(前のポエムを捨てきれずにリメイクしようとするも筆が進まず、気晴らしに風呂に入っているうちにコタマに原本を読まれてしまい、大喧嘩が勃発。その後に便箋を破り捨てて没)









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