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番外その二   「食人姫 (しょくじんき)」






 それは、ある日の朝方のことでございました。
 まだ朝日の差し込みきらない、ビルディングの薄暗い谷間を、小さな人影がひらり、ひらりと飛んでゆくのが見えます。やや、あれは恐らく、ちまたを賑わせている『武装神姫』というものに相違ありません。
 この武装神姫とは、見た目には女の子の姿をした人形と変わりがありませんが、自由自在に動き、人と同じ千差万別の個性、心をもつことから、人々に親しまれているのです。ちなみに彼女が好むのは、人目につかない暗がりから、人間というものを気の向くままに観察することでした。ですから今朝もこうして、道行く人が空き缶を蹴飛ばす姿や、時計を覗き足早で立ち去る姿を、ベランダの手すりから足をぶらぶらさせて、じっと見物していたのでございます。
 と、彼女の目が、階下にあります公園のベンチに座る男をとらえました。男はなにやら所在ない様子ですが、どうしたというのでしょう。
 彼女はしばらく、マンションのベランダの手すりに座ってそれを見つめていましたが、やがて背を向けると、いつの間にやらどこかへ飛び去ってゆきました。





 ※※※




 さて、所変わって夕方の公園でございます。
 男は朝と同じように、ベンチに座ってうなだれておりました。垂れ下がった手に握られた茶封筒には、いくらかの千円札が入っています。ははあなるほど、彼は身銭を稼いでいたんでございますね。
 ええ、この男はまだこの町に出てきたばかりで、日々の暮らしになんとか困らぬよう、アルバイトで生計を立てておりました。ただ、こと金を稼ぐとなると世の中なかなか上手く行かないものですから、一度にそれほどの稼ぎは得られません。今日はコンビニ、明日は居酒屋と、あちらこちらを渡り歩いていたのです。
 そんな男には、一つ目標がありました。例の、武装神姫のオーナーとなり、そしていずれは『バトルロンド』にて全国に名を連ねるほどの実力者になることです。オーナーとは、文字通り武装神姫の持ち主のことでして、しかしこの武装神姫、しっかりしたものを揃えるのには意外と費用がかかるのでございます。中古となれば手は届きもしましょうが、しかしゆくゆくは全国ですから妥協をするつもりは、当初男にはありませんでした。そんなわけで、彼はただただその夢を大事に守りながら、日々の仕事を乗り越えていたのです。
 しかし夢が叶わないというのは、なかなかどうして心に良くない風を吹かすものです。男はいくらも良くならない、また武装神姫が買えるようにもならない今の生活にほとほと疲れ果てておりました。



 夕日が、だんだんと山の端に消えてゆきます。
 男は短く息を吐いて、己の手に握られた茶封筒を見つめておりました。ああ、いつになれば俺の暮らしは良くなるのだと、男は考えました。まだ、彼を産み育てた母親への仕送りも残っているのです。
 その、丁度夕日がマンションの影に隠れた時でございます。
 何気なく地面を見つめていた男は、前方からコトリと、音がしたのに気がつきました。目を上げてみれば、それ、男が座っているベンチの正面、手の触れそうな距離に、銀の箱が置かれているではありませんか。
 男は目を疑いました。何故って、どこからどう見ても重たそうです。風に吹かれてきたとも到底思えません。男はそこで初めて、ブランコの後ろの木陰から、二つの目玉が自分を見つめておるのに気付いたのです。


 男はうろたえました。そうでしょう、訳の分からぬ怪しげなものに見つめられているとなれば、ごく自然な反応です。蛙や鼠の類いだって同じでしょう。
 目玉、――いや実際には目玉と形容してもよいものか、なぜならそれは薄暗い木陰に守られて、男には電球が二つ暗がりの中で輝いているようにしか見えず、ついに正体をつかむことはかなわなかったのです――は、男に向かって言いました。
 曰く、武装神姫は欲しくないか、と。
 男は今度は己の耳を疑いました。男は、自分が武装神姫を欲しいと思っていることを、ごく親しい人間にしか知らせていなかったからです。突然現れたこの得体の知れないものが、何故それを知っているというのでしょう。
 目玉は、男の心中を察したのか、こう続けました。
 心配しなくていい。これは君への贈り物で、私は君の手助けをしたいと思ってやって来た。そのケースの中にいい神姫が入っているから、開けて持って行くといい。平気だ、新品と変わらない。
 男は、ただもうこの怪異に恐ろしいのと驚いたのとで、この場から逃げだそうかと思いましたが、しかし同時に男は、何故かは分かりませんがこの箱を開けて見たい衝動にもかられました。恐い物見たさとでも言いましょうか。箱はふたがずれていて、軽く手が触れれば開いてしまいそうです。あと少しで中身が見えるか、見えないかです。
 何より、これがもう少しでも離れた場所に置かれていたならばあきらめもついたでしょうが、男には己の手の届く場所にある箱を調べもせずにこの場を立ち去ることが、ついに出来なかったのでございます。
 男は、恐る恐る箱に手を触れました。
 始め、覗いたのは黒い布でした。続いて黒い手足と、夕日を受け白く光る髪が現れ、男は目を見張りました。確かに、彼の求めていた武装神姫に違いありません。目玉は、男が安堵したのを見て、低い笑い声を漏らして揺れました。
 何度も男が武装神姫を、角度を変えて眺める度に、それは日光を照り返して美しく輝くのです。手に取ったものが、あまりにも素晴らしかったために、男は恐ろしいのも忘れて目玉に礼を言いました。茶封筒の中身を差しだそうとさえしましたが、目玉はまた低い声を漏らしながら、それは結構だと言いました。そうして、一つだけ言っておくが、君はそれをいつまでも大事にしてくれるかなと問いました。男は、もちろんだと頷いて、再び礼を言いました。
 目玉はまたくつくつと揺れると、木陰の闇の中へ溶けてゆきました。
 男は、自分は夢でも見ているのかと思い、何度も目をこすりましたが、彼の手の中にまだ神姫はあったのです。




 ※※※




 さて、男は自分の家に帰ってから、すぐにもう一度箱を調べました。
 全く、見れば見るほど素晴らしい神姫です。黒い体はうるしを塗ったように輝いており、そこから少女らしい白い太ももや胸元が覗く様は艶めかしくもあります。コンピュータによって調べたところによると、この神姫は戦闘機をモチーフにしているようで、なるほど付属の鎧と思わしきものにもプロペラや機銃が付いております。
 男は早速この神姫を起こそうとしました。クレイドルなるものを使って充電をすることはとうに調べてありましたから、箱に同封されたクレイドルをコンピュータにつなぎ、この神姫を寝かせました。
 夜もふけた頃になってから、男が再び確認すると、神姫は充電が済んだようで起き上がっていました。話しかけてみましたが、反応は返ってきません。おかしい、俺をオーナーだと認めているはずだがと男は考えましたが、次の日は早朝からアルバイトが控えていたために、これ以上は詮索せず、男はさっさと床につきました。





 ※※※



 翌々日には、男は近所のゲームセンターへと出かけました。
 ゲームセンターには、『バトルロンド』の試合を行うための設備があり、男は自分の神姫の実力を試そうと思ったのです。登録のためのカードを、少し時間がかかりましたが作り、まずは練習として、人間ではなくコンピュータの命令する神姫と戦わせました。
 相変わらず神姫は表だった反応を返しませんでしたが、試合を行うとなると話は別でした。能面のような表情の裏に確かな意思を宿し、男が命じるまでもなく、試合に向かってゆくのです。そうして、圧倒的な実力で、相手をなぎ倒しました。
 黒い翼をきらめかせ、桃色の剣が一閃する度に、のっぺらぼうの人型人形がばったばったと切り伏せられてゆく様子は、男にこれまでにない爽快感をもたらしたのです。
 コンピュータとの戦いを数試合、そして人の命令する神姫との試合をさらに数試合して、男は帰りました。その日の成績は全勝でした。
 男は顔中に笑みをたたえて帰って行きました。ましたが、彼から少し離れたところで、他の客があつまってひそひそと話をしているのには気がつきませんでした。



 一週間の後に、男はそのゲームセンターの番付に載るようになりました。もとより小さなゲームセンターであったことも一つの理由でしょうが、しかし男の神姫の実力は際だっていました。いったい、なぜこんないいものをただでくれてやったのだと、男は内心目玉に向かって言いました。
 その二日後には、男は大会に出ようと考えました。
 近所のゲームセンターではなく、駅前の大きな場所です。もういつものような試合では男は満足出来なくなっていましたから、少し遠出をして力試しをしようと企んだのです。もう男はすっかりバトルロンドと、自分の神姫の強さの虜になっていました。相も変わらず、神姫が自分の言葉に人間らしく答えを返してくれないのが、もどかしくもありましたが。




 ※※※




 さて肝心のその大会でございますが、駅前の大会といっても、男が期待していたような規模ではありませんでした。人数も実力も、男が頂上を争うにはあまりにぬるすぎるように感じられたのです。男は、口には一切出しませんでしたが、この分では午後は暇になりそうだと考え、他の参加者が神姫に指示を出す様をあくびをかみ殺して見ていたのでございます。
 そういうわけでしたから、男は難なく準決勝まで進出しました。
 さて、今度の男の相手は見目麗しい女の子でした。二十か二十一に上がったか上がらないかくらいの年齢に見え、付き添いらしい女友達と二人連れで参加しているようです。試合の準備をしている間、彼女らの話し声は男の方まで聞こえてきました。
 「……ねえシューちゃん。うち、ほんまに参加しても良かったんかなぁ」
 「なにゆーてんねん。アンタただでさえバトルせーへんのやし、こういう時くらいパーっと結果出して見せつけてやらなあかんて」
 男は内心彼女らを憎たらしく思いました。はん、見るからにいいとこのお嬢さんだ。馬鹿にしていやがる。お前らのような奴らだったら、わざわざこんな場所に出てこなくてもいいだろうに、さっさと俺に勝ちを譲らないか。
 こんな調子でしたから、それが顔にも表れてしまったのでございましょう。相手の女の子は、男がいつのまにか自分を見ているのにうろたえましたが、それでも小さな声で挨拶をいたしました。
 「あの、どうぞよろしゅう」
 と、両手を着物の裾で揃えておじぎをしたその仕草は、傍目には非常に可愛らしく映りましたが、男にはそれがまた小憎らしく思えてなりませんでした。しかし、相手の神姫が今にも斬りかかりそうな剣幕でこちらを睨んでおりましたので、面倒が起こってはいかんと男は視線を逸らしました。
さあ両者互いに神姫を戦いの場に送り出し、さてさて一体どうなることか。



 相手方の神姫は、男の神姫と対面して、いくらか驚いたようすで目をしばたたかせました。が、審判の合図と共に、半歩下がって距離を取りました。
 男はこの試合、今までと同じようにあっけなく決着がつくものと思っていました。しかし、それはものの見事に外れてしまったのでございます。
 まず始めに仕掛けたのは男の神姫ですが、相手はひらりひらりと身をかわし、まるで触れさせてくれる気配がありません。こちらが剣を突き出したかと思えば、体を右へ左へひねり、およそ敵を打ちのめせるとは思えない横笛で、男の神姫の足を軽く払うのです。おまけに背負った三味線は、つま弾く度に弦を伸ばし、男の神姫を絡め取ろうとするではありませんか。試合は膠着し、男はだんだん焦りを覚え始めました。
 相手の神姫は、男の神姫と同じ、能面のような表情でしたが、時折なにを思ったのか、首をかしげたり眉をひそめたりといった動作を端々に挟むのでした。しかし男はただもうこの試合に勝つことだけを頭に置いておりましたから、そんなものは目に入りやしません。ええ、それで男は、対戦相手や観客までもが男の神姫を見て、不審そうに首をかしげているのに気がつかなかったのでございます。
 対戦相手の女の子は始め、口をもごもごと動かすだけでしたが、男の神姫が剣を閃かせ、彼女の神姫がそれを三味線の弦で絡め取った瞬間、とうとう意を決したように言ったのです。


 「……コウメちゃんやろ?」


 男は思わず目を上げて彼女を見ました。
 「ねえ、あなた、サオトメくんのコウメちゃんやろ?」
 男は始め、ただぽかんと大口をあけて見ていましたが、彼女が自分の神姫に向かって話しかけていると、しばらくしてから分かったのです。
 「え? ……ああっ、ホンマや! コウメちゃんやんか! ……ちょっとお兄さん、その子どこで手に入れたん? ドロボーかアンタ!」
 泥棒。付き添いの女の子の言葉に、男はもう驚くばかりです。一体こいつは俺に向かってなにを言っているのだと思いましたが、なんとその場にいた観客までもが、彼女の言葉にああっと納得した様子でいるではございませんか。
 「そうや、どっかで見たことあるなぁと思うたらコウメちゃんや。……その子な、ウチらの知り合いの神姫やねん。一年ぐらい前から行方不明になっとったんやけど、はは~ん。アンタが持っとったんかこのヘンタイドロボーが!」
 「ちょっとシューちゃん、言い過ぎやわ」
 「でも見てみい! コウメちゃん前はホンマに気立てが良くてようしゃべる子やったで。こいつがなんやいじっておかしくしたんとちゃうか!?」
 「シューちゃんたら。……あの、だいじおへんかったら、お話聞かせてもらえませんやろか?この試合、無効にしてもろうてもええですから」
 相手の女の子は優しくしずしずとそう言いましたが、どうやら観客の誰かがこの店の店員を呼んだようです。男の腕が掴まれました。
 男は気が動転してしまいました。あの目玉にしてやられたとも思いました。どうやら彼女らの話を総合すると、この神姫は盗まれたものだったらしいのです。しかもこの場の反応から察するに、相当に名の知れた神姫だったに違いありません。これは大変でございます。他人の神姫を勝手に自分のものにしたあげく、それを使ってしまったのですから。
 神姫同士は互いに一歩も譲りません。男は大慌てです。ただあの時公園のベンチにたまたま座っていたばっかりに、男は泥棒の罪を着せられなければならないのです。そんなことになってはたまりません。ですから、男は声を限りに叫びました。


 「ち、違う! こいつはもらったんだ、あいつ、に――――」


 その時でした。
 これまでなんの反応も示してこなかったはずの男の神姫の表情が、まるで氷が溶けるように変わったではありませんか。
 対峙していた女の子の神姫は、はっと目を広げ、男の神姫を見ました。男の神姫は、はじめここがどこだかといったふうに呆けた表情をしておりましたが、やがてその顔にありありと恐怖の色が浮かんだのです。

 「ぼ、ぼたっ、た、たすけっ――――!!」

神姫は、男の声もかすむほどに、声高く叫びました。途端に、がくがくと前後に体を震わせ始めたではありませんか。
 女の子の神姫は、突然なにかを察知したように三味線の弦を千切り、背後にいる自分の主人を振り返り、キッと鋭く言いました。
 「主ッ! お下がり下さい!」
 その瞬間でございました。
 男の神姫が入った装置の中から、だいだい色の炎が、息をつく間もなくごうっと吹き上がったではありませんか。ですから、手前にいた男はたまりませんでした。顔中に焼け付くような痛みと、人々の悲鳴、機械の破片をあっと言う間もなく受け、炎の舌に飲まれたようにそのまま意識を手放してしまったのでございます。







 ※※※





 太陽が、さんさんと町を照らしております。
 丁度お昼の休憩にするには良い時間でありましょうが、ここから見えます病院の敷地に、一台の救急車が、息せき切って入ってくるのがみえます。
 あ、今救急隊員が担架を降ろしたようでございますが、乗っているのはあの男です。目にも指にも、ミイラのように痛々しく包帯が巻いてあります。あの様子では、今後使い物になるかどうかも分かったものではありません。
 一体どうしてあのような奇怪な事件が起こったのか、全く不思議でなりません。男があの箱を開けさえしなければ、いや、ベンチに座ってさえいなければ、このようなことにはならなかったのかもしれませんが、それももはや機械が破裂してしまった今となっては、調べようもないことでございます。
 ……さて、男の様子を、敷地の隣に生えた木の上から観察しているものがありました。例の、ベランダにいた神姫でございます。
 彼女は、男が運ばれてゆく一部始終をじっと見物しておりましたが、やがて男が病院のガラス戸の後ろに消えてしまうのを確認すると、くつくつと低い声を上げて笑いました。どうしたのでしょう。これはあくまでもただの推論でございますが、いつまでも大事にすると言ったはずの男が、我が身かわいさにあっけなく神姫を手放そうとしたことが、おかしく感ぜられたのかもしれません。しかし、それも詳しくは調べるべくもないことでございます。
そうして、いつの間にやら彼女の姿は、洛中を千年もの間吹き渡るこの風に乗って、全くかき消えるように、どこへともなくいなくなってしまったのでございます。








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