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 ※※※




 僕はそこから下がるのも忘れて、呆然とそれを見ていた。
 アッシュと雅の攻撃で、ステージはあっという間に大混乱におちいった。相手が少しかわいそうなんじゃないかと思ってしまうくらい。
 「フゥーハハハァーッ! アドレナリンがみなぎるううゥーッ!」
 アッシュの武装から発射されたミサイルや機関銃が、そこら中に火柱を上げる。僕は見たことないけど、戦争みたいだ。というか、クレアの特訓ってこんなの使ってなかったぞ。
 「んなもん流れてないでしょうがっ! 危ないから、もうちょっと考えて撃ちなさいよっ!」
 それをかわしながら雅が素早い身のこなしで箸を振るって、エウクランテの翼を焼き砕く。
 「ぬあぁにを言っているのですか! 雅殿だけ楽しむなどずるいですよぉ!」
 「そんな暇なーい! あんた、実は自分が楽しみたいだけでしょ!」
 「うわ、うわっ」
 「クレアさん、一旦離脱です! えっと、……『スライダー起動!』」
 『アイアイサー! デッパツだコラァ!』
 メリーがスプーンを背中から外して、その上に乗る。するとびっくり、スプーンがカップの下から青い噴射炎を出して、サーフボードのように動き始めた。
 メリーがクレアをおぶって脱出すると、ステージの骨組みがだんだんおぼつかなくなってきて、全体が揺れるほどになる。アッシュや他の神姫が見境なく撃った銃弾が、リングの外まで跳ねて、観客席にも着弾し始めた。
 「なっ、あいつらバカ強えぇぞ!」
 「う、うわわあっ! に、逃げろおっ!」
 誰かが叫んで、観客がぞろぞろと、僕が入ってきた扉から逃げだそうとする。それと反対に、輝さんと梶助さんの後ろから、アロハシャツやスエットを着た人達がいっぱい入ってきて、逃げようとする人達を取り押さえ始めた。

 「ほんじゃ、俺らも一暴れすっか、輝ちゃんよぅ」
 「うっへー……停学にならなきゃいいんすけどね」
 輝さんと梶助さんが腕まくりをして、一斉に「おらっ!!」と、逃げる人を殴りつける。



 「くっ、この……。畜生が!」
 「あっ!」
 黒崎が、飛んでくる銃弾にたまりかねた様子で、和葉ちゃんを突き飛ばして向こうの通路まで駆けていく。あいつ、どこまでふざけた奴なんだ!
 和葉ちゃんをこんな弾の飛び交うところに置いておけない。「くっ……」駆け出そうとした時、誰かが客席の人混みを一気に抜けて、和葉ちゃんの傍まで走ってきた。
 「大丈夫?」
 「あ、え、はい……」
 「よし、君もほら、こっちへ」
 そううながされて、一緒に弾が飛んでこないパイプ椅子の陰に隠れる。輝さんと同い年くらいの人だった。手に工具箱と救急箱を持って、さっきのベイビーラズと、ブライトフェザータイプの神姫を連れている。
 「カズハ姉!」
 「カシス……。……だめじゃない、お仕事さぼっちゃ」
 「バカ! バカバカ! どうしてこんな危ないことしたんじゃん!」
 カシスが和葉ちゃんに抱きついて、二人とも涙を流した。僕もその光景を見て、少しほっと安心する。
 「あ、ありがとうございます。あの」
 「健五くんでしょ? 島津から聞いてるよ」
 「やっぱり、輝さんの知り合いですか?」
 「大学のね。僕は三盥。っと、話は後だ。和葉ちゃんだね? 神姫を見せて」
 「は、はい」
 三盥さんは工具箱を開きながら、和葉ちゃんからキャンディを受け取る。僕から見ると、とてもひどい傷を受けているように見える。大丈夫なんだろうか。
 「美香、まず応急処置だ。修理は後で森本とやる」
 「はい。装備を」
 ブライトフェザーにてきぱき指示を出しながら、三盥さんはキャンディをハンカチの上に乗せた。その間に、ブライトフェザーは武装を付ける。これにも見たことないやつがあって、白衣に小さなハサミやナイフが付いたベルトを巻いている。
 「メスと鉗子ってやつだよ。……美香、状態は?」
 ブライトフェザーの眼鏡には、理科室の顕微鏡の先っぽみたいなものが付いていた。それがくるくる回ったり伸びたりして、メモを取りながらなにかを確認している。
 「……確認終わりました。頭部フレーム右側面、縦0・8ミリの歪みが見られます。右足大腿部断裂、及び背部に裂傷を確認。加えて、攻撃によるショックで背部制御系統チップの接触不良、それに伴う情報処理エラーが発生しています」
 「よし、じゃクリーニングと、絡まった回路を一旦切って別回路につないで。足と背中は終わったらテープで保護。なるべく痛みを与えないように」
 「了解しました」
 すごい。短時間でそこまで分かったんだ、と感心する。ブライトフェザーがキャンディをうつぶせにして、開いた傷口にハサミをそっと入れる。ちょっとだけ見ない方がいいかも、と三盥さんが和葉ちゃんに言った。
 「それから君らも。怪我を見せて」
 手首を三盥さんに処置してもらいながら、周りの様子を探る。向こうではまだ混乱が続いている。客席の入り口に近い方では、お祭りの屋台で見たような人がいっぱい見える。たぶん、梶助さんの仲間なんだろう。
 「おらあッ! 逃げんなてめえら!」
 「がっはっは、精がでるなぁ輝ちゃん! 報酬ははずんでくれよ!」
 「商店街カードの割引スタンプと、銭湯のタダ券で!」
 「んがっはっは! そいつァ楽しみだなァ!」
 輝さんがおかもちをふりまわして暴れる。梶助さんが、外に出ようとする人を掴んで投げ飛ばす。どっちが悪い人か分からない。
 「やばい、なんなんだこいつら!」
 「向こうだ、あっちから逃げろ!」誰かが叫んで、客席の下に降りる。同時に、僕の真正面に見えるシャッターが開いて、外の風景が見えた。涼しい風が吹き込んできて、木がいっぱい生えているってことは、ここはどこかの山か森だったのか。
 シャッターが開いていくのを見た人達が、我先にと走る。誰かの投げたポップコーンのカップが、空中で中身をばらまいて、―――ぴったり誰かの手に収まった。


 「おっと、食べ物を粗末にしちゃいけないよ~」

 シャッターの先にあったのは、一台の白いトラックだった。クラクションをけたたましく鳴らして突進してきて、逃げ道をふさいでしまう。トラックの荷台に、『おいかわ』って書いてあるのが分かった。ということは……。

 「すまないね、めぐみちゃん」
 「いえいえ、いいんですよ。おかげでこれからゆっくり眠れそうですしね」
 「あー、けんちゃんいたのみやーっ! おーい、けんちゃーん!」

 さっきのポップコーンを持って降りてきた人と、元気に手を振るマオチャオを連れた、エプロンをした女の人。
 「明石さんと、めぐみさん!?」
 二人が逃げようとした大勢の人の前で仁王立ちする。完全に開いたシャッターの後ろには、真っ赤なサイレンを付けた車がいっぱいだ。
 「体と心はつながっていてね。良くない遊びをしながら食べるんじゃなくて、真っ当な仕事の後にしたほうが、体にも心にも良いものだよ」
 「この辺りはね、人様の食卓に美味しい魚を届けるための場所なんだ。あんたらみたいなグズの遊び場じゃないんだよ」
 めぐみさんが拳を鳴らす。みやこがぴょんぴょん飛び跳ねながら、神姫の戦いの中に加わっていくのを、僕は夢でも見てるんじゃないかと思いながら眺めていた。




 ※※※



 「け、警察だっ!?」
 まだ観客席に残っていたうちの誰かが言った。
 シャッターの方からも客席の入り口からも、紺色の制服を着た警察官が数人降りて、会場から出ようとする人を取り押さえる。
 警察が来たのか。一応は安心かもしれないけど、僕はその後を思って不安だった。和葉ちゃんは裏バトルに参加しちゃってるんだから……。
 と、僕のずっと向こう、客席の柵のところに誰かと目があった。観戦してた人かと思ったけど違う。あ、お店でオレンジジュースを頼んでくれた!


 「イエーイ、ミズリン! 見えてるぅー!?」


 城ヶ崎さんだ! って、ええ? あの人、どうしてここに?
 「やばっ、『ハンター』か!? なんで気付かなかった!」
 「ンフ、参加者だと思ったのかしら? 残念、玲子さんでした!」
 警官に取り押さえられた人に軽い調子で返して、城ヶ崎さんがスカートをひるがえしながらこっちに降りてくる。まだ逃げてなかった人がいたんだ。そう、ステージの前にいた、ストラーフのオーナーが。
 「城ヶ崎……。てめぇ」
 「ハーイ川名クン。名古屋じゃどうも。楽しかったわよん」
 「ハッ、楽しいだろうなぁ……! てめえのように、なんでも力でねじ伏せられる奴はよお……!」
 なんだ、この二人はなにかあったのか。城ヶ崎さんは一旦首をかしげた後、帽子のつばを上げて意地悪そうに笑いかけた。
 「ええ、楽しいわよ。キミもやればいいのに」
 「なにぃ……!?」
 「あたしはね、人の上に立つのが大好きなの。だからあたしはそれを味わうためなら、どんな努力も手段もいとわない。……キミはどう? 裏バトルなんてやってないで、ちょっとは強くなろうとしたのかなぁ?」
 「てっ、てめえ! やれ、ドレッド! おい!」
 おでこに青筋を立てたオーナーが、大声で命令をする。けど、

 「…………」

 ストラーフは確かにいた。戦いの輪から外れて、一人座り込んでいる。周りで起こっている戦闘に加わろうとも、逃げようともしないで、崩れそうなステージの中央にたった一人だ。
 「あれれ? どうしたのかな?」
 「くそっ、おいドレッド! 返事をしろよッ!」
 「ァハン? あの子がキミの今の神姫?前のイーダちゃんはどしたのかなぁ、可愛かったのにぃ」
 「う、う、う……おおおッ!!」
 襟をつかもうとするオーナーを、スカートをひるがえしながら、城ヶ崎さんが床に蹴倒す。あごを打って目を回したオーナーの手首をねじり上げた時、その黒いドレスの肩に神姫がとん、と乗った。

 「……大方、勝てないからと神姫を買い換えたのでしょう。浅ましい人間だわ」

 容赦のない言い方をする、黒い神姫。戦っていた神姫のうち一人が、その名前を呼んだ。
 「あっ、は、『灰染』! アテナが来たぞぉっ!」
 アテナが黒い金属の翼を広げて、ストラーフの正面に降り立つ。だというのにストラーフはおびえて動かない。
 「ひぁっ………」
 「……戦う意思のない者は、去った方が身のためだわ」
 アテナはすぐ、冷たい瞳でストラーフを見下ろして、近くの戦いの中に入っていった。



 ※※※



 「フハハァーッ、食らいなさい、『ゲルニカ』! ……っとしまった、弾切れですかぁ!」
 アッシュがミサイルを全弾発射。ライフルの方も弾薬が無くなったのか、装備を全部パージしてナイフに持ち替える。
 「んくっ……ぷはっ! きたきたきた、行くわよ~っ! 『紅葉おろし』っ!」
 雅が[Ethanol]と表記してあるヂェリカンの中身を口に含むと、箸の炎がさらに強く燃え上がった。ジャンプ接近から二振りの箸を振り下ろして、天使型神姫のユニットを打ち砕く。
 「うわぁ~ん、こわいよぉ~」
 「ちょっとーっ! みやこになにしてくれちゃってんのーっ!」
 みやこはといえば、追ってくる神姫からすたこら逃げ回っていて、めぐみさんがそれを見てはオーナーと神姫を怒鳴りつけていた。
 あっ、そうだクレアは? 僕が目をこらすと、クレアがメリーの背中にしっかりしがみついているのが分かった。
 「あわ、あわわわわ」
 「しっかりつかまっていて下さいね。ツクモ、『ドルフィンドライブ・120°』!」
 『アイアイサーっ!』
 「アーンド、『グリズリ―クロウ・ワイルド』!」
 「イエッサ―! ……ああ、姐さんと合体してる……♪」
 床を滑るように移動するスプーンを勢いよくターンさせて、群がる神姫を蹴散らす。さらに手首に接続したフォークで、手向かいの神姫の武器を貫く。
 それに見とれていると、隣で和葉ちゃんが驚きの声を上げた。
 「……キャンディっ!」
 「ううん、あ、カズハ姉」
 キャンディが目を開けたんだ。背中に緑色の回路基板をつなぎながらブライトフェザーが、痛いところはないですか、と声をかける。
 「良かった……。キャンディ、ホント……良かった……」
 「まだしばらく安静にしておいてね。それにしても、君たちの怪我も大事になってなくて良かった」
 三盥さんはベルトがついたままの僕の手足を、上から氷水で冷やしてくれている。ブライトフェザーといい、こういう方面の知識がある人なんだろうか。思わず見とれていたら、首をかしげられた。
 「……どうしたの?」
 「あの、なんで……なんで、来てくれたんですか。輝さんも、アッシュも、みんな自分勝手なことばっかり言って、なのにこんなに沢山人を連れて来て……」
 三盥さんはちょっと考えた後、
 「うーん。自分勝手っていうのはよく分からないけど、それはたぶん君がこの子にしてあげたことと、一緒なんじゃないかなぁ」
 「え?」僕が、和葉ちゃんにしてあげた?
 「君さ、自分の身もかえりみずに和葉ちゃんを助けただろ?島津だってね、ここに君がいるって分かってからは色んな人に話をつけて、脇目もふらずに協力を頼んでたんだ……なんだかんだ君が大事だからさ。……なんて、島津といるとクサい台詞が染みついていけないや、ハハ」
 「……」僕は、ふと和葉ちゃんと目を合わせた。笑顔だ。泣きはらした顔でも、まして無理矢理作った笑顔でもなくて、自然に微笑みかけてくれた和葉ちゃんは、やっぱりその、可愛いなぁ、って思う。
 「メリーと雅とアッシュの装備はね、島津と森本が共同で作ったんだ。わざわざリミッターまで外しちゃって、後でどうなってもしらないぞぅ」
 そうだ。―――僕、いや僕らにも、今決着をつけなきゃいけないことがある。
 「ちょっと僕、行ってきます」
 「あ、あれ? 水野くん?」



 ※※※




 いまだ銃弾の飛び交う中を、メリーを探して走る。大量にいた神姫も、多くが倒されるか取り押さえられるかして姿を消していた。残っているのは……そう、あの神姫。試合中にクレアはきっと、話をしようとしてたんだ。
 いた、メリーだ。「メリー! クレアを降ろして! てっ、いてて、す、あそこのストラーフのところに!」
 こっちに気付いたメリーが、僕の方にやってくる。クレアが僕のやりたいことを察した様子でうなずいた。僕だってマスターだ。クレアが僕の願いを叶えてくれるように、僕もクレアの望みを叶えよう。
 軽やかに足でスプーンを操作して、メリーがリングの上に着地した。クレアをそっと降ろして、肩を貸しながら歩く。
 ストラーフは二人が近づくと一歩身を引いた。そしてそのままの格好で、ぜいぜい息をついてクレアと見つめ合う。
 しばらくはそれが続いて。やがてクレアは、努めて明るく話しかけた。
 「あの……」





 「てっ……めえ! ふざけんなよッ!!」



 ―――クレアの表情がびくりと、悲しげに歪んだ。

 「お前が、お前が来なかったら! マスターはああならなかった! 楽しかった……毎日、バトル楽しかったのにッ! お前のせいだぁぁっ!」

 ストラーフは、今までの怯えた様子はどこに行ってしまったのか、一気にまくしたてた。違う、と僕は思った。他人を傷つけて楽しいだなんて絶対間違ってる。
 でも、クレアは優しいから、たぶんそう反論し切れなかったんだ。
 「え、えへへ……」
 「クレアさん?」
 「いいんです、本当は分かってました……。でも、あたしにも出来るかなって、出来たらいいなって思ってたんです……」
 ストラーフがハンマーを振って立ち上がる。クレアは泣きそうなのをぐっとこらえて、すっかり摩耗してしまったペネトレートクロ―を構え、ファイティングポーズを取った。
 「メリーさん、あたしにもしものことがあるまでは絶対手を出さないで下さい」
 メリーが真剣なまなざしで、頷いて一歩下がる。クレアは、本当に悲しそうな顔でストラーフと対峙した。僕はステージの傍まで近づいて固唾を呑んで見守る。なんだか、この戦いを見届けるコーチみたいだ。
 「いける? クレア」
 「はい。……いざ、尋常に勝負です!」
 「ぶっ壊してやるッ! お前だけは!」
 ストラーフが雄叫びを上げて、向かって一歩、また一歩と、クレアが駆ける。痛くてたまらないだろう。
 「お……おおおっ……おおおっ!」
 無理にでも声を出さないと、足が止まってしまいそうなくらい。―――不思議だ。クレアの感じていることが、僕にも分かるようだ。ストラーフがぐんぐん迫ってくるのが、僕の目の前で起こっているように感じられる。
 和葉ちゃんが目を閉じて、まだ暴れていた輝さんが僕らに気付いた。
 そしてこう叫んだ。



 「決めてこい、お前ら!」




 ―――その時、僕は思ったんだ。
 今まで僕は、本当に多くの人に助けられてきた。

 メリーに。
 「クレアさん、いけますよ!」
 『やってやれ、チビ助!』
 『気張るんだよッ!』


 雅に、アッシュに。
 「どうです雅殿、気分が高揚してきたのではありませんか!?」
 「……そうかもね! 火事とケンカは江戸の華、ってことか! ええいっ!」



 「おぅマスター、もっと暴れようぜ!」
 「はは、僕ももう若くないんですから、勘弁してくださいよ」
 「ちょっとコラ不良ども、どさくさに紛れて変なトコ触るなぁ!」
 「にゃ~ん、みやこ追いかけっこ疲れたみや~」
 商店街のみんなが。



 「いやぁん、汗かきすぎでメイク崩れちゃうわん」
 「……しょせん安物なのだし、崩れても問題ないでしょう」
 「ああ、アテナちゃんったらひどい! ……っと、はいエルボー!」
 城ヶ崎さんたちも。



 「おい三盥! お前も手伝えよ!おらっ」
 「だから、僕はドンパチするのは嫌いだって言ってるだろ!」
 そして、輝さんたち。


 ……本当に多くの人が、僕なんかのために来てくれた。
 僕は弱っちくて、知らないことだらけで、いつも助けられてばっかりだ。
 けど。
 僕は一人じゃないんだ。
 クレアと心を合わせて、ここまで来てくれた人達の思いを、ぶつける!


 クレアとストラーフが、叫ぶ。
 「おおおおおおおっ!!」
 「砕けろぉぉぉぉォッ!!」
 僕は深く息を吸い込んで、クレアと同時に拳を突き出す。意味なんて無いかもしれないけど、クレアとつながってる気がするんだ!

 「……あああああっ!」

 ハンマーとクロ―が音を立ててぶつかって。

 繰り出したクレアの左手が、ばらばらに砕け散った。






 「……雅殿、あちらも気になります」
 「うん、一応行ってみるわよ。急いで」



 ※※※




 一方、建物の裏口へとつながる通路では、この騒動の主犯たる男が携帯を手に震えていた。
 「……くそッ、出ろ! 出資者、なにをしている!」
 誰かにしきりに電話を掛けているようだが、彼の期待に反して返事は一向に来ない様子である。それに、『出資者』とは誰だろうか。
 その時。彼の背中に声がかけられた。


 「お待ちなさい」
 「あーあー、待ちなさいよイケメン」


 ついさっきまで会場の方で大暴れしていたはずの、赤い神姫と黒い神姫である。体中にオイルがへばりついて、ゾンビのような姿になってはいるが。
 「ひっ?」
 「あら、ホントにいい男。鼻をニンニクみたいにスライスしたらもっとイイ顔になるんじゃないかしら」
 「良い趣向ですね。ですが、それはわたくしどもの役目ではありません」
 箸を引きずっていた神姫が脇にそれて、黒崎の目はその後ろからやって来た青年に釘付けになった。
 ―――暑苦しいロングヘアーを銀に染めて、黒いカットソーを着込んだ青年 が、肩をいからせ、ずんずんと進んでくる――。
 「なっ……ひ、あ!」
 黒崎は懐からジッポライターを取り出し、火を付けて青年へと投げつける。
 ……しかし、青年の胸に当たったライターは何か硬い物に弾かれ、床へと落ちた。
 「すげえ、マジで効果あったよコレ」
 「あ、あ……!」
 反射的に逃げ道を探った黒崎の手は、むなしく背後の壁を撫でただけで。
 青年の拳が振り上げられ、顔面へと迫って……



 ※※※




 ――砕け散ったクレアの手は、ピンク色の破片になって、

 その中には、黒い色の薄片も混じっていた。
 「あ……」
 瞳孔を大きく開かせたストラーフの目の前で、ハンマーの先端がピシピシ音を立てながら中心から割れていく。
 「こいつっ……! ずっと同じ一点を狙って……!」
 ぶつかり合った反作用で、クレアとストラーフの体が大きく『ノ』の字によれる。柄だけになったハンマーと、クレアの左腕が、正反対の方向に持って行かれる。
 今だ。
 「いっけええ、クレア!」
 体勢を無理矢理戻そうとしたストラーフに対して、クレアは反動を利用して上体をねじる。相手に攻撃の手段はないけど、まだクレアには右腕が残っている!

 「うああああああーっ!!!」


 最後の力を振り絞って―――コツ、と相手ののどに拳を置いて、最後に、涙をこぼしながら一言。

 「ゼッ……はっ、……ごめん、なさっ……!」


 ズドン、と。渾身の力で繰り出された右ストレートを受けたストラーフは、部品をまき散らしながら大きく飛んで、背中からぼとんと落下した。
 最後に、真っ二つに割れた電流の装置がストラーフの首から外れて、床を転がる。
 やった、やったんだ。



 ※※※



 ―――直也の拳は、黒崎の顔面ではなく、その真横の壁にぶち当たった。
 「……約束だからよ、これ以上手は上げねーでおいてやるよ。だがこれだけは言っとくぜ……」
 「うっ……」
 汗をしたたらせ、へなへな崩れ落ちる黒崎の眼前で、青年は言った。手からコンクリートの壁へじわりとにじむ自分の血を気にもとめず、である。

 「……俺の妹に、二度と近寄るんじゃねえっ……!」

 腰を抜かした黒崎に背を向け、雅とアッシュの方を向く。手の甲は赤黒く腫れ上がっている。
 「で、後はどうするのです?」
 「……警察とかに任す。うわちっ、いってて」
 「壁なんか殴るからよ。あの脳筋アキラだってやらないわ」
 「っせーな輝、輝って。たまには俺にもかっこつけさせろよ」
 手にふうふう息をかけながら、直也は二人を拾ってその場を去る。後から二人組の警官が入ってきたが、なにが起こるかは分かりきっていたから気にしなかった。


 ※※※







 その後、僕は会場の外で座り込んだままで、じっと事態が終わるのを待っていた。サイレンを光らせたパトカーや救急車が来ていて、けっこう大事になっている。それと、ここはやっぱり山の中で、僕がここに来た時に見た『エンゼルフィッシュ』の裏山だった。
 「おら、健五」
 いきなり名前を呼ばれて、見上げると、
 「……輝さん」
 桐皮町を飛び出す前と同じように、顔にアザを作った輝さんだ。僕に、手を差し伸べてくれている。けど、なんかこのまますんなり立ち上がるのも悔しい。
 「なんだよ。まだブー垂れてやがんのか」
 仕方ねえな、と輝さんが手を引っ込めると、明石さん達もやって来た。みんな多少差があるけど、どこかに怪我をしている。僕なんかのためにやってくれたんだって、心から実感した。
 「無事かい、健五君」
 「はい。……本当に、ありがとうございました」
 「いいのよ。ん、はわ~っ、安心したら眠くなってきちゃった」
 みやこも~、とめぐみさんとみやこが一緒に大きなあくびをする。僕がくすっと笑うと、今度は梶助さんと城ヶ崎さんが来た。コートを着た警察のおじさんと、それから和葉ちゃんもいる。少し不安になった。
 「ハーイ、皆さん。この度はご協力どうも」
 「あまり良いやり口とは言えませんが、皆さんのおかげです。どうもありがとうございました」
 おじさんが頭を下げてから、僕は城ヶ崎さんに聞いた。なんで、お店の前にいたのかって。
 城ヶ崎さんはいつものようにからかうような口調で、こう答えた。
 「あたしね、バウンティハンターっていうのやってるのよ」
 「ハンター?」
 「神姫を用いた犯罪を極秘裏に解決する、まあ裏の仕事だね。ここはけっこう前からこうした違法賭博をやってる疑いがあって、彼女に協力してもらってたんだ。まさか東京で捜索願がでていた少年まで来るとは予想外だったが」……え? 父さんと母さんが?
 「俺たちの組もここは前から調べようと思ってたんだけどよ。お前さんがメモを持ってかなかったらよぅ、もっとスムーズにこられたんでぇ。ま、結果オーライだがな、ガハハ」
 そうか。……僕の知らないところで、本当にたくさんの人が動いてたんだ。
 ―――あと、僕にはもう一つ気になることがあった。
 「あの、和葉ちゃんのことなんですけど……」
 和葉ちゃんはどうなってしまうんだろうか。おじさんは不安そうな和葉ちゃんを見て、こう切り出した。
 「ああ、そのことならね……」
 その時、僕の正面に見える出口から来た、二人組がいた。


 「あ……」
 片手を上げて合図したのは、三盥さんだ。そしてその三盥さんの隣にいるのは、
 「お兄ちゃん……!」
 直也さん。そして雅とアッシュが小さく見える。
 「やあ、こっちも終わったみたいだよ」
 三盥さんはとてもにこやかで、両手に壊れた神姫をいっぱい抱えている。直也さんはこっちに歩いて来ると三盥さんから乱暴に離れた。そうして、無言で和葉ちゃんの前に立った。
 「……」
 「お兄ちゃん?」
 直也さんはなにか言いたいのか、ポケットに手を入れたり頭をかいたりしている。しばらくたって、コートのおじさんが咳をしてから代わりに口を開いた。

 「あー、おほん。森本和葉ちゃんは、厳重注意。彼女のお父さんについては、誰かの優しいお兄さんとその仲間が、治療費を全額肩代わりしてくれるそうだ」

 おじさんと城ヶ崎さんがにっこり笑って、和葉ちゃんの目が、大きく見開かれた。
 「そんな、お兄ちゃん!」
 「いいんだ和葉。俺たち、……か、家族だもんな」
 直也さんはそこでやっとしゃべって、和葉ちゃんの頭に手を置いた。


 「いくら認めたくなくっても、それは変わらねえんだよな。だからさ、もう一度家族で集まって、話してさ……お、お前にばっかりっ……苦労っ……か……かけられるかよ……」


 直也さんの肩が震えだした。目は、今までに見たことが無いくらい優しかった。和葉ちゃんの目にも、何回目かの涙が盛り上がってきた。
 「……うん……うんっ……!」
 和葉ちゃんが直也さんに抱きついて、二人でおいおい泣き出す。みんな、心からほっとした表情になった。
 「じゃあ、和葉ちゃんはここで稼いだお金を使わなくてもいいんですね?」
 「そーゆーことになるのかな。良くお姫様を助けたわねぇ、偉いぞナイトくん」
 僕が聞いたら、城ヶ崎さんがからかい口調で言った。みんなの視線が僕に集まって、なんか恥ずかしい。嫌な気分とかじゃなくて、なんだ、その。
 「……それで、彼女のことだけど」
 恥ずかしがっていたら急に真面目な声がして、みんなの視線が移る。しゃべったのは、それまでずっと黙っていたアテナだった。
 アテナの視線を追うと、クレアをさしていると分かった。
「クレア……」クレアは―――もう動かない。壊れたわけじゃないんだけど、電池が無くなったのか、安心したのか。どっちか分からないけど、最後の一発を繰り出した体勢のまま、僕の手の中でぐったり動かなくなってしまった。……ありがとう、クレア。
 武装はもちろん、素体も元通りになりそうにない。どうしたらいいのかと周りをうかがうと、三盥さんが、
 「じゃあ、僕のところで修理しよう。この神姫達と」両手いっぱいの神姫を見せて言ったけど、アテナが首を振った。
 「玲子。……彼女に、あの子の体を……」
 アテナの言葉に、城ヶ崎さんが唇をすぼめて驚いた。けど、僕らにはなにがなんだか分からない。あの子って?
 「いいの? 本当に」
 「いいと言っているでしょう! 早くなさい」
 「……もう、アテナちゃんったら素直じゃないのね。じゃ、悪いけどミズリン、クレアちゃん預かるわね」
 え、と思った途端にクレアが僕の手から離れた。大丈夫、悪いようにはしないわ、と城ヶ崎さんは言ってくれた。……うん、城ヶ崎さんならたぶん安心だ。たぶん。


 ※※※



 僕はその後、待機していた救急車に乗って病院に行くことになった。三盥さんの家族が経営している病院らしい。
 「では、後は任せます」
 みんなに見送られて、僕は担架に乗った。ああ、なんだか疲れが一気に出てきて、このまま眠ってしまいそうだ。
 と、その時和葉ちゃんと直也さんが突然走ってきた。救急隊の人が足を止める。

 「水野君、本当にありがとう。水野君のおかげで……」
 「ううん。へへ……僕だけじゃないよ。みんなが助けてくれたから」そうだ。僕一人じゃ、絶対にこんなこと出来なかった。
 「いや、健五。和葉たちが無事だったのは、お前が真っ先に飛び込んでくれたおかげだ」
 「健五殿、我々森本家一同、心より感謝申し上げます」
 アッシュにまでそう言ってもらえて、照れる。まぶたがだんだん重くなって、もう、寝る……
 「それでね、……すごくかっこよかったから……」
 うん?耳元で声がする……
 「その、お礼だよっ、『健五君』。……んっ」




























 ちゅっ。








 ……なんか、左のほっぺたに柔らかい感触が……。
 「きゃーっ!」
 メリーと城ヶ崎さんがいきなり黄色い声をあげたのに驚いて、目を開けると、和葉ちゃんの顔がものすごく近くにあった。
 「わっ!?」
 「きゃっ」
 え、僕、まさか……。
 「見ましたアキラさん!? あれですよ、レモンの味ですよ! きゃーっ!」
 「お、おう……」
 「ワーオ、だいたーん! アテナちゃん見た!?」
 「は、破廉恥だわ……」
 「あたし、最初にしたの幾つだったかな……」
 「え!? めぐみってもう経験あったの!?」
 みんな、顔が赤いんだけど……
 「う、うおおおい和葉っ! お前なんてことを!」
 「お、お兄ちゃんは黙ってて! ……そのっ、びっくりさせてごめんね、健五君」
 「か、カズハ姉、そういうのはちょっと、スキャンダルとかいろいろマズイじゃん……」
 「妹君いいいい! 公衆の面前でなんという、そこに直りなさああああああい!」
 「認めねえぞおぉぉぉ! 俺はまだ、こいつに『お義兄さん』なんて呼ばれたくねえからなあぁぁぁぁ!」
 「そういうんじゃないよ!」

 気付いた途端に顔の温度がぐんぐん上がっていって。




 「……きゅう」
 「あ、健五君!? 健五君っ!」
 僕の意識は、そこで途切れてしまった。







 ~次回予告~


 クレアが手に入れた、新しい体。

 「アキュート・ダイナミックス……?」

 そして明らかになる、アテナの過去。

 「成績は優秀だったけれど、……あまりにも幼い子だったわ」



 「あの子はきっと、私を恨んでいるでしょう」 


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