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第十九話  「火事とケンカは!」



 ※※※


 さて、ここで種明かし。話をちょいと前に戻そう。
 三盥のとこに行く前の話だ。



 夜、高速のインターチェンジ付近。
 直也の下宿に向かってバイクを飛ばしながら、俺はカシスの言葉を頭の中で反芻していた。

 『ナオヤ兄に、パパさんのこと代わりに謝らなきゃじゃん……。もう、パパさんはナオヤ兄のこと馬鹿になんかしてないじゃん。それに、カズハ姉はナオヤ兄のために……』

 カシスはそう言ったが、俺も俺で直也には別件で謝ってもらおうかとも思う。
 「直也よお、俺たちゃなんだってんだよ……」
 独りでに漏らした俺のつぶやきは、メットの中でくぐもって誰にも聞こえなかった。





 直也の下宿は、それから五分程度のへんぴな場所にあった。初めて見るが、いつの時代のもんかと思ってしまうボロっちい木造アパートである。桐皮町の建物がかすんで見える。
 一階で高齢の大家に直也の部屋を聞いて、カバンを肩に引っかけながら二階に上がった。『森本』の表札がかかった扉をノックすると、ややあって反応が返ってきた。
 「……んだよ、新聞ならいらねえぞ……って」
 「よっ。邪魔するぜ」
 明らかに立て付けの悪い扉を開けて顔を出した直也の横を、有無を言わさず抜けて中へと入る。
 「な、……お前輝、何しに来やがったんだ」
 「古すぎだろこのアパート。冬とかどうすんだ」
 止めようとする直也をあえて無視して奥に進む。玄関の電球は薄暗く、入ってすぐに流しがある。……風呂もねえのか。黄ばんだふすまを開けると、食堂で聞いた通りのものがあった。

 「おっ……。こりゃすっげえな」


 四畳半ほどの部屋の中は、このアパートの外見からは想像出来ないほどかなり整頓されていた。
 けば立った畳の上に、収納ボックスやら作業台やらがあり、机にはパソコンが設置してある。布団や棚なんかの生活に必要な部分は、最低限に切り詰めてあるようだった。
 そして目を引いたのは、部屋中に掛けられたカレンダーと帳簿だ。目を凝らすと、どの日付にもバイトの予定らしい内容がびっしりと書き込まれていた。


 「おい輝!」
 感嘆しているところに後ろから声をかけられて、振り向いた。
 「何しに来やがったんだって聞いてんだよ!」
 「おいおい、怒んなって。ま、座れよ」
 その場に座るように示して、俺も同じようにする。カバンを置くと、そこから四つの頭がひょっこりのぞいて、直也が目をしばたたかせた。
 「……カシス」
 「こいつから全部聞いたぜ。お前のことよ。苦労してんだな」
 「なんなんだよ」
 俺が口を開こうとすると、カシスが代わりに話し出した。
 「な、ナオヤ兄……。カズハ姉とパパさんのことじゃんけど……もう、パパさんはナオヤ兄に謝りたいって言ってるじゃん。だから、病院に来て欲しいじゃん」
 本題を切り出すと、そこで明らかに直也の表情が変わったのが見て取れた。
 「……ハッ、うるせえよ! 知らねえ! 今さら……」
 「なんでそんなこと言うじゃん!?」
 「お前には関係ねえんだよ!」
「家族なんてどうでもいいってこと!?」
 「……うるせえな!知らねえって言ってんだろうがっ!」
 直也が逆上して、とうとうカシスに手を上げた。小さく悲鳴を上げたカシスをかばうように体を差し入れると、俺の頬に拳が突き刺さった。鉄くさい味が口の中に広がる。
 「アキラ!」雅がカシスの様子を見て、自分の体を抱きすくめる。危うく直也を、俺が昔たどりかけた道に落っことす所だった。
 「アキラさん!」
 「って……。いい、心配すんなお前ら。……直也よ、こいつに手ぇ上げんのは、いくらなんでも筋違いだろうが」
 俺が直也を睨め付けると、直也は今度は俺の襟首を掴んだ。
 「しつこいんだよ!」
 直也と俺の視線がぶつかる。
 「お前、そこまで家族嫌いになる必要ねえだろ!?」
 「ほんっとーにしつこい奴らだな! 関係ねえってのが聞こえねえのか!」
 「いや、関係ある! 俺たちゃ……!」
 あまり俺たちがドタバタしていたせいか、さっきの大家が顔を覗かせた。
 「ちょっとちょっと、森本君なにやってるの!?」


 その時丁度、アッシュが動いた。カバンから出てくるとおもむろに辺りを見回して、

 「……」
 「……アッシュ?」




 「気ぃを付けええぇーーーいぃ!!」
 ……思わず固まった俺たちの前で、傍に転がっていた神姫用のバズーカを掴んで、一気に直也の頭めがけてぶっ放した。


 「「のわああああっ!?」」
 慌てて耳をふさいで首をそらした直也の後ろで、耳をつんざく音と共にガラスが砕ける。唖然とする俺たちの前で、ぱらぱらと元は窓枠だった木片が散った。
 「……ああ! 窓が!」
 大家のじいさんが大騒ぎして上がりこんで来たが、アッシュはお構いなしだ。
 「……なぜ黙っていたのですか、マスター直也」
 「へ?」


 「わたくしも輝殿も! あなたがあのような悩みを抱えていたなどとは知りませんでしたよ!」

 「……!」
 アッシュの声はこの小さな体のどこから出ているんだと思わず考えてしまうくらいに、でかくて、そして哀しみがこもっていた。俺たちは知らぬ間に動きを止めてしまう。
 「マスター直也は今、わたくしがトリガーを引いただけで、わたくしの言わんとする所を理解出来ましたか?」
 「……いや」
 「そうでしょう!? 己の思いは、言葉にせねば伝わらないのです! なぜ黙っていたのですか! わたくし達にも言えなかった!? ならばわたくし達は、それほどまでに信頼されていなかったということなのですか!」
 「……」
 「わたくし達の絆はっ! その程度の薄っぺらいものだったのですか!」
 アッシュはそこで一息つくと、バズーカを畳の上に放った。俺たちは雷に打たれたように一言も話すことが出来なかった。
 「……一人で悩まないで下さい。わたくしの体は小さいですが、マスター直也の話を聞くことは出来ます。マスター直也が苦しむ時は、共にそれを分かち合うことが出来ます。……そうありたいと願っています」
 アッシュの話は感情がこもったせいで途切れ途切れになっていたが、言いたいことを伝えるのには充分だった。俺はそこでカバンからカシス達を出てこさせて、中を探る。
 「……そうだよなアッシュ。言われてみれば薄っぺらかったかもしれねえ。ダチだなんだっつっときながら、悩みの一つも打ち明けられねえでよ」
 アッシュが頷く。こんな小さいナリで、この神姫って奴らは時として俺たち人間に思いも寄らぬ助け船をくれる。ありがたい存在だ。……笑っちまう話だろう、こんなんで俺は直也を分かってると、勝手に親友だと思ってたのだ。直也もアレだが、俺も自分にむかつく。
 だが、それも今日で終わりだ。「直也よ、俺もお前に言ってなかったが、俺にゃ家族がいねえんだ」
 「……!」
 「じじいとおふくろは死んだ。親父はどっかに消えちまった。……分かるよ、お前の気持ち。むかつくよな、てめえの都合ばっかでよ。そんで俺も一人で突っ走って痛い目見ちまったんだがな」
 俺がカバンから取り出したのは預金通帳だ。それをちゃぶ台に置きながら、部屋の中をぐるりと見渡した。工具類もノートも、かなり整頓されているのが分かる。普段のこいつからは想像できんが、影で頑張ってたってことか。本当に、俺はこいつを知らなさすぎた。
 「別に遊びほうけてたわけじゃねえんだな。通販サイトの運営にバイトで稼いで……。お前言ってたよな、いつかオリジナルの神姫のブランドを立ち上げるんだってよ。分かる。夢は尊い。だがよ、だからって家族をどうでもいいなんて言う理由にはならねえし、そんな夢を持った奴が神姫に手ぇ上げるなんざ論外だ」
 まだ携帯に『何でも屋』からの連絡が入らない。この後の余裕もあまりないか。下を向いてしまった直也にカシスが言う。
 「ナオヤ兄、それはカズハ姉の通帳じゃん。今までの、自分とアタシらのギャラの一部、それから月のお小遣いを少しずつ貯めてたじゃん。……ナオヤ兄が会社を作る時のために」
 「なっ……!」
 直也が動揺して、通帳をむしるように手に取る。なんだか俺が誘導しているように見えるが仕方ない。
 ……ちなみに、さっき直也の妹の通帳を拝借して見てみたが、その額なんと百十八万円。あの歳じゃ頑張った方じゃなかろうか。
 「カズハ姉は、ずっとナオヤ兄の夢を支えようって、頑張ってたじゃん」
 「今から裏バトルの会場に乗り込んで、お前の妹を助けに行ってくる。丁度知り合いが調べるとこだったらしいんだが、商店街のガキがメモを持ってどっかに行っちまったらしくて時間がかかってんだ。だから、もしものために援軍を呼ぶからよ」
 急がねばならない。話もそこそこに畳から立ち上がって出口へ向かう。アッシュはここに置いてくことにしよう。
 と、直也が話しかけてきた。
 「なんで……」
 「あん?」
 背中が小さく震えたのがちらっと見えた。


 「なんでっ……放っといてくれねえんだ……! いつも、いつも!」


 「……」
 「和葉もお前も! いつもいつも……ッ!」
 「……お前には味わってほしくねえんだ。大事なもんは、失ってから初めてそうだと気付くんだってことをよ」


 だが、今の俺は一人ではないのだ。神姫がいて、おやっさんがいて、商店街の人々がいる。一度失ったものを、取り戻させてくれた人がいるのだ。


 「俺にゃ血のつながった家族はいねぇが、家族って呼べるような人達には出会えたぜ。ほら、来たかったらとっとと来いよ幸せモン」
 カシスとアッシュをここに残して立つ。今だ事態が飲み込めないでいるじいさんの脇をすり抜けて、外に出るとメリーと雅が首を出した。

 「来ると思う?」
 「さあな。最後はあいつ次第だよ」
 「アキラさん、殴られたのにやり返しませんでしたよね。それって……」
 「ヘッ。……さて、間に合ってくれよな」
 バイクにキーをねじ込みながら、むんとする夜の町を見やった。行くとするか。本当に間に合っててくれるかは、まだ分からないがな。




 ※※※




 輝が出て行った直後、直也は背中を丸めてうなだれていたが、そんな直也の背中に大家が近づいた。
 「……森本君、彼は友達かい?」
 「……さあ。なんだか」
 大家はほとんど毛の抜けた頭を撫でながら、直也の後ろに腰を下ろした。
 「よっこらせ。いや、嬉しいよ。君、ここに来た時からずっと一人だったから、あ、いやこの神姫がいたね、とにかくわしから見たらずっと人と関わってなかったみたいだからね、心配だったのさ」
 直也がうるさそうに振り返ると、今度は大家は細い目で柔らかく微笑む。
 「家族か、君も彼もいろいろあったんだねぇ。……いやね、わしも君が来る前にばあさんに逝かれてねぇ。この年になると知り合いもみんな次から次へとさ。いつかわしもそっちに行くんだろうが」
 咳き込みつつ続く大家の話に、いつしか、直也だけでなく、アッシュもカシスも黙って耳を傾けていた。
 「彼の言ったこと、わしは胸にしみたねぇ。わしはもう、いくらまた会いたいと思っても叶わなんだものな……。君はまだ、手を伸ばせば届くんだ。大事にしなさいよ」
 アッシュとカシスが傍へやって来て、直也を見上げる。直也は鼻をすすって通帳をちゃぶ台に置くと、机に向かった。
 「……じいさん、ありがとよ。アッシュ、カシス、悪かったな」
 「いえいえ、よいのですよ。わたくしはマスター直也の夢の礎。この体も魂も、いくらでも自由に使って下さって構いません。ただ、一人で全て抱え込むことだけはしないで下さい」
 アッシュは軽く笑って腕組みをした。
 「まあ、それ相応の懲罰は受けてもらわねばなりませんね。輝殿からの要請に応えられるよう、十分以内に装備を全て整えることを命じます」
 「おうよ。輝のに負けねえ、俺の最高傑作を引っ張り出してやるぜ」
 手近にあった引き出しから神姫の装備らしい塊を取り出して、パソコンにケーブルで接続。大家は、茶でもいれようかね、と部屋を出て行く。
直也は振り返ることもなくキーボードを叩きながら、輝と出会った時を思い出した。




 ――あれは、大学に入ったばかりのころだったか。
 今思えば間抜けな話だと思うが、入学したての浮かれたテンションで、俺はこっそりタバコを買ったのだ。もちろん当時は未成年で、吸っているところを見られてはかなわないから、人目につかない茂みで隠れて吸おうとした。
 吸う前はドキドキした。あの口うるさいフォートブラッグもいないし。
 だが当然経験が無いから吸い方など分かるはずもなく、見られていないかと心臓を縮み上がらせてやっと火を付け、その一本を思いっきり吸ったらむせた。
 やべえ、買うんじゃなかったと喉を押さえながら思った。大事な金を使ってなにやってんだよ、俺こんなんやってる場合じゃねーだろと。
 その時、あいつはやって来たのだ。いきなり背後からよっ、と声をかけ、


 ――お前、なにやってんの?


 マジでびびった。自分でやっときながら、チクられるかもしれないと本気で我が身を心配した。
 だがそいつは俺の横に腰を下ろして、言い訳しようとした俺より先にこう言ったのだ。

 ――ああ、タバコか。止めとけ止めとけ、マジで体によくねえから。俺も昔やったんだよなー。

 ……はあ?
 お前、入学式の時の一年だろ?俺もなんだよ。よろしくな。
 いや、よろしくってよ……と思った俺は、そいつの後ろから茶色っぽい髪の毛をした頭がこっちを見ているのに気付いた。まぎれもなく神姫のものだった。


 それがあいつらとの最初の、ヘンテコな出会いだったのだ。




 「まったくよ……」
 我に返った直也は、せっせとキーボードに指を走らせながら再び思い返した。
 あいつについて回るようになってから、飯も食わしてもらったし、神姫の話もした。同じ人を好きにもなったし、途中から三盥なんて奴も増えて、一緒に馬鹿をやるようになった。
 あいつの周りには、いつでも人がいて笑顔があった。心の中で過去のことを引きずっても、それを忘れてしまうぐらいだった。
 いつしか、思うようになっていたのだ。

 『ああちくしょう、なんかまぶしいな、こいつ』
 俺もいつか、こいつのようになれるだろうかと――――。




 そして直也が丁度装備のプログラミングを完成し、大家の老人が茶を持って来た時、カバンの中で携帯が鳴ったのだった。
 「……もしもし。……は!? 健五が……」
 「ほう、わたくしの可愛い生徒に手を出すとは……!」
 和葉が賭け神姫バトルの会場にいて、健五がそこで戦っているという輝からの連絡。向かわない訳にはいかない。だが、大家が直也達を呼び止めた。
 「これ、持って行きなさい」
 差し出したのは、ひしゃげて黒ずんだ銀貨だった。
 「これは?」
 「わしの親父が昔、南方に送られた時にこっそり軍服に隠しておいたらしい物さ。これを胸に入れておいたおかげで、鉄砲の弾が当たった時に運良く助かったそうなんだ」
 大家はそれを、丁寧に直也の手に握らせた。
 「お守り代わりにでももらっておいてくれんかね。今日は面白い話も聞けたし……まだ君には、窓を弁償してもらわなくちゃならんからな、ほっほ」
 直也とアッシュは、一息深くついた後、アッシュから先に老人に敬礼した。もう、和葉を助けに行くことに、なんの迷いも無かった。
 「……感謝致します、大家殿」










 ―――こういうわけで、無事俺たちは健五のトコにそろって行き着くことが出来たのである。




 ※※※













 ―――「よう健五、楽しそうじゃねえか。俺らも混ぜてくれよ」


 ……どういうことなんだろうと思った。
 僕がさっき通ってきた扉から、輝さんが歩いてきた。しかも、メリーと雅が飛んできて、クレアを助けてくれた。
 「こんなことしてんならよォ、俺にも言えってんだよな。これあれだろ? 天下一武闘会とか天挑五輪大武會とかそういうノリなんだろ?」
 頭をぽりぽりかきながら階段を下りてくる輝さんは、それはもう場違いなくらいにのほほんとしていた。おまけになぜか、家にラーメンの出前が来た時見た……そう、おかもちっていうやつを持っている。なんでこう落ち着いていられるんだろう。みんな唖然として、会場の中は文字通り時間が止まったようになってしまっていた。
 「あ、輝さん……どうして」
 「なっ、なんだ君は!」
 僕がやっとのことで言うよりも早く、黒崎が疑問をぶつける。すると輝さんはからから笑って頭を下げ、おかもちを階段の途中に下ろした。
 「いやすんませんねぇ。そいつうちの見習いなんすよ。なーんかご迷惑おかけしちまったみてえで、いやあマジすんません」
 ちょっ、見習いってなんだよ。僕がそう考えた時、スチール板のはじっこまで飛ばされたイーダが立ち上がって、にわかに神姫達が殺気立った。
 「雅さん、メリーさん……」
 クレアが二人を見上げる格好で呆然とそう言った。二人は大勢の改造神姫を前にしても、全然余裕の表情を崩していない。
 「クレア、ここから動くんじゃないわよ」
 「ちょっと危ないことをしますから♪」
 そこで僕は気付いた。二人の武装がいつもと違う。雅の武装はいつもより赤みが強くて、腿の箸が背中にある木箱みたいなものに、チューブでつながっている。メリーの方はというと、スカートにスタビライザーが付いていて、身長の一回りは大きいスプーンとフォークを背中に×の字に背負っている。
 「なんだお前ら!」
 「邪魔しやがって、バラバラにされたいのか!」
 さらに数体神姫が出て、三人を取り囲む。その時だった。



 『おうてめえら! 姐さんになめた口きいてんじゃねえぞ!』
 『そっちこそ邪魔するってんなら、アタイらが容赦しないよっ!』



 びっくりした。メリーの背負ってるスプーンとフォークの先っぽが光って、しゃべったんだ。赤と青の発光器(?)をぴかぴか点滅させて音声を出していて、なんかシュールだ。
 『おうおう! オレっちはメリーの姐さん一の舎弟、ツクモ! ヨロシクぅ!』
 『アタイはメリーの姐御一の子分、モガミ! ぶっつぶしてやんよぉ!』
 「二人とも、あんまり物騒なこと言わないで下さい」
 『す、すいやせん姐さん。けど、なめられたら負けっすよ!』
 『そうですよ。まずは形からでも相手をビビらせないと』
 「はいはい。本当に、なんであの三バカはこんな悪趣味な武器作ったかなぁ」
 「おい誰が悪趣味だって? 聞こえてんぞ」
 どこまでも緊張感のない会話が続く。というか、
 「……輝さん! ……なんで? どうやってここにきたんだよっ!」
 ―――だって、だって、知らないって言ったじゃないか。あの時突き放して、追おうともしないで、なんで、なんで今さらっ……。
 僕が必死で叫んだら、輝さんは眉を寄せた。
 「あん? そりゃおめえ―――」
 その時だ。


 「がっはっは! 俺が調べたのよう」

 大きく開いた扉から、大きなアロハシャツを着た人が、両手にしなびた野菜みたいになった人をつかみながら歩いてきた。あ、あの人は、
 「梶助さん!」お祭りの時の、テキ屋の梶助さんだ。
 「がはは、ほれ、あの優男だろう? 嬢ちゃん」
 梶助さんの肩には、小さな神姫がいるのが分かった。ベイビーラズみたいで、和葉ちゃんと黒崎が目を見張る。
 「カシスっ!!」
 「カシスだと!? バカな、あいつらはなにをしていたんだ!?」
 「お姉さんとスタッフのみんなが助けてくれたじゃん! ……黒崎! あんたがキャンディとあたしを壊して、カズハ姉をスキャンダルで芸能界から消そうとしてるって、全部聞いちゃったじゃん!」
 「この嬢ちゃんを消すために、そのスジのモン使ってあっちこっち買収工作までしたってぇ話だが、甘かったなァ。おめぇさんのより、この嬢ちゃんが作ってたつながりの方が強かったみてえだ」
 そう、だったんだ。僕の知らないところで、そんなことが起きてたんだ。黒崎が歯ぎしりをする。

 ステージの中でも、雅が箸に手を掛ける。どうやらやる気みたいだ。それが分かったのか、クレアが二人に手招きした。
 「あ、あのっ! ……えっと……」
 クレアがなにか二人にごにょごにょ耳打ちする。雅とメリーは聞き終わってから顔を見合わせて、二人して「「はあ?」」と言った。
 「あんたってば、ここまでやられといてそれって、相当お人好しよね」
 「まあでも出来るだけやってみましょう。お客様のご要望には最大限お答えしなきゃ、ですから」
 「なぁにをぐちゃぐちゃと……!」
 近くにいたヴァッフェバニーがナイフを突き出して走ってくる。と、




 「「話し中だから、空気読んでよっ!!」」


 二人のまとっていた雰囲気が変わって、雅が腿の箸を引き抜き、同時にハーモニカみたいに穴の空いたそれから―――火が出た。


 「なっ、うわあああああっ!!」
 雅が本物の炎を噴き上げる箸を振るって、ヴァッフェバニーの構えていたナイフがその手ごと火だるまになる。うろたえている間に、メリーが目にもとまらない速さで背後に回って、フォークを思い切り振り回す。顔面を打ったヴァッフェバニーはリングの外まではじき飛ばされて、バウンドした後動かなくなった。


 わずか一、二秒ほどの間の出来事で、また会場がしんと静まる。
 「ほら、どうしたのよ? 芯まで美味しく火ぃ通してやるから、かかってきなさい」
 「あら、雅さんったらあまり張り切らないで下さいな。私がお掃除する分がなくなっちゃうじゃないですか」
 雅が箸を二本とも抜いて、メリーがフォークを降ろす。二人がぞっとするほど不敵に笑って、ステージの上は再び慌ただしくなった。エウクランテとサイフォスが二人を取り囲む体勢になる。
 「お、おお押さえろォッ!」
 「怯むな! たった二体だ……」





 「二体ではありませんよおおおおおっ!!」




 突然ステージを、鉄の塊が落ちてきたような衝撃が襲った。いや、それはもうほとんど鉄の塊と言っても良かったかもしれない。ぐらぐらとステージが揺れて、たっぷり三秒は経ってからようやく神姫達が立ち上がる。今度はなんだ。
 「くう~っ……つつつ……落下傘でも付けた方が良かったでしょうかね」
 「あ……ア……」
 「クレア殿、二階級特進などもってのほかですよ。あなたは未来ある新兵なのですから、命は大事にせねばなりません」
 それが飛んできた方向を見ると、輝さんが開けたおかもちから出てきたんだと分かった。こんな重たそうなものが飛んできたなんて、MMSが高性能ロボットだっていうのを抜きにしてもちょっと信じられない。
 照明を受けて輝く、両肩の巨大な六連のミサイルポッド。脇からはライフル銃を持った二本のサブアームが突き出ていて、まるで背中にクモがおぶさってるみたいだ。でも、一部に砲台型の武装を残したそれは、まぎれもなくあの神姫だと分かった。
 クレアが目をぱちくりさせる。


 「あ、アッシュ先生っ!!」


 ステージの中央に立ったアッシュは、ロボットさながらの(いや、実際にそうなんだけれども)重量感ある動きでゆっくり立ち上がって、後ろでぺたんこ座りしていたクレアに振り向いた。
 「教官と呼んでは下さらないのですね……トホホ」
 まあ良いですが、と軽く咳払いをしてから、今度は改造神姫の方を向いた。相手は全員、次から次へ神姫が出てきてわけが分からなくなってるんだろうなあ。と、ちょっと同情した。
 「さて、……では気を取り直しまして、……んん……ほほぅ、どうやら皆さん非常に良い武器をお持ちのようだ」
 アッシュの気配が変わったのを感じたのか、神姫が身構える。
 「はは、元気があって大変よろしい。しかし、皆さん自身にまことの実力が付いているかは疑問ですなぁ」
 余裕たっぷりの腕組みをして、アッシュが語り出す。
 「良いですか、神姫とはオーナーの命を受け戦場におもむくだけでなく、時にオーナーに対して正しい道を示し、心身ともに成長をうながす存在であるとわたくしは考えます。少なくともわたくしがこれまで対面した神姫は皆そうでした。……その神姫が、このような不健全な環境におのずから身を落とし、あまつさえオーナーに悪しき快楽を味わわせるとは考え違いもはなはだしい」
 もう一度クレアの方を振り返って、自慢げにクレアを手で示した。
 「しかしご安心を。皆様方にもここにおられるわたくしの自慢の生徒と同じ、健全なる肉体と精神をはぐくむ特別メニューをお受け頂きましょう。講師はこのわたくし、そして我が盟友である食堂のお二方です。ではでは……」
 長台詞が終わって、アッシュの肩の、クモの目にあたる部分が開いていく。中には弾頭の赤いミサイルが大量に詰まっていた。



 「……途中で倒れることのないように。(すぅ~っ)……ウチカタぁ、始めッッ!!」








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