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SHINKI/NEAR TO YOU

良い子のポニーお子様劇場・その5
『セントウノヒ』(後編)

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 路地裏を進む番長児の後ろ姿を追いながら、ゼリスがシュンに小声で話しかける。

「シュン、良いのですか。先ほどからどんどん人通りの少ない方へ進んでいますが?」

「そうだけどさ……今さら逃げ出すわけにもいかないだろう……」

 そうは言ったものの、シュンもだんだん不安になってくる。
 とにかく着いて来いと凄まれたのでこうして後に続いてはみたものの、駅へと走る大通りから建物の隙間を縫うような裏道に入った番長治はそのままどんどん人気のない道へと進んでいく。
 どうやらうまく雨に当たらないような遮蔽物のあるコースを選んでいるようで、雨に打たれないのはいいのだけれど。

 ……まあ、すでに二人ともびしょ濡れだけどね。

「シュンがそういうのでしたら止めはしませんが……もしもの時は、骨は私が拾いますので安心して下さい」

 ぶっそうなこと言うなよ。
 そうこうしているうちに、先を進んでいた番長治が立ち止りこちらを手招きしてきた。目的地に着いたらしい。

「ここじゃあ」

 番長治が顎でしゃくる先にあったのは、古びた建物だった。周りを囲むコンクリートの建物と違って、この一軒だけ昔ながらの木造に瓦葺屋根のどっしりとした店構えをしている。

 店名なのだろうか? 開き戸の上に飾られた木の板に筆で達筆な文字が書かれているが、相当古いのか全体的に黒ずんでしまってよく読めない。

「えっと……ここって、何?」

 仕方なく番長治に尋ねると、呆れた声が返ってきた。

「見ればわかるじゃろう、銭湯じゃい」

 なるほど。言われてみれば屋根から大きな煙突が伸びている。屋根を仰ぐシュンの頬を、ゼリスがチョンチョンとつついてきた。

「シュン、セントウとは何ですか?」

 それを聞いてベガがフッと笑う。

「そんなことも知らんのか? 銭湯とはな。温泉に集団で入ることで結束力を高める重要な軍事教練のひとつなのだ」

 いやそんな自衛隊員じゃあるまいし。

「なるほど。それは是非体験してみたいですね」

 ゼリスが興味深げな顔をする。体験したいのか……というか銭湯に来たってことは風呂に入るってことだよな。

「お前もそのままじゃ風邪引くじゃろう。それにここなら服も乾かせる。ほれ、ボサボサしとらんで入るぞ」

 番長治が先頭に立ってガラリと戸を開く。中に入ると玄関の脇に木造りの箱のようなもの――ええと、確か番台っていうんだったかな――があり、小柄なおばあさんがうつら、うつらと船を漕いでいる。

 番長治が声をかけると、おばあさんの肩から小さな人形が顔を出した。イルカ型武装神姫ヴァッフェドルフィンタイプだ。

「はい~、毎度ありがとうごぜえやす~」

 人間だったら血圧が低そうなしゃべり方のヴァッフェドルフィンに、ふたりは料金を渡した。中学生以上は大人料金らしい。
(ここでシュンは番長治も同じ中学生だという衝撃の事実を知った。学生服を見ても、体がデカイからてっきり高校生だと思っていた)

「それでは~、二名様ご案内しやす~。神姫のお二人様は女湯へどうぞ~」

 シュンとゼリスは顔を見合わせる。ふたりの疑問を感じ取ったのか、ヴァッフェドルフィンが説明してくれる。

「そちら様は~、はじめてのお客様でいらっしゃいやすね~。当店では神姫をお連れのお客様には神姫の無料入浴サービスをさせていただいておりやす~」

 そんなサービスがあるのか。まあ神姫がおばあさんに代わって接客してるくらいだしなあ。

「一緒に入れなくて残念でしたね、シュン?」

「いやいや、誰も一緒に入ろうなんて言ってないだろうっ?」



 カポーンッ

 背景に富士山が描かれた大浴場の湯船に浸かりながら、シュンはふう~っと息をついた。隣で湯に浸かる番長治とふたり、熱い湯の心地良さを味わう。時間もあってか他に客はいない。いや、こんな裏路地に取り残されたような立地条件と番台の居眠り老人を思えば、いつも閑古鳥が鳴いているのかも知れないが。

 それにしても、かつて武装神姫バトルで戦った相手とこうして肩を並べて湯船に浸かっているのも、奇妙な話だ。

「助かったよ、これで風邪をひかずに済みそうだ」

 シュンが声をかけると、番長治はタオルで顔を拭いながら「構わん」とぶっきらぼうに返す。

「お前には借りがあるからのう」

「……借り?」

 そんなものをつくった心当たりはないけどなあ?

「お前らとのバトルでワシとベガも目が覚めた。また初心に帰って武装神姫バトルをする気になれたんじゃい」

 そう語る番長治の横顔は、どこか照れを隠してるように見えた。考えてみるとこいつのしゃべりがいつもぶっきらぼうなのも、単に不器用なだけなのかもしれない。
 少なくともシュンの中では今日一日で、初対面の横暴なイメージが大きく薄れて取っつきやすく感じるようになったのは確かだ。

 だからシュンはあの日のバトル以来気になっていたことを、思い切って尋ねることにした。

「なあ……どうしてあんな初心者狩りなんて真似をしてたんだ?」

 そのシュンの疑問に、番長治はひとしきり「う~む」と唸った後ぽつぽつと語り出した。



「ほう、これが銭湯というヤツですか」

 目の前に広がる大浴場に、ゼリスが感嘆の声を上げる。

「ふっ、未経験の新兵である貴様に私自ら銭湯のイロハを教えてやろう! まずは湯船に浸かる前のマナーとして、よく体を洗ってから湯船に向かうのだ」

 ビシッとベガは洗面所を指差す。コクリと頷くゼリスに満足そうに見てから先に立って歩き出す。ベガはそのまま洗面所に置かれた風呂桶を利用して段差を登り、そこから蛇口のカランに飛び移って手際よく桶にお湯を溜める。

「手際がいいですね」

「私はこの銭湯にはサーと一緒に何度も来ているからな。任せておけ」

 ベガは返事をしながら無駄のない動きでシャンプーとボディソープのケースをタイル張りの床に降ろすと、体を洗いはじめた。雨水を被って汚れた髪もシャンプーで入念に洗い流す。

「どうした、小娘? 貴様もさっさと洗え。他に客がいないとはいえ、のろのろするのは性に合わんからな」

「……いつもシャンプーはユウにしてもらっていました」

 きびきびと動くベガをじっと見つめながら、ゼリスはポツリとつぶやく。

「……ひとりでは出来ません」

ズコ――ッ。体を洗い流していたベガが派手にすっ転ぶ。

「貴様は……冗談で言ってるのかっ!?」

「いえ、冗談ではありません。そもそもシャンプーハットも使わずに髪を洗おうとしたら、目に染みて痛いではないですか?」

 あくまで真剣なゼリスにベガは目頭を押さえながら立ち上がる。

「全く……キレ者なのか、ただの天然なのか分からんヤツだ。ほら、こっちに来て目をつぶっていろ。私が洗ってやる」

 ゼリスを自分の前に座らせ、ベガは長く蒼い髪に手を伸ばす。目をぎゅっとつむり「む~」緊張するゼリスに苦笑しながら、その頭をシャンプーで泡立てる。

「手慣れてますね、お上手です」

 シュンの妹である優(ユウ)に髪を洗ってもらうのとを比べて、素直な感想を述べる。ベガの手つきは普段からこうしたことへの慣れを感じさせた。

「ふん……い、いつもサーの妹君の面倒をみているからなっ。そのせいだろう」

 ゼリスの髪を洗い終えたベガは、体は自分で洗えと言って湯船に向かう。ゼリスも手早く体を洗い流し後を追った。
 ベガは浴槽の端に作られた昇降用の段差を乗り越え、湯船へと浸かる。続けてゼリスも先に習うように隣に入る。本来は子供やお年寄り用に設けられた段差だが、こうして武装神姫が湯船に浸かるにも丁度うまい具合の高さだった。

 珍しそうに壁の浮世絵や浴槽を眺めるゼリスとは対照的に、ベガはリラックスした態度で湯に身をたゆたわせている。機嫌がいいのか鼻歌まで口ずさんでいた。その揺れる赤い髪を見ながら、ゼリスはふと抱いた疑問を口にしていた。

「ベガさんはフォートブラッグタイプでいらっしゃいますね。しかしバトルでは何故、徒手空拳しか使わないのですか?」

 砲台型MMSフォートブラッグタイプは火力に優れ射撃戦を得意とする神姫だ。今日戦った対戦相手がそうであったように、一般的には基本武装による砲撃戦や重火器によるロングレンジファイトの戦闘スタイルである場合がほとんどである。
 ベガのように代名詞である砲撃どころか火器も持たずクロスレンジファイトを主体とするのはかなり異例だ。

「つまらん話だ。別にたいした理由ではない……」

 見つめるゼリスから顔をそらしながら、ベガが語り出す。

「私とて最初から、対戦相手と拳で語り合っていたわけではない。バトルを始めた頃は普通にフォートブラッグタイプの標準装備で戦っていたさ。私もサーも慣れないバトルで、少しでも早く強くなろうと頑張っていた」

 それはちょうど今のゼリスとシュンのようだったのだろう。思い出を懐かしむようにベガの目が遠くを泳ぐ。

「バトルに勝って、負けて。勝った時にはどこが良かったか、負けた時には敗因は何かを探った。……そうしてしばらく経った頃だ。変調が起ったのは……」

 私は欠陥品だったのさ――自嘲気味にベガは言った。

「ある日の射撃訓練中、標準に狂いを感じた。はじめは銃のメンテナンス不良かと思ったが、別の銃を使っても不調のままだった。いよいよおかしいとセンターでの検査を受けて、私には製造不良があってそれのせいでFCS系に異常があることがわかった。修理するためにはCSCから分解することが必要だと言われた……」

 神姫のボディは大きく3つのパーツで構成されている。頭部であるコアユニット、体を成す素体、そして心であるCSCだ。CSCを分解することは、AIの初期化――すなわち神姫にとっての死を意味する。

「私は絶望した。砲の撃てないフォートブラッグになど価値がない。サーの足手まといとなるくらいなら、そのままリセットされる方がマシだとさえ思った……! しかし、そんな私にサーは、あの人は……こう言ってくれたのだ」

 サバーッと、湯船から立ちあがり高らかに叫ぶ。


「『砲なんぞ無くても、自分の手足があるじゃろう。ワシにはお前が必要じゃ』――とっ!!」


 拳を握りしめ感極まったようにベガは続ける。

「このサーの言葉に、私は感銘を受けた! 自らの考えの甘さを恥じ、あらためてサーの懐の広さを知ったのだ。わかるか、小娘っ!?」

 昂奮するベガがゼリスに迫る。ゼリスは内心ちょっと引きながら、ただ頷いた。

「それから私とサーの特訓の日々が始まった。夕日の砂浜を走り、石段を鉄下駄で駆け上り、サンドバックをボロボロになるまで叩いた! 全てはサーの為に、サーへの愛と忠誠の証として! その言葉を私自身で証明せんがためこの身に鍛錬を徹底的に刻み込んだのだ」

 おそらく。徒手空拳の体術のみでフル武装と渡り合うため、あらゆる挙動をフィードバックまで完全にコントロールできるほど精査し、動作の蓄積と効率化を図った――ということらしい。明らかにおかしなトレーニングも混じっていたが。

「そして、私たちは再びバトルの世界に舞い戻った。バトルを再開した当初こそ、特異な戦闘スタイルに苦戦と嘲笑を浴びる時期があったものの、サーと私の努力と愛は実を結び、また勝ち星を重ねていった。己が徒手空拳のみを頼りした戦いぶりから私は『鉄拳』と呼ばれ、サーも有力神姫バトラーとして密かに注目を集めるようになった。しかし……」

 そこでベガのトーンが一気に小さくなる。

「ある試合で……私は負けた。完敗だった……一方的にやられるだけだった。それまでサーと私がふたりで積み上げてきたものを、重ねてきた鍛錬の日々を、全て否定されるような敗北だった。……また、私はサーの期待に応えることができなかった」

 チャポンと。ベガは湯に身を沈め直す。ゼリスは逡巡しながらも「それからどうなったのですか?」と続きを促した。

「後は知っての通りだ。スランプに陥ったサーと私は、以前のようにバトルへの情熱と強者への挑戦を持ってバトルに臨むことができずに、経験の浅い者、己より弱い者から小賢しく勝ちを拾うようになった。それでも最初は、自信を取り戻すために確実に勝てそうな相手を選んでいたような気もするが……

 熱意を失った――いや、違うな。自分を信じられなくなった私は、そこから先に進むことができなくなってしまった。空虚な勝ちに溺れ、ただ弱者を痛ぶり無価値な勝ちを重ねる日々に埋没していった。
 ……落ちぶれた神姫そのものだ」

 ベガは力なく肩を落とした。その表情は、濡れた前髪に隠れて窺うことはできない。

「サーはそんな私を見捨てることなく、何も言わずに見守ってくれた。私はいつもサーに助けられてばかり……情けないかぎりだ」

 その言葉に、ここまで聞き役に徹していたゼリスはようやく口を開いた。

「それは違うと思います」



「それは違うんじゃないか」

 ふいに口を挟んだシュンを、番長治は困惑した顔で見返す。

「あんたは自分が弱くてベガに甘えてたっていうけどさ、それは両方とも同じなんじゃないのかなって」

「どういうことじゃい?」
「なんて言うか……神姫とオーナーって片方がもう片方を一方的に頼るとか、そんなものじゃない気がするんだ。だから、番長がベガに見守ってもらってたって感じてるのと同じように、ベガの方も番長に見守られてると思ってたんじゃないかって……」

 思案しながら、シュンは自分の考えを伝える。シュン自身確証があって言っているわけではない。それをするにはシュンとゼリスは、番長治とベガに比べ出会ってからの日々がはるかに浅い。
 でも。だからこそあの日の神姫センターで戦ったふたりは、互いにただ寄り添いあっているだけでなく、それ以上の絆で結ばれているように感じたのだ。

「ベガも……ワシと同じことを考えとったと言うんか。ワシと同じじゃったと……」

「そうじゃないかと思うんだ。だって――」



「――あなた方おふたりは、とても似た者同士に見えますから」

 それはゼリスにとって率直な評価だった。ベガとそのオーナーである番長治とはあの日のバトル以外、今日の再開まで接点がなく、僅かな時間しか接していない。だがその僅かな時間の中でもふたりの共通性――似通うまでに長い時間を共にし、通じ合っていることが読み取れた。

 だからこれは簡単な話。互いに自分が悪いと思いこむことで、パートナーを正当化しようと無意識に考えてしまっただけなのだ。

「サーも私と同じ気持ちだった――同じように悩んでいたというのか」

「言ったでしょう――あなたたちは互いに依存し合っている――あなたたちは相手への想いが強すぎてしまって、それが結果的に互いを縛る鎖となっていたのでしょう」

「しかし――いや、ならば私はこれからどうすればいいのだ」

 かぶりを振るベガに、ゼリスは「ふむ」と顎に手を当て思案する。

「別に、あまり深く考えずに自然体で接すればいいでしょう。言いたいことを言って、相手が悪いと思ったら素直にそれを指摘してあげれば良いのです。その逆もまた然り。自分が間違っているときは、相手に指摘してもらえば良いのです」

「そうは言ってもな……じょ、上官に異を唱えるなど軍人にあるまじき行為で……そもそもサーに逆らうなど、考えたこともないだけに……」

 本気で困っているのか、ベガはしどろもどろになる。本当に良い意味で実直、悪い意味では頑固で融通の利かない性格をしているらしい。
 もっとも真面目で融通が利かないところがあるのは、シュンに言わせればゼリスも同じであるそうだが――そこでゼリスは単純に自分の場合どうするかを考える。

「……私ならば、シュンが間違っていると判断した場合は容赦なくデコピンをお見舞いしますけどね」

「デ……デコピンだと……?」

 キョトンとするベガに、ゼリスは自信満々に告げる。

「はい。こうみえて私のデコピンはユウ直伝の必殺奥義です。鈍感なシュンには効果てきめんであると自負しています」

 それを聞いたベガはしばし呆然とした後、せきを切ったように笑い出した。

「あっはっはっはっはっ! デコピン……デコピンかっ。あっはっはっはっはっ」

「そんなに可笑しなことを言ったつもりはないのですが……」

 不満げなゼリスの肩を、腹を抱えて大笑いしながらベガは叩く。

「いや、そうではない。ただお前の話を聞いて、いろいろと小難しく悩んでいるのがバカらしくなってなっ!」

 ベガは笑いを噛みしめながら、力強い目でゼリスと向き合う。

「そうだな、お前の言う通りだ。神姫とオーナーは共に歩む、互いを認め高め合う存在だものな。どうやら本当に私は、大切なことを忘れていたようだ」

 そう語るベガの表情は、憑きものが落ちたように晴れ晴れとしていた。



 浴場から上がったシュンは、脱衣所で番長治からカゴに入った自分の服を受け取った。この短期間ですっかり乾いていることに驚いたが、番長治がボイラー室を借りて自分の長ランと一緒に乾かしてくれていたらしい。礼をいうと「別にええよ」とただ短く返される。同じような仏頂面でも、出会ったころよりもずっと柔らかくなっているのがわかった。

 自分の頬も自然にほころぶのを感じながら、脱衣所の戸をくぐる。番台の隣には、シュンたちの大切なパートナーが待っていた。

「遅いですよ、シュン」

「そう急かすな、私たち神姫と違って人間の方が何かと時間がかかるのだ。……サー、お待ちしていたであります。こちらはすでに出立の準備は整っているであります」

 うむと頷きながら、番長治がベガを拾い上げる。シュンもゼリスを頭に乗せようとしながら、ふとその顔を見つめる。

「なんか、ふたりとも仲良くなってないか?」

「そうでしょうか。よく分かりませんが、それはシュンたちの方ではありませんか?」

 言われてシュンは番長治たちと一緒にいても、ここに来る前のような気まずさはもう感じないことに気がついた。なんというか――日本人は古くから銭湯では裸の付き合いなんて言っていたらしいが、昔の人の言葉も案外バカに出来ないものらしい。

 例の血圧の低そうなヴァッフェドルフィンに見送られながら、シュンたちは銭湯を後にする。
外はすっかり雨も止み、夕闇に染まる空に一番星が輝きはじめていた。

「今日はすまなかったな。本当に助かったよ」

「お前たちとバトルしたお陰で、ワシもベガもまた真剣に武装神姫バトルでてっぺんを目指す気になれた。今日のことはその礼じゃい」

 学帽を被り直しながら、番長治はシュンを見下ろす。

「ワシらは次のサマートーナメントに出るつもりじゃ。どうせお前らも出るつもりなんじゃろう? そのときは容赦せんから覚悟しちょれよ」

 不敵に笑う番長治に、シュンもニッと笑みを返す。

「そっちこそな。僕もゼリスもあの時よりもグーンと成長してることを見せてやるさ」

「言っとくが、ワシらは優勝を狙っちょるぞ。そこまで勝ち上がってくるんじゃぞ?」

「そっちこそ。僕たちと当たるまで他の対戦相手に負けるなよ?」

 そうさ。こうして再び出会った戦友(ライバル)同士、互いの健闘と真剣勝負を誓わなかったら嘘だろう?

 シュンたちが漢の約束を交わし合うかたわら。ゼリスとベガも再戦を誓う。

「小娘。お前もトーナメントで勝ち上がるつもりなら、翼にドクロを抱いた神姫に気をつけろ」

「翼にドクロですか? ……ひょっとすると、その神姫が……?」

「いずれわかるさ。次に会うときは――」


 ――神姫センターで。


 自然と四人の声が重なった。四人はそれぞれに笑みを交わしながら別れる。

 帰り道のアスファストを踏みしめながら、シュンは静かな高揚を感じていた。昨日戦った敵が今日には互いを認め合うライバルとなる――これも武装神姫バトルの楽しみだ。

 そしてそんなライバルたちに負けないためにも、シュンもゼリスももっともっと強くならなくてはならない。立ち止まったりせず、ひとつずつ前に進み続けるのだ。

 ――と。不意にシュンの懐から陽気なメロディーが流れる。取り出したPDA(ケータイ)の着信表示を見て、笑顔がサッと蒼ざめた。

『こらーっ、シュンッ! 何時まで外ほっつき歩いてるのよっ。今何時だと思ってるのっ?』

 ケータイから聞こえる妹の声に、シュンはここでやっと今まで家に連絡を入れるのを忘れていたことに気がついた。

「ヤバい……っ、いろいろあって電話するの忘れてた! どうしよう、ゼリスッ?」

「シュン……これは失策でしたね。だから私は予定外の行動をとる前に定時連絡を入れることを提案していましたのに……」

「いや、とぼけるなよ!? お前も一緒に忘れてただろうっ!?」

「さあ……どうでしょう?」

 ぷいっと目を反らすゼリス。PDAからは怒れる妹の声が引っ切り無しに聞こえてくる。
 全く。
 世の中、今日の失敗を糧にして明日へ活かしていくしかない。






   『セントウノヒ』(後編)良い子のポニーお子様劇場・その5//fin






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