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 第十八話  「一人じゃない」




 「これ以上、誰も傷つけさせません!」
 拳を握りしめてそう言い放ったクレアに、ストラーフが高速で接近する。
 「は、だったらやって見せろよおっ!」
 またハンマーだ。襲いかかるそれを、クレアはまた腕で防ぎ、バックステップして衝撃を殺す。
 「ちっ、ちょこまかするなよ!」
 ストラーフのハンマーを、爪を、クレアは防御し続ける。攻撃が手薄になった一瞬をついて、背中のバリスティックブレイズを撃った。
 「ぐっ」
 「うおっ……。ぬふぅ、効くぜえ~っ」
 ストラーフが苦悶するのと同じく、相手オーナーが胴震いをする。
 「こりゃお返しだなぁ、死なない程度になぶってやれドレッド!」
 「キャッハー!」
 殴られても殴られても、クレアはそれを防ぎ続ける。さっきまでの痛みは、ほとんど無かった。
 ……戦わなきゃ。
 手をついて立ち上がった。痛くて、恐いのは確かだ。でも、せめて。
 「ぐっ……くうっ!」
 せめて今、僕は僕に出来る事をやろう。
 「あぐっ」
 「ま、マスター! 大丈夫……」
 「へ、平気だよクレア。僕は大丈夫だから……。っ、距離をとってバックパックでけん制射撃するんだ!」
 「はい!」
 すぐにクレアが言ったとおりの行動をとる。さらに、突っ込んでペネトレートクローで追撃をしたけど、ハンマーで防がれてしまった。
 「キャハハ!キャハハハ!」
 頭ががんがんする。気持ち悪い。でも、やるしかないんだ。僕に出来る事は、優しいクレアが僕を気にしないで戦えるように、後ろからサポートすることだ。
 「ぐっ……ううっ……」
 電流は弱くなったといっても、無くなったわけじゃない。でも、我慢するしかないんだ。


 「おや、彼意外と頑張るねえ」
 「黒崎さんっ……。どうして、こんなひどい事……」
 「静かに見ていなよ。……頑張れ少年君! 勝負がつくまではカズハちゃんの身の安全は保証するからね! 平気平気、君もたぶん死なないから! はっはっは!」



※※※





 七時に店にやって来たのは、あの時の二人だった。
 「あ、すみません。この子がどうしてもこちらに来たいようだったので……」
 テレビ取材の時の、キャスターのお姉さんだ。そして、
 「あら、ええと、カシスさんでしたよね?」
 二人組アイドル神姫のうちの一人、ベイビーラズのカシスとかいう神姫だ。メリーが応対しても返事もせず、様子がおかしく見える。
 「じゃあ、私はここで帰るからね。カシスちゃん、あんまりスタッフさんに迷惑かけちゃダメよ?」
 お姉さんはそのまま、失礼しますとにこやかに帰っていったが、カシスはそのままカウンターに残った。
 「……」
 「あの、どうされたんですか?」
 メリーがおそるおそるといった様子で聞くと、カシスはいきなり顔を上げた。
 「……お願いじゃん! カズハ姉とキャンディを……助けて欲しいじゃん!」
 あまり声が大きかったから、俺も雅も思わずそっちを向いた。
 「カズハ姉って、直也の妹のか?」
 「助けてって……」
 俺たちが聞くと、カシスは震えながら話し出した。

 「か、カズハ姉とキャンディは……裏バトルに参加してるじゃん」

 「ええっ……!」
 裏バトル。自然、店内の空気が緊張する。
 「どうして、そんな」
 「詳しく聞かせろ。なんだってそんな馬鹿なマネしてんだ」
 「……お金を稼ぐためじゃん。……カズハ姉のパパさんが、交通事故で入院して、でもそれはあいつのせいで……もうここしかなくて」
 「待てよ。ちょっと落ち着いて話せ」

 なんとかカシスをなだめすかして、話を聞く。聞いているうちに、思った以上に深刻だということが分かる。
 「……なるほどなあ。あいつ、全然ひとっことも言わねえから分からなかったぜ」
 「本当は、カズハ姉ももっと早くに言うべきだったじゃん……。裏バトルなんて絶対危ないじゃん」
 「そりゃそうよ。警察にでも助けてもらおうとか思わなかったの?」
「警察には連絡したくなかったじゃん。あいつは証拠が出ないようにもみ消すに決まってるし、もし本当に捜査されたとしても、カズハ姉まで……。そんなの絶対嫌じゃん。この商店街に、何でも屋がいるって聞いたから来たじゃんけど」
 「あー、あの人達ね。連絡するからちょいと待ってろ」
 俺は受話器を取りながらメリーと雅に準備するよう目配せする。ダイヤルを回していたらカシスが話しかけてきた。
 「カズハ姉とキャンディ、大丈夫じゃん?」
 「どうかな、保証はしかねる。ったくよ、荒事はご勘弁願いてえんですがねぇ……と、そうだ。一応あいつにも連絡した方がいいだろうな」
 俺の言葉に、アッシュがゆっくり振り返った。
 「……あ、もしもし俺ッス。……はい、実はッスね……え、メモ?」




 ※※※




 戦いはまだ続いている。会場ではポップコーンやホットドッグが売られているようで、観客の中にはそれを食べながら試合を観戦する人もいる。ここにいる人は、神姫の壊し合いを楽しみとしか考えていないのか。
 クレアはストラーフの攻撃を紙一重でかわし続ける。腕でハンマーや爪をさばく度に、少しづつ体が傷ついてゆく。僕は頭をフル回転させて、クレアに指示を出し続ける。
 「ぐっ、ぐう……」
 あれからどれくらい時間が経っただろうか。リングの前でぼんやり考えた。
 このステージ、神姫センターやゲームセンターにあるような筐体とはまるで違う。格闘技のリングのように四方をゴムの縄で囲って、そこにスチールの板を張ったものだ。シンプルな造りだけど、所々にねじが落ちていたりオイルがべったりくっついていたりして、ここで行われていた事が簡単に想像できてしまう。
 「……クレア! もっと下がって!」
 頭からその考えを振り払って、クレアに指示を出す。焦っちゃいけない。相手の攻撃に飲まれたらひとたまりもない。
 足下にけん制射撃。相手は近接装備が多いから、距離を離して。僕らだって、今までずっと練習してきたんだ。簡単にはやられてたまるか。
 「今だ、撃って!」
 「はい!」
 足止めしたところに、『スーパーツインカノン』の一斉掃射。当たった……かな?




 「あーあ、うぜぇなー。さっさと壊れちゃえよ」




 爆風のまっただ中から飛んできたのは、ストラーフの小さく黒い手だった。
 ワイヤーで打ち出されて速度を増したそれは、金属の爪を鋭く突き出させていて。


―――クレアの脇腹にどすん、と突き刺さった。


 「あ……」
 最初、それが映画のコマ送りのように見えた。
 背筋が凍り付いたようになってしまって、言葉が出ない。けれど、
 「え、……あ?」
 ピンク色の背中から飛び出たそれが、オイルを垂らしながらうごめいて、

 「あ、……ああああああああああっ!」

 クレアの喉をつぶすんじゃないかと思うような悲鳴が響き渡っているのを見たら、起きたことを理解せざるを得なかった。




 ※※※



 後ろの席から見ていたわたしは、あまりのことに目を覆いたくなった。
 「クレア! クレアっ!」
 「あああああっ、ひぐっ、あっ、痛い……痛いぃぃ……ああああっ!」
 お腹を貫いた手を必死で抜こうとする水野君の神姫が、ストラーフのもとに引っ張られていく。流れ落ちるオイルが、床にべったり跡を残す。
 「あーあ、こりゃ決まっちゃったかなぁ。川名君のドレッドはこれが勝ちパターンだからねぇ」
 隣の黒崎さんが、茶色の髪をかき上げながら軽い調子でつぶやく。その姿が、――悲鳴を上げる神姫と対照的なその姿があまりに平然としすぎていて、わたしには異常に見える。
 「あれ、気分悪くなった? まあ、無理もないよね。……正直、ここが便利な場所じゃなかったらわざわざ来ないんだけどねえ」
 「便利……?」
 わたしが口元を押さえながら聞くと、黒崎さんは腕組みをし直して、答えた。
 「くっはは。もう隠す必要もないか、勝負つきそうだし。……実はねカズハちゃん、お父さんを怪我させたのって」
 「……!」


 「僕なんだ」


 薄々感づいてはいたことだった。でも、
 「なんで……」
 そう聞かずにはいられなかった。
 「なんでって、ちょっと考えれば分かることだろう? 本当、何不自由なく育ってきたんだねぇ……。そうだな、簡単に言えば邪魔だからだよ」
 邪魔……?
 「森本のやり方は昔から気に入らなくてねえ。僕の関わったグループの歌がさっぱり売れやしない。だから、少し痛い目を見てもらおうと思ったのさ」
 サングラスの奥の目が怪しく光って、わたしを見る。
 「それだけのことで……。パパと……パパと、友達じゃなかったんですか……?」
 「友達ぃ? くはっ、甘っちょろいこと言わないでよ。こっちも商売でやってるんだからさ。……ま、僕としちゃいい気味だな。ファンシーズはここで消え、ウラノスもメンバーのスキャンダルで消える。君もいい潮時だと思うよ。ウラノスに入れたのだって金の力でだし、頑張っても認めてもらえない。正直辛いんでしょ」
 黒崎さんの言葉は、認めたくないけれどその通りだった。



 ※※※



 わたしの家族は、昔から仲が良くなかった。
 パパとママは二人とも音楽の仕事をしていて、自然とわたしは歌に触れる機会が多かった。歌うのも、聞いてもらうのも好きだった。
 けど、パパとママはわたしが大きくなったらどうするかになると、毎回喧嘩していた。きちんと音楽の勉強をさせてから声楽の歌手として売り出したいママと、タレントとして早くにデビューさせると言うパパは意見が合わなかった。
 でも、お兄ちゃんは違った。
 『和葉はすげーな!』
 お兄ちゃんはどんな歌も、何時間だって素直に聴いてくれた。


 お兄ちゃんは、機械をいじるのが得意だった。
 古い時計から、その当時発売したばかりのぬいぐるみロボットだって。お兄ちゃんの手にかかれば、どんな機械もまるで魔法にかかったみたいに自由に動いた。
 それはお兄ちゃんとわたしの特別な時間。けれど、
 『そんな工作がなんだと言うんだ。将来の役には立たん!』
 『やめて、パパ!』
 『見てろよ、いつかあんたが認めるような男になってやるからな!』
 パパは、お兄ちゃんを認めてくれなかった。音楽の才能は無いと、いつもはねつけてばかりだった。お兄ちゃんも、そんなパパを嫌っていた。
 そうしてお兄ちゃんは、大学に入学する頃に喧嘩をして家を出て行ってしまった。


 わたしはお兄ちゃんがいなくなってからも音楽の練習をして、やがてアイドルとしてデビューすることになった。初めは小さなグループ、やがてパパが曲を作っている『ウラノス』へ。全てパパの一存だった。
 もうその頃から、パパとママはほとんど会話をしなくなった。わたしのこともだけど、お兄ちゃんのこともあったかもしれない。
 『和葉、お前には音楽の才能がある。直也とは違うんだ』
 『違うよ、パパ。お兄ちゃんは、本当は……』
 『直也の話はしなくていい!』
 パパがどんなにお兄ちゃんを悪く言っても、それでもパパはわたしのパパだったから、厳しい練習にもついていった。もしかしたら、お兄ちゃんがどこかでわたしの歌を聴いてくれるかもしれないとも思った。
 けど、わたしはいつも黒崎さんの言うように頑張っても認めてもらえないし、お仕事もだんだん減っていった。事務所で電話に出るパパはその度にただならない雰囲気を漂わせていて、恐かった。


 そんなある時、パパが事故にあったという知らせが入った。帰りが遅くなった夜に、乗っていた車が後ろからトラックに追突されたと。
 『パパ! パパぁっ……! どうして、どうして……!?』
 そして、病院で訳も分からず立ち尽くしていたわたしの所に、黒崎さんがやって来たのだった。
 『大変だったね、カズハちゃん。でも大丈夫だ、お父さんを助ける方法がある』
 『本当ですか、黒崎さん?』
 『ああ、僕に任せてくれ』
 黒崎さんの言葉は、その時はたった一筋の光のようだったけど。それは結局、もっと深い闇にわたしを突き落としてしまった。


 ※※※


 ふと、キャンディを見た。
 デビューする前から一緒に音楽を続けてきた、大事な友達。でも、今はわたしの手の中で動かなくなってしまった。――そう、わたしのせいで。
 水野君もそう。会った時に、あんなに優しいことを言ってもらったのは久しぶりで、友達に……なってもらえるかななんて思ったけど、そのせいで傷ついてしまっているんだ。

 「どうしたら……いいの……」

 足下が音を立てて崩れて、その中に落ちていくような感覚だった。両手で顔をおおって泣きたくなった。
 みんな、――わたしが望んだものは、みんな離れていっちゃうよ……。パパも、お兄ちゃんも、水野君だって。
 そう、わたしが友達なんて言わなかったら、水野君は傷つかなかったんだ。でも、どうしようもない、とりかえしがつかないよ……。
 「……くはっ、そうか。それもいいな。……そうねぇカズハちゃん、気が変わったよ。あの少年君は助けてあげてもいい。……ただしだ、条件がある。君はこれから……」
 「えっ……」
 黒崎さんが意地悪く笑って続けた言葉は、とんでもないものだった。


 「僕の、奴隷だ♪」


 「悪魔……!」
 「くっはは、なんとでも言うが良いさ」
 その間にも、目の前で水野君が、体をがくがく震わせて倒れる。
 「ほら、どうするの? 彼さ、一人で乗り込んでくるくらい君に入れ込んでるじゃない。健気だよねえ、助けたいよねえ?」
 ああ、もう、わたしに出来ることなんて、それくらいしか。
 せめて、責任を取ろう。大事なものを沢山巻き込んで傷つけた、その罪を償おう。





 ※※※




 「クレア!クレアっ!」
 しまった、油断した。相手はまだ全然本気なんて出してなかった。しかも相手は改造神姫。壊すために作られた神姫。
 クレアはなおも叫び続けて、ストラーフの方に引っ張られていく。
 「ほぅ~ら、つっかまっえた~♪」
 「ようし、まだバラすなよ。まだまだ楽しみてえからな」
 「はーい」
 ストラーフが、そのリアパーツの大きな手を広げて、クレアの体を固定する。そして空いた一方の手に持ったハンマーで、何度もクレアを殴りつける。がつんがつんと音を立てて、何度も。パーツが砕け、ボディがえぐられる。思わず身構えた僕も、電流に襲われた。
 「がっ! あ、があぁぁああああぁっ!」
 痛いなんてものじゃない。手足がちぎれるかと思うような激痛が、連続して襲ってくる。
 やがてストラーフが、飽きたようにクレアを、スチール板めがけてひょいと投げる。叩きつけられて、クレアのリアパーツが粉々になる。
 電流が止まるのと同じくして、僕は台から落ちて、仰向けに床に倒れ込んだ。顔を上げると、動かないぼろぼろのクレアが見えた。
 僕の口からひゅーひゅー息が漏れる。指先が冷たくなって、感覚が無くなってくる。客席から聞こえる歓声も、どこか遠く聞こえた。
 まだ、もうちょっと。僕が起き上がろうとした時だった。
 「水野君」
 後ろから、和葉ちゃんの声がする。首を右にねじると、和葉ちゃんがパイプ椅子から立ち上がったところだった。


 「……もう、いいよ。頑張らなくっていいから」


 え……?
 「わたしね、ウラノスを辞めて……黒崎さんのところで音楽を続けるから……。だから、だからっ……」
 和葉ちゃんは衣装のすそを握りしめて、笑って言った。
 「サレンダーして……。もう、傷つかなくっていいから……」
 まただ。またあの時みたいな、泣き出しそうな笑顔だ。
 なんで。
 なんで、そんな顔するんだよ。
 心の中で生まれた疑問を口に出そうとしたけど、声が出ない。
 「ほら、早く……。黒崎さんが、パパを助けてくれるって。だから、もう戦わないでいいんだよ。クレアちゃんも、無理っ、しないで……これ以上、わたしに関わらないでいいから……」
 本当に。本当に和葉ちゃんはそう思っているのか。そんな訳ない。そう思ったけど、体から力が抜けて、頭が働かない。
 「さあ、どうした少年君! 君のトモダチのカズハちゃんが言ってるんだよ? サレンダーすれば神姫も壊れずに済むし、君も痛い思いをせずにすむ。賢明だと思うけどねえ?」
 ……あ、そうか。



 『謝っちゃえばいいんだ』



 ふと、そんな考えが浮かんだ。
 そうだ。僕が降参すれば全部終わる。クレアは壊れないで済むし、和葉ちゃんがいいって言ってるなら、もう戦わなくていいじゃないか。話がついてるんなら、約束は守ってもらえるだろう。
 謝ろう。僕じゃかないませんでしたって。かっこ悪いけど、今までだってそうやって、謝って解決してきたじゃないか。母さんにだって、塾でだって。
 一度そう考えてしまうと、歯止めがきかなくなった。顔を上げると、僕が立っていた傍に赤いサレンダーボタンがある。あ、こんなところにあったんだ。
 あれを押せば、全部終わる。僕は震える指で、そのボタンを押そうと――










 「――駄目です、マスター」





 びくっとして、指を思わず止めた。
 「それだけはっ……絶対に駄目です」
 クレアが、照明を受けながらよろよろと立ち上がって、リングの上から僕を振り返っていた。
 「クレア……?」
 「あたしはまだ、戦えます……! だから、サレンダーなんてしないで下さい……!」
 肩を大きく上下させて立つクレアを、ストラーフがぎらついた目で見る。
 「チッ、まぁだ壊れないのかよォ~! 面倒くせえなァッ!」
 繰り出すハンマーが、クレアの腕で防がれる。
 「くっ、ま、マスターはっ……! 何のためにここへ来たんですか……! 友達を助けようとしたからじゃ、なかったんですか!」
 「……!」
 「アテナさんは言ってました! 戦うべき時には、立ち向かわなくちゃいけないんだって!」
 あの時の言葉だ。僕の頭にもよみがえる。



 『自分が引き金を引くのをためらっても、相手がそうしてくれるとは限らないわ』



 「……てめえ、今アテナって言ったか? むかつかせんなァ!」
 激しくなった相手の攻撃を受けながら、クレアが必死で、僕に呼びかけてくる。
 「ビートルAだって、メロスだって! 怪獣が恐くたって、疲れて走れなくなったって、最後まで頑張った! けどあたしはあの時、なんにも守れないままだった……。だから、もう二度と悔しい思いはしたくないんです! くあっ! あっ!」
 小さな体で、クレアはずっと、醜いまでに巨大に改造されたストラーフを受け止める。
 それを見て、ある光景が僕の頭に浮かんだ。




 ※※※




 「うわああっ!」
 クレアが、ツガルの大きな鎌で吹き飛ばされる。
 「ハッ、戸川といいお前といい、桐中のレベルってこんなもんかよ!」
 不良グループのリーダーが、僕らをあざ笑う。そして僕の手から強引にクレアを奪い取って、ポケットにねじこんでしまう。
 去って行くそいつらを、僕らは黙って見ている事しか出来なかった。
 「ごめん水野、俺たちのせいで……」
 「いいんだよ、……僕が、出しゃばったせいだから……」
 僕はその時、無理に笑っていた。
 そして、その後自転車に乗って、商店街で――。




 ※※※




 ――そうだよ。

 「くっ……」
 膝にむち打って、僕は立ち上がる。
 水野健五、お前は馬鹿か。なんでちょっとでも諦めようなんて思った。こんな小さなクレアが、まだ諦めていないのに。
 「戦うよ、クレア。ありがとう、心配してくれたんだね」
 「マスター……!」
 そうだ。謝ったって許してなんてもらえない。悔しい思いはしたくない。
 それになにより、大事なものを守れないで終わるなんて、もう絶対に嫌だ!
 前に立っている相手オーナーと、後ろで数人が息を呑むのが感じられた。
 「水野君……。っ、どうして!? 戦わないでよ! 死んじゃうよ!」
 「和葉ちゃん……」
 「もう、見たくないよ……。パパもお兄ちゃんも、みんな傷ついてるのに……、水野君まで傷つかなくていいよ! ……それくらいなら、わたし、なんだって諦めるから……」
 ああ、やっぱり心配してくれてたんだ。嬉しいけど、でも、
 「ありがとう。でも、僕は大丈夫だから」
 「水野君!!」
 こらえきれなくなったのか、和葉ちゃんの表情がくしゃっと歪んだ。
 「どうして!? どうしてそこまでするの!? そんな、わたしなんかのために戦う理由なんてないじゃない!」
 ――戦う理由か。そういえば僕、初めてあそこに行った時も内心同じことを思ったな、なんて変に冷静に考えてしまった。
 けど、あの時分からなかったことも、今なら答えが出せる。
 「和葉ちゃん、僕はね……今までずっと引っ越しをしてきて、その度にせっかく出来た友達も離れていって、だからずっと諦めてたんだ」
 ベルトと手足から送り込まれる痛みに耐えながら、和葉ちゃんに訴えかける。


 「どうせ手の届かない所にいっちゃうなら、もう友達なんか作らないって。与えられた世界をそのまま受け取って生きて行こうって、心の中で諦めてた……。ぐっ、父さんは優しいし、母さんは言う事を聞いてればなんだってしてくれるから、それでもいいかななんて思ってた。でも、本当はずっと寂しかったんだ!」

 そんな時に、父さんがクレアを連れてきた。
 「クレアがいたから、学校でも友達が増えて、でもそんな大事な友達を僕は守れなかった」
 そして、あの人達に出会ったんだ。―――ははっ、なんだよ。なんか笑える。知らないとか言って飛び出してきたくせに、思い出しちゃってるよ。ホント毒されてるな、僕。

 「その人達はちゃらんぽらんで悪ふざけが好きで、時々むかつくところもあるけど、困ってる人をなんとか助けようとしてて、いつでも周りは笑顔でいっぱいなんだ」
 「っ……」
「……それで僕もちょっとずつ分かった。もし望んでないとしても、僕らは一人じゃなくて……いつも誰かに支えられてるんだ。だからっ、今度は僕が守るよ」
 痛みをこらえて、ありったけの笑顔で和葉ちゃんを振り返る。

 「和葉ちゃんは一人じゃないから、僕とクレアが守るからっ……。大丈夫、和葉ちゃんが傷つく時は、僕らも一緒に傷つくから!」

 「水野君……っ」
 和葉ちゃんの黒目がちな大きい目から、宝石のような涙が、白い頬にぽろぽろとこぼれ落ちているのが見えた。



 ※※※



 その言葉が、どんなに嬉しかったかしれない。
 どんなに、どんなに心がほぐれていったか。

 「くはっ、往生際が悪いぞ少年君。もう勝負はついたも同然だよ? カズハちゃんだって、自分の意思で」
 「うるさい」
 水野君に反撃されて、黒崎さんの表情が固まった。
 「あんたが決めることじゃない。僕らはまだ戦えるし、ぐっ、和葉ちゃんが本当にどうしたいかは和葉ちゃんが決めることだ」
 「く、くははっ。分かっていないようだね。今この場を支配しているのは誰だと……」



 わたしは、わたしはどうしたいの?
 「わ、わたし、わたしっ……」
 ずっと心に閉じ込めていた思いが、せきを切ったようにあふれてきた。


 『やめて、パパ!』

 『違うよ、パパ。お兄ちゃんは、本当は……』

 『本当ですか、黒崎さん?』



 ずっと、どこにも『わたし』がいなかった……!
 流されるまま生きてばっかりで、ささやかでいいから家族の幸せが欲しいって思ってただけなのに、言い出せなくて!
 本当はずっと求めてたのに、心の中で諦めてた……!




 「た……すけて」
 目を固く閉じて、『わたし』を見てくれた男の子に、訴えた。


 「またパパとママと……! お兄ちゃんに笑って欲しいっ……」
 「おい、カズハちゃん」
 「嫌だ……! みんなの所に帰りたい! 歌っていたい!」
 「止めろ!」


 黒崎さんを制して、心の中の思いを、全部はき出す。


 「助けてっ! 水野君!」


 そしたら、その子は強いまなざしをして、微笑んでくれた。
 「うん。助けるよ」
 それだけで心が温かくなったと、思った瞬間、頬をおもいっきりはたかれた。
 「あっ!」
 「余計な真似を!」
 勢いで床に倒れてしまう。頬を押さえて黒崎さんを見上げると、ずれたサングラスから血走った目がのぞいていた。わたしを誘惑した時のような余裕の表情と甘い声色は、仮面がはがれるように消えている。こんなに、人は恐ろしい顔ができるんだ。
 でも、もう恐くない。水野君が勇気をくれたから。
 「あなたの……! あなたの言いなりになんかならない!」
 きっ、と黒崎さんをにらみ返す。水野君も同じことをしてくれた。
 「お前、絶対許さない!」
 「ハッ、たかがガキ二人が粋がるな! 大人しく僕に従うと誓っていれば良かったものを……。川名君! 徹底的に痛めつけてやってくれ!」
 負けないで、水野君。
 わたしは座ったまま、胸の前で両手を組み合わせて祈った。




 ※※※



 和葉ちゃんが信じてくれている。さっきまでの恐怖と疲れが、嘘みたいに消えた。
 「クレア、ステップだ!」
 単純かもしれないけど、たったそれだけのことで、誰よりも強くなれた気がする。それに、クレアが一緒に戦ってくれる。こんなにありがたいことはない。
 「やあっ!」
 「こんのっ、ちょこまかするなァ!」
 クレアはハンマーをかわして、その隙にパンチを打ち込む。防がれても、何度も。
 勝てるかどうかなんて分からない。いや、もう勝つことなんてどうだっていい。ただ、負けることだけはないように、精一杯戦い抜くだけだ。何度も反撃をもらって電流が流れるけど、耐える。
 「ぐうあああああぁぁぁぁぁ!」
 痛いもんか。和葉ちゃんは、もっと辛かったはずだ!
 左右から迫る爪を、クレアが体を低くしてかわす。がら空きの胴体に、拳を連続で入れる。
 「こいつ、動きが良くなってやがるっ……!」
 絶対倒れない。最後まで食らいついてやる!




 ※※※



 俺が、三盥を含めた神姫好きどものいる居酒屋に着いたのは、もう九時も半ばを過ぎてからだった。
 騒がしい店内を抜けて座敷に行くと、赤ら顔で大宴会の最中だった。神姫も神姫でヂェリー一気飲みなんかしちゃってまあ、のんきなもんだね。
 ただ三盥と美香だけは、水をちびちびやっているだけだった。普段は酒が飲めねえでこいつ、とか思っていたが、今は素面なのが丁度いい。
 「よっ」
 顔を合わせるなり、いつもの微笑みを返して来た。
 「ああ、来たか。って、その痣と荷物は?」
 「ん、いやちょっとな」
 「……森本となにかあったね」
 三盥の余裕の笑みが濃くなった。信頼のつもりだな、この野郎。
 「二人ともすぐ顔に出るんだから。で、どうしたの?」
 「三盥、お前に手伝ってもらいてぇことが……っと済まねえ。直也か」
 携帯がびーびー震えたのを感じて取り出すと、期待していた奴とは違う人物からだった。



 『あ、もしもししまぴー? 実はねー、ちょい大変なことになってて……』




 ※※※




 「はーっ、はーっ」
 「な、なんだよてめえ……。なんで、なんで」
 蒸し暑い会場の中。
 さっきまでうるさかった観客は沈黙しきっていて、バトルステージを食い入るように見つめていた。相手のオーナーも、黒崎も例外じゃない。
 「ふーっ、ふーっ」
 クレアは、まだ倒れていなかった。
 壊れたバイザーからは金色の髪がこぼれていて、足はあと一歩でも踏み出したら折れてしまうんじゃないかと思うくらいにひび割れている。そんな目も当てられないような状態なのに、倒れない。
 会場の全部の視線が、ステージに集まっている。僕は感覚の無くなった足でやっと立ちながら、それを見ていた。
 「なんで、なんで壊れねえんだァァァあああああっ!!」
 ストラーフが狂ったようにとげだらけのハンマーを振るう。ぶつかって、クレアの頭からぽたぽたっとオイルが垂れる。
 でも、まだ倒れない。大きく肩を上下させて、両の拳をしっかり構え、立っている。
 「うあああああああっ、壊れろ、壊れろ壊れろ壊れろ壊れろよおおおォォおおおッッ!」ばちんばちんっ、とクレアの体が削れて、バランスを崩す。けど、
 「ふぐっ……!」最小限の動きで衝撃を受け流して、体勢を立て直す。
 「なんでだああああああああああっ! おかしいだろおおォォおおおッッ!」
 じりじりと、クレアが一歩ずつ迫る。
 「ひっ!」
 右の拳がうなる。端から見れば、腰に力が入っていないパンチ。だけど、ストラーフはしりもちをついた。
 「はーっ、はーっ」
 「うああ、止めろ!来るな、来るなァああ!」
 後ずさるストラーフは、とても怯えていた。
 「おい、ドレッド! どうした!?」「来るな、来るな! ひいいいいっ!」
 オーナーの言葉が聞こえないのか、殴られたところを押さえながら、ストラーフは片手を振り回して暴れている。
 クレアはそれを見て近づいていく。荒い息をつきながら、目をらんらんと輝かせて。
 そして、今にも拳を突き出そうとした瞬間……。

 すっ、とそれを下ろした。
 「ひっ――?」
 「はっ、はっ」
 クレアは軽く自分の両手を握り直した後、悲しそうに首を左右に振った。ああ、そうか。きっとクレアは――
と、僕が考えた時。




 「なにをしているんだ! くそっ!」



 黒崎だ。パイプ椅子から勢いよく立ち上がって、わめきちらし始めた。
 「潰せ、潰せっ! もう試合など関係あるか!」
 観客席からも、同じようなブーイングが飛んでいる。ふざけるなとか、金を返せとか。
 「いやっ! 離して下さい! いやああっ!」振り向くと、和葉ちゃんが手首を掴まれて取り押さえられている。
 「なっ……身の安全は保証するって言ったじゃないか!」
 「黙れ黙れ! 小僧、お前も潰してやる!」
 観客席から数体の神姫が飛び出してきた。とっさに確認出来たのは、エウクランテ、イーダ、サイフォス、ヴァッフェバニー。持っている武器は全て、クレアを狙っていた。
 クレアは今にも膝をつきそうで、動けないでいる。



 「あ……」



 反射的に体を張ってでも止めようと思って走り出そうとした僕は、しかしこんな時に膝が笑って、その場に転んでしまった。

 「ク……」

 神姫が飛びかかってくるのが、スローモーションのように見える。一番前にいたイーダの剣が、果物のようにクレアの頭を断ち割って――




 「クレアァぁぁぁーーーーーっ!!!」














 ――――しまおうと、した時だ。




 「よく頑張ったわね」
 「あ……?」

 フッ、と突然現れた真っ赤な腕が、倒れようとするクレアを後ろに下がらせて、

 「もう大丈夫ですよ」


 真っ白い足が、イーダを体ごと蹴り飛ばした。


 「え……?」
 ……信じられない。なんで、ここに……。


 ―――「よう健五、楽しそうじゃねえか。俺らも混ぜてくれよ」



 こののんきな声、まさか、まさか―――――。






 ~次回予告~

 僕らは、まだまだ分からないことだらけで。

 「いける?クレア」

 何度も何度もぶつかるけれど。

 「はい」

 それでも、一緒に歩いてく。

 「決めてこい、お前ら!」



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