どうもこんにちは、美咲です。今日はテーブルの清掃もそこそこに、先生がお仕事にて開発された試作品を使用させていただいています。
そうだ、ついでなので、以前途中まで説明した先生のお仕事について語らせていただきます。……て、ああ! 入れ間違えたぁ! ああ、下に隙間が……。
っと、すみません、話がそれました。先生の勤務されている会社の説明はしましたよね。「カサハラテクニカル」です。先生はその会社の中の、神姫のための玩具を開発する部門の、なんと主任なんです。全権を託されています。
今現在、日本中に神姫の為の玩具が多々ありますが、先生はそのほとんどに関わりを持っていると言っても過言ではありません。
そして現在、先生は新たなことにチャレンジしています。神姫の高いポテンシャルを人と同程度まで低下させるプログラムの開発です。ただ、そんなものを簡単に公表してしまえば、いくらでも悪用できてしまう危険なものなので、今開発しているのは使用制限用プロテクトのほうです。先生曰く「プロテクトの一部にプログラムを組み込むことによって、プロテクトに守られたプログラムではなくプロテクトそのものがプログラムとなり、仮に第三者が流用しようとしても我々が設定した性能以上のことは出来なくなるようなものを開発中です」だそうです。よくわかりません。
現に、今現在私がプレイしている『テトリス』と呼ばれるゲームも、神姫の計算プログラムを持ってすればパーフェクトにこなせるものを、妙に計算が鈍るためちょくちょくミスをしたり上手く詰めなかったりしています。
ああー棒がこない! 詰む、詰んでしま……あ……。
そうだ、ついでなので、以前途中まで説明した先生のお仕事について語らせていただきます。……て、ああ! 入れ間違えたぁ! ああ、下に隙間が……。
っと、すみません、話がそれました。先生の勤務されている会社の説明はしましたよね。「カサハラテクニカル」です。先生はその会社の中の、神姫のための玩具を開発する部門の、なんと主任なんです。全権を託されています。
今現在、日本中に神姫の為の玩具が多々ありますが、先生はそのほとんどに関わりを持っていると言っても過言ではありません。
そして現在、先生は新たなことにチャレンジしています。神姫の高いポテンシャルを人と同程度まで低下させるプログラムの開発です。ただ、そんなものを簡単に公表してしまえば、いくらでも悪用できてしまう危険なものなので、今開発しているのは使用制限用プロテクトのほうです。先生曰く「プロテクトの一部にプログラムを組み込むことによって、プロテクトに守られたプログラムではなくプロテクトそのものがプログラムとなり、仮に第三者が流用しようとしても我々が設定した性能以上のことは出来なくなるようなものを開発中です」だそうです。よくわかりません。
現に、今現在私がプレイしている『テトリス』と呼ばれるゲームも、神姫の計算プログラムを持ってすればパーフェクトにこなせるものを、妙に計算が鈍るためちょくちょくミスをしたり上手く詰めなかったりしています。
ああー棒がこない! 詰む、詰んでしま……あ……。
『GAME OVER』
……とまあ、このように、神姫であっても人間のようにプレイできるのです。GAME OVERという文字は見たくありませんでしたが……。ちなみに、このような昔懐かしいゲームを神姫サイズのアーケード筐体として近日発表予定です。ちなみにプレイ料金は1プレイ百円ですが、バトルで貯めたポイントでもプレイ可能となっております。ゲームやりたさにバトルに精を出すゲームジャンキーバトラーが発生するのが容易に想像できますね……。
……さて、宣伝も終わったことですし、再トライしましょう。これは試作品なので料金は発生しません。やり放題です。ちょっとお得です。
……さて、宣伝も終わったことですし、再トライしましょう。これは試作品なので料金は発生しません。やり放題です。ちょっとお得です。
「みっさきさぁーん!」
おや、先生がご帰宅なさいましたね。またあのハイテンションです。新装備です。
「はい先生、お帰りなさい」
「はい、ただいま帰りました。早速ですが美咲さん……あれ、覚えていますか?」
「何をですか?」
突然覚えているかと聞かれても、なんのことだかさっぱりわかりません。ですが、何か嫌な予感がします。
「以前、『俺の歌を聴けぇ!』装備を作った時の約束です」
「すみません先生私用事を思い出したのでこれで失礼いたします」
回れ右、ダッシュ。しかし肩を捕まれてしまった。
「まあまあそう言わず。私はあれから研究に研究を重ね、ついに、究極と呼んでもよい装備を作り上げました! その名も、『私の歌を聴けぇ!』装備!」
だと思いました……。
「それがこちらになります」
でん、と私の目の前に置かれたのは、私たち神姫が店頭に並んでいる際に詰められているのとほぼ同じサイズの箱でした。
「ささ、遠慮なく御装備下さい」
どうやら逃げられそうにないようです。
「よくお似合いですよ美咲さん」
……これはちょっと意外でした。てっきり私は前回のような派手パンクな格好をさせられると思っていたのですが、用意されていたのは、純白のドレスでした。結婚式等の式典用ではなく、歌って踊れるアイドルが着るような、あちこち素肌が出るタイプのラフでリボンがヒラヒラなミニスカタイプです。
……ちょっと恥ずかしいです……。
……ちょっと恥ずかしいです……。
「そして、こちらがメイン武器となるマイクとマイクスタンドです。ああ、打撃武器のように見えますが打撃には対応していないので間違ってもこれで相手を殴ったりはしないでくださいね」
そう言われて手渡されたものは、ごくごく普通のマイクとマイクスタンドでした。強いていうなら、マイクがちょっとだけ大きく、本当に神姫を殴り倒せそうな質量があります。
「……て、あれ? あの、先生、ギターはないんですか?」
前回の流れから言うならば、私が弾き語りをするものだと思っていたので、ギターが見当たらないことに疑問を感じました。
「さすがですね美咲さん、目の付けどころが違います。まあ、それは対戦前にでもお話ししますよ」
「やっぱりそうなんですね……」
いつもながら先に言ってほしいものです。
今日は平日ということもあってか、人も少なく感じます。それでも全くいないということが無いというのは凄いことだと思います。
「では、対戦待ちをしている間、装備の説明を致しましょう」
そう言って先生は、私が抱えられるくらいの小さな正方形の箱を四つ、長方形の箱を二つ取り出しました。
「まずは正方形の箱を開けてみてください」
わあ、なんだか凄くワクワクしてる顔ですね先生。まあ私も、先生から何かプレゼントを貰っている気分になっているので、ワクワクもお互い様ですが。
早速、私は正方形の箱を丁寧に開きます(赤いサイコロ柄の箱です。どこかでみたような……)。
早速、私は正方形の箱を丁寧に開きます(赤いサイコロ柄の箱です。どこかでみたような……)。
「こ、これは……」
中から出てきたのは、額にエレキギターのマーキングを施された、起動していない猫型ぷちマスィーンでした。可愛い……。
「ささ、じゃんじゃん開けていきましょう!」
先生に促され、私は次の箱も開けます(今度は白いサイコロ柄です)。中身は同じく猫型ぷちマスィーン。額にはエレキベース。
次の箱には(さっきのと同じ赤いサイコロ柄。なんだか甘い匂いが……)、額にドラムセットのマーキングのぷちマスィーン。
最後の箱には(白いサイコロ柄。ああ、これ、キャラメルの……)、額にはシンセサイザーのマーキングが施されたぷちマスィーンが。
次の箱には(さっきのと同じ赤いサイコロ柄。なんだか甘い匂いが……)、額にドラムセットのマーキングのぷちマスィーン。
最後の箱には(白いサイコロ柄。ああ、これ、キャラメルの……)、額にはシンセサイザーのマーキングが施されたぷちマスィーンが。
「先生、この猫たちは一体……」
「起動するとわかります」
先生が嬉しそうに私に起動を促します。それほどの自信作なんでしょうか。私はとりあえず、ぷちマスィーンズを起動することにしました。
「……我らは!」ギャワワァァァン!
「……究極の!」ヴェヴェヴェェェン!
「……音響戦士!」トコトコトコドドシャァァァン!
「……刮目せよ!」ラリラララー!
「「「「我ら、戦う音楽隊『ニャンたるロック』!!」」」」ジャンジャカジャーン!
……なんでしょうか、これは。
「どうでしょうか、ぷちマスィーンズロックバンド、『ニャンたるロック』。ロックバンドではありますが、童謡からクラシックまでプログラム一つでなんでも演奏するぷちマスィーンズです」
茫然とする私に先生は自らの発明品に満足そうに頷きながら言いました。
「では、装備の使用方法について軽く説明しますね。まずは以前のように相手にスピーカーポットを付着させてください。ちなみにそのスピーカーポットですが、研究に研究を重ねた結果、ようやく通常弾程度の大きさに仕上がりましたよ。こちらがその専用の射出武器です」
先生から長方形の箱を渡されました。早速開けてみると、中には黒と白の二対のハンドガンが入っていました。しかも、薬夾の排出口が外側に向くようにカスタマイズされた二丁持ち前提のです。
「これは、その昔に悪魔と踊ることを得意とした悪魔のハーフの狩人が愛用していた物を忠実に再現した代物です。剣も一応ありますが、今回の趣旨にそぐわないので置いてきました。ちなみに白いのは『象牙君』、黒いのは『黒檀君』です」
なぜ和訳した名前なのかは置いておきましょう。問題はなぜ作ったのか、です。先生に問い質すと。
「それは勿論、面白いからです」
……だと思いました。ため息交じりにもう一つの箱を開けると……。
「もう一つの箱にはマシンガンとショットガ……!?」
スバッと素早く手にしたものを奪い去られましたが、それが何だったかは目に焼き付いています。ギギギと音がでそうなくらいゆっくりと先生に振り返ると、先生もまたゆっくりと視線をそらしました。
「……先生」
「違うんですこれはですね私のではなくそうタチバナさんタチバナさんの物なんですよもしかしたら会社で会った時にお互いの荷物を取り違えてしまったようですね全く困ったものですははははは!」
「……せめて目を見て弁解していただけますか?」
先生の目はバタフライ泳法が如く泳ぎ、汗はナイアガラもなんのその。
「……先生、今し方私が手にしたものは、俗に言う『バイブレータ』と呼ばれるオトナのオモチャでしたよね。しかも神姫サイズの」
「……は、い」
「先生のお仕事は確か、神姫の為の玩具を制作する──」
その時、対戦者出現のブザーが鳴りました。どうやらオンラインからの挑戦のようです。
「さあ美咲さん相手が現れたようですお待たせするわけにはいかないので早急に対戦を始めましょうではお気をつけて」
「ちょ、先s」
まさに、あっという間に私はポットに納められてしまいました。なんですかこの手際のよさ。先生、焦ると手先の器用さが上昇するんですね。
まあ、この件は仕方なく帰宅してから問い詰めてみましょう。
まあ、この件は仕方なく帰宅してから問い詰めてみましょう。
バトルフィールドは『首都』。都市よりもさらに大きく、道幅も広く、建物も高いステージです。ただ、車は一台も走っていないので静寂に包まれていて、不気味な雰囲気を醸し出しています。
私がフィールドに出現すると、既に相手の方はフィールドにいました。大きな交差点のど真ん中、菱形の白いストライプが特徴の走行禁止部分に、銀色に輝く不気味な装飾を施した棺桶に腰掛けています。
私がフィールドに出現すると、既に相手の方はフィールドにいました。大きな交差点のど真ん中、菱形の白いストライプが特徴の走行禁止部分に、銀色に輝く不気味な装飾を施した棺桶に腰掛けています。
「……来たか。早かったな」
相手の方はストラーフタイプで、黒いロングコートを着ていました。なんというか、目の前に立つだけで、凄い威圧感です。
「……お待たせして申し訳ありません」
正直に言いましょう。勝てる気がしません。たとえ私がフル装備であったとしても、互角にすらならない気がします。レベルでいうなら、フェフィーちゃんと肩を並べていそうなくらいでしょう。確実に上位のランカーです。
「私の名はムース」
「私は美咲と申します」
緊張に体が固くなります。今までほとんど、あの神姫センターにいる変人奇人な神姫ばかり相手にしてきたものですから、このように真の兵(つわもの)と対峙するのも久しぶりです。
「……すまないがこれ以上、語る言葉は持たない。始めさせてもらう」
ムースさんはそう言うと、腰掛けていた髑髏と十字架が際立つ棺桶(に見える大型の火器のようです)を背に背負い直し、腰のホルダーからそれぞれ赤と白の十字架の装飾がなされた大型のハンドガンを二丁引き抜き、そして、長方形の形をした眼鏡を掛けました。……どこの破壊系ガンシューティングアクションの主人公でしょうか。
「……重い……」
……プルプルと手足を震わせながら、涙目でムースさんは言いました。
『やっぱり無理だったじゃないか! だぁから言ったんだよこの馬鹿! んな重装備を素体で使えるかっての! そもそもケルベロスもデスホーラーもサブアームでの運用が前提なんだってこれを何百回言わせんだコラァァァ!』
恐らくムースさんのマスターさんと思われる女性の声が聞こえました。怒り心頭に発する、といったご様子です。
「マスターの声なら、私は何万回でも聞いていたい。私は、それだけで頑張れる」
頬を朱に染めて言うムースさん。端からみればどMです。
『なら頑張って学習しろ馬鹿ぁ!』
わかった、と言って、ムースさんは大きな棺桶とハンドガンを地面に起きました。
「ではマスター、いつものを頼む」
『……はぁ、やっぱりそうなるのか』
ムースさんのマスターさんのため息が聞こえた後、ムースさんの手元に武器が転送されてきました。……アコースティックギター?
ジャララン
「……一曲、どうだい?」
「……一曲、どうだい?」
……なんていうか、そう、何なんでしょうね。私には、マトモな神姫とは出会えない呪いか何かにかかっているのでしょうか。あ、いや、イールさんとネムさんはマトモでした。
「どうやら、相手もまた楽器での戦闘を得意とするようですね。音楽勝負とは、面白いですね」
先生はワクワクした様子で言いました。なんだか、今日は先生のテンションが少し高い気がします。
「心するがいい。私は『破滅のストロングカントリー』と呼ばれている。歌一つで幾人もの神姫を墜としてきた」ジャララン
ムースさんの口調は、抑揚はないものの強くはっきりとしているため、よほど自信があるように思えた。否が応にも体が強ばります。彼女もまた、歌に何かしらの仕掛けを施しているのでしょうか?
「では、いくぞ……」
警戒をしていると、ムースさんが深く息を吸いました。まさか、何も仕掛けなくても、歌うだけで相手に作用する類いなのでしょうか。中断させようと銃を構えましたが、時既に遅し。ムースさんは目を閉じたまま、口を開きました。
「あ"ーなーたに"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"! あ"ぁいたぁぁぁくてぇぇぇ"ぇ"え"!」
くあぁぁぁ! み、耳が!? いやもう、これは騒音とか下手とかそういう次元じゃ有りません! AIが処理限界で焼き切れてしまいそうです! 文字通りデスボイスです!
……は! ストロング=強い=剛。カントリー=田畑、田園=田。ストロングカントリー=剛田。なるほど、確かに破滅ですね……。なんて冷静に分析している場合ではありません! なんとか……しないと……。
「ぶわっくぁもぉぉぉんん!!」ゴッ
私の意識が途絶える寸前、ギターのぷちマスィーンがムースさんの顔面に突撃し歌は中断され、私は一命を取り留めました。
「貴様ぁ、音楽を、歌をなんと心得とるかぁ!? 貴様のそれは、ぁ断じてミュージックではなぁぁぁい! ただのぅ、音の羅列だぶるあぁぁ!」
ギターのぷちマスィーンは、倒れこんだムースさんに説教を説きました。音楽を語るぷちマスィーン、すごくシュールです。
「今から貴様に、音楽のなんーたるかを、刻み付けたるぁぁぁ! 美咲とやら、我が名を呼べぇ! 我が名は、『ギタにゃん』!」
猛烈な勢いで振り返ったぷちマスィーンに気圧され、思わずたじろぎました。
「ぎ、ギタにゃん……」
「声が小さいぃ! さんを付けろぃデコスケがぁ!」ドスッ
……顔面に来ると思ってガードしたので、腹部はがら空きでした。ぷちマスィーンのタックルはまるでバズーカを食らったかのような衝撃でした。
「けふぇっ!? ぎ、ギタにゃんさん!」
「応!」ギャワワーン!
名前を呼ぶと、ギタにゃんさんは私の背後に付きました。残りの三体もまた、私の目の前にふわりと浮きます。
「我が名はにゃんベース! さあ、呼ぶがーいい!」
「にゃんベースさん!」
「我が名はぬこドラム! 呼べ!」
「ぬこドラムさん!」
「私はにゃんセイザーです。よろしくお願いしますね」
「一人だけテンションおかしい!? に、にゃんセイザーさん!」
私がそれぞれの名前を呼ぶと、四匹は私の後ろに、私を含めて五角形になるように並びました。
「ゆくぞ、ニャンたるロック! 美咲殿ぉ! 奴に、音楽とはなんんーたるかを、ぁ叩き込めぇぇぇ!」
完全にぷちマスィーンに仕切られてます。私の立場って一体……。しかし、これはチャンスです。惚けて動けないムースさんにスピーカーポットを発射。
ビスビス
「痛っいたたたっ!」
そして私は、背にしていたマイクスタンドを目の前に立たせ、マイクのスイッチを入れます。
「心して聞くが良い! これが……音楽だぶるぁぁぁ!」
私は、深く息を吸います。
ザ・ワールド!
一度言ってみたかったんですよねー、この台詞。あ、失礼致しました。どうも、先生です。
えー、故あって装備の説明が中断されてしまったので、時を止めて、ご視聴中の皆様に説明させていただきます。少々お付き合いくださいませ。あ、興味の無い方は読み飛ばしてくださってもかまいませんよ。
今回のスピーカーポットなのですが、前回使用したスピーカーポットとは機能が大きく違います。前回のものは、美咲さんが掻き鳴らしたギターの音を拾い、それを複数の電気信号に変換、複雑に混ぜ合わせて相手に流し込むタイプだったので、どうしてもグレネード弾並の大きさになってしまいました。
しかし、今回のスピーカーポットは、そういった複雑な機構をほぼ廃し、複数の電気信号を収束してプログラムソースにする、という機能だけを搭載したんですよ。故に小型化に成功しました。
肝心の電気信号の発信源は、ニャンたるロックの面々の演奏、そして、美咲さんの歌声です。その五つがハーモニーを奏で、ようやく降伏推奨プログラムの書き込みがスタートする、といった仕組みです。なので、たとえニャンたるロックが演奏していても、美咲さんが歌わなければ意味がありません。たとえ美咲さんが歌っていても、ニャンたるロックが演奏をしなければ発動しません。まさに、全てが噛み合わなければ発動しない、非常にピーキーな代物です。タチバナさんが好みそうですね。
……あのバイブは何か? いやですからあれはタチバナさんの個人所有物でして別に私が制作したものではありませんよええタチバナさんにケーキで買収されて制作なんてするわけないじゃないですかははははは!
えー、故あって装備の説明が中断されてしまったので、時を止めて、ご視聴中の皆様に説明させていただきます。少々お付き合いくださいませ。あ、興味の無い方は読み飛ばしてくださってもかまいませんよ。
今回のスピーカーポットなのですが、前回使用したスピーカーポットとは機能が大きく違います。前回のものは、美咲さんが掻き鳴らしたギターの音を拾い、それを複数の電気信号に変換、複雑に混ぜ合わせて相手に流し込むタイプだったので、どうしてもグレネード弾並の大きさになってしまいました。
しかし、今回のスピーカーポットは、そういった複雑な機構をほぼ廃し、複数の電気信号を収束してプログラムソースにする、という機能だけを搭載したんですよ。故に小型化に成功しました。
肝心の電気信号の発信源は、ニャンたるロックの面々の演奏、そして、美咲さんの歌声です。その五つがハーモニーを奏で、ようやく降伏推奨プログラムの書き込みがスタートする、といった仕組みです。なので、たとえニャンたるロックが演奏していても、美咲さんが歌わなければ意味がありません。たとえ美咲さんが歌っていても、ニャンたるロックが演奏をしなければ発動しません。まさに、全てが噛み合わなければ発動しない、非常にピーキーな代物です。タチバナさんが好みそうですね。
……あのバイブは何か? いやですからあれはタチバナさんの個人所有物でして別に私が制作したものではありませんよええタチバナさんにケーキで買収されて制作なんてするわけないじゃないですかははははは!
「涙の中にかすかな、灯りがともったら」
激しさの中に繊細さを、激情の中に優しさを。それが……ロック!
「君の目の前で、あたためてた事話すのさ」
この歌は、愛し合う二人を歌う歌……その愛の深さを、叫ぶ歌!
「それでも僕らの声が、渇いてゆくだけなら」
愛する人と愛を分かち合う、そんな歌……。
「朝が来るまで、せめて誰かと歌いたいんだ」
ニャンたるロックの奏でる音楽が、私の中に染み込んでくる。記憶領域に(勝手に)書き込まれた歌詞をただ歌うだけじゃ物足りない。
「昨日のあなたが偽だと言うなら、昨日の景色を捨てちまうだけだ!」
愛してる人に、愛してると、伝えたい!
「新しい日々を繋ぐのは、新しい君と僕なのさ! 僕らなぜか確かめ合う! 世界じゃそれを愛と呼ぶんだぜ!」
普段の私なら絶対にしない口調も、今だけならすんなりと口からでます。
「心の声を繋ぐのが、これほど怖いものだとは! 君と僕が声を合わす! 今までの過去なんてなかったかのように歌い出すんだ!」
先生、私は、先生がいるから……歌えるんです!
「LOVE & PEEEEEEEACE!!!!」ジャーン!
……AI、復帰します。途中からオーバーヒートしたため、頭がクラクラします。熱にうなされながら前方をみると、まるで生気を感じられない立ち姿のムースさんがいました。
「これが……音楽」
ニャンたるロックの面々も、どうやらオーバーヒートのようです。演奏終了と共に地に落ちました。戦おうにも、武器はスピーカーポット射出用のハンドガンのみで、戦力になりません。
「これが、本物の……歌」
ムースさんがゆっくり近づいてきます。降伏プログラムは失敗に終わったのでしょうか。攻撃に備えて身構えますが、ムースさんからはまるで闘志を感じません。と言いますか、なんだかデジャヴすら感じます。ムースさんのこの感じ、前回の時に似てるような……。
「……美咲、さん、でしたか。いや、美咲さま、私は、あなたを心より敬愛します」
ムースさんは跪き、私の手を取って手の甲にキスを……へあ!?
「ちょちょちょ、ちょっと待ってください! 一体これはどういう、先生ぇ! まさかまた……」
「……美咲さん、非常に申し訳ないことですが……」
やはり、また例の副作用が!
「……スピーカーポットの納められたマガジンと、通常弾のマガジン、取り間違えてしまっていました」
「……?」
え、と。先生のおっしゃっている意味がわかりません。
「……ええとですね、美咲さんが所持なさっている黒檀君と象牙君なのですが……私が間違って通常弾のマガジンを装着していたようです」
「え、と、それは、つまり……」
まさか……。
「ええ、そもそもでプログラムの書き込みが出来てないんです。ムースさんがそうなってしまったのは、恐らく純粋に美咲さんの歌声に魅了されてしまったのでしょう」
……はいぃ!?
『アンコール! アンコール!』
なにやら筐体を取り囲む観戦者が騒ぎ始めました。耳を澄ませると、ムースさん側の筐体周りの方々もアンコールしているようです。
「美咲さん、これは、快挙ですよ。美咲さんの素晴らしき歌声が、人々の心に響いたんですよ!」
「いや、あの、先生?」
やはり今日の先生はテンションがおかしいです。一体どうしたんでしょうか……。
「せっかくなので、アンコールにお応えしましょう、美咲さん」
「いや、そんな……。AIもオーバーヒート気味なので、出来れば遠慮願いたいです」
本音は、こんな大観衆の中で歌うのはさすがに恥ずかしいです。さっきは流れに流されて歌ってしまっただけです。
「美咲さん、私は、あなたの美声をもう一度聴きたいです。あなたの美しい声を……愛していますよ」
「ニャンたるロックさん達、すぐにスタンバイを」
ええ、どうせ私は軽い神姫です。
「む、無理だぁぁぁ……」
「ちょちょっ、むーちゃ言わないでくださいよぉ!」
「うむむ、熱量過剰だ。少し休ませてくれ」
「さすがの私でも、連続は少々」
なにを情けないことを言っているんでしょうかこのぷちマスィーンズは。先生がどうしてもと言うんですから、なにがなんでも遣り遂げるのが筋というものでしょうに。
「ギタにゃん!!」
「うぉ、応ぅ!」
「にゃんベース」
「は、はぁーい!」
「ぬこドラム!」
「く、応……」
「にゃんセイザー!」
「やれやれ、泣く子とやる気の美咲さんには勝てませんね……」
フラフラと浮き上がったニャンたるロックが、初期位置に着きます。私は通信信号でニャンたるロックへ曲のチョイスを送信。深く呼吸し、構えます。
「空を翔ける飛行機窓から見下ろす雲は雪のよう」
……ん、ここは。
「おや、お目覚めですか、美咲さん」
「……ぁ、先生」
現在の状況を確認。どうやら先生の車の車内のようです。記憶の照合……歌のアンコールに応えて歌い始めた辺りからの記憶がありません。どうやら、熱量過剰でAIが停止したらしいです。
「いやぁ、申し訳ありません。無理を言って歌わせてしまって」
「いえ、そんな……。あの、二曲目は歌い切れてましたか?」
「ええ、歌い終わった直後に、美咲さん、ニャンたるロックと共に倒れてしまったんですよ。どうやら、記憶に残っていないようですね」
二曲目を歌いきった……。熱にうなされ、AIも停止寸前だったのに……。不思議なこともあるものです。今もまだ頭がぼーっとしますが、それがなんとなく心地良いです。
「……あー、そうだ先生。あのバイブレータについてお聞きしますよ?」
先生が笑顔のまま固まりました。
「……いやですからあれはタチバナさんのものでして私は決してやましい気持ちも持っていませんし第一あんなもの使う予定も気もさらさらありませんし」
「先生が作ったんですか?」
「そんなわけないじゃないですか誰が好き好んであんな卑猥なものを手掛けますか私は神姫の為の玩具は作りますが神姫の為の大人の玩具なんてものは専門外なんで作りようもないんですよ」
……ならなんでそんな早口なんでしょうか。
「……触った感触、あまり気持ちよくなかったです」
「そんなまさか。わざわざ海外の高級合成皮メーカーから取り寄せた高級品を使用したんですよ。手触り最高、ローションオイルの乗りもよく滑りがよいと社員の方にも評判で……で……」
「作ったんですね。先生が……」
先生は窓の外を見ています。
「……仕方なかったんですよ。老舗の洋菓子店『カサンドラ』の、年に十ホールしか販売しない幻のショートケーキ『ホワイティホイップショートケーキ』を渡されてしまっては、作るしかなかったんです……まさか、取り違えて持ってきてしまうとは想定外でしたが……」
ふと、先生は不安そうな表情でこちらを見ました。
「……幻滅、しましたか? 私がこのようなものを手掛けていることに」
「……まあ、少し」
先生の表情は、この世の終わりを垣間見たような、死人のようなものになりました。
「……ですが、まあ、ご安心下さい。その程度で揺らぐ私ではありません。私のマスターは、先生だけですよ。たとえ、なにがあっても……先生、心よりお慕いしております」
「美咲さん……」
先生の表情が、ぱーっと明るく咲きました。それだけで私も明るくなります。
……それにしても、さっきから車は左に右にフラフラと走行しています。
「せ、先生? どうしたんですか?」
「ん、何がですか?」
ああ、中央線越えてます越えてます!?
「先生! ま、まさか、お酒等いただいてませんか!?」
「ははは、まさか。飲酒運転など愚の骨頂。私はそんな真似は……ん? ……美咲さん、ウィスキーボンボンってなんでしたっけ?」
「……はいぃぃぃ!? それお酒入りのお菓子ですよ?!」
「いやー、バイブレータ制作中に軽くつまんで、変な味だなぁと思って食べてましたが、そういえばお酒でしたねーははは」
「ちょ、先生、この先カーブ──」
──車は弧を描くように、田んぼにダイブ致しました。本日のテンションの高さにも納得行きましたが、酔うほど食べたんですかウィスキーボンボン。それだけ食べたら普通、気付くでしょう……。