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十一話 『十五センチメートル程度の死闘 ~2/2』



 エルとメルも連合軍に加わり、圧倒的な物量によるゴリ押しで瞬く間にコタマとマシロがハントされるものと、俺と貞方は見ていた。以前コタマが数多のアルトレーネを葬ったところを目撃したことがあったが、あれはアルトレーネが理性を失っていたからこその芸当で、今回は多種多様な神姫が出来合いとはいえコンビネーションを組んで襲いかかるのだ。
だが俺と貞方の予想を、神姫達によるタクティクスを、コタマは上回った。


 一斉に繰り出された武器の間を、体躯が小柄になったコタマは地を這うほど姿勢を低くして走り抜けた。以前まではゆっくりと歩きファーストとセカンドを動かすだけだったコタマが、積極的に動いたのだ。言ってみれば足が早くなっただけでも、これがどれだけ脅威であるかは、コタマを知る者であれば容易に想像がつく。
「せいやっ!」
 コタマは走る勢いのまま跳躍し大きく脚を開いて、2体の神姫の顔面に蹴りを入れた。その威力は大したものではないが、ドールマスターを前にして一瞬でも怯んでしまえば、そこにファーストとセカンドが襲いかかる。
「ほらほら、もっとガッツリかかってきてよ! そんなトコからコソコソ狙ってないで、さっ!」
 コタマの遙か頭上、ランチャーを構えたアーンヴァルに、セカンドがライフルを向けた。
「くっ!? 『スターライト――!』」
「遅い遅い! 『ジェミニオブメテオ!』」
 溜めを必要とするランチャーではコタマとまともに撃ち合うことはできない。硬直した相手を容赦無く撃ち落とさんとセカンドが引き金を引いた――その瞬間、セカンドの足元で小規模の爆発が起き、ライフルを構えた体勢のままひっくり返った。
 ライフル弾の軌道はあらぬ方向を向き、逃れたアーンヴァルの溜めが完了した。
「『ブレイカーーーーッ!!』」
「のわーーーーっ!?」
 咄嗟に前転で避けたコタマだったが、軽い体が爆風に晒され無様にゴロゴロと転がった。ツインテールの片方の先が少し焦げてしまっている。
「あいたた……! 誰だこんちくしょう」
 コタマが体勢を立て直す前に、気配を殺したフブキが苦無を構えて近づいた。だが人形の目を持つコタマは出し抜けず、ファーストが強く踏み込んでガントレットを構えた。
「『44ファントム!』」
 離れた場所にいたファーストだが、一瞬のうちにコタマとフブキの間に割り込み、そして豪腕が放たれた。防御する暇すら与えない神速の一撃。コタマに挑む神姫のほとんどは、この技を出されるだけで力の差を知ることとなる。
 しかし、ガントレットはフブキに届く前に動きを止めた。ファーストの前にさらに割り込んだ者の間で激しく火花が散る。
「さっきの邪魔もアンタの仕業ね、ハナコ」
「すみません、一応チーム戦なので」
 ファーストのガントレットはハナコの槍に阻まれていた。その見た目はランチャーかパイルバンカーにも見える、貞方曰くちょっとギミックを詰め込んだだけの槍は、ハナコの唯一絶対の武装。 『ディフェンダー』 という地味な異名から微妙に的を外している、迎撃に特化した兵器だ。
 ファーストがガントレットを押し付けたままハナコの動きを止め、セカンドがライフルを数発放った。が、槍から展開されたシールドであっさり阻まれる。
「へへっ、一度アンタとやり合ってみたかったのよ。この姿に戻って倒す最初の大物はこりゃあ、アンタになりそうだね」
「ふぅん、チビのくせに随分と大口を叩くじゃない。じゃあ大物がもう一人混ざっても文句言わないでよォ?」
 唐突に、数十のビットがコタマを取り囲んだ。
「なっ!?」
 コタマがダメージ覚悟でビットの壁を抜けようと駆け出すも、移動するコタマにピッタリ合わせてビットも動いた。そして全方位から一斉に、中心めがけて光学弾が発射された。
「くうううっ!」
「あははっ、クリティカルヒットォ♡」
 レラカムイ標準の衣装のような装備だけでは、この攻撃を防ぐにはあまりに不足だった。多数のビットが戻った先には、背中に大型の機械武装を背負ったジルダリアがいた。噂に聞く、竹さんが破って振ったという大会優勝者の神姫だ。
「テメェ、よくもおめおめとアタシと鉄子ちゃんの前に出てきやがったな。二度と出てこれないよう次は筐体の外で遊んでやろうか」
「フン、康生なら約束通り、アンタの大切なマスターの前には出てこないわよ。……バカ正直に約束は守るくせに、影から見守るなんてセコい真似をするんだから」
「ああ?」
「おかしいと思わない? ほんの一部の愚図が乗せられただけとはいえ、あれだけ嫌われたアンタのマスターがどうして、こうも簡単に受け入れられたか少しも疑問に思わないわけ?」
「……何が言いてえんだ」
「さあ、何だったっけ」
 二人だけの会話を一方的に撃ち切ったジルダリアは、背中の武装からビットをいくつも射出した。周囲を漂わせていたビットの倍近い数だった。ジルダリアを巣とした蜂のように、一つ一つが攻撃の意思を持っている。
 無造作にセカンドに撃たせるも、ビットの渦に届くより先にハナコに防がれてしまう。
「も、申し訳ありません。その、チーム戦なもので……」
「憎っくき敵を倒すのに謝ることはないじゃなあい。単身でこの数の神姫に挑むおバカさんに、調子に乗ったことを後悔させてあげちゃえばいいのよォ」
「ハッ! 調子に乗ったのは誰だか、今に思い知ることになるくせに」
 強がってみせるコタマだったが、大きな尻尾がピンと逆立ち、緊張していることがバレバレだった。
 ハウリン型ハナコ。持てる能力のすべてを防御に使う彼女だけを相手にするならば、その勝負は拮抗していたかもしれない。だが今コタマは、只者じゃなさそうなジルダリアを含め、攻撃の機会を伺っている神姫に取り囲まれている。
 一度ファーストとセカンドを側に戻したコタマは金の十字架を持った腕をだらりと下げ、絶体絶命の状況にもかかわらず静かに目を閉じた。逆立っていた尻尾がゆっくりと下を向く。すると、ファーストとセカンドが、まるで糸が切れたように力無く倒れた。
 硬い床が広がるだけの、他に何もないステージ。中に立つ全神姫の半数がコタマを囲み、その様子を訝しんでいる。コタマの静けさが辺りを支配した。
 業を煮やしたのか、コタマの真後に立っていたウェスペリオー型がビームソードを構えて走り出した。光学系武装特有の音が接近しても、コタマは動かない。ビームソードがコタマの頭に振り下ろされた……その直後。ウェスペリオーはその体勢のまま、凍りついたように動きを止めた。
「――――ぁ!? ――――っ――――!」
「『F.T.D.D.D.』 ――いやホラ、鉄子ちゃんが見たいって言うからさ」
 目を開いたコタマが軽く右手の十字架を振ったその瞬間、ウェスペリオーは自分自身を切り裂いて倒れた。
 続け様、十字架を持った両手を素早く大きく広げ、その十字架の先にいた神姫がいきなり、あたり構わず銃器を乱射し始めた。
「な、なにをやって、ぎゃあっ!?」
「違――か、から――――かって、に――――!」
 弾切れになるまで狂ったように暴れた2体の神姫は、その銃器で自分の頭を殴りつけて倒れてしまった。そして、離れていた次の2体がまた乱射を始める。
 静寂から一転して、コタマを囲んでいた神姫達は正体不明の恐怖に駆られた。包囲の輪はあっという間に散り散りになってしまった。
「まぁたその技に頼るんだ、恥も外聞もないってわけ? 他人の体の制御を乗っ取るなんて悪趣味にも程があってこと、分かってる?」
「アタシがアタシの手でアタシの思い通りに 【人形】 を動かすってのに、これ以上にクールな技は他に1つくらいしかないね」
 混乱と狂乱の中で、コタマは踊り続けた。 【人形】 を入れ替える度に振り払われる金色の十字架と、流れに乗って揺れる桃色の髪は、かつての修道服よりも鮮やかに舞い、色鮮やかに輝いた。
「レラカムイ型ドールマスター、最高にクールなこのコタマ様が、アンタら全員跪かせてやる!」







「あの程度で追い詰められるとは修練が足りない――と言いたいところですが、ノーマルクラス仕様ならば、あれで限界なのでしょうね」
 チーム竹櫛家のもう一体、マシロ姉さんは、コタマ姉さんと同数の神姫に囲まれているけど、その神姫達は私達を遠巻きに見守るだけだった。マシロ姉さんが操る十二体の騎士が大きく輪を作って立ち並ぶ、その向こう側から。
「まあ、妹君を守る誓を立てたなら、あの程度はどうにかするでしょう――こちらはこちらで楽しみましょうか、戦乙女」
 コタマ姉さんが向こうで次々と襲いかかる神姫達を蹴散らしているのに、こちらのマシロ姉さんはまだ一体しか倒していなかった。
 鎧に身を包んだ騎士達が沈黙する中で。
 輪の外で神姫達が息を呑んで見守る中で。
 メルは、精も根も尽き果てるまで戦わされた後、膝を折った。
「……悪いボスキャラみたいになってますよ、マシロ姉さん」
 メルを、私の妹を、散々弄んだマシロ姉さんは、呼吸の一つも切らしていなかった。
 倒れたメルを一体の騎士に輪の外まで運ばせて、次の私を輪の中へ招き入れた。
「ではあなたが主人公ですか。ひとつ忠告してあげましょう。ボスに挑む時は十分にレベルを上げるものです」
「お生憎様です。マスターと一緒にRPGをやるうちに、低レベルクリアの楽しさに目覚めました」
 私もメルも元は武装神姫専門の店で働いていたけど、クーフランが棚に並ぶのは見たことがなく、この神姫センターでもそうだった。
 4本の脚で床を踏み締める、この古参でありながら目新しい神姫の戦い方は、その見た目を裏切ることのないものだった。
 円形のシールドと円錐状のランスを構えた突進。弓による広域射撃。
 多彩な技を持つメルとは真逆の単純さでいながら、圧倒的だった。
「先に私の技を見せました。その低レベルで私を打倒する策は用意しているのでしょうね、戦乙――」
「私にはエルって名前があります。さっきあなたが愚弄したメルの姉です」
「愚弄? ……ふむ、そのように見えたのなら謝罪しましょう。私としては、ここに集う神姫のレベルを直に確かめるつもりでした。このレベルまで降りたのは久しぶりのことですから」
「あくまで私達を見下すんですね、マシロ姉さんは――ちょっと、ムカつきます」
 コートの左袖に巻かれた数本の細いベルトを1本抜き、髪を後ろでひとつに束ねてベルトで縛った。
 右手にはマスターに用意してもらった剣を。
 左手にはニーキ姉さんから借り受けた剣を。
「あなたは私とメルの敵です」
「ならばどうする、戦乙女」
「私の名はエルだ!」
 一足で距離を詰めて突きを放った。威力よりも速さを。でも胸を狙った剣はランスで外側に弾かれた。
 同時に殴りつけるように繰り出されたシールドは横っ飛びでギリギリ回避できたけど、相手はあからさまに手を抜いている。
 このまま加速して背後に回ろうとしたけど、スレイプニルの後ろ足が目に入って、距離を取るに留めておいた。あれで蹴られたら危なそうだ。
 落ち着け。闇雲に突進して勝てる相手じゃない。見下されるのなら、その傲慢の隙をついてやる。
 右の剣を一旦コートのベルトに刺し通して、代わりに裾に隠していた短剣三本を指に挟んだ。
 相手が馬の形をしているのなら横腹から攻めるのがいい? 試してみる価値はある。
 左の剣と脚で床を蹴って、マシロ姉さんの真正面と少しズレた右側へ飛んだ。
 途中で方向をマシロ姉さんの方へ変えて、一直線に横腹を狙う! ――けどあろうことか、
「ほう。軽装にしてはなかなかのスピードです」
 マシロ姉さんは逆に、私の背後に近づきつつあった。
 馬のように駆けるマシロ姉さんは私よりほんのわずかに遅いけど、直線と方向転換だけの私と違って普通に走ってるだけだから自由度が私の比じゃない。
「どんなエンジン積んでるんですか、あなたはっ!」
「失礼なことを言いますね。私の構造はあなたと何ら変わりありませんよ」
「プロキシマですらそんな動きはできませんけどね……!」
 十二の騎士によって切り取られたステージの中を、出来る限り単調にならないように飛び回り続けた。スピードに乗った間は景色が高速で流れていくけど、その中でマシロ姉さんの姿だけハッキリ見えるのが不気味だった。
 右の爪が届く範囲まで近づけば防御の合間を縫って攻撃が通ると思ったのに、
「『デーモンロードクロウ!』」
「ぬるい! ハアッ!」
 弾かれては離れることを繰り返した。
 私のスピードに対応されることは珍しくもなんともないけど、直接体でついて来た相手はコタマ姉さんのファーストくらいだった。でもそれも瞬間的なものだからまだいい(いやよくはないけど)。こんなに長い間スピードを維持し続け、しかも狭い中での鬼ごっこは私の集中をどんどん蝕んでいった。
 それにもう一つ。ランスを携えて駆けるマシロ姉さんは、こんな時でも見蕩れてしまいそうになるほど、美しかった。
流れるような長い髪と、白銀に輝く躰。一定のリズムで動かされる四脚の完成された動きは、溜息のひとつもつきたくなるくらい、羨ましい。
「って、うわっ!?」
 気が抜けそうになった途端、正面からすれ違いそうになり、慌てて方向を変えた。そもそも突進からの突きがランスの本分で、マシロ姉さんもそれを狙ってる。
 ランスを構えた人馬型にこの勝負を挑んだのは失敗だったかもしれない。舌打ちしたい気分だった。
 このまま膠着状態になれば、体に負担を強いる加速方法をとる私とただ走ってるだけのマシロ姉さんじゃ、どちらが先に倒れるかなんて目に見えてる。爪も軽すぎて届かない。じゃあどうする?
 決まってる。
「正面突破です!」
 二人が円形のステージの直径上、騎士の側まで離れたところから、マシロ姉さん目掛けて加速した。
 正しく私の意図を読み取ったマシロ姉さんは薄く笑みを浮かべ、ランスを脇に構え直して向かってきた。
「『スピア・ザ・グングニル』」
 右手の短剣三本を捨てて再び剣を取った。相手も向かってきてくれるなら、この技の威力は倍以上になる。
「シールドごと貫けぇっ!」
 スピードと体のバネを最大限に利用したグングニルは、距離が短かったとはいえ投げたとほぼ同時にマシロ姉さんに到達した。でもマシロ姉さんはそれを驚異的な反応で上半身を逸らして避けた。逸れた剣はマシロ姉さんの長い髪を少し削いだだけだった。
 ……この人はレーザービームだって見てから躱しそうだ。私がどんな化物を相手にしているかを改めて思い知らされる。
 でもマシロ姉さんがほんの僅かに体勢を崩した今は逃せない。
 空いた右手で 【自分の剣】 を取って、両手の二本に加速の勢いを乗せて上段から思い切り振り下ろした。
「ぜああああああっ!」
 ガギン! と硬い感触の後、剣は両方とも跳ね返り、私の体もそれに引きずられた。横に寝かされ突き出されたランスに二箇所の傷がついた。
 乗っていたスピードを強引に止められた反動で体が軋む。
「【あなたが騎士から奪い、投げた剣】。意表を突いたつもりかもしれませんが、私に気付かれずに盗むことは不可能です。私と騎士達は繋がっていますから」
「……どーりで、あっさり躱されるはずです」
「さて、振り出しに戻りました。これからどうするつもりですか」
「言うまでもないです!」
 大きく踏み込み、マシロ姉さんの首めがけてがむしゃらに片方の剣を打ち込んだ。けれど今度は軽々とランスに弾かれた。
 構わない。
 剣を弾かれて体が流れるに任せ、もう一方の剣を薙ぎ払うように振った。しかしこれもシールドに阻まれる。シールドはビクともせず、私の剣が跳ね返る。
「まだまだぁっ!」
 片方の剣が弾かれたならもう片方の剣を振る。躱されたのなら勢いのまま体を回してまた打ち込む。考える暇も作らず刃の軌跡を直感に乗せて、ただひらすら速く。
 剣の重みと遠心力で関節が悲鳴を上げても、マシロ姉さんの顔色ひとつ変えられない。ランスもシールドも、的確に私の斬撃を弾き、防ぎ、受け流す。
「あなたの技は先程の投擲のみですか。その程度の剣技で私を切り崩そうとは片腹痛い」
 駒のように体を回した勢いで左の剣を水平に振った、その瞬間。言葉と共にランスがブレたかと思うと、剣は左手から弾き飛ばされていた。マシロ姉さんがその気になれば片手での斬撃程度、ものともしない――そんなことは始めから分かっていた。だから、これは狙い通り。
 痺れる左手を無理やり動かし、右手の剣に添えた。まだ回転力を残した体にさらに勢いをつけ、足先から上半身まで捻った力を解放した。両手で握った剣を水平に振る、単純明快なフルスイング。
「フン」
 やはりマシロ姉さんは片手で盾を構えるだけだった。私が全力で打ち込んだって多分、ビクともしない。それくらいの力の差がある。だから私は、
「おりゃああっ!」
 スイングの軌道を力ずくで下方にずらし、剣を床に叩きつけた。その反動で体が浮き上がり天地が逆さまになる。縦方向に回転する勢いで上に伸ばした機械仕掛けの脚を振り下ろした。
「爆ぜろっ!」
 剣をフェイントにした本命の一撃。頭部を蹴り砕くくらいのつもりだった。
 でも、砕いたのは床だった。硬い床に僅かに踵が罅を入れ、回転する勢いを殺せず無様に転がった。
 視界良好とは言えない体勢での蹴りだったから、しっかりマシロ姉さんを見ていたわけではなかった。それでも的外れな位置に脚を振り下ろすなんてことはしない。マシロ姉さんの姿は確かに、私が踏み砕いた床の位置にいた。
「今のは良い一撃でした。二刀流による単調なラッシュは私を飽きさせるためのフェイクで、その強化された脚による蹴りを始めから狙っていたのですね。ありきたりではありますが少し驚きました。が、それよりも――」
 私の背後、随分離れた位置にマシロ姉さんはいた。
 タイミングは完璧だったはずなのにどうやって回避したのか、とか。あの一瞬でどうやってあそこまで移動したのか、とか。
 そんなことよりも。
「投擲といい踵落としといい、久しぶりに上質の殺意を向けられましたよ。私達のクラスになると淡々と即死を狙ってくるものですから……ふふっ、あなたの相手をするのも無駄ではなかったようです」
 マシロ姉さんは、私から弾き飛ばした剣――ニーキ姉さんの剣を拾い、弄んでいた。
「……返せ」
「? なんですか?」
「その剣を返せえええええええええええっ!!」
「分かりました」
 マシロ姉さんはランスを手放し、弓を構えていた。金と白銀、それに深緑を組み合わせたドレスとはまったく不釣合いな、黒く味気ない実用本位の弓。
 その弓に番えられたのが細い矢ではなくニーキ姉さんの剣だと気付いた瞬間、私は。
 力の奔流に飲み込まれていた。

――――――――――――――

――――――――

――あれ?
「あ…………うあ……?」
 よく分からないけど、防がないといけない。
 右手はしっかりと剣を握っていた。それを持ち上げたけど妙に軽くて、だんだん鮮明になっていく目を凝らすと、真っ二つに折られた刀身の断面が見えた。
 体を起こそうとしたけど、感覚があるのは私の腕、肩、それより上のほうだけだった。ぼんやりと足が見えるけど、あれはちゃんと体に繋がっているんだろうか。
 倒れた私の頭部は何か固いものにもたれかかっていた。でも周囲に壁なんてなかったし、何だろうと頭を横に倒して見ると、それは騎士が床に突き立てるように持っている細身の長銃だった。銃口には銃剣が取り付けられている。
 鎧兜の下から騎士の顔を覗き見ることができた。凛々しい顔をしているけど、心を持っていないことが一目で分かるほど冷たい表情だった。足元に転がっている私のことすら、認識していない。
 敵を認識するのも、銃を構え引き金を引くのも、すべてマシロ姉さんの仕業。
 銃口がゆっくりと、私の額に向けられた。銃身の中は静かで、真っ暗で、そこから眩しい火花と硬い弾が飛び出してくるなんて想像できなかった。
「あなたの妹共々、思っていたよりは楽しめましたよ、戦乙女。武器をフィールドに叩きつけて移動する技は、少々荒っぽいですが参考になりました。神姫の体格と出力によって初めて成せる良い技です。これは人間では思いつけないでしょうから、その発想の元をいつか聞いてみたいものです」
 遠くでマシロ姉さんが何か言っている。どうせ、また私のことを見下すようなことだろう。
「では、しばしの間、眠りなさい」
 銃を構えた騎士が何の感動も見せず、引き金にかけた指を動かす。その小さな動作が随分と遅く見えた。私を焦らしているんだろうか。騎士道を重んじるのなら潔くやってほしいのに。
 結局、私じゃ全然歯が立たなかった。こんなに悔しい思いをするのは初めてのことだった。メルのために一矢報いたかったのに。私は情けないお姉ちゃんだ。
 でも、少しくらい、褒めてほしい。あの、異常な強さのクーフランを相手に私は 【予定通り時間を稼いだ】。
 じゃあ、後は任せました、メル。
「みんな今だよ! せーの!!」






「ふぬああああっ!?」
 ビビった! 超ビビった! 胸の中のCSCが爆発したんじゃないかって思うくらいビビった!
 隕石でも落ちたような炸裂がした方は、なんか一目見ただけで大惨事になってることが分かるくらい、破片と煙が舞ってた。リアルでキノコ雲って初めて見た。
 キノコ雲はたくさんの神姫に囲まれた中心からモクモクしてた。あそこでマシロが戦ってたはずだけど、ついに頭に血が上りすぎて爆発したのかしらん。
 アタシの周りにいる連中もそっちのほうを向いたまま固まってしまってて、動けないでいる。今がチャーンス! ってわけでもないのは、アタシも足が竦んで動けなくなっちゃったから。
 だんだん煙が晴れてきて様子が分かってきた。マシロの騎士が輪になって立ってるってことは、悪趣味な一騎討ちをやってたらしい。あれは本人曰く神聖な戦いが云々らしいけど、弱い者イジメのための技としか思えない。でもおかしなことに、一騎討ちの間は絶対に動かされることのない十二の騎士は全員、羽交い締めにされてた。
 で、アタシは自分の目を疑った。キノコ雲の中心には本当に隕石が落ちたようなクレーターができてた。
「うっそぉ……」
 この床、かなり頑丈なのに……隕石か。やっぱり隕石なのか。
 隕石って売れるのかな、とか思って目を凝らしてみたけど、いろんな物が散らばってて地球外石ころを探すどころじゃないし、たぶん、大爆発とクレーターの原因は隕石じゃなかった。当たり前だけど。
 砕けた武器の破片が大量に散乱してる。あまりに粉々になりすぎて元の武器が何だったのか分からないけど、ベコベコに凹んだ盾や半分に割れたモーニングスターみたく分かりやすいのもあるから、多分、ありったけの武器がメチャクチャに投げ込まれたんだと思う。
 クレーターの中にできた、不燃ごみ投棄場所。
 たぶん使える物なんて何一つ残ってないだろうから、漁ったって時間の無駄なはずなのに、その夢の島の中心に、相応しい格好をした主がいた。
 あっちこっち千切れて破れてしまってて、ムカつくサイズのおっぱいが片方覗いてる。手で布を掴んで引っ張れば素っ裸にひん剥けそうだった。黒く焦げて元の色すら判別つかず、もう服の用途を成していないそれはドリフのコントを終えたお笑い芸人の衣装みたいだった。
 あれだけツヤツヤしてた髪も尻尾もボサボサの煤だらけ。マシロは密かにその毛なみを自慢に思っているらしいから、後で鏡を見て発狂するかもしれない。
 で、そのマシロはというと、そんな身なりになったことに気付いているのか気付いていないのか、呆然とつっ立ってる。ポケッとしてどこを見てるのかも分からない。四本足だから上手いことバランスが取れてるんでしょうけど、そうじゃなかったら今にもパタリと倒れそうだった。
 騎士を羽交い絞めにしてた神姫の一人が手を離して、ガシャリと、ただの人形に戻った騎士は音を立てて倒れた。それを見た残り11人も同じようにして、騎士達はやっぱり同じように倒れた。
 同時に、マシロも膝を折って、瓦礫の上に倒れた。
 あのマシロが。
 目の当たりにしても信じられないけど、あのマシロが。
 ここにいる連中は知らないだろうけど、マシロはアタシら一般神姫とはランクが違う。別に違法改造ってわけじゃなくて、ただ強い、それだけの化物。
 普段はオンライン対戦で同じランク同士としか戦わず、明らかにランク外と思われる神姫が迷い込んでしまった時は、丁重にそのランクからご退場願うってわけだ。
 例えば、ちょっと高級機種だからって調子に乗っちゃったキュクノス型やアラストール型がそのランクの住人に挑もうものなら、自尊心を修復不能なまでにへし折られて、二度と武装を手に取らなくなってしまう(実話)。
 そんなレベルのマシロが、相手は数の暴力に頼ったとはいえ、普通の神姫に倒された。しかもごく普通の神姫センターで。さらに倒れたマシロはなんか、満足気な表情をしてる。マゾか。
「「「「「いいいぃぃぃやったああああああああああああああああああああ!!!!」」」」」
 耳をつんざく歓声が上がった。見境なく抱き合ったり、冷静そうに見える神姫まで雄叫びを上げたりして、なんだかすっごく楽しそう。
 エルとメルが何故か胴上げされてるけど、意識があるかどうかといったくらいぐったりしていて、そんな二人が空中に高く放り出されるのはちょっと痛々しい。
 遠くから眺めてるアタシまで楽しくなりそうだった……マシロが負けたのだから、呆けている暇なんてないことに気付くまでは。
「気付くのが少し遅かったみたいにゃケモミミ。ワガハイの前でこんにゃモフモフした尻尾をセクスィに揺らされたにゃら、世界モフモフ保護機構総括であるワガハイとしてはぁ、モォォォォフモフせざるを得ませぇぇぇぇん!」
「―――――! ―――!?」
 いきなり尻尾に抱きつかれて撫で回された! 尻尾の上を蛇が這いずってるみたいで気持ち悪い! 全身にブルッとくる寒気が走った、のに、動けない!? 声も出ない!?
「体の制御を乗っ取るのはケモミミの専売特許じゃにゃかろう? それはそれとして――たぁぁあああまらんにゃああぁあ! 外側のモフモフと内側のモニュモニュが絶妙なハーモニャーを醸しだしてるにゃ! こ、これはマジでヤバイにゃ、猫界に衝撃が走るにゃ。猫の肉球のポジションを脅かす癒されアイテムにゃ。やべーキツネ超やべー」
 このマヌケな声はいつかの巨大ロボを作ったクソマオチャオ! あのハンマーを使うマオチャオもいたからまさかと思ってはいたけど、油断したよチクショウ。
 顔まで引きつったまま固まっちゃってるのに気持ち悪さだけが止まらない。というか指の一本たりとも抵抗できないのが不快感を倍増させてる。
「んー、体どころか表情まで固まるのは想定外にゃ。これじゃケモミミのエロい反応が楽しめにゃいじゃにゃいか。あ、でも耳とかはちゃんと聞こえてるにゃろ? お察しの通り、この 『フィギュア化パッチ ベータ版』 はエロ目的に作ったものにゃ。くやしい……! でも感じちゃう! ビクビクッ! みたいにゃ」
 何が 「みたいにゃ」 だこのクソネコ! と強く思っても体はビクともビクビクッとも動いてくれない。体内を這いずりまわる嫌悪感は早くも限界を迎えそうだった。
 というかケモミミってアタシのことか。
「フィギュアと言うからには手とか足とか好き勝手動かせてポージングとかできるんにゃよ。言うこと聞かにゃい神姫にインストールすれば撮影会も思いのままにゃが、それだけじゃ面白くにゃかろう? 最終的にはフィギュア化する部位を選べる仕様にするにゃ。にゃんでかって?」
 聞いてねーよ。聞きたくてもしゃべれねーよクソが。
 イヤラシイ笑みを浮かべて肘で小突いてくるけど、確かに、小突かれて動いた体はそのままの形で固定された。
「言わせるにゃよ、分かってるく・せ・に♡ 科学の発展に必要にゃものは戦争とエロスにゃ」
「ふぅん、良い事言うじゃない」
 目を動かせなくても、あのジルダリアがすぐ側まで寄ってきたのは声で分かる。
「あのドールマスターがドールになるなんて、ミイラ取りがミイラになるってこのことよねぇ! アッハハハハハハ!」
 無抵抗なアタシを好き勝手できることがそんなに嬉しいのか、アタシの前まで回ってきたジルダリアは涙を流して手を叩いた。コイツ、仮にも大会で優勝したことあんだろ、スポーツマンシップ的なものはないのかよ。
「すごいのねぇマオチャオさん? 油断してたとはいえドールマスターを手玉にとっちゃうなんてぇ」
「す、すごいにゃ? ワガハイ、そんにゃにすごいにゃ?」
「すっごいわよ。ステキ。カッコイイ。感動しちゃう」
「そ、そんにゃことにゃいにゃよー! 褒めたってにゃにも出にゃいにゃ! ワガハイにゃんてまだまだ、でもケモミミの一匹や二匹、ワガハイの肉球の上で転がすくらい造作もにゃいにゃ! よーし、ワガハイ今日は大判振舞いしちゃうにゃよー!」
 褒められて出まくってんじゃねーか。どんだけ釣られやすいんだ。
「手始めに 『アダルトパッチ』 にゃんてどうかにゃ。改良を重ねて最近イイ感じに仕上がったんにゃよ」
「なぁにその素敵なネーミング! すぐ使いましょう、今すぐ使いましょうよ、きっとドールマスターも悦んでくれるわぁ!」
 コロス……!
 コイツら絶対後でコロス……!
 アタシの見える範囲にいるほかの神姫は遠巻きに見守ってる……というか、いかがわしい期待の眼差しを向けられてるのは絶対気のせいじゃない。
 クソネコはどっかから取り出した注射器(?)を、わざとらしくアタシの前でいじってみせた。
 というか、マジで危ない。目の前ではしゃぐコイツらはアタシが反応しないもんだから気付いてないんだろうが、アタシはこれ以上何かされたら間違いなく、死ぬ。死ぬほど苦しいとかじゃなくて、いや苦しさでCSCを焼損して文字通り死ぬ。
「パソコンとクレイドル不要のハンディタイプにゃ。一回ポッキリの使い切りにゃが、そこは今後改善していくとして、今はこの効果をじっくり味わうがいいにゃ」
 注射器の針がアタシの喉元にゆっくりと伸びた。
 ああ、主よ。鉄子ちゃんよ。
 こんなアホな形で死んでいく罪深いアタシをお許し下さい。
 短すぎる付き合いだったね。ごめんね。
 このアタシはCSCが壊れると完全に死ぬけど、また次の神姫を手に入れるなら、ソイツと仲良くするんだよ。
 針が喉に触れた、その瞬間。

ピピーーーーーーーーッ!

 間抜けなホイッスルが響いて、アタシは初めてのサレンダーを経験するのだった。
 屈辱的……なのになんでだろう。こんなに安堵することも生まれて初めてのことだった。









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