黒星スタート
負ける要素は―――そう多くなかったはずだ
シールドはなくなったが問題なかった
ビットは皆潰した
シールドはなくなったが問題なかった
ビットは皆潰した
「にゃ、にゃあ~♪口ほどにもないのですにゃ~」
ならばここで空を見上げている俺はなんだ
顔にかかる汚れた長い髪すら払えない俺はなんだ
せめて上体ぐらい起こそうと思っても出来ない俺はなんだ
顔にかかる汚れた長い髪すら払えない俺はなんだ
せめて上体ぐらい起こそうと思っても出来ない俺はなんだ
(マスター……)
ここで負けてる俺はなんだ
(―――なんだってんだ……)
にこやかに笑うマオチャオ型の声を聞きながら、俺の意識は現実へと戻されていった
「お、珍しく空いてるな」
対人戦をしてみようと決めた次の日、俺たちの初バトルとなる今日
ゲーセンにいった俺とフィーアは珍しく空になっている対戦用筐体を見つけた
ゲーセンにいった俺とフィーアは珍しく空になっている対戦用筐体を見つけた
「普段は人でいっぱいですよね」
「あぁ、順番待ち兼観戦で結構いるんだが」
「あぁ、順番待ち兼観戦で結構いるんだが」
今日は少しばかり人が少ないせいか一台だけ空いている
これ幸いと俺は片側の椅子に座り、挑戦者を待つことにした
こうして空いている台に座るのは、基本的に対戦相手募集の意だ
これ幸いと俺は片側の椅子に座り、挑戦者を待つことにした
こうして空いている台に座るのは、基本的に対戦相手募集の意だ
「先生、先生、対戦待ちの人発見ですにゃ~ん」
この元気な声は…マオチャオ型か
声のした方を向くと、そこにいたのは語尾ににゃんを付けるストラーフ型が―――
いるわけもなく予想通りマオチャオ型を肩に乗せたマスターがいた
声のした方を向くと、そこにいたのは語尾ににゃんを付けるストラーフ型が―――
いるわけもなく予想通りマオチャオ型を肩に乗せたマスターがいた
「対戦、いいかしら?」
どこか飄々としていながらも凛とした女性
それがマオチャオ型のマスターの第一印象だった
長い髪は纏めもせず降ろしたまま
どこか赤みがかったその髪は腰辺りまで無造作に伸びていた
単純なプリントのされたTシャツにジーンズとスニーカーというとんでもなくラフな格好
それなのにだらけた感じがしない。姿勢がいいからだろうか
それがマオチャオ型のマスターの第一印象だった
長い髪は纏めもせず降ろしたまま
どこか赤みがかったその髪は腰辺りまで無造作に伸びていた
単純なプリントのされたTシャツにジーンズとスニーカーというとんでもなくラフな格好
それなのにだらけた感じがしない。姿勢がいいからだろうか
「えぇ、そのつもりでここにいますので」
座ったままそう答えた俺に対し、その女性はこちらを覗き込むように体を曲げてきた
顔が少々近い。ついでに、肩に乗っていたマオチャオ型が落ちそうになってじたばたしてる
顔が少々近い。ついでに、肩に乗っていたマオチャオ型が落ちそうになってじたばたしてる
「貴方、ここしばらくずっとトレーニングしてた人よね。
もしかして今日が初ライドバトルってことかしら?」
「え、…はい、そうですけど」
「あたしは橙堂赤子、貴方の名前は?」
「天波奏一…です」
「アマナミ君ね、それとも奏一君の方がいいかな…」
もしかして今日が初ライドバトルってことかしら?」
「え、…はい、そうですけど」
「あたしは橙堂赤子、貴方の名前は?」
「天波奏一…です」
「アマナミ君ね、それとも奏一君の方がいいかな…」
そういいながら橙堂さんは姿勢を元に戻した
肩になんとか掴まっていたマオチャオ型がどうにか肩に登りなおし口を開いた
肩になんとか掴まっていたマオチャオ型がどうにか肩に登りなおし口を開いた
「先生、それよりバトルしましょうにゃ~」
「まぁそれもそうね。それじゃあ、お互いいいバトルにしましょう」
「まぁそれもそうね。それじゃあ、お互いいいバトルにしましょう」
橙堂さんは軽く手を振って反対側の席に向かう
「めずらしいこともあるもんだ…」
女性マスターというのは別段珍しくない
ただ対戦前にわざわざ自己紹介していく人なんて初めて見たかもしれない
ただ対戦前にわざわざ自己紹介していく人なんて初めて見たかもしれない
「近くで見ても綺麗な人でしたね…」
「まぁ確かに美人ではあったが」
「なんか私達のこと知ってたみたいですけど」
「まぁ結構通ってるし見てる人は見てるってことなんだろう、多分」
「まぁ確かに美人ではあったが」
「なんか私達のこと知ってたみたいですけど」
「まぁ結構通ってるし見てる人は見てるってことなんだろう、多分」
ゲーセンに神姫を連れてきてるにもかかわらず、
練習用筐体で修行しただけで帰るというのをもう3週間も続けているのだ
奇妙なマスターという位置づけで誰かが覚えていても不思議ではない
練習用筐体で修行しただけで帰るというのをもう3週間も続けているのだ
奇妙なマスターという位置づけで誰かが覚えていても不思議ではない
「それじゃあマスター、行きましょう」
「あぁ」
「あぁ」
椅子に深く座りなおし、ヘッドギアをはめる
同時にフィーアがポッドに入り、ポッドが筐体に格納されていった
同時にフィーアがポッドに入り、ポッドが筐体に格納されていった
「準備OKです、マスター」
俺はRide Onのボタンを押し込み、目をつぶる
この3週間で既に聞き慣れたアナウンスとカウントダウンがスピーカーから聞こえる
カウント0と同時に俺の意識は電脳空間へと潜行していった
この3週間で既に聞き慣れたアナウンスとカウントダウンがスピーカーから聞こえる
カウント0と同時に俺の意識は電脳空間へと潜行していった
―――そして次に目を開けた瞬間、そこは見慣れたバトルフィールド
荒涼とした砂だらけの大地と、遮蔽物として使えそうな瓦礫が点在する『砂漠』ステージ
時折砂嵐が吹き荒れ視界を奪う
荒涼とした砂だらけの大地と、遮蔽物として使えそうな瓦礫が点在する『砂漠』ステージ
時折砂嵐が吹き荒れ視界を奪う
(初陣ですね、マスター)
(そうなるな、確かに初陣だ…)
(そうなるな、確かに初陣だ…)
脳内に直接響くフィーアの声
俺はその声にいつも通り頭の中で答える
俺はその声にいつも通り頭の中で答える
(相手はマオチャオ型の純正武装のようです。防壁、旋牙、研爪…
あとプチマスィーンズも武装デッキに見受けられます)
(ビット付き…か)
あとプチマスィーンズも武装デッキに見受けられます)
(ビット付き…か)
遠隔操作ができ、ある程度の自立攻撃も可能なプチマスィーンズ
囮、陽動、近接格闘の補助などその用途は多岐にわたる
囮、陽動、近接格闘の補助などその用途は多岐にわたる
(相手がプチマスィーンズを展開してきたら、その動きは逃さず追ってくれ。
そんでいつも通り接近かエネルギー反応に対してアラートを)
(わかりました)
そんでいつも通り接近かエネルギー反応に対してアラートを)
(わかりました)
『Get Ready?』
作戦会議をしている間に相手側もライドオンしたようだ
無機質な機械音声によるバトルスタートのカウントが始まる
無機質な機械音声によるバトルスタートのカウントが始まる
『3、2、1、GO!』
開始の合図と共にいきなり砂嵐が吹き始める
(今回はいきなりか…!)
わりと早いタイミングで砂嵐になるのは何度か目にしたが、
初っ端から視界0というのは初めての展開である
初っ端から視界0というのは初めての展開である
(上昇してサーチ、左にライフル展開)
俺は砂嵐で少し体勢を崩しつつも上空へと飛び上がり、フィーアにサーチを任せる
同時に、左手に出現したLC5レーザーライフルを掴む
とりあえずは取り回しの楽なライフルを構え、砂嵐の向こうへと目を凝らす
同時に、左手に出現したLC5レーザーライフルを掴む
とりあえずは取り回しの楽なライフルを構え、砂嵐の向こうへと目を凝らす
(―――いました、距離800s、真正面です。
向こうはまだこっちをロックできてないみたいですね)
向こうはまだこっちをロックできてないみたいですね)
アーンヴァル型はその機体特性からサーチ力が高い
さらに諸事情によりMk.2型となっているフィーアの性能は折り紙つきだ
頭の角は伊達ではない。赤くないから3倍ではないのだが
さらに諸事情によりMk.2型となっているフィーアの性能は折り紙つきだ
頭の角は伊達ではない。赤くないから3倍ではないのだが
(どうしますか、マスター)
この砂嵐でこちらの姿を視認できず、
未だ電子的にロックオンすらできていないというのであれば、
こちらが取り得る方法は―――
未だ電子的にロックオンすらできていないというのであれば、
こちらが取り得る方法は―――
(ランチャー展開、派手にいくぞ)
(了解です、マスター)
(了解です、マスター)
左手に握っていたLC5レーザーライフルが武装デッキに格納され、
代わりにLC3レーザーライフルが展開される
俺はそれを、いつかフィーアがやっていたように腰溜めに構えた
―――チャージ、開始
代わりにLC3レーザーライフルが展開される
俺はそれを、いつかフィーアがやっていたように腰溜めに構えた
―――チャージ、開始
(相手位置、視界に表示します)
砂嵐に鮮明に移されるロックオンサイト
相手のマオチャオ型の動き合わせて微妙に揺れている
俺はそれに向かって容赦なく引き金を引いた
相手のマオチャオ型の動き合わせて微妙に揺れている
俺はそれに向かって容赦なく引き金を引いた