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(マスター、聞こえてますかマスター?)
「………はっ」
「………はっ」
意識が覚醒した俺の目に映ったのは、かつて神姫バトルのモニターで見た光景
木々の合間を川が流れ、上流には滝が見えるバトルフィールド、『渓流』であった
木々の合間を川が流れ、上流には滝が見えるバトルフィールド、『渓流』であった
「俺はいったい…」
そう呟いて目の前に持ってきた手に、違和感
俺の手はこんなに華奢で綺麗な細い指がついてただろうか、否
俺の手はこんなに華奢で綺麗な細い指がついてただろうか、否
「もしかして…」
俺は後頭部に手を伸ばす
さらりと長い髪が手に当たり、目の前に持ってきた髪は綺麗なブロンドである
ついでに先ほどから発する声もおかしい
まるでこれはフィーアの声―――
さらりと長い髪が手に当たり、目の前に持ってきた髪は綺麗なブロンドである
ついでに先ほどから発する声もおかしい
まるでこれはフィーアの声―――
(成功したみたいですね、マスター!)
フィーアのはしゃぐ声が、どこからか響く
ついでに、姿も見えないのにフィーアがはしゃいでる様子がイメージとして頭に入ってきた
まるで現実感のない目の前の光景や自分の状況は、髪の手触りといい肌を撫でる風といい妙な現実感を持っている
ついでに、姿も見えないのにフィーアがはしゃいでる様子がイメージとして頭に入ってきた
まるで現実感のない目の前の光景や自分の状況は、髪の手触りといい肌を撫でる風といい妙な現実感を持っている
「これは、俺がフィーアの身体に?」
(はい。正確には電脳空間に作られた仮想の素体に、ですけど。
あ、それと私との会話は、頭の中で言葉を思い浮かべるだけで問題ないみたいです)
(………こうか?)
(そんな感じです)
(はい。正確には電脳空間に作られた仮想の素体に、ですけど。
あ、それと私との会話は、頭の中で言葉を思い浮かべるだけで問題ないみたいです)
(………こうか?)
(そんな感じです)
俺は改めて自らの身体――フィーアの身体を動かしてみる
歩く、走る、止まる、その場で跳ぶ、走って跳んでみる
奇妙な感覚だった
自分とはまったく違う身体であり、足の長さから頭の大きさのバランスまで何一つ重なるものはない
走る早さもジャンプで跳べる距離も感覚も全然違う
それなのに慣れ親しんだ何かを動かしている感覚
そして何より、身体中に温かい『何か』を感じる
不思議と落ち着くような、誰かの腕に抱かれてるような温かさ
歩く、走る、止まる、その場で跳ぶ、走って跳んでみる
奇妙な感覚だった
自分とはまったく違う身体であり、足の長さから頭の大きさのバランスまで何一つ重なるものはない
走る早さもジャンプで跳べる距離も感覚も全然違う
それなのに慣れ親しんだ何かを動かしている感覚
そして何より、身体中に温かい『何か』を感じる
不思議と落ち着くような、誰かの腕に抱かれてるような温かさ
(この温かさ…フィーアなのか?)
(はい。私もマスターを感じます…)
(はい。私もマスターを感じます…)
それは誰よりも、何よりも、物理的な距離で測ることすら出来そうにないほど近い場所
そこに、フィーアがいるのを感じていた
そこに、フィーアがいるのを感じていた
(すごいですね…これが、神姫ライドシステム…。
マスターのこと、今までで一番近くに感じます…)
(…………あぁ)
マスターのこと、今までで一番近くに感じます…)
(…………あぁ)
気の抜けた返事しか出来ない俺
だがこの一体感は、それだけ筆舌に尽くしがたいものだった
しばし間が空き、俺はフィーアに話しかける
だがこの一体感は、それだけ筆舌に尽くしがたいものだった
しばし間が空き、俺はフィーアに話しかける
(なぁ、俺がこの身体を動かしてる間、フィーアはどこに?)
(えっーと、マスターの中…というか、外というか…うまく言えない感じです)
(どっちなのかはっきりしないんだな)
(すいませんマスター…)
(そうしょげるな。俺だって、この感覚は他人に説明できる自信は無い)
(えっーと、マスターの中…というか、外というか…うまく言えない感じです)
(どっちなのかはっきりしないんだな)
(すいませんマスター…)
(そうしょげるな。俺だって、この感覚は他人に説明できる自信は無い)
そう頭の中で会話しながらも、俺は周りの風景を観察しながら歩いていた
見慣れたはずの渓流や滝も、神姫の目線で見ればまた違った光景に見える
見慣れたはずの渓流や滝も、神姫の目線で見ればまた違った光景に見える
(マスター、そろそろ飛んでみませんか?)
(飛ぶ?)
(はい、そろそろその身体にも慣れたでしょうから)
(飛ぶ?)
(はい、そろそろその身体にも慣れたでしょうから)
もしかして、いつもの武装セットで空を飛ぶということだろうか
(幸い、武装セットは登録したままですし、換装などの操作は今まで通り私の意思で出来るようになっています)
(ってことはあれか、身体は俺が動かして、それ以外の部分はフィーアが動かす形なのか)
(どうやら火器管制やバーニア等の制御が私の役割で、実際に戦うのはマスター、
という位置づけのようです。試しに、武器を一つ展開しますね)
(ってことはあれか、身体は俺が動かして、それ以外の部分はフィーアが動かす形なのか)
(どうやら火器管制やバーニア等の制御が私の役割で、実際に戦うのはマスター、
という位置づけのようです。試しに、武器を一つ展開しますね)
そうフィーアが言うやいなや、俺の手元が光ったかと思うと、
まばたきをする程度の時間で武器が現れた
『アルヴォPDW11』、アーンヴァル型の標準装備であるハンドガンだ
持った感じ、間違いなくエアガンよりは重いが、手に負担がくるほどの重さでもない
まばたきをする程度の時間で武器が現れた
『アルヴォPDW11』、アーンヴァル型の標準装備であるハンドガンだ
持った感じ、間違いなくエアガンよりは重いが、手に負担がくるほどの重さでもない
(試しに撃ってみて下さい)
(あ、あぁ)
(あ、あぁ)
俺はアルヴォPDW11を川に向かって構え、引き金を引いた
どこか軽い音と共に画面の中で見慣れた光弾が発射され、川から突き出てる岩に当たって飛び散った
どこか軽い音と共に画面の中で見慣れた光弾が発射され、川から突き出てる岩に当たって飛び散った
(これがアルヴォか…)
(問題ないみたいですね)
(問題ないみたいですね)
バーチャルバトルでは画面の向こうであり、リアルバトルでも自らが感じることはできない
それが今、実感を持って目の前にあった
それが今、実感を持って目の前にあった
(あ、それでマスター、今から武装セット、丸々全部展開しますからとりあえず飛んでみましょう)
(いや待て、俺は飛び方分からんのだが)
(いや待て、俺は飛び方分からんのだが)
当然である。ハンググライダー程度なら経験はあるが、神姫の武装で飛ぶのとはわけが違う
(各種スラスターやバーニアの制御は私がします。マスターは、最初のジャンプだけお願いします)
(…それだけでいいのか?)
(はい。後はこっちでグライディング状態を保ちますので)
(じゃあやってくれ)
(はい。武装、展開します)
(…それだけでいいのか?)
(はい。後はこっちでグライディング状態を保ちますので)
(じゃあやってくれ)
(はい。武装、展開します)
身体全体が先ほどアルヴォPDW11を展開した時と同じ光に包まれた
まばゆさに目が眩むのも一瞬。俺の身体には、アーンヴァル型の純正装備が展開されていた
見慣れたはずのその武装も、こうして身に纏うと全然違うものに見える
まばゆさに目が眩むのも一瞬。俺の身体には、アーンヴァル型の純正装備が展開されていた
見慣れたはずのその武装も、こうして身に纏うと全然違うものに見える
(多少重さはありますが、問題ないですかマスター?)
(あぁ、確かに重いが普通に動けるな)
(あぁ、確かに重いが普通に動けるな)
ヘッドセンサー、ガントレット、チェストガード、レッグパーツ、リアパーツ
それぞれある程度の重量はあるが、それほど重くは無い
昔高校でやった剣道の防具を付けているような重さ、といえばしっくりくるだろうか
リアパーツにいたっては少し重いリュックを背負っているような感じだ
それぞれある程度の重量はあるが、それほど重くは無い
昔高校でやった剣道の防具を付けているような重さ、といえばしっくりくるだろうか
リアパーツにいたっては少し重いリュックを背負っているような感じだ
(マスター、準備はいいですか?)
(あぁ…跳べばいいんだな?)
(はい)
(あぁ…跳べばいいんだな?)
(はい)
しげしげと武装を観察していた俺は、フィーアの言葉に答え、足の力を少し抜いた
そのまま膝を少し曲げ、抜いていた力を一気に真上に向かって解き放つ
瞬間、背中の『RU・シンペタラス』とレッグパーツ『LGパピオン』がバーニアを開放し、
俺の身体はジャンプの勢いを殺さぬまま空へと浮かび上がった
そのまま膝を少し曲げ、抜いていた力を一気に真上に向かって解き放つ
瞬間、背中の『RU・シンペタラス』とレッグパーツ『LGパピオン』がバーニアを開放し、
俺の身体はジャンプの勢いを殺さぬまま空へと浮かび上がった
(うわわっ―――)
まるで椅子に座ったまま浮かび上がるような感覚
いや、浮かび上がるとかいう生易しい速度じゃない
そのスピードはジェットコースターもかくやといわんばかりであった
ある程度の高さになると上昇速度がゆるくなり、やがて上昇は止まった
いや、浮かび上がるとかいう生易しい速度じゃない
そのスピードはジェットコースターもかくやといわんばかりであった
ある程度の高さになると上昇速度がゆるくなり、やがて上昇は止まった
(浮いてるよおい…俺浮いてるよマジで)
目の前に広がるのは渓流の全景
俺は確かに地上から何メートルも上、空を飛んでいた
俺は確かに地上から何メートルも上、空を飛んでいた
(ちょっとスラスターで前後左右に動きますからね)
フィーアの宣言通り、スラスターが起動し、俺の身体はそのまま前後左右、
はては上下にも動き、最後にゆっくりと水平に一回転した
はては上下にも動き、最後にゆっくりと水平に一回転した
(どうですか、マスター…♪)
(なんというか…すごいな、これ)
(なんというか…すごいな、これ)
フィーアは、俺がいちいち驚いてるのを見て何故か上機嫌だ
(じゃあマスター、このままバーニアを切りますので、着地してみてください)
(おいちょっと待て、いきなりそれはレベル高いと思うんだが)
(マスター、遊園地の絶叫系アトラクション平気な口ですよね)
(おいちょっと待て、いきなりそれはレベル高いと思うんだが)
(マスター、遊園地の絶叫系アトラクション平気な口ですよね)
全然平気じゃありません
サークルの仲間といった時も強がりから率先して乗るけど内心ガクブルでした
お前だって分かってるだろうに
サークルの仲間といった時も強がりから率先して乗るけど内心ガクブルでした
お前だって分かってるだろうに
(レッグパーツが着地時の衝撃は吸収しますから大丈夫ですよ)
そういうとフィーアはカウントもなしにバーニアを切った
途端、俺の身体を上向きに支えておいた力が消え、重力に引かれるままに身体は落ち始める
途端、俺の身体を上向きに支えておいた力が消え、重力に引かれるままに身体は落ち始める
(ええい、ままよ!)
下手にじたばたしては着地し損ねる
俺は眼下に迫る地面を見据え、体制を崩さぬように心がける
俺は眼下に迫る地面を見据え、体制を崩さぬように心がける
『ガシャン…』
数瞬後、LGパピオンが地を踏み、俺の身体は地表へと帰還していた
怖っ。やっぱり落下怖っ
怖っ。やっぱり落下怖っ
(慣れれば大丈夫ですよマスター。それに普通なら飛びっぱなしですから)
確かにアーンヴァル型の基本戦法は、遠距離高高度の巡航状態からの射撃戦だ
普通なら『落ちる』なんてことはない
普通なら『落ちる』なんてことはない
(そうだな…落ちないのが普通だな)
少し疲れた。精神的に
落ちるってのはやっぱり苦手だ
落ちるってのはやっぱり苦手だ
(それじゃあ次はもっと本格的に飛んでみましょうか。さっきのは浮いてるだけみたいなものでしたし)
(少々精神的に疲れたんだが…)
(でも、もっといろんなことしてみたいですよね、マスターも)
(……………)
(少々精神的に疲れたんだが…)
(でも、もっといろんなことしてみたいですよね、マスターも)
(……………)
まぁ否定はできないのが正直な気持ちである
俺はため息交じりにこう答えた
俺はため息交じりにこう答えた
(それじゃあご指導よろしくお願いしますよ、フィーア教官)
(はいマスター!)
(はいマスター!)
その後も俺は暫くフィーアと共に神姫の世界を堪能したのであった