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 第十七話  「悪意のオードブル」



※※※



 その後、どんな気持ちで食堂まで戻ったのかは、良く覚えていない。背中に降り注ぐ夕方の日差しとさっきの和葉ちゃんの様子で、僕の意識はもうろうとしていた。
 こんな時でも食堂に戻ってしまうあたり、僕はやっぱり食堂の人を信頼しているんだと思う。けど、いざ戻ってみると、輝さんは隣の床屋と食堂の隙間の間に自分のバイクを入れようとしている所だった。シートの上には、直也さんと一緒だったはずのアッシュがいた。
 「あ、輝さん……。直也さんは?」
 輝さんは面倒くさそうに振り返ると、僕をじろっと見た。目の下に痣があった。
 「あ?知らねえよ。あんな分からず屋」
 「そんな! ……ねえアッシュ、君は?直也さんを説得しないの!?」
 「知りません。放っておけば良いのですよ。あのような時は、少し頭を冷やすのが良いでしょうから」
 アッシュはバイクのシートの上で吐き捨てるようにそう言った。それを聞いて、僕は愕然とした。「なっ……なんだよそれ! ふざけないでよッ!!」
 「あ?」
 後から後から、怒りか失望のような気持ちが生まれて止まらない。
 「和葉ちゃんは苦しそうだった! それなのに……。もう知らない!」
 「あっ、健五さん!?」
 後ろからメリーの声がしたけど、もう構わない。僕は泣きたいような、怒りたいような、ぐしゃぐしゃに混ざった気持ちで走った。



※※※



 どれぐらい走っただろうか。息が切れて、両膝に手をついた。
 「はあっ、はあっ」
 いつまでたっても、和葉ちゃんの笑顔と、泣き出しそうな声が頭にこびりついて離れない。あの時、和葉ちゃんは僕になにか言いたかったんじゃないか。そんな気がする。それに、あの黒いスーツの人って、どこかで見た気がしたんだよなあ。どこか、とても近くで、最近……。
 またふらふらと歩き始めたら、人にぶつかった。
 「あっ」
 「いって、気を付けろぃ!」
 僕のぶつかったその人は、細いメモ用紙のようなものをひらっと落としてそのまま行ってしまった。
 「あ、落としましたよ……」
 僕がそのメモを拾ってみると、走り書きしたようにいくつかの単語が書かれてあって、僕は目を疑った。


 『 うらのす  K・M 
    千代田区   バー・エンゼルフィッシュ 黒崎  アングラ? 』


 これは……。うらのす、K・Mって……!
 傍にあった街灯に寄りかかって、息を整えながらそれを読む。その時ふと、近くの本屋の店先にあった雑誌が目に付いた。『バトルロンドダイジェスト』だ。時々戸川君達が学校に持ってくるから、僕も知っている。その表紙に、僕は目を奪われた。
 ――『広がる裏バトルの闇』。
 まさか、と一つの考えが僕の頭によぎった。とっさに僕は動いて、「これ下さい!」と『バトロンダイジェスト』を買って、家まで急いだ。



※※※



 家に帰ると母さんは居なくて、クレアがパソコンに向かいながら練習相手のネイキッド素体をたこ殴りにしていた。
 「あ、おかえりなさいマスター! 見て下さい、このバンナっていう人とっても強いんですよ! それから今日はアリっていう人も……」
 「ごめんクレア、それどころじゃない」
 着替えるのも忘れてカバンからさっき買った雑誌を引っ張り出すと、クレアが不思議そうに近づいて来た。
 「なんですか、それ?」
 「実はね……」
 クレアに今日あった事を話しながら、パソコンからDVDを取り出す。
 間違いない。どういうわけかは分からないけど、『ウラノス』に『K・M』、さっき拾ったメモは和葉ちゃんに関するものだ。『エンゼルフィッシュ』っていうのは分からないけど、『アングラ』っていうのは……!
 片手間に雑誌のページを急いでめくる。今はどうでもいいバトルの記事とかを飛ばして、ざっと頭に入ってきた情報を要約すると、大体こんなものだった。

 『今や神姫バトルは日本だけでなく世界に広がりを見せているが、同時に法の輪から外れるものも広がる一方である。特に最近では有名人の賭博への参加が問題となっており、専門家は』……。

 これだ。途中まで読んで僕は思った。和葉ちゃんは、裏バトルに参加しようとしているのかもしれない!
 「止めなきゃ……」僕は雑誌を放り投げた。けど、


 「マスターのバカっ!」
 唐突に僕の頬を、クレアが小さな手で叩いた。
 「クレア……?」
 「どうしてその場で止めなかったんですか! その人は、助けて欲しかったんですよ!? マスターに! じゃなきゃ……じゃなきゃ!」
 目を潤ませて訴えかけるクレアの言葉に、頭を殴られたような気がした。
 そうだ。和葉ちゃんは、泣いていた。あの時きっと助けを求めていたんだ。あの時、僕に――『友達』って言ってくれようとしてたのに。
 「僕は、駄目な奴だ……」それなのに、僕はただ見ている事しか出来なかったじゃないか。
 助けなきゃ、今度こそ。そのためには、もっと情報が必要だ。僕はパソコンに向かって、和葉ちゃんが置かれている状況から調べ始める。


※※※



 時間がかかったけど、ネットを使って分かった情報は役立つものだった。
 まず、和葉ちゃんの所属するアイドルグループ『ウラノス』と神姫の『ファンシーズ』は新進気鋭のアイドルグループという触れ込みで確かに人気だったのだけど、和葉ちゃんは今年の初めあたりからテレビなんかの大きなメディアへの露出が減っているみたいで、今はそれもほとんど無い。これについては理由が分からなかった。
 そしてウラノスに曲を提供していたのは和葉ちゃんの実のお父さんで、現在は交通事故による怪我で昏睡状態になっていて、入院をしているらしい。誰かに襲われたのではとの情報もあった。
 さっきの自分の勘に納得がいった。和葉ちゃんはお父さんを助けようとして、お金を稼ぐために裏バトルに参加するつもりでいる。
 そしてインターネットで検索をかけたら、『エンゼルフィッシュ』というバーは確かに存在していた。場所は横須賀という所。ホームページの写真は普通のお店みたいだったけど、メモから察するにたぶん和葉ちゃんはここへ行ってるんじゃないか……。
 確証なんてもちろんない。けど、確かめてみる価値はある。
 「行こう、クレア。和葉ちゃんを止めに」
 「はい!」
 大急ぎで半ズボンとTシャツに着替えて、クレアの武装や必要そうなもの、お正月のお年玉やこれまで貯めたお小遣い、合計で二万と五千円を塾で使っているショルダーバッグに入れる。
 時間はもう七時を過ぎている。一分だって無駄に出来ない。
 裏バトルに参加したら警察に連れて行かれる事になってしまう。絶対に、和葉ちゃんにそんな事させない。

 それにしても、あの黒いスーツの人は誰だったんだろう?と、僕が思っていた時。意外なほど近い所にその顔を見つけた。
 「あっ!」
 玄関の近くに積まれた、母さんが買っている女性誌の表紙。
 『音楽プロデューサー、黒崎佑一氏の人気に迫る』とあった。



 ※※※



 電車に乗ったら、外はだんだん暗くなってきていて、町の明かりが流れ星みたいに後ろへ飛んでいく。
 それを眺めていたら、ズボンのポケットで携帯が震えた気がした。取り出したら、母さんからメールが来ていた。
 『健五ちゃん、塾の先生から連絡があったわよ!?  塾に行かないでどこでサボっているの?』……途中で読むのが嫌になって、携帯の電源を切ってポケットに戻した。みんな、人の事なんか考えていないじゃないか!母さんも、輝さんも!



※※※



 駅に着くと、すぐ前の道路を走る車のランプや、照明の明るさ、それから歩いている大勢の人の話し声が目と耳に刺さってきた。
 どうしてだろう。知らない町なんて今までいくらでも見てきたはずなのに、この時ばかりは不安というか、不気味だった。和葉ちゃんも、同じ気持ちだったのかな。


 その『エンゼルフィッシュ』は、パソコンの情報だと、駅から海沿いへバスに乗った所にあるらしい。辺りはもう真っ暗だ。バス停に並んでいると、大声で話をするサラリーマンにもびくっとしてしまう。
 到着したバスにがたごとと揺られて、僕は暗い外の景色を見る。街灯は明るく道路を照らしているけど、海の向こうは墨汁みたいだ。
 十分ほどして、そのお店に着く。白い木造チックな建物だった。前に海、後ろは山という場所で、魚の形をした看板やその周りを取り囲むネオンが目に痛いほど光っている。
「……あれ?」
明るさに気圧されていたら、今頃はっと気がついた事がある。僕って、未成年じゃないか! お酒なんて飲めないよ!
 「ど、どうしよう……」
 そうだ、せっかく来たって中に入れなきゃ調べられない。なんとかごまかして中に入れないか……そう思った僕の手を誰かが掴んだ。



 「うわっ!?」
 「どうしたの、坊や?」
 黒くて薄いドレスと、つばの広い帽子を身につけた女の人だった。印象は、黒いバラみたい。目にはサングラスをかけていて、赤い口紅を塗った口は、にやっとつり上がっていた。
 「あの、えっと、僕、ここに父さんを迎えに来たんですけど……」
いけないと思いつつ適当に嘘をついたら、女の人は銀のアタッシュケースを持った手で、お店の入り口を示した。
 「そう、偉いわね。でも、坊やみたいな子供が来るのは関心しないわ。中でジュースでも飲んで、少ししたら駅に戻りなさいな」
 女の人は僕の手を引いて、『エンゼルフィッシュ』の中に入った。


 お店の中は意外ときれいに掃除されていて、水槽に熱帯魚が泳いでいる。何人かのお客さんはスパゲッティを食べたり、カラフルなお酒を飲んだりしていた。う~ん、裏バトルをやるような場所には見えないなあ……。
 女の人と椅子に座ると、カウンターに居た人が応対した。明石さんとは全然違う格好だ。
 「この子にオレンジジュースでも出してあげて」
 慣れた様子で話す女の人は、もしかしたら良くここに来る人なのかも。ストローでオレンジジュースを口に吸い込みながら、僕は思った。ちょっと怪しい人だけど、一応、ジュースのお礼を言った方がいいかもしれない。
 「あの、ありがとうございます」
 「どういたしまして。……ねえ坊や」
 女の人はサングラスをかけたまま、僕を見た。
 「本当はお父さん、ここには来ないんじゃないの?」
 「えっ?」
 まずい、見透かされた? ……でも、まだ確かめることがあるし、このまま帰ってやるもんか。そう思って、頬杖をついた女の人の、ドレスからのぞく肌色の部分に目をやらないように固く目を閉じる。
 「ふふっ。ここはオトナの場所だから。坊やには……まだ、早いんじゃないかしら?」
 そしたら女の人は息がかかるほど顔を近づけて、僕の下あごを白い人差し指でなぞってきた。
 「それとも、一緒に遊ぶ? ヤケドしちゃうかもしれないけど、ね」
 「う、うわあっ!……ぼ、僕、ご、ごめんなさい!」
 僕は顔を真っ赤にして、そそくさとお店を出た。なんだあの人! ……でも、あの人が持ってたのって神姫を入れるためのアタッシュケースじゃなかったかな? やっぱり、ここは裏バトルの会場なのか……?
 腕時計はもう九時半を示している。ああ、余計な時間を過ごした! もう一度入ろうにも入れないし、どうしよう。
 刻一刻と時間は過ぎて、おまけに雨まで降り出した。傘を持ってこなかった自分を叱りながら雨宿りできそうな場所を探すと、『エンゼルフィッシュ』の横に建物があるのが分かった。勝手に入るのは気が引けるけど、ひとまずあそこで……。


 「……あれ?」


 その時、僕は見つけた。
 『エンゼルフィッシュ』の右横にあったのは、茂みに隠れた倉庫のような場所だった。そして、そこにある隣のバーの裏口らしい扉が開いている。人の気配は無い。
 とりあえず、あそこで雨宿りをしよう。近づいてみると、中には机やドラム缶が積まれていて、その間に細い通路が続いていた。
 「なんだろう、ここ……」
 ちょっと雨宿りをするつもりだったのも忘れて、通路の様子に目を奪われていた僕は、奥から微かに音楽と人の声が聞こえてくるのに気付いた。奥の方は電灯が消えていて何も見えないけど、どこかに通じていそうだ。
 「入ってみましょう、マスター」
 バッグから顔を出したクレアが言って、僕は恐る恐るそこに入った。真っ暗な通路の途中で靴下がびしょ濡れになったり、ひじを擦りむいたりしたけど、最後に階段を下っていったら一番奥についた。行き止まりみたいで、さび付いた扉の隙間から光が漏れている。
 「あ……」
 暗いところに慣れきっていた僕の目は、その向こうから飛び込んできた信じられない景色をとらえた――。







 格子の向こうは、体育館よりちょっと狭いくらいの、コンクリートで出来た部屋につながっていた。形はスポーツのスタジアムに似ている。
 中には人が大勢いて、腕にアクセサリーをじゃらじゃら付けた人や、髪を赤く染めた人、姿はまちまちだったけど、みんな同じように拳を振り上げ、同じ方向を見て歓声を上げていた。
 その視線の先には、



 「もう止めて下さい! わたし達の負けですからっ!」
 中央のバトルステージの前で、ひらひらした白いステージ衣装みたいな服を着て、泣き叫んでいる和葉ちゃんと、


 「事前に約束しただろ? どっちかの神姫が壊れるまでやるって、よおっ!」
 武装したキャンディを、背中の素材が砕けるまで足蹴にするストラーフ、そして大笑いしているそのオーナーがいた。





 「や……」
 反射的に扉を体当たりして開けてから、僕は客席の階段を駆け下りていた。
 「やめろおおおーーーっ!!」
 遅かった! 最悪だ!
 頭の中が沸騰したようになって、なにも考えられなかった。会場の人がなにごとかと僕を見るのも気にならない。僕が客席から飛び降りると同時に、バッグから武装したクレアが飛び出して、ストラーフにエクストリーマ・バレルを撃つ。気付いたストラーフが足を離した。
 「あん?」
 「和葉ちゃん!」
 「……水野君?」
 クレアがキャンディを抱きかかえて出てきて、僕が和葉ちゃんを守るようにして立つ。しんと、一瞬だけ静まった会場は、すぐさま怒りの声に包まれた。
 「なっ、どこから入ってきやがった!」
 「押さえろ!」
 左右から二人組の人が走ってきて、僕を突き飛ばして、床に押さえつける。「がはっ!」押さえられた時にお腹を蹴り飛ばされたせいで、さっき飲んだオレンジジュースが逆流しそうになって、僕は咳き込んだ。和葉ちゃんとクレアが悲鳴を上げる。
 「マスター!」
 「水野君……どうして……」
 「げほっ……か、助けに……来たんだ。どうして……和葉ちゃん、こんな事……」
 くそっ、最悪だ。和葉ちゃんはもうバトルに参加してしまっていた!しかも、神姫の破壊も許されるリアルバトルに!
 お腹が痛いのを我慢していると、誰かが拍手をしながらやって来た。
 「驚いた。感服したよ」
 顔を上げると、背の高いスーツ姿の人がいた。さっき和葉ちゃんを連れて行った人だ。しかも、この人は僕が思ったとおりの。
 「あの時の少年だね? 面白いねぇ~。どうやってここを突き止めたのかは知らないが、その勇敢さに敬意を表そう」
 そう、僕は確かに見たり聞いたりしていた。とても近くで。


 『昨日のMステ見た? 黒崎出てたやつ』



 そう、クラスでも、母さんの読む雑誌でも話題になってた、音楽プロデューサーの黒崎佑一だ。何でそれほどの有名人がここに?
 「黒崎さん……。っ、どうしてですか! こんな試合だなんて聞いてません!」
 「カズハちゃんさあ、最初から易しい試合じゃ盛り上がらないでしょ~?」
 「何言ってるんだ……和葉ちゃん、どうして裏バトルなんか……」
 僕の疑問に、黒崎は指を振りながら答えた。
 「はっはっは! カズハちゃんのパパはね、悪ぅ~い人達に大怪我をさせられて、今入院しているんだよ。でもね、カズハちゃんは最近お仕事が無くってお金がちょっとだけ足りないから、ここで手術費用を稼いでしまおうと、そういうわけさ」
 「そんな……」
 「でもあたし、こんな試合になるなんて!」
 「甘いなぁ~。裏バトルなんだから覚悟はしておいてもらわなきゃ。……さ、せっかく来てくれた少年君には悪いけど、試合に戻ってもらおう」
 僕に続いて、和葉ちゃんが取り押さえられそうになる。
 「や、やめ……」



 「和葉ちゃんに触るな!!」



 お腹が痛かったのに、信じられないくらい大きな声が出た。
 「げほっ、ぼ、僕と……僕とクレアが代わりに戦う!」
 「ほう?」
 「お金も持ってきた! 足りないなら、僕が代わりにどんなことでも受ける!」
 「駄目だよ水野君! そんな……」
 和葉ちゃんの言葉をさえぎって、
 「キャッハハ! 面白そうだね。うちらはいいよ、どうせ負けないし。マスターもいいよね?」
 笑ったのは、さっきのストラーフとオーナーだった。
 「いいのかな、川名君?」
 「ああ、俺は楽しめさえすれば何だって構わないからな」
 「……では少年君、カズハちゃんが受ける試合と、それによって発生するペナルティの全てを君が引き継ぐのだね?」
 「それでいい! けど僕が勝ったら、和葉ちゃんは無事に帰してもらう!」
 黒崎はそれを聞いて、醜く笑う。そしてざわついている観客席の方を向いた。
 「よし。ではそれでいこう。……皆さん! 大変長らくお待たせしました。この勇気ある少年はカズハちゃんの友達です。戦闘を続行出来なくなった彼女の代わりに、この試合を引き継ぐそうです! もちろん、試合結果による賭け金は通常通り支払われますのでご心配無く!」
観客はそれを聞いて、また熱狂を取り戻したみたいだった。
 「さて、じゃ早速準備をしてもらおうか、少年君」


 ※※※


 僕の荷物は取り上げられて、中身を調べられた。警察に連絡されていないかと、携帯の履歴までが調べられて、その後壊されてしまった。
 「水野君……」
 和葉ちゃんは僕のずっと後ろで、さっきの人達に見張られている。非道いものだった。衣装を着た和葉ちゃんははっとするほど綺麗だったのだけど、その白い衣装は薄く汚れている。キャンディの方は武装がめちゃくちゃ、素体は黒くすすけている上に右腿から先が無くなっていて、目のレンズにはノイズが奔っていた。
 僕の方はというと、ステージに上がる前に両手首と足首、それから腰に黒いベルトを着けるように言われた。相手のオーナーも同じものを付ける。クレアとストラーフは、首に金属の輪を付けさせられた。
 「……」
 「キャハッ! なぁにその武装? やる気あんの~?」
 クレアはさっきからずっと、真っ白いリングの上でストラーフとにらみ合っていた。ちょっとびっくりだ。……あんなに怒った目のクレアは、見た事が無い。
 「……楽しいんですか」
 「んあ?」
 「こんな事して、楽しいんですか?」
 「たのしーたのしー、超楽しいよ」
 司会者がステージの中央に進んでも、クレアは凛とした視線を外さなかった。
 「……へえ、気に入らないなぁ、その目。ねえマスター、こいつブッ壊しちゃっていい? ねえ?」
 「ああ、好きにしろよ。お前はあの屑よりもいい働きをしてくれるからなあ」
 「いいの!? キャハハ、じゃあヤっちゃうよ!」
 ストラーフの武装はbisのアーマーを中心にごついスパイクや刃で徹底的に改造されていた。一方で、クレアの装備はノーマルのままだ。
 『レディ、ファイト!』
 試合開始の合図が出た。ハンマーを持ったストラーフが迫る。クレアが先制して撃った銃弾をものともせずに弾いて、ハンマーを振るった。
 「はっ!」
 「甘い甘い!」
 空中にジャンプして回避したクレアに、すぐさまハンマーを繰り出す。ヒットだ。「あっ!」軽くだけど、クレアが吹き飛ばされ、バランスを崩しながら着地する。その時だ。



 「……? ……がっ!?」
 僕の身につけたベルトから衝撃が走って、僕は仰け反った。






 ※※※




 七時になってから、俺は厨房で皿洗いをしていた。
 あのいざこざの後、バイクで帰ろうとした直也と衆人環視の中殴り合うということをしたわけだが、非常にむしゃくしゃする。人の話も聞かねえで帰りやがって、馬鹿が。『勝手にしやがれ』と啖呵切った手前、こっちから出向いてやるのもしゃくに障るし、もう知らん。
 アッシュは今もテーブルの上でじっと正座している。帰してやろうか迷ったが、しばらく預かっとくのがいいだろう。
 「……あら?」
 黙々と皿を磨いていたら、椅子を拭いていたメリーが何か聞きつけたようだった。
 そういや、確かに外で車の止まる音がした。そしてすぐに女性が一人入ってくる。
 「いらっしゃ……って、あれ、あんたら……」




※※※




 「がっ! うわあああっ!」
 クレアが飛ばされたと思った瞬間、ベルトから衝撃が走った。
 「水野君!?」
 「マスター!」
 「はあっ、はあっ……」思わず床に膝をついてしまう。なんだこれ、衝撃というよりかはもっと、ビリビリするような……。
 「マスターに何をしたんですか!」
 クレアが叫ぶと、相手のオーナーが残虐にほくそ笑んだ。
 「おおっと、言い忘れてたぜ。俺とそのボーイが身につけてるベルトとリストバンドはな、神姫が受けた衝撃を数値に変換し、……そうその装置だ。神姫の方から受け取った数値に応じて、装着した人間に電流を流す仕組みになってるんだよ」
 「なっ……!」
 「受けた衝撃が大きいほど、電流も強くなるからね。例えば、ほらあっ!」
 クレアが急いで首の装置を外そうとしたけど、ロックされていて取れない。その隙を突いて、ストラーフの手首から射出されたチェーンがクレアの腕に巻き付く。
 「あっ……きゃっ! がっ! あああっ!」
 「ほら、ほら、ほらあ!」
 何度も何度も、ストラーフが腕を振り回す。その度にクレアがステージに叩きつけられて、僕の体にも電流が流れる。
 「うあああああああああっ!」
 痛い。これ、すごく痛い! 床に倒れ込んで、取れないベルトをがちゃがちゃまさぐりながら僕は思った。しかも、観客席からは歓声が上がっている。
 「水野君っ!!」
 和葉ちゃんが泣いているのに、試合を見ている他の人は笑っている。
 「ひどい……。ひどいです、黒崎さん! わたしなんでもしますから、水野君を助けて下さい!」
 「それは出来ないねえ。カズハちゃん負けちゃったでしょ? じゃあ決定権無いよね」
 「そんな……!」
 「それにねぇ、少年君に無事に帰ってもらったら困るんだよ。ここでこーんな事してるのがバレるし、カズハちゃんにも僕に逆らうとどういう事になるか分かってもらわなくちゃならないからね」
 「えっ? 黒崎さん、それってどういう……!?」
 「はっは! カズハちゃん、そう簡単にお金稼げるなんて思った? いくら大変だからってさあ、ほいほい人を信用しちゃうのもどうかと思うよ」
 「まさか、だましてたんですか!?」
 「ま、今はゆっくり観戦しておくことだよ」
 和葉ちゃんと黒崎の会話から僕は悟った。こいつらは、僕も和葉ちゃんも、ここから無事に帰す気なんて無い!
 「ほらどうした? せっかくだから立って楽しもうぜ、文字通りのデスマッチをな。かかって来いよ、ヒーロー気取りのボーイ」
 僕は情けなく床に転がりながら、会場の様子を見て戦慄した。楽しんでる。ここにいる人達は、僕らが傷つく姿を見て、楽しんでいる。興奮している観客の姿は、まるで人の悪意を集めたような……。
 僕は今まで、こんなに人を恐いと思ったことは無かった。電流のせいでなく、お腹の奥が冷たくなって、吐き気がしそうだった。
 クレアが絡まっていたチェーンから離れて、宙を舞う。その後を追って、ストラーフがハンマーを振るう。
 その後に襲ってくるだろう痛みに備えて、僕は目をつぶって身を固くする。
 ――けど、いつまで経っても痛みはやって来なかった。
 「……?」
 僕はそっと目を開けた。




 「はっ……」
 クレアだった。クレアが、振り上げられたハンマーを踏み台にして、宙返りをしていたんだ。




 着地したクレアは、すぐ間合いを取った。
 「ちっ」
 ストラーフが今度は爪を開いて突っ込んでくる。けど、クレアはナックル武器のペネトレートクロ―を構え、腕を盾のように使ってそれを受け流す。
 さっきより痛くない。クレアが衝撃を防いでいるから、ベルトに電流が流れないのか。それにこれって、クレアがゲームセンターで練習してた……!
 「これ以上……」
 「あん?」
 ハンマーを下ろして片眉を上げたストラーフに、クレアは毅然とした態度で言った。



 「これ以上、誰も傷つけさせません!」



 ~次回予告~

 何の為に戦うかって?
 決まってるじゃないか。
 だって、僕らは―――。


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