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第十六話  「ファンシーズのオーナー」





「……『メロスは、単純な男であった。買い物を、背負ったままで、のそのそ王城に入っていった。たちまち彼は、巡邏の警吏に捕縛された。調べられて、メロスの懐中からは短剣が出てきたので、騒ぎが大きくなってしまった。』……」

壁際の席の友達が読む文章を、僕も目で追う。今は学校の国語の時間だ。

「……『『言うな!』と、メロスはいきり立って反駁した。『人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。王は、民の忠誠をさえ疑っておられる。』』……」

もうすぐ七月の十九日が近い。その日から三日間期末テストがあるから、みんな今から準備に忙しくしている。僕もクラスの友達からノートを貸してと頼まれたりするし、漢字があまり得意じゃ無いから練習しなくちゃいけないし、とにかく大変だ。前の席の戸川君は、先生から見えないようにこっそり数学のドリルを解いている。
この『走れメロス』もテスト範囲だから、テストの問題で聞かれそうな所に線を引いて、後で復習がしやすいようにしておかなくちゃ。
だけど、まだ僕の番は回ってこないから、ぼんやりと最近の事を考えた。主にクレアの事だ。
あの日アテナに負けてから、クレアがやるようになったことがある。技の特訓だ。



『めぐみさん!ボクシングの試合のDVD持ってるって言ってましたよね?貸して下さい!』
『いいよー。うん、それにしても、こんな小っちゃな女の子が格闘技の練習……。あ~、なんか可愛いかも!』


『アッシュ先生!特訓よろしくお願いします!』
『よろしい、早速始めるとしましょう。……しかし、できれば先生というより教官と呼んで下さった方が……』


――こんな風に、身近にいる人と協力しながら、強くなろうと頑張っている。今は家にはクレアしかいないだろうから、パソコンでプロレスやボクシングの動画を見ていると思う。城ヶ崎さんと会う前よりも、練習の頻度は多くなっているけど、僕が一緒に見てあげられないのはちょっと不安だ。
それと、クレアは僕と一緒に本を読むのが好きで、最近はこの『走れメロス』が気に入っているみたいだ。
「……水野!水野!お前の番だぞ」
「え?」
そこまで考え事をしていたところでいきなり名前を呼ばれて、僕は慌てて教科書の指定された場所を探した。女子にくすくす笑われる。
「あ、えっと……『言うにや及ぶ。まだ日は沈まぬ。最後の死力を尽くして、メロスは走った。メロスの頭は、空っぽだ。何一つ考えていない。ただ、訳の分からぬ大きな力に引きずられて走った。』……」
 自分に当てられた部分を読みながら、僕は、このメロスはどんな気持ちでセリヌンティウスのいる刑場まで走ったんだろうなと考えた。たぶん、僕には想像もつかないくらいに苦しいんだと思うけど。
 読み終えてしばらく経ったらチャイムが鳴って、みんな起立した。
 「きりーつ、礼」
 「あー、やっと終わったね」
 「テストさー、面倒だよね」
 「昨日のMステ見た? 黒崎出てたやつ」
 先生が出て行って休み時間に入ってから、みんなそれぞれにテストの心配や最近テレビでやっている事を話し始める。戸川君の前に集まっていた女子のグループは、カバンから雑誌を持ってきた。学校に持って来ちゃいけないんだけどなあ……。
 「あ、駄目だよ。雑誌持ってきたら」
 案の定璃子ちゃんがそれを注意する。
 「いいでしょ、先生は気にしなくていいって。ほら、璃子も読もうよ。いいよね~、『ウラノス』のカズハちゃん!」
 「ウラノス?」僕が聞くと、戸川君に雑誌を見せていた中井さんが不思議そうな顔をした。
 「知らないの水野君? ウラノスってね、今めっちゃ人気のアイドルグループなんだよ。去年の紅白にも出たんだから」
 「へえ」
 「それでね、メンバーのカズハちゃんがね、あたし達と同い年なの。あ~、憧れちゃうな~。なんかこう、夢があるっていうかさ! それにね、カズハちゃんの神姫もね、ファンシーズっていうアイドルなんだよ」
 「でもさ、カズハちゃん最近テレビ出てないよね。なんか土曜のドラマも降板したって」
 「あ、そうそう!」
 「なんかね、事務所でトラブルあったらしいよ」
 「え~、ホント?」
 話が盛り上がってきたけど、僕はアイドルってあんまり興味ないし、よく分からなかった。でも……、僕と同じ年でそうやってアイドルをやっているのは、やっぱりすごい事なんだろうなと思う。僕には出来ない。
 「あ、先生来た!」
 「早く戻ろう」
 丁度次の時間のチャイムが鳴って、僕らは慌てて席に着いた。



※※※




 「……一、二、三……直也、後で図書館行かねえ?マルクスとケインズの資料借りるからよ」
 「おう。ついでにノートのコピー取ってこようぜ」
 俺は次のゼミで使う資料のチェックをしながら、学食で昼飯を食っていた。直也と、それからもう一人の男も同席している。
 「大変だね、二人とも」そう言いながら、目の前の男、三盥は涼しげに味噌汁を啜った。
 「他人事みてえに。坊ちゃんは黙ってろよ」
 「僕はただ感想を言っただけさ」
 直也が噛みついても、三盥はさらりと受け流す。……この三盥隼人というやつは俺と直也とは違って心理学科に入っている男だ。俗に言う王子様キャラというやつで、親は医者だというボンボンのためか直也と良く言い合いになる。間に挟まれる俺の身にもなって欲しいものである。
 ただこいつも神姫が好きで、同じ神姫好きの仲間の一人だ。今日はそいつらと何人かで集まっての飲み会を計画している。
 「けどま輝、ご飯に貴賤は無いけどさ、もっと栄養のあるもの食べた方がいいわよ」
 テーブルの上でさっきおばちゃんからもらった甘納豆をほおばっていた雅が言った。ちなみに今日は雅もメリーも連れてきている。直也はアッシュ、三盥はブライトフェザーの美香を連れてきた。いつか聞いた、神姫にはオーナーの趣味が現れるというのは、実に的を射ていると思う。
 「隼人さんはご趣味の事になると我を忘れてしまって……」
 「まあ、それって素敵なことだと思いますよ」
 「いえメリー殿、美香殿の弁にも一理あります。マスター直也などはですね……」
 神姫の中は良好だ。だがまあ、いくら神姫とはいえ人形をテーブルにのっけて飯を食う男三人組というのは、端から見ればアブナイ集団以外のなにものでもないだろう。今だって横を通り過ぎていく女子の視線が時折痛い。世間の目は桐皮町のように優しくはないのである。そして、雅が言った俺たちの昼飯とは、俺は山菜うどん330円、三盥はチキンソテー定食のライス大盛り500円、直也は購買で買ったウインナーロールとファンタで計215円。……チーンという効果音が聞こえてきそうだ。悲しいかな、21世紀格差社会の縮図がここに表れている。
 「うーん、次は別のにしよう」
 「贅沢言うな三盥。それならな、チキンにりんごソースかけると美味いんだぞ」
 「おっ、出ました学食の王子のお言葉。見ろ、あのおばちゃん達の熱い視線を」
 「止めろ直也。メリーが」
 「輝さん!? 未亡人萌えなんて許しませんからね!?」
 「ほらいわんこっちゃない。つうかメリー、外でそれは止めてくれマジで」
 そう言いながらうどんを食っていると、テーブルの向こうに座っていた別のグループのでかい声が聞こえた。

 「おい、これ見ろよ」
 「ウラノスだろ?お前も好きな、マジ」
 「やっぱミホもいいけどさ、カズハも可愛くね?」

 ああ、アイドルの話ね。と思ったら、直也が突然席を立って荷物をまとめ始めた。
 「輝、図書館行こうぜ。ほら」
 「あ、おう」
 なんだいきなり。ま、丁度良いしついてくか。
 「じゃあ三盥、後でな」
 「うん。楽しみにしておくよ」
 トレーを戻してからメリーと雅を連れて、早足で学食の入り口まで歩く直也を追った。




※※※




 学校が終わってから、最初にめぐみさんから借りたDVDを返すために商店街に行った。これだって、雑誌と一緒で学校に持って来ちゃいけないんだけどね。
 僕が行ったら、めぐみさんはみやこと一緒に目の下を擦りながら「いや、最近漁師仲間に頼まれてさ、怪しい奴らがいるってんで横須賀の方まで見回りにいってんのよ。あー、眠い眠い」と言っていた。なにかあったのかな。
 季節はもうすっかり夏だ。商店街に時々流れているBGMは今は止まっていて、セミの声がその代わりをしている。今の時間は四時くらいだし、まだ塾に行くのにも時間がある。早く行って勉強ができるかもしれない、あ、また僕勉強の事考えてる……。といろいろ思っていたら、食堂の前を通りかかった時、お店の前で何かに話しかけている、帽子を深く被った女の子が見えた。
 「ここでいいの?」
 「そうだよ☆」
 なんだろう。行ったり来たりして、お店に入りたいのかな。
 「あの……」
 立ち止まってしばらく見ていたら、その女の子は近づいてきて、
 「あ、あの、すみません。明石食堂さんって……ここで、合ってますか?」
 「え、えっと、……そうですけど」
 僕がそう言ったら、その女の子のバッグからピンク色のものが飛び出した。
 「ほら! 合ってたでしょ☆ カズハ姉!」
 そのピンク色のものは、良く見るとシュメッターリングの頭だった。……あれ、カズハって……。
 「あの、ウラノスの、カズハ……っていう」
 「え……? そうですけど」
 女の子は帽子を脱いで、おじぎをした。
 「う、ウラノスの、カズハ……です。こんにちは」
 「キャンディ☆だよ!」
 まぎれもなく、雑誌で見た女の子と同じだった。



※※※




 カズハちゃんと一緒に食堂に入ると、明石さんが一人でコップを磨いていた。
 「やあ、いらっしゃい。おや、その子は?」
 明石さんは珍しそうにカズハちゃんを見たけど、事情を聞いたら納得したみたいだった。
 「前にこの子がお仕事で来たみたいで……お礼を言いたいんだって」
 「そうだったの」
 カウンター席に座って、うつむきながらゆっくり話すカズハちゃんは、イメージとずいぶん違っていた。なんだかこう、服装も大人しいというか、ちょっと目立たないというか。
 「そうそう☆ でも、今日はあの神姫さん達いないね?」
 「ああ、輝達は大学の仲間と用事があると言ってたから、今日はいないんだ」
 「なーんだ、残念」
 シュメッターリングはカウンターの上に座った。この神姫が、中井さんが言ってたファンシーズなんだろうか。見ていたら、「キャンディだよ! ブイ!」と挨拶された。
 「水野君って、わたしと同じ年なんだよね」
 「え、そうだよ。カズハ……ちゃんも、だよね。僕のクラスの友達がね、ファンなんだ。すごいよね、アイドルだもん」
 カズハちゃんはそれを聞くと、びっくりしたように僕を見た。
 「えっ、そんなこと無いよ。わたし、そんなに偉くないから」
 「え、でも、アイドルってテレビとか出て……」
 「それは……」カズハちゃんはそこまで言うと、いきなりふらっと頭を押さえてカウンターに倒れた。
 「あっ、大丈夫!?」
 「カズハ姉!」
 僕と、気付いた明石さんが急いで助け起こすと、カズハちゃんは目を閉じたまま辛そうにした。
 「ごめんなさい……わたし、ちょっと疲れてるみたい」
 「ふむ。……ちょっと待っていてくれるかな」
 冷たい水を出してくれた明石さんは、奥からカップに入ったなにか黄色いものをカズハちゃんに持ってきた。
 「この季節は暑いから、あまり無理はいけないよ。はい、どうぞ」
 「あ、ありがとうございます……。これは?」
 「冷やした蜂蜜とリンゴのゼリーだよ。昔から、『医食同源』と言ってね。美味しい食事をとる事と栄養をとって元気になる事は同じだと、昔の人は考えたんだ」
 明石さんは優しく笑った。カズハちゃんもそれにならってスプーンを差し込んで、ゼリーを口に運ぶ。その瞬間、驚いたのが分かった。
 「美味しい」
 「うん、ありがとう」
 「良かったね、カズハ姉☆!」
 カズハちゃんはゼリーを食べて、少し落ち着いたみたいだった。
 「水野君も……ありがとう。優しいんだね、水野君って」
 そう言って笑いかけてくれたカズハちゃんは、ふんわり良い匂いを漂わせている気がして、思わずドキッとしてしまった。
 「……でもね、わたしって、全然すごくなんかないんだよ。歌は……大好きだけど、ダンスは苦手だから、みんなより練習しなくちゃいけないし」
 「でも、それだってカズハちゃんは頑張れてるじゃないか。僕のクラスでだってね、カズハちゃんのファンだっていう女子はいっぱいいるよ。みんな言ってたよ、カズハちゃんから夢をもらってるって」
 「そう……うれしいな。でもね、まだなんだ。うちのパパって厳しくてなかなか認めてくれないから、もっと上手にならなくちゃいけないの。……水野君は優しいから、優しい家族がいるんだよね、きっと」
 「そんな! 僕の母さんだって厳しいよ。ひどいんだよ、母さんってばね……」
 僕がカズハちゃんに家族の話をするのを、明石さんは黙ってコップを拭きながら聞いていた。




※※※




 「……それでね、まず最初に大人一人が払うお金をxとして、子供が払うお金をyとすると、ほら、子供は四人だから4yになって、ここの式はx+4y=……」
 話のなりゆきで、僕が塾に行っているという事を言ったら、こうやって勉強を教えてあげる事になった。カズハちゃんはじっと真面目に聞いている。
 「すごい。水野君ってなんでも知ってるんだね」
 「え、そ、そんなことないよ……」
 僕が鉛筆を持った手を止めたら、カズハちゃんは弱々しく微笑んだ。
 「うらやましいな。……わたしね、いつもはお仕事が忙しいから、普通に学校に行けないんだ。だから……水野君みたいにちゃんと勉強が出来て、友達もいるのって……憧れちゃう」
 「それなら、僕だってカズハちゃんに憧れちゃうよ。沢山の人の前で歌えるなんて、本当にすごいことだと思う。僕は……自分がなんになれるかなんて全然分からないし、それに将来だってそんなすごい事出来ないと思う」
 「ううん、水野君はこれから、なんにだってなれるんだよ。わたしは……違うの」
 カズハちゃんはそう言って、またうつむいてしまった。遠くからお豆腐をうる人の声が聞こえてきて、また店内は静かになる。
 「でも、カズハちゃんはずっと僕より大人じゃ」
 「……大人じゃないよ。……大人になるって、どういうことなんだろうね」
 また静かになる。時計の音が、コツコツと聞こえる。
 「……明石さんは、大人になるってどんな事だと思いますか?」
 僕が聞くと、明石さんはお皿を拭いていた手をちょっと止めて、
 「そうだね、とても難しい問題だ。沢山の人が考えている事だし、君たちぐらいの年なら、すぐに答えなんて出さなくてもいいのかもしれない」
 「……」
 「でも、僕から一つ言える事は、自分の決めた事に『責任』を持てる人が大人なんじゃないか、ということかな。それが仕事の事であれ、人間関係の事であれ」
 僕らが口を引き結んで明石さんを見ると、明石さんはまた笑って仕事に戻った。
 「……この町って、良いところだね。明るくて。来たら、それが分かった」
 「え? うん、そうだね。僕も、お祭りの時そう思った」
 「いつまでも居たいくらい。……でも……駄目なんだ、よね」
 「え?」最後の方が良く聞こえなくて、僕は思わず首をかしげてしまった。
 「あ、何でもないよ。……ねえ水野君、その……良かったら、わたしと、友達に……」


 カズハちゃんが、そこまで言った時だった。


 「また寄ってくのかよ」
 「いいじゃんかよ。固い事言わずに」


 お店の前で、ブルン、とバイクの止まる音がした後、輝さんと直也さんがお店に入ってきた。
 「おやっさん、戻りましたよ」
 「こんにちはッス」
 直也さんが明石さんに挨拶すると、カズハちゃんはさっと顔を伏せた。
 「お、健五。と……」
 僕の隣に座っていたカズハちゃんを見た直也さんは――にこやかだった顔を突然、引きつらせた。




 「……和葉?」


 「お兄ちゃん……」



 森本 和葉。それが、カズハちゃんの本当の名前だった。



※※※



 僕は驚いた。カズハちゃんが……直也さんの妹!
 「お、お兄ちゃん……どうして、ここに……」
 「よ、よう和葉! 久しぶりだな、どうしたんだ?こんなトコで」
 直也さんは、まるで無理に笑顔を作っているかのように、ピエロみたいな大げさな身振りで近づいて来た。輝さんも、メリー達神姫も困惑している。僕もそうだ。
 「ああ、あのアイドルの。お前の妹だったのか」
 輝さんが納得してそう言うと、和葉ちゃんは上げていた顔をまたうつむかせた。
 「お、お兄ちゃん……。あのね、パパが……」
 『パパ』と聞いた途端、直也さんの眉と口元が歪んだ。
 「……やっぱそうかよ」
 そして、持っていた黒いバッグを床に落として、叫んだ。


 「結局それかよ! また親父に言われて俺の事探りに来たんだろ、ああ!?」
 「ち、違うの! お兄ちゃん、パパが」
 「うるせえッ!! もう沢山なんだよ! 親父の話なんか聞きたくねえ!」
 「お兄ちゃん! 聞いてよ!」
 和葉ちゃんが泣き叫びそうになりながら、こう言った。



 「パパがっ……パパが、倒れたの……」
 「えっ……?」
 「お願い、お兄ちゃん、パパの所に行ってあげて……病院にいるから、お願い……」



 僕らはもう、声も出なかった。
 「……直也、今すぐ行ってやれ。なにがあったか知らねえが、お前の親だろ」
 輝さんが直也さんの肩に手を置くと、直也さんは乱暴にそれを振り払った。
 「……は、ハッ、笑わせんなよ。そっちから追い出しといて、今度は助けてくれってか? ふざけんな!」
 直也さんは落ちていたバッグを掴むと、そのままお店を出て行った。
 「直也っ!」
 輝さんが後を追う。開けっ放しの戸からは、風と、道を行く人のがやがや声が入ってきた。
 「……やっぱり、駄目だった……」
 「和葉、ちゃん?」
 「……わたし、もう行きます」
 和葉ちゃんはキャンディをバッグに入らせると、だっと外まで走り出した。
 「あっ、和葉ちゃん!」
 僕もその後を追う。外に出ると、輝さん達はいなかった。




※※※



 桐皮町駅まで、和葉ちゃんが向かった方を走りに走る。
 「はあっ、はっ、ま、待って! 和葉ちゃん!」
 僕の二十メートルくらい先を走っていた和葉ちゃんは、駅の前にあるセブンイレブンの角を曲がって、路地の方に入った。
 こんなことなら、もっと頑張って体育のランニングをやっておくんだった。そう思いながら、足を必死で前に出して、角から顔を出した。
 そこで、僕の足は止まった。



 「……」



 路地の少し奥、人目に付かない所に黒い車が止まっていて、その隣で和葉ちゃんは、車と同じ色のスーツとサングラスを身につけた男の人と話していた。
 「和葉、ちゃん?」
 僕の漏らした言葉を聞きつけたのかそうでないのか、男の人と和葉ちゃんは同時に振り返った。
 「水野、君?」
 「失礼。君は?」
 男の人が近づいてくる。ずいぶん背の高い人だった。
 「水野君、追いかけてきたの……?」
 「ああ、カズハちゃんの友達か。済まないが、彼女はこれから用事があってね。失礼させてもらうよ」
 男の人はそう言って、和葉ちゃんを車に乗せようとした。けど、
 「ま、待って下さい! ……水野君」
 和葉ちゃんは男の人を制して、僕の方に駆け寄ってくる。
 「ねえ和葉ちゃん、お父さんが倒れたってどういうこと? 直也さんになにがあったの?」
 和葉ちゃんは答えなかった。
 「和葉ちゃん!」
 「水野君」
 強く質問したら、和葉ちゃんは僕の手をにぎって、笑った顔で、だけどもうほとんど泣きそうな声で、こう言った。


 「ありがとう、水野君。お話……聞いてくれて」


 「さ、もう行こう」
 男の人はいらいらしたように和葉ちゃんの手を取って、そのまま車に乗せる。
 「和葉ちゃん!」
 僕の叫び声は、走り出した車のエンジン音にかき消されて消えて。
 後にはただセミの声だけが響いていて、僕は頭に焼き付いた和葉ちゃんの笑顔と、見送る事しか出来なかった無力感で、その場に砂みたいに崩れ落ちてしまいそうだった。





~次回予告~

「知りません。放っておけば良いのですよ」


「その人は、助けて欲しかったんですよ!?」


「水野君……どうして……」


「さあかかって来いよ、ヒーロー気取りのボーイ」


『僕は今まで、こんなに人を恐いと思った事は無かった――。』


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