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 第十五話 「桐皮町コーヒー・フルーツ戦争」




 俺たちの住む桐皮町では、毎年七月の九日から十一日に夏祭りをやる事になっている。
 今日はその一日目。五時になってから、待ち合わせた俺と健五は駅前商店街の奥へと向かう。
 「今日は友達と行くんだろ?」
 「うん」
 「楽しんでこいよな。あ、そうだ健五。小遣いは百円だけは絶対に残しておけよ」
 「え? どうして?」
 健五は理由が分からないようだったが、そろそろこいつも我らが明石食堂の一員として『アレ』に参加してもらうとしよう。
 「……おっ、もうお囃子やってるか」
 笛と太鼓の音が聞こえたということは、会場である桐皮稲荷神社が近づいてきたようだ。……ほら、赤茶けた鳥居と石段が見えた。
 この桐皮稲荷神社の歴史は江戸時代あたりまでさかのぼり、かの徳川家康公の治世に商工業、特に武家に献上されていた桐箱を作っていたこの場所に稲荷神社を建てたのが始まりなんだとかかんだとか。その辺はよく分からんが、まあ今じゃただのちびっこいオンボロ神社だ。
 浴衣やはっぴを着た男女が数人、鳥居の奥へと消えていく。さらにたこ焼きの匂いも漂ってきて、うむ、良い空気だ。
 「じゃ、俺はおやっさんと手伝いしてくるからな」
 「あ、うん」
 健五はそう言うと鳥居をくぐっていった。



※※※



 今日は学校の友達と待ち合わせているから、早く行かなくっちゃ。
 石段を駆け上がっていく僕の肩にはクレアもいる。
 「クレア、本当にもう大丈夫なの?」
 「はい。いつまでもくよくよしていられないですもんね! えへへっ」
 あの日アテナと戦った時は相当ショックを受けていたけど、今は大分落ち着いたみたいだ。でも変わってしまったところもあるんだよなあ……。
 「あたしお祭りって初めてです! 楽しみですね!」
 「うん。僕もあんまり参加した事無いから、楽しみだよ」
 今日は父さんも母さんも出張でいないし、塾も無いし、いっぱい遊べるといいな。
 そう考えていると、
 「あ、水野君!こっちだよ!」
 わたあめの屋台の近くに、璃子ちゃんと和泉さん、中井さんと戸川君、それから越谷君がいた。みんな同じクラスの友達で、今日は神姫も一緒みたいだ。戸川君と越谷君はそれぞれ、アークのレッドとアーンヴァルのアンネを連れている。
 「ごめん、遅れちゃった」
 「いや、俺たちも今着いたんだ」戸川君はそう言ってくれたんだけど、
 「おせーぞ! 罰としてケンゴの分のわたあめはナシな!」
 「ガブ! 駄目でしょ!……ごめんね水野君、はい」
 そう言って璃子ちゃんはわたあめをくれた。食べてみたら、甘くておいしかった。
 女の子はみんな浴衣を着ていて、璃子ちゃんは青い浴衣がとても似合っている。見ていたら、和泉さんと中井さんが笑った。
 「あれ、水野君もしかして見とれちゃってる?」
 「だよねー。璃子ったら今日のために必死で選んでたもんね」
 「ちょっと二人とも! 変な事言わないで!」
 「はいはい。じゃあ後は若いお二人にまかせて」
 「わたしらも行きましょうかのお。戸川君、こっし-、ほら」
 「あ、おう。水野と天貝はいいのか?」
 「いいの。あたしらはこっち。ね?」
 戸川君と越谷君の手を引っ張って、和泉さんと中井さんが石段の下に降りていく。戸川君はきょとんとしていたのに、なぜか和泉さんと中井さんの神姫、ハウリンのマルルとジルダリアのフランがこっちに向かって「ひゅーひゅー」と口笛を吹いていた。
 どうしてだろうと思ったけど、戸川君は女子から話しかけられるのは普通だし、越谷君は中井さんと同じ吹奏楽部だから、たぶん何か話があるんだろうな。
 「どうしようか? 璃子ちゃん。……璃子ちゃん?」
 「え!? ……ああううん、なんでもないよ!……ほら水野君、焼きそば食べよう! 焼きそば!」
 「う、うん」
 璃子ちゃんはなんでか顔がちょっと赤かった。



※※※



 神社の鳥居から十メートルぐらい歩いた所、駅前商店街組合のテントにおやっさんがいた。
 「お、来たね輝」
 「すいません。健五を連れてきたら遅くなっちまって」
 「気にしないで。さ、手伝おう。あっちに及川さんとメリーがいるから」
 「あ、はい」
 おやっさんは軍手をはめて、ヘラを使って肉を鉄板の上で焼いている。手を動かすたびに、じゅっと汁が跳ねる。その横から雅がタレをかける。
 この夏祭りでは俺たち商店街の人間も手伝いをすることになっていて、明石食堂からは夏の特別メニューを出している。今おやっさんと雅が作っている、豚バラ肉とニンニクの芽の炒め物がそれだ。
 その他にもテントをしつらえたり明日の御輿の準備を整えたりとやる事は山ほどあるが、ひとまずはおやっさんの言うとおりテントの中を手伝おう。
 料理を出すのは俺たちだけじゃなく、焼き鳥や缶入りドリンクを売るところもある。そういうわけで、テントの中はそれを食べるための場所になるのだ。
 入って行くと、めぐみさんとメリーがテーブルとテーブルの間をせわしなく動いていた。
 「はい、ビールは百五十円です!」
 「はいよ! 砂肝ね」
 「おーい、俺も手伝うぞ」
 「あ、輝早く。人手足りなくてさ」
 「ういっす」
 最近は祭りに神姫を連れてくる人間も多くなった。メリーのようにその辺をちょこちょこ走り回っている奴もいるわけだから、いつ踏んでしまわないか心配になるが。
 時折おやっさんにも手を貸しながら仕事を続けると、テントの入り口から野太い声がした。
 「おーう輝! ちょいと手ぇ貸してくんな。御輿を準備するからよ」
 「はいよ、雅彦さん。あ、今日は『アレ』やるんスよね」
 「おう。今年も勝たせてもらうぜ」
 入ってきたのはめぐみさんの親父さんで、及川雅彦さんと言う。ねじりはちまきと太い腹が特徴的な気の良いおっさんである。
 次いで、今度は魚屋の前掛けを付けた女性が入ってくる。
 「めぐみ、ここはもういいからお父さんと一緒に行ってやって」
 「はーい。お父さん、あたしもだってさ」
 雅彦さんの奥さん、ゆえさんだ。気さくな人柄で人気の、町のお母さん的な立場の人だ。
 「メリーちゃんもお疲れ様。あんた人間だったら本当に良いお嫁さんになれるんだけどねえ。まったく惜しいもんだよ」
 「ゆえさんったら、そんなことないですよ」
 「またまた。……めぐみもあんたみたいになってくれたらね。こっちゃ心配で仕方ないよ」
 「いいのお母さん!まだ結婚とかどうでも良いしさ。いこ、輝」
 「あ、ういっす」
 雅彦さんとめぐみさんと連れだってテントを出て行く。別におかしな気持ちは抱いていないぞ。うん。
 「あ、輝、あたしも付いてっていい? 早く遊びたいわ」
 「あん? いいけどよ、また正月の時みてえに暴れねえでくれよ」
 何故かというと、こいつは賭けごとが絡むと大暴れするからなんだが……。
 「分かってるわよ。じゃあ京介さん、行ってきます」
 「うん、楽しんでおいで」
 雅が台から飛び出して、定位置である俺の肩に飛び乗った。
 「めぐみも早く、こうやって気にかけてくれる人探しなさいよ」
 「はいはい」



※※※



 「水野君、金魚すくいやろうよ」
 璃子ちゃんの勧めで、丁度通りがかった屋台で金魚すくいをやることになった。
 「まったく、なぜ神の使いであるわしが祭りの出し物ごときで失敗するのじゃ」
 レンは輪投げでも宝つりでも狙った景品が取れなくて、ずっと文句を言っている。そんなレンとは反対に璃子ちゃんはお祭りを楽しんでいるみたいで、狙った景品は外さなかった。
 「璃子ちゃん、凄く上手だね」
 「それはそうだよ。もう何年もここのお祭りにきてるもん。えい」
 一匹金魚をすくった。僕と話しながらテンポ良くお椀に金魚を入れていく璃子ちゃんは、やっぱり凄い。二匹目の金魚をすくおうとしている時に璃子ちゃんが腕を伸ばしたら、浴衣の奥がのぞけそうになってしまって、僕は慌てて顔をそらした。
 「水野君も、たまには勉強以外の事もしなくちゃ」
 「う……。そりゃ、璃子ちゃんから見たら勉強ばっかりに見えるかもしれないけどさ。璃子ちゃんは委員長で、勉強もできるからいいじゃないか」
 「そんなことないよ。……みんな、心配してるんだからね」
 三匹すくったところで璃子ちゃんのポイが破けて、終わりになった。
 「水野君も一回やってみようよ。ね?」
 「うん」
 お金を払って、屋台の人からポイをもらう。どこからポイを水に入れようか迷って、だけどポイを破ってしまうといけないから、慎重にすくえそうな金魚を探す。
 う~ん……。小さくて赤い金魚はすばしっこいから難しそうだな。白と赤のまだらの金魚は……、あ、逃げちゃった。危ない、破れちゃうところだった。
 「あ、マスター、あの金魚はどうですか?」
 クレアが見つけた金魚は黒い色で、他の金魚より太くて目が飛び出ている。のろのろ泳いでいるから、上手くやればすくえるかもしれない。
 「出目金? 水野君、ちょっと大きすぎるよ。別の金魚の方が……」
 璃子ちゃんはそう言うけど、ここまできたらやってやる。そっと、そうっとポイを水につける。
 璃子ちゃんの視線と後ろを通り過ぎていく人の視線が僕に当たる。金魚すくいって、意外と緊張するなあ……。
 左手でお椀を持って、金魚の下までポイを持って行って……、ええい!
 「うわああ!?」
 「ひゃっ!」
 右手を思い切り振り上げたら、びちゃびちゃっと水が跳ねて、僕と璃子ちゃんに降りかかった。でも、今のは手応えがあったぞ!
 「すくえたよ、璃子ちゃん! ……って、あれ?」
 宙に伸ばした僕の右手には穴の空いたポイが握られていて、お椀の中には――金魚の姿が無かった。ど、どこに?
 「ちょっ……やっ! 暴れないで! ひゃん! もう、水野君ったら!」
 そうしたら璃子ちゃんの浴衣の胸元に手を入れて、奥で何かがぴちゃぴちゃ動き回っている音が聞こえて……。まさか――。
 「う、うわあああっ! ご、ごめん璃子ちゃん!」
 「あーん、水野君のエッチーっ!」



※※※



 御輿の準備が終わってから、境内を神社の本殿の方に向かって歩いていると、雅が一軒の屋台に目をとめた。
 「あ、輝、あれやりたい」
 雅が指さしたのはチョコバナナの屋台で、一本買うたびにサイコロを振って、ぞろ目が出るたびにおまけでもう一本もらえるといったものだった。神姫を連れた中学生くらいの子供が数人挑戦しているが、当たっていないようだ。
 「ああ、かまわねえ……」と言いかけたところで、屋台の兄ちゃんと目が合った。
 「げっ! 『屋台潰し』の……!」
 ああ、完全に『目え付けられてる』よこいつ。だが雅は気にしていない。
 「一本くれる?」
 そう言いながら右手を差し出す。くれる? って、金を払うのは俺なんだぞバカ。
 「あ、ああ! いいぜ。いやー、それにしても今日は客が多くて……」
 兄ちゃんにそう話しかけられながらも、俺はその兄ちゃんが左手でお椀の中のサイコロを気付かれないようにスッと入れ替えたのを見逃さなかった。顔に完全に『へへっ、正月は散々泣かされたが、この細工をしたサイコロの前じゃそうはいくか』と在り在りと書かれているのが見え見えだ。雅だってそれに気付いていないわけじゃないだろう。
 「……へえ、じゃあいいわ」
 妖しく目を光らせた雅は俺の手元から財布を奪い取ると、中の千円札を二枚投げた。おいコラ、俺の金。
 「これ払うから、賭けをしましょ?」





※※※



 「ごめん璃子ちゃん、わざとじゃないから」
 「い、いいよ別に。もう気にしてないし」
 金魚すくいが終わってから、ずっとぎこちない雰囲気だった。会話が途切れた状態で並んで歩いていると、凄く気まずい。
 「あー、ケッサクだったな。これからケンゴは変態だ、って学校中の笑いものだぜ」
 「だからわざとじゃないって言ってるじゃないか!」ガブまで僕をからかう。どうしたらいいんだろう。
 良い考えが思いつかないまま、神社の奥まで歩いて行く。すると、途中の屋台の前に人だかりが出来ていて、

 「……ちくしょう!……んで……」
 「……い。……本ね」

 なんだか、聞き覚えのある声がしたけど。
 「なんの騒ぎかな?」
 「行ってみよう」


※※※


 「……ちくしょう!なんで……」
 「はい、もう一本ね」
 いい加減に飽きたなあ、と俺は心底思った。
 「お願いします! もう止めてくださぁい!」
 「自分からイカサマ仕掛けといてよく言うわ。さっさともう一本出す」
 さっきから雅は全勝だった。無理も無い。こいつは電子頭脳ならではの計算力と、じじい譲りの器用さでゲームには滅法強いからな。
 チョコバナナが貯まりすぎたし、もう全部周りにあげちゃってから雅をひっぺがして帰ろうかとも思ったが、その時、雅の活躍に沸いている人混みから健五と璃子が出てきた。
 「あ、戸川君達……と輝さん? どうしたの?」
 「ああ、水野か。この神姫すごいんだぜ。一回も……」
 その少年が続きを言おうとした時だった。

 「おぉーう、どうしたのよう」
 神社の本殿の方向から、はっぴを着た、二メートルはあろうかという大男がやって来た。
 「うわああっ!?」健五が腰を抜かす。
 「お、梶助さん」この真っ黒い肌のマッチョマンは、テキ屋の梶助さんだ。
 「がっはっは、楽しんでくれてるみてえだなァ、輝ちゃんよぅ。で、こいつァいってぇなんだ?」
 俺の背中をぶっとい腕でばしばし叩きながら、梶助さんが豪快に笑う。
 「いやね梶助さん、こいつまた勝ちまくっちゃって。もう止めさせますよ」
 雅の頭を人差し指でこづき回しながら言うと、梶助さんはぎろっと屋台のあんちゃんを見てから、サイコロを指でつまんだ。
 「あ、アニキ……いや、その」
 「がっはっは、お前も運が悪かったなァ。雅ちゃんの前でイカサマ仕掛けたのが運の尽きだ」
 「す、すいやせんアニキ」
 「……だがまあ輝ちゃんよう、ここはもう勘弁しちゃくれねえか。買いすぎだぜ」
 「はあ、俺もそのつもりっすから」
 「ありがとうよぅ。じゃあ、祭り楽しんでくれよな。今度また呑みに行くからよ、マスターにもよろしく伝えてくれやァ」
 首の後ろをタオルで擦りながら行ってしまった梶助さんを見送りながら、どうして俺の知り合いは変な人間が多いんだろうと考える。
 「あ、輝さん、今の人誰?」
 「テキ屋の梶助さん」
 「……とりあえず、恐そうな人だっていうのは分かった」
 健五の言葉はあながち間違っていない。と、丁度携帯の時計を見ると、もう八時近くなっていた。そろそろ、前夜祭はお開きだろう。こいつのせいでなんにも出来なかった。
 「で、健五、この後はどうするんだ?」
 「え、うん、今日は父さんも母さんもいないから、何もすることないけど」
 「はっは~ん。じゃあ、今すぐ風呂の用意してこい」
 「え!?」
 「お前に参加してもらうモンがある」



※※※



 一時間後、もう一度健五を食堂の前に呼んで、今度は神社とは別の方向へ向かう。
 「何をするの?」
 「行ってみてのお楽しみだ。ほら、着いたぞ」
 商店街の奥、隣町との境目あたりにある、松ノ湯だ。至って普通の銭湯に見えるが、もうもうと煙を吐き出す煙突が立つこの場所で、天下分け目の決戦が……。
 「ふ、ふっふっふ」
 「……輝さん?」
 銭湯の入り口で下駄箱に靴を入れてから、番台で料金を払う。テレビやマッサージ椅子が置かれている近くには商店街の知り合いが多く集まっていて、その中にめぐみさんと璃子がいた。
 「ありゃ、めぐみさんも風呂ッスか」
 「ん。お父さんもお母さんも入るって言うから、ついでにね」
 「璃子ちゃんは?」
 「めぐみさんと会ったから、ちょっとお話しようかなって」
 「知り合いだったの?」
 「時々お母さんとお買い物に行くの。水野君はどうしてここに?」
 「輝さんに呼ばれたから」
 健五がそう言うと、めぐみさんはしかめっ面をした。
 「輝、またお父さんとあれやるの? 健五君が怪我したらどうするのさ」
 「ええっ!? 痛いのは嫌だよ」
 「大丈夫だって。手加減してもらえるさ」
 それでもぶつぶつ言っている健五を脱衣所に連れて行く。神姫達はやはりというか女の子なので休憩所に置いていこう。


※※※


 脱衣所で服を脱ぐ。とこれだけ聞くとおかしいかもしれないが、裸のつきあいは男にとって大事なことなのである。別にいやらしいとかそういうのはナシにして頂きたい。第一、男なら壁の向こう側に広がっているであろう、女性陣の艶姿を想像する方が……ごほん。いや、これまでにしておこう。うん。
 「あれ!?」
 Tシャツを脱いでいたら、健五が俺の肩を見て目をまん丸くした。
 「輝さん……、その傷、なに?」
 「ああ、こいつか」
 そういえば伝えていなかったな。

 俺の右腕には、前腕から二の腕にかけて大きな一文字の傷が入っている。

 「ま、風呂ん中で話してやるよ」




 「ふーっ」
 「はーっ」
 浴室には数人客がいて、俺と健五は体を流してから一番左の浴槽に入る。他の銭湯にも良くあるであろう富士山の絵を背中に、さっきの話の続きをしてやる。
 「で、こいつの話だったな」
 「え、うん」
 「こいつはな、まあ、俺が荒れてた時の怪我だ」
 「怪我?」
 「おう。こいつのせいでいろいろ苦労もしたが……誰かに支えられてるってのは、すげえ貴重で有りがてえことなんだ、っつーことを分からせてくれたモンでもある」
 しばし沈黙。シャワーの音が響く。俺はそれとなく話題を変える。
 「この町はどうだ?」
 「……いいところだよ。みんな凄く優しいし……今まで、こんな町行った事無かった」
 「そうか。そいつは嬉しいな」
 湯に肩まで浸かると気持ちが良い。
 「この町はな、じじいが好きだった町なんだそうだ」
 「おじいさんが?」
 「ああ。……酒好きで遊び好き、けど揉め事悩み事がありゃ真っ先にすっ飛んで行って解決する。そんなじじいを、町の人達も好いてたんだと」
 そんな温かい場所なのだ、ここは。そう考えた俺は、両手を頭の後ろで組んで、健五の方を向く。
 「ここはどんな奴だって受け入れてくれる。さっきの梶助さんみてえな人も、雅やメリーみてえな神姫も、俺みてえに他所から来た奴もな。前にお前の友達から心配されてたけどよ、お前も……、もうこの桐皮町の一員だ。寂しい顔すんなよ」
 「……うん」
 そこまで話したところで、丁度俺たちの正面から、雅彦さんと電器屋の町田さんが戸を開けて入ってきた。
 「おう、輝ちゃん。後であれやるぞぅ」
 「OKッスよ。あ、今年はこいつも参加しますんで」
 「おうおう。よろしく頼むぜ、ボウズ」
 わしゃわしゃと健五の頭をでかい手で掴みながら、雅彦さんが笑った。
 「で、お前さんはどっちに入るんだい?」
 「え? どっちって……」
 「ああ、そうか。……健五、お前はコーヒーとフルーツ、どっちが好きだ?」




※※※



 輝さんの話によれば、決戦というのはコーヒー牛乳党とフルーツ牛乳党に分かれて、参加費百円を払って『試合』を行って、勝てば相手チームに好きな方の牛乳をおごってもらえるというものだった。
 お風呂から上がって服を着るまで、輝さん達はとても上機嫌そうに見えた。けどとても暑そうで、なのに扇風機の傍に行ったりする事は無かった。どうしてか聞いてみたら、『お楽しみが無くなっちまうだろうが』と言われた。
 輝さん達に続いてさっきの休憩所の所に戻ると、璃子ちゃんとめぐみさんも戻ってきていた。
 めぐみさんは僕と顔を合わせるなり、タオルで頭を拭きながら、
 「おっ、璃子ちゃんから話聞いたよ。健五君さあ、こんな可愛い子が気にしてるのにそりゃ無いんじゃないの?」
 璃子ちゃんはもじもじしている。気にしてるって……、あっ、そうか、きっと金魚のことだ。謝らなくちゃ。
 「ごめんなさい、璃子ちゃん。金魚のことは僕も反省してるから……」
 「違うっ!!」
 「ええ!?」
 なぜか璃子ちゃんは顔を真っ赤にして横を向いてしまった。めぐみさんも苦笑いしている。うう、なんだっていうんだよ。
 「おし健五、準備出来たからこっち来い」
 「……輝、あんたって空気読めないね」
 「何で!?」
 「おーい輝ちゃん、固まってないでさっさと始めるぞぅ」
 口をぱくぱくさせている輝さんを町田さんが引っ張って行く。僕もその後について、小さなテーブルの前まで歩いた。


 テーブルには五人の人が座っていた。さっきの雅彦さんと町田さん、それから輝さんと、知らない人が二人。片方の人は輝さんとあまり変わらない歳に見える。
 「じゃあボウズ、どっちにするか決めたか?」
 「あ、あの、僕普通の牛乳が……」
 「「普通の牛乳だぁぁ~!?」」
 「ひいっ! こ、コーヒー牛乳でお願いします!」
 参加する人全員が僕を睨む。そんなに重要な事なんだろうか。
 コーヒー牛乳党の方に座ったら、隣にいた輝さんは下を向いてぶつぶつ何かをくり返し言っていた。
 「ふ、ふへへ……。空気が読めねえ……、空気が読めねえってか……」
 「輝さん?」
 「そうかよ……。なら、空気を読まずに暴れまくってやるぜえええええ!」
 「おお、よく分からんがその意気だ!輝ちゃん」
 輝さんの隣にいた知らないおじさんが笑う。目の前には、黄色いヘルメットとおもちゃのハンマーがあった。何に使うんだろう?
 そうやって疑問に思っていたら、輝さんの隣のおじさんと、町田さんが一歩前に出た。
 「じゃあ始めるかい。こっちの先鋒は健太郎君で、次鋒はわし、大将はいつも通りマサちん。で、そっちの大将は輝ちゃんでいいのかい?」
 「いや、先鋒香山さん、次鋒俺、大将は健五で行くぜ」
 「ええ!? 僕!?」
 「おお!? いいのか輝、初心者を大将にしちまってよ」
 「いんや、勝算はあるぜ」
 「ではコーヒー牛乳党より先鋒、自転車のカヤマから香山岳人!」
 「フルーツ牛乳党、ポピーフラワーの大石健太郎、行きます!」
 高らかに宣言した二人の人は、お互い静かににらみ合う。その場にいた人達も静かになって、僕もそれにならってじっとする。
 やがておじさん達はゆっくりと右手を出して――





 「「叩いてかぶってジャンケンポン!!」」





 ――いきなりものすごい顔でじゃんけんを始めた。
 「くらえ!」
 「なんの!」
 勝った大石さんがハンマーを振り上げて、それを香山さんがヘルメットで受ける。
 「「叩いてかぶってジャンケンポン!!」」
 「もらった!」
 「ぐわあああ!」
 二度目には香山さんが勝った。大石さんはヘルメットをかぶるのが遅れて、ハンマーで頭を叩かれた。
 「おし! やったぜ香山さん!」
 「……健太郎君がやられたか」
 「ふん、だが健太郎は我らフルーツ牛乳党の中でも最弱……」
 唇の端をつり上げて雅彦さんが不敵に笑う。
 「あ、あの、これって……」
 「見ての通り、叩いてかぶってジャンケンポン大会だ」
 「気にしないで健五君。うちの商店街の人って子供みたいな人ばっかりなんだから」
 輝さんに質問したら、めぐみさんは横から呆れた顔でそう言った。
 「なに言ってやがるめぐみ。こいつぁ男と男が親睦を深める真剣勝負なんでぃ」
 「はいはい。お母さんにまたお酒減らされないようにね」
 雅彦さんは一瞬「うっ」と眉毛を上げたけど、輝さんが前に進んだのを見て顔を引き締めた。
 「じゃあ次は俺だな」
 「ほっほっほ。去年わしに負けた時の恐怖を思い出させてやるか」
 「そうはいくかよ」
 町田さんと輝さんが一歩前に出て、にらみ合う。
 「コーヒー牛乳党次鋒、明石食堂より島津輝!」
 「フルーツ牛乳党次鋒、町田電器店より町田一郎!」
 ふーっと短く息を吐いた後、二人そろって右手を差し出した。


 「「叩いてかぶってジャンケンポン!!」」


 ――それはコンマ数秒の差だった。
 「勝った!」
 輝さんは町田さんが勝ったのを見ると、すぐにヘルメットを頭の上まで持って行こうとした。けど、
 「甘いわ!」町田さんの手はそれより速かった。なんとハンマーを振り上げるんじゃなくて、握ったそれをまっすぐ輝さんの頭めがけて突き出したんだ。
 「ぐわあああぁ!」
 「はっはっは、最高にハイ! ってやつだな」
 脳天をハンマーで突き上げられた輝さんは、苦しそうに床の上に仰向けの状態で倒れた。
 「あ……アキラさん! アキラさーんっ!」メリーが座っていたマッサージ椅子から飛び降りて、駆け寄ってきた。
 「アキラさん……? いやっ……嫌です……返事をして!お願いですから、アキラさぁぁーん!」
 「うわぁ~ん、輝さんが~」
 「一生そこで転がってなさいクソハゲ」
 泣いているメリーやクレアとは違って、めぐみさんと一緒にいた雅は冷め切っていた。
 「……健五さん! 必ずアキラさんの仇をとって下さい!」
 「え、う、うん」
 町田さんが一歩下がって、雅彦さんが前に出る。向かい合うと、体が大きいからかものすごい威圧感だ。
 「がっはっは! 初心者のボウズを大将にするたぁ、俺もなめられたもんだぜ。さ、所属する店の名前を宣言しな、ボウズ」
 「は、はい」
 明石食堂でいいのかな、と思っていたら、倒れていた輝さんが起き上がった。
 「ま……、待ちな、健五。お前に渡すモンがある」
 「アキラさん!? 動かないで下さい」
 メリーが止めるのも聞かずに、アキラさんはズボンのポケットからしわくちゃの布を取り出した。と言うか、このノリってまだ続いてたんだな。
 「こいつを着て戦うんだ」
 「え、これ?」
 赤いしわしわのそれは、広げるとエプロンになった。前についたポケットにはウサギのワッペンが貼ってある。着たら、みんなが「おおっ」と声を漏らした。
 「健五君、似合うね~!」
 「女の子みたい……」
 「ええっ!?」めぐみさんと璃子ちゃんにそう言われた。そ、そんな風に見えるのかな。
 反対に、町田さんと雅彦さんの表情が引きつった。
 「な、まさかそれは『得風論』か!? 輝ちゃん、これを狙っていたのか!」
 「ちくしょう、女なら殴れねえってか!」
 「ひゃっひゃっひゃ! どんな手を使ってでも勝つ、それがコーヒー党のやり方だぁ!」
 「あの、えぷなんとかって?」
 「うむ、『得風論(えぷうろん)――かつて中国は三国時代に発明されたと言われるこの戦術は、体に巻き付けた布から発せられる独特の芳香と相手をいたわるような動きによって、まるで涼やかな風を感じているかのような錯覚を敵に起こさせ戦意を奪うという恐ろしいものであった。魏に仕えていた『明戸蝶』という女将軍はこれに長けていたとされ、数百人の女官を用いた部隊とこの『得風論』により蜀の軍勢を長きにわたって苦しめた。現在でも女使用人の長を『メイド長』と言うが、それがこの将軍の名前に由来することはあまり――」
 「長いよ町田さん! ……ごめんね健五君、うちの商店街の人って漫画大好きだからさ、おかしなこと言うのよね。ま、気にしないで付き合ったげて」
 「はあ……」
 「へっ、だがこの程度で俺は揺るがねえぜ……。さあ、宣言しなボウズ!」
 「は、はい! 明石食堂の、水野健五です!」
 「魚のおいかわの及川雅彦! 始めるぜ!」



 じゃんけんをしながら、僕は思った。
 今まで沢山引っ越しをしてきたけど、こんな風にみんなが仲良くて、一緒に笑う事が出来る町は初めてだった。
 なんだか――とっても胸の下辺りがくすぐったいような感じで、だけど嫌じゃ無い。
 「おおっ!? あいこばっかりかボウズ!」
 「お父さん、手加減してあげてよ」
 「守ってばっかじゃ勝てねえぞ健五!」
 輝さんの言ったとおり、ここはとても温かい所なんだ。
 「あっ、手が滑った!」
 「今だ健五、叩け!」
 初めて――、そう、初めて、楽しいお祭りだと思った。
 「がああ! ちくしょう!」
 「やったぜ! これでコーヒー牛乳おごりだな!」
 「おーし、みんな写真撮ろうよ写真!」
 カメラに向かってピースする輝さんの隣で、僕はそう考えた――。





~次回予告~
「こんにちは」
「キャンディ☆だよ!」
ある日食堂にやって来たのは、アイドルとして活動する少女、カズハ。
どこか寂しそうな彼女と、健五は心を通わせるが――。
次回、 第十六話 ファンシーズのオーナー


「ありがとう、水野君」

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