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六話 『裏の始まり』



「ごめん、日曜日は用事があるの。だから神姫センターは三人で行ってきて、ね」
「ありゃ、そうなん」
 なんてすっとぼけてみるも、心の中の私は小躍りしていた。
 背比一人を誘う度胸が無いから昨日のバトルお誘いのメールを傘姫と貞方にも送ったわけであって、恋敵である傘姫が抜けてくれるのは大歓迎だった。同時に友達失格な竹櫛鉄子でもあった。
 緩む顔を隠すため、鞄を覗き込んで中を無意味に漁ってごまかした。
 講義はあと1分で始まる。微かにタバコの臭いを漂わせた貞方が私達の前に座った。背比はまだ来ない。
「お早う(挨拶;傘姫)」
「んぃー(挨拶;私)」
「おぅ(挨拶;貞方)。竹櫛さん、昨日のメールのことだけど」
「うん。なんとなくみんなでバトルせんかなって思ったんやけど、日曜日空いとる?」
「日曜は、ちょっと忙しいんだけど……いや、その」
 忙しいなら忙しいとハッキリ言ってくれればいい。むしろ忙しくなくても忙しいと言ってくれて構わないんだけど、貞方の言い方は妙に歯切れが悪かった。話している私と目を合わせようとせず、ボロい椅子の木目が気になるのか、指で線に沿ってなぞっている。
「竹櫛さんてさ、ネットとか見る?」
「20世紀やないんやしネットくらい見るやね。ってゆーか神姫持っといてネットを知らんオーナーはおらんと思うけど」
「そうなんだけどさ……いや、なんでもない。聞いてみただけなんだ」
 それだけ言って貞方は講義の用意を始めてしまった。鞄とは別に持っていたアタッシュケースを開いて、そこからハナコとメルが出てきた。ここまで堂々と神姫を人前に晒せる貞方を、私はある意味すごいと思う。
 容姿もまぁ悪くなくて性格もまぁ悪くない貞方に彼女がいない最大の原因はハナコとメルにあると思うんだけど、この三人はそれを分かっているのだろうか。
 武装神姫。超ハイテク技術が詰まった科学の結晶。私達のお父さんお母さん、それ以前の世代の人々からしてみれば鉄腕アトムやドラえもんの実現。
(10万馬力や四次元ポケットの再現はさすがに無理だけど。どうでもいいけど、初期の鉄腕アトムの記憶容量はたったの2テラバイトしかないとwikiに書いてあった。少なすぎて逆にすごい)
 けれど、神姫に興味の無い人からしてみれば単なるおしゃべり美少女フィギュアでしかないわけで、そのおしゃべり美少女フィギュアとキャッキャウフフしているような男性は有り体に言えば 『キモいオタク』 に見えてしまうのだ。
 コタマやマシロが家族の一員になっていることに何ら疑問を持っていない私ですら、公衆の面前で神姫に頬ずりするオーナーを冷めた目で見てしまうくらいだ。
 じゃあ背比とエルはどうなのかと聞かれると、もちろん「それはそれ、これはこれ」と答えざるを得ないけど。
「伝えなくて良かったんですか。言い難いならば私が――」
「いや、俺達からはやめたほうがいい、代表も動いたらしいしな。それより準備しないと。ん? メルどうした、俺の指に何か付いてるか」
「いつも思うんだけどさ。ショウくんの指って、なんていうか、逞しいよね」
「メ、メル? いきなり何を言い出すんですか。で、でも、そうですね。私はショウくんと出会って長くなりますが、あの時よりずっと逞しく感じます」
「いきなりどうした二人とも。褒めたって何も出ないぞ」
 背比というツッコミ不在で朝っぱらからこんな会話を聞かされては、鳥肌の一つも立とうというものよ。そしてこんなんだから貞方には彼女ができないのよ。貞方に彼女ができようとできまいと私には神姫の涙ほどの関係も無いけど。
「だってよ、鉄ちゃん」
 始業のチャイムに隠れるように、傘姫がヒソヒソと話しかけてきた。何が楽しいのかニヤニヤと、良く言えばいたずらっぽく、悪く言えばからかうように。
「日曜日は貞方くんも私もいなくて、弧域くんは確か暇だったはずよ。弧域くんと二人っきり、だね」
「んなっ!?」
「本当はこうなること、期待してたんじゃないの~? にっはっは~」
「べ、別に。私はただ、その、久しぶりにバトルせんかなって」
「ふっふうん? 鉄ちゃんがそう言うなら、そういうことにしとこう、かな」
 極めてタチが悪いことに、傘姫のこういうところは私の言う傘姫の悪い部分【ではない】。悪意なく人をからかうというか、傘姫の場合はわざとらしいくらい 『私、冗談でからかってます』 という雰囲気を出してくれるから、からかわれる側も悪い気を起こせないのだ。(一方的な)恋敵とはいえ、こういうところは素直にすごいと思う。私にそんな器用な真似はできないし、私の側には逆に荒波を立てるのが得意な迷惑そのものがいるからますます傘姫の技が羨ましくなってくる。
「おいおい違うだろ鉄子よォ、そこはこう返すところだぜ。『お情けで呼んでやったってのにブッチとは気が利くじゃない傘姫さんよォ(裏声)。ついでに背比の前からもブッチしちゃえば、ワタシが責任を持って預かったるよファッキン(裏声)』ってな」
 いいこと思いついた。憚ることなく私に恥をかかせようと躍起になるこのバカ神姫に、傘姫の爪垢を煎じたヂェリーを飲ませてみてはどうだろう。上手いこと二人の性格が混ざり合って案外普通以上によく出来た神姫になったりして。
 でもなあ。傘姫も可愛い顔してエロいしなあ。二人が合わさったらエロ魔人になりそうだ。
「君がヒメに対してどのような印象を持とうが勝手だがな、それはあくまで鉄子、君の中での印象であってヒメの本質ではないのだからな」
「うおっ!? テメェ意味も無くアタシの背後を取ってんじゃねぇよニーキ。アタシがもしゴルゴ13だったら今ごろオマエの顔面は男爵芋みたくなってたぜ」
「では君の顔面は冷徹な極太眉毛なのだな。良かったな、君はもう誰から見てもクールだぞ」
「セーフッ! ギリギリ間に合ったぁ~。あ? ニーキもコタマも朝から元気だな。血圧高いのか」
 全然間に合ってないし神姫に血圧なんて関係無いけど、背比が貞方の隣に滑りこんできた。
 背比の姿を見ただけでドキリとしてしまう。日曜日に背比と二人っきりで神姫センターに行くんだ。二人っきりで歩けるんだ。部活が同じだし今までもそういう場面は何度もあったけど、今回は意味合いが違う。
「お早う弧域くん。昨日の鉄ちゃんのメール見た?」
「見たぜ。俺と姫乃と貞方の三人がかり――いや、エルメルニーキハナコの四人がかりでコタマを倒すって話だろ」
「アタシの強さに嫉妬してイジメか? 最近の学校じゃ 【いじめ、かっこ悪い】 って教えねぇのか?」
「そのことだけどね、私と貞方くん、日曜日は空いてないの。だから鉄ちゃんと二人で行ってきて」
「竹さんと……ああ、用事あるなら仕方ないな」


ほんの一瞬。でも私にとっては永遠に匹敵する時間。
背比は、顔を曇らせた。


 背比は、私の思惑に感づいている。必要以上に近づこうとする私を、迷惑に思ってる。
 曇った顔に気づかなければよかった。何も知らなければ私はデート気分で神姫センターに行けたし、背比は何食わぬ顔をして私と遊んでくれるに決まっている。
 でも、気付いてしまった。気付かれてしまった。
 私は、告白なんてしなくても私の想いが伝わればいいな、と思っていた。
 それは私が、まだ楽観的だったから。
 この二週間のアタックで背比が気付いてくれればいいな、と思っていた。
 それは私が、勘違いしていたから。
 私が勇気を出さなくてもいいようにならないかな、と……安易に、思ってしまった。
 それは私が、背比なら受け入れてくれると、心のどこかで期待していたから。
 日曜日に二人っきりになれるのなら手紙を簡単に渡せると思っていたけど、じゃあ、もし私が逆の立場だったらどうする? 友情以上の好意を持って接してくる相手を迷惑に思っていて、その相手が告白してくる可能性に考えがめぐらないわけがない。
 私なら二人っきりになる前に 【断る台詞を用意する】。
 ……手紙すら、受け取ってくれない。
 血の気が引いていった。自分の意識が遠のいていくような気がして、教室の前一面のホワイトボードに先生が何かを書き込む音がやけに頭に響いた。私の前に座る背比はこちらを向いている。
「じゃあ日曜日、行くか」
 当然のように、まるで友人である私と遊びに行くのは当然だとでも言うように、背比は嘘をついてくれる。今はその優しい嘘が、辛かった。
 言葉に詰まっていると、貞方が入ってきた。
「それなんだけどさ竹櫛さん。神姫センターに行くのは全員が空いた日にしないか。なんつーかホラ、せっかく誘ってもらったんだし、揃っていくのも悪くないって思ってさ」
「あ、あり得ねぇ……貞方がいいこと言ってやがる……」
「阿呆は黙ってろ――どうだろ竹櫛さん。いや、ホラ、俺もまたコタマとバトルしたいと思ってさ」
 貞方の提案には手を合わせたいくらいだった。私を気遣ってくれたんじゃないかとすら思えてくる。
 背比のあの顔を見た後じゃ……手紙なんて、渡せない。
 貞方が言ってくれたことに安堵しかけた時、まったく予期しかなった邪魔が私の横から入った。
「みんなで行くのはいい、けど、今度の日曜日は弧域くんと鉄ちゃんで行ってきていいんじゃない? 貞方くんの言うことに返すわけじゃないけど、せっかく鉄ちゃんが誘ってくれてるんだし」
 はぁ!? と大声で吠えそうになるのを辛うじて堪えた。
 おかしい。
 あり得ない。
 意味が分からない!
 わけが分からない!
 正気の沙汰とは思えない!
 彼氏を他の女と遊びに行かせる奴がどこにいる? まさか慰謝料目当て? それとも傘姫ってNTR属性だったの?
「まぁ、そりゃそうか。来週も再来週もあるもんな」
「で、でも……!」
「そこ! 私語を慎む!」
 何か反論しなきゃ、というところで先生のねちっこい注意が飛んできた。この先生に睨まれると講義中であろうとネチネチと説教されるから、私は大人しく黙るしかなかった。背比と貞方も前を向いた。
 なにが「そりゃそうか」だ、背比のばか。自分が傘姫っていう一人の女の子の彼氏であることの意味をちゃんと分かってるんだろうか……なんて、それこそ私が言えたことじゃなかった。



 一限目の講義を終えて、結局、私と背比は二人だけで神姫センターへ行くことになった。傘姫の言ったことが【友人として】至極当然だったからだ。
「いっつも思うんだけどよ、オマエら神姫オーナーってアタシら神姫の予定とかガン無視だよな」
「へえ、コタマって予定とか立ててんだ。日曜日に何かあんのか?」
「決まってんだろ、『めだかマックス』の単行本発売日だぜ」
「……あ、ああ、そうだな。そりゃあ重要だな」
「なんだそのヒマ人を憐れむような目は」
 この日の講義が終わってバイトに行くまでの間、私だけじゃなくて背比も平生でいようと努めていた。目が合えばどちらからともなく目を逸らしてしまうこと以外、上手く振る舞えたと思う。



 一週間空けてしまったというのに物売屋の店主、八幸助さんは私を咎めようとしなかった。
 私とコタマがいない間、神姫向けの懺悔室(コタマがそんなことをやっていたことすら忘れていた)はミサキが代行していて、丁度来ていたアーンヴァルとストラーフの相手をしていた。コタマもその三人に割り込んでいったけど、そのままミサキに任せたほうが懺悔室として正しいあり方になるに決まってる。
「ミサキは実によく動いてくれてね。僕はやっぱり人間を相手に商売したいよ。心を持つ人形とはいえ神姫と人間はやっぱり違うからね」
「はあ、さいですか」
「しばらく見ないうちに随分と気が抜けてしまったなあ。炭酸の抜けたコーラとはよくいったものだよ。こうも覇気の無い看板娘じゃ好色な客も寄り付かない」
 いつもなら聞き流す八幸助さんの人を煙に巻くような弁舌が、ささくれ立った私の胸に引っかかってしまう。精一杯睨みつけたけど、ぬかに釘を打つように手応えがなかった。
「そうそう、鉄子君に一つ伝言があったんだった」
「でんごん? 伝える言葉って書いて伝言ですか?」
「それ以外の日本語は知らないなあ」
 私だって知らないけど、心当たりが皆無だったので「伝言」と言われてもピンと来なかったのだ。
 誰が? 何を? 何故?
「匿名希望君からでね、『しばらく神姫センターには近づくな』だってさ」
「……脅迫?」
「いやいや、忠告だよ。僕もただ伝言を承っただけだからね、言葉の真意は知らないけど、鉄子君のことが心配らしいのは確かだったよ」
「誰だったんですか、それ」
「だから匿名希望君だって。一応これも依頼料を貰っての伝言だからね、プライバシー保護の観点から、例えアルバイトの鉄子君相手であろうと情報を流すわけにはいかない」
「どうして神姫センターなんですか」
「さあ。『近づくな』とだけ言って帰っていったからね」
 神姫センターに何かあるんだろうか。私に都合の悪いものなんてあったっけ? いや、神姫センターに近づけないことそのものが、私にとって非常に都合が悪い。
「今度の日曜、そこに行かないかんのですけど」
「ふうむ、もしかすると鉄子君の予定を知った上での忠告なのかもしれないね」
「私の予定を知ってそうな人やったってことですか?」
「匿名希望君だよ」
「んむぅ、そこが重要やのに」
 私のことを心配してくれている、と言われたって、それが誰だか分からない以上信用できるはずもなかった。だいたい未来予知能力者でもあるまいし、神姫センターに行った私がどうなるかなんて分かりっこないはずだ。
「私のこと心配しとった風っていっても、本当にそうとは限らんのですよね? 実はその人が私を……その……」
「鉄子君をハメようとしている、という可能性も無いわけじゃないさ。日曜日はバトル大会でも開催されるのかい? コタマは強いらしいから妨害である可能性はなきにしもあらずだ。なんにせよ、行かないほうが無難だとは思うけどね」
 普通に考えるなら八幸助さんの言うとおりだった。極端な話、もし神姫センターに行って丁度火事に出くわして建物内に取り残されるとかだったら絶対に近寄りたくないけど、つまり近寄らなければ大火傷を負うことはない。
 でもこのタイミング、あたかも私が背比にラブレターを渡すのを妨害するように忠告してくるなんて――
「……そっか」
「お、心当たりでもあったかな」
 考えてみれば簡単なことだった。私の邪魔をしたがる人なんて、二人しかいない。
 背比弧域と、一ノ傘姫乃。
 そして何故だか傘姫は私と背比を神姫センターに行かせたがっていたから、候補から外せる。
 じゃあ。
 もう。
 背比しか……いないじゃない。
「あっ、鉄子君!」






 店の居間にある電話から鉄子の携帯に掛けまくって、20分くらいしてやっと繋がりやがった。あのバカどこほっつき歩いてやがる。
「おいコラ、アタシを置いてどこいってんだ! つーか今どこだ!」
「よかった、繋がったのね」
 アタシの隣でミサキが呑気に安堵してやがる。トチ狂った鉄子が時速60kmオーバーのトラックを通せんぼしてやねえか気にしてたらしい。胸くそ悪ぃこと想像させんじゃねえってんだ。
 電話の向こうからはやけに荒い息づかいだけが聞こえてきて、肝心の日本語は聞こえやしねえ。
「おい聞いてんのか鉄子! 目だけじゃなく耳まで節穴になっちまったのか!? 今どこだって聞いてんだよ!」
「どうしてあなたはそんな言い方しかできないの。貸しなさい」
 受話器をミサキにひったくられた。
「鉄子さん? ミサキです。どうしたの、どこか苦しいの? ――――本当に? 大丈夫なのね? 周りにどこか座れる場所はあるかしら――――公園? もしかしてそこ、城尊公園なの?」
 城尊公園ってこの店からけっこう離れてるぞ。どんだけ走ったんだあのバカは。八幸助が原チャリで捜索に出たのは正解だったぜ。
 つーか、アタシの主はなんでアタシじゃなく他の神姫とトーキングアバウトしてんだよ。
「いい? しばらくそこで休むのよ? ――うん? なにかしら――――そんなこと気にしてどうするのよ。あなたは物売屋の看板娘なのだから、こんなときくらい私達の世話になっておくのが筋ってものじゃないかしら」
「オイさっさと八幸助を迎えに回すぞ。アイツの携帯にかけろよ」
「八幸助さん携帯持ってないのよ」
「はぁ!? 石器人かよアイツは、使えねえ!」
 じゃあどうするよ、アタシがタクシーで城尊公園まで行くか? 神姫ってタクシー乗れんのか?
 ああもう面倒臭ぇ、鉄子のバカのせいでいつもアタシがシワ寄せ食っちまう。こりゃ帰ったらマシロにチクって説教させ……いや、ミサキの言うとおり鉄子は事故っててもおかしくなかったし、今度はマシロもマジでブチギレて鉄子をブッ殺しかねねえな。いやその前にこの店の人間を根絶やしにするか。アイツ身内以外の他人には容赦無ぇからな。鉄子失踪をマシロに黙っとこうとするなら、竹櫛家の誰かに迎えに行かせるのも駄目ってこった――って、なんでアタシがこんなこと考えなきゃいけねえんだ。アイツはいつも世話してやった恩を仇で返しやがる。だいたいアイツは大学生にもなって――
「コタマも少しは落ち着きなさい」
「ああ? アタシが慌ててるように見えんのか?」
「頭の掻きすぎで髪がボサボサよ」
 言われて気付いた。確かにアタシの手は頭にあった。
「んなこたどーでもいいんだよ。それより鉄子は何してんだ。またピーピー泣いてんのか」
「自分のマスターにそんなことを言うもんじゃありません。走ったせいで息は荒いけど落ち着いている……というより落ち込んでるわね。迂闊に聞けないけど、八幸助さんが余計な事を言ったのかしら」
「どーせ鉄子の被害妄想が爆発したんだろ。ったく面倒な主を持っちまったぜ。誰か労ってくれねえとやってらんねえよ」
「そう言う割りにコタマ、随分と心配してるみたいじゃない? 顔に書いてあるわよ」
 ムカつく顔で覗き込んでくるミサキに一発打ち込んでやろうとすると、土間から「たっだいま~」と伸びきったゴムみたいな声が聞こえてきた。忘れてた、この店には千早もいたんだった。
「あや、いらっしゃいタマちゃん。ねえミサちゃん、表に誰もいないけどヤコくんと鉄ちゃん出かけたの? わたしを置いてくなんて酷い人達よね~。鉄ちゃん可愛いからヤコくんが手を出さないか心配なんだけど、そうそう、二人にお土産があるのよ」
 アタシとミサキにヂェリー(ニボシヂェリーって誰が飲むんだ)を手渡した千早は、店員二名不在で武装神姫二体が留守を預かっていた『ざる警備』を気にも留めず、ヘタクソな鼻歌を垂れ流しながら台所へ向かった。アイツと話してると頭が痛くなる。
 八幸助の妻ってんだから奇人なのは当然として、なんで鉄子はこんなヤツをリスペクトしてやがんだ。年もほとんど変わらねえだろうに。
 いや、今はそんなことはどうでもいい。奇人だろうと変人だろうと、とにかく動ける足だったら今はなんでもいい。
「ヘイ千早ァ! ちょっとパシリ頼まれてくれよ!」
「な~に~(シュコー)?」
 ひょこっと台所から顔を出した千早はガスマスクを被っていた。誰だよコイツに人間の戸籍を与えたヤツは。エイリアン用ビザ発行しろ。
「ちょっと城尊公園までアタシの足になってくれよ」
「いいよ~(シュコー)。でも盆踊りって今日だっけ(シュコー)?」
「盆踊りは先々週終わったわよ。それとお願いだから千早さん、あまり変なものを買ってこないでね」
 ガスマスクを脱いだ千早は 「え~カワイイのに」 と言ってそれをハンガーラックにかけた。アタシと鉄子がこの店に初めて来た時からとっくに異空間になってた居間だが、今思えば昔はまだ可愛いもんだったぜ。
「公園で鉄子がグズってんだ。下手に動かれて事故られたら夢見が悪くなっちまうし、面倒臭ぇけど迎えに行かなきゃいけねえんだ」
「鉄ちゃんが!? まあ大変!」
 言いつつ、千早は同じハンガーラックに掛かっていた麦わら帽子をガスマスクにかぶせた。鳥山明の自画像か。
「ミサちゃん、まだキャベツとか冷蔵庫に入れてないから後は任せていい? オッケー? じゃあいってきます!」
「いや無理よ私の力じゃ――!」
 ミサキの返事を聞かず、千早はサンダルをつっかけて行っちまった。アタシを置いて。
「ミサキよぉ、なんで八幸助はあんなヤツと同じ墓に入る気になったんだ」
「知らないわよ、私が目を覚ましたのは最近なのだし。それと一応、あれでも私のマスターなんだからね」
「あん? 八幸助じゃなかったのか?」
「どちらでもいいと言えばいいのだけどね。あのガスマスクと一緒よ」
 カワイかったから、とかそんな理由で買われるのは神姫じゃ別に珍しいことでもないんだろうが、それが千早となると、なんつーか意味合いが違ってくるような気がした。
「オマエも苦労してんだな。つーかアイツ一人に行かせちまって鉄子は大丈夫なのかよ」
「やるべき事はちゃんとやる人だし心配しなくていいわよ。それよりもコタマ、ここ最近鉄子さんに何があったのか知らないけど、しっかりフォローしてあげるのよ」
「アタシは実はシスター型じゃなくてベビーシッター型なんじゃねえかって思えてくるぜ。修道服も無くなっちまったし、いっそ素体変えると気分転換になるかもしれねえな」
「ついでに頭部(コア)も変えてみたら? 少しは今よりマシな性格になるでしょ」
「んだとコラ」
「『コタマ』って名前に合わせて和風の神姫はどう? 鉄子さんのセンスにケチをつけるわけじゃないけど、シスター型にコタマって名前はチグハグな感じがするのよ。クリスティーナって名前の日本人みたいで」
「元々アタシはハーモニーグレイスじゃなかったからな。つっても不良品だったらしくて、一時間くらいでこの身体にCSCとデータ移植されたけどよ」
「あら、そうだったの。じゃあ元の型って――」
「ミサちゃーん! お財布忘れたぁ~!」
 ドタドタと土間のほうから慌ただしい足音が聞こえてきて、人外が早くも戻って来た。
「表の通りでタクシーに待ってもらってるのよ。今こそ 『お釣りはいりません!』 って言えるシーンだと思って一万円用意しようとしたらお財布がどこにもなかったのよ!」
「はいこれ。落とさないでね」
「ありがと! 待っててね鉄ちゃんと運ちゃんっ!」
 キモいくらいの手際の良さで財布を出したミサキに 「あ、キャベツお願いね~!」 と言い残して、千早は再び行ってしまった。アタシを連れてけと言う暇すらなかった。
「……悪い人じゃないのよ」
 何も言ってないのにミサキは苦しいフォローをした。
「いや、あのフリーダムさは鉄子にも見習わせたいぜ。ああはなってほしくねーけど。明後日はどうしたもんだろうなマジで」
「日曜日? 鉄子さんに何かあるのかしら」
「ちょっとな」
 千早レベルでボケろとは言わねえけど、今からウジウジしてたんじゃたぶん日曜はラブレター渡すどころか弧域の顔すら見れず終わりそうだぜ。どーせ今逃げ出してんのも弧域に嫌われたとかそんな妄想したんだろ。
 帰ったらまた鉄子の目ぇ覚まさせないと、あークソッ、日曜は上手くいく気がこれっぽっちもしやがらねえ。
 絶対に手紙渡すどころじゃなくなる。アタシの世界一頼りになる勘がそう告げた。











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