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キズナのキセキ

ACT1-13「ストリート・ファイト その2」




 わたしは舞う。
 ストラーフBisの攻撃を紙一重でかわし続ける。
 ミスティや虎実さんが言っていた。
 『ファントム・ステップ』をしている時、わたしはまるで、対戦相手の手を取って、ダンスをしているようだ、と。
 ほんとにそう見えているなら、ちょっと嬉しい。
 華麗に戦うことは、マスターが目指す戦闘スタイルだから。
 今のわたしも、ストラーフと踊っているように見えるだろうか。

 ストラーフBisが一歩踏み込んできた。
 あの踏み込みはさっきと同じタイミング。
 ハンマーを振り下ろした後の素早い切り返し。
 わたしは後方へと逃げる準備をする。
 今度は完全に避け切ってみせる。
 「ジレーザ・ロケットハンマー」が、後方から火を噴いて、風の唸りを巻きながら振り下ろされる。
 すさまじい加速。
 でも大丈夫、余裕でかわしてる。
 轟音を上げ、地面のアスファルトを穿つ。
 そのとき。
 乾いた音とともに。
 ハンマーの柄が半ばからへし折れた。
 ハンマー後部のブースターは噴射を続けたまま。
 まるでネズミ花火のように、高速でくるくると回転しながら迫ってくる。
 こんなのは想定外だった。

「きゃあっ!」

 十分な間合いが取れていなかったわたしは、高速回転する柄に右脚を払われ、思い切り転倒した。
 その勢いを利用して、一気に身体を転げさせる。
 回転するハンマーから逃れるために。

 わたしは埃まみれになりながら、顔を上げた。

「……しまった!」

 思わず声を上げてしまう。
 今のは完全な隙。
 ストラーフBisはわたしを捨て置いて、別の方向へと走り出していた。
 三冬さんが戦っている方ではなく。
 一直線に……マスターの方へ。



「ティア!」

 遠野は思わず物陰から飛び出してしまっていた。
 転倒したティアは絶体絶命のピンチだ。ストラーフBisが追い打ちをかければ、高い確率で破壊されてしまう。
 だが、ストラーフBisは遠野の予想とはずれた機動を示す。
 ティアには目もくれず、一直線に遠野へと肉薄した。

 いや、正確には、遠野に、ではない。
 ミスティには分かっていた。
 ストラーフの標的は自分だということが。
 ストラーフの機動は俊足。ティアが立ち上がろうとしたときにはもう、最後のジャンプを踏み切っている。
 遠野の目の前で大きく跳ねる。左の胸ポケットにいるミスティめがけて。
 右副腕「チーグル」の指を揃え、後ろに引いた。
 鋭い悪魔の爪がミスティの瞳に映る。
 抜き手だ。
 初代ミスティの得意技。
 今のミスティに、あれをかわす術は、ない。
 ミスティが覚悟を決めるより早く、何かが、ミスティの視界を遮った。

「……え?」

 刹那、視界が朱に染まる。
 突如目の前にぶちまけられた、深い赤色をした粘液。
 死を呼ぶ悪魔の抜き手が、ミスティの鼻先で止まった。

「ぐうっ……!」

 ミスティの頭上からうめき声が垂れる。
 ストラーフの副腕が突き破った目の前の壁から、だらだらと赤い液体がこぼれている。
 それはミスティの背にいる人のもの。
 つまり。
 遠野貴樹の鮮血だと理解して。
 あまりのショックに、ミスティの意識は自動的に切断された。



 間に合った。
 あまりのスピードに、とっさの反応が間に合うかどうか焦ったが、なんとかミスティへの攻撃を防ぐことができた。
 俺は逆手に構えた左手で、ストラーフBisの突進を止めた。
 だが、繰り出された抜き手の鋭さを身を持って経験することになった。
 抜き手は俺の左手のひらを貫いていた。
 ほっとする暇も与えず、左手から激痛がかけ上ってくる。

「ぐううっ……」

 まだ動こうとするストラーフBisの身体を、右手で掴む。
 一瞬、不安と恐怖がよぎりそうになったが、俺はわざと深く考えるのをやめた。
 そして、一気に左手から、奴の副腕を引き抜いた。

「……おおおおっ!!」

 吠えなければ、意識が飛びそうになる。
 左腕ごと引っこ抜かれるのではないかという激痛が走る。
 視界の端で、赤い液体がぼたぼたとこぼれているようだったが、これもあえて無視した。
 先にやるべき事がある。

「マ……マスター……ッ!?」

 ティアの悲痛な声。
 俺は彼女に視線を向ける。ティアの見た目にダメージは見られない。
 よし、走れそうだな。
 この寒さだというのに、俺のこめかみあたりから、一本、二本と汗の筋が流れ出した。
 知るか。
 今自分の身体にかまけている暇はない。
 俺は、右手を高く掲げると、次の瞬間、手にしたものを力任せに地面に叩きつけた。
 そう、相手の神姫、ストラーフBisを。

「……ミスティッ!?」

 菜々子さんがものすごい形相で駆け寄ってくる。
 俺も彼女の前に立ちはだかるべく走り出す。

「ティア! ストラーフにとどめを刺せ!」
「……はい!」

 指示と返事。
 俺とティアはすれ違う。
 ティアはコンバットナイフを構え、ストラーフに向けて走る。
 俺は菜々子さんの進路上に走り出ると、そのままぶつかるような勢いで受け止めた。
 左腕は動かない。だらりと下に垂れたまま、俺の身体から血と力の源を垂れ流している。
 だから、右腕一本で、彼女の細い身体を抱きとめなければならなかった。
 同時に背後から、小さな何かを断ち割る音。

「ミスティーーーーッ!!」

 菜々子さんが俺の腕の中で、暴れもがく。
 一体なんだっていうんだ。
 なんであれをミスティだと思っている?
 そう思いながら菜々子さんを見て、俺はふと気がついた。
 菜々子さんがいつもはしていない、小型のワイヤレスヘッドセット。
 それが今、俺の目の前にある。
 俺は暴れる菜々子さんを押さえつつ、なんとか右手でヘッドセットをつまみ上げる。
 何を聞いているんだ。
 それをそっと自分の耳に近づけた。
 ……何か念仏のような声が間断なく流れている。少し聞いただけなのに、ひどく不快な気分になった。
 なんだこれは。
 俺はすぐに耳からヘッドセットを離す。
 そして、彼女を呼ぶ。

「菜々子さん!」

 すると、彼女は動きを止めた。

「……たかき、くん……?」

 その呼び方が、正常な菜々子さんの意識であることの証だ。
 俺はすぐさま叫ぶ。

「よく見ろ! あれが君のミスティか!?」
「……え?」

 今気がついたかのように。
 自分の神姫……ストラーフBisを見る。
 うつ伏せに倒れたストラーフの上に、ティアが乗っている。
 彼女のナイフは、首の根本あたりから深々とストラーフに突き刺さっていた。
 もう動かない、ストラーフBisには……

 顔がなかった。

「い……いやあああああぁぁぁっ!!」

 菜々子さんには、まともなストラーフの顔に見えていたのだろうか。
 だが、俺たちには、最初から、ネイキッドののっぺらぼうに、カメラのような無機質な赤い眼が二つ飛び出ているだけに見えていた。
 だから、あの優しいティアでも躊躇なくとどめが刺せるのだ。
 明らかに神姫ではないから。

 恐慌に陥った菜々子さんを抱きしめつつ、俺は次の手を考えようとする。
 ティアをこのまま、三冬と合流させるか、それとも……。

「あぶないっ!!」

 とっさに叫んでくれたのは、頼子さんか、それとも三冬か。
 俺はその声の主を認識するより早く、菜々子さんの身体ごと自分の身体をひるがえし、声の方に背を向けていた。

 次の瞬間。

 痛みを越えた衝撃が、俺の背中を襲った。



 ……マスターの背中が、はぜた。
 自分で思った言葉なのに意味を正しく理解できない。
 何が起きたのか、わからなかった。
 マスターの身体がのけぞる。
 そして、菜々子さんを抱き抱えたまま、膝を着く。
 なにが、おきたの。
 そのとき、

「……チッ」

 わたしの耳に小さな舌打ちが聞こえた。
 そっちの方に視線を向ける。
 ゆっくりと。
 わたしの視線の先にいたのは……黒い神姫。
 マグダレーナ。
 見れば、その隣にいる異形のサブマシンの頭頂部、二つあったはずの尖った先端がなくなって、白煙を上げている。
 細い紐のような白煙は、サブマシンから伸びて、マスターの背中までつながっていた。
 マイクロミサイルの噴射煙。
 マスターに向けて、撃った。

 刹那、わたしの心を激しい風が吹き抜けた。
 わたしのすべての感情をなぎ払い、嵐となって荒れ狂う。
 それは初めての感情。
 激しい、怒り。
 わたしは激情に駆り立てられるまま、叫ぶ。

「うあああああああぁぁぁっ!!」

 ほとばしる叫びを止められない。止めようもない。
 許さない。
 マスターを傷つけた。
 わたしの一番大事な人を傷つけた。
 わたしの命よりも大切な人を傷つけた。
 その罪を償わせる。
 今ここで!

 身体を高速スピンさせ、脚部に貯めた電流の開放を準備をする。
 ぐるぐると回る景色の中、わたしはあの黒い神姫だけをはっきりと捉えていた。
 右脚を振り上げる。
 最凶の神姫だろうと関係ない。
 マスターと二人で編み出したこの技は。
 何があろうとかわせない!

「ライトニング・アクセルッッ!!」

 唸りを上げるホイール。
 神速で右脚を振り上げる。
 瞬間、わたしは、見た。
 青白い稲妻をまとうホイールの付け根、装備されたレッグパーツの足首が、砕けてゆく。
 ……あのとき。
 ストラーフのロケットハンマーの一撃に、乗って避けたとき。
 そして、回転するロケットハンマーの柄に転ばされたとき。
 右足首はダメージを受けていた。
 そして激しい技に耐えられず、今まさに崩れようとしている。
 だめ。
 最後まで持って……せめて技を出し切って!
 わたしは、砕けゆく足首を無視し、強引に右脚を振り抜いた。
 右足首から感触が消える。
 強引な振り抜きにバランスを崩す。
 砕けた右足首では回転の制御も着地もできない。
 わたしは無様に地面を転がった。
 でも、かまわない。
 どんなに無様な姿をさらしても。
 あの神姫を破壊できるなら!

 はたして、ライトニング・アクセルは、出た。
 三日月の稲妻が、マグダレーナに向かって飛翔する。
 それは時間にして一瞬のこと。
 三日月の稲妻は一瞬にして宙を翔け、マグダレーナに襲いかからんとする。
 そのとき。
 マグダレーナのスカート状のアーマーが展開された。
 アスファルトに積もった砂埃が、スカートアーマーが吹き出す何かで舞い上がり、マグダレーナを中心に円を描きだした。
 さらにマグダレーナは、手にした長柄の燭台を、地面に突き立てた。
 どういうつもりか知らないけれど。
 ライトニング・アクセルは決して破れない!



 ライトニング・アクセルは二段構えの技である。
 目に見えて目立つ、三日月の稲妻が本体に見えるが、それは二段目。
 超高速で振るわれた爪先が生み出す空気の断裂が一段目なのだ。
 先行する空気の断裂は不可視で、稲妻より早く目標に到達する。だから、稲妻にタイミングを合わせていては間に合わない。
 また、空気の断裂は物理破壊で神姫に傷を与える。その直後、電撃が襲う。電撃はその傷から神姫内部に入り込み、感電させる。
 その二段構えの攻撃が、かわす間もないほどの速度で飛んでくるのだ。
 知らなければ防ぎようがない。知っていても防ぐのは困難だ。
 まさしく必殺技である。

 ライトニング・アクセルがマグダレーナを取り巻く円の線を越えようとした。
 瞬間、マグダレーナの姿が歪む。
 乾いた音を立て、楕円の波紋のように、歪みが四散し、波紋が周囲に広がって、消えた。
 不可視の刃はかき消されていた。
 しかし、追従する二段目が襲いかかる。
 青白い三日月の稲妻は、その空気の歪みの中心を直撃し、貫いた。
 円の結界を通り抜け、マグダレーナに向けて雷光が走る。
 が。
 マグダレーナの本体に届く前。
 稲妻は、その手前に立っていた長柄の燭台を直撃、燭台に沿って進路を曲げ、地面に吸収された。
 高圧電流を食らった燭台は黒こげになって、煙を上げる。
 しかし、マグダレーナ本体は、舌打ちしたときと同じ表情のまま、ティアを見据えて立っていた。

「……うそ……」

 必殺の技だった。
 この技で、忌まわしい因縁を断ち切った。
 『塔の騎士』でさえ、受け止められなかった。
 その技を無傷のまま破られた。
 大切なレッグパーツを片方犠牲にしても放った渾身の技を。

「うそ……うそよーーーーーーっ!!」

 ティアの絶叫が、寒々しい倉庫街にこだました。



 ティアの絶叫が未だ尾を引く中、マグダレーナは無惨に焼け焦げた燭台に手を伸ばす。

「よもや我が武装を一つ犠牲にせねば止められぬとは……な」

 その指先が、柄に触れようとした刹那、影が差した。
 たったそれだけの変化に、身体をのけぞらせ、伸ばした腕を畳んで上半身を防御したのは、数多の修羅場をくぐり抜けてきたマグダレーナこそである。
 防御は間に合った。
 空中から落ちてきた神姫が、広げた両手を落下の勢いとともにぶつけてきたのだ。
 さすがのマグダレーナも、この一撃は予想外だった。
 よもや飛行タイプでない神姫に、このタイミングで頭上を狙われるとは。
 マグダレーナの防御した腕にヒットし、数歩後ろにたたらを踏む。
 空からダイブしてきたのは三冬だった。
 マグダレーナは今の技の名を検索する。
 『フライング・バルセロナ・アタック』。これもまた、往年の格闘ゲームの必殺技である。
 三冬は、落下の勢いを一挙動で消し去り、膝を着いた姿勢で構えた。

「間合いだぞ、『狂乱の聖女』!」

 目の前に立っていた黒こげの燭台を左の手刀で叩き折る。
 膝を伸ばし、瞬発力を爆発させて、間合いを詰めた。
 誤解されがちであるが、太極拳は健康体操ではなく、立派な中国武術である。
 ゆったりとした円の動きによる防御動作だけが太極拳ではない。
 攻め手はちゃんとある。
 三冬は攻めに出た。
 するり、と動いて間合いを縮め、手刀を下から切り上げるように繰り出した。
 右から左へ、連続の手刀。
 右手はかわされ、さらに伸びた左手は捌かれる。
 と、思った瞬間、マグダレーナが左腕に両腕を絡めてきた。
 円の動きを意外なほどに強いマグダレーナの素体の腕力で止められる。
 マグダレーナのスカートが展開した。
 三冬は左手を抜こうとしたが、マグダレーナにがっちりとホールドされてしまい、できない。
 次の瞬間には、なんらかの攻撃が来る。
 おそらくは「ブルーライン」の機動力と瞬発力を生かした、投げ技のたぐいだろう。
 だが、動き出すのは三冬の方が刹那早かった。

「間合いだと言っただろう!」

 三冬は吠えると、半歩マグダレーナに踏み込んだ。
 身を屈め、腰を落とし、右拳も腰のあたりに付けている。
 身体を捻り込みつつ、足が地面を強く踏み込んだ。
 同時に、一気にタメを解放し、かがんだ状態からほとんど垂直に、拳を一気に天高く突き上げる!

「昇龍拳!!」

 格闘ゲーム史上に燦然と輝く必殺技の金字塔。
 固定されていた左腕を省みずに放った必殺技。その代償にマグダレーナに決められていた左肘が砕け散る。
 だが、右拳はマグダレーナの胴体を深々と捉えていた。
 三冬は天を昇る龍になる。拳は天を突く。
 マグダレーナに拳を埋め込んだまま、勢いのまま空中に躍り出る……はずだった。

「な、ん……だと……!?」

 空中へと駈け上ろうとした三冬の拳は、ショートジャンプした程度の空中で停止していた。
 三冬の背部スラスターは噴射を続けている。
 しかし、上からのしかかる推力が、三冬の昇竜拳と拮抗していた。
 その上からの推力の正体。
 三冬は見た。
 まるで黒蝶が羽を広げたかのように。
 マグダレーナのスカートアーマーが開き、下向きの推力を生み出している。
 三冬の拳はマグダレーナにクリーンヒットしている。
 拳は「獣牙爆熱拳」で燃えさかっており、接している部分のペイントが燃えて素体の地が露出している。
 だが、それだけだった。
 マグダレーナは、三冬の灼熱の拳を受け止めていたのだ。

「……まさか自分の腕を犠牲にするとは……読めなかったぞ」

 未だ落ち着きを払ったしわがれ声に、三冬は戦慄する。
 ありえない。
 ファースト・リーグの強豪を数多く倒してきた技だ。一撃食らえば、深刻なダメージを与え、勝敗が決するほどの威力だ。装甲を身に固めた神姫とて例外ではない。
 そのはずなのに。
 なぜマグダレーナは拳の上で動き続けられる!?

「この痛み、久しぶりだよ、三冬…………貴様は楽には殺さん」

 言うが早いか、マグダレーナは燃えさかる拳を両手で掴む。ダメージなど気にもとめていないかのように。
 そして、三冬の右手首を決めると、その場で空中一回転。三冬を脳天からアスファルトの路面に叩きつけた。

「がはっ……!」

 三冬の口からオイルが飛んだ。
 同時に決められていた右手首と右肩が砕けた。
 マグダレーナは三冬を思い切り蹴り飛ばす。
 三冬は受け身もとれず、ごろごろと地面を転がった。両腕は砕かれていて、上半身を上げることもかなわない。
 三冬は顔だけ上げてマグダレーナを見た。

「……なんだ、あれは」

 三冬は見た。
 獣牙爆熱拳をまともに受けたマグダレーナのボディ。
 ペイントは焼け、軟質地の肌は燃え、内部が剥き出しになっている。
 だが、その様子は、あきらかに通常のMMSとは違っていた。
 肌の下にある、黒光りする硬質なボディ。
 軟質部分が削げてもなお、内部メカを守る硬質な装甲。
 三冬は、マグダレーナの得体の知れなさを実感し、恐怖する。
 マグダレーナは戦い方も異質だったが、まさか神姫としても普通ではないなんて。
 だとすれば、公式レギュレーションに則っている自分でも、他の神姫でも、マグダレーナの「得体の知れない強さ」に勝ることは出来ないのではないか。

 三冬は動けなくなった。
 最大の武器である両腕も役に立たない。
 もはや何をしても勝てないのではないか、という思いが身体を縛る。
 視線の先で、マグダレーナが十字架型の銃「クロスシンフォニー」を、スターゲイザーからはずしていた。
 自ら構え、照準する。
 照準器越しに、マグダレーナと目が合った。
 気圧される。
 動けない。
 マグダレーナの引き金が絞られる一瞬が永遠に思える。
 だが、そのとき。
 三冬の耳が遠くに鋭い音を捉えていた

「チッ……」

 マグダレーナが舌打ちをする。
 それはサイレンの音。
 徐々に近づいてくるその音を睨むように、マグダレーナは宙をあおいだ。



 左半身がなくなったのではないか、と本気で思った。
 左肩から先、腕も身体も感覚がないから、どうなったのかは見て確かめるしかない。
 俺はおそるおそる左に首を回す。
 その動作すらも、ものすごい労力を要した。
 左肩のあたりを見る。
 あった。
 どうやら、身体自体は形状をなしているらしい。
 次に菜々子さんを確認する。茫然自失としているようだが、彼女にけがはなさそうだ。
 俺は少しだけ安堵したが、状況は予断を許さない。

 ティアの絶叫が聞こえていた。
 ライトニング・アクセルを現実の戦いで撃ったようだ。あんなに危険な技を。
 しかし、マグダレーナはそれを破った。
 なんという神姫だ。
 ライトニング・アクセルは初見で破れる技ではない。
 不可視の物理攻撃と、連続する電撃は、知っていてもかわせるものではない。それを破ったのだ。どれほどの性能を持ってすれば、そんなことが可能なのか。
 俺は戦慄を覚える。
 しかし、頬を伝う脂汗は、マグダレーナに対する畏怖ゆえか、それとも左半身の傷のためか。
 無事な右手は小刻みに震えて止まらない。
 左手と背中はすでに痛みを通り越して、自分のものとは思えないほど、感覚がない。
 気を抜くと激痛が俺の意識を飛ばそうとする。
 飛ばされそうになる意識を必死に引き留めながら、俺は考える。

 ライトニング・アクセルが破られ、敗北したティアは戦力外。
 傷を負った俺も役立たずだ。
 聞こえてくる三冬とマグダレーナの戦いも、三冬が劣勢に立たされているようだ。
 どうする?
 今の俺にできることはあまりにも少ない。
 しかし、いつまで時間を稼がねばならないのか、わからない。
 たとえ時間を稼いだところで、三冬が敗北した時点で、俺は間違いなく殺される。
 死を覚悟しなくてはならない。

 そこに思い至ったときだった。
 遠くからのサイレンの音が耳に届いた。
 急速に近づいてくる。
 パトカーが発するサイレンだ。
 ……なんとか間に合ってくれたか。
 だが、今の状況では、毒づきたくもなる。遅すぎるぞ、大城。

 ……。
 ……大城?
 あいつの名が頭に思い浮かんだその刹那。
 俺の頭の中で、いきなり何かが閃いた。
 その閃きが、俺の記憶をものすごい速度で遡ってゆく。
 次々に思い出される言葉たち。

「桐島ちゃんは、久住ちゃんに自分を重ねていたんじゃないかな」
「その時にはもう新しい神姫を連れていたね」
「ヘッドセット、耳にしてましたっけ?」
「もう誰の神姫でも、ためらうことなく破壊できる」

 どんどん過去の記憶のページをめくっていく。
 そして行き着いたのは、この事件のはじまりの頃。
 大城との会話。


「なあ、遠野。『デュアルオーダー』って知ってっか?」
「デュアルオーダー?」
「おう。お前ならできるんじゃないかと思ってよ」


 何気ない会話の記憶が鮮明に思い出される。
 そして。
 一つの仮説を思いつく。
 そう、なのか。
 だとすると……。
 俺の思考はさらに加速し、いくつもの言葉が浮かび上がる。

「貴様の戦い方はすべてお見通しだ」
「わたしたちの攻撃は、ほとんどマグダレーナに届かなかったのです」
「その技、とくと見させてもらおうか」
「マグダラ・システムある限り、我々に敵はない」

 言葉が次々と関連づけられ、つながってゆく。
 そうか、そうだったのか。
 だとすれば、マグダレーナは、桐島あおいは……マグダラ・システムの正体は……!
 一瞬、意識が白くなり、思考の回転を止める。
 邪魔をするな!!
 俺は心の中で飛びそうになる思考を怒鳴りつけ、無理矢理に回転を再開させる。
 ここでやめるわけにはいかない。

 この事件に決着をつけるためには。
 菜々子さんと桐島あおいの因縁に終止符を打つためには。
 マグダレーナを倒すためには。
 勝てない。
 俺の知る限り、『狂乱の聖女』にかなう武装神姫はいない。
 ならば、どうすれば奴に勝てるのか。
 今、勝てる神姫はいない、が。
 勝つ方法は……ある。
 それが可能な神姫は、ただ一人……。

 サイレンの音がすぐそこまで来ていた。
 規則的な音が重なっているところからすると、二台。

「……撤退よ!」
「だが、……の処理がまだだ」
「捨て置きなさい。捕まれば元も子もないわ」
「……仕方があるまい」

 桐島あおいとマグダレーナの短い会話が聞こえた。
 続いて爆発音。温存していのか、煙玉が爆発し、狭い路地が白煙に包まれる。
 頼子さんと三冬も、二人を追えなかったようだ。
 三冬も相当なダメージを負っていた。たとえ追ったとしても、返り討ちにあっていただろう。

 『狂乱の聖女』は撤退した。
 俺は震える右手を何とか動かし、ズボンのポケットに、菜々子さんのヘッドセットを落とした。
 これは俺の仮説を裏付ける証拠になるはずだ。
 だから誰かに伝えなければ。
 マグダレーナの正体を……。

「遠野!?」

 大城の大きな声が霞んで聞こえる。
 やっと来てくれたか。お前に話しておかなくてはならないことが、たくさんある。


「遠野くん!?」

 今度は頼子さんの声だ。今度はさらに聞き取りづらい。
 頼子さん、三冬は無事ですか。
 そちらを向かなければならないと思った。
 だが、できなかった。
 俺はもう意識も朦朧とし、頭にもやがかかったようになっている。
 首を回すことさえ、もはや身体が言うことを聞かない。
 こんなことをしている場合ではない。
 伝えなければならないことがたくさんあるというのに……!
 俺の想いとは裏腹に、身体から力が抜けていく。
 膝が支えられなくなった。
 菜々子さんの身体から滑り落ちるように、俺の身体が倒れ込んでいく。
 冷たいアスファルトの感触を、頬で意識した瞬間。

「マスターーーーーーーーッ!!」

 ティアの絶叫が聞こえて。

 俺の意識はそこで途切れた。










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