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キズナのキセキ

ACT0-7「異邦人誕生 その2」



 花村は日暮店長に事前に相談し、自分たちが来るときに常連さんたちに集まってもらえるように声をかけてもらった。
 はじめはただ、常連さんたちのバトルを見てもらえば、菜々子にもいい刺激になるだろう、くらいの考えだった。
 しかし、店長の隣で話を聞いていた、バイトの戸田静香嬢が、それじゃあ弱い、と話に横やりを入れてきたのだ。

「それならもう、荒療治しかないわね」

 うきうきとした口調でそう言う天才に、花村は不安を禁じ得なかった。だが、それでも静香に任せることにした。
 花村にはそれ以上の打つ手が思い浮かばなかったのだ。

 戸田静香が提案してきたのが、菜々子対エルゴ常連陣の無制限対戦である。
 ただひたすら、菜々子が納得の行くまで対戦を繰り返す。
 それが一体何の役に立つのか
 菜々子はひたすらにいぶかしんだ。

「それじゃあ、まずはわたしからね」

 さきほど花村と話していた少女が、筐体の向かいに腰掛けた。
 簡単な自己紹介で、戸田静香という名を聞いていた。彼女の神姫はハウリン型のココと言うらしい。
 とにかく、この店ではもっとも象徴的な、ふざけた相手だと菜々子には思えた。

「あんなふざけた相手に後れをとるわけにはいかない」
「わかったわ」

 アクセスポッドでミスティが頷く。
 菜々子がミスティにどんなに冷たい態度をとっていても、ミスティは必ず真剣に菜々子に答えていた。
 そのことを苦々しく感じながら、菜々子はアクセスポッドの蓋を閉じる。
 こいつでなければ……前のミスティであれば、この店の連中に後れをとる心配もないのに。

 試合が始まる。
 今日も菜々子から指示はない。ミスティは自ら考え、バトルを組み立てねばならなかった。
 そもそも、菜々子はイーダ型の戦い方をまともに考えたりはせず、ただバトルのすべてをミスティに押しつけ、勝って当然、負ければ罵倒の繰り返しだ。
 だが、どんな試合であっても、ミスティは真剣に戦う。勝利を目指さないわけにはいかない、それだけの理由がある。
 相手のハウリン型がフィールド上の少し小高い丘の上に立っているのを発見する。
 むしろ、発見してください、と言わんばかりだ。
 ココはそこでおもむろにポーズを取り、えらく恥ずかしそうな顔をしながら、ミスティに向かって、大きな声で宣言した。

「魔女っ子神姫ドキドキ☆ハウリン! みんなの願いではいぱぁ……降臨!」

 なるほど、菜々子が怒るわけだ。
 ミスティもふざけているとしか感じられなかった。丘の坂道をトライクモードで駆け上がり、マシンガンで相手の動きを牽制しながら、猛然と突っ込む。

「真面目にやれ!」

 ミスティは叫んで相手を視認する。
 ココは黒いゴスロリ衣装に、赤く長い羽衣を背中から両腕に纏うのみ。先ほど観戦したバトルでは暗器使いに見えたが、今は何も手にしていない。
 あきらかに侮られている。
 だが、ミスティの判断は間違っていた。
 知らなかったのだ。その羽衣こそ、ココが持つ最大の技を発する武器であることに。

『ココ、『ハウリング・ソウル』、いきなりオーバートップ!』
「了解です!」

 羽衣をはためかせ、ココはミスティに向かってダッシュする。
 ドキドキハウリンは最初から大真面目で本気だった。
 そして、何をされたのか分からないまま、丘の頂上に至る前に、ミスティは粉砕され、敗北した。



「なによ……今の……」

 菜々子は呆然とする。
 赤い羽衣が自在に形を変え、武器となり、防具となり、推進装置になった。
 あんな装備、見たことも聞いたこともない。

「はい、まずは一勝~」

 戸田静香はにっこり笑って人差し指を立てた。
 その姿が腹立たしいことこの上ない。
 菜々子は静香を睨みつけながら、開こうとしたアクセスポッドの蓋をすぐさま閉じた。

「それじゃあ、次はわたしがお相手するわね」

 次に向かいに座ったのは、これもまた美少女だった。
 明るい笑顔が似合う少女は、菜々子と歳も背格好も変わらないくらい。
 長い髪をポニーテールにして、活発な印象だ。
 肩に連れている神姫はマオチャオ型で、彼女も愛くるしい笑顔を振りまいている。
 風見美砂とねここ。二人の笑顔の裏に、確かな絆が感じられる。
 菜々子は頭を横に振った。うらやましい、などと、今は考えている場合じゃない。

 またしても試合は一方的だった。
 大推力でかっ飛んでくるねここをミスティは押さえきれない。
 転倒したところに、必殺技・ねここフィンガーを撃たれ、為す術もなく敗北した。

「じゃあ、次は僕かな……マイティ」
「はい、行きましょう、マスター!」

 公式の武装パーツのみでカスタムしたアーンヴァルが相手である。
 先の怪しげな武装を使うハウリンや、常識はずれのブースターで突進してくるマオチャオと違い、ごく正統派のカスタムに見える。
 だが、所詮はアーンヴァル。ユーザーが多いと言うことは、それだけ攻略法も確立されている。
 対して、ミスティは最新型。基本スペックではアーンヴァルを上回るはずだ。
 勝てない相手ではない、と菜々子は思った。
 だが、彼女は知らなかった。
 彼らの二つ名は『公式武装主義者』といい、この界隈ではもっとも有名な強者であるということを。



 菜々子は負け続けた。
 エルゴの常連メンバーと連戦してすでに二週目が終わろうとしている。
 菜々子は怒り心頭だった。
 常連たちの神姫はいずれも個性派揃い。しかも、菜々子が自ら否定したバトルを楽しむ姿勢で対戦に臨んでいる。
 しかし勝てない。
 そんな甘いことでは強くなれるはずがないという菜々子の言葉を、言葉ではなくバトルの結果で否定してくる。

 常連の一人『レッド・ホット・クリスマス』の二つ名を持つツガル型は、全くのノーマル装備だった。ツガル型は長距離と近接距離の武装に偏っており、使い手の工夫なしに勝利は望めない。
 そんな旧式の神姫相手なら、さすがに最新型のイーダ型で負けるはずがないだろう、と高をくくっていた。
 だが、相手の巧みな神姫運用の前に、全く歯が立たなかった。
 菜々子の怒りはミスティに向けられた。

「何やってんのよ! このグズ神姫! こんなバトル一つ勝てなくて、どうすんのよ!!」

 大した指示も出さず、ミスティを口汚く罵倒する。
 試合が終わり、アクセスポッドが開いても、ミスティを取り出しもせずにすぐに蓋を閉める。
 これにはさすがに、エルゴの常連陣も眉をひそめた。
 いくらバーチャルバトルといえど、試合後一度、神姫をアクセスポッドから出してクールダウンしなくては、神姫の動作に支障を来す。電子頭脳が熱暴走を引き起こすのだ。そうなると、記憶素子やAIにも悪影響が出る。
 クールダウンはほんのわずかしかかからないが、それすら無視してアクセスポッドを閉める菜々子の行為は、ある意味神姫の虐待だ。

「なあ……そろそろ彼女を止めた方がいいんじゃないか? このままじゃミスティがヤバい」

 燐のマスター・藤堂亮輔が言う。
 しかし、戸田静香は腕組みをしたまま、表情も変えずに、バトル様子を見つめ続ける。

「まだよ」
「え?」
「まだ続けなくちゃダメ。みんな手加減しないで」

 藤堂は息を飲む。
 静香はミスティを助ける気がないのか?
 ミスティの挙動は目に見えておかしくなりつつある。
 早く止めなくては、ミスティが本当に再起不能になってしまうかも知れない。
 静香は何かを待っているのか。
 誰もが藤堂と同じ疑問を持ちながらも、エルゴ常連陣の攻勢は緩むことがなかった。



 ミスティは吼える。
 熱に浮かされたように思考が回らないのは、電子頭脳が熱を持っているせいか。
 手足が思うように動かなくなりつつある。
 武装の管制も誤差が大きくなってきた。
 もはや作戦など考える余裕もない。
 ミスティはただ、獣のごとく吼え、動かぬ身体を叱咤しながら、相手神姫に突っ込んでいく。

 試合開始二十五秒、隻眼のストラーフ型・十兵衛……いや、銃兵衛のヘッドショットがミスティの眉間を見事に貫いた。
 ゲーム終了。
 しかし、菜々子は開こうとするアクセスポッドを即座に閉める。
 またすぐにバトルが始まる。
 疲れているはずなのに、休みたいはずなのに。

「おおおおおおぉぉっ!!」

 ミスティの闘志は陰りを見せない。
 がむしゃらに突っ込むことしかできなくとも、一心不乱に前に出る。
 ツガル型のシルヴィアは、気の毒そうに眉をひそめた。
 このイーダ型は、マスターにあそこまで蔑まれてなお、なぜここまで戦おうとするのだろう。
 すれ違いざま、声をかける代わりに、フォービドブレードの斬撃を送る。
 ミスティもエアロヴァジュラで応戦したが、しかし、手数はシルヴィアが上回っていた。
 エアロヴァジュラの一撃を受けてなお、シルヴィアの二本のダブル・ブレードは、三閃の斬撃を送り込める。すれ違いざまの攻撃は、ミスティの腕を断ち、タイヤを破断させ、背面装備のフレームを破壊した。
 二人が駆け抜けた後、ミスティは地面に突っ込むように、頭から前のめりに滑って倒れ込んだ。

「なんなのよ……?」

 菜々子は無意識に呟いていた。
 なんなの? なんなのよ。
 この店の常連たちが一方的に菜々子とミスティを倒し続けているのは、花村の策謀だ。
 それに菜々子が付き合っているのは、ひとえに、花村への当てつけに過ぎない。
 真摯な気持ちなどかけらもない、ひねくれた意地。
 だけど、イーダのミスティは不思議なほど真剣にバトルに望んでいる。
 どんなに倒されても、地面にはいつくばっても、菜々子に罵倒されても、ひたすら相手神姫に立ち向かう姿勢は変わらない。

 勝てるわけがないのに。
 菜々子は思う。勝てるわけがない。戦いぶりを見れば分かる。この店の常連陣は一流の実力者ばかりだ。
 しかも、菜々子が理想と信じた『魅せる戦い』を実践して、それでもなお勝利を手にする実力がある。
 菜々子がマスターの役割を放棄し、まだ起動して間もない神姫のミスティが、勝てる道理がない。
 そんなことはミスティも分かっているはずだ。
 だったら、なぜそう言わない?
 「こんな状態で勝てるはずがない」と、いつものように口答えすればいいのに。

「なんなのよ……」

 筐体のディスプレイの中、ミスティはなおも戦い続ける。
 勝てるはずのないバトルに、ひたすらに挑み続ける。
 菜々子はうつむいていた。
 罵倒する声もいまはもう出ない。
 ただ、ミスティのがむしゃらに戦う姿を見続ける。
 あの気位の高い神姫が泥まみれで戦っている。
 手足が震え、思考がままならなくなり、野獣のような雄叫びを上げながら、それでも戦い続けている。
 戦って、負けて、戦って、負けて、戦って負けて……。

「……もういい」

 かすかに唇から漏れ出た自分の声が、菜々子の耳にはっきりと聞こえた。
 すると突然、感情が堰を切って溢れ出した。何かに突き動かされるように、菜々子は叫び出す。

「もういいから! もう戦わなくていい! わたしたちの負けでいいから! わたしが間違ってたから! だからもう……」

 震える声。高ぶる感情。押さえてきた、自分の本当の気持ちが溢れてくる。

「ミスティを許してあげて……!」

 ちがう。許すのはここにいる人たちじゃなくて……わたしだ。
 本当は、イーダのミスティが好きだった。
 憎まれ口をたたき合っていても、そばにいてくれる彼女に、知らず救われていた。
 でも、彼女を認めてしまったら、ストラーフのミスティを忘れてしまうかも知れない。
 それが怖かった。
 そんなことは許されるはずがなかった
 自分が彼女を死地へ送り込んだというのに、自分が別の神姫と幸せになるなんて、あっていいはずがない。
 でも、それでも。
 必死で戦うミスティを救えるのは、自分しかいないのなら。
 簡単なこと。
 ひねくれた意地など捨ててしまえばいい。
 自分の八つ当たりで、神姫をまた再起不能に追い込むなんて、そんなのは本末転倒だった。
 そんな簡単なことさえ、今まで気がつきもしなかった。
 馬鹿だ。
 馬鹿だ、わたしは。

「おねがい……ミスティを……たすけて……」

 懇願にも似た菜々子の言葉を耳にして、風見美砂はゆっくりと戸田静香に振り向いた。
 静香は、ようやく優しげな微笑みを浮かべ、小さく頷いた。
 美砂はほっと息をつき、自らの神姫・ねここに指示を送る。

「ねここ、ミスティを止めてあげて。もう終わりにしよ」
『了解なの!』

 ねここは、真っ正面からミスティと激突する軌道を取っていたが、シューティングスターで急制動をかけると、ミスティを迎え入れるように、大きく腕を開いた。
 我を忘れ、野獣のごとく吼えながら、飛び込んでくるミスティ。
 ねここはミスティを全力で受け止めた。
 それと同時、再びブースターに点火する。
 新型神姫の強烈な突進力を、シューティングスターの大推力で相殺する。

『もういいの、ミスティ』

 なおも吼えながら殴りかかろうとするミスティ。
 激しい推力のぶつかり合いの中心で、ねここは優しくミスティを抱き寄せた。

『もう、終わったの。もう、そんな風に戦わなくていいの。だから……』

 不意に、ミスティの表情から緊張が落ちる。叫びは止み、険しい表情はゆっくりと溶けてゆく。
 ねここに抱きしめられるがまま、ミスティは徐々に全身の力を抜いていく。
 もう戦う意志がないと確認して、美砂はそっとサレンダーボタンを押した。



「ミスティ!」

 アクセスポッドが自動的に開くのももどかしく、菜々子はアクセスポッドの蓋を持ち上げ、中にいる自分の神姫を取り出した。
 手のひらの中にいるミスティは、いつもより熱い。がくがくと身体を震わせ、あきらかに動作に支障を来している。オーバーヒート寸前だ。
 だが、ミスティは力ない瞳で、菜々子を見た。まっすぐに。

「……ど……どう……? 勝てなかった……けど……ポ、ポテンシャル……くらいは……み、みせられ……たでしょ……」
「あんた、何言って……」
「……ナナコに……みとめられる……あなたに……ふ、ふ、ふさわしい……神姫に……なれる……わたしは……」

 そんなことのために、文句も言わずに、そんなになるまで、わたしの馬鹿げたわがままに付き合ったわけ?

「馬鹿ね……」

 馬鹿はわたしだ。
 ただ上辺だけの感情を爆発させて、こんなになるまで自分の神姫を追いつめた。
 ミスティはただ応えようとしてくれていたのだ。マスターであるわたしに。それ以外に、ミスティがわたしに認めさせる方法などないのだから。
 そんなことにも気が付かないなんて。

「馬鹿ね……わたしは……」

 菜々子はミスティをそっと胸に抱き寄せた。

「ごめんね……ミスティ……ごめんね……」

 謝罪の言葉を、唇の間からようやく押し出す。
 それ以上は声にならない。菜々子はミスティを抱きしめたまま、泣いていた。

「やっと……なまえ……呼んでくれた……ね……」

 ミスティの顔に初めて、微笑が浮かんでいた



「だってあの子、もともと神姫が大好きだったんでしょう? だったら、口でどんなに嫌っていたって、ほっとけるはずがないじゃない」

 戸田静香は、しれっとした表情で、そう言い切った。
 静香の取った作戦は、まさに荒療治だった。
 エルゴの常連陣全員でミスティを叩きのめし、菜々子の神姫マスターとしての良心と情を呼び起こそうというのだ。
 花村はその作戦を知らされていない。感心半分、呆れ半分と言った調子でため息をついた。
 ミスティがオーバーヒートで故障したりしたら、どうするつもりだったのか。下手をすれば取り返しのつかないことになる。手伝ってくれたエルゴの常連陣の気持ちも努力も水の泡ではないか。

「まあ、いいじゃない。うまくいったんだし」

 脳天気な静香の言葉に、手伝った常連たちも、やれやれ、と肩をすくめて苦笑した。
 その様子に、花村も苦笑せざるを得ない。
 そう、万事結果オーライだ。
 新たな神姫を手に、久住菜々子は復活へのきっかけを掴んだのだから。

「それじゃ、ミスティちゃんをメンテナンスしておこうか」

 いつの間にか日暮店長が現れ、菜々子の肩にそっと手をおいた。
 まだ涙でグシャグシャな顔のまま、素直にミスティを店長に渡した。
 店長がミスティを連れて一階に降りるのを見送ると、菜々子はゆっくりと立ち上がった。
 そして、びしょびしょに濡れている赤みがかった頬を、ハンカチで拭う。
 少しは人前に出られる顔になっただろうか。
 いまさら顔がみっともないことを気にしている自分が変だ。
 それ以上にみっともないところを、初対面の人たちに見せてしまっていた。
 そのことに気付いて、菜々子はさらに頬を赤らめた。
 しかし、それでも、エルゴの常連陣の前に、一人立つ。
 菜々子はその場で深々とお辞儀をした。

「みんな……ごめんなさい。そして……ありがとう」

 大切なことを思い出したから。
 菜々子は彼らに心から感謝していた。
 ゆっくりと顔を上げると、彼らは皆、とてもいい笑顔で、菜々子に頷いていた。



「こうして、わたしはナナコの神姫として認められた。ナナコの神姫という立場ははじめから認められていたわけじゃない。認めさせたの。自分で勝ち取ったのよ。
 だから、わたしはナナコにこだわるの。他のマスターじゃダメ。ナナコだけが、わたしのマスターなのよ」

 神姫であれば、登録されたマスターにこだわって当然だと思う。
 でも、ミスティの思いはもっと強い。
 ミスティが死ぬ気で勝ち取った菜々子さんとの絆は、どこか、マスターとわたしの絆に似ているように思う。
 だからなのだろうか? 彼女がわたしに共感してくれるのは。
 わたしはそっと親友の顔を見つめる。
 ミスティは誇らしげに胸を張りながら、でも悲しそうな顔をしていた。菜々子さんを心配している顔をしていた。
 ……菜々子さんは今、どんな気持ちでいるのだろう?



「それから……しばらくの間、菜々子ちゃんはうちに入り浸ってたな」
「え? エルゴに、ですか?」
「そう……三日と空けずに来てたなあ、あの頃は」

 俺は少し呆れた。隣の大城も驚いた顔をしている。
 バイクを持っている大城なら、地元からここまで来るのも大したことはないだろう。
 だが、高校生の女の子が、二時間も電車を乗り継いで、週に二回も三回もホビーショップに通うというのは……ちょっと信じられない。
 だが、店長の言葉にミスティが頷いているから、事実のようだ。

「三ヶ月くらいかな……菜々子は心を癒し、わたしは戦い方を身につけた。全部この店のおかげよ」

 ミスティがようやく、いつもの笑顔で日暮店長を見た。
 店長はちょっと照れくさそうに頭を掻きながら、話の続きを語り出す。



 その三ヶ月は必要な時間だった、と菜々子もミスティも思っている。

 あの「荒療治」以来、菜々子はホビーショップ・エルゴに通うようになった。
 地元からエルゴまでは二時間ほどかかり、通うのは正直大変だ。
 だが、菜々子はエルゴに顔を出し続けた。ここで自分たちを鍛え、強くなるのだと誓っていた。『魅せる戦い』をしながらも、なお強い神姫たちの元で。
 エルゴまでの交通費は、さすがに高校生に菜々子にはつらい。恥を承知で頼子さんに無心した。頼子さんは何も言わずに出し続けてくれた。
 今の菜々子に必要なことだと、頼子さんも理解してくれているようだった。

 菜々子はエルゴで対戦を続けた。
 イーダのミスティに合う装備と戦い方を模索するためだ。
 今のミスティは、初代ミスティとは違い、菜々子の無茶ぶり指示を理解できない。
 だから、基本戦略から練り直す必要があった。

 まず、初代の豊富な戦闘経験情報を生かさない手はない、と思い、イーダ型をストラーフ型に近い装備にする。
 イーダの副腕を独立稼働するようカスタマイズ、両脚にはストラーフの大型脚部パーツ「サバーカ」を中古で購入し、装備させた。
 初代ミスティと同様のバトルスタイルにするのに、ミスティは嫌悪を示した。
 しかし、バトルスタイルを一から確立するのは大変だし、時間もかかる。
 ミスティは渋々ストラーフ同様の装備を装着した。
 戦闘経験情報が同じでも、異なる神姫が異なる装備で使えば、バトルスタイルは同じにならない。
 無茶ぶり指示による多彩かつ唐突な戦いが出来なくなった代わりに、トライクモードの巡航で誘い込み、反転攻撃で打ち破るスタイルを確立した。それは究極のワンパターン。
 それがミスティの得意技「リバーサル・スクラッチ」だ。

 それとは別に、菜々子はミスティに勝つためのスタイルを教え込んだ。『アイス・ドール』と呼ばれていた頃同様の、容赦なく、迷いなく、相手を破壊に追い込むスタイルだ。

 真剣なリアルバトルでも勝てるという意味から、「リアルモード」と名付けた。
 今のミスティに合わせ、「リアルモード」には二つのタイプを作り出した。
 一つは、初代ミスティが初期に追求していた、的確かつ無慈悲な攻撃で相手を追いつめてしとめる「タイプ・デビル」。
 もう一つは、先のエルゴでの戦闘データをブラッシュアップし、得られたデータを再構成した、野獣のごとき猛ラッシュで相手を圧倒する「タイプ・ビースト」。

 「リアルモード」は、エルゴで再認識した「魅せる戦い」とは対極にあるスタイルだ。だが、これから菜々子がしようとしていることにどうしても必要な戦闘スタイルだったのだ。
 これから出会うであろう、強敵や傍若無人な敵に、確実に勝利するために。
 そしてもちろん、桐島あおいとマグダレーナに勝つために。
 それは、相手を本気で破壊するくらいの気持ちにいたって、初めて発動させると心に決めた。
 菜々子は「リアルモード」を使うことを、真剣を使うことになぞらえて、「本身を抜く」と呼んだ。

 これらの戦闘スタイルが納得いくレベルで仕上がった、と感じたときには、エルゴに通い続けて三ヶ月が経とうとしていた。
 菜々子は決意する。
 この三ヶ月、ずっと考え続けてきたことを実行しよう。



 エルゴの二階、対戦スペースの片隅のラウンジで、菜々子は戸田静香、風見美砂の二人とテーブルを囲んで談笑していた。
 二人はエルゴを代表する女性マスターだ。美少女が三人、会話に花を咲かせている光景は、店長の日暮夏彦をして、思わず感涙にむせびそうになるほど、まばゆい光景であった。
 静香、美砂の二人とは、あの事件以来仲良くさせてもらっていた。歳が近いこともあり、今では気心知れた友人である。
 菜々子は二人にさりげなく、しかししっかりと決意を込めて、宣言した。

「わたし……ここを出ようと思うの」
「え?」
「どこへ行くって言うの?」

 二人とも少し驚いて、菜々子を見つめる。
 菜々子は少し首を傾げ、微笑む。

「まず、地元のゲーセンに戻らなくちゃ。戻って、みんなに謝らないと。見苦しいところを見せたまんまだし」
「それはそうねぇ」

 静香は少し遠い目をして、思い出し笑いに顔を綻ばせた。
 美砂も、三ヶ月前の出来事を思い出し、苦笑する。
 菜々子は苦虫を噛み潰したような渋面を作った。あの時のことを思い出すと、穴があったら入りたくなる。
 軽く咳払いし、菜々子は話を続ける。

「その後、いろんなところに行ってみようと思ってるの」
「いろんなところ?」
「うん。あっちこっちのゲーセンや神姫センターを回って……武者修行しながら、お姉さまを探そうと思ってる」
「そう……」

 美砂が少し表情を曇らせる。
 エルゴの常連陣も、菜々子とあおいの関係とその顛末を、ある程度知っていた。
 エルゴに来た当初、あれほど荒れていた理由も、今なら理解できる。
 一番大切な人に、一番残酷な形で裏切られたのだ。その絶望はいかばかりだったか。
 それでも、と美砂は思う。その思いを、真剣な口調で言葉にする。

「復讐ならやめるべきだわ。菜々子さんには似合わない」

 今度は菜々子が苦笑する番だった。
 美砂の視線を受け止めながら、やはり真剣に応える。

「違うわ。もう復讐なんて考えてない。
 わたしね、エルゴに来て分かったの。今のお姉さまが言ってること……『勝利こそすべて』っていう考え方が間違っているって。
 昔、お姉さまが言っていた『勝ち負けだけがバトルロンドじゃない』ってことが本当なんだって。……わたしとお姉さまが追い求めていた理想は、間違いなんかじゃなかった。
 だって、静香さんや美砂さんのように、『魅せる戦い』をしながら、それでも強い人たちが、ここにはたくさんいるんだもの」

 菜々子は微笑みながらも、真剣な眼差しで二人を見つめた。
 心から尊敬する二人の神姫マスターに誓う。

「だから、わたしはお姉さまを探しだして、戦うわ。そして言ってやるの、今のお姉さまは間違っているって。
 そして、ここで教わった戦い方で勝って、お姉さまを連れ戻す」

 二人とも真剣な表情で、菜々子の言葉を聞いていた。
 菜々子が進もうとする道は、茨の道かも知れない。武者修行の途中で、力がすべて、勝敗こそがすべて、という神姫マスターと何度も戦うだろう。
 それでも自分の矜持を貫こうとするのは至難の業だ。
 しかし、菜々子の決意は固いようだった。
 初めて出会った頃とは、瞳の光の強さが違う。
 前に進もうとする決意ある者の眼は力強い。
 その力強い視線を受け止めて、静香はにっこりと笑った。

「いいんじゃない? 面白いわ、それ」
「面白い?」
「そうよ。各地の強い神姫や変わり種の神姫たちと戦えるなんて、考えるだけでワクワクしてこない?」
「そうね。確かに面白そう。それに、菜々子さんがそんなに大好きな、あおいお姉さまっていう人にも会ってみたいな」

 美砂も微笑みながら同意した。
 そして、真っ直ぐな視線を菜々子に向ける。

「でも忘れないでね。わたしたちはここ、エルゴにいるわ」
「そうよ。何か困ったことがあったら、今度は一人ででもいらっしゃい」
「困ったことがなくたって、たまには寄ってね。それで話を聞かせて。あなたが行った先のことを」

 力になる、と。
 二人はそう言ってくれた。
 この時、菜々子は確かに感じていた。この二人と自分の間にある確かなつながり。

 それは絆だ。

 そして、菜々子はこの時、気が付いた。
 ひたすらに勝ち続けているだけのあおいお姉さまは、きっと孤独だ。
 こんなふうに、誰かとともに語り合い、絆を広げ深めていくこともない。
 今、菜々子のそばには、静香や美砂、エルゴの常連たちがいてくれるが、あおいのそばには誰もいない。ただあの不気味な神姫がいるのみだ。
 日々勝ち負けだけを気にする生活は……なんと無味乾燥なものだろうか。
 菜々子は誓いを新たにする。
 あおいお姉さまを一人にしない。必ずわたしたちの元に連れ戻す。

「ありがとう、静香さん、美砂さん」

 菜々子は心からの気持ちを言葉に変え、二人に笑顔を贈った。
 三人は明るく笑い合った。
 ちょうどそこへ、日暮店長が、彼女たちの神姫を連れてやってきた。
 ミスティたちは店頭のドレスコーナーで試着を楽しんでいたのだ。
 三人ともドレスアップしている。
 ココとねここは大手神姫ドレスメーカーから発売されたばかりの薔薇飾りのシフォンドレス。
 ミスティが着ているのは、一点もののホルターネックドレスだ。

「ナナコ、どう?」

 みんなが見ているテーブルの上、スカートの裾をひらりと舞い上がらせて一回転。

「へえ、なかなか似合ってるわね」

 お世辞ではなく、菜々子はそう言った。
 背中が大きく開いたドレスは、細身のミスティによく似合っていたし、セクシーだ。
 そこに静香が一言付け足した。

「もう少し胸があれば、見栄えがすると思うけど」
「よけいなお世話よ!」

 ミスティが顔を赤くして、静香に叫ぶ。
 マスターたちも神姫たちも、穏やかな笑い声を響かせる。
 明日から茨の道を歩き始める友への、せめてもの慰めに、今日だけは心穏やかでいられるように。



「菜々子はその言葉通り、『ポーラスター』に行って、今までのいきさつを謝って、そして旅に出るようになった。武者修行と、桐島あおいを探す旅にね」

 ミスティの視線がわずかに上に向けられる。
 遠く、記憶の先へと。

「……旅は、つらいこともたくさんあったけど、楽しいこともたくさんあった。
 エルゴで鍛えられたわたしたちは、そんじょそこらの相手なら後れを取ることはなかった。各上の相手や小ずるい相手、情報を得るために勝ちが必要な相手には、本身を抜いて勝ち続けた。
 桐島あおいとマグダレーナ……『狂乱の聖女』の噂を追って、今日は東、明日は西……本当にあっちこっちのゲーセンに行っては戦ったわ。
 歩き回って、バトルして、マグダレーナの行方を追って……そんなことしているうちに、わたしたちは、いつのまにか呼ばれるようになったの……」

 ミスティは瞳を閉じ、ゆっくりと、厳かに、そして誇らしい響きを乗せて、告げた。

「放浪の神姫『異邦人(エトランゼ)』ってね」











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